「イワタロコにはいい経験になるわよ」
と、叔母に誘われた。俺が十歳のころだ。
叔母と叔母の友だちに連れられて、車で一時間くらいの山間の一軒家に行った。あまり大きくない家に二十人ほどが集まっていた。
座敷の壁に、刺し子のような民族衣装が掛けてあって音楽が流れていた。
大きなテーブルに山盛りのアイヌ料理が並んだ。大切りの鮭と昆布と大根や人参の漬けた物。キノコ類の煮物。ご飯に具たくさんのみそ汁。そして鹿肉の薫製のようなものが出された。素朴な料理は素材の旨味を最大限に引きだしていた。小学生の俺にもその旨さは分かり、恥ずかしかったがおかわりをした。
「将来は東京のどこかに、アイヌのみんなが集まれるような、郷土料理の店を出すのが夢なんですよ」
眉毛の濃い、アイヌの残り少ない血筋の一人だという女性が力を込めて言った。
関西出身だという小柄な男が続けた。
「我々和人もそれを理解して、協力したいと思っているんです。一人でも多くの人の協力を得て、資金をなんとかしたいと努力しているのですけどね」
今日はそのための集会だったらしい。
そのあとは、アイヌの人々と和人との歴史的な話や暮らしのさまなどの話が続いた。
「アイヌの血筋だと誰も言わなくなったんですよ。なにしろ、こちらでは暮らしにくくなりますからね」
一人が溜息混じりに言った。俺は子供心に、なぜ暮らしにくくなるのだろうと思った。
「少しですけど協力させて下さい」叔母たちが言った。
俺は昔を思い出しながら、インターネットで『アイヌ料理店』を検索した。
著書「夢幻」収録済みの「イワタロコ」シリーズです。
楽しんで頂けたら嬉しいです。
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