長編小説「フォワイエ・ポウ」3章
著:ジョージ青木
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3章「開店」(第4節)
この情報を木村栄にもたらしたのは、サンチョパンザの寺元オーナーであった。なぜか? 寺元は知っていたのだ。
夜の繁華街を10数分歩いた木村と山本は、ようやく自分の店に到着した。
「おはようございます!」
オーナー・マスターの寺元に、声をかけた。
「オウ、 おはよう!」
「お2人さんとも、 意外と、早かったな」
学生時代に柔道をやっていたので、体格はがっちりと、そして大きい。大きな身体の上に、顔がある。顔には大きな縁取りの黒眼鏡がくっ付き、はちきれんばかりの大顔が特徴の寺元オーナーである。そんな顔で笑えば、大きな顔はさらに横に広がる。
いつしか店の女性の連中により、寺元のあだ名がつけられた。本人は知らない。なぜか、寺元のあだ名は、『タコ』である。なぜタコなのか、理由は定かでない。
木村栄は、久しぶりに寺元の満面の笑顔を見た。笑顔の理由は単純、予定より、いや、寺元の予測よりも若干速めの2人の出勤を歓迎する笑顔であった。
タコの笑顔を斜に見ながら、木村は答えた。
「はい、何とか、時間厳守です。約束どおり間に合いましたよ、マスター」
「ご苦労さんご苦労さん・・・」
「で、どうだった? 本田さんの様子は?」
突如として笑顔を停め、真剣な顔つきになった寺元は、木村栄と山本美智子を交互に見つめながら、単純な質問をする。
「・・・」
笑みを浮かべながらも、答えを用意できない山本美智子には、何も答えられない。
「はい、行ってきました」
「それで、開店時はお客なしで私達だけです、でも、直ぐに2~3人の男性客が来ましたから、わたしたちは引き上げました」
木村栄が口を切る。
「そうか、そんなもんか・・・」
少しがっかりしながら、寺元はつぶやく。
「そうですよ、ゼロじゃないんだから、私達が本田さんの店を出る前に客が来たのを見届けたから、それでいいんですよ」
平然と、木村栄は答えた。
「そう、そうか」
「さかえちゃんは、そう思うか・・・」
いささか手持ち無沙汰な寺元は、グラスを整理しながら答えるが、その実もっと木村栄から報告の言葉が聞き出したかった。
期待していたよりも、あまりにも言葉少ない木村栄の返事に対し、寺元は逆に、独り言のように喋り始めた。
「ふう~ん、そうか」
「本田さんも、遂に、この業界に入ってしまったか、こんなたいへんな時になあ~・・・」
自分に言い聞かせるようである。
「でも彼なら、本田さんなら、うむ~」
この時間、すでにサンチョパンザには客が入っていた。ホステス4人に取り囲まれた2人一組の常連客は、ホステス相手に賑やかに話し込んでいる。それ以上のスタッフが加わって対応する必要もなく、カウンター席で待機している木村栄を相手に、さらに寺元の話しが続いていた。
「そうだ、本田さんの店、今から、クラブのホステスの溜まり場になるかもしれんなあ~・・・」
「・・・」
寺元の会話に興味の沸かない木村栄は、ミネラルウオーターの入ったグラスに口を傾けながら、しかたなく寺元の会話に付き合っていた。
「この秋口から、とにかく昭和天皇ご重態で、いつお亡くなりになるか分かりゃしない。日本全国津々浦々、おれたちの業界に関わる事の全て、万事が自粛ムードじゃないか。この1ヶ月で、この界隈の、かなりの数の店が潰れるよ。もうすでに、毎日20軒近くの飲み屋専門の店は、店仕舞いしているご時世だ。飯屋はいろいろ別の事情があるからさ、まだ大丈夫だ。でも飲屋専門は、もう、いかん。崖っぷちだ、後が無い。冬場にかけて、夜逃げする店もそうとうあるだろう。こんなときに新しく飲み屋を開店するなんて、、。しかも今まで、あまり流行っていない店を引き継ぐなんて、もう、こうなったら尋常じゃない。ぼくたちの常識では考えられないハプニングだよ・・・」
「フフ・・」
木村の返事は、寺元の会話の内容に対する返事になっておらず、むしろ寺元を無視し、さらに彼をあざ笑っているようであった。
「でもね、さかえちゃん、ぼくは、別の観方もしてるのさ。そう、あれこれ考えているのだ。だから、今からのぼくの話、聞いてくれよ。それで、その後に君の意見も聞かせてくれよ・・・」
木村栄の予測に反し、寺元の話の内容がここで切り替わった。
「あのさ、本田さんっていう人、僕もずっと見てきたんだが、あの男は男から見ていると、そうとう面白い男だよ・・・」
わずか数回、しかし客としてサンチョパンザに顔を出した本田の有態を、夜の世界で叩き上げた鋭い観察力により、彼独自の本田像が組み立てられていた。
「まずさ、彼ね、今までず~と、海外旅行の業界を歩いてきただろう。だから、外国のいろんな事、いろんなところ見ているし、いろんなところで飲み歩いているし、いろんな料理をいろんなレストランで食べてるし、それにもましてさ、いろいろ違った場面で、いろんな客の対応をしてきた経験があるし、そんな男が飲み屋やったら、どうなるか?すごい事になるよ。少なくともぼくは、そう思っている」
グラスを見つめながら、木村栄は本気になって寺元の話を聞き始めた。
「いちばん大きなポイントは、何だろうなあ~」
「そう、本田さんのスマートさだ。何故か、ただ立っているだけでも気になる存在、おとなしく静かに座っていても様になる男、こちらから話しかけてみたくなる、人を惹きつける彼独特の雰囲気だ、家庭の匂いがしない、生活の疲れと焦りを感じさせない、汗臭さや脂臭さは一切ない、ウム、ありゃ、たいしたもんだよ」
ここまで続けて喋った寺元は、自ら話した内容に納得した。
「ええ、そういえばそう、そのとおりだわ・・・」
グラスの底にわずかに残っているコーラを飲み干しながら、木村栄は頷いた。
「さかえちゃん、どう思う?」
「はい?」
「本田さんが、マスターとして、いったいぜんたい、何年続けるつもりだろうか?」
「・・・」
「今から何年飲み屋を続けられるか、何年持ちこたえられるか?これ、意外と大きな問題だよ。続けたほうがいいのかどうか?」
「・・・」
木村栄は返答できなかった。
しかし、内心、
(でもさ、そこがねえ、本田さんの弱みかもよ・・・)
と、木村は無言で、一人で呟いていた。
なぜか寺元は、一人で盛り上がり、さらに喋った。
「そう、彼、歳はいくつなんだろう?特に本田さんの場合、よく年齢が分からないんだよな。さかえちゃん、知ってない?」
「ん~・・・ 確か、たぶん、40歳になったばかりじゃないのかな?以前、このお店にお見えになった時、お連れの方との話の流れの中で、そう、そう聞いた記憶があるわ。間違いないと思うけれど」
「そうか、まだ30の後半かな?と、思っていた。何だか年がわからない男だよ、本田さんは、、。ま、それはともかく、そうすると、ぼくより5歳、年上なんだ」
「・・・」
ここまで話していたら、サンチョパンザに2組目の客が来た。客は、なじみ客の7人組である。話し込んでいた寺元マスターと木村栄は、ここで話を中断した。2人ともプロである。2人はそれぞれ、咄嗟(とっさ)にビジネスモードに切り替わり、臨戦態勢に移った。
<・・続く・(4月7日掲載予定)>
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<添付画像>
場所:スペイン・バルセロナ市内
撮影日:2002年7月
*定宿のメインダイニングレストランにて、レストラン内のオブジェを撮影する。朝食時、このオブジェの間にビュフェスタイルの食材が並ぶ。
ちなみに昭和天皇で時代をはっきり思い出しましたが私はこの時期はファミーリーレストラン(ロイヤルホスト)で週数回アルバイトをしておりました。
だけど、連日なので、疲れ気味。花冷えの性かな、寒気で早々と退散してきました。
(・・||||rパンパンッ
マスターが一人でやる店って、
基本的に支えるのは「常連」ですよね。
黙々と動くマスターの動きを見て、
黙って飲む。
タイミングを測りながら、ポツポツと話す。
手が空けば、オーダーを出す。
何というか、「阿吽の客」とでも言いますか、
店の近未来は、そんな客がどれほど増えるか!
に懸かっている様な気もします。
いろいろな意味で「マスターの魅力」に尽きるわけですが。。。
寺元さんは、自分こそ「プロである!」と、自認しいるわけでして、本田の今後のなりゆきに今まで味わった事のない「別種の興味」と「野次馬的な覗き見趣味」、無きにしも非ず・・・
何とか描き切りたいと、思っています。
昭和天皇崩御の前後の年、いろいろと思い出があるのです。
この時代、すでにTSさんは、飲食業界に、、、。
との事。
当時のロイヤルホストならば、かなりトレーニングを積まれたはず。いろいろ社会勉強になったのではないか、と思います。
桜の咲く時期、新年度、歓送迎会、飲み会・・・
いろいろ続きます。
年に一度の、期末と期首。
何かと疲れが出る時期です。
どうぞ、(お互いに)健康に気をつけましょう。
この時期、なにかと自粛ムードでしたねえ・・
でも、今にしておもえば、結構当時の夜の巷は(この10数年間?そして、あるいは今よりも)活気があったというか、ビジネスとして成立し良い時期であったかと思います。
何だか、本当に「昭和の時代」が終わったのだ。と、今にして想えば、すでに古きよき時代だったのか?懐かしいです。
なんだか、急激に急速に「世の中」が変わっていく様、いやがうえにも実感している、今日この頃、、、。
何か、人生の「普遍的なもの」を見出したいのですが、いまだに試行錯誤中です。
そして、例えば、
「男の店」・・・
「流行る店」・・・
「老舗店舗の一角になれる事」・・・
しかし、
夢と現実の「相違」も、良くわかっています。
まして、
飲食の世界は知れば知るほど、理屈で推し量れない「難しさ」があり、継続、続行の「大切さ」も解っているのです。
実は、(あらゆる業界を超えて、生き様として捉えつつ)私自身の『永遠の夢』なのです。
でもって、
飲食の世界を通して「小説表現」をしつつ、人間の「有り様」を抽出してみたい。とも思います。果たして、何処まで深遠に切り込めるか?挑戦してみたい・・・
是非ともご継読のほど、宜しくお願いします。
本日【駄菓子屋】という記事を書いてみました。
私が知らない時代の事等ありましたら是非コメントください。
いつもコメント感謝。
タフですね。
(・・||||rパンパンッ
子どもに振り回された…時期でした。
それにしても、
エセ様のブログは凄いですね。
プロとアマ・・・
その違い。
必ず、あります・・・
飲食業世界の場合、果たして「その違い」とは、、、。
試行錯誤していきます・・・
「駄菓子屋」!
伺いました。
面白いです!
明日(ずでに、今日になっているか?)、コメント書かせてください。