
──圧縮して送って下さい。そのままだと重いですから。
間宮はマウスを握ったまま画面を睨んだ。
取引先の松井からの指示だ。
「圧縮? どうすりゃいいんだ」
「あなた、布団の圧縮、ほら、掃除機で空気を抜く。その圧縮でしょう?」
側で梨の皮を剥いている妻が言った。
「うるさいな」
いろいろ言わないでくれ。そうでなくてもこんがらがっているんだ。ええと、圧縮、圧縮と。どれをクリックすればいいんだ。
──こちらからのものは、圧縮して送りますから、解凍して下さい。沢山ありますので、注意をお願いします。
「今度は解凍だって?」
「面白いわね、解凍って、あの解凍? 凍らせたものを解かす、あの解凍なの?」
「……」
「ね、梨食べましょ、頂き物の梨だけど。ジューシーよ。水分たっぷり」
「お前はのんきでいいな」
ええーと、なんだって? 圧縮と解凍?
間宮は、マウスを握りしめた。
「今年は、ブドウが盗まれたと思ったら、今度は栗、米。梨が盗られて、ネギまで盗まれたのよ。どうなっているのかしら、この世の中」
「……」
それより、俺は仕事中なんだ。邪魔しないでくれ。
間宮の頭が痛くなってきた。手書きで図面を描き、手渡しで届けていた頃が懐かしく思い出される。
「ね、あなた、梨」
間宮は、画面を睨んだまま梨を口に入れた。
著書「夢幻」収録済みの「ステタイルーム」シリーズです。
主人公はそれぞれの作品で変わります。
楽しんで頂けたら嬉しいです。
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