モノ作り・自分作り

東横線 元住吉 にある 絵画教室 アトリエ・ミオス の授業をご紹介します。
美術スタッフが、徒然に日記を書いています。

青色の炎

2025-02-25 22:14:42 | 大人 油絵・アクリル


奥 油彩

サヤカです。始まったばかりだと思っていた2月が早くも終わろうとしています…。今回は大人クラスの奥さんの作品をご紹介します。早描きと定評のある奥さん、過去のブログでも複数の作品を一気にご紹介させていただいていますが、今回は4つの作品たちをご紹介します。

どの作品も青が印象的ですね。青を見ると、沈静、冷たさ…といった落ち着いたイメージが思い浮かぶと思います。しかし、奥さんの作品からは冷静さよりも、どこか内面からメラメラと燃え上がる勢いを感じます。炎の色が、温度が低い時は赤色に、より高い時は青色に見えるのと似た感覚を覚えます。赤色の方が情熱や力強さを感じさせる色なのに、炎になると冷たいイメージを持った青色の方が何倍も熱いなんて何だか不思議ですよね。奥さんは、そのような青色の二面性を作品に美しく投影しています。

過去の作品でも青を使った作品が印象的でしたが、奥さんは青色を意図的に使われているのか、青色の魅力に惹かれて無意識に使われているのか、どちらなのだろうと気になりました!実は青色は、好きな色調査を行った10カ国すべてでいちばんに選ばれた色だそうです。色に関する記事の中には、人々が青色を好むのは、空や海などの身近に感じられる青色は手に取ると「青」ではなかったり、そもそも手に取れないものであったり、触れられない色だから惹かれるのではないかと考察しているものもありました。

色や音楽、人の好みなどなど、根本的にどうしてそれに惹かれるのか言葉で説明できないけど、自分自身を確立させているものって多くありますよね。その内面の曖昧さを表現できるのが創作活動の醍醐味だと感じています。奥さんが青色を選ぶ理由をいつか直接お話しできたらとても嬉しいです!これからも奥さんの作品を楽しみにしています!

参考:
【色彩心理】青の心理【カラーセラピー/ブルー】
https://icpa-colors.com/colory/color-therapy-blue/

国・地域によって異なる”色”の嗜好性〜多言語サイトをつくるときの一工夫〜
https://www.infocubic.co.jp/blog/archives/2724/

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大胆なタッチを意識して

2025-02-21 20:42:40 | 大人 油絵・アクリル


原 油彩

大竹です。今日ご紹介させて頂くのは、原さんの油彩作品です。今回はいつもの緻密な作風を封印し、大胆な荒っぽい筆遣いで制作されています。
ゾウの群れの作品、こちらはアフリカに旅行された方より頂いた写真だそうです。筆跡を残すタッチで煌めく水面が描かれており、モザイクタイルの様な美しさがあります。ゾウのどっしりとした重さも、体に色々な色を乗せる事で表現されていますね。野生動物たちが生き抜いていく自然界は厳しいものですが、こちらの作品ではそんな中での穏やかなひと時をを感じさせてくれます。かといって、ゾウたちに弱々しい印象は無く、美しい景色の中で逞しく生きている様子が伺えます。今回の課題であった思い切りのよい筆使いが活かされていますね!
細かく描く事を抑え、大まかなタッチを意識して描くのは苦労されたかと思いますが、「こんな表現もあるんだ!」「そんなに描かなくてもいいんだ!」といった色々な発見があったかと思います。

こちらはペインティングナイフを多用されました。ゴツゴツと岩が転がる荒れた土地で放牧される、ギリシャ・スキロス島(写真は小原先生の旅行時のもの)の羊たち。その乾いた道をナイフで表現した作品です。硬い道路はふわふわとした質感の羊との対比にもなっていますね。また、羊たちは柔らかな暖色でまとめられているので、生物を触った時の暖かさをも感じさせます。真ん中下でこっちを見つめている羊ちゃんの愛らしさといったら、思わず笑顔になってしまいますね。
道の奥の風景は思い切ってぼかして描かれていますね。それにより、手前の羊達により視線が向かう様になっているのでしょう。こうした思い切りの良さは、大胆であればあるほど作品全体に大きく影響を及ぼしてくれます。ちょっと勇気が要りますが、大雑把なタッチに思えても、離れて見てみると案外いい感じだったり…是非今後の制作にも活かしていって頂けたらと思います。

そういえば、どちらも動物の群れが描かれているのは意図されていたものなのでしょうか?群れシリーズで制作されても面白そうですね!

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大自然を生きる仕草

2025-02-20 20:38:35 | 大人 油絵・アクリル


松野 油彩

こんにちは、マユカです!今回は松野さんの作品をご紹介していきたいと思います

ゴールデンウィークに自由ヶ丘で個展を計画中の松野さん。今まで描き溜めた作品もたくさんありますし、なにしろ早描きの方なのでどんどん作品が完成され、個展も心配いらずです。いきものが大好きな方で、特に馬をたくさん描かれています。

そのどれもが、動物のしぐさや表情を大切にした描き方をされており、生き物が持つ特有の「らしさ」がたくさん詰まっています。馬の優しく賢い表情や、俊敏でしなやかな体格に走っているときの軽快な様子、羽を目一杯広げて空気抵抗を受け、伸び伸びと飛ぶ姿や、湖畔で毛づくろいをしながら仲良くくつろぐ姿...ただ普通に筆をおくだけではこうは描けません。動物の姿をじっくりを観察した上で、まずは全体的な印象を画面に乗せ、そこから少しずつ筆を小さくしていき、最後に細かく描きこむ…と、デッサンと同じ手法で描き上げていくことでイメージが崩れにくく、全体的に暖かな印象を感じるような仕上がりになっています。松野さんは色選びがとても美しく、背景とマッチした光や影の色によりメインを浮かせることなく目立たせることが出来ています。特に湖畔なんて、モネの描く池のような透明感を想起させますし、自然の包み込むような優しさを画面から感じますね。

この豊かな色彩の重なり方は、小さな画面で見るよりも実際に見た方がより伝わるかと思います。キャンバスの上に自然の空気を感じるような作品、私もアトリエで見ることが出来たのは描き途中の数枚と、時々のお手伝いの際のみなので、個展が開かれた際には是非行きたいです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

油彩もマスター!?

2025-02-19 23:48:12 | 大人 油絵・アクリル


秦野 油彩

ナツメです。今回は水曜夜間クラスの秦野さんの作品を3つご紹介します!以前はキャンバスボード(表面に布目のような凹凸加工を施したボード)にアクリル絵の具で描かれていた秦野さんですが、近頃は油彩に挑戦されています。

まずは広々としたのどかな空気感が心地よい一枚。川面にはわずかに波が立ち、流れの動きを感じさせます。遠くには太陽に照らされた家々が並び、自然の中に人の暮らしが溶け込んでいる様子が伺えます。
特徴的なのは、色彩の使い分け。一度全体を青で塗り、その上に空や水面の色を重ねることで、微妙なニュアンスが生まれています。空には紫寄り、川にはわずかに緑寄りのトーンを採用することで、画面の統一感の中にも変化が感じられます。また、遠景をぼんやりとさせつつ、手前の草はコントラストを強くすることで、手前から奥への空間の広がりが巧みに表現されています。青の影の扱いも見事で、遠くにいくにつれて明暗差が穏やかになり、遠近感がより一層引き立っています。

二枚目の左の作品は、ご自身で撮影された写真をもとに、緑豊かな街並みとおしゃれなアーチが印象的な馬車道を描かれました。こちらも上の作品と同様青をベースに全体的に寒色寄りになっており、整然とした街の雰囲気が漂います。
どの程度まで細部を描き込むか悩まれていましたが、ラフなタッチを残すことで、画面全体のバランスが保たれています。また、手前の点字ブロックや横断歩道をあえてぼかすことで、視線が自然と車のある奥の空間へと向かうように工夫されています。
影の中にさりげなく入れられた鮮やかな青や赤紫のアクセントも効果的で、静かな画面の中に心地よい緊張感をもたらしています。

三枚目、右の作品はデフォルメの効いたモチーフが楽しい静物画。黒い輪郭線が画面を引き締め、遊び心が感じられるポップな一枚です。
形の省略と強調が絶妙なバランスで組み合わされており、りんごやポット、瓶のフォルムがシンプルながらも存在感を放っています。特にガラス瓶の厚みや光の反射の表現が巧みで、デフォルメされた形の中にもリアルな質感が生きています。
また、背景の青も単なる無機質な空間ではなく、ガサガサとした筆のタッチを残すことで画面全体に活気を与えています。デザイン的な要素と絵画的な表現の融合が見事です。

三つとも色の使い方や構図、質感の表現に工夫が凝らされており、それぞれ異なる魅力を持っています。油彩ならではの絵の具の深みが活かされており、秦野さんの技量の光る作品となりました。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

彫る=掘る

2025-02-15 22:34:14 | 大人 油絵・アクリル


松尾 油彩/和紙/木製パネル

岩田です。本日は、松尾さんの作品をご紹介します。
いつも様々な手法で描くことを楽しんでいる松尾さんですが、今回の作品も、野心的な試みが新鮮に映ります。支持体に色々なアイデアを行う上ではキャンバスではなく、木のパネルを支持体に使うことは欠かせません。

今回は、モノトーンを使った3作ですが、それぞれにまた、モチーフや手法を変えているのです。右手は、白と黒のみで描いた作品。合掌のポーズの回りが渦を巻き、念のようなものが上昇しているイメージでしょうか。

中央と左手は、猫をメインのモチーフの据えた作品。猫の柄を菱形や矩形の色面で塗り分け、グラフィック的なイメージを与えています。白地の上の有彩色の表現は、先ず金属のメッシュを画面に貼り付け、その上から絵の具を付けた筆で色を置くことで、ランダム且つ偶然に現れる絵の具の風合いを活かしています。

特に左手の作品は、絵の具を塗り重ねて何層か作った上で、刀で彫っていきながら下の層を見せていくというテクニックを使い、オリジナルの絵画表現を展開しています。
一番上の層、つまり白地に描かれた何気ない横向きの猫は、何となく日常を感じさせてくれる存在でありながら、前述した柄は、どこかデジタライズされたような印象。ところが刀で彫り進めていくうちに、古代のギリシャ陶器とおぼしき赤茶色の肌と黒絵が表れてきたのです。そして、そこにも神話に出てくるような人物と共に猫が描かれています。

松尾さんならではの時代や空間をまたぎ、それらを対比させたような何とも面白い表現であると共に、彫っていくという作業が、土の中から古いものを発掘していくような作業を起草させてくれるのでした。

追伸 約2年前に動画を撮っておきながら、少し間を空けてからアップしようとそのままになっていた松尾さんの作品を、今!公開します!(松尾さん遅くなってごめんなさい。)久し振りに私の語りをYouTubeでご視聴くだされば嬉しいです。こちら

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

実は難しい引き立て方

2025-02-13 23:28:33 | 大人 油絵・アクリル


加瀬 油彩

マユカです!今回は加瀬さんの作品をご紹介いたします!

動物が大好きな加瀬さん。飾りを付けたツリーとふわふわでかわいらしいワンちゃんを描かれました。被っているのは手編みのニットでしょうか。クリスマスの寒い時期ですから、暖かそうな格好のワンちゃんに心がほっこりとします。色の使い方が描きこみ量に合わせてあり、暖色+手前+しっかり描きこんであることで「この子を見せたかったんだな」と誰が見ても理解できますし、背景のクリスマスツリーに少しだけ、それも抽象的に同じ色の装飾を乗せ、まとまりのある印象を作りながら脇役として立たせることができているため、メインを邪魔しない程度にきらびやかで、それでいながら、目立ち過ぎず…というように、絶妙なラインで調整された描き方をされています。全体的にどこか絵本のようで、優しい印象のある仕上がりがとても素敵です。

描かれている途中、ワンちゃんはどんどん良くなっていく中、実は背景のクリスマスツリーの処理がなかなか捗りませんでした。背景に対して「処理」と書きましたが、加瀬さんの様に主役を特に引き立たせたい場合、背景は描き過ぎてはいけません。状況や季節を説明するための物であっても、制作するのではなく処理する感覚で十分なのです。長い時間をかけて制作していると、どうしても「自分はこれが何であるかわかっているけれど、他の人が見たときに分かってくれるだろうか」なんてことを考えてしまい、分かりやすいように描きこみたくなってしまうものですが、意外と抽象的な描き方をしても何があるのかはわかりますし、雰囲気や意図は伝わってくるものなのです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

光が照らす神域

2025-02-12 23:31:28 | 大人 油絵・アクリル


大塚 油彩

最近の趣味は蕎麦打ちです、ナツメです。月曜大人クラスより大塚さんの油彩をご紹介します!

水の中に立つ鳥居の存在感と、水の中に入り祈る巫女。実際にある水の鳥居写真をもとに、大塚さんのオリジナルで巫女を加えたことで、より美しく、神秘的な光景になりました。
この池のもつ深遠さを表現するために水面の反射を控え、画面下部に水の広がりだけを見せることで、まるで底の見えない神聖な領域のような雰囲気に。さらにローポジション・ローアングルで構えることで、頭上に広がる木々の迫力を強調しつつ、鳥居の荘厳さも際立たせています。
また色の使い方も絶妙で、広がる木々の深い緑、静かな水の重い青が大部分を占める中、巫女の装束の赤をアクセントに、引き立て合う補色のコントラストは、シンプルながらも目を引く色彩構成です。
ライティングも見どころのひとつ。左上の明るい光に対して、下の池には暗い青が使われていて、そのグラデーションの中で、鳥居と巫女を際立たせているのが上手いポイント。視線が自然と主役に集まるようになっています。

鳥居は、神域と俗世を分ける結界であり、神聖な領域への入口。その向こうから光が差し込むことで、神様の存在を感じさせる雰囲気が出ています。そして、巫女は神託を受けて伝える役目を持つ存在。まるで、彼女が神のお告げを受け取っているような、許しを請い人々の救済を求めているような、そんな物語を感じさせる一枚です。
水面の映り込み、色のバランス、光と影の演出、そしてストーリー性のある構図。そのすべてが組み合わさり、ただの視覚芸術ではなく、見る人それぞれに考えさせる思想や文学にまで昇華されました。幻想的な作品を前に、皆さんはどのような祈りを捧げ、どんな詩を詠いますか?

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

光の感じ方を描く

2025-02-11 21:54:12 | 大人 油絵・アクリル


香月 油彩

サヤカです。2月になり、本格的な寒さになってきましたね…!本日は、大人クラスの香月さんの作品をご紹介します。

旅先で見た景色やご家族の姿を描かれることが多い香月さんですが、今回はご自身で撮影された風景写真を元に制作されました。こちらの2枚はF20号(727×606mm)という少々大き目のキャンバスですが、早描きの方なので、あっという間に完成させてしまわれました。(ご自宅に持ち帰って描くことももちろんあります。)前回のブログで岩田先生がアップしたのが11月25日ですから、お休みの多かった年末年始の2ヶ月で2枚完成されたことに驚きを覚えます。

左の作品は、石垣に這う根っこと奥から差し込む光の力強さが印象的な作品です。コントラストがしっかり描かれていて、光の強さが表現されています。描き込みも素晴らしく、画面全体のバランスが取れているので、画面右側のより手前に強く伸びている根っこが勢いづいています。また、階段の端に積もった木の葉が、まるで光の道筋のようで、階段を登った先にある景色への想像力が膨らみますね。

右の作品は、先ほどの力強い光とはうって変わって、夜の静けさの中の光を描いています。その他の背景の彩度が下げられているため、街の煌めきと月の静かな灯りに目を引くことができています。水平線を画面のどの高さに置くかによって、印象がかなり変わります。低い位置に置くと、開放感ある印象になりますが、香月さんの作品は真ん中に水平線を置いていて、まるでこの景色を、自分の目で見ているような実感が沸きます。

どちらの作品も光が印象的ですが、香月さんがこの景色を見た時の心の揺れが光の表現にも反映されているように感じます。生き生きとした表現力で、見た人を引き込む作品ですね!次回の香月さんの作品も楽しみにしています!

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

良い絵だなぁ

2025-02-01 19:14:31 | 大人 油絵・アクリル


服部 油彩

岩田です。今回は、服部さんの作品をご紹介します。

こちらは、外国にいらした時の風景を描いたもの。夕暮れ時、日が沈みかかった空。ほの暗闇を背景に浮かび上がるトラムの電線が空を切り分けるような面白い景色を作り上げています。

下塗りをし、地面は先ずはナイフで絵の具を盛り、トラムの線路や街中のあれこれを立体的に仕立て、色を塗り重ねました。対して空は、筆を使い何層にも絵の具を重ね、雲のこんもりとした雰囲気を表現。プルシアンブルーやネイビーブルーを中心に、手前から徐々に奥へと繊細なグラデーションを表現しました。

雲と夕焼け、それらが夜の暗さに段々と侵食されていく、ほんの僅かなひと時。オレンジ、ピンク、黄色といった暖かみのある色と白、そして寒色が渾然一体となったその美しさを作者は、旅先のその場にドリップしているような感覚でキャンバスに筆を運んでいたのかもしれません。

夕暮れを眺めながら、ただ一言「今日も豊かな一日であった」、見ていると、そんな言葉が胸の中に去来するかのような1枚。

見れば見るほど、あぁ良い絵だなぁと感じさせる作品であります。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

柔らかな寂しさ

2025-01-31 23:40:13 | 大人 油絵・アクリル


岡崎 油彩

大竹です。今回ご紹介させて頂くのは、岡崎さんの油彩作品です。前回ご紹介した絵はこちらですが、パズルの様に隙間なく建てられたビルの街の風景から一転、森の拓けたキャンプ場を描いています。3つのテントに群がる3頭の鹿と、側にがワゴン車が停まっています。
前作に比べると、都会の息苦しくも感じられるビルの喧騒から離れ、穏やかな時間が流れている様に思います。しかし、ビルや崖の代わりに、周囲が森で壁のように囲まれている光景は、作者の根底にある心情が反映されているように感じました。柔らかな寂しさや閉塞感のある空間で、消えかけの小さな火や大人しい鹿達が描かれているのは、ひと時心の安寧を感じさせます。
ワゴン車やテント、焚き火といった人の存在を感じさせるモチーフが多く配置されていながら、そこに人は描かれておらず、野生の鹿だけが集まっているのも興味深いですね。鹿たちは、消えかかる焚火からのぼるほのかな煙を見つめているのでしょうか?それとも、新月を見上げているのでしょうか?

私は大学で絵画による心理テスト(バウムテストなど有名ですね)の授業をほんのさわりだけ受講したのですが、それによると左は過去、真ん中は現在、右は未来を表すそうです。右側で見切れて配置されたワゴン車は、未来に向けて今ここから走り出したい!といった前のめりの姿勢にも思えます。左側、特に左上は思想や哲学が表れるそうで、星ひとつない夜空の三日月は、満ち足りない何か、もしくは消耗を連想させます。(岡崎さんが意図したものとは全く違うものかもしれませんが、私はこちらの作品でこのように鑑賞を楽しませて貰いました!)

厚塗りにならないように、おつゆ描きを重ねている為、一見テンペラ画のようにも見えます。その厚みを持たせない質感によって森閑とした空気を作り出しているのでしょう。三日月だけが浮かぶ吸い込まれそうな夜空の色合いも、色を少しずつ重ねて深みを作っていったのでしょう。シンプルな描写ほど、魅力的に見せる為に気を遣う必要があります。

前作は「乾杯」というタイトル(タイトルの由来も面白いです)でしたが、今作はどんなタイトルを付けられたのでしょうか?とっても気になります。

常に自分の世界観を深め、追及していく制作は、産出の悩みや苦しさも伴う事でしょう。イメージした通りに手を動かす事は難しく、きっと岡崎さんも苦労されたかと思います。しかし、自分のイメージを出力したいという欲求は、研究や上達の為の原動力にもなり得る燃料です。是非ご自身の欲求を燃料に、どんどん手を動かしていって欲しいと思います。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

欲望に付随した徹底した分析

2025-01-25 19:56:52 | 大人 油絵・アクリル


阿出川 油彩

岩田です。今回は、阿出川さんの油彩をご紹介します。こちらは、2023年の暮れから丸1年掛けて描いた模写です。

阿出川さんは、この絵を描いた時を振り返って「次回作を描く為に、何枚か候補を持って行った時に、先生から『あなたの画力ではまだ無理でしょう』と言われると思っていたこのプリントを手に取り『阿出川さん、是非この絵を模写しましょう!きっと大丈夫です!』と背中を押してもらいました。そんな風に信用してもらわなかったら、絶対やりませんでした。感謝しています。」と謙遜されていました。

私は普段、阿出川さんにお会いできない中で、事あるごとに窓際に置かれているこの絵の途中段階を見て、アトリエに最初に来て描いた作品とのギャップに興味を抱きつつ、描くプロセスに無駄が無く、非常に効率良く描いている点に注目していました。

暗く落とした背景から立体を浮かび上がらせるように、明るい色で図像を描き起こしていく様が、途中ながらとても美しく、何と言っても描くことの基本である「明度」をちゃんと把握し、理解しながら描いている事を読み取りました。枚数もそこまで多いとは言えない中で、素直に驚きを憶えますが、何よりも作者のこの絵を描きたい!という純粋な欲望と、それに付随した徹底した分析と観察によるものが大きいのだと思います。

阿出川さんの作品を見て、模写というものを中途半端にするのではなく、元となる作品をつぶさに観察し、徹底して模写をすることは、非常に多くの果実を収穫できると同時に、本当に大切なことなのだと、あらためて感じさせてもらった気がします。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

赤鬼が走る風景

2025-01-24 22:34:45 | 大人 油絵・アクリル


高橋 油彩

大竹です。今回ご紹介させて頂くのは、高橋さんの油彩作品です。岩手県にある超ローカル線・岩泉線の、二升石駅〜岩泉駅間にあるコンクリートの橋を渡る、キハ52・通称赤鬼と呼ばれる車両の風景を描きました。

油彩が初挑戦とは思えないほど、豊かな色彩であふれています。同じ山の緑でも、陽光が当たっている場所は黄色〜黄緑を使用し、陰になっている場所は青色〜黒に近い色でまとめています。色使いからその場所の温度差まで伝わってくるようです。
コンクリートの橋や水面の一部分には、ペインティングナイフで擦り付ける様に絵の具をのせています。コンクリートの重くくすんだ風合いが魅力的ですね。高橋さんご自身も、ナイフによる絵の具の質感に感動されていました。油絵は筆やペインティングナイフ、指からビニール袋までと様々な道具を使って質感を与える事が出来ます。他の画材にはない、面白い特性ですね。ナイフの跡が画面の中でアクセントとなり、素材の違い(自然の葉っぱと硬いコンクリート)を際立たせています。
電車の向こう側に山々は、霧がかったように色に青みを持たせて描かれていますが、これは空気の層によって奥が青みがかって見える為です。絵の具も薄く塗る事で、自然な遠近感を出す事が出来ていますね。画面の中で同じ色の部分は無いと言えるほど、隅から隅まで丁寧な仕事が行き届いています。
何より、作品全体から制作者が楽しんで描かれているのが伝わってきます。なんでもない川の水面も、人の目を通り手のひらから出力される事で、不思議と惹きつけられる風景になっていくのは、制作者のそうした感情が絵の具に乗せられているからなのでしょう。是非楽しみながら色々なものに挑戦してみて下さい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

胴体の奥行について

2024-12-23 14:59:35 | 大人 油絵・アクリル


畑 油彩

月曜日ですが岩田です。今日はミオスの授業ラストデーです。明日~1月5日までは受験生たちの冬期講習と、小学校受験プライベートレッスンのみの授業となります。
今年最後の作品紹介となりますのは、基礎デッサンを終えて初めての着彩に油絵を選ばれた畑さん。

アフリカゾウの親子がこちらに向かって歩いてきている様子を、南アフリカへ旅行されたご自身で撮影され、それを描いた作品。初めての油彩でありながら、ゴツゴツとした地面の様子、硬くひび割れたような象の皮膚の質感をナイフなどを使って、見事に表現しています。

動物を正面から捉えることは、胴体の奥行を出すことが難しいですが、日差しが強く当たっている、こちらの作品のような状況であれば、特に地面に投影された影を手掛かりにするのが良いでしょう。

畑さんの作品を見ても、地面を空気遠近的にぼかしているのは勿論の事、親象の手前から奥にかけて、影の明度が少し明るくなっていることが、胴体の奥行を感じさせる一助となっています。今回は初めて触れる油絵具で、写真を比較的忠実に描いたこともあり、絵としての演出をするというところまではいきませんでしたが、写真で見るよりも、地面の影や体自体の明度差を更に付けることで、よりリアルな奥行きを感じさせる絵になったかもしれません。次作は人が思い描くイメージを分かりやすく伝えることを意識してみてください。
先ずは、とにかく枚数を重ね、油絵具に慣れていきましょう!

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

温かさをも感じる都心の風景

2024-12-14 19:38:09 | 大人 油絵・アクリル


鈴木M 油彩

岩田です。今回は、鈴木さんの作品をご紹介します。
こちらは油彩で描かれているのですが、とても柔らかな色合いで、水彩のような風合いも併せ持っているかのようです。

新宿など、ビルが乱立している縦横の直線で形作られた都心の風景も、鈴木さんが描くことで、どこか味わいが感じられ、冷たさとは正反対に温かささえ感じとることができる不思議。
鈴木さんが都内在住かは知りませんが、こうした都心の風景に愛情を感じながら描いているような気さえしてきます。

筆で描くが故の微妙な歪み、ムラのある絵の具の表情が、人が描いているからこその面白味を醸し出しているのです。

空でいえば、右側の絵に関しては、雲の描写は少し難しかったかもしれませんね。
特に背の高いビルの後ろに雲が広がっているシーンは、ビルを挟んだ左右で繋がりが悪くなってしまったり、手前から奥までの空間を表現するのに苦労を要します。
途中上手くいかなそうであれば、思い切ってビルを潰してまでも、大きく筆を動かして描き直すくらいの英断が必要でしょう。とはいえ、左手の作品の空は、とても自然に決まっています。

こうした風景も、シリーズ化して何枚も描き続けると、また面白いものが見えてくるかもしれませんね。

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

モチーフの引き立て方

2024-12-05 23:37:38 | 大人 油絵・アクリル


佐藤・Y アクリル

マユカです!今回は佐藤さんの作品をご紹介していきたいと思います。

推しを描き続ける佐藤さん。前回のライダーはこちら
前回よりずいぶんアクリルの使い方が慣れてきたのが分かります。ライダースーツの光沢のある質感や、特有のビビット感が上手く再現されていて、アクリルとは思えないほどに重厚感のある塗りをされています。こういった厚塗りは本来アクリルよりも油絵具などの方がやりやすいのですが、やはりアクリル絵具の方が発色が鮮やかで線がはっきりとして力強い印象を与えるため、ライダーとの相性が良く、よりカッコよくイメージ通りの描写が出来たのは、選択が正しかったからでしょう。モチーフと画材が合致していることにより作品の魅力が5割増しにも感じられますね。

よく見ていくと、線やベタ塗りといった細かな筆遣いによって描かれており、なめらかなグラデーションはあまり使われていません。少しずつ絵具を足して鉛筆の様に線で影だったりを描いている部分もあります。こういった、じっくりゆっくりとした絵との向き合い方は、根気がないとできません。私はせっかちな人間なため、佐藤さんのその根気が少しだけうらやましいです…!

モチーフと合った画材選択をすることでモチーフの魅力をプラスすることができます。アクリルは強さ・シャープさ・鮮やかさ、油絵具は重厚感・写実性・グラデーションの美しさ、水彩絵の具は柔らかさ・やさしさ・透明感...と、それぞれが与えるイメージに合わせたモチーフ選びをすることで見ている人に与える印象も変わり、作品自体の雰囲気も変わってくるかと思います。自分の作品にどんな印象を持ってほしいか?どんなイメージを抱いてほしいか?そんなことを考えながら画材を選ぶのも楽しいかもしれません!

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする