“子ども”を取り巻く諸問題

育児・親子・家族・発達障害・・・気になる情報を書き留めました(本棚4)。

「アルプスの少女ハイジ」は大人達の再生物語だった。

2019年06月29日 16時54分00秒 | 育児
2019年6月の「100分de名著」のテーマは「アルプスの少女ハイジ」でした。

日本では誰でも知っている、テレビアニメで有名になった物語ですね。
私は大学受験時代に、平日午後に再放送されているのを楽しみに見ていた記憶があります。

さて、アニメでの主人公は、ハイジとクララ。
クライマックスは、車いす生活のクララが歩けるようになった瞬間・・・
と思っている方が多いと思われます(私を含めて)。

しかし番組で紹介された原作の内容は少々異なります。

まず、アルムの森とフランクフルトでの生活のバランス。
アニメでは自然賛歌というイメージですが、
原作ではフランクフルトの生活にも大きな意味を持たせています。
ハイジはフランクフルトでお金の使い方と教養(字を読めること)を苦労して身につけたのです。
そのことが、山に戻ってからの生活に潤いと豊かさを与えたのでした。

それから、アニメでは扱われなかった大人達の再生物語。
登場人物の大人達は、過去に心に傷を負っています。

アルムのおじいさんは、農場主の長男だったけど散在して逃げ出し、イタリアで傭兵になり、
しかしそこをも追い出されて山に戻ってきた過去があります。
噂では「人を殴り殺したので逃げてきた」と。
故郷の村人は彼を受け入れず、彼は仕方なく山に引きこもり状態で生きていくことになりました。

そこに天真爛漫なハイジが飛び込んできました。
忘れていた優しい心を思い出し、彼女の世話をするようになったおじいさん。
ハイジがフランクフルトに連れて行かれ落胆しましたが、数年後に戻ってきた彼女からキリスト教の一説を聞かされ、
罪深い自分でも宗教と人々を受け入れることにより、心穏やかな生活ができることを見出したのでした。

そしてかくれた主人公が、クララの主治医クラッセン先生。
彼はフランクフルト時代のハイジがホームシックで夢遊病状態になっていることを見抜き、
アルムの森にすぐ返すようゼーゼマン氏(クララの父親)に進言した人物です。
彼はアニメでは登場機会が少ないのですが、原作ではキーマンとして描かれています。
彼は妻を亡くし、最愛の娘も亡くした孤独な老人なのでした。

その彼が、アルムの山に戻ったハイジと再会しました。
ハイジの口から賛美歌を聴いた彼は、同じ賛美歌を母親から聴かされた子ども時代を思い出し、生きる元気をもらったのです。

というわけで、一見、ハイジの成長物語ですが、その周辺では傷ついた大人達の再生物語という面も持った、深〜いお話なのでした。

原作者のヨハンナ・スピリはふつうの主婦で、その文才に気づいた友人から「何か書いてみたら?」と進められて書いたのがハイジの物語第一部です。
第一部では、クララはまだ山に行っていません。
当初、匿名で発表されたそうです。
評判を呼び、第二部を実名で発表したという経緯です。

昔の小説には、このような「成長物語」的なものが少なくありません。
周囲の大人達をも巻き込み、時代を反映する記録的な要素もあると思います。

ハイジの物語が発表された時代のスイスは豊かな国とは言えず、家督を継ぐ長男以外の男子は、外国の傭兵となり家にお金を送るということがふつうだったそうです。


番組内容
 1974年に日本でアニメーション化され、今なお圧倒的な人気を誇る「アルプスの少女ハイジ」。スイスの作家、ヨハンナ・シュピリ(1827 – 1901)が1880年に執筆した児童文学の傑作ですが、日本ではアニメ作品があまりにも有名であるが故に、原作に触れる機会が著しく少ないといわれています。ところが、原作には、かつて傭兵として殺人も犯したことがあるおじいさんの心の闇、成長したハイジが発する宗教的ともいえる奥深い思想、クララの医師クラッセンの深い喪失体験と再生など、アニメ作品では割愛された、優れて文学的な要素がたくさん盛り込まれています。そこで、「100分de名著」では、瑞々しい人物描写、生き生きとした心理描写を通して「人間の生き方」や「心のあり方」を見事に描き出したこの作品から、大人をもうならせる奥深いテーマを読み解いていきます。

 孤児となり叔母デーテに育てられたハイジは、やっかいばらいのようにしてアルムの山小屋にひきこもるおじいさんの元へあずけられます。暗い過去をもち人間嫌いとなり果てていたおじいさんは、当初こそ心を閉ざしていましたが、天真爛漫に明るさをふりまくハイジに魅了され心をほどいていきます。しかし蜜月は長くは続きませんでした。デーテの身勝手によってハイジはフランクフルトに連れ去られ、おじいさんから引き離されてしまいます。足の不自由な良家の少女クララ・ゼーゼマンの話し相手を申しつかるハイジは、彼女と友情を育んでいきますが、執事ロッテンマイヤーの厳しい躾やアルムの大自然とはかけ離れた過酷な都市の環境は、やがてハイジを心の病へと追い込んでいきます。果たしてハイジの運命は?

 近年「アルプスの少女ハイジ」の新訳に取り組んできたドイツ文学者の松永美穂さんは、この作品が巷間いわれているような単なる「児童文学」ではなく、深い思想的な背景をもった、人生への洞察を読み取ることができる、大人にも読んでほしい作品だといいます。人は「心の闇」とどう向き合っていけばよいのか、人間にとって本当の豊かさとは何か、真の家族のあり方とはどんなものなのか……といった人間誰しもがぶつかる問題を、あらためて深く考えさせてくれるのがこの作品なのです。松永さんにシュピリの名著「アルプスの少女ハイジ」を新しい視点から読み解いてもらい、「文明と自然は和解することができるのか」「人はどうしたら幸福になれるか」といった普遍的な問題を考えていきます。

【指南役】松永美穂…早稲田大学教授。ベストセラー「朗読者」の翻訳で知られるドイツ文学者
【朗読】安達祐実(俳優)
【語り】目黒泉

第1回 山の上に住む幸せ
 心の中に深い闇を抱え、アルムの山小屋にひきこもるおじいさんの元にあずけられることになったハイジ。最初は心を閉ざしていたおじいさんだったが、ハイジの天真爛漫さに触れ少しずつ心をほどいていく。ハイジ自身も大自然の中で、瑞々しい感受性を育んでいく。その成長物語には、「子どもの眼を失ってしまった大人たち」に対するメッセージとして、子どもがもつ豊かな可能性やそれを育む大自然の豊かさを訴えるシュピリの深い思想性がうかがえる。第一回は、作者ヨハンナ・シュピリの人となりや思想性なども交えながら、私たち大人が見失いがちな「子どもの眼」をもつことの豊かさや可能性を考えていく。

第2回 試練が人にもたらすもの
 山で幸せに暮らしていたハイジだが、叔母デーテの身勝手さからフランクフルトに連れ去られてしまう。ハイジを待っていたのは足が不自由なお金持ちの娘クララ。病弱な彼女のよき友人となるよう申しつけられるハイジだったが、執事の厳しい躾や都市の過酷な環境は、豊かな心をもったハイジをがんじがらめにし、追い詰めていく。その一方でハイジはクララのおばあさんに文字や文化の素晴らしさを教えてもらう。ハイジは、都市文明から、厳しい抑圧と新たな豊かさという二つの影響を被る。そこには文明と自然がもつ光と影を見つめぬいたシュピリの深い思索が反映している。第二回は、ハイジが直面した試練が彼女に何をもたらしたかを読み解き、人間にとって本当の豊かさとは何かを問い直す。

第3回 小さな伝道者
 心の病へと追い込まれたハイジ。その症状を見抜いたのはクララの医師クラッセンだった。これ以上、都市文明の檻に彼女を閉じ込めておけば取り返しのつかないことになる。医師の助言により山へ帰れることなるハイジ。厳しい試練を乗り越えたハイジは、自分が大自然から学んだこと、そして文明から学んだことを見事に自分の中に融和させ、心の闇をかかえたおじいさんや、喪失感を抱えて山を訪れた医師クラッセン、ペーターのおばあさんらを再生へと導いていく。第三回は、試練を乗り越えたハイジの境地を読み解き、文明と自然をどう融和、和解させていけばよいかを考えていく。

第4回 再生していく人びと
 医師クラッセンの助言により、健康を取り戻すためアルムの山を訪れることになるクララ。大自然とハイジに導かれるように彼女は再び歩く力を取り戻していく。だが、その一方でハイジの友人ペーターの嫉妬心や暴力性も描かれていく。人間が再生していくためには一筋縄ではいかないプロセスがあるのだ。そして、やがて老いや死を迎えねばならないおじいさんに対して、医師は、自分もハイジの養父になり一緒に育ていこうと呼びかける。ここには、作者シュピリが提示する新たな家族像も込められている。第四回は「人が再生していくには何が必要か?」「本当の家族の形とは?」といった普遍的テーマを考える。


名著、げすとこらむ。
松永美穂(まつなが・みほ)
早稲田大学教授・ドイツ文学者

<プロフィール>
 愛知県生まれ。東京大学文学部独文科卒業、同大学大学院人文社会研究科博士課程満期単位取得。同大学助手、フェリス女学院大学国際交流学部助教授を経て、早稲田大学文学学術院教授。専攻はドイツ語圏の現代文学。翻訳家。主な著書に『ドイツ北方紀行』(NTT出版)、『誤解でございます』(清流出版)が、主な訳書にシュリンク『朗読者』(毎日出版文化賞特別賞)、『階段を下りる女』( 共に新潮社)、ヘッセ『車輪の下で』、リルケ『マルテの手記』(共に光文社古典新訳文庫)、メルケル『わたしの信仰キリスト者として行動する』( 新教出版社)、メッシェンモーザー『リスとお月さま』(コンセル)、ウーヴェ・ティム『ぼくの兄の場合』(白水社)など、編訳書にヨハンナ・シュピリ作『10歳までに読ませたい世界名作9 アルプスの少女ハイジ』(学研プラス)などがある。

子どもも大人も味わえる魅力的な原作
 『アルプスの少女ハイジ』と聞けば、おそらく多くの方が、あの有名なテレビアニメを思い浮かべることと思います。高畑勲監督のもと、宮崎駿さんをはじめとする、のちに日本のアニメーション界を牽引することになるスタッフによって制作された作品です。一九七四年に最初に放送され、のちのスタジオジブリ作品にもつながるアニメシリーズです。
 スイスの作家ヨハンナ・シュピリの原作小説を丁寧に読み込み、物語の舞台であるスイス高地でのロケハンまで敢行したという力作ですが、一年間で全五十二話というテレビ放送のためでもあるのでしょう、脚色によって原作を大いに膨らませていて、実はシュピリの小説とは異なる部分がたくさんあります。
 例えば、アニメでハイジのおじいさんが飼っているセントバーナード犬のヨーゼフは、原作にはまったく出てきません。アニメでは親切で人当たりのいい男の子のペーターは、原作ではちょっと欲張りだったり嫉妬深い一面を持っています。また、あとで詳しく見ますが、クララの車椅子が壊れてしまうエピソードも、原作とアニメとではまるで違います。口うるさい家政婦のロッテンマイヤーさんは、原作ではアニメのようにクララと一緒に山にはやって来ませんし、クララを診るお医者さんはアニメでは影の薄い存在ですが、原作の後半では重要な役割を担っています。
 おじいさんの過去についても、アニメでは「大きな声じゃ言えないけど、若いときには人を殺したっていうじゃないか……」と、第一話に村人の噂話で一言触れられるだけで、あまり印象には残りません。ところが原作では、おじいさんの暗い過去が、冒頭から詳しく語られているのです。さらに、原作では大切な主題となっている宗教的なテーマ、暴力的なシーンは、ともにアニメからは周到に排除されています。
 そして、アニメを見てわたしが何よりギャップを感じるのは、ハイジもペーターも最後まで外見がまったく変化しないところです。原作では五年の月日が経って、ハイジは五歳から十歳になり、ペーターも十一歳から十六歳まで成長するのに、アニメではずっと同じ服を着て、背は全然伸びないし、相変わらず裸足で歩いている(テレビアニメでは致し方ないところなのでしょうけれど……)。
 とはいえこのアニメは日本のみならず、ヨーロッパをはじめ世界各国で放送され、海外でも大変な人気を博しました。外国で最初に放送されたスペインでまず大ヒットし、放送時間を大人も見やすい時間帯に変えてくれという抗議デモまで起こったそうです。また物語の舞台のひとつとなるドイツでも繰り返し放送され、ドイツ人の多くは日本のアニメだとは知らずに見ていたというくらいです。しかし、肝心のスイスではこのアニメは放送されませんでした。「スイスインフォ」というインターネット・サイトの記事によると、長年スイス国営テレビでドイツ語放送局の文化部門を率いた人が、その理由をこう語っています。「日本アニメでは現実が美化されており、スイスの視聴者が持つイメージや習慣、体験からずいぶんかけ離れていたため、このシリーズは拒否されるかもしれないと考えた」。また、いかにも「スイスの典型的なイメージ」であるセントバーナード犬の登場や、「大きな目をした、いつも同じ表情のハイジも批判の対象」となったといいます。
 視点を変えれば、もし日本を舞台にしたアニメをスイス人が作ったとしたら、おそらくは日本人も、そこで描かれる日本のイメージに対して違和感を覚えることでしょう。外国映画などでしばしばエキゾチックに美化され、あるいは誇張された日本や日本人に、ギョッとすることがありますよね。そう考えると、先の意見もわかる気がします。
 ところで、「ハイジ」という名前は、ドイツ語の発音だと「ハイディ」なのですが、日本では「ハイジ」としてすっかり定着しています。アニメ化されるずっと以前から、『ハイジ』の物語は日本でも親しまれてきました。
 日本で最初にこの作品を翻訳したのは、作家の野上弥生子です。一九二〇年(大正九)に家庭讀物刊行會から『ハイヂ』という題で刊行されました。英語からの重訳でしたが、一九三四年(昭和九)には『アルプスの山の娘(ハイヂ)』と改題され、岩波文庫から再刊されて多くの読者を得ます。
 ちなみに、そのころに出版されたちょっと変わった翻訳に、一九二五年(大正十四)の山本憲美訳『楓物語』があります。野上訳と同様に英語からの重訳ですが、この本では舞台はヨーロッパのまま、登場人物の名前だけが日本風に変えられているのです。なんとハイジは楓、ペーターは辨太、クララは本間久良子、ロッテンマイヤーさんは古井さん、デーテ叔母さんは伊達さん……といった具合。面白いですね。
 その後、『ビルマの竪琴』の作者としても有名な竹山道雄により、ドイツ語原文からの初の完訳が一九五二年(昭和二十七)に刊行されたほか、短縮版やリライト、絵本をふくめて実に数多くの翻訳本が出版され、その数はおよそ百五十種類にのぼるそうです。なかでも矢川澄子さんや上田真而子さんによる新訳は現在の定番ですし、また池田香代子さんや、かく言うわたしも『ハイジ』の翻訳者の列に名を連ねています。ハイジ人気は今もなお衰えるところを知らず、いまだに日本をふくめ、世界中の人々の心をとらえ続けているのです。
 わたし自身は子どものころ、たぶんリライト版で『ハイジ』を読んではいましたが、そのときはおおよそストーリーの印象が残っただけで、むしろバーネットの『小公女』に夢中でした。『ハイジ』のアニメが放送されブームになった当時も、有名な主題歌こそ知っていて歌えましたが、もう中学生になっていたので、熱心に見るという感じではありませんでした。
 わたしが『ハイジ』に強く興味をそそられるようになったのは、大学の教員になってからです。以前勤めていた大学の卒業論文で『ハイジ』を取り上げた女子学生がいました。その指導のために初めて原作を丁寧に読んでみたら、読み応えがあって面白かったのです。それから『ハイジ』の抄訳を二年間雑誌(「百万人の福音」いのちのことば社、二〇一三~一四)に連載する機会もあり、また短縮版のリライトの仕事(『アルプスの少女ハイジ(10歳までに読みたい世界名作⑨)』学研プラス、二〇一五)もふくめ、『ハイジ』を扱うきっかけが何度かあったので、ますますこの作品に惹かれていきました。
 さて、みなさんはシュピリの原作を完訳版でお読みになったことがあるでしょうか? アニメや絵本もいいけれど、原作を読めば、新鮮な感動を味わえるはずです。故郷や家族の喪失からの人間回復の物語は、子どものみならず大人の読者の心も慰め、希望を感じさせてくれることでしょう。普遍的で古びることのない優れた文学作品としての『ハイジ』の魅力を味わい、その秘密を一緒に探っていきましょう。



 番組中で、安達祐実さんの朗読のうまさに脱帽しました。
 

『東京 子育て 働く母 ~子育て小国 女たちの選択~』(BSフジ)

2018年08月11日 17時33分18秒 | 育児
東京 子育て 働く母 ~子育て小国 女たちの選択~
2015.7.2:BSフジ

録画してあった番組を視聴しました(たぶん2回目)。
東京で仕事を続けながら育児をする困難さを取材した内容です。
制作者は独身女性31歳、自分の未来を重ねてしまい、すっかり自信喪失したことをカミングアウトしていましたね。

心に残ったキーワードは以下の4つ;
1.園活離婚
2.アリバイ会社
3.マッチングサイト
4.マタハラ


1の「園活離婚」とは、認可保育園に入るための究極の裏技だそうです。
シングルマザーの方が保育園には入れる確率が高いため、夫婦で話し合った結果、実質を伴わない離婚手続きを取った女性を取材。
「そこまでやるのか・・・」と私は声を失いましたが、本人達は至って真面目で本気です。
しかしその女性の子どもは、そこまでしても入園できませんでした。
近くに両親が住んでいることがマイナス要因になったのではないか、と勘ぐっていました。

2の「アリバイ会社」とは、入園申告書類に勤務先を書きにくい水性外形のシングルマザー達が利用するようです。
架空の会社名で書類を作ってくれるサービス。
もちろん、詐欺的犯罪行為であり、バレればおじゃん。
でも、母親達はそこまで追い詰められています。

3の「マッチングサイト」とは、ベビーシッターを探すネット上のサイトのこと。
正式に申し込むととても高くつくので、組織的ではない個人契約で安く済ませようとする人が利用します。
当然、リスクもあり、実際に子どもが亡くなった事件がありましたね。

4の「マタハラ」はすでに市民権を得た言葉ですが、母親につらく当たるのは上司の男性だけではなく、同僚の女性もいるということに驚かされました。

1〜4の問題点の根っこは、日本の過酷な労働環境にあると私は確信しています。
女性が専業主婦で家事・子育てを担当し、男性が外で働いて収入を確保する、という固定観念。
何とか打ち破ろうともがいているのが現代社会ですが、その歴史は古く、人類が誕生した500万年前から、つい最近の100年前までこのようなシステムでした。

もともと生物は雌雄はなくすべて雌でした。
ヒト以外の霊長類でも雄は子育てしません。
ヒトの家族を作り雄も子育てに一部参加するようになった理由は、ヒトの成長が遅く時間がかかるからです。
母親はエサをとりに行く余裕がなく、発情期を消して父親を常に近くにいるよう手なづけ、自分と子どもが生きていけるようなシステムを作り出したのです。

時は流れ、力と体力がものをいう狩猟採集・農耕がなりわいの中心ではなくなった近代、女性も社会活動・仕事に参加しやすくなりました。
すると、「男女平等」というスローガンの元に、女性は男性と同じ仕事をしたいと考えるようになりました。

単純に考えると、自分を保護し食料を調達してもらうために働く雄を確保していたのに、その雄の仕事をしたいと言い出したのですね。

500万年続いた生活習慣を100年で変えるのは大変でしょう。
多大なエネルギーと時間が必要だと思います。
今はその始まりに過ぎず、うまくいかないのは仕方ありません。

さて、外での仕事は昔よりは肉体労働的要素は減りましたが、やはり体力勝負。
とくに第二次世界大戦後に焼け野原から復活した日本では、男性がボロぞうきんになるまで働かされてきました。
「会社人間」「エコノミックアニマル」「ジャパニーズビジネスマン」
・・・これらの言葉の裏には「家族を犠牲にして会社のために働く日本人男性」が見え隠れしています。

欧米の円熟期を迎えた国々では、男性でも9時〜5時勤務なので育児参加しやすい社会を作っています。
しかし日本では残業が当たり前で、午前様がふつうという仕事も珍しくありません。
この労働環境をそのままに、女性が職場に出て行ったらどうなるか、明らかですね。

家族・家庭が崩壊します。

しかし人口減少社会の日本では、女性の社会参加が常識になっていくことは間違いありません。
女性が働くことがオプションではなく、必須の時代になりつつあります。

対策として、まずは現在の過酷な労働環境を緩めて男性が夕方6時に家に帰れるようにすべきです。
そこから始めないと、悪循環は断ち切れません。
その結果、給料が減り、日本の経済成長も少し鈍るという副作用も受け入れる覚悟が必要です。

原発より経済成長を優先する日本という国で、可能でしょうか?


<番組内容>
 東京の“出生率”は全国最低の「1.13」(2013年)。一方で“婚姻率”は全国1位…つまり東京は、「結婚はしても子供は産まない街」。出生率「1.13」…この数字の向こう側にあったのは信じがたい実態。6人の定員に、応募180人という保育園、出産をきっかけに「育児を優先して」と退職を迫る上司、保育園に入れるために“離婚”を選ぶ夫婦…それは「産まない」のではなく「産めない」街、東京の現実だった。

 「すべての女性が活躍できる社会をつくる」これは、安倍内閣が掲げる重要課題である。生産年齢人口の減少によって低下している労働力を女性の労働力で補う…。だが、女性の活用を経済成長戦略の中核に位置付ける一方で、日本の「少子化」は危機的状況だ。
 「働くこと」も「子供を産むこと」も期待されている現代の女性たち。しかし、いま首都・東京では、「待機児童数・全国ワースト」「マタハラ」「保育園建設反対」「子供の声は騒音?」、出産も子育ても迷惑である、そんな声があふれてはいないだろうか?
 そんな東京で、子供を産み、育て、働く、ということはどういうことなのか?その先に待っているものは、一体なんなのか?そんな疑問をきっかけに、取材は始まった…。

子供を保育園に入れるため引っ越しを余儀なくされた幸恵さん(仮名・30)
 2015年1月、自宅のある杉並区で第一子である男の子を出産した幸恵さん。退院後すぐに取り掛かったのは保育園探し。通称「保活」。秋からの職場復帰を目指し、30以上の保育園に問い合わせをするも、現実は「6人の募集に対し入園希望者は180人」という想像を超える厳しさだった。
 幸恵さんは杉並区での保育園探しを断念し、新宿区で保育園探しを始める。だが、やっと入園できることになった保育園は、自宅から40分も離れた新大久保、繁華街の裏手にある保育園だった。
 結局、新宿区への引っ越しを余儀なくされ、意に反して生後4カ月で息子を保育園に通わせることになった幸恵さん。そこには、東京の“保活戦争”の奇妙な実態があった…。

子供を保育園に入れるために離婚したアヤコさん(仮名)
 子供が1歳の時から認可保育園(施設の広さなど国が定めた設置基準を満たした保育園)に5回入園を申し込み、すべて断られたアヤコさん。そこで、夫婦が選んだのは、子供を保育園に入れるための“保活離婚”。保育園に入るには母子家庭のほうが有利というシステムが生んだ悲劇…。しかし、そうまでして申し込んでも、アヤコさんの子供は、認可保育園に入ることはできなかった。彼女が口にした“保活の狂気”とは…

12人の部下を抱える管理職として働くシングルマザー・由佳さん(37)
 都内の職場で12人の部下を抱える管理職として働く由佳さんは、午後6時の終業のチャイムが鳴ると誰よりも早く帰宅する。一人で子育てをする由佳さんに、会社は理解を示してくれているが、それでも彼女が抱え続ける、うしろめたさ…。
 保育園で3歳の娘を引き取ると、由佳さんは母親の顔になる。「子育ても仕事もうまくこなしたい…」
 仕事が繁忙期に入った春、大阪の実家から由佳さんのお母さんが駆け付ける。おばあちゃんに会えてうれしくて仕方がない娘…、それを見た母から出た本音。「実家に帰ってきてくれたら安心…」それでも、由佳さんがあえて、東京で働き続ける理由はなんなのか?
 
 さらに、ディレクターが出会ったのは、保育園に通わせるために“アリバイ会社”を利用し身分を偽る母親や、インターネットで格安のベビーシッターを探す母親、マタニティーハラスメントと闘う母親…。
東京の街には、「出産」「子育て」「仕事」の狭間で、常に社会から「選択」を迫られる女性たちの姿があった。

ディレクター・郡薫子(フジテレビ情報制作センター)コメント
「取材で出会った女性たちは、誰もが私たちの周りにいる、ごくごく普通の母親たちでした。しかし、彼女たちは、出生率が全国最低の「東京」で子供を育てる母親でもあります。彼女たちの日常を追えば、東京の出生率の低さの背景が見えるはず…。母親たちに話を聞くと、待機児童の問題には、保育園不足を加速させるような、親たちの“駆け引き”が潜む一方で、職場には女性たちが「会社の空気を読んで出産時期を決める」という“暗黙のルール”があることもわかりました。そんな中、「彼女たちが、そうまでして働く理由はなんなのか?」という疑問…。
 取材で見えてきたのは、働きながら子育てする女性たちの“ジレンマ”でした。「安心して子供を育てたい」気持ちと「仕事を辞めたくない(辞められない)」という気持ちの両方をかなえることは、女性のわがままなのだろうか…?
 私自身、取材を終えた今も、答えを出せずにいます。彼女たちの声を聞いて一緒に考えていただけたらと思っております」

「一人っ子政策」をやめても増えない人口(中国)

2018年02月15日 06時14分26秒 | 育児
 日本に続く高齢化社会・人口減少のリスクを回避する目的で“一人っ子政策”を終了した中国。
 しかし、期待された出生率上昇は伸び悩んでいます。

 その原因は「子育て費用に尻込みする若い夫婦たち」。
 日本と似たような事情が垣間見えます。

 一方で、一人っ子政策を廃棄したことは、“中国共産党が進めてきた政策は間違いだった”と批判される可能性があることから、舵を切ることに今ひとつ躊躇がある、という要素もある様子。

 生み渋る国民を、中国政府はなだめたり脅したり・・・。

■ 中国「二人っ子政策」の限界、増えない人口 〜一人っ子政策やめても効果なし
2018年2月15日:The Economist:日経ビジネス
 中国政府は人口減少を食い止めるようと、2015年末に一人っ子政策を撤廃し、2016年に二人っ子政策を導入したが効果は全く上がっていない(写真:ロイター/アフロ)
 リー・ドンシャ氏は、赤ん坊の頃から祖父母や親戚に預けられて育てられた。中国北部の山東省の生家から30分ほど離れたところだった。彼女の両親には、そうせざるを得ない理由があった。すでに娘が一人いて、複数の子どもを持つことを禁じる中国の法律を破ったことで、罰金を徴収されたり解雇されたりする恐れがあったからだった。
 政府当局から隠れ、事情を知らされずに育ったドンシャ氏は、ちょうど小学校に入った頃、よく訪ねてくる優しい叔母と叔父が実は本当の両親であることを知った、と言う。ようやく本当の両親の家に戻れた頃には、すでに十代に入っていた。
 ドンシャ氏は現在26歳で、家庭教師を派遣する企業を経営している。特殊な幼少期を過ごすことを彼女に強いたあの時代は、今やはるか昔に感じられる。中国政府は一人っ子政策を2015年末に撤廃し、全ての夫婦は2人目の子どもを持つことが(2016年から)認められたからだ。
 むしろ最近、中国の政治家たちを悩ませているのは、子どもが多すぎることではなく、1980〜90年代生まれの中国人があまり子作りをしていないことだ。国営メディアは1月、2017年に国内で最も多くの子供が生まれた山東省をこぞって褒めたたえた。その生殖能力は「勇気に満ちている」と評した。

◇ 現在予測されている2030年よりも早く、人口減少が始まる
 こうした中国政府の方針転換の根底には、中国の人口動態が大幅に変化していることへの不安がある。出生率は2010年のどん底からやや持ち直しているものの、女性1人が生涯に産む子供の人数は平均で2人未満だ。つまり、人口は早晩、減少に転じることを示している。
 政府は、2030年に人口が14億人強のピークを迎えると予測しているが、もっと早く減少に転じるとみる人口統計学者は多い。
 16~59歳までの労働人口は既に2012年から減少に転じており、2050年までに23%縮小すると予測されている。高齢化が進めば、社会保障財政への負担は重くなり、労働市場の規模の縮小を招く。
 北京大学の梁建章氏は、労働人口が高齢化することで、米国のように人口動態の見通しが明るい国に比べ、中国では企業のイノベーションが停滞してしまう可能性があると指摘する。
 一人っ子政策の撤廃により、事態は改善するはずだった。だが1月に発表された統計によると、出生率は一人っ子政策撤廃直後、一時は上向いたが、その効果は消滅しつつあるという。中国では昨年、1720万人が誕生した。これは一人っ子政策撤廃前に比べれば多いものの、2016年と比べると3.5%減だ。
 米カリフォルニア大学アーバイン校のワン・フェン氏によると、出生数は国家衛生計画生育委員会が一人っ子政策を見直すかどうかを検討していた時の予測より300万〜500万人も少なく、撤廃による効果に懐疑的な専門家の予測さえも下回るという。

◇ 子育て費用に尻込みする若い夫婦たち
 原因は、一人っ子が理想だと何年も言われ続けてきたことに加え、中国が豊かになるにつれ、大きな家族を望む傾向が薄れつつあるからだ。子どもがほしい夫婦への世論調査では、子育てに必要となる巨額の費用に尻込みしているという回答が多い
 多くの若い夫婦は、住宅費が高騰していることや保育施設が不足していることを心配しているのに加えて、いずれ高齢化した親4人を支えるのにお金がかかることが分かっている。
 よって多くの夫婦は、自分たちの時間と収入を2人の子どもに分け与えるよりも1人に集中して注ぎ込み、なるべく良い人生のスタートを切らせてあげるほうが望ましいと判断するようだ。
 一方、高等教育が普及し社会で活躍するチャンスが増えたことで、平均結婚年齢が上昇している。これは世界各国で出生率低下の原因となっているが、中国のように婚外子がタブー視される社会では特に顕著だ。
 家族を作ったり増やしたりすることを考える女性は、依然として職場で差別されるリスクを考慮しなければならない。一人っ子政策が緩和されてから、多くの省では男女両方のために産休や育児休暇を拡充させているが、雇用主が必ずしも制度を導入していないからといって、違反だとして雇用主に罰則を与えるわけではない。
 中国共産党は、こうした障害を解消するための対策が必要だとは認識しているようだ。昨年発表された人口計画に関する文書では、出生率の低下は問題であると認め、出産を奨励するため一連の方策を検討するとしたが、いずれも曖昧なものだった。
 「中国日報」はその翌月、子作りをためらう夫婦のために「奨励金や補助金」などを導入する可能性もあるという、ある政府高官の発言を報じた。
 だが、世界各国で出産奨励策があまり成果を上げていないことからすると、出生率を上げるには膨大な投資が必要であり、保育費を安くすることが優先課題だと考えられる。

◇ 出生率を低く保つのが仕事だった公務員の処遇も問題
 現時点では、中国共産党が出生率を上げるために効果ある対策を打つとは考えにくい。ある程度の人口抑制策は不可欠だとの公式見解をいまだに捨てていないのだから当然だろう。指導者たちが、出生率を低く保つことを仕事としてきた大量の公務員たちを今後どう処遇していくかを検討している間は、二人っ子政策を完全に撤廃し産児制限をなくすことは難しいかもしれない。
 かつては一人っ子政策によって中絶や避妊手術などを強要していたこともあり、あまりに早急に産児制限をなくす方向に転換すれば、これまで共産党が掲げてきた厳しい一人っ子政策は「間違っていた」と認めることになるという点も懸念しているのだろう。
 明確な戦略がなければ、出産を奨励しようとしても、断片的で効果のない政策になってしまう。中国共産党の各機関が結婚の喜びについてこれまでになくアピールするようになっているのは、出生率を上げたいとの狙いもあるもしれない。
 また、共産党指導者の間に社会的な保守主義が広まっていることも一因かもしれない。じわじわと浸透しつつある海外の文化は危険なので、「伝統的」な中国の文化を推進したいという考え方だ。それは、未婚の男性が増えすぎると社会秩序が脅かされるという懸念だ。
 実際、中国共産主義青年団はここ数年、愛国的な独身者を招待して婚活イベントを開催し続けている。

◇ 「結婚しない女性」への“脅し”戦略も…
 政府が(出生率を上げようとするあまり)多忙で野心的な女性が家庭に入ることを促してしまうことにも懸念がある。作家であり学者でもあるリータ・ホン・フィンチャー氏は、国営メディアが「売れ残りの女性」という概念を広めるのに加担していると指摘する。
 これは20代半ば以降の未婚女性を指す侮辱的な言葉で、都市部に住む高学歴の中国人女性に、自分の望みよりも早い段階で身を固めないと、「売れ残り女性」と見なされるようになると“脅す”意図がある。
 同氏によると、こうしたプロパガンダはますます積極的に展開されているという。官僚たちが本当にこのような解決策を練っているのであれば、ベビーブームを期待しても“死産”に終わってしまうだろう。


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February 10th-16th 2018| From the print edition, All rights reserved.
英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。

犬の訓練士、中村信哉氏の仕事

2018年01月31日 13時37分05秒 | 育児
NHKプロフェッショナル・仕事の流儀「ワンちゃんスペシャル」(2018.1.29放送)

 ペットの犬に関わるプロの仕事師達を紹介した番組。
 トリマー、獣医師に引き続き登場したのが訓練士の中村信哉氏でした。
 もともとは警察犬訓練士だった彼は現在、栃木県の大田原市で、暴になった愛犬を更生させることを仕事にしています。
★ 「北栃木愛犬救命訓練所

<放送内容>
『悪者になっても、命を守る』
 ペットブームのかげで、毎年のように起きる飼い犬によるかみつき事故。例年4,000件以上発生し、死亡事故まで起きている。そんな飼い主の手に負えなくなった凶暴犬を専門に預かり、更正を請け負うのが、訓練士・中村信哉。飼い犬との平穏な生活を求め、中村を頼る声は全国各地から届く。だが、その訓練は極めて厳しく、批判の声も浴びることさえある。それを承知の上で、中村は自らの信念を貫き通す。
 「厳しいのが嫌いだからといって、やらなかったら襲ってくることも止まらないし犬はかみ続けてしまうんですよ。かむ犬は治らないんだとあきらめてしまって処分をしたケースがあるんです。命が終わってしまうんです。だから厳しくやるわけです。それこそ、どんな方法を使ってでも飼い主さんのもとで一生を送らせたい。」
 中村が引き受けた犬の更正率はおよそ8割。更正を断念した犬も事実存在するが、中村はその犬たちをすべて“わが子”として引き取っている。






 世論は彼の手法を批判する動物愛護団体もいて喧々ガクガク状態のようです。

 でも私は、別のところに興味を持ちました。
 ペットとしての犬が凶暴化する原因は様々でケースバイケースだが「叱るだけとか褒めるだけとかの極端なしつけが一因」と中村氏。
 中村氏が行っている訓練は「人間が上、犬は従うもの」というルールをとことん教え込むことです。
 あくまでもペットとして生き残れるようにしつける内容。
 なぜなら、ペットとして振る舞うことができないと人間社会から抹殺されてしまうからです。
 飼い主に尻尾を振り、甘える存在でなければ生きていけないからです。

 「人間の子育てと同じではないか」と誤解された視聴者もいたのではないでしょうか。
 しかしペットのしつけと、人間の子育ては違います。

 昔々、オオカミの集団生活の上下関係がハッキリしたしくみを観察した縄文人は、「あの階層の一番上に人間が立つことができれば、オオカミをてなづける事ができるかもしれない」ことに気づき、実行して長い時間をかけて「犬」というペットを作り出しました。
 ペットは人間の指示を忠実に守る存在です。
 ですから人間にとって喜びや満足感を得られるだけの動物であり、現代社会ではそれが“癒やし”に変化してきました。

 一方、人間の子どもは成長発達し、自立して親を追い抜いていく存在です。
 たくさんの愛情を必要とする上に、自立するために親との葛藤も抱えます。
 ですから親は、喜びだけではなく、悲しみ・怒りなど、様々な感情でその存在を揺さぶられます。
 これぞ人生の醍醐味(と私は思っています)。
 その葛藤の末に一人前になって自立し、家族を持ち、子孫を残すことを見せてくれると、他に代えられない充実感を与えてくれます。

 現代の日本社会では、ペットを育てることはできても、人間の子どもを育てる能力が落ちてきてしまいました。

「スマホ1日5時間以上」で中高生の自殺リスク上昇

2018年01月09日 08時41分08秒 | 育児
 スマホ中毒が健康に及ぼす影響の記事をもう一つ。
 なんと中高生の自殺のリスク上昇、という内容です。

■ 「スマホ1日5時間以上」で中高生の自殺リスク上昇か
提供元:HealthDay News:2018/01/09:ケアネット
 米国でスマートフォン(スマホ)が一気に普及した2012年を境に、米国の中高生で抑うつ症状や自殺念慮の経験者、自殺者が急増したことが、米サンディエゴ州立大学心理学教授のJean Twenge氏らによる研究で明らかになった。スマホやパソコンなどの1日当たりの使用時間が平均で5時間以上の中高生では自殺念慮や自殺企図などのリスクが上昇することも分かったという。同氏らは「中高生でスマホなどの端末の使用時間が増えていることが、自殺者の増加につながっている可能性がある」と警鐘を鳴らしている。詳細は「Clinical Psychological Science」11月14日オンライン版に掲載された。
 Twenge氏らは今回、米国の中学2年生~高校3年生の男女計50万人超を対象に、抑うつ症状や自殺念慮の経験、インターネットでのソーシャルメディアの使用状況を含む生活や行動について尋ねた2件の調査データと、13~18歳の男女の自殺に関する米疾病対策センター(CDC)の統計データを分析した。
 その結果、2010年から2015年までに中高生の自殺率は31%上昇しており、特に女子では65%上昇したことが分かった。また、抑うつ症状を経験したことがある中高生の割合も、女子では2010年の16.7%から2015年には26.4%へと58%上昇していたほか、自殺念慮や自殺企図といった自殺につながりうる経験(自殺関連アウトカムの経験)がある女子中高生の割合も同期間に12%上昇していた。
 さらに、自殺関連アウトカムの経験者の割合は、スマホやパソコンなどの端末を使用する時間が1日当たり1時間未満の中高生では29%だったが、2時間の者では33%、5時間以上の者では48%を占めていた。また、端末の使用時間が1日1時間未満の中高生と比べて5時間以上の中高生では自殺関連アウトカムのリスクが66%上昇することが示された。抑うつ症状の経験者の割合も端末の使用時間が長くなるほど高まることが明らかになった。
 Twenge氏は「今回、2012年を境に13~18歳の中高生、特に女子中高生で抑うつ症状や自殺関連アウトカム、自殺による死亡が急増したことが分かった。これはスマホが普及した時期とちょうど一致する」と説明している。
 また、端末の使用時間の長さによる抑うつ症状や自殺関連アウトカムへの影響は特に女子で強くみられたが、同氏はこの点について「これまでの研究からソーシャルメディアの使用時間が長いと精神面に悪影響があることが分かっているが、男子はソーシャルメディアよりもゲームに費やす時間が長いため、影響が弱まっているのかもしれない」との見方を示している。
 なお、今回の研究では端末の使用時間が1日2時間未満の子どもでは精神的な問題のリスクは上昇しないことが示されたため、Twenge氏は「親は子どもにスマホの使用を1日2時間まで制限し、寝室にはスマホを持ち込ませないといった対策を取るべき」とアドバイスしている。
 今回の報告を受け、専門家は「さほど驚くべきものではない」と口をそろえる。米ミシガン大学のScott Campbell氏は「食べ物やアルコール、セックス、買い物などと同様に、インターネットの使用も過剰になると有害だ」と指摘。一方、米ワシントン大学のAnne Glowinski氏は「インターネットの長時間使用は特に夜間に多くみられるが、それによって睡眠の質が低下し、抑うつ症状や自殺のリスクを高める可能性がある。さらに対面での人との交流や家族と過ごす時間も奪い、精神的な問題を引き起こしうる」と説明し、親は子どもにスマホを与える前に十分話し合い、明確に使い方のルールを決めるべきだと助言している。

就寝時の電子機器の使用、子どもの健康への影響

2018年01月09日 06時25分40秒 | 育児
 「スマホ中毒」の根拠となる論文がまた一つ。
 動かないから太る、光刺激で夜眠れない・・・想定内の影響です。

■ 就寝時の電子機器の使用、子どもの健康への影響は?
提供元:HealthDay News:2018/01/09、ケアネット
 スマートフォン(スマホ)やタブレットなどの電子機器は、今や私たちの生活に欠かせないアイテムとなり、これらを上手に使いこなす子どもも少なくない。しかし、子どもに質の良い睡眠を十分に取らせ、肥満にさせたくなければ、就寝時のこれらの使用は制限すべきだとする新たな研究結果が「Global Pediatric Health」10月27日オンライン版に掲載された。
 保護者を対象に行ったこの調査によると、子どもが就寝時にスマホを使用したりテレビを視聴すると、BMIが増加することが示された。また、テレビの視聴やスマホ、コンピューター、ビデオゲームの使用は、子どもの睡眠時間の短縮や睡眠の質の低下を招くことが分かった。
 論文の筆頭著者である米ペンシルベニア州立大学ハーシー医学部のCaitlyn Fuller氏は「子どもにスマホなどの電子機器を与える際には、親は小児科医に年齢にふさわしい使い方について相談するとよい。もし子どもに十分な睡眠を取らせたいならば、ベッドに入る前にこれらの電源は切り、スマホを枕元に置かせるようなことはあってはならない」と述べている。なお、同氏は、今回の研究では、就寝時の電子機器の使用が子どもの睡眠や肥満に悪影響を与える可能性が示されたに過ぎないとしている。
 Fuller氏らの調査では、小学校5年生までの小児の約4割が自分のスマホを所有しており、それより低い年齢でも多くの子どもが電子玩具やタブレット式の玩具に親しんでいるという。
 今回の研究は、同大学の2つの診療所(うち1カ所は肥満専門クリニック)から登録した8~17歳の子ども234人の保護者を対象としたもの。保護者には、子どもの電子機器(コンピューター、ビデオゲーム、スマホ、テレビ)の使用時間や使用するタイミングのほか、睡眠時間や睡眠の質、朝の疲労感、注意力、日頃の運動量などについて尋ね、就寝時の電子機器の使用とBMI、睡眠、注意力への影響を調べた。
 その結果、就寝時にテレビを視聴したり、スマホを使用する子どもは、そうでない子どもと比べて過体重や肥満になるリスクが2倍以上であることが分かった。また、当然ながら戸外での運動量が多いほど過体重になるリスクは低かった。
 さらに、就寝時にテレビを視聴したり、ビデオゲームを使用する子どもは、そうでない子どもと比べて一晩の睡眠時間が30分短く、スマホやコンピューターを使用する子どもは、使わない子どもと比べて睡眠時間が1時間短かった。なお、コンピューターを使用する子どもは寝付きが悪く、ビデオゲームを使用する子どもはすぐに目が覚めてしまうといったトラブルも抱えていた。
 就寝時の電子機器の使用は睡眠の質にも悪影響を及ぼしていた。就寝時にスマホやビデオゲーム、コンピューターを使用する子どもは朝に疲労を感じやすく、朝食を取らない傾向がみられた。一方で、子どもの電子機器の使用による注意力への影響は認められなかった。
 専門家の一人、米ノーザン・ウェストチェスター医療センターのPeter Richel氏は「スマホやタブレットなどの電子機器は私たちの生活の一部になっており、より幼い頃から身近なものとなっている。最近では、10歳代の子どもや若者がソーシャルメディアやIT機器に費やす時間も著しく増えたことで、戸外で遊んだり読書の楽しさを経験する機会が奪われていることに危機感を抱いている」と述べ、日常生活にITが浸透していくほど子どもの睡眠が妨げられるのは確実で、就寝1時間前には家族全員でこうした電子機器の電源を切るよう勧めている。


<原著論文>
Fuller C, et al. Glob Pediatr Health. 2017 Oct 27;4:2333794X17736972.

韓国におけるオンラインゲーム依存症

2018年01月05日 15時33分25秒 | 育児
 「PC房」とは韓国におけるインターネットカフェのようなもの。
 子どもたちはここに閉じこもりインターネットのオンラインゲームに病的なまでに没頭し、「インターネット依存症」として治療を受ける例も増えているそうです。

 日本も他人事ではありません。

■ ドキュメンタリーWAVE▽子どもたちのリアルを取り戻せ 韓国ネット依存治療最前線
NHK-BS1:2016年10月16日
<番組内容>
 オンラインゲームなどのやり過ぎによる「インターネット依存」の若者が10人に1人といわれる韓国。深刻化する事態に、国をあげて行われるネット依存治療合宿に密着した。
<詳細>
 若者の10人に1人が「インターネット依存」といわれる韓国。オンラインゲームなどのやり過ぎで、体調を崩したり、学校へ通えなくなったりする子どもが急増している。韓国は、オンラインゲームを、アルコールや薬物と同じ深刻な中毒性があるものと認定し、国をあげた対策に乗り出している。子どもたちをインターネットから切り離した治療合宿に密着。IT先進国・韓国で行われている、インターネット依存治療の最前線を追った。


★ 篠原利恵が第33回ATP賞テレビグランプリ2017において優秀新人賞を受賞しました。
 韓国で、大人と子供の戦争が起きています。ゲームをやりたい子供VSゲームをやめさせたい大人。この番組は、無視されがちな側、子供の気持ちを描きたいと企画しました。
 子供たちが見ている世界の中にある、子供たちがゲームに夢中になる理由・・・。
 しかし取材が進むにつれ、大変難しいことだと気づきました。「子供心」よりも、「大人心」の方がわかりやすく、なにより私の取材自体が大人の手続きで進んでいきます。
 かわりに、見えてきたことがあります。それはこの戦争に敵がいないということ。ゲーム依存で苦しむ子供も、その親も、医者も、国も、ゲーム産業の人たちも、誰もが切実です。できるだけ細かく取材していくしかないと思っています。
(篠原利恵)

ネットゲーム依存は「病気」

2018年01月05日 06時15分56秒 | 育児
 前項と同じ分野の記事を朝日新聞から。
 体に悪いとわかっていても、ゲーム販売メーカーは反対するのですねえ。
 タバコの害がわかっていながら、その制限に反対するJTと同じです。

■ ネットゲーム依存は「病気」 WHOが疾病分類に追加へ
(2018年01月04日:朝日新聞デジタル)
 インターネットゲームなどのやり過ぎで日常生活に支障をきたす症状について、世界保健機関(WHO)が2018年、病気の世界的な統一基準である国際疾病分類(ICD)に初めて盛り込む方針であることがわかった。国際サッカー連盟(FIFA)主催の世界大会が開かれたり、五輪への採用が検討されたりするなどネットゲームが広く普及する中、負の側面であるネット依存の実態把握や対策に役立てられそうだ。
 WHO関係者によると、18年5月の総会を経て、6月に公表を予定する最新版のICD―11で、「Gaming disorder」(ゲーム症・障害)を新たに盛り込む。17年末にトルコで開かれた依存症に関する会議で、最終草案を確認した。
 最終草案では、ゲーム症・障害を「持続または反復するゲーム行動」と説明
▽ゲームをする衝動が止められない
▽ゲームを最優先する
▽問題が起きてもゲームを続ける
▽個人や家族、社会、学習、仕事などに重大な問題が生じる
――を具体的な症状としている。診断に必要な症状の継続期間は「最低12カ月」。ただ特に幼少期は進行が早いとして、全ての症状にあてはまり、重症であれば、より短い期間でも依存症とみなす方針だ。
 ゲームを含むネット依存はこれまで統一した定義がなく、国際的な統計もなかった。新しい定義は各国での診断や統計調査に役立てられる。厚生労働省の国際分類情報管理室も「公表から数年後にICD―11を統計調査に使う」としている。
 依存症の専門家によると、ネット依存の人は酒や薬物の依存者のように脳の働きが大きく低下し、感情をうまくコントロールできなくなるとの研究論文が近年、国際的な医学誌に多数報告されている。このためWHOは、ネット依存をギャンブルのように熱中しすぎるとやめられなくなる「嗜癖(しへき)行動」と捉えることにした。そのうち研究結果の多い「ゲーム症・障害」を疾病として分類する。またLINEやツイッターなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)によるネット依存は「その他の嗜癖行動による障害」とする。これまでは、いずれも「その他の習慣および衝動の障害」とされていた。
 ゲームを含むネット依存について、香港大学の研究者は14年、世界の人口の6%(約4億2千万人)以上と推計。日本でも厚労省発表で、成人の約421万人(14年)、中高生の約52万人(13年)にネット依存の疑いがあるとされる。
 ネット依存外来を開く国立病院機構・久里浜医療センター(神奈川県横須賀市)の樋口進院長は、「これまでは病名や定義がなく、治療や研究、実態解明も進まなかった。WHOが新たに定義すれば、対策の面で飛躍的な前進が期待できる」と話す。
 ただネットゲームが盛んな韓国の「ゲーム文化財団」は、WHOの指定について、朝日新聞の取材に「他の中毒と同じように指定するには、根拠が不十分で行きすぎだ。産業発展を阻害する面もある」と反論している。


★《WHOの国際疾病分類(ICD)》
 世界190カ国以上が加盟するWHOが、死亡や疾病のデータを国際的に統一して記録、分析するため、すべての病気とけがを網羅的に分類したもの。医学の進歩や研究結果を踏まえ、改訂されてきた。第1版は1900年に出され、現在は、90年に改訂のICD―10を一部改正したものが使用されている。日本では法律上の疾病や障害の根拠となり、厚生労働省はICDに準拠して統計調査を行う。病院では、カルテに記載された病名がICD別にデータで蓄積されている。


■ ネットゲーム依存症、業界団体が反対声明 WHOに異議
2018/1/5 朝日新聞デジタル
 米国や日本のゲーム機メーカーやソフト会社で作る業界団体「エンターテインメント・ソフトウェア協会」(ESA、本部・米ワシントン)は4日、世界保健機関(WHO)がネットゲームへの過度な依存を病気と指定することに対し、「ビデオゲームに中毒作用はないと客観的に証明されている」として反対する声明を出した。
 ESAは「世界中で20億人以上がゲームを楽しんでいる」と主張。そうしたユーザーを病気とみなせば、「うつ病などの本来の精神疾患がささいなものと位置づけられてしまう」として、WHOに方針の見直しを強く求めた。
 ESAには、任天堂やバンダイナムコエンターテインメント、スクウェア・エニックスといった日本の大手ゲーム関連企業も加盟している。

「スマホ依存症」は「ギャンブル依存症」と同等

2018年01月04日 08時27分54秒 | 育児
 私は“依存症”という言葉を聞くと、職業柄「麻薬依存症」「アルコール依存症」「ギャンブル依存症」などの病名が浮かびます。
 しかし昨今、「スマホ依存症」「ネット依存症」など、病気なのかどうか千疋が難しい単語もよく聞かれるようになりました。
 紹介する記事は、脳画像検査であるMRIの一種であるMRスペクトロスコピー(MRS)で評価し「スマホ依存症はギャンブル依存症に匹敵する病態である」と報告しています。
 これはゆゆしき問題です。
 韓国の論文から;

■ 若者の「スマホ依存症」、脳画像で異常を確認
提供元:HealthDay News:2018/01/04
 スマートフォン(スマホ)から離れられない若者に脳画像検査を実施したところ、脳内の神経伝達物質の活性のバランスに異常が認められたとする研究結果が北米放射線学会(RSNA 2017、11月26日~12月1日、米シカゴ)で発表された。
 この研究は高麗大学(韓国)のHyung Suk Seo氏らが実施したもの。対象は、インターネット依存症またはスマホ依存症と診断された10歳代の男女19人(平均年齢15.5歳)と、年齢および性をマッチさせた依存症のない健康な男女19人(対照群)。依存症患者には、インターネットまたはスマホへの依存症の重症度を測定する標準化された検査を実施した。この検査では主にインターネットやスマホの使用が日常生活や社会生活、生産性、睡眠習慣、感情に与える影響について評価した。
 また、依存症患者のうち12人には9週間にわたって認知行動療法を実施したが、その前にMRIの一種であるMRスペクトロスコピー(MRS)を用いて脳機能を評価した。MRSは体内の代謝物を非侵襲的に測定でき、主に脳腫瘍や脳卒中、気分障害、アルツハイマー病などの患者の脳機能評価に使用されている。
 その結果、インターネットまたはスマホの依存症患者では、対照群と比べてグルタミン酸-グルタミン(Glx)に対するγアミノ酪酸(GABA)の活性レベルの比が高いことが示された。GlxとGABAはいずれも脳内の神経伝達物質だが、Glxは興奮性、GABAは抑制性の物質とされている。同氏らによると、これまでの研究でGABAは視機能や運動調節、不安などさまざまな脳機能の制御に関与することが明らかにされているという。
 また、今回の研究ではクレアチンおよびグルタミン酸に対するGABAの活性レベルの比が、インターネットまたはスマホへの依存レベルや抑うつ、不安と有意に関連することも示された。
 この研究結果を受け、米コーエン小児医療センターのSanjeev Kothare氏は「インターネットあるいはスマホへの依存症はギャンブルやポルノへの依存症に匹敵する病態かもしれない」との見方を示している。また、10歳代の子どもを持つ親に対し、同氏は「もしわが子がスマホ中毒ではないかと心配ならスマホやコンピュータの使用を制限すべきだ」と助言している。
 なお、学会発表された研究は査読を受けて医学誌に掲載されるまでは予備的なものとみなされる。


公共の場での授乳はOK?

2017年12月19日 16時40分18秒 | 育児
 他人の前で授乳できない動物はヒトだけでしょうね。
 でも、裸で過ごす民族は、たぶん人前でも授乳すると思われます。
 胸を隠してしまったがために、胸を見せる授乳もできなくなってしまった現代社会のジレンマ。

■ 公共の場での授乳はOK? 赤ちゃん目線で考えると……
2017年12月19日:朝日新聞
 赤ちゃんを職場に同伴したり、公共の場で授乳したりすることについての議論が活発です。女性の社会進出や母親の権利として語られることも多いですが、先月都内で開かれた集会では、赤ちゃんが食事をする権利という視点も、投げかけられました。
 「生後間もない乳児の胃袋の大きさはサクランボ大、生後1カ月でようやくたまご大になるんです」「胃袋が小さいのですぐにおなかがすいてしまい、いつ泣き出すか分からない。生後1カ月だと、1日18回飲むのが当たり前の子どももいる」
 11月上旬、東京・渋谷で開かれたトークイベント「全日本おっぱいサミット」。産婦人科医の村上麻里さんが話すと、会場に集まった約150人が聴き入った。
 さらにジャーナリストの津田大介さんは、授乳は子どもの食事とし「赤ちゃんがちゃんと授乳されること、それもひとつの人権」と話した。
 すでに海外では「子どもの事情」も踏まえた仕組みになっているところがある。
 授乳に関する著書があるカウンセラーの本郷寛子さん(58)によると、米国の多くの州や台湾、英国、豪州など、公共の場での授乳が法律で保障されている国々では、乳を飲む「子どもの権利」としても捉えられているという。国連『子どもの権利条約』24条「健康・医療への権利」などが根拠になる。本郷さんは「日本では公共の場や職場で授乳をすると、その場を私物化しているかのように語られがち。授乳を我慢すると母親も乳腺炎になる場合があり、母子の生理として待ったなし、ということが理解されていない」と話す。
 豪州では昨年、連邦議会の議場内での授乳が認められ、今年、実際に授乳した議員も出た。
 1984年に公共の場での授乳が法律で守られるようになったが、現実にはその後も「授乳をしていると、人目につかない場所へ移動しなさいと言われ、多くの母親はトイレへ行くくらいしか選択肢が無かった」(本郷さん)という。そのため90年代に、男性がトイレの個室で食事をしているイラストが描かれたポスターによるキャンペーンが行われた。「You wouldn’t eat here. So why should a baby?」(あなたは、こんなところで食事しようとはしないですね。なぜ赤ちゃんはそうしなければならないの?)と問う、現・オーストラリア母乳育児協会の試み。その後、徐々に理解が広がっていった。

■「出産や授乳の事情、学ぶ機会も必要」
 イベントを企画したライターで3人の子の母ちかぞうさん(43)は、ひと昔前まで子育てや授乳は日常にある当たり前の光景で、結果として赤ちゃんの権利も守られていたのでは、と感じている。「いち母親としての本音は、多くの人がストレス無く授乳を受け止めてくれること。否定的な意見を『不寛容だ』と断罪したり、母親を『ワガママ』だと決めつけたりする議論では問題解決にならない。必要なのは相互理解です」
 催しには、普段子どもと接していない人にこそ参加して欲しいと考えた。様々なテーマで発言を続ける男性ジャーナリストの津田さんや、乳房を写した作品が多い写真家の伴田良輔さんに出演を依頼したのも、色々な人に関心を向けてもらいたかったからだ。
 会場では体の仕組みや、外出先の授乳で苦労した体験談を紹介するなど、母子の実態に理解を深める一方、不妊治療中の女性にとっては、人の授乳をみるのはつらい場合があるなどと言及した。
 イベント終了後、子を持たない30代後半の女性は「赤ちゃんの欲しがるときがおっぱいの必要な時など、お母さんの思い通りにならないことを初めて知った。授乳服を使うなど互いに配慮や気遣いができれば」と話した。
 出産ジャーナリストの河合蘭さん(58)も、少子化やきょうだいが少なくなって育児を目にする機会が減るなか、他人の授乳に「ぎょっ」とするのは「自然な反応で、現代社会ではやむを得ない」と話す。日本助産師会が大学などで出張授業を行う例があるが、学校教育に出産や授乳の実情を学べるカリキュラムを設けるなど「理解を深める機会がもっと必要では」と提案する。