180829 障害者雇用における不正と不誠実さ <クローズアップ2018 障害者雇用水増し 通知、都合よく解釈>などを読みながら
<障害者雇用水増し>という言葉を見聞きしていて、違和感をぬぐえません。そう「水増し」という言葉を安易に使っていないかと思うのです。そこには本質が隠蔽されてしまうおそれがあるようにも思えるのです。
「水増し」を大辞林 第三版の解説に当たると、
② 水を加えて量を増やすこと。
② 実質はないのに見かけだけを増やすこと。 「経費を-して請求する」
という意味づけです。数字が増えているけど、実際はその数字の裏付けがないという、ある種客観的な記述ですね。でもその数字を算出するとき、その数字操作には関わった人間の行為があり、その責任内容が問われないといけないのですが、水増しといって済ますと、それが明らかになりません。
こういった数字のごまかし、表現のごまかしは、最近、とくに中央官庁で増えているような印象があり、もう慣れっこになってしまった感さえあります。それが安倍政権が生み出した官僚統制のための内閣府制度に問題があるのかどうかも検証されて良いかと思います。
なぜ水増しとしているか、厚労省が言い出したのでしょうかね。
今朝の毎日記事<クローズアップ2018障害者雇用水増し 通知、都合よく解釈 あしき慣行「40年以上」>では、<中央省庁の障害者雇用を巡る水増しは、国の27の行政機関で3460人に上ることが28日、明らかになった。>として、その経緯・背景を解説しています。
毎日の社会面では<障害者雇用中央省庁水増し 企業「信じられぬ不正」 NPO「国になめられた」>は、障害者雇用促進のための制度について、<障害者雇用促進法は、企業や国・自治体など事業主に対し、一定割合(法定雇用率)以上の障害者を雇うよう義務付ける。厚生労働省は各省庁や民間企業に毎年6月1日時点の雇用数の報告を求める。過去1年のうち雇用率が達成できない月があった企業からは、1人分につき原則月5万円の納付金を徴収する一方、達成企業には補助金を支給する。>として、法定雇用率を定めて、企業に対しては、飴とムチでコントロールしていることを指摘しています。
この法定雇用率を達成するために雇用数を算定するのに、厚労省はガイドラインを定め、毎日の上記クローズアップ2018記事では、その内容は<雇用率に算入できるのは障害者手帳を持っている人か、指定医の診断書で障害が認められた人に限られる。>とされています。
ところが、<同省が毎年、雇用率の報告を求める際に出す通知には、算入できる職員について「原則として身体障害者手帳の等級が1~6級に該当する者」と記載されており>、霞ヶ関ルールを別に用意していたようです。そのため?<国税庁、防衛省、文部科学省、法務省、農水省などはいずれも「通知に『原則』とあり、必ずしも手帳の確認は必要ないと誤解していた」と釈明した。>
ま、端的に言えばダブルスタンダードでしょうか。しかし、ガイドラインこそ基本であり、それに基づく雇用数の達成を民間企業に義務づけ、違反すれば1人につき月5万円の納付義務まで課しているのですから、その基準を緩和するような解釈は許されていいはずがないと考えるべきではないでしょうか。
手帳を確認しなかった場合それは不正を行ったとみるのが自然でしょう。単なる水増しではないと思うのです。だいたい原則だから手帳確認は絶対出ないというのであれば、例外的にどのような合理的な基準で判断したのか、それを説明しないと、それこそうその上塗りになりかねないように思うのです。
政府が障害者雇用促進法に基づき率先して障害者雇用を進めて、障害者の社会進出を容易にすることが求められている中、このような多くの省庁の対応は不誠実を通り越して、不正であり、官僚として一線を越えているように思うのです。なぜこのようなことが平気で行われてきたのでしょう。
麻生財務大臣の発言が本音を一部露呈させているのかもしれません。今回の「不正」発覚により<今後数千人規模の新規雇用が必要とみられる。>ことを受け、<麻生太郎財務相は28日の記者会見で、「障害者の数は限られているので、(各省庁で)取り合いみたいになると別の弊害が出る」と指摘。>
そもそも障害者で雇用できる対象をはじめから限定していることが見て取れますね。
他方で、<厚労省によると、省庁で働く障害者は大半が身体障害者。採用拡大には知的障害者や、4月から雇用率算定の対象となった精神障害者の雇用を増やすことも必要になりそうだ。>ということです。つまりこれまで知的障害者や精神障害者は雇用されてこなかった、数のうちに入っていなかったことが上記の麻生氏の発言からも分かります。
しかも障害者雇用は、省庁では非正規雇用が中心だったようですから、決して安定的とは言えないですし、誠実に対応してきたかも疑問を感じます。
むろん知的障害者や精神障害者の場合、その能力に応じた職場環境を準備することも必要かと思いますが、それによって多様な職場環境が生まれるわけですから、その場合、民間企業の促進モデルとなりうると思うのです。
<障害者就労支援を手がける民間企業LITALICO(りたりこ、東京)の担当者は「障害の種類によって業務の適性や求められる配慮が異なる。専門家の支援を受けながら就業環境を調整することが望ましい」と指摘する。>このような当然の環境整備も、自ら率先して身体障害以外の障害のある方にも雇用の機会を提供しないと、どのような配慮が必要か、制度設計も、指導も適切にできないでしょう。
<埼玉県立大の朝日雅也教授(障害者福祉)は「障害をもった当事者が政策立案に関わることで国民サービスを向上させる可能性がある。民間企業に模範を示すためにも正規雇用の可能性を研究してほしい」と話す。【原田啓之】>もごもっともです。
「水増し」といった低レベルの対応は、なにか最近の数字あわせを官民とも邁進する空疎な社会構造に背景があるのかもしれません。
一時間がすぎました。このへんでおしまいとします。また明日。