2019年9月6日公開 インド 132分
デリーの下町で洋品店を営むラージ・バトラ(イルファン・カーン)と妻のミータ(サバー・カマル)は、娘を進学校に入れることを考えていたが、親の教育水準や居住地までが合否に影響することを知り、高級住宅地への引っ越しを決める。しかし、その努力もむなしく受験の結果は全滅。肩を落とす2人に、ある進学校が低所得者層のために入学の優先枠を設けているという話が舞い込む。追いつめられたラージとミータは優先枠での入学を狙うために貧民街への引っ越しを決行するが……。
現代インドのお受験事情を笑いと涙を交えて描いたハートウォーミングドラマということですが、どちらかというとブラックコメディな印象。
ちなみに、題名の「ヒンディー・ミディアム」は、ヒンディー語で授業を行う公立学校のことだそうです。学歴社会のインドでは英語が重要で、英語で授業を行う私立の名門校「イングリッシュ・ミディアム」に入学させることは、人生の成功の不可欠条件というわけで、親たちは真剣そのもの。妻大好きなラージは、愛する妻のために、渋々ながらお受験道に突き進むことになります。塾は当たり前で、懇願されれば慣れ親しんだ下町を出て高級住宅街へのお引越しまでしてしまいます。
ラージの家は代々続く老舗洋品店という設定ですが、所詮下町の商店主なわけで・・・どんだけ金持ちなんだ??なお金の使いぶりは首を傾げてしまいます。低所得者を装うために貧民街で暮らす間、店の経営はどうなってたの?とか突っ込み処も多々あるのだけれど、それは置いといて・・
合格のためには他人を蹴落とすのも辞さない覚悟でしたが、貧民街で思いがけず善意の塊のような隣人と出会い、夫婦の中で価値観が揺らいでいきます。
偽装願書が認められ、優先枠のくじ引きでやっと娘のピアの合格を得るのですが、隣人の息子は外れてしまい、自分たちが彼の権利を奪ったとの罪悪感が生じます。せめて公立小学校の環境整備に篤志家として寄付することで払拭しようとしますが、この隣人がお礼をしようと訪ねてきたことで、夫婦の正体がばれちゃうんですね。怒った隣人はピアが通う進学校に告発しようと出かけるのですが、無邪気なピアを目にして断念します。彼を阻止すべく追いかけてきたラージですが、それを見て考えを改めるんですね。
妻の我儘に振り回される夫の図がここで崩れます。最後は夫の決断に妻も従い、ハッピーエンド?な結末。
一番振り回されていたのは娘のピアだと思いますが、娘の視点では一切描かれていなかったのが少し不満かな。
英語の綴りも知らないラージが願書に悪戦苦闘するさまや、進学校の品位に相応しい服装をはき違えた成金趣味なブランドで固めて登場した夫婦に塾の先生があ然としたり、慣れない日雇い労働で失敗を重ねたりと、細かなエピソードで笑わせながら、お受験事情をチクリと風刺してみせる展開です。
営利主義な塾や進学校の校長は、きっとどこにでもあるお受験の現実の一コマでしょう。校長が今回のことで考えを変えることもなさそうです。 だって社会が学歴社会中心に成り立っているんですものね。その中で、幸せの基準を他人と比べないこと、自分たちの生き方・考え方を変えることで幸せは手に入ることを夫婦を通して伝えている気がしました。