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『踊って去ぬのやで』
明治十四年頃、岡本シナが、お屋敷へ帰らせて頂いていると、教祖が、
「シナさん、一しょに風呂へ入ろうかえ。」
と、仰せられて、一しょにお風呂へ入れて頂いた。勿体ないやら、有難いやら、それは、忘れられない感激であった。
その後、幾日か経って、お屋敷へ帰らせて頂くと、教祖が、
「よう、お詣りなされたなあ。さあさあ帯を解いて、着物をお脱ぎ。」
と、仰せになるので、何事かと心配しながら、恐る恐る着物を脱ぐと、教祖も同じようにお召物を脱がれ、一番下に召しておられた赤衣のお襦袢を、教祖の温みそのまま、背後からサッと着せて下された。
その時の勿体なさ、嬉しさ、有難さ、それは、口や筆であらわす事の出来ない感激であった。シナが、そのお襦袢を脱いで、丁寧にたたみ、教祖の御前に置くと、教祖は、
「着て去にや。去ぬ時、道々、丹波市の町ん中、着物の上からそれ着て、踊って去ぬのやで。」
と仰せられた。
シナは、一瞬、驚いた。そして、嬉しさは遠のいて心配が先に立った。「そんなことをすれば、町の人のよい笑いものになる。」また、おぢばに参拝したと言うては警察へ引っ張られた当時の事とて、「今日は、家へは去ぬことが出来ぬかも知れん。」と、思った。ようやく、覚悟を決めて、「先はどうなってもよし。今日は、たとい家へ去ぬことが出来なくてもよい。」と、教祖から頂いた赤衣の襦袢を着物の上から羽織って、夢中で丹波市の町中をてをどりをしながらかえった。
気がついてみると、町外れへ出ていたが、思いの外、何事も起こらなかった。シナはホッと安心した。そして、赤衣を頂戴した嬉しさと、御命を果たした喜びが一つとなって、二重の強い感激に打たれ、シナは心から御礼申し上げながら、赤衣を押し頂いたのであった。
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