千代の、同じ思い出話は数日続いた。
目を閉じている。言葉が途絶えた。
「千代おばぁさん」
すみれの呼びかけに、千代は薄く瞼を開けた。どんよりと曇った瞳に、すみれの影が映った。眩しいのか二、三度瞬きをしたが、ゆっくりと瞼を下ろした。
「千代おばぁさん」
「ありがとう、すみれちゃん毎日来てくれて。おかげで寂しくなかったよ」
「すみれも寂しくなかった。千代おばぁさんと友達になれて良かった。いじめっ子も怖くはなくなったし」
「そうか、それはよかった」
千代が目を閉じたままうっすらと笑った。そして、また眠ってしまったのか言葉を発しない。
入院してから一か月がたっていた。千代の体力は少しずつ落ちて、食欲がなく、点滴で命を繋げていた。
すみれは、注意深く千代の様子を見ていた。
どんな変化も見逃さずに、山谷や千代の娘に報告したいと思った。
祖母の竜子は、毎日病院通いをするすみれを心配した。今日も言った。
「千代おばぁさんの顔を見たらすぐに帰ってらっしゃい。長くお邪魔すると、病人も疲れるからね」
看護師が入ってきた。千代の体に繋げている管やそれに繋がっている器具の様子を点検すると、千代の血圧を測ったりしていたが、急に部屋を小走りに出て行った。
すみれは、看護師のしていたことに気を取られていたが、気づくと千代の顔が蒼白になっていた。
ドアが開き、主治医が飛び込んできた。
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著書・夢幻に収録済み★連作20「すみれ五年生」が始まります。
作者自身の体験が入り混じっています。
悲しかったり、寂しかったり苦しかったり、そのどれもが貴重なものだったと思える今日この頃。
人生って素晴らしいものですねぇ。
楽しんでお読みいただけると嬉しいです。
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