
ふと気付いたら大きな川の堤防の上に立ってぼーっと河川敷を見おろしてたのでござるよ。
拙者の見てる河川敷には自転車と一人の男性が転がってました。
河川敷に転がってるアイツ見覚えあるよなぁ・・・・
っていうか、あれ拙者やんか!!
え、なんであんなとこに拙者が転がってるのよ!
えっ、えっ、じゃぁ、それを見てる拙者は誰よ?
あ、だんだん思い出してきた。
拙者はさっきこの堤防の上の道を自転車で走ってたんや。
そしたら、向かいから大きなトラックがやってきてすれ違い様に・・・・
そっか、あそこに転がってるのはトラックと接触して堤防を自転車もろとも転がり落ちた拙者なんや。
あそこに転がってる拙者、さっきから全然動かんなぁ。
血が出てる気配はないけどどっか打ち所が悪かったんやろなぁ・・・・・たぶん死んどるな。
なんでわかるかって?
だって、その転がったまま動かない拙者をこうやって堤防の上から見てるのも拙者だもん。
これってたぶん幽体離脱ってやつでしょ?
死んだ肉体から魂が抜けるってやつ。
つまりあそこに転がってる拙者はもう死んじゃったってことなんじゃないの。
ふ~~ん、そんなんや、死んだんや・・・・
え~~!!!死んだのか!?
死んだんやろなぁ。
そっか、死んだかぁ・・・
なんか、あんまり悲しいとか悔しいとか思わんなぁ。
あれ、こんなもん?って感じやね(笑)←そこ笑うとこちゃうし!
ん~、これからどうしたらええんやろなぁ?
そのとき背後から拙者の肩がぽんぽんと叩かれたのです。
「うわ!!びっくりした!!」
振り向くと、そこには全身黒尽くめの姿の男が立っておりました。
「誰!!」
青白い顔色、年齢はよくわかりませぬ。
20代でも40代でも通りそうな感じ。
「あ、驚かした?ごめんな~。あ、そんな不審そうな顔せんといてぇな、怪しいもんちゃうし」
そいつは人懐っこそうな笑顔で話しかけてきました。
「まぁ、死んですぐに話しかけられたらびっくりするわなぁ(笑)」
わて、死神でんねん♪
え~~~!!死神!!!
「ま、正式には『死神』っていう呼び名やないんやけどね。そういう方がわかり易いよって最初はそういう風に名乗ることにしてんねん。
あんさんみたいに死んでどうしたらええかわからんようになってる魂をあの世に案内するのが仕事やねん」
なんか、ニコニコとやたら愛想ええのが妙に怪しい。
だいたい人を騙す詐欺師ってのはすごく愛想よくて人の警戒を解くのが上手いもの、騙されんぞ!
「もー、そないに疑わんでもええやんか。死んで魂になってしもうたあんさんを騙したかてなんの得もあらへんやん。
それに、いつまでも死んだ場所におるとそこから離れられへんようになって地縛霊になってしまうで。」
死神(?)は河川敷に転がってる拙者の遺体に手を合わせて一礼すると
「ほな。ぼちぼち行こか」
拙者を促して歩き始めた死神。
仕方なくその後ろに付いて歩き出す拙者。
2、3歩歩くとなぜかあたりの景色が一変して目の前に大きな扉が現れました。
黒尽くめの男はその扉を指差して「この先に閻魔様がおるんやで。んで、あんさんの今後の処遇を決めはるんや」
扉の両側には赤い鬼と青い鬼が金棒を持って立っております。
拙者はあわてて
「ちょっと待ってえな!急ぎ過ぎちゃうの。閻魔さんのとこに行くまでに三途の川を渡ったりお花畑を通ったりするんちゃうのん?」
死神は申し訳なさそうな顔して「いやぁ、すまんなぁ。前はそんな演出もしとったんやけど、最近は予算の関係でそういう無駄な演出はせんことになったんよ。」
こっちもいろいろ不況でなぁ・・・と言いながら扉前に立ってる赤鬼に右手で合図を送りました。
大きな扉は二人の鬼の力でギィ~~~という音とともに開かれました。
うわっ!
閻魔はんや!!

さすがに、どえらい迫力やなぁ
「うむ、そなたが桜源八郎だな」
閻魔さんは机の上に広げた帳面と拙者の顔を交互に見ながら確認してます。
おー!ほんまもんの閻魔帳や!!
「では、そなたの一生を映し出してみるかのう」
閻魔さんは机の引出しからリモコンを取り出して拙者の後ろに向けてスイッチオン。
振り向いてみるとそこには100インチくらいの大型モニターがあってそこに生まれたばかりの拙者の姿が映っておりました。
そして拙者の一生が早送りで映し出されていくのであります。
拙者は横に立ってる死神に小声で「なぁ、もしかしてあれが生前の姿を映して善悪を判断するっていう浄玻璃鏡(じょうはりのかがみ)なんか?」
死神は「そやで、こっちもデジタル化が進んどってな、昔のようなアナログの浄玻璃鏡はもう使ってないんや」
「ふ~ん、そのわりに閻魔さんは未だに紙の閻魔帳を使ってはるんやね」
「あのおっさんなぁ、パソコンをよう使わんのよ。何べん教えても『わからん!!もうええ!!』って切れはんねん(苦笑)」
拙者の一生は5分くらいにまとめて編集されておりました。
ちなみにBGMはなし(笑)
拙者の人生は波瀾万丈ってわけでもないし、特に見るべきものもなし。
とはいえ自分の一生をこうして他人と一緒に見るのはかなり恥ずかしいものではありますな。
この映像で拙者の善悪を判断して天国行きか地獄行きかが決まるのね。
そりゃ、酔っぱらって立ち小便したり、道に落ちてた500円玉をネコババしたりくらいのことはしたけど、とりたてて悪いことはしてないし。
客観的に見てもトータル的には悪行よりも善行の方が多いと思うのよね。
なので、地獄行きはないよね、ランクは低くても拙者は天国に行けるはず。
デジタル版の浄玻璃鏡を見終わった閻魔さんは拙者のほうに向き直って一言
地獄行き!
えぇ~~~!!!
なんでよー!!!
拙者は泣きそうな目で閻魔さんを睨みました。
そんな拙者の様子を見た閻魔さんは急に申し訳なさそうな顔になって
「いや、以前であればそなたくらいの一生であれば最下層ではあるが天国行きの認定をされとったんじゃがのう。
ここのところ天国の方の定員がほぼ満杯になってしもうてなぁ。
ほれ、天国は居心地がいいじゃろうが、なので現世に転生して新たな修行をしようという者がなかなかおらんので天国の人口が増えるばかりなんじゃよ。
天国は地獄に比べてひとりあたりにかかる軽費も比べ物にならんでなぁ。
経費削減も限界まではやっておるんじゃが、天国の人口をこれ以上増やすと財政破綻することになるでなぁ。
済まぬなぁ。」
閻魔さんは「そうじゃ、ちょっと」と拙者の案内役の死神を呼んで閻魔帳をめくりながら
「こやつの行き先じゃが、地獄ナンバー『4625』と『990』のどちらかなんじゃが・・・」
死神は「私の意見では『4625』のほうがよいのではないかと」
「ふむ、ではそうしよう」
「桜源八郎、そなたに地獄ナンバー『4625』行きを命じる」
「はぁ~~・・・」ため息をつきながら死神に促されてとぼとぼと歩き出す拙者。
さすがに死神も気の毒に思ったのか「ま、『住めば都』という言葉もあるやんか、元気出していこや!」
「え~、住めば都ぉ~~?地獄なのに??」
「ん、まぁ・・・・天国みたいなわけにはいかんやろけど」
「そういえば拙者が行く『4625』ってどんな地獄なの?」歩きながら死神に尋ねてみた。
「そやな、あらかじめどんな地獄か知っとく方がええかもな、あんさんが行く『4625』は通称『猫地獄』って呼ばれてるとこやねん」
ね、猫地獄・・・・・・・
想像するに猫地獄ってのは、裸の拙者の体中を猫が鋭いつめで引っ掻きまくって(痛いぞー)、その傷だらけの身体を50度くらいの熱湯風呂に入れられて(染みるやろなぁ)、風呂から出たら今度は傷だらけの身体を猫のやすりのような下でザリザリ舐められる(うわぁ・・・)って感じなんやろか。
どこが住めば都やねん、ほんまにもう!!
はぁ・・・・
「着いたで、ここや。わてが付き添いできるんはここまでや。後はここの責任者にいろいろ教えてもらいや」
「あ、きはったわ。あの人がここの責任者や。ちゃんと挨拶しいや」
向こうからやってきたのはなんと白猫。
猫地獄やもんなぁ、猫の鬼なんやね。

あ、この白猫見覚えあるで!!
拙者が昔飼ってたおかーさん(という名前だったのよ)じゃないの!!
おかーさんは生きてた頃と同様のクールな表情で「猫地獄へようこそ。」
おかーさんは続けて
「この猫地獄はここにいる多くの猫たちのご飯の用意、トイレの掃除、猫じゃらしを使っての遊び相手、寒い日は猫たちの暖房となるべく布団での添い寝等の世話が延々と続く無限地獄なのです。」
そしてちょっと笑って
「あなたが世話をしなければいけない猫にはかつて公園にいたみーちゃんや娘、ちびくんなんかもいるのですよ」
え、みんなにも逢えるんや!
ここってほんとに地獄なの?
天国やんかー!!
振り返ると黒尽くめの死神が立ち去ろうとしてたので、呼び止めて
「最後にひとつ訊きたいんだけど、『4625』じゃないほうの『990』ってどんなところだったの?」
あぁ、990でっか、あそこは・・・
カレー地獄ですわ
<終>
カレーの日々 7/16更新~
画像掲示板 写真はこちらへ
(画像掲示板に投稿用PASSを設定しました。右下に8818を入力してください)
掲示板 なんぞ一言
源五郎日記 お休み中~