たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

空き家を活かすには <空き家 地域のニーズで変身>を読みながら

2018-08-11 | 不動産と所有権 土地利用 建築

180811 空き家を活かすには <空き家 地域のニーズで変身>を読みながら

 

ブロック塀の地震による倒壊で通学中の小学生が亡くなった痛ましいニュースは、地域住民の声はもちろん、政府や自治体の積極的な対応もあって、あっという間に全国の耐震性に疑いのあるブロック塀の解体ないしは補修が実施されたようです。ま、学校などの公共施設が中心でしょうけど。

 

さて空き家問題は長い間懸案事項とされてきたものの、ようやく自治体条例や国の法令で一定の対応がなされるようになりましたが、あくまで解体に向けた法制度でしょうか。空き家そのものをどう活かすかといった視点では、個別には昔からさまざまな努力や工夫がなされてきたと思います。

 

今朝の毎日記事では、これまでになかった取り組みともいってよい事例が紹介されています。まったくなかったとは思いませんが、いくつかの点でユニークでもあり、さらに押し広げてみて欲しいと思い紹介させてもらいます。

 

くらしナビ・ライフスタイル空き家 地域のニーズで変身>では空き家を新しいまちづくりの主要構成要素の一つとして、共通目的で利用する空き家と既存社会をつなぐ取り組みが紹介されています。

 

<千葉県松戸市のJR松戸駅西口。・・・ある民間プロジェクトが進んでいる。名付けて「MAD City」。駅から徒歩約5分の場所に構えた事務所を中心に、半径500メートル圏内が主な活動エリアだ。一帯に点在する空き家には全国各地から多種多様なアーティストが移住し、地域住民とともに「クリエーティブな自治区」づくりに挑んでいる。>

 

アーティストが活動拠点にする空き家利用ですね。<仕掛け人の「まちづクリエイティブ」社長、寺井元一さん(40)>が企画を進めています。

<活動9年目の現在、約90戸で所有者と契約期間を決めた貸借契約(定借)が成立し、延べ270人ほどのアーティストが移り住んだ。近くの飲食店の壁画を描く人や、古刹(こさつ)で音楽イベントを企画する人。移住者たちの活動が街に新風を吹き込み、以前からの地域住民もまちづくりに意欲的になっているという。>

 

90戸の空き家に270人のアーティストですから、それは起爆剤となり得るでしょう。松戸ではしばらく事件を取り扱っていたのですが、どうも駅西口のイメージが浮かんできません。歩いているはずですが思い出せないのです。東口になると特徴のある地形・まちなみなどの景観に映っていたのですけど。

 

寺井さんの極意は<「『マイナス』の物件ほど安く借りられる」と強調する。定借した物件は原則、ゴミの処分といった最低限の手入れしかしない。工事費をかけないことで家賃を安く設定できるからだ。入居者は壁を壊して間取りを変えるなど自由に改修している。賃貸物件は通常、契約終了時に原状回復を求められるが、「改修で物件の価値が上がるので、原状回復を望む所有者はほとんどいない」という。>要は、利用者が自由に作り直すということでしょうか。賃貸借のあり方を根本的にチェンジするものですね。

 

定期という限定した期間が少し問題かもしれませんが、それでも建物内部を利用者本位に自由に作り替えることができるというのは、まるで中古物件を購入した感じになりますね。とりわけ経済的に余裕のないアーティストには飛びつきたくなる話ですね。

 

といっても、飲食店の賃貸借では従前から類似のやり方はあったと思いますし、造作費をかけてもそのまま別の経営者に買い取ってもらう形で賃借権の譲渡も普通にあったと思いますが、このような形態とは大きく違うのはやはり空き家として利用されず放置されてきた地域性・物件条件を巧みに活用している点でしょうか。

 

空き家所有者も、高い収益を望まない、望めない前提があるでしょうし(飲食店のような場合とは違いますね)、そのため空き家を維持する管理の負担を軽減・解消する程度の意識が所有者側にもあることが必要でしょうね。

 

とはいえ、共通のというか、アーティストといっても多様ですし、ある意味では従来のまち空間が見いだせなかった新たな価値を創造する、あるいは復活することで、新たな入居者が既存住民と交わりながら、活気を生み出していくのでしょう。

 

この「つなぎ役」は柔軟な発想をもっておく必要があるでしょうね。もう一つの例はそういうことを強く感じさせてくれます。

<空き家活用ビジネスを手がける「ジェクトワン」(東京都渋谷区)も、「つなぎ役」を務める民間企業の一つ。相談が入ると、空き家所在地周辺の住民へ聞き取り調査を重ね、「地域が必要としているもの」を洗い出す。空き家が飲食店になったり、バイク置き場になったりと、活用方法は多岐にわたる。>地域のニーズにあった空き家、あるいはそれを土地として活用するということでしょう。

 

このようなことは、従来、宅建業者が担ってきたはずですし、現在も主要な担い手であることに変わりがないと思います。ではここで取り上げられた事業者たちは何が違うのでしょう。

 

やはり、地域全体の要望をなんとか掴もうとしているのでしょうか。従来の宅建業者はどうしても所有者の意向を大事にすることを前提に、地域の実情を踏まえるという間接的な対応が意識としてあったのではと思うのです。むろん例外はあるでしょうけど。

 

不動産業者の中で、なかなか地域作りの中心的な担い手があまり育たなかったのは、そんな意識あるいは業界の体質も影響したのかもしれません。

 

とはいえ、ここで紹介されている事業体がどこまで空き家を地域のニーズにそって活用しているのかは、紙面の関係でしょうけど、あまり明らかではありません。

 

ちょっと話が飛びますが、北米などのまちづくりを見ていて、とくに感じるのはたとえば19世紀後半とか19世紀初頭などのヴィクトリア朝の建築様式の建物群を利用して、多くのアーティストが間仕切りして全体を統一的なまちにして、そこに多くの観光客が訪れるというのを見て、歴史的建造物を残しながら、まちづくりに活かしているなと感嘆したのを思い出します。その例の一つがカナダBC州の州都ビクトリア市のある一画です。

 

また、同じ市には昔は大富豪が居住したような大邸宅が貧乏学生などの共同住宅として活用されているのを、友人が借りているので訪れたことがありましたが、古ぼけたあまり修理が十分行き届いているとは言えないけれど、家賃が安くて活かされていると感じたものです。そういう感じで、あまり空き家というものに遭遇した経験がなかった記憶なのです。

 

このような賃貸借利用の手法については、税制や建築規制などさまざまな支援措置があり、空き家にならないよう事前工夫がされてきたようにも思うのです。

 

それと思うのに、20年以上前だと、北米でもカナダでのネット情報は、日本よりはましでしたがあまり芳しくなく、こういった情報も十分ではなかったように思います。

 

わが国は現在、ネット環境がとても便利になって、情報もどんどん出せるのですが、ごった煮状態で、適切な情報が十分とは言えないですね。たとえば空き家情報、むろん個人情報ですので、簡単にネット情報に掲載できませんが、地域の安全で快適なまちづくりのために、最初にあげた寺井さんのような共通の価値観で、空き室ネットワークを作り上げるといったこともあってよいのではと思うのです。

 

それはその地域をどのようによくしていこうかという青写真を作り上げていくような気持ちでさまざまな人が関与すれば、空き家所有者の心も打ち解けてくるかもしれませんね。

 

このことはもう少し書いてみたかったのですが、いま思いつきなので、また別の機会にしましょう。

 

最後に解体について、記事ではいくつかの情報提供があります。

解体費は一戸建てで150万円とかいわれることがありますね(実際は規模や道路環境、やり方次第でいろいろです)。その一部を自治体が費用助成しているのですね。

 

<14年度に独自の空き家緊急総合対策事業を始めた群馬県高崎市。毎年1億円以上の予算を投じ、「管理」「活用」「解体」の空き家対策全般の費用助成を行っている。市建築住宅課によると、16年度までの3年間で、助成実績は計676件(5億264万円)。高齢者向けサロンに改修する費用といった活用のための助成もしているが、解体費助成が最も多く、全件数の6割超を占める427件(3億8752万円)に上る人気ぶりだ。

解体費助成の対象は空き家状態がおおむね10年以上で市内の業者に発注する場合に限るが、100万円を上限に工事費の5分の4を補助。さらに、解体後1年間は更地化による固定資産・都市計画税の増額分も全額手当てする。>

 

他方で、コンサルの「新築権」といった独特の発想は、都心のデベロッパーには好都合ですね。昔流行した空中権的な発想でしょうか。

 

<空き家問題に詳しい野村総合研究所の榊原渉・上席コンサルタント(45)に話を聞いた。

     ◇

 「1戸新築する権利を得るには1戸解体しなければいけない」をルール化した新築権を創設してはどうか。

 権利の売買も認め、たとえば、100万円かけて空き家1戸を解体して生じた新築権を分譲マンションのデベロッパーなどに100万円で売れるようにすれば、空き家所有者は解体費を回収できる。>

 

新築マンションや新築住宅への支援に熱心なこれまでの住宅行政のあり方を、中古住宅やこの「空き家」問題に対しても本格的な支援策を講じるようなパラダイムシフトが必要になってきていませんかね。

 

今日はこれでおしまい。また明日。