「ゾンビの科学」 動物や人間を操る寄生生物の研究
脳みそをむさぼり食う「生ける死体」が大量に町を襲い、人々を恐怖に陥れる――テレビや映画で「ゾンビ」は人気の題材となっているが、もちろん実在はしない。
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だが、動物界では宿主の行動を変化させるゾンビのような寄生生物が確認されている。また人間も、寄生生物によって操られているという証拠が増えている。
これらは、米アリゾナ州立大学(Arizona State University)の理論進化生物学者アテナ・アクティピス(Athena Aktipis)氏の研究テーマだ。同氏は自身のポッドキャスト番組「Zombified(ゾンビ化される)」で、終末論的なゾンビの話を現実世界の科学に当てはめて説明しようとしている。
アクティピス氏はAFPの取材に「地球上で知られている生物種の半数以上は寄生生物だ」と語る。
例えば、フィオコルジケプス属の菌類は胞子を放出してオオアリの体に感染し、移動行動を支配する。宿主となったオオアリは開口障害を引き起こす破傷風に似た感染症にかかり、植物を顎で強くかんだまま動けなくなり絶命する。その後、そのオオアリの頭からキノコ状の胞子のうが生えてきて、放出され、別のオオアリが新たに感染する。このサイクルが2~3週間で繰り返される。
また、カリバチの一種クリプトキーパーは、オークの木に「虫こぶ」と呼ばれる空洞を作って寄生するタマバチの捕食寄生者だ。クリプトキーパーはタマバチの幼虫がいる虫こぶに卵を産み付ける。タマバチは成虫になると木に穴をあけて外に出ようとするが、クリプトキーパーの幼虫がタマバチに寄生して行動を操り、タマバチ自身は通れない大きさの穴を開けさせる。タマバチが頭だけ出た状態で動けなくなってしまうと、クリプトキーパーは動けなくなったタマバチを内側から食べ、頭を食い破って外に出ていく。
米疾病対策センター(CDC)によると、米国人の約4000万人が単細胞生物のトキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)に感染している可能性がある。「(トキソプラズマに)感染したネズミは、ネコの尿の臭いに引き付けられ、ネコの体にすり寄っていき、ネコに食べられてしまう。このようにしてライフサイクルが完了するように進化した」とアクティピス氏は話す。「これがゾンビ化でなければ何なのだろうか」
人間の場合、加熱が不十分な肉を食べたり、ペットのネコを介したりしてトキソプラズマに感染する可能性がある。特にネコ用のトイレを掃除する際に感染することが多い。
トキソプラズマが脳に感染することとリスク志向や攻撃性といった性格の特徴との関連性を指摘する研究報告がいくつかあるが、この結果に異議を唱える研究もある。狂犬病も同様に動物や人間を攻撃的にし、場合によっては人間を性的に極度に興奮させる。
また腸内細菌が、何を食べたいかなどといった人間の行動や感情を変化させるという証拠も増えている。アクティピス氏は最近、このテーマの論文を共著で発表している。
ただし、フィクション作品におけるゾンビ描写の一部は、全く非科学的だ。
例えば、死体はすぐに腐敗する。このため、米人気テレビドラマ「ウォーキング・デッド(The Walking Dead)」に出てくるような、よろよろ歩く大量のゾンビは実際にはすぐに動けなくなると考えられる。気象条件によっては、数日から2、3週間以内にゾンビの皮膚や筋肉は崩壊する。
朝から恐ろしや~