ジュンサンはニューヨークの空港に到着した。
そこには父親のイ氏が出迎えに来ていた。
「お父さん、お忙しいのにわざわざ来てくださったんですか。
ご心配おかけして申し訳ありません」ジュンサンは、申し訳なさそうに頭を下げた。
秘書が来ているとばかり思っていたのに、自ら体を運ばずにいられなかった父の心を考えると、いたたまれない思いにさいなまれるジュンサンだった。
そんなジュンサンの気持ちを察してか、イ氏はことさらのように明るい声で言った。
「よく帰ってきた、ミニョン。お母さんは病院で待っているよ。
入院の手配ももうしてあるから、何も心配することはない。
とにかく、よく帰ってきた」
本当の息子のように、抱きかかえるようにして迎えてくれるイ氏の温かさ。
ジュンサンは嬉しかった。
お父さんは何も変わっていない。
どれほど心配してくれたことだろう。
二人はタクシーで病院へ向かった。
「ミヒからお前のことは色々聞いている。辛かったろうが今はとにかく体を治すことだ。
ミヒに言いたい事もあるだろう。そのことはゆっくり話し合って時間をかけて解決してゆくしかない。
お前は、今までもこれからも私にとって大事な息子だ。ミニョン、これからもそう呼ばせておくれ」
「お父さん…。母さんのことはもう恨んでいません。
母さんは母さんで辛かったのだと、仕方のないことだったのだと思います。お父さんが全て承知の上で母さんと結婚してくださったこと、心から感謝しています」
病院に着くと、ミヒが待っていた。
「母さん」
「ジュンサンお帰り。体は大丈夫?」
「はい、少し疲れました。休むことはできますか?」
「もう手続きは済んでいるから、すぐ休んだほうがいいわ」
疲れた。ゆっくり眠ろう。
もう思い悩むこともなくなった。
幼いころから心に影を落としていた父親の存在も明らかになった。
ユジン ― 唯一心にかかる大切な人。
僕に愛することの喜びと苦しみを教えてくれた人
君と出会ったこと、後悔していないよ。
辛かったことも苦しかたことも、今は大切な思い出だ。
君とのことは全部忘れないからね。約束しただろう?
君のことはサンヒョクに託した。
彼なら安心できる。彼なら信頼できる。
何より君のことを愛しているからね。
幸せになるんだよ。
サンヒョク ― 僕のたった一人の血を分けた弟であり、友人。
全てを持っている君を憎んだこともあった。
君と君のご家族を傷つけてしまったこと、本当にすまないと思っている。
ユジンのことは頼むよ。幸せにしてあげてほしい。
ジュンサンは眠った。一日中目覚めることなく。
久しぶりに何も思い煩うことない眠りだった…
数日後、検査が始まった。
結論はやはり手術が必要ということだった。
「先生、手術をしない場合どうなりますか」
「手術をしなければ血腫が増大して、脳を圧迫し死に至ることになります。投薬治療では進行を遅らせることしかできません」
「投薬治療が可能な期間はどれくらいでしょうか」
「なんとも難しい判断ですが、一年か一年半、もって二年でしょう。しかし、時期を遅らせるほどリスクが高くなります。今すぐ行っても成功率は高いとはいえませんが、手術以外に方法はありません。早く決断されることが肝要かと思います」
「最悪の場合、手術中に命を落とすこともあり得ますか」
「もちろんないとは言い切れません。
血腫が手術の難しいところにできているので、成功しても何らかの障害が残る可能性もあります」
すでに視力の障害が出ているため、成功しても視力を失う可能性があった。
何より、成功率の低さが手術をためらわせた。
ジュンサンは手術を拒んだ。
もし万が一手術中に命を落とすことにでもなれば、ユジンに知られないではいられない。
「今はだめだ。ユジンがまだ心の傷から立ち直っていない。せめて後一年、もう少し時間が必要だ」
ジュンサンは万が一の事を考え、ユジンを苦しませたくなかった。
「母さん、僕は手術をしないよ。ユジンには絶対知らせないで。もう彼女を苦しめたくないんだ。お願いだよ。ユジンは僕と出会ってからこの十年間、ずっと辛い思いばかりしてきたんだ」
ジュンサンは自分の命が失われることよりもユジンの悲しみを恐れた。
この命 儚くなって しまうより
君が泣くことを 僕は恐れる
赤々と 流れる血潮 それよりも
お前と私は 強い絆だ
今はもう 何も思わず 眠りたい
君は大丈夫 彼を信じる
そこには父親のイ氏が出迎えに来ていた。
「お父さん、お忙しいのにわざわざ来てくださったんですか。
ご心配おかけして申し訳ありません」ジュンサンは、申し訳なさそうに頭を下げた。
秘書が来ているとばかり思っていたのに、自ら体を運ばずにいられなかった父の心を考えると、いたたまれない思いにさいなまれるジュンサンだった。
そんなジュンサンの気持ちを察してか、イ氏はことさらのように明るい声で言った。
「よく帰ってきた、ミニョン。お母さんは病院で待っているよ。
入院の手配ももうしてあるから、何も心配することはない。
とにかく、よく帰ってきた」
本当の息子のように、抱きかかえるようにして迎えてくれるイ氏の温かさ。
ジュンサンは嬉しかった。
お父さんは何も変わっていない。
どれほど心配してくれたことだろう。
二人はタクシーで病院へ向かった。
「ミヒからお前のことは色々聞いている。辛かったろうが今はとにかく体を治すことだ。
ミヒに言いたい事もあるだろう。そのことはゆっくり話し合って時間をかけて解決してゆくしかない。
お前は、今までもこれからも私にとって大事な息子だ。ミニョン、これからもそう呼ばせておくれ」
「お父さん…。母さんのことはもう恨んでいません。
母さんは母さんで辛かったのだと、仕方のないことだったのだと思います。お父さんが全て承知の上で母さんと結婚してくださったこと、心から感謝しています」
病院に着くと、ミヒが待っていた。
「母さん」
「ジュンサンお帰り。体は大丈夫?」
「はい、少し疲れました。休むことはできますか?」
「もう手続きは済んでいるから、すぐ休んだほうがいいわ」
疲れた。ゆっくり眠ろう。
もう思い悩むこともなくなった。
幼いころから心に影を落としていた父親の存在も明らかになった。
ユジン ― 唯一心にかかる大切な人。
僕に愛することの喜びと苦しみを教えてくれた人
君と出会ったこと、後悔していないよ。
辛かったことも苦しかたことも、今は大切な思い出だ。
君とのことは全部忘れないからね。約束しただろう?
君のことはサンヒョクに託した。
彼なら安心できる。彼なら信頼できる。
何より君のことを愛しているからね。
幸せになるんだよ。
サンヒョク ― 僕のたった一人の血を分けた弟であり、友人。
全てを持っている君を憎んだこともあった。
君と君のご家族を傷つけてしまったこと、本当にすまないと思っている。
ユジンのことは頼むよ。幸せにしてあげてほしい。
ジュンサンは眠った。一日中目覚めることなく。
久しぶりに何も思い煩うことない眠りだった…
数日後、検査が始まった。
結論はやはり手術が必要ということだった。
「先生、手術をしない場合どうなりますか」
「手術をしなければ血腫が増大して、脳を圧迫し死に至ることになります。投薬治療では進行を遅らせることしかできません」
「投薬治療が可能な期間はどれくらいでしょうか」
「なんとも難しい判断ですが、一年か一年半、もって二年でしょう。しかし、時期を遅らせるほどリスクが高くなります。今すぐ行っても成功率は高いとはいえませんが、手術以外に方法はありません。早く決断されることが肝要かと思います」
「最悪の場合、手術中に命を落とすこともあり得ますか」
「もちろんないとは言い切れません。
血腫が手術の難しいところにできているので、成功しても何らかの障害が残る可能性もあります」
すでに視力の障害が出ているため、成功しても視力を失う可能性があった。
何より、成功率の低さが手術をためらわせた。
ジュンサンは手術を拒んだ。
もし万が一手術中に命を落とすことにでもなれば、ユジンに知られないではいられない。
「今はだめだ。ユジンがまだ心の傷から立ち直っていない。せめて後一年、もう少し時間が必要だ」
ジュンサンは万が一の事を考え、ユジンを苦しませたくなかった。
「母さん、僕は手術をしないよ。ユジンには絶対知らせないで。もう彼女を苦しめたくないんだ。お願いだよ。ユジンは僕と出会ってからこの十年間、ずっと辛い思いばかりしてきたんだ」
ジュンサンは自分の命が失われることよりもユジンの悲しみを恐れた。
この命 儚くなって しまうより
君が泣くことを 僕は恐れる
赤々と 流れる血潮 それよりも
お前と私は 強い絆だ
今はもう 何も思わず 眠りたい
君は大丈夫 彼を信じる