「あらっ、若かったら私もしたいわ」
孝江が声を上げた。原宿駅を出て、明治神宮に向かおうとした時だ。
十代の女の子がレースやフリル、リボンや花飾りの付いた洋服を着ている。アニメキャラクターを真似ているらしい。二人連れや三人連れ、また数人のグループもいる。
「コスプレって言ったっけ。可愛いなぁ。依子さん、私らの頃は、タケノコ族だっけ流行ったのは」
徳子が女の子を凝視して言う。
「みゆき族じゃなかったかしら」
依子は、銀座みゆき通り中心に流行った、花柄のスカートを思い出した。
「あら、あの二人歩道に座っているわよ。この寒空に」
「雪が残っているのにねぇ。敷物をひいているけど。見ているだけで神経痛が起きそう」
「若いってことは寒くないんだわよ」
明治神宮の鳥居を潜ると、参道を覆う木々に積もった雪が、風に舞い散ってくる。
三人は、社殿に向かって拝礼をし、柏手を打つ。小声で祈った。
この時期は参拝者も少なく、神宮の森に、砂利の踏む音だけが響く。
「あら、あの女の子たち、まだあそこにいるわよ。写真撮らせてもらおうかしら」
孝江がカメラを取り出した。
「ちょっ、ちょっと孝江さん、私たちも一緒に撮ってくれない」
徳子が依子の腕を掴んで、フリルと花飾りのワンピース姿と、鎖やメダルを沢山ぶら下げたパンツ姿の間に割り込んだ。
女の子たちが笑顔とピースサインを作った。
カメラを構えたまま孝江が叫んだ。
「わっ、なに! この取り合わせは」
江南文学56号掲載済「華の三重唱」シリーズ
初老の孝江と依子と徳子のプチ旅物語です。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
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