杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

銀の夜

2025年01月01日 | 
角田 光代(著) 光文社(刊)

イラストレーター井出ちづる。夫は若い女と浮気をしている。嫉妬はまるで感じないがそんな自分に戸惑っている。早くに結婚して母となった岡野麻友美。自分ができなかったことを幼い娘に託し、人生を生き直そうとする。帰国子女で独身の草部伊都子。著名翻訳家の母のように非凡に生きたいと必死になるが、何ひとつうまくいかない。三人は女子高時代に少女バンドを組んでメジャーデビューをした。人生のピークは十代だったと懐かしむ。三十代となったこれからの人生に、あれ以上興奮することはあるのだろうか…。(内容説明より)


VERYに2005年~2007年に連載された「銀の夜の船」を改題した作品で、『対岸の彼女』直木賞受賞時に書かれたものの14年間埋もれていた長編小説。

3人は、中三の時に「意思があり、勝ち気で、生意気」を売りにした少女バンドを組んで人気が出ましたが、高校卒業の頃に解散しました。30代半ばとなった3人は、今でも時々食事をする仲ですが、もうあの頃のように本音を話すことはありません。

夫の浮気に気付いても嫉妬を感じない自分に戸惑うイラストレーターのちづる。暇つぶしに始めたジムや教養講座も心の空白を埋めてはくれずにいましたが、夫の浮気旅行をきっかけに、自分の作品で個展を開こうと思い立ちます。うん、ここまでは良いよ。でもギャラリーのオーナーの康彦と深い仲になる展開はどうよ😖 

麻友美にとっては、バンド時代が自分の人生のピークでした。自分のファンだった男と結婚し贅沢な生活をする中で、娘を芸能人にしようと考えた彼女は芸能スクールに入れるのですが、引っ込み思案な娘はオーデションに落ちてばかり。そんな折、バンドを再結成してテレビ出演の話を持ちかけられますが、2人に断られてしまいます。
自分の夢を子供に押し付けていると指摘された麻友美は、小学校受験に方向転換します。

有名な翻訳家の母を持つ伊都子は、バンド解散後は雑誌モデルやコラムを書いたりしましたが長続きせず、現在は写真集を出そうとしています。恋人の恭市はフリーの編集者ですが、実は妻子持ちだったことがわかります。不実な男に縋ろうとする彼女は、依存の対象が母から男に変っただけなんだよな~。😓 

3人共、自分の奥底にある不安や自信の無さを気付かない振りをしてやり過ごそうとしながらも、抑えきれないモヤモヤを抱えています。
それが、伊都子の母の癌がわかったことで大きく物語が動き出します。

伊都子は自分を束縛し支配してきた母への反発と憎悪を抱えていましたが、その母が余命わずかと知らされた途端、死なせてたまるものかと必死になります。確かに彼女の母はかなり強烈な女傑として描かれています。(「男に期待するのは能無しのすること。平凡は敗残者の隠れ蓑だ。」と娘に教え込んだ彼女は、シングルマザーとして娘を育てるために強くならざるを得なかったともいえるのかな?)
写真集の出版のこともどうでもよくなり、怪し気な宗教や拝み屋や民間療法にのめり込みます。そんな彼女の異常行動を二人は危惧しますが、だからといって何も手助けできずにいました。

錯乱衰弱した母の記憶の断片に登場する海が、昔母娘で滞在したスペインの海だと気付き、最期に海を見せてあげたいと思った伊都子は、二人に母を病院から連れ出して海を見せる手伝いを頼みます。伊都子の母は麻友美にとって理想の母親像であり、ちづるも思い入れがありました。伊都子の気持ちを汲んだ二人は協力することを決めます。

伊都子と母親が海を見ながら寄り添う姿をそっと見守るちづると麻友美。帰途、容体が急変した伊都子の母は運ばれた病院で息を引き取ります。
病院を抜け出し海で少女のようにはしゃぐ3人は「あの頃」に戻ったかのよう。
例え死期を早めたとしても、伊都子にとっては最高の看取りだったのだと感じました。

東京に戻った伊都子は立派に母の葬儀を出し、スペインへ旅立ちます。
ちづるは夫と別れ、麻友美は次の子供を妊娠します。
伊都子やちづるにとって、夫や恋人は自分の不安を埋めるだけの存在に過ぎなかったように思えます。裕福とは言えない家庭に育った麻友美にとって、自分にも娘にも甘く贅沢をさせてくれる夫は手放したくない存在で愛情もあるのですが、どこか卑屈さを感じてしまうという彼女の心の棘が気がかりではあります。

3人の食事会は無期限延期となりましたが、何年、年十年?経った彼女たちには確かに興味を覚えますね。😁 



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始まりの木

2024年12月29日 | 
夏川草介(著) 小学館(発行)

藤崎千佳は、東京にある国立東々大学の学生である。所属は文学部で、専攻は民俗学。指導教官である古屋神寺郎は、足が悪いことをものともせず日本国中にフィールドワークへ出かける、偏屈で優秀な民俗学者だ。古屋は北から南へ練り歩くフィールドワークを通して、“現代日本人の失ったもの”を藤崎に問いかけてゆく。学問と旅をめぐる、不思議な冒険が、始まる。
“藤崎、旅の準備をしたまえ” (あらすじ紹介より)

第一話 寄り道【主な舞台 青森県弘前市、嶽温泉、岩木山】
第二話 七色【主な舞台 京都府京都市(岩倉、鞍馬)、叡山電車】
第三話 始まりの木【主な舞台 長野県松本市、伊那谷】
第四話 同行二人【主な舞台 高知県宿毛市】
第五話 灯火【主な舞台 東京都文京区】

古屋助教授は40代半ばかと思われますが、その行動や言動は十数歳上の印象を与えます。彼の毒舌を意に介さず、ただその人柄と学識に惹かれて慕う千佳が何だか微笑ましい。彼女の大雑把で明るい性格は、古屋の亡き妻と似たところがあるように思えます。

本屋で目にした「遠野物語」の特集記事から衝動的に柳田国男のそれを手に取った千佳は、進学した東東大の文学部で「遠野物語」の講座に興味を惹かれて民俗学の門を叩きます。
丁度今年、柳田国男の「遠野物語」を読みましたが、単なる物語ではなく歴とした民俗学術書と気付いて文体と解説に怖気を振るって飛ばし読みで終わった身には、千佳のようにその奥深さに惹かれることもありませんでした。この本で柳田国男という民俗学者の崇高な理念や生き方を知ったのは何だか不思議な巡り会わせです。

古屋の語る、日本と他国の宗教観の違いはなるほどと思わせます。
日本人は山や森や川、岩や木といった「そこにある自然」を敬い寄り添いながら生きてきた民族であり、八百万の神の御神体は自然に存在しています。
しかし、現代では科学や統計学、医学の発展に伴い、それら目に見えないもの、説明できないものの存在は無と見做され軽視され忘れ去られようとしています。

古屋はそんな日本人の行く末を危惧し、無闇と前に進むことに警鐘を鳴らし、ここに至った道を丹念に調べ、どこへ道を繋げていくのかを考えるのが民俗学の仕事でもあると言います。千佳の質問には「就職の役には立たないが、人生の岐路に立ったとき判断の材料を提供してくれるのが民俗学という学問だ。」 と答えます。「これからは民俗学の出番だ。」 といった彼の言葉を千佳は受け継ぐのです。

千佳は曇りのない目で物事を見て感じることのできる女性です。古屋とのフィールドワークの先々で不思議な出来事に遭遇するのも、彼女の感受性の豊かさの現れなのかも。

古屋の飛行機とエスカレーター嫌いは、妻との旅先で遭遇した事故が理由でした。荷物持ちで同行する千佳は第一話でそれを知ることになります。

第二話では岩倉で出会った青年との不思議な邂逅が登場します。叡山電車の車内から見た紅葉のトンネルの描写は鮮やかな色彩が目に浮かぶようでまさに幽玄の境地になります。

第三話では、古屋と彼の亡き妻との思い出の木が登場。その威風堂々とした大木を前に彼の民俗学への想いが語られます。

第四話では院生の仁先輩のフィールドワークの地で起こった出来事が描かれます。
修行僧の声と姿に導かれた千佳が、倒れていたお遍路の男性を助けることになるのですが、同行していた古屋には僧の声も姿も聞こえず見えずだったのです。(ちなみにお遍路笠に書かれている「同行二人」とは、お遍路はたとえ一人旅でも、お大師様が寄り添ってくれる二人旅という意味なんだそう。)
古屋の毒舌を始終浴びている千佳ですが、彼女には自然の中に存在する神を感じ取る才能があるようです。

第五話で大学近くの寺の住職と古屋の関係が登場します。住職の「大切なのは理屈じゃない。大事なことをしっかり感じ取る心 で、その心の在り方を、仏教じゃ観音様って言うのだよ。 」との言葉が胸に響きます。寺の樹齢600年の桜の老木が、住職の命の際に見せた満開の花の描写にも心打たれました。

古屋の毒舌は的を得ているだけに敵を作ってしまいます。時には無謀な振る舞いで暴力を受けたりも。千佳はそんな古屋に対しても物おじせずに真っ直ぐ向き合い、直球で受け答えしています。そんな彼女を古屋も気に入っている様子が随所にうかがわれるのが何だか愉快です。

五話を通じて登場するのは樹齢を経た木々や雄大な山の姿です。五話で登場する桜の老木が道路拡張のために伐採の運命にあるというのはまさに現代の自然への敬意を忘れた日本を象徴しているように思えました。

これまで筆者の医療ものしか読んで来なかった身には、宗教観にも通じる民俗学をテーマにした本書はとても珍しく感じましたが、根柢にある思いは共通しているのかもしれません。

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薬屋のひとりごと2

2024年12月27日 | 
日向 夏 (著), しの とうこ (イラスト)  ヒーロー文庫

後宮女官を解雇させられた猫猫(マオマオ)は、花街に戻ってきた。しかし、戻るや否や、今度は超美形の宦官壬氏(ジンシ)のお付として、外廷に出仕することになる。壬氏への嫉妬から他の官女たちにからまれ、倉庫の小火、官僚の食中毒、腕利き職人が残した不変な遺言の調査など奇妙な事故や事件が多発する。いろいろな事件が重なりあう中、それらはある一つのことに収束することを猫猫は知る。そこにはある人物の思惑があった。そしてそんな中、壬氏に付きまとう武官羅漢が現れる。変人として有名なこの男は、何かにつけて壬氏に問題を持ってくるようになる。それは、羅漢が古い緑青館の馴染みで猫猫をよく知っていたためであった。猫猫に対してただならぬ執着を持つ羅漢に対して、猫猫の態度は普段と少し違っていた。いつもの飄々とした雰囲気と違う猫猫を気づかい、羅漢から守ろうとする壬氏であるが――。羅漢の本当の狙いとは一体?型破りな薬屋の娘と超美形だがどこか残念な宦官、それに巻き込まれる人々。薬と毒、宮廷と花街、官と妓女、そして過去と現在が交わる中で、物語は紡がれていく。(あらすじ紹介より)

アニメ放送を先に視聴しているので、内容はほぼ原作通りなのだと改めて感じました。羅漢と鳳仙の関係は一方的なものではなく、互いに想い合った末の掛け違いが悲劇となっていること、羅漢の猫猫への執着の強さが逆に娘に嫌われる原因となったことについてはアニメでは描かれなかった部分もあって、猫猫が羅漢を嫌う理由になるほどな~~と納得してしまったぞ。😊 

序話
壬氏が帝から何やら頼まれごと。この件はどう繋がったんだっけ?💦
猫猫は梅梅や養父に送られ再び出仕します。

一話 外廷勤務
後宮ではなく外廷で壬氏の侍女として働くことになった猫猫。官女試験に落ちたのは興味のあること以外は並以下の彼女らしい結果。

二話 煙管
李白と出会った猫猫が小火騒ぎの原因を推理

三話 後宮教室
上級妃への妃教育を依頼された猫猫は本気(マジ)出して臨みます。上級妃たちの4者4様の反応が面白い。あ‼序話の帝の頼み事ってこれだったか。

四話 膾
膾を食べて意識不明となった高官は事故かそれとも?猫猫の推理が冴えます。

五話 鉛
こちらは秘伝を息子に伝えず亡くなった職人の遺言の謎解きです。

六話 化粧
壬氏のお忍びの外出のための変装を受け持った猫猫。悪戯心で彼に紅を差した猫猫とそれを見ていた高順、水蓮の反応描写が楽しい。

七話 街歩き
里帰りのついでに壬氏に同行させられた猫猫はお嬢様の恰好をさせられています。
浮き浮きな壬氏の無邪気な様子と猫猫の不愛想さの対比が面白いです。

八話 梅毒
病人が猫猫を産んだ女であり、母娘の関係が過去に起因していることを匂わせます。

九話 羅漢
羅漢が壬氏に絡むようになった理由がわかってきます。

十話 翠苓
外廷で何度か出会っている二人ですが、翠苓に対して猫猫が感じた印象が書かれます。

十一話 偶然か必然か
これまで猫猫が関わった事件がいくつも重なった輪の中に一つの恐るべき可能性が浮かんできます。

十二話 中祀
重大な陰謀の可能性に思い至った猫猫が衝動的な行動に走ります。
武官を挑発して頭部を殴打されながらも必死に駆けつけ(タイミング良く助けてくれたのは羅漢)、危機一髪で救った相手は意外な人物でした。

十三話 曼荼羅華
足を負傷した猫猫ですが、事の次第を壬氏たちに解き明かします。事件の背景に翠苓の存在が浮かびますが、彼女は毒をあおって自殺していました。納得がいかない猫猫は彼女が蘇りの薬を使って死を偽装したと推理し棺桶を開けて確認します。

十四話 高順
壬氏と二人が服用しているのは男でなくなる薬(医局にお使いに行かされた猫猫が味見した薬)というわけで、この二人の正体についても仄めかされます。

十五話 後宮ふたたび
玉葉妃の月経が止まったことで、毒殺を防ぐために、猫猫が再び翡翠宮で毒見役を務めることになります。羅漢から遠ざける狙いもあるようです。

十六話 紙
後宮の医局に出入りするようになった猫猫が、ヤブ医者の実家の困りごとを解決します。

十七話 身請け作戦
白鈴の身請け話の噂に焦った李白が、猫猫に相談にやってきます。
二人のやりとりを目撃した壬氏は超不機嫌になり、猫猫を問い詰めるのですが、噛み合わない会話が笑えます。

十八話 青薔薇
壬氏が羅漢から持ち込まれた厄介事を猫猫が受けて立ちます。小蘭が手伝いで久々に登場します。周囲の興味を逸らそうと、猫猫は爪紅を用います。

十九話 爪紅
青だけでなくカラフルな季節外れの薔薇の登場で園遊会の注目を集めます。
猫猫は壬氏にそのからくりを説明します。色水か~~!!
羅漢に将棋の勝負を挑んだ猫猫は彼が下戸なのを利用して見事賭けに勝ちます。その代償は緑青館の妓女の身請けでした。

二十話 鳳仙花と片喰
人の顔を認識できない羅漢が出会った妓女が猫猫を産んだ女でした。彼女の顔だけは認識できたのです。やがて哀しいすれ違いで二人の運命は分かたれますが、真実を知った羅漢が駆けつけた時には遣り手婆の激しい怒りを買い、その後も融けることはなかったのです。
緑青館で意識が戻った羅漢は、約束通り妓女を選ぼうとしますが、梅梅から鳳仙が生きていることを示唆され(猫猫が贈った青薔薇のドライフラワーもヒントなのね)、鳳仙を身請けします。
猫猫が羅漢を嫌っているのは、幼い頃から追いかけ回されたトラウマが大きいのであって、彼を憎んでいるわけではないことが語られます。妊娠には鳳仙自身の思惑もあったと気付いている猫猫の観察眼は侮れませんね。
父親(羅漢)を嫌う娘(猫猫)の発言に何とも言えない表情の高順の理由は続編で明かされますね。

終話
梅梅からの手紙で鳳仙が身請けされたことを知った猫猫は、身請けの祭りの夜、一張羅の着物に同封されてきたひれを纏って外壁の上で祝いの舞を踊ります。そこに現れた壬氏に驚いて転落しそうになった彼女を抱きとめる壬氏。踊ったことで傷口が再び開いた猫猫を抱きかかえて外壁を降りる壬氏に猫猫が発したのは「牛黄下さい」
 良いムードになるとしっかりオチが付くのね😁 


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華ざかりの三重奏

2024年12月24日 | 
坂井 希久子 (著)

独身で子供のいない可南子は、もうすぐ還暦を迎える。これまでは仕事一筋に頑張ってきたが、定年退職したあと、どう生きればいいのか途方に暮れている。
そんな中、子育てと介護を終えたかつての友人・芳美から、一緒に暮らさないかと誘われて…。それぞれ人に言えない悩みを抱える迷える六十歳たちは「人生の問題」にどう向き合うのか?(あらすじ紹介より)

本作に登場する漫画作品
ポーの一族、ガラスの仮面 乙嫁語り 風と木の詩、動物のお医者さん あさきゆめみし ベルサイユのばら、BANANA FISH 

第一章 冬 
第二章 春 
第三章 夏 
第四章 秋 
第五章 三人の冬

アパレルブランドのプレスとして働いてきた可南子は60歳定年間近の独身女性。中学時代の大親友だった芳美に誘われ、故郷・群馬で開かれた中学校の同窓会に参加したところから物語は始まります。45年以上経った同級生たちは、立場も悩みもそれぞれ。
中三の時「ちょっとだけ」好きだった桜井の暴言失言にかちんとた可南子でしたが、定年後の生き方について考えてしまいます。

遅れてやってきた芳美から「知ってた?斎藤ひかり先生が43年ぶりに『時の旅人』の続編を出すのよ!」と言われた可南子。突然脈絡もなく登場する漫画ネタですが、以後の展開の「主役」になっていくのね。(ちなみにこの漫画家と作品は実在しませんが、3人の二次創作を含めたストーリーが秀逸で、本当に漫画で読んでみたいと思ってしまいました。)

その夜、芳美の家に泊まった可南子は、彼女から一緒に暮らさないかと誘われます。芳美の夫は既に亡く、娘と息子は独立していて、広い庭付きの一軒家に一人で住んでいます。考えた末、可南子は定年と同時に都心のマンションを引き払って芳美の家で同居することを決めます。

和室2部屋をぶち抜いてヴィクトリアンスタイルに改装した芳美の部屋には壁一面の本棚に新旧の少女漫画がずらりと並んでいます。元漫画少女にとってはまさに夢のような空間です。
「よっさん」「タケコ」と呼び合った二人が中学時代に共に嵌っていたのは少女漫画です。猫脚のソファとビーズクッションに寝ころび、萩尾望都や竹宮惠子を読み返しながら、愛してやまなかった『時の旅人』の復活に胸を躍らせる二人は少女に戻ったよう。

娘が独身でいることを心配する母親と距離をとる可南子、夫を亡くしてから引き籠って漫画に没頭する母に呆れる娘の夏美と溝ができた芳美。それぞれに抱えているものがあります。可南子はいつしか夏美と芳美の緩衝材の役割を担うようになっていきます。

広い庭の雑草問題を解決するため、ふとしたきっかけで知り合った近所の中学生が飼っているヤギを除草に借りた二人。飼い主である中学生・瑛人は不登校で祖父と二人暮らしをしています。ヤギと一緒に芳美の家で過ごすようになります。
更に同居している息子家族の家に居づらい元花屋の香織(還暦仲間)も加わります。

カモとばかりに家を売りつけようと押しかけてくる不動産営業マンの桜井の軽口はまさに昭和感丸出しでデリカシーのない暴言です。後日、強引な物件の誘いに渋々出かけた可南子は、的外れな営業トークを続ける桜井に客の背景を考えるようアドバイスします。世代間ギャップについては可南子自身も思い当たることがあったのでちょっと親身になったのね😁 ついでに妻に対する態度も改めろとさり気なく忠告も。(実は桜井の妻の夫に対する愚痴を、彼女と知り合いだった香織が聞かされていたのでした。)

瑛人は不登校の理由を3人に打ち明けます。恋愛感情を持てない彼を級友たちがからかいの対象にしていました。桜井のような無神経な大人を見てこれからも状況は変わらないのかと落ち込む瑛人に芳美は「要は合わないだけ」と言い、恋愛モノが苦手という彼に、「少女漫画は魂で触れ合えるただ一人との関係性を描くものだから、魂の結びつきは恋愛に拘らなくて良い」との持論を展開します。
なるほど~~と思わず可南子たちのように目からうろこです。正直そこまで深く考えて読んだことなかったもんな~。
このことがきっかけで瑛人は徐々に登校するようになっていきます。可南子たちは瑛人を叱ったり励ましたりするのではなく、ただ見守るという姿勢です。それは「近所のおばさん」として正しい接し方なのね。

香織は、花屋を畳んで息子夫婦の家に同居したものの、狭い家の中で居場所を失くしていましたが、彼女に声をかけたのも芳美です。夫の急死という共通点から、香織の思い詰めた様子に気付いたのは、彼女自身も同じような気持ちを抱えたことがあったからのようです。(夾竹桃は花も葉も全てに毒を含んでいるというのは初耳でした。)

芳美が描いたテオの絵を見た香織は、『時の旅人』の二次創作を作ってコミケに出したいと言い出します。芳美は高校時代に趣味で漫画を描いていました。花屋だった香織が背景(花)を受け持ち、可南子はプロットとスケジューリングを含めた雑用と役割分担し、「時の華組」サークルが結成されます。

素人ながらも奮闘した3人は、何とか印刷も間に合い、イベントで売れたのは10冊でも大きな経験に胸をときめかせます。
更に尊敬する「のすたるじあ」さんからの熱烈なメッセージをもらって感激した彼女たちは活動を続けることを決意します。

定年後の生活は、もうすぐそこまで迫っています。
仕事や子育てを終えた後、自分に何が残るのか、何をしたいのか・・・ちゃんと考えなくちゃね😔


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聖☆おにいさん THE MOVIE ホーリーメンVS悪魔軍団

2024年12月20日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2024年12月20日公開 93分 G

広い宇宙の数あるひとつ、燦然と輝く命の星、地球。
世紀末を無事乗り越えた神の子イエス(松山ケンイチ)と仏の悟りを開いたブッダ(染谷将太)は、日本の四季折々を感じながら下界で密やかにバカンスを楽しんでいた。東京・立川にある風呂なし6畳一間のアパートをシェアし、ふたり暮らし。アイスを分け合ったり、近所の商店街で福引きを楽しんだり、お笑いコンビ「パンチとロン毛」を結成したり。ゆるーい日常を過ごす2人の元にある日、天界からの使者が現れ、禁断のオファーが伝えられる。やがてそれは、神も仏も天使も悪魔も入り乱れる、まさかの地球滅亡の危機へと繋がっていく!?(公式HPより)


イエスとブッダが東京・立川にある6畳一間のアパートでふたり暮らしをしながら下界を満喫する日常を描いたギャグ漫画「聖☆おにいさん」の実写映画化です。原作者・中村光が映画化のために描いた「スクリーンへの長い途」をもとに、ドラマ版に続き福田雄一がメガホンをとっています。
なので福田組常連さんはもれなく出演。どこに誰が出ているのかを見つけるのもファンの楽しみの一つですが、そうでない人にとっては好き嫌いが別れる作品かも。(二郎さんのアドリブは正直、長過ぎてつまらなかったし😔
感想を一言でいうと、窪田君の出番が思いのほか多くて準主役級だったのが嬉しい!💛です。

ある日、2人を訪れたのは仏法の守護神・梵天(賀来賢人)、雷神・帝釈天(勝地涼)、天使ミカエル(岩田剛典)の3人。人間が臨終間際に見る走馬灯的な映像をヒーロー戦隊ものに作り変えたいと二人に出演のオファーをします。弁財天(白石麻衣)や戦いの仙人(佐藤二郎)のスパルタ特訓を受け、マーラ(窪田正孝)も娘たち(山本美月、桜井日奈子、中田青渚)の応援に張り切って敵役を受けます。

脚本は十一面観音(仲野太賀)とヨハネ(神木隆之介)が担当し、撮影が始まると川口春奈、吉柳咲良、田中美久、森日菜美、安斉星来の女子ーズも登場して盛り上げます。

イエスのお父さん(佐藤二郎)のくだりは冗長でしたが、色んな番組をパロって進む話は気楽に笑えました。(逆にコンプラ大丈夫かと心配になるけど)
戦隊ものではお馴染みの爆破シーンや、倒された後に巨大ロボットが登場する展開はもはや突っ込む気にもなれない😝 
堕天使ルシファー(藤原竜也)の一喝で終わりますが、デスノートネタに至っては、新旧揃い踏みじゃん!と密かに狂喜した次第でございます😍 

ちなみに福田組常連の山田孝之、ムロツヨシは「え?これだけ??」な役でしたが😥 

この手の作品にストーリー性や芸術性とか期待しないので、小ネタを拾ってゆるっと笑ってなんぼですね😁 

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はたらく細胞

2024年12月13日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2024年12月13日公開 109分 G

人間の体内には37兆個もの細胞が存在し、酸素を運ぶ赤血球AE3803 (永野芽郁)や細菌と戦う白血球U-1146(佐藤健)など無数の細胞たちが、人間の健康を守るため日夜はたらいている。高校生の漆崎日胡(芦田愛菜)は、父の茂(阿部サダヲ)と2人暮らし。健康的な生活習慣を送る日胡の体内の細胞たちはいつも楽しくはたらいているが、不規則・不摂生な茂の体内では、ブラックな労働環境に疲れ果てた細胞たちが不満を訴えている。そんな中、彼らの体内への侵入を狙う病原体が動き始め、細胞たちの戦いが幕を開ける。(映画.comより)


人間の体内の細胞たちを擬人化した同名漫画の実写映画化です。原作漫画「はたらく細胞」とスピンオフ漫画「はたらく細胞 BLACK」から、ある人間親子の体内世界ではたらく細胞たちの活躍と、その親子を中心とする人間世界のドラマが並行して描かれます。
「翔んで埼玉」「テルマエ・ロマエ」シリーズの武内英樹監督で面白くならないわけがない✌

細胞たちのキャラと俳優さんたちがナイスマッチです。
白血球(好中球)U-1146を演じた佐藤健が全身白塗り姿で「ぶっ殺す!」と叫びながら細菌をなぎ倒す様なんて原作から抜け出したようにはまってました。なんたってアクション演出は「るろうに剣心」シリーズの大内貴仁ですからね😁 
「キラーT細胞」役の山本耕史や「NK細胞」役の仲里依紗のキレッキレなアクションも魅せてくれました。

前半はコメディタッチで進みます。
大人になっても方向音痴?な赤血球を何かと守ってくれる白血球を軸に、特徴ある細胞たちが続々登場。優しいマクロファージ先生(松本若菜)や、可愛すぎる血小板(マイカピュ)たちに癒され、ヘルパーT細胞(染谷将太)の司令塔や美しい肝細胞もキャラに合っていました。

黄色ブドウ球菌(小沢真珠)、肺炎球菌(片岡愛之助)、化膿連鎖球菌(新路慎也)の悪玉菌トリオは黄・青・赤の信号トリオじゃないか😓 とは後で気付いた次第💦
それぞれ思いっきり楽しんで演じたんだろうな~というオーラ全開でした。

身体の持ち主であるニコちゃんとお父さんのやりとりに仲良しぶりが感じられ、ニコが想いを寄せる先輩・武田新(加藤清史郎)にときめいた時に神経細胞(DJ KOO)が絶妙なアゲアゲDJを披露するシーンでは細胞たちも踊り出します。

不摂生なお父さんの体内にいた先輩赤血球(加藤諒)と新米赤血球(板垣李光人)の視点で描かれるゴミ(LDL)だらけの血管内や肛門での悲壮な攻防に笑いながら、ふと我が身を顧みて反省も💦
この二人に訪れた悲しい別れから、新米君がニコの細胞の仲間入りをするいきさつにはやや難がありますが、原作二つを巧妙に融合させた結果なのね。

ちなみに健康的な生活を送っていたニコの体内はファンタジックで綺麗な街として描かれ、不健康なお父さんの方は戦後の日本のような荒廃感が漂う街になっていました。

ニコの食事指導のおかげで健康を取り戻したお父さんでしたが、今度は娘の方に病魔が忍び寄りました。
先輩白血球の「お兄ちゃん」に憧れ立派な白血球になろうとしていた子(SEKAI NO OWARIのFukase)が異常細胞と判断され白血病細胞に変貌(がん化)しちゃうんですねぇ😔 
Fukaseは「キャラクター」でも殺人鬼(悪役)を演じていましたが、今回の悪役も合っていました。

ここからはシリアス全開で細胞たちの戦いが描かれます。
体内で抗がん剤は爆弾投下のごとく炸裂し、放射線治療はオーロラのように全身をなめ尽くし、細胞たちを全滅させていきます。輸血によりニコの体内に移植された新米赤血球君と出会い、共に行動し励ます姿はすっかり先輩赤血球なAE3803でした。
無数の白血病細胞と戦い力尽きるNK細胞やキラーT細胞。白血球U-1146も白血病細胞を倒して死亡し、最後まで酸素を届け続けた赤血球AE3803も放射線で死亡するという何とも哀しい最期です。まぁ、細胞にも寿命があるわけで仕方ないのだけど、やりきれなさを残します😭 

ニコのために必死に看病を続けたお父さんとBFの新君の微笑ましいやりとりや、笑うことで免疫力があがると一生懸命に励ます姿には涙腺が緩みました。そういえば愛菜ちゃんと阿部さんは「マルモ~」以来の親子役共演ですね💛

辛い治療に耐え抜き、骨髄移植により病気に打ち勝ったニコの体内では新たな細胞たちが生き生きと働いています。
赤血球AE3803や白血球U-1146に似た二人も再び巡り会って、細胞の物語は続いていくようです。

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モアナと伝説の海2 吹替版

2024年12月06日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2024年12月6日公開 アメリカ 100分 G

前作での壮大な冒険から3年、妹のシメア(増留優梨愛 )が生まれ少し大人へと成長したモアナ(屋比久知奈 )は、愛する家族と島の仲間たちとともに暮らしていた。ある日、「かつて人々は海でつながっていたが、人間を憎む神によって引き裂かれた。海の果てにある島に辿り着けば呪いは解け、世界は再びひとつになる」という伝説を知る。モアナは人々の引き裂かれた絆を取り戻すため航海に出ようとするが、それは、その島に近づこうとこうとすれば、 “生きては帰れないかもしれない”というほどの危険に満ちた冒険だった。幼い妹シメアや家族たちと二度と会えないかもしれない…しかし、愛する人たちを守るため、「私が、やらなきゃ」と決意し、迷いや葛藤を乗り越えて果てしない旅へ踏み出すモアナ。前作で相棒となった半神半人のマウイ(尾上松也 )が「モアナ、お前は一人じゃない」と背中を押し、さらには良き理解者で心の支えとなっているタラおばあちゃんから勇気をもらい、島の新しい仲間たちと一緒に新たな冒険へ旅立つ。(公式HPより)


「モアナと伝説の海」の続編です。
モアナが“タウタイ”(海を渡り人々をつなぐ者)になるための儀式の最中、雷に打たれます。意識の中で、タウタイ・ヴァサから他の島の人々と繋がることができなければ村が終焉を迎えると告げられます。人々が分断されたのはナロ(神)が人々を繋ぐ中継点となるモトゥフェトゥに呪いをかけ沈めたからでした。

この呪いを解くために再び冒険の旅に出るモアナですが、今回は旅の仲間がいます。絵が得意なマウイファンのモニ(小関裕太 )、頼れる船大工のロト(鈴木梨央 )、植物を愛する老人ケレ(山路和弘 )、前作でも活躍?したヘイヘイや豚のプア です。

新たに登場するのはマタンギ(ソニン)です。ナロに仕える彼女はマウイを捕らえていますが、同時に彼女自身も閉じ込められているようです。マタンギはモアナに「迷う」ことがモトゥフェトゥへの道に繋がると言いました。

マウイも加わり進む一行ですが、モニが危険に曝されたことで落ち込んだモアナは前に進めなくなります。そんな彼女を今度はマウイが勇気付けます。

海に沈んだモトゥフェトゥをマウイが釣り上げようとしますが、ナロが作り出す嵐に阻まれます。ナロがマウイではなく、呪いを解こうとする人間を止めようとしていると気付いたモアナは自分たちがナロを引き付ける間にマウイが島を引き上げるという作戦を立てます。魔法の釣り針で島を釣り上げるというのは神話に基づくようですね。

ところが、ナロの雷に打たれたマウイはタトゥーを消され半神の力を奪われてしまいます。モアは「別の道がある」と、自ら泳いで海中のモトゥフェトゥの島に辿り着きますが、ナロの雷に打たれてしまいます。意識を失ったモアナの元にマウイが辿り着き、歌うことでタウタイ・ヴァサ、祖母や祖先たちが現れて蘇生させます。

力を取り戻したマウイによってモトゥフェトゥは釣り上げられます。
モアナの左腕に現れたタトゥーは、神の力が与えられたということですね。

モトゥフェトゥが復活したことで、多くの島々から海を渡って人々がやってきます。
マウイや仲間たちと共にモトゥヌイに戻ったモアナは家族と再会してめでたしめでたし😁 

と思ったら、続きがありました。
モアナを助けたマタンギを責めるナロを横目にタマトア(前作でも登場したキャラ)がひとくさり。・・・まだ続くのね💦

前作では敵キャラだったココナッツの海賊たちが、ナロの呪いを解くためにモアナたちと協力して戦います。愛嬌のあるキャラなので戦いもユーモラスで楽しめました。

今回もヘイヘイがナイスタイミングで活躍してくれるのも😄 

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六人の嘘つきな大学生

2024年11月22日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2024年11月22日公開 113分 G

誰もが憧れるエンタテインメント企業「スピラリンクス」の新卒採用。
最終選考まで勝ち残った6人の就活生に課せられたのは“6人でチームを作り上げ、1か月後のグループディスカッションに臨むこと”だった。
全員での内定獲得を夢見て万全の準備で選考を迎えた6人だったが…急な課題の変更が通達される。
「勝ち残るのは1人だけ。その1人は皆さんで決めてください」
会議室という密室で、共に戦う仲間から1つの席を奪い合うライバルになった6人に追い打ちをかけるかのように6通の怪しい封筒が発見される。その中の1通を開けると…「・・・は人殺し」
そして次々と暴かれていく、6人の嘘と罪。誰もが疑心暗鬼になる異様な空気の中、1人の犯人と1人の合格者を出す形で最終選考は幕を閉じる。
悪夢の最終面接から8年が経ったある日、スピラリンクスに1通の手紙が届くことである事実が発覚する。それは、<犯人の死>。犯人が残したその手紙には、「犯人、・・・さんへ。」という告発めいた書き出しに続き、あの日のすべてを覆す衝撃的な内容が記されていた。残された5人は、真犯人の存在をあぶりだすため、再びあの密室に集結することに…嘘に次ぐ嘘の果てに明らかになる、 あの日の「真実」とは――(公式HPより)


浅倉秋成のミステリー小説の映画化で、監督は佐藤祐市、主題歌は 緑黄色社会「馬鹿の一つ覚え」です。

人気企業の最終選考を舞台に、6人の登場人物の裏の顔が暴かれていく“密室サスペンス”と、8年後にそれぞれの暴かれた嘘と罪の真相が判明する“青春ミステリー”が合わさっていて、犯人探しの息詰まるような緊迫感を味わった後に、思いがけない感情の揺さぶりがあって面白かったです。

最終選考に残った6人は、洞察力に優れた主人公・嶌衣織(浜辺美波)、まっすぐな性格でムードメーカーとなる波多野祥吾(赤楚衛二)、冷静で的確なリーダーシップをとる九賀蒼太(佐野勇斗)、語学力と人脈に自信を持つ矢代つばさ(山下美月)、口数が少なく分析力に優れた森久保公彦(倉悠貴)、スポーツマンでボランティアサークルの代表を務める袴田亮(西垣匠)です。

最終選考の結果次第では6人全員に内定を出すと言われ、全員内定を目指してグループディスカッションを重ねて事前準備に取り組む中で仲を深めていった6人でしたが、急に課題が変更されて戸惑います。

それは6人で話し合い内定者を1人だけ決めるというものでした。
当日、正六角形に配置されたテーブルを囲んだ6人は、自己PRを行いながら15分毎に投票し総得票数で内定者を決めることにします。
1回目の投票の後、怪しい封筒が置かれていることに気付いて中を覗くと、それぞれの宛名が書かれた封筒が入っていました。

最初に九賀が自分宛の封筒を開けると、袴田の高校時代のいじめ記事が入っていました。以後の投票で票を得ることができなくなり自暴自棄になった袴田は、それぞれの過去が暴かれることで相対的に自分にもチャンスが生まれると考えて、次の手紙を開けることを要求します。

九賀、矢代、森久保・・暴露される者が増えていく中、嶌がこの封筒は会社が置いたものではないのではと指摘したことで、封筒を置いた犯人探しが始まります。
録画されていたビデオを確認すると、森久保が置いたことがわかります。森久保の否定の言葉は聞き入れられず、投票は続いていきます。
全員の手紙の開封を望む既に暴露された4人に波多野は迎合せず、これまでの関係に戻ろうと説得した彼の熱弁に心を動かされ始めるメンバーでしたが、九賀が暴露写真の特徴(傷と撮影日)に気が付いたことで、撮影日に唯一予定がなかった波多野が犯人と断定します。波多野は自分が犯人だと認め、嶌には暴露するものがなかったので封筒の中身は空だと言います。
最後の投票で、嶌が票を集める結果となって、彼女が内定者に決定します。

この日までは熱い友情が育っていたように見えた6人が、内定を勝ち取るためにエゴを剥き出しにして互いを非難し合う姿が醜くも人間臭い温度で迫ってきます。まさに彼らの裏の顔が剥き出しになったかのようで迫力がありました。

ここで終わりかと思いきや、シーンは8年後に。
スピラリンクス社員として働く嶌を、波多野の妹・芳恵(中田青渚)が訪ねてきて、
兄が病死したことを伝え、遺品を整理していて見つけた「犯人、嶌衣織へ」と書かれた手紙とUSBメモリーを届けます。ここで真犯人は嶌?と誘導されるわけね。😒 

USBメモリーにはパスワードがかかっていて、ヒントは”犯人が愛したもの”となっていました。身に覚えのない嶌は、事件を調べ直すことにします。暴露写真の撮影時間と場所の矛盾点から、波多野が犯人ではないと気付いた彼女は、最終選考の録画ビデオを見直して、矢代と森久保の不審な動きを見つけます。こういう観察眼の鋭さは彼女の得意とするところですね。

あのときの4人を呼び出した嶌が、犯人に証拠を突きつけるのが最終展開です。
波多野のより明確な証拠暴露写真を使わなかったのは、「彼」がお酒を飲めな(知らな)かったからなのね。
真犯人の動機は何とも稚拙に感じました。だって尊敬する先輩がスピラリンクスに落ちたのは人事部の見る目が無かったからと決めつけ、最終選考に残った自分への自己評価の低さもあって、5人を巻き込んで人事部に復讐しようとしたのですから。

彼の告白の後で、嶌は彼の口癖だった“fair”を入力してUSBメモリーを開きます。そこに保存されていた音声ファイルを開いたことで全ての伏線が回収されていきます。

犯人扱いされたことに絶望した波多野は、メンバーの悪行を更に曝け出そうと、彼らに関わる人物を訪ねていました。しかし、そこでそれぞれの秘密や罪には事情があったことを知ることになります。(例えば袴田は苛められていた後輩を守るために学校に告発した結果、加害者が自殺しており、彼に責任はなかったなど。)

善人面していたように見えたメンバーたちは、本当は悪人ではなくそれぞれの正義や道徳があったことを知った波多野は同時に自分のしようとしていた行為の下劣さに気付いたと告白し、5年、10年後に再会した時に胸を張って生きていたいと残していました。

ラスト。波多野の妹と墓前に手を合わせた嶌は、これで終わりではなく、ここからスタートだと前を向きます。

企業への就職活動をしたことのない身には、彼らの切実さを共感することは難しいのですが、最終選考の場の極限の精神状態の中で繰り広げられる密室劇はヒリヒリした緊迫感が伝わってきて犯人探しのスリルと共に目が離せませんでしたが、裏の顔=悪人というわけではなかった結末に救いを感じました。
嶌の暴露が最後まで出なかったのが気になると言ったら己の野次馬的好奇心の醜さを曝すことになるのかな。そこまで考えての構成だとしたら見事です。

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11文字の殺人 新装版

2024年11月17日 | 
東野圭吾 (著)  光文社文庫

交際を始めて2か月が経ったある日、彼が海で亡くなった。彼は生前、「誰かが命を狙っている」と漏らしていた。女流推理作家のあたしは、彼の自宅から大切な資料が盗まれたと気付き、彼が参加したクルーズ旅行のメンバーを調べる。しかし次々と人が殺されてしまう事態に!
『無人島より殺意をこめて』――真犯人から届いたメッセージの意味とは⁉ 昭和だから起きた怪事件!(あらすじ紹介より)


1987年に発表されたようで、まだ初期の作品のようです。
ミステリー作家の「あたし」目線の視点での語りの合間に犯人の独白が挿入されているのがミスリードを誘う構成になっているのが面白かったです。

「昭和だから起きた怪事件!」とはどういうこと?と思ったけれど、作中で「あたし」の求めにスポーツプラザの従業員が簡単に応じてクルージングツアーの参加者名簿を渡すあたりが、個人情報に厳しい令和ではありえない点を見るとちょっと納得でした。😁 

恋人の雅之を殺された女流ミステリー作家の「あたし」は、彼のスケジュール帳を見たことでその死に疑問を抱き、担当編集者で親友の萩尾冬子と事件の真相解明に乗り出すのですが、それが引き金となったかのように、第2、第3の殺人事件が起こります。

調べるうち、恋人が参加したクルージングツアーで海難事故が起こり、参加者の一人・竹本が亡くなっていたことがわかります。山森と彼の家族、スポーツプラザの従業員や美由紀も参加者だったのです。

「あたし」は冬子と一緒にクルージングの参加者から話を聞こうとしますが、皆一様に口を閉ざします。

雅之の残した資料を狙って接触してきたカメラマンの美由紀に続いて役者の坂上豊が殺されたことで、いよいよ犯人が参加者の中にいると確信した「あたし」ですが、家に誰かが忍び込み「手を引かねば殺す」とPCに警告メッセージを残されたり、スポーツプラザで顔に濡れタオルを被せられバーベルを喉に押し付けられたりと危険に曝されてしまいます。

でも逆に闘志に火が付いた「あたし」は、目の不自由な山森の娘・由美と誘拐まがいの方法で接触し海難事故当日の有力な情報を得ます。これには山森も頭にきて、「あたし」の留守中に家に忍び込んで警告を与えます。実は最初に山森に会いにスポーツプラザに行った時にスイミングの体験を勧められているのですが、その際に合鍵を作られていたという😓 

山森から一周忌のクルージングツアーに誘われた「あたし」は冬子と参加するのですが、その夜、冬子が宿から抜け出したまま戻らず、翌朝遺体となって発見されます。

クルージングの参加者でもない彼女がなぜ?というところから、一気に事件が動きます。
「あたし」は由美の話と当夜の参加者たちの証言の矛盾に気付いて真相に辿り着きます。

クルージングで亡くなった竹本の恋人の復讐劇だったわけですが、犯人は参加者の中にいたわけではなかったのですね。竹本の人間性を非難したくなりますが、彼の恋人の考え方もある種独特でした。😔 

竹本と冬子を殺した犯人と、雅之ら3人を殺した犯人は別だったのです。

真実は「あたし」の胸の中に納められ、事件として世間に暴かれることはないというのは疑問が残りますが、最後に山森の「嘘」が雅之らが殺される発端になったという、どんでん返しもあって面白かったです。

相手のことを知っていると思っていても、実はその人の一面しか知らなかったというお話ですね。





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薬屋のひとりごと3

2024年11月13日 | 
日向夏(著)ヒーロー文庫

玉葉妃の妊娠により、再び後宮に戻ってきた猫猫(マオマオ)。 皇帝の寵妃ということもあって、それは秘密厳守。 しかし、女たちの腹の探り合いは日常茶飯事で、しかも、後宮内だけでなく外部からも怪しげな動きが見え隠れする。 それとともに、後宮外では壬氏たちが隣国の特使の要求に頭を悩ませていた。 特使たちは、数十年前にいたという妓女、それが見たいと無理難題を言ってきたのである。花街の事情に詳しい猫猫に相談を持ちかけてくるが、それは意外な人物であり――。 猫猫はその美女にかわる絶世の美人を用意することとなる。 茸中毒で死んだ妃、後宮内の廟の秘密、先帝がかかった呪い、その謎を解くにつれ、壬氏が宦官の枠を超えて扱われていることに猫猫は気が付く。 そして、猫猫はその壬氏の願いで、後宮を出て北の避暑地へと同行することになる。そこで待っていたのは、腹に一物持った高官たちと再び壬氏の命を狙う者たちだった。 猫猫たちは、無事、宮中に戻ることはできるのか!?(あらすじ紹介より)


シリーズを順番通りに読めなかったため、今頃手に入った3巻の目玉は何と言っても「月精」(壬氏様の女装姿)と「そこそこの蛙」でしょう😍 
1巻のあと2,3巻を飛ばして4巻に行ってしまったため、その後も時々登場する「そこそこの蛙」の意味が何となくは想像できてもエピソード自体がわからずもやっとしていたのが解決しました😁 
子翠 が登場します。既に彼女の正体を(読んで)知っているため、色々勘ぐってしまうぞ。

序話
壬氏の幼い頃の夢の話のようです。彼にとって母は皇太后・安氏であり、父は先帝と認識されています。母と祖母、父の関係についても触れられています。

一話 書
やぶ医者の所で薔薇から香油を作っている猫猫を訪ねてきた壬氏に、実家(緑青館)から届いた荷物の中身を知られたことで、後宮の下女の識字率向上のために策が講じられることに。皇帝から妃に配られた小説が写本され下女たちが回し読みする中、小蘭は自分で読んでみたいと猫猫に字を習い始めます。まずは自分の名前からですが、猫猫が次に教えようとしたのが「葛根」「冬虫夏草」といった薬の名というのが受ける!

二話 猫
鈴麗公女と散歩中に拾ったのは猫の毛毛。子翠登場です。小蘭の知り合いの侍女ですが実は彼女の正体を既に知っているのでちょっと斜め上から見てしまうぞ。

三話 隊商
西の国からやってきた隊商に娯楽の少ない後宮の女性たちは沸き立ちます。妊娠を秘密にしていた玉葉妃に勧められた服が妊婦向けのものであることを猫猫は訝しみます。最終日に小蘭、子翠と買い物を楽しんだ猫猫はジャスミン茶を購入します。

四話 香油
隊商で売られていた香油が後宮で大流行しますが、妊婦に害がある薔薇や安息香、青桐 、乳香、桂皮といったその種類を不審に思った猫猫は、流行に敏感な水晶宮の梨花妃の侍女の服を剥いて壬氏に怒られます。
猫猫が飲もうとしていたジャスミン茶を飲みたそうにしていた壬氏に、これも堕胎薬になることや男性の不妊に効果があると言って飲ませようとしない猫猫。でも壬氏はちゃっかり飲んじゃうのね😄 

五・六話 冬人夏草 前・後編
壬氏から毒茸についての調査依頼を受ける猫猫。
中級妃・静妃の葬儀に紅娘と参列した猫猫は、妃の顔がただれていたのは毒茸が原因と推察します。紅娘が静妃を快く思っていないのは、以前玉葉妃が鈴麗公女妊娠の折に毒を盛ったのが静妃だと疑っていたからです。
女官の行方不明の噂との関連に気付いた猫猫はこれを見事に解決します。
実は、静妃は1年前に既に死亡していて、行方不明となった女官が身代わりを演じていましたが、彼女の任期が明けることに焦った侍女たちが共謀して毒殺し、その死体を静妃とし、女官は失踪したことにしていたのです。
静妃は下級妃と揉めたことで事故か事件かは不明ですが死亡し、元々その性格故か侍女たちにも嫌われていたため、その死を身代わりを立てることで隠していたわけね。本人の死体は毒茸が群生する地面の下に埋められていて、腐敗する臭いで発見に繋がったという。
壬氏は、静妃に毒茸を盛った者が玉葉妃の侍女の可能性も考慮していたと気付いた猫猫は玉葉妃に肩入れしているわけではなく公正に各妃を見ている壬氏を見直します。

七話 鏡
西の特使が玉葉妃ら上級妃に鏡を献上した理由について考える猫猫。これって女同士の張り合いか?
高順が壬氏の使いで胆嚢を持参しながら二人の箱入り娘の片方の妊娠の謎解きを頼んできます。鏡を使ったトリックでした。この娘たちがしていたという刺繍は西国人が好む趣味ということが後の伏線になっているようです。

八話 月精
特使は二人の美女で、昔曽祖父から聞かされた「真珠の涙を持つ絶世の美女」に会ってみたいと無理難題を押し付けられた壬氏が猫猫に相談します。
その絶世の美女が緑青館のやり手婆なんですね。まさに時の流れは残酷です。
婆を呼んで改めて話を聞いた猫猫は彼女が持参した絵姿からヒントを導きだし、壬氏に女装をさせて見事に解決します。雄の蛾が雌の匂いに弾きつけられて集まる習性を利用していますが、蛾の雌雄判別や確保には虫好きの子翠の手を借りています。
壬氏にとっては災難ですが、この絶世の美女の描写はぜひともアニメで観たいものです。まさに月の精のような姿に衝撃を受ける特使(勝気な方)でしたが、彼女たちの目的は帝と皇弟を誘惑すること?

九話 診療所
風邪を引いた愛藍と診療所を訪れた猫猫は、深緑(後に猫猫が連れ去られる場にいたっけね~)と出会います。後宮の診療所は先帝のお手付きだったため後宮を出ることができない女性を集めた場所のようで、皇太后が作ったとされています。

十、十一話 みたび、水晶宮 前後編
梨花妃の侍女の容体を気にする深緑に頼まれ、やぶ医者と水晶宮を訪ねた猫猫は、物置に隔離されていた侍女を発見した際に侍女頭の杏が隠していた香油を見つけます。
杏の目的は堕胎薬を作って梨花妃を流産させることでした。(おそらくは誰かに入れ知恵されたもの)
梨花妃の従姉妹の杏は、自分が妃に選ばれなかったことを憎んでいました。
梨花妃は杏を庇って解雇という形で後宮を追い出します。本来なら極刑だよね。

十二話 選択の廟
小蘭が字を教わっている宦官から、国の成り立ちの話を聞いた猫猫は、その夜、主上の呼び出しを受け、壬氏と一緒に廟に入ることになります。色の異なる3つの扉から一つを選ぶ謎解きを解いた猫猫はゴールに辿り着きます。うん、これは色盲・色弱の遺伝が関係しているわけね。
国の祖である王母が、自分の血縁を繋ぐために考えた巧妙なからくりなのです。
男系皇族の主上は王母の血が薄れているため正解に辿り着けなかったわけ。でも濃くなり過ぎた血は、病気などのデメリットも出て来るわけで、廟を守る宦官は、血が薄まるのは避けられないなら猫猫のような聡明な者と血縁を結ぶのも良いのではと言います。彼は壬氏の正体も知っているようですね。

十三話 皇太后
診療所の前で皇太后を見かけた猫猫と子翠。
その後、玉葉妃を訪れた安氏から謎解きを依頼される猫猫。それは彼女が先帝に呪いをかけたのかという問いでした。安氏が先帝を嫌っていたことが示される回です。

十四話 先帝
先帝がロリコンだった原因は母への怖れから大人の女性に委縮したからのようです。
妾腹だった安氏は、童顔で初潮が早かったことから、父の思惑で侍女として後宮に送り込まれ、狙い通りに国母となります。10歳足らずで産んだ子が現帝で、帝王切開で取り上げたのが羅門でした。
成長した安氏に興味を失くした先帝を憎んでいた彼女は、弟帝を半ば強引に迫って孕みます。(その子は阿多妃 によって取り替えられ後に死亡)
安氏の言う「呪い」とは、死後1年経っても先帝の死体が腐らなかったからです。
猫猫は先帝が晩年を過ごした部屋に入って、絵を趣味としていた先帝が、絵具に含まれていた毒に冒されていたことを指摘します。
安氏は取り替え子と承知で壬氏に愛情を感じているようです。彼に「お気に入りは隠しておかないと、誰かに隠されてしまうわよ」と忠告したのも猫猫を気に入ったと同時に立場の危うさも知っていたからでしょうね。

十五話 怪談
小休止の回かな?
紅娘に誘われ怪談会に参加した猫猫。子翠も参加していて、彼女が語った話は後に起こる「蝗害」を示唆するような内容でした。
禁じられた森に入った母子の話の謎解きを子翠に解説する猫猫。毒茸が関わっていました。

十六話 避暑地
子昌(楼蘭妃の父)の招きで狩りのため避暑地に行く壬氏に同行する猫猫。
冒頭で玉葉妃と猫猫を返して問答が繰り広げられるのが愉快。完全にからかわれているのが見え見えな壬氏、可愛い。
覆面を被り「香泉」と名乗る壬氏。護衛は馬閃で、高順は宦官の壬氏の名代として参加しています。状況がいまいち呑み込めない猫猫ですが、そこは敢えてスルーを決め込みます。馬閃は馬の一族は代々皇族に仕える一族だと話します。護衛として来ていた李白は狩猟犬と仲良くなっています。この犬が後で大活躍です。
香泉に供された食事は強壮剤がてんこ盛り。猫猫は平気ですが、馬閃は撃沈😓 

十七~十九話 狩り 前・中・後編
食事も水も摂らず覆面を外さないせいで熱中症になりかけた壬氏は宴席を離れ森へ。異変に気付いた猫猫が後を追いますが、突如鉄砲で狙われ、危険を察した壬氏は猫猫を抱きかかえ滝へダイビング。泳ぎが不得意な猫猫は溺れかけますが、壬氏が(おそらくは人工呼吸と心肺蘇生 )助けます。濡れた着物を脱いで絞る描写で既に何かが起きる前兆を感じさせます。
滝の裏の洞窟からの脱出方法を探る中のアクシデントで壬氏が宦官でないことに気付いた猫猫ですが、それ以上のことを知ることを拒んだ彼女は真実を話そうとする壬氏をはぐらかします。これが「そこそこの蛙」のエピソードですね。
そこそこを強調された壬氏が熱くなって猫猫に迫ったタイミングで、猫猫の指笛に反応した例のわんこが降って来るのはある意味お約束ですね。

宴席に戻ってこない壬氏たちを捜索していた馬閃たちは、暗殺者の正体を暴くために一計を案じます。うん、壬氏が狙われたのは銃であって矢ではないものね。😁 
李白に助けられた猫猫は、わんこを使っての犯人探しを提案し、無事犯人を捕まえます。この暗殺未遂事件は表沙汰にされることなく終わるのですが、後の子一族の反乱に繋がっていきます。そもそも祭祀を行う壬氏を事故に見せかけて殺そうとしたのも今回の銃を使った暗殺未遂も子昌が背後にいるのよね。😨 

壬氏は猫猫に改めて身分を明かそうとしますが、先に牛黄を渡したのが間違い!興奮した猫猫の耳にはただの雑音でしかないという。可哀相な壬氏様。

終話 
高順は壬氏に付き合うため、表向き「馬」の名を剥奪されたことになっているようです。皇弟が無能と判断し、次の東宮の後ろ盾となりそうな者に胡麻を擦ろうとする
宦たちを横目に月を愛でる高順の胸中やいかに。

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室井慎次 生き続ける者

2024年11月08日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2024年11月8日 先行上映
2024年11月15日公開 117分

警察を辞めて故郷の秋田に戻り、事件被害者・加害者家族の支援をしたいという思いから、タカ(齋藤潤)とリク(前山くうが・こうが)という2人の少年を引き取り、暮らしていた室井慎次(柳葉敏郎)。しかし、彼の家のそばで他殺死体が発見され、さらにかつて湾岸署を占拠した猟奇殺人犯・日向真奈美の娘だという少女・日向杏(福本莉子)が現れたことから、穏やかな日常は徐々に変化していく。かつての同僚であり今は秋田県警本部長になっていた新城(筧利夫)に頼まれ、警視庁捜査一家の若手刑事・桜(松下洸平)とともに捜査に協力することになった室井。そんな彼のもとに、服役を経て出所してきたリクの父親が訪ねてくる。(映画.comより)


「踊る大捜査線」シリーズの中心人物のひとりである室井慎次を主人公に描いた映画2部作の後編です。

前編がなかなか見応えがあったので、事件解決を含め期待して観た後編でしたが・・・正直なんじゃそれ!!でした。
思いっきりネタバレになりますが、室井さんの死は百歩譲って有りとしても、その死に方はないんじゃないの?
秋田出身で冬山の寒さ、厳しさは身に沁みている筈なのに飼い犬探して遭難死はあり得ないと怒りさえ覚えてしまったぞ。😡 そもそも、飼い犬なんだから、戻って来るでしょ、普通は。狭心症を抱える彼が危険を承知で出たのなら自殺行為であり、子供たちとの将来を楽し気に語った姿とは矛盾するんですよね。納得いかんぞ。

前編の遺体の顛末についても、桜が室井に自分の推理を語ったあと、本庁があっさり犯人を捕まえるし、黙秘する犯人に一般人となっている室井が取調室で語り掛けたことで自供を引き出すという展開は「昭和の刑事かよ!」と突っ込みを入れたくなりました。被害者も加害者家族も深い傷を負っているって、それ今更ですか😓 

リクの暴力父親(加藤浩次)のせいでひと悶着(杏が猟銃持ち出す)が起きた後、飼い犬を探しに出たまま戻って来ない室井を、それまで彼に否定的に接していた住民が総出で捜索する様子はまるで大々的な犯人捜査に似ていて深刻なシーンなのに失笑してしまいました。それにしても今回も駐在所のおまわりさん(矢本悠馬)のキャラがあまりにも軽くて腹が立つ~。

ともあれ、この作品のテーマが室井個人の生き方ということであれば、この後編の見方も変わってきます。
青島との約束を果たせず失意のまま警察を辞めて故郷に戻ってきた室井は、事件関係者の子どもを引き取ることで希望を見出していきます。前編ではタカの、後編ではリクのことを守り通した彼は、杏に対しても正面から向き合います。
商店の店主(いしだあゆみ)の「子供は皆愛されたい」という言が室井に杏の行動の真意を気付かせるんですね。このエピソードは良かった💛

彼をよそ者として否定していた住民たちでしたが、彼の死後、その思いを知り、子供たちを受け容れ見守り変わっていきます。ちょっと出来過ぎな気もしますが・・・。
「親」がいなくなったのですから、一般的には養護施設に引き取られると思うのですが、本作では子供たちはそのままあの家で住民たちに見守られながら生きていくことを選んだようです。あれ?タカの進学はどうなったんだ??💦

警察関係はどうなったかといえば、新城が室井の思いを受け継ぎ、沖田(真矢ミキ)の後押しを受けて「秋田モデル」として進めていくようです。同期の3人の立場は変わっても思いは受け継がれていくということですね。

そしてラストで室井の家を訪ねていく青島が!
でも呼び出しがかかりUターン。え?帰っちゃうの?そもそも彼は室井の死を知って訪ねたのかそうでないのか・・・

室井はいなくなっても「踊る~」は続くのかもという期待を持たせて幕を閉じたわけです。

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つくもがみ笑います

2024年11月03日 | 
畠中恵(著) 角川書店

人から百年以上大事にされた品物は、人ならぬ、つくもがみになるという。
江戸は深川で損料屋を営む出雲屋では、主人の清次と妻のお紅、跡取りの十夜とともに、そんなつくもがみたちが仲良く賑やかに暮らしていた。ひょんなことから、大江戸屏風に迷い込み、二百年前にタイムスリップしたり、旗本屋敷の幽霊退治にかり出されたり。退屈しらずのつくもがみたちが、今日も大奮闘!(内容紹介より)


「つくもがみ貸します」「つくもがみ、遊ぼうよ」に続く第三弾。
野鉄(.蝙蝠の根付け)・月夜見(.掛け軸)・お姫(姫さま人形)・うさぎ(櫛)・猫神(.猫の根付け)ら付喪神 (長い年月を経た道具などに魂が宿ったもの )と人である古道具屋兼損料屋の出雲屋清次とお紅 の息子・十夜らの交流と彼らが巻き起こす騒動を描いた物語です。今回は.両国の口入屋の主人・阿久徳屋(久徳屋阿喜夜)と養子の春夜、旗本の篠崎、山白伊勢守ら侍たちも絡んできます。
付喪神たちは他にそう六(絵双六)、 黄君(琥珀の帯留)、唐草(金唐革の紙入れ)、
青海波(守袋)など。

語り手は野鉄
・つくもがみ戦います
語り手は野鉄
出雲屋のつくもがみたちは、かどわかされた先で久徳屋のつくもがみの安真刀(脇差)、文字茶(茶碗)、青馬(陶器)と知り合います。出雲屋の付喪神の噂を聞いた悪徳屋が、もっと付喪神を増やそうと彼らを攫ったのですが、大人しく言う事を聞く彼らではありませんから、逃げ出そうとして騒ぎになるんですね😁 彼らを探しにきた出雲屋清次と十夜の前に現れた春夜は十夜に「兄さん」と呼びかけます。

・二百年前
語り手は猫神
付喪神となっていた”大江戸屏風”の中に阿久徳屋と出雲屋の付喪神たちが入り込んで騒ぎとなります。 屏風の持ち主の飼い猫に追いかけられた利休鼠.(鼠の根付け)を助けようと屏風に入り込んだ出雲屋の付喪神たちは、200年前と今の違いを調べるよう言われた阿久徳屋の付喪神たちと再会します。月夜見に教えられ、阿久徳屋の付喪神たちは、相棒だった加羅刀(大刀)と寿々女(扇子)を取り戻すことができました。

・悪の親玉
語り手は再び野鉄
阿久徳屋が春夜を伴って出雲屋を訪ねてきます。十夜の名の由来を話し、本当の親の手掛かりを餌に頼み事をしようとしてきっぱり断られますが、その後行方知れずとなってしまった彼を探す羽目になるんですね。旗本・山白家の幽霊騒ぎを解決したのは当の阿久徳屋と付喪神たちでした。自らを悪徳屋と称する阿久徳屋ですが、実はけっこう善い人のようです。

・見つかった
語り手は五位(煙管)
付喪神たちが屏風から持ち出した大判の噂が広まったことでまたまた騒ぎとなります。捨て子だった十夜や春夜の親と名乗る者が続々現れるのですが、出雲屋が大判を持っているという噂が武家に広まったのが理由でした。また阿久徳屋自身も加羅刀、安真刀と共に捨てられていたことがわかります。自分も飛べるのに仲間たちがいつも野鉄を頼るのが面白くない五位でしたが、徐々に彼の活躍の場も増えてきました。😀 

・つくもがみ笑います
阿久徳屋親子と春夜が武家に襲われ、その後阿久徳屋が殺されかけたのは、彼の出自に関係があるのではと、縁のあった伊勢守を訪ねます。そこで”百年君”の噂の事を知った彼らは自分たちの身の安全を守るため、その行方を探すことになります。九曜紋の殿様も巻き込んだ末に大江戸屏風と家紋の難儀にけりをつけた後、百年君が上野・寛永寺にあると推測した十夜たちは殿様を通じて寺に参拝に出かけ、堂宇の部屋全体に描かれた絵が全て付喪神になっていることを知ります。

語り手は五位
今回殆ど出番がなかった十夜の幼馴染みの小間物屋・すおう屋の三男・市助と、料理屋鶴屋のこゆりですが、こゆりに縁談がきたことで関係が微妙に変化しそうです。十夜と市助はこゆりが好きなようですが、そこに阿久徳屋がこゆりは他に好きな男がいると言ったものだから二人は落ち込んでしまいます。そこで二人を慰めようと宴会が始まり付喪神たちもわいわいと・・・😁 

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八犬伝

2024年10月25日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2024年10月25日公開 149分 G

江戸時代の人気作家・滝沢馬琴(役所広司)は、友人の絵師・葛飾北斎(内野聖陽)に、構想中の物語「八犬伝」を語り始める。
里見家にかけられた呪いを解くため、八つの珠を持つ八人の剣士が、運命に導かれるように集結し、壮絶な戦いに挑むという壮大にして奇怪な物語だ。北斎はたちまち夢中になる。そして、続きが気になり、度々訪れては馬琴の創作の刺激となる下絵を描いた。北斎も魅了した物語は人気を集め、異例の長期連載へと突入していくが、クライマックスに差しかかった時、馬琴は失明してしまう。完成が絶望的な中、息子(磯村勇斗)の妻・お路(黒木華)から「手伝わせてほしい」と申し出を受ける──。失明してもなお28年の歳月をかけて書き続けた馬琴が「八犬伝」に込めた想いとはー。(公式HPより)


山田風太郎の小説「八犬伝」の映画化。里見家の呪いを解くため運命に引き寄せられた8人の剣士たちの戦いをダイナミックに活写する“虚構”パートと、その作者である江戸時代の作家・滝沢馬琴の創作の真髄に迫る“実話”パートを交錯させて描かれています。物語を生み出す苦悩と葛藤と共に作者の目線で描かれる『八犬伝』 です。



昔、「新八犬伝」という人形劇が放送されてましたっけ。人形美術を担当 した辻村ジュサブロー さんの人形が印象的でした。曲亭馬琴 の『南総里見八犬伝』自体は未読ですが、おおまかなあらすじは知っていました。
そういえば、朝ドラ「らんまん」のヒロインの愛読書になっていましたね。

この映画の中で描かれる「八犬伝」の物語はVFX効果もあってまさに「虚」の世界に引き込まれます。
馬琴の「悪が蔓延る世の中だからこそ物語の中だけは勧善懲悪に拘りたい」という信念のもとに書かれたまさに正義が勝つお話は、読む人々の心に小さな勇気を運んだのではないでしょうか。

「八犬伝パート」と馬琴と北斎の奇妙な友情を通じて描かれる「創作パート」が交錯して進みます。北斎に誘われ、巷で人気となっていた歌舞伎芝居を観に行った馬琴が、戯作者の鶴屋南北(立川談春)と繰り広げた問答が深い😀 
忠臣蔵と四谷怪談を巧みに織り交ぜた内容の芝居なのですが、シニカルな南北と頑固で頭の硬い馬琴ではその「虚と実」の捉え方が真逆なのです。(個人的には南北の考えを支持しますね😁 )歌舞伎芝居の方は中村獅童(民谷伊右衛門)や尾上右近(お岩)が演じていました😋 

破天荒な芸術家である北斎と堅物な馬琴とのやりとりがユーモラスに描かれているのも面白かったです。物語の筋を語った後、挿絵をせがむ馬琴に、気軽に数枚描いて渡す北斎ですが、すぐにそれを破って捨ててしまいます。この毎度のやりとりが笑えます。
挿絵ももちろんですが、旅に出て描き上げた「富嶽三十六景」を馬琴に土産代わりに渡すシーンではその見事な絵も披露されていて眼福でした。

馬琴の息子の鎮五郎/宗伯の父を尊敬し尽くす姿はまさに孝行息子そのもの。父の期待と願いを一身に受け医者となり武家に召し抱えられながらも病を得て早逝してしまうのですが、その臨終のシーンが涙を誘います。

妻のお百(寺島しのぶ)は学のない女性です。馬琴に振り回される人生に愚痴が絶えないのですが、根は悪い人ではないようです。
学がないのは息子の嫁もですが、彼女は夫亡き後、馬琴が失明した折には、彼の代わりに物語の口述筆記を申し出て、いろはしか読めなかった彼女が漢字を覚えて物語の完成に重要な役割を果たしたのでした。

「八犬伝」パートでは、玉梓(栗山千明)の呪いを解くために八犬士が活躍します。
里美義実(小木茂)が飼い犬の八房にかけた戯言と、捕らえた玉梓を一度は放免すると言っておきながら斬首したことで彼女の恨みを買ったことが因果の元となり、伏姫が自らの命と引き換えに呪いを解くために八犬士を生み出すことになります。
20年後。玉に導かれるように、それぞれ犬の名を持つ八犬士が会することとなります。
初めに登場するのが犬塚信乃(渡邊圭祐)と犬川荘介(鈴木仁)。信乃の幼馴染の浜路(河合優美)が非業の死を遂げたように見えましたが実は彼女は鷹に攫われた義実の姫だったということが後に明かされます。
その後、次々と不思議な巡り会わせにより集まった8人は玉梓を倒し里見家の呪いを解くのです。悪霊となった玉梓の実体はVFXで表現され、信乃の持つ名刀村雨から放たれる水と悪霊の炎の戦いがダイナミックに描かれます。悪役玉梓を演じる栗山千明の鬼女姿も凄みがありました。
本家「南総里見八犬伝」の内容はかなり端折っているようですが、ダイジェストとしてみればスピーディで楽しめました。
特筆すべきは毛野役の板垣李光人の女装姿。舞姿は本当に女性かと思ってしまったぞ。😓 

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薬屋のひとりごと13

2024年10月24日 | 
日向夏(著)しのとうこ(イラスト) ヒーロー文庫

西都に残る人たちと別れ、一年ぶりに中央に帰ってきた猫猫たちは、 また以前の仕事に戻る。蝗害、西都のお家騒動からようやく離れることができて、平穏な日々が戻ってくるかに思えたが――。
猫猫が帰って来てもまだその友人たちに居候されて困る羅半。
上司のげんこつを食らいながら、毎日面白そうなものを探す天祐。
面倒くさい客の相手をしながら、どのように技女を引退するか考える女華。弟の恋についてあれこれ画策する麻美。お嬢さまの心境に不安しかない燕燕。言動と心境にずれが生じ、ちぐはぐな行動ばかりしてしまう姚。蝗害の災禍にたった一人立ち向かい、生きて西都に戻った羅半兄。西都でも中央でもそれぞれ違う人生があり、皆が皆、自分なりの悩みを抱えて生きていた。猫猫といえば、壬氏の思いに対して素直になる道を選ぶ。ただ、そこに大きな問題が存在することも理解していた。官僚の中には玉葉后の息子が東宮にふさわしくないからと、他の皇族を立てようと考える者たちがいた。壬氏はもとより、梨花妃の皇子や、数代前の皇族の血筋までたどろうとしている様子。国の頂きに近い者には平穏な日々など望むべくもない。今巻は猫猫のゆかりの人々の視点からも、人生を見ていく。彼ら、彼女らはどう考え、どう生きていくのか。また、猫猫は壬氏をどう受け止めていくのか。都の人々のそれぞれの思いが大きく動いていく。(内容紹介より)

一話 羅半と三番
中央に帰ってきた羅半を迎えに来たのは三番。羅漢が拾ってきた者たちは名前ではなく番号が付けられているのよね😁 で、どうやら三番は羅半に好意を持っていて、居候を続ける姚や燕燕 に敵意を持っているようです。

二~四話 羅半と首吊り死体 前中後編
羅漢の執務室で首吊り死体が発見されます。他殺と見抜いた羅半は野次馬の中に犯人がいるか羅漢に尋ねますが、顔を認識できない羅漢は「白い碁石」と答えます。
検死には劉医官と一緒に猫猫と天祐もついてきました。猫猫は複数人による他殺と見抜きその方法を解きます。この殺された男が何か重要な鍵を握っていそうです。

五話 壬氏と報告
壬氏は主上や皇太后、玉葉后に挨拶回り。
部屋に戻ると水蓮や麻美が留守中に置かれた呪いの札や人形などをせっせと見つけ出しています。麻美からは他の男系皇族の噂の報告を受けます。

六話 天祐の医務室日記
遺体の解体を熱望する天祐は相変わらず。猫猫と姚たちの会話にも興味津々。一緒に西都にいった李医官の様変わりように同僚たちが驚いている描写も面白い。医官たちは事件の背景の可能性を考慮に入れて調べを進めるようです。

七話 麻美と不器用な弟
家鴨連れの馬閃に呆れながらも、せっかく異性に興味を持った弟のために姉として何かできないだろうかと考える麻美です。「絡みつく蔓植物に似ている」と言われたことがあるという麻美は旦那を執念で根負けさせて捕まえたというのも納得😁 

八話 阿兄正伝
西都に置いて行かれた羅半兄の日記は彼が船を待つ港の宿場に置き忘れたことから、中央の連中(猫猫と羅班兄)に散々庭をいじられた庭師たちがささやかな復讐として日記を回し読みしたのが偶然どこぞの学者に目を留められ農業書として編集されますが、作者不明とされます。どこまでいっても名前がない羅半兄ですが、すでに本名は12巻で判明していますね。彼は小姓として中央に連れて来られた少年・漢俊ジェと同姓同名です。
個人的にはこの日記が一番面白かった!!

九話 燕燕の休日
十話 燕燕と恋話
姚お嬢様が羅半に気持ちがあるようだと燕燕は気が気ではありません。猫猫を相手に愚痴っていたところに三番がやってきて良い物件を見つけたと追い出そうとします。
お嬢様命の燕燕の悩みは暫く解決しそうにもありません。

十一話 女華という花
皇族のご落胤という売りの女華は学問に秀で四書五経を暗記していて科挙の受験者に人気があります。常連の老師に連れられて来た男の評価も辛口です。次の客である柳野郎が連れて来た丸太野郎は、女華に皇族の血筋かと問います。母の形見の割れた翡翠の玉牌を売って欲しいと言われ断りますが・・これ、絶対後で重要なポイントになりそう。

十二話 女華と妹分
緑青館にやってきた猫猫と久しぶりに会話する白鈴と女華。
妓女の子として生まれながら進んだ道が違っていく妹分を見ながら、少しの羨ましさを感じてしまう女華です。梅梅が身請けされたことを知らされ驚く猫猫。相手は羅漢が連れてきた棋聖ですって。えっと・・かなりの老人だったような😅 碁の相手としてということかしらん。
先日の遺体が丸太野郎だったかもと話した女華は、父親は皇族というより獣臭い節くれだった手をしていたと母から聞いたと言い玉牌を見せたところ、猫猫が反応します。

十三話 姚と、羅半兄の帰還
燕燕の言う「理想の旦那さま」しっかりした大人の男性で身元もはっきりして家柄も見合う、健康で困難な状況にも諦めず行動でき希望を忘れず云々・・は羅半兄にぴったりな気がしますね~~。そしてついに羅半兄が帰ってきました。お約束のように門番に門前払いを食いそうになるのがやはり羅半兄というキャラですね。面食いの彼が姚と燕燕を見て動揺するのも可愛いというか😊 

十四話 阿多の真実
雀が阿多に仕えていることや、壬氏が阿多が産んだ子だとはっきり明かされます。
猫猫を呼んだ阿多は逃げたければ手助けをすると申し出ますが、猫猫はきっぱり断ります。自由を封じられてきた彼女は猫猫に自分と同じ運命を押し付けたくないと思っていましたが、猫猫は彼女が考えているより柔軟で自由な女性だと示される場面でした。

十五話 壬氏の動揺、猫猫の決意
壬氏の求めに応じてやってきた猫猫が抱えていた荷物は避妊のあれこれでした。
水蓮が整えた香や花びらを散らせた寝室や滋養強壮の食事にやり過ぎと言いながらもどこか照れと期待に膨らんでいた壬氏の心は、彼女の本気を前に自分が置かれた立場と現実を改めて思い知らされます。
最高に盛り上がるロマンチックシーンが一気に冷水を浴びせられ現実にという「初夜失敗」の展開でした😞 

十六話 猫猫の遅い夕餉
猫猫なりに覚悟を決めて臨んだのに何もないという、嬉しいような残念なような気持ちのまま部屋に戻ってきます。強いお酒が徐々に回ってきて、梅梅のことや羅半兄のこと、皇族のご落胤の噂から天祐と女華は親戚かもと考えを巡らせながら睡魔に襲われる猫猫なのでした。

いつもとは少し趣が異なり、壬氏や猫猫の周囲の人物の視点で構成される短編形式で、1年ぶりに中央へ帰ってきた猫猫たちの様子が描かれています。次の話への伏線もいくつか忍ばせてあるようで、続きが楽しみです。

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今夜は、鍋。―温かな食卓を囲む7つの物語―

2024年10月17日 | 
角田光代/著 、青木祐子/著 、清水朔/著 、友井羊/著 、額賀澪/著 、織守きょうや/著 
新潮文庫

今夜は、鍋にしよう。外は冷える。スーパーで好きな具材を買いこんで、飲みものも忘れずに。少しのわだかまりを抱える恋人たちも、久しぶりに会う友人たちも、人生の節目を迎える家族も……温かな湯気立つ食卓を囲めば、今宵は特別な夜。どんな食材も鍋に入れば絶品に。美味しい鍋と、楽しいおしゃべり、至福の時間のはじまり。人気作家たちによる“鍋を囲むひととき”を描く、七篇。(内容紹介より)

「合作、冬の餃子鍋」角田光代
食へのこだわりが強いすみ子が好きになった望は、逆にこだわりが低過ぎ。お互いの家で食事をするようになってそのことに気付いたすみ子は交際を続けるか悩み始めますが、二人で作った餃子鍋の意外な美味しさにもう少し違いを楽しんでみようかと思い直します。

 「四人いるから火鍋にしましょう」青木祐子
女性だけのシェアハウスには、さより、留花、結が住んでいました。それぞれお金に困っていたところをオーナーの奈々子に拾われた女性たちでしたが、奈々子の決めたルールに従い平和に暮らしていたところに、翔太という青年が加わったことから関係がきしみ始めます。翔太はルールを守らず結が彼の代わりに掃除や朝起こしてあげたりするようになります。しかし翔太の本音を知った3人は・・・。
翔太は自分勝手な奴で平気で人を傷つけ、しかもそのことに気付いてもいない最低男なので、同情の余地はなく、逆に彼自身にとっても結果的に良かったのではないかとさえ思ってしまいます。

 「初鍋ジンクス」清水朔
土鍋(花三島)の「俺」は初鍋を楽しみに夢見ていましたが、やがて3組の持ち主に巡り合うことになります。最初の持ち主は一度も使うことなく離婚、二組目のは猫鍋にされますが、三組目で本格的な水炊き鍋の夢が実現します。
ちょっと宮部みゆきの付喪神の話に似ていて、どこかほんわかした温かさを感じました。

 「両想い鍋パーティー事件」友井羊
周囲からベストカップルと思われていた幼馴染の浩太郎と果歩。果歩の誕生祝に浩太郎が作ったアクセサリーケースが何者かに壊される事件が起こり、友人の蓮司と雛も憤慨しますが・・・
実は浩太郎の彼女は雛で、果歩の彼が蓮司という意外な展開があり、犯人の動機も「そりゃそうだよね~」と納得。当人同士は感じていなくても相手もそうとは限らないということでした。

「できない君と牡蠣を食べる」額賀澪
アニメーターの桂都と雪路。久しぶりに激務から解放された二人は雪路の希望で「牡蠣鍋」を食べに行きます。
桂都が女性であることに暫く気が付かなかった(^^;
どうやら二人は交際していたけれどあることから関係が自然消滅していたらしい。
タイトルの「できない君」が雪路のEDを指していて、牡蠣鍋に今夜こそ「立ち上がる」という決意が込められているって知ると何だか彼が可愛く思えてきたのは桂都も同じらしい。デリケートな内容なのに何だか微笑ましい。

「やみ鍋」織守きょうや
新宿駅西口のロータリーで鍋をする男を見かけつい立ち止まってしまった渡辺。男は突然鍋を彼に押し付けて姿を消してしまい、途方に暮れる渡辺に声をかけたのは同僚の片山だった・・。
渡辺はその鍋は最初から自分が持ってきたと錯覚していきます。学生時代のやみ鍋がトラウマになっていた渡辺でしたが、同僚と囲んだやみ鍋は楽しく満足して帰宅したものの、その鍋はやはり自分の持ち物ではないと気付きます。鍋の中から音が聞こえた彼は眠れなくなります。何だかSFっぽい話だな。

「鍋セット」角田光代
大学進学のために上京した「私」。母と一緒に見つけたのは予算の都合で古い木造アパートです。みすぼらしい部屋に膨らんでいた希望は一気にしぼんでいきます。引っ越しを終えて駅前で引っ越し蕎麦を食べた後、母が買ってくれたのは大中小の鍋セットでした。
地方から出てきた女の子が一人暮らしの夢や希望を出鼻でくじかれ、つい母に当たってしまう様が前半に描かれますが、後半ではそのアパートで過ごした数々の思い出が語られます。辛いこと、悲しいこともあったけれど、多くは楽しい思い出が母のくれた鍋と共にあり、フードプロデューサーという職に結びついていました。

6人の作家の「鍋」がテーマの短編です。
それぞれの作家の個性が出ていて面白かったです。
自分的には「初鍋ジンクス」が好みかな。

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