
2021年5月28日公開 124分 G
2人の息子を育てる43歳のフリーライター・石橋留美子(菅野美穂)、アルバイトを掛け持ちする30歳のシングルマザー・石橋加奈(高畑充希)、年下の夫と優等生の息子に囲まれて暮らす36歳の専業主婦・石橋あすみ(尾野真千子)。年齢も住む場所も家庭環境も異なる彼女たちには、“石橋ユウ”という名前の小学5年生の息子がいるという共通点があった。それぞれ忙しくも幸せな毎日を送る彼女たちだったが、些細な出来事をきっかけにその生活が崩れ、苛立ちと怒りの矛先はいつしか子どもへと向けられていく。(映画.comより)
椰月美智子の同名小説の映画化で、“石橋ユウ”という同じ名前の息子を育てる3人の母親たちの物語です。監督は「楽園」「糸」の瀬々敬久。
冒頭で、子供を振り回し壁に打ち付けるシーンが出て来て「え?」となりました。タイトルだけ見て美味しいご飯がメインかと思ってた
最初に登場する石橋あすみは専業主婦で、いわゆる「良い子」の息子・優と優しい夫・太一がいます。義母宅の隣の敷地に家を建ててもらっていますが、互いに干渉せず距離感のある生活です。芳名帳に記帳する際に綺麗な文字で書きたいと、書道教室に通ううち、同年代で私立小に通う息子のいる菜々と親しくなり、ランチやティータイムを楽しむようになりました。優も私立に通わせたかったという思いがあります。
あすみの気がかりは、優の友達付き合い。光一という子は多動傾向があり、獅子(レオン)は体が大きいので苛められていないか心配していたのです。彼女のような心配は多かれ少なかれ経験することがありますねぇ ある日、レオンの母から優がレオンを苛めていると苦情の電話がありましたが、後日光一の間違いだったと聞いてホッとするあすみでした。
留美子は、小学3年生の悠宇と1年生の巧巳の息子二人に翻弄される毎日です。夫の豊はフリーカメラマンで忙しく、家事や育児への協力は期待できません。フリーライターの留美子は育児のドタバタをブログに書いていて、それが人気になり少しずつライターの仕事も増えていきますが、逆に夫は仕事が無くなり家で無気力に過ごすようになります。次第に互いにストレスが蓄積していきました。
加奈はシングルマザーです。夫の浮気が原因で離婚しましたが、慰謝料も養育費も貰わず、借金を返済しながら、朝と夜はコンビニ、日中はクリーニング工場で働きながら息子の勇を一人で育てています。加奈の弟は仕事を辞めていて時々金の無心に訪ねてきます。ある日、勇の担任から呼び出された加奈は、クラスメイトの西山が勇を陥れようとしたことを知らされます。彼の母もデリヘルで働くシングルマザーで、加奈は勤務先のコンビニで若い男と買い物をしているのを見たことがありました。
何不自由ない暮らしと良い子の息子を持つあすみ、元気いっぱいな兄弟に振り回されながらも自分の仕事が順調な留美子、貧しいけれど勇に精一杯の愛情を注ぐ加奈。でも子供はそんな母親をどう思っているのか?ここから物語は暗転します。
レオンへの苛めを仕組んだのは優だったことが暴露され、優は他人を操る実験をしていたと言います。夫に相談してもお前の教育が悪いと逆切れされます。夫に対しても不遜な態度を取る優を思わず叩いた彼に、優は虐待だと叫びます。そんな時、あすみに宗教の勧誘をする菜々。思わず席を立ったあすみですが、心は揺れます。更に状況は悪化、失禁した義母を「汚い」と罵りながら蹴る優を目撃したあすみは止めようとしてもやめない優の首を力一杯締め上げていきます。
失業した夫は家事もせず育児もおざなりで留美子の不満はエスカレートしていきます。遂には息子に暴力を振るい、留美子にも手を挙げた夫に「出て行け!」と言い放ち仕事部屋に入った留美子は、そこも息子たちに荒らされているのを見て激昂し、悠宇に馬乗りになり彼の頭を打ちつけます。
不景気でクリーニング工場をリストラされ帰宅した加奈は、通帳が消えているのに気付きます。彼女の留守中に借金取りに追われた弟が来て持っていったのです。弟は母に無心して拒否されたことに腹を立て、暴力を振るって出て行き、加奈の家にやってきたのでした。思わず勇を問い詰めると「僕なんか嫌いなんだろ」と言われ、加奈の中で何かが切れて、勇に馬乗りになります。
翌日母がやってきて加奈に生前贈与だと言って自分の通帳を渡しながら、ひとりで立派に勇を育てている加奈を労います。それを聞いた加奈は勇をきつく抱きしめるのでした。
コンビニで働いていると、西山の母がやってきて嫌がらせをします。後日彼女は加奈にデリヘルの仕事を持ち掛けますが、加奈はきっぱり断ります。西山の母は、同じようにシングルマザーで貧しい暮らしなのに前を向いて生きている加奈に羨望と嫉妬の感情を持ち、貶めようとしているように見えました。
場面が刑務所の面会室に変わります。そこには留美子の姿が!一瞬、悠宇を殺しちゃったのかと思ってしまいましたが違いました。小学5年生の「ユウ」という息子を、母親の石橋耀子(大島優子)という女性が殺してしまった事件があり、獄中から書いた耀子の手紙を受け取った留美子が面会に訪れたのです。留美子のコラムやブログのファンだったという耀子の手紙には、自分が殺してしまった「ユウ」への愛と後悔が綴られていました。自分かもしれなかった耀子と悠宇かもしれなかった「ユウ」の人生を丁寧に書きたいと強く決心する留美子。夫と離婚した留美子ですが、息子たちと夫は月に一度会う約束をしています。
「石橋ユウ」の虐待死は、ニュースで取り上げられてあすみも加奈も知っていました。お腹に新たな命を宿したあすみは、菜々の車から下校途中の優を見かけて慌てて車から降りて追いかけます。転んで怪我しながらも追いかけるあすみに手を差し伸べた優に、「実験してみてどうだった?」と聞くあすみ。優は泣き出し、あすみは彼を抱きしめます。
夫と会っている悠宇から電話を受けた留美子は「飛行機雲だ!」という声に空を見上げます。
初めての旅行で海に来ていた加奈と勇、あすみと優もそれぞれ空を見上げています。そしてエンドロール・・
優は、母親の理想の良い子でいることであすみを操っていた、父が母にしていることをしていたのだと言います。不満を抱えながらも夫に従順な母親が自分を操ることで満足を得ようとしていることを鋭く気付いていたのです。
悠宇は、二歳下の弟がすぐに泣くことで留美子の注意を引くことが許せなかった。母親を独占したい、自分も構ってもらいたい、甘えたい気持ちが根底にあるようです。「お兄ちゃんあるある!」ですね。
勇は加奈が自分のために昼夜問わず働いていることに子供ながらに負い目を感じています。自分がいなかったら母はもっと楽に暮らせたのではと思っていて、我儘も言えず我慢していたのね。
どこにでもいる母と息子が三組。息子に手をかけてしまった母のニュースに三人の母親はそれぞれ我が身を振り返ります。もしかしてそれは自分の身に起こっていたかもしれない、その境界線はとても危ういものなのですから。