
2019年9月6日公開 中国 116分 PG12
残虐な戦や権力抗争で、命を脅かされていた王や貴族は、密かに身代わりを仕立て、それを“影”と呼んだ。
弱小の沛〈ペイ〉国は、領土の境州を奪った強大な炎国と休戦同盟を結んだが、それから20年、国民はいつまた攻めてこられるかと脅える日々を送っていた。沛国は若き王(チェン・カイ)を筆頭とする平和派と、重臣の都督〈トトク〉(ダン・チャオ)に従う開戦派に分かれていた。
ある時、都督は王の許しを得ず、炎国の楊蒼〈ヤン・ツァン〉将軍に境州での対決を申し込む。王は激怒するが、高貴で知略に富み、国民からも尊敬される都督を前にすると、責める言葉もなくなっていく。先王が早死にし、妹と二人の自分が王位に就けたのも都督のお陰だった。王は矛先を変えて、琴の名手と称えられる都督と妻の小艾〈シャオアイ〉(スン・リー)に合奏を命じるが、小艾は「境州が戻るまで琴は弾かないと天に誓った」と頑なに拒むのだった。
それもそのはず、王の前にいるのは都督の影武者だった。母と生き別れになり、飢えて行き倒れていた8歳の彼を都督の叔父が拾ってきて、影武者へと育て上げたのだ。1年前、都督が刀傷から病になったことを隠すために、いよいよ影武者の登場となったのだが、顔が瓜二つの彼に王さえ騙されていた。境州の奪還計画を進める都督は、影武者に「楊蒼を殺せば、自由の身だ」と約束する。
翌日、影武者は都督の筋書き通り、楊蒼に宣戦した己に厳罰を下すよう王に求める。王は彼を無官にすると、「今後、境州奪還を口にする者は斬首だ」と宣告する。それに対して影武者は、「私はもう一介の民。境州に行き、楊蒼と対決しても、殿とは無関係」と返す。都督の待つ館へ帰った影武者は、どんな相手も三太刀で必殺と言われる最強の楊蒼との対決に向けて、傘を武器にした技を磨くのだった。
王は和平のために、妹の青萍〈チンピン〉を楊蒼の息子に嫁がせようとする。だが、その返事は「姫を側室に迎えたい」だった。「それも一つの手立てだな」と答える王に、我慢も限界となった家臣の田戦〈ティエン・チャン〉(ワン・チエンユエン)が、「殺してやる! 楊父子の野郎め!」と叫び、王に「屈辱に甘んじるなら、殿の代で国は滅びます」と注進する。だが、王の心は変わらず、田戦は官職を解かれるのだった。
「私にも案が」と、特訓に行き詰った夫と影武者に申し出る小艾。女性の身体のように柔らかく傘を使ってみてはどうかというのだ。まさに柔をもって剛を制す、小艾のしなやかな動きが、都督の豪壮な攻撃をかわすことに成功、小艾はその技を影武者に叩きこむ。
約束の日が近付き、各々の思惑が交差していく。小艾は同情が愛へと変わっていった影武者の身を案じ、都督は忠実な家臣である田戦を呼び寄せ、“本当の作戦”を打ち明けて参戦を命じる。王は傷ついた青萍に「捨て石は誰だ?」と意味深な言葉をつぶやく。そして影武者は、都督の館での最後の夜に、小艾にある重大な告白をする。
遂に対決の時が来た。今、影武者は一人で、大軍の待つ敵地へと向かう──。(公式HPより)
チャン・イーモウ監督が「HERO」「LOVERS」の主要スタッフと再び組み、「三国志」のエピソード「荊州争奪戦」を大胆にアレンジして描いた武侠アクションです。脚本もチャン・イーモウとリー・ウェイの二人で書き上げています。中国の水墨画からインスパイアされた光と影のグラデーションが織りなす映像も美しく、視覚効果とCGをほとんど使わずに作り上げたというリアリティ溢れる生身の戦闘シーンも圧巻でした。
都督とその影武者の一人二役を演じたダン・チャオは、初めに筋骨隆々の肉体美を作り上げて過酷な特訓と激しい格闘シーンの続く影武者パートを演じ、次にそこから20kgの減量をして刀傷に病み瘦せ衰えた都督役を演じています。都督の王位への野心と妻と影武者の関係を疑い嫉妬する様は鬼気迫っていて圧倒されました。プライベートでもダン・チャオと夫婦なスン・リーも、夫への変わらぬ敬愛と、若々しく強靭だった頃の夫と瓜二つの姿で自分は何者かと苦悩する影武者への想いと、二人の男の間で揺れる小艾の切なくも悲しい女心を演じているのも見応えがありました。
沛王は軟弱で意気地なしなようで、実は狡猾さを持ち権力を巡る駆け引きの黒幕だったりと、最後のどんでん返しまで目が離せません。
小艾が女性のしなやかさを利用した傘の使い方を提案して、影武者に教えるシーンはまるで舞を踊っているかのように美しく、田戦と共に敵地に侵入した青萍たちが武器とした武器と化した傘を使った布陣にも圧倒されました。こういう戦いのスタイルは西洋にも日本にも真似できない様式美がありますね
それにしても、刀で斬られ、刺されて満身創痍で立ち上がることさえままならない筈なのに、お前は不死身か!!な影武者でした
最後の勝者は彼なのか?目の前で夫を殺された小艾は影武者を受け入れることができたのか?気になるぞ