「な~にユジン、その髪!まるで子供のおかっぱ頭じゃない!」
チェリンはユジンを見るなりそう言った。
大学路(デハンノ)の喫茶店に春川高校の仲間が集まっていた。
ヨングクとサンヒョク、ジンスクはまめに会っているようだったが、ユジンも皆とは久しぶりだった。
チェリンとは大学入学以来だから半年ぶりになる。
「おい、久しぶりに会ったのにいきなりなんだよ。
まったくオ・チェリンは大学生になっても相変わらずだな。」
「だってヨングク、ユジンの髪型何なの?
服だって、もう高校生じゃないんだから、もっとおしゃれしなさいよ。
そんなんじゃ恋人もできないわよ。
ミーティング(合コン)も出たことないんでしょ、ユジン。
ははぁ、まさかあんた達まだ付き合っているわけ?よく続くわね。」
チェリンはユジンとサンヒョク、二人の顔を見比べながら言った。
「そんなんじゃないよ。
僕だってユジンに会うのは久しぶりさ。
2ヶ月ぶりかな?ユジンはいつも忙しいから、たまに誘ってもふられっぱなしさ。
それにユジンのショートカット、似合ってると思うけどな。」
「サンヒョクは相変わらずユジンなら何でもいいわけね。まあいいわ。
とにかく、愛しいユジンに久しぶりに会えたのは私のお陰ってわけね。
私が皆に声をかけたからなんだから、感謝しなさい!」
「はいはい、チェリン様、おありがとうございます。(笑)」
ヨングクが引き受けて、おどけて言った。
「しかし、お前の化粧はちょっとケバイぞ。」
チェリンは自分から皆に会いたいと声をかけただけあって、次々と皆を質問攻めにした。
「それにしても、ユジンは美大にいくと思っていたのに、ずいぶん畑違いのところに入ったものね。」
「だって、絵じゃいくら好きでもそれで食べていくのは大変じゃない?建築業界ならそんな心配はないし、趣味に生きられるような身分じゃないもの、私は。」
「あら、嫌味?ま、いいわ。
で、ヨングクはどうして獣医なんかになろうとしてるわけ?
あんたは『東洋哲学』みたいなのが好きだったでしょう?だからてっきりその方面に進むのかと思っていたのに。」
「俺はちゃんと自分の未来を自分で占ったのさ。もちろん動物が好きって言うのもあるけど。
韓国社会も裕福になってきたから、これからは絶対ペットブームになると思うんだ。俺は家畜じゃなくてペットを扱う獣医を目指すんだ。」
「へ~え、なるほどね。」
「人のことばかり聞いているけど、チェリンはどうなの?彼氏はできた?」
「私は別に文学をやりたくて仏文科に入ったんじゃないわ。フランス語とフランス文化を知るためね。
いずれ大学を卒業したら留学するつもりよ。
向こうで何を勉強するかはまだひ・み・つ。
彼氏はまだよ。
ボーイフレンドならいっぱいいるけどね。誰でもいいってわけじゃないもの。」
「サンヒョクは大学でも放送部に入ったのよね。」
「うん、僕はラジオ局を目指しているから。」
「アナウンサーになるの?」
「いや、番組を制作する側さ。」
「それにしても狭き門じゃない。大学にいっても真面目に頑張っているわけか。えらい、えらい、学級委員長殿。(笑)」
「あ~あ、皆それぞれ目指す道がもう決まっているのね。結局まだふらふらしているのは私だけか…。」
「ジンスク、まだ大学に入ったばっかりなんだから、なにも焦ることないわよ。これからゆっくり決めていけばいいじゃない。」
「ありがとう、チング(友よ)。
ねえ、そういえばユジンのルームメイト、引っ越しちゃったってほんと?」
「ええ、先輩と一緒に住んでいたんだけど、留学することになって、いったん実家に戻るって先月の末に引き払っていったわ。」
「ねえ、それじゃさ、ユジンのアパートに越していってもいいかな~?だって、寮は規則がうるさくて、食事も美味しくないし、出ようかなと思って。どお?」
「おい、ジンスク、お前アパートになんか入ったって自炊できるわけないし、ユジンが料理上手いからって食わしてもらう気か?迷惑になるだけだぞ。やめとけ。」
「ヨングクったら酷いわ。そりゃ、私は料理下手だけど、ユジンに教えてもらったりしてだんだん覚えていけばいいし、そのほかのことだって自分でちゃんとやるもの。大丈夫よ。」
「いいわよ、ジンスク。越してきなさいよ。私もどうせいつまでも一人で家賃を払っているわけにはいかないから、ルームメイトを探さなくちゃと思っていたんだもの。
ジンスクだったらお母さんも安心するわ。」
「やった!じゃ決まりね。
引越しの日が決まったら連絡するから、ヨングクとサンヒョクは手伝いに来てよね。お願いよ。
ヨングク、そんなに睨まなくても大丈夫。ちゃんと迷惑かけないようにやるから。」
窮屈な寮を出られることになって、ジンスクはご機嫌だった。
「あら、もうこんな時間。行かなくちゃ。
呼び出しておいて悪いけど、私先に失礼するわ。」
「あら、チェリン、もう帰っちゃうの?ボーイフレンドとデート?」
「まあね、そんなところ。じゃあ、またね。」
「じゃあ、俺もそろそろ帰るかな。ジンスク、一緒に途中まで行くか?」
「うん、いくいく。」
「僕達も出ようか。」
「そうね。」
「じゃあ、サンヒョク、ユジン、また連絡するよ。」
***
「ユジン、明日時間ある?映画でも見に行かないか?」
「ごめん、明日はバイトなの。この間休みを替わってもらったばっかりだから明日は無理だわ。
いつも断ってばかりでごめんね。」
「いいよ、しょうがないさ。理系は授業も大変だし、ユジンはバイトもしているんだから、忙しいさ。
でも、あんまり無理するなよ。
今日は会えてよかった。車でアパートまで送るよ。」
「ありがとう。でもいいわ。本屋さんに寄っていきたいから。
じゃあ、サンヒョク、またね。」
そういってユジンは小さく手を振ると商店街のほうへ歩いていってしまった。
ユジンの背中を見つめながら、サンヒョクはユジンとの間に見えない壁のようなものを感じていた。
[半年前 入学式後]
ユジンはジュンサンの肖像画を引き出しから取り出すと、話しかけるようにつぶやいた。
「ジュンサン、やっと髪を切ってきたわ。
似合わない?いいのよ。
あなたがいなくなってからずっと切りたかったの。
何故って?
ジュンサンは『ユジンの長い髪が好きだ。』って言ってくれたでしょ。
もうあなたはいないんですもの。
美しく粧(よそお)う必要なんかないじゃない。
私、あなたがいなくなってから、湖に何回も行ったわ。
ジュンサンに会いたくなると行ったの。
ひょっとして、あなたがいるかもしれないと思って。
でもいなかった…。
そうよね、あなたは影の国にいってしまったんだもの。
あなたに会いたくて、側に行きたくて、…何度湖に入ろうとしたかしら?
でもできなかった。
お母さんとヒジンが私の足を捕まえて離さないの。
だから、できなかった。
ごめんね、ジュンサン。
二人を置いていけないの。
私が守らなければいけない家族なのよ。
ジュンサン、一人で淋しい?
ごめんね、一人にして。
ジュンサンは私が側に行ける様になるまで一人で待っていてくれるかしら。
湖を見つめながら、あの時私は決めたの。
春川を離れたら髪を切ろうと。
もう、あなた意外誰も愛したくないから…。
この湖(うみ)の 水に入りて 君がいる
影の国へと 行きたしと思う
もう誰も 愛さぬ証 髪を切る
君が愛でたる 黒髪だから
チェリンはユジンを見るなりそう言った。
大学路(デハンノ)の喫茶店に春川高校の仲間が集まっていた。
ヨングクとサンヒョク、ジンスクはまめに会っているようだったが、ユジンも皆とは久しぶりだった。
チェリンとは大学入学以来だから半年ぶりになる。
「おい、久しぶりに会ったのにいきなりなんだよ。
まったくオ・チェリンは大学生になっても相変わらずだな。」
「だってヨングク、ユジンの髪型何なの?
服だって、もう高校生じゃないんだから、もっとおしゃれしなさいよ。
そんなんじゃ恋人もできないわよ。
ミーティング(合コン)も出たことないんでしょ、ユジン。
ははぁ、まさかあんた達まだ付き合っているわけ?よく続くわね。」
チェリンはユジンとサンヒョク、二人の顔を見比べながら言った。
「そんなんじゃないよ。
僕だってユジンに会うのは久しぶりさ。
2ヶ月ぶりかな?ユジンはいつも忙しいから、たまに誘ってもふられっぱなしさ。
それにユジンのショートカット、似合ってると思うけどな。」
「サンヒョクは相変わらずユジンなら何でもいいわけね。まあいいわ。
とにかく、愛しいユジンに久しぶりに会えたのは私のお陰ってわけね。
私が皆に声をかけたからなんだから、感謝しなさい!」
「はいはい、チェリン様、おありがとうございます。(笑)」
ヨングクが引き受けて、おどけて言った。
「しかし、お前の化粧はちょっとケバイぞ。」
チェリンは自分から皆に会いたいと声をかけただけあって、次々と皆を質問攻めにした。
「それにしても、ユジンは美大にいくと思っていたのに、ずいぶん畑違いのところに入ったものね。」
「だって、絵じゃいくら好きでもそれで食べていくのは大変じゃない?建築業界ならそんな心配はないし、趣味に生きられるような身分じゃないもの、私は。」
「あら、嫌味?ま、いいわ。
で、ヨングクはどうして獣医なんかになろうとしてるわけ?
あんたは『東洋哲学』みたいなのが好きだったでしょう?だからてっきりその方面に進むのかと思っていたのに。」
「俺はちゃんと自分の未来を自分で占ったのさ。もちろん動物が好きって言うのもあるけど。
韓国社会も裕福になってきたから、これからは絶対ペットブームになると思うんだ。俺は家畜じゃなくてペットを扱う獣医を目指すんだ。」
「へ~え、なるほどね。」
「人のことばかり聞いているけど、チェリンはどうなの?彼氏はできた?」
「私は別に文学をやりたくて仏文科に入ったんじゃないわ。フランス語とフランス文化を知るためね。
いずれ大学を卒業したら留学するつもりよ。
向こうで何を勉強するかはまだひ・み・つ。
彼氏はまだよ。
ボーイフレンドならいっぱいいるけどね。誰でもいいってわけじゃないもの。」
「サンヒョクは大学でも放送部に入ったのよね。」
「うん、僕はラジオ局を目指しているから。」
「アナウンサーになるの?」
「いや、番組を制作する側さ。」
「それにしても狭き門じゃない。大学にいっても真面目に頑張っているわけか。えらい、えらい、学級委員長殿。(笑)」
「あ~あ、皆それぞれ目指す道がもう決まっているのね。結局まだふらふらしているのは私だけか…。」
「ジンスク、まだ大学に入ったばっかりなんだから、なにも焦ることないわよ。これからゆっくり決めていけばいいじゃない。」
「ありがとう、チング(友よ)。
ねえ、そういえばユジンのルームメイト、引っ越しちゃったってほんと?」
「ええ、先輩と一緒に住んでいたんだけど、留学することになって、いったん実家に戻るって先月の末に引き払っていったわ。」
「ねえ、それじゃさ、ユジンのアパートに越していってもいいかな~?だって、寮は規則がうるさくて、食事も美味しくないし、出ようかなと思って。どお?」
「おい、ジンスク、お前アパートになんか入ったって自炊できるわけないし、ユジンが料理上手いからって食わしてもらう気か?迷惑になるだけだぞ。やめとけ。」
「ヨングクったら酷いわ。そりゃ、私は料理下手だけど、ユジンに教えてもらったりしてだんだん覚えていけばいいし、そのほかのことだって自分でちゃんとやるもの。大丈夫よ。」
「いいわよ、ジンスク。越してきなさいよ。私もどうせいつまでも一人で家賃を払っているわけにはいかないから、ルームメイトを探さなくちゃと思っていたんだもの。
ジンスクだったらお母さんも安心するわ。」
「やった!じゃ決まりね。
引越しの日が決まったら連絡するから、ヨングクとサンヒョクは手伝いに来てよね。お願いよ。
ヨングク、そんなに睨まなくても大丈夫。ちゃんと迷惑かけないようにやるから。」
窮屈な寮を出られることになって、ジンスクはご機嫌だった。
「あら、もうこんな時間。行かなくちゃ。
呼び出しておいて悪いけど、私先に失礼するわ。」
「あら、チェリン、もう帰っちゃうの?ボーイフレンドとデート?」
「まあね、そんなところ。じゃあ、またね。」
「じゃあ、俺もそろそろ帰るかな。ジンスク、一緒に途中まで行くか?」
「うん、いくいく。」
「僕達も出ようか。」
「そうね。」
「じゃあ、サンヒョク、ユジン、また連絡するよ。」
***
「ユジン、明日時間ある?映画でも見に行かないか?」
「ごめん、明日はバイトなの。この間休みを替わってもらったばっかりだから明日は無理だわ。
いつも断ってばかりでごめんね。」
「いいよ、しょうがないさ。理系は授業も大変だし、ユジンはバイトもしているんだから、忙しいさ。
でも、あんまり無理するなよ。
今日は会えてよかった。車でアパートまで送るよ。」
「ありがとう。でもいいわ。本屋さんに寄っていきたいから。
じゃあ、サンヒョク、またね。」
そういってユジンは小さく手を振ると商店街のほうへ歩いていってしまった。
ユジンの背中を見つめながら、サンヒョクはユジンとの間に見えない壁のようなものを感じていた。
[半年前 入学式後]
ユジンはジュンサンの肖像画を引き出しから取り出すと、話しかけるようにつぶやいた。
「ジュンサン、やっと髪を切ってきたわ。
似合わない?いいのよ。
あなたがいなくなってからずっと切りたかったの。
何故って?
ジュンサンは『ユジンの長い髪が好きだ。』って言ってくれたでしょ。
もうあなたはいないんですもの。
美しく粧(よそお)う必要なんかないじゃない。
私、あなたがいなくなってから、湖に何回も行ったわ。
ジュンサンに会いたくなると行ったの。
ひょっとして、あなたがいるかもしれないと思って。
でもいなかった…。
そうよね、あなたは影の国にいってしまったんだもの。
あなたに会いたくて、側に行きたくて、…何度湖に入ろうとしたかしら?
でもできなかった。
お母さんとヒジンが私の足を捕まえて離さないの。
だから、できなかった。
ごめんね、ジュンサン。
二人を置いていけないの。
私が守らなければいけない家族なのよ。
ジュンサン、一人で淋しい?
ごめんね、一人にして。
ジュンサンは私が側に行ける様になるまで一人で待っていてくれるかしら。
湖を見つめながら、あの時私は決めたの。
春川を離れたら髪を切ろうと。
もう、あなた意外誰も愛したくないから…。
この湖(うみ)の 水に入りて 君がいる
影の国へと 行きたしと思う
もう誰も 愛さぬ証 髪を切る
君が愛でたる 黒髪だから