紫陽花記

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別館★写真と俳句「めいちゃところ」

★15 虹色の紙筒

2024-06-02 10:45:23 | 風に乗って(風に乗って)17作


 売り場の一角に女性が群がっていた。アクセサリーのショーケースを取り囲んでいる。
 
 若い男の店員が品物の説明をしながら、持っている直径十二、三センチで長さ七センチ位の虹色をした紙筒を、ショーケースの上で二三度回したり、左右に振ったりしてから飾るようにケースの端に置いた。
「こちらのピアスを見てください。今日は五パーセント引きでお求めできます」
 男性店員は、ショーケースの千円台から十万円台までのピアスが並んでいる中から、数点を取り出した。店員の青白い右手の小指には金のリング、薬指には金と白金の二連のリングをしている。ケースの上に並べた中から、ルビーのピアスを一人の中年女性の耳の側にかざして見せた。

 中年女性が鏡を覗き込んだ。
「お顔が引き立ちますよ。如何ですか」
 みんながピアスに気をとられた。私の隣にいた若い娘が、ケースの端の紙筒を引き寄せた。店員は目の端で見たようだったが、ピアスの説明を続けている。若い娘は筒をいじっていたが、そのうち右手を入れたり出したりした。私は店員の唇の端が笑ったような気がした。
 若い娘は間もなくピアスを買っていった。

 店員は、一番高いピアスをケースの上に出した。片方一カラットあるダイヤだと言う。
 私は虹色の紙筒が気になっていた。手を伸ばし、紙筒を手に取った。ブレスレットのようだ。腕を差し込んだ時、紙筒が締まった。軽く掴まれたような感じだ。

 ダイヤのピアスが欲しくなった。財布を出して所持金を数える。買える金額はもとより入っていない。その時「着払いという方法もありますよ」と言う声が聞こえた。




★著書「風に乗って」から、シリーズ「風に乗って」17作をお送りしています。楽しんで頂けたら幸いです。
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