“子ども”を取り巻く諸問題

育児・親子・家族・発達障害・・・気になる情報を書き留めました(本棚4)。

発達障害には“治療”ではなく“支援”を

2024年05月22日 08時07分35秒 | 発達障害
某セミナーで広瀬宏之先生のお話を聞きました。
発達障害関連の講演では、病気の概説に終始し、
ピンとこないまま終わることが多いのですが、
広瀬先生のお話は腑に落ちましたので、メモを備忘録として残しておきます。

私が腑に落ちたポイントは、
・発達障害は「発達凸凹+困りごと」であり治るものではない
・だとすれば、治療ではなく支援が中心となる
・問題は個人にあるものではなく社会的障壁にある
・発達障害児に「失敗は成功のもと」は通用しない
  → (フォローなき)失敗は二次障害のもと
・支援のゴールはすべて自分でできることではなく、人を頼る術を知ること
等々。

▢ 発達障害=発達凸凹+困りごと
・発達凸凹:生まれつきの遅れ・偏り
・困りごと:凸凹と環境とのミスマッチ

▢ 支援モデル3つ
1.医療モデル:原因追及 → 治療
2.療育モデル:抽出 → 訓練 → 包摂
3.社会モデル:個々に応じた社会参加

▢ 社会モデル支援の内容
・対象:社会的障壁
・ToDo:合理的配慮
・場:全生活の場
・目標:社会参加

▢ 発達障害を治すとはできない、凸凹を活かす視点を
・社会的障壁を減らしていくことで困りごとや不適応は減らせるが、凸凹それ自体はあまり変わらない
・苦手なことは周囲がサポートする、“後付け”で獲得できるスキルもある、得意・好きなことは強みとして活かす

▢ 「できた!」が発達の原動力
・成功体験の積み重ねが大切

▢ 避けたい悪循環
・うまくいかないことが多い
・怒られる回数がうなぎ登り
・頑張っても怒られるだけ
・挑戦や努力をしなくなる
・自尊心の低下「どうせおれなんか・・・」

▢ 発達障害児に「失敗は成功のもと」は通用しない
・(フォロー泣き)失敗は二次障害のもと
・困る行動・“問題行動”が増え、その子本来の発達すら滞る

▢ 発達を促すコツ
・ハードルは低く 
・こまめにほめる
・難しいことは手伝う

▢ ハードルを上げると・・・
・できないことばかり増える
・「どうしてできないの!」と叱られる
・自尊心・自信の低下
・チャレンジ精神の低下

▢ ほめるコツ
・小さな(良い)変化を見つける
・肯定的な注目を言葉で実況中継
・伝わる褒め方・・・皮肉・嫌みは禁句
・親もほめる

▢ ほめる目標
・やって欲しい行動が定着すること
・行動や人格の価値判断ではない

▢ できないことは・・・
・遠慮なく手伝う
・できたらほめる
・過剰な先回りはしない
・サポートは減らしていく

▢ 適応過程
・周囲の理解と配慮
  ⇩
・日々の生活が改善していく
  ⇩
・自分の凸凹を自覚できる
  ⇩
・自分で工夫するようになる

▢ 支援のゴール
・自分なりに人生に対処できる
・ただし、自立とは「困ったときにSOSを出せる」ことであり、
 すべて自分でできることではない
・それぞれの社会参加や幸せな時間・・・それには当事者を含めた共同作業での支援が不可欠

むかしから「できの悪い子どもはかわいい」という言葉がありますが、
そんな子どもを大切に育てる極意としても通用する内容だと思いました。

行動分析学を駆使する臨床心理士「奥田健次」

2019年05月05日 08時19分07秒 | 発達障害
GW10連休中に録りためたTV番組を消化しています。
これも以前から気になっていた番組、約2年かかってようやくたどり着きました。

■  “ひらめき”で自閉症と闘う 異端の出張カウンセラー(2017年3月30日、フジテレビ)



<内容紹介>
 歯に衣着せぬ物言いと大胆な行動…その斬新な“ひらめき”で「確実に結果を出す」と息巻く臨床心理士がいる。テンガロンハットにビンテージのパンツ、スカーフや、時にヘアカラーをキメて、国内外を飛び回る《出張カウンセラー》、奥田健次だ。
専門は発達障害、特に自閉症の子ども。奥田のやり方は特徴的だ。それゆえに“異端児”扱いされる。その信念は『親が変われば子どもが変わる』。自閉症は一人一人みんな違う。奥田独自の“ひらめき”でその子に合った解決策を瞬時に見い出し、具体的な解決法、トレーニング方法を親に指導、そして子どもに確かな変化をもたらしてきた。
 2歳半になる男の子のもとを奥田が訪れた。男の子は、半年前に「自閉症スペクトラム」の疑いありと診断された。まだ言葉を発することができないこの子と両親に、奥田は幾つかの指導を施す。すると…表れてきたのは「会話」の兆し。“子どもと親”に起こった変化をカメラが追う。
 奥田が出張カウンセリング以外に力を入れているのが、特別支援学校での教師の指導だ。訪れた長野県の養護学校では、まわりの物を投げてしまい集団行動ができない自閉症の少女に向き合う。そこでも奥田は“ひらめき”で、担当教師の意識を変えていく。そして三カ月後…少女は見事に、集団行動への一歩を踏み出した。
 子どもが100人いれば、その解決法も100通り。誰も思いつかない数々のメソッドを、瞬時に見極める奥田式“ひらめき”カウンセリングとは?さらに、カウンセラーとしての人生を賭け奥田が始めた新たな挑戦。それは一体何なのか?


 奥田氏は発達障害に対して行動分析学を駆使して対応し、成果を上げてきた方のようですね。
 しばらく前に、NHKのあさいちという番組で平岩幹男先生による応用行動分析が放映され、それと同類と感じました。

 誤解を怖れずに言えば、動物の調教と同じです。
 親が望む行動を子どもがとったらご褒美(好きな食べ物)を与えることを繰り返し習慣づける手法。
 “親”を“調教師”、“子ども”を“動物”に置き換えると、一目瞭然です。
 まあ、子どもを育てるエッセンスですから、ご褒美が褒め言葉になれば“しつけ”とも表現できます。

 番組ではその先も扱っていました。

 発達障害(とくに言葉が遅れている自閉症スペクトラム系)が泣いて訴えるときの対応が見事でした。
 「泣いて訴えることに対応していると、それで済んでしまうので言葉が出ない現状のまま」
 「泣いて訴えるときには、目線を合わせずコミュニケーションをとらず電信柱になってください」
 「泣き止んだときだけ、振り向いてコミュニケーションをとってください」
 と両親に指導。

 え?
 子どもが泣けばあやしたり、何が原因なのか考えて対応するのが親の役目ではないの?

 両親は彼の指導内容を頭で理解しても、なかなか行動に移せません。
 でも彼の指導に従って両親が訓練を続けると、徐々に成果が上がりました。

 なるほど。
 泣いている子どもの気持ちを汲んで先回りして対応することは、子どものためになっていないんだ。
 ん?
 発達障害児ではなく、健常児ではどうなんだろう・・・。 

 次に、子どもの発声を促す訓練が始まりました。
 まねをして声を出すとご褒美(好きな食べ物)をもらえる。
 すると子どもは、要求を声を出して訴えるとかなえられることを学習します。
 軌道に乗ると、みるみる有意語の発語が増えてきました。

 なるほどなるほど。

 ポイントは、親が子どものためを思ってしていることが、逆に子どもの発達や自立のブレーキになっているという悲しい現実を認識すること。
 行動分析学は、それを親子にとってプラスのエネルギーに変換する力をもつ学問なのですね。

 奥田氏の発想はフレキシブルで、カウンセリングの現場でもどんどん即興で展開します。
 その能力の源泉は、彼自身がTourette症候群であることだと告白していました。

 全国を股にかけてカウンセリングに奔走する奥田氏の夢は、発達障害児と健康児が一緒に保育を受けられる施設を作ること。
 番組中ではやっと認可が下りたところで終わっていましたが、現在開園(サムエル幼稚園)しているようです。

「自閉スペクトラム症」の人を取り巻く困難さ

2018年02月13日 06時55分06秒 | 発達障害
 近年、「自閉症」「高機能自閉症」「アスペルガー症候群」「広汎性発達障害」などの病名が「自閉症スペクトラム」という表現に統一されました。これらの病態にはハッキリ分けられる境界線が存在せず、連続的なものであることがわかってきたからです。
 そして、この疾患は他人事ではなく身近です。
 ちなみに、東大生の4人に1人はアスペルガー症候群であるとTV報道で耳にしたこともあります。
 どんな風に捉えるべきか、参考になる記事を紹介します;

※ 下線は私が引きました。

■ 「自閉スペクトラム症」の人を取り巻く困難さ
2018/2/12:東洋経済)備瀬 哲弘 :精神科医
 近年、テレビや新聞、雑誌などで「大人の自閉スペクトラム症」が取り上げられることが増えました。実際、自閉スペクトラム症(以下、ASD:Autism Spectrum Disorder )は「10人に1人は抱えている」とも言われています。
ではASDとは、いったいどのような症状を言うのでしょうか。『大人の自閉スペクトラム症』を刊行し、職場での深刻な現状を豊富な事例とともに取り上げた精神科医・備瀬哲弘氏にお聞きしました。

◇ 自閉スペクトラム症は、もはやひとごとではない
 筆者のところには“生きづらさ”を感じている人たちが多く診察に訪れます。そして生きづらさの原因を探し求める過程で、「ASD」に行き着く人が実に多いのです。
 ASDとは「従来は自閉症、アスペルガー症候群、高機能自閉症などを含む広汎性発達障害と包括されていた疾患を、知的レベルや特性に強弱はあるが、その基本的な特性によって連続している(スペクトラムは連続帯と訳される)ととらえ直した概念」のことです。
 ASDの特性としては、空気が読めず、思ったことをすぐ口に出し、その結果として相手をすぐに怒らせる、極端にこだわる、落ち着きがない、同僚との雑談が苦手などを挙げることができます。ただ、程度の差こそあれ、少なくともこれらの特性の1つは、誰にでも当てはまるかと思います。
 ではASDの人は、生きるうえで「どう困っているのか」「何が生きづらくさせているのか」、4つのケースを紹介します。

 30代女性事務員のBさんは、子どもの頃から余計な一言をつい言ってしまい、人を怒らせたり、不愉快にさせたりしてきました。年を重ねるにつれ、言葉をのみ込めるようになってきているとはいうものの、それでもうまくいかないことのほうが多いとのことです。また、空気が読めず、場の雰囲気を乱すようなことばかりしています。Bさんはよどみなく話すことができますが、どこかまくし立てるように、せわしなく話す印象を受けます。

 40代男性会社員のIさんは、幼い頃から内気で引っ込み思案な性格です。興味があることに没頭すると周りの状況が見えなくなり、ほとんどの時間を一人で過ごしてきました。就職してからは、人付き合いやコミュニケーションが不得意ということで、上司や同僚、後輩たちからも、「付き合いが悪い」「空気が読めない」「コミュ障(コミュニケーション障害)」などと、叱責されたり、陰口を言われたりすることが続いています。

 10代女子大生のEさんは、他人の心情を想像するのが苦手です。そのため自分が“わからないこと”を質問すると、かなりの頻度で相手に誤解されてしまいます。相手を責められているような気持ちにしたり、相手が怒り出したりするのです。それでもただ単にわからないから聞いているだけなので、なぜ誤解されてしまうのか、わからないのです。

 20代男性会社員のRさんは、子どもの頃から人間関係が苦手で、トラブルになることが多々ありました。自分は間違ったことを言っていない、と思っても、相手が怒り出すというのです。これまでの経験から、自分が主張を曲げないことで相手を怒らせることが多かった、と自覚をしているので気をつけているのですが、社会人になってからもトラブルが続いています。弟がASDという先輩の勧めで、私のところに受診しにきました。

 このように多くの人が持っている特性だとしても、ASDの人はその度合いが強いために問題となってしまい、生きづらさを感じているのです。

◇ 誤解を解いていくことが”生きづらさ”を解消するカギ
 大人のASDの人の生きづらさの原因の1つは、周囲の人たちから「誤解され続けている」ということです。
 彼らは、事実とは異なる誤った理解に基づいて、実際よりもネガティブな評価を下される可能性が高い状況にあります。筆者は、周りの人が彼らに対して冷淡な視線を向けたり、素っ気ない態度を取ったり、面倒くさそうな口調になってしまうのではないかと心配になることがあります。
 彼らは幼い頃から、接する人のほとんどから誤解を受け続けていることも少なくないため、生きづらいと感じたとしても、なんら不思議ではありません。
 これは、なにもASDの人だけの問題ではありません。周囲の人にとっても、大きなストレスになります。事情がなんであれ、人にネガティブな態度で接し続けることは、不快な気持ちになるからです。これも、生きづらい状態に違いないのです。
 お互いの生きづらさを解消するために、できるだけ誤解を解いていくことが必要です。つまり、お互いをより適切に理解していくことが大切です。
 ASDは生来の「特性」であるため、本人の努力が足りなかったり、親のしつけが悪かったわけではありません。このことが十分に理解できたとしても、不快な気持ちにさせられると、お互いに理解するのは不可能、と思われる方も少なくないでしょう。その気持ちは、よくわかります。
 それでも私は、コミュニケーションを取る前からあきらめることなく、繰り返しコミュニケーションを取ってほしい、と願わずにはいられません。その積み重ねによって、想像もできなかったほどよい状況になっていくことがあるからです。
 ASDの特性は、ネガティブなものばかりではありません。特定の分野では、ほかの多くの人が到底及ばないほどの高い能力を発揮し、偉業を成し遂げる人も珍しくないのは、広く知られている事実です。
 また、たとえ偉業と呼ばれるほどでない場合でも、ASDの特性がある自分の「ありのまま」を理解し、受け入れ、周囲の人にも「ありのまま」を理解してもらうことで「生きやすさ」を感じるようになった人は数多くいます。
 ASDの特性は、基本的に生涯持続します。ただ、生きづらさは生まれ持ったものではありませんし、生涯その状況が持続するとは限りません。たとえいま生きづらいと感じていても、これからの未来に「生きやすさ」を感じられるような「変化を起こす」ことは、いまからでも、誰にとっても可能なことなのです。

◇ 無理のない「共助」が持続的なサポートにつながる
 では、具体的にはどうすれば変化を起こすことができるでしょうか。
 大人のASDに対するサポートは、ASDの人の「自助」、つまり、他人の力を借りることなく、自分の力で切り抜けることの割合が高くなります。「大人」ですから、自分で解決すべきと期待されやすいからです。
 ただ、ASDの人は、自分自身を客観的に見ることが苦手です。また、社会的コミュニケーションが苦手という特性があります。「他者の心情を適切に想像すること」が苦手なために生じている問題です。自助だけで不十分な場合は周囲からのサポート、つまり「共助」が必要で、重要なウエートを占めることになります。
 たとえば、職場でASDの人が心掛ける「自助」として、先輩や上司の評価基準や価値観についての情報を収集することが挙げられます。情報収集の方法としては、先輩や上司が自分以外の他者と接している時の様子をよく観察するという方法があるでしょう。
 「ああいうふうに振る舞えば、上司が怒り出すことはないのだな」と、観察をして評価を下げないような言動を探っていくわけです。
 さらに、先輩や上司から注意を受けることへの対処法がわからずに悩んでいるのなら、改まって相談をして、意見を仰ぐのもいいでしょう。「相談に乗って話を聞いてくれる」とか「アドバイスをしてくれる」などのサポートが得られる可能性も出てくるからです。すなわち、ASDの人が「共助」を得る可能性を高めることにつながるわけです。
 たとえば、「あの人は、進捗状況を子細に把握していないと不安になってきて、それでお説教が始まるから、細かく状況報告をするといいよ」「指示された内容だけでなくて、全体の状況を踏まえて資料を用意していることをアピールすれば、安心してもらえるし評価もよくなるよ」という具合に、ASDの人が自ら相談をしてみることによって初めて、具体的な対処法を助言してもらえる可能性が出てくるわけです。
 当人が繰り返し取り組み続けているからこそ、周囲の人も、あれだけ苦労しているのなら何か協力したい、という気持ちが自然と湧き上がってくることもあります。
 このような状況になってくると、ASDの人本人にとっても、周囲の人にとっても、生きづらさが軽減する可能性が高まるのではないでしょうか。


 日本人特有の「言わなくてもわかってもらえる」「空気を読む」スタンスを捨てて、鉄道員の指さし確認のように、コミュニケーションを取りつつ、一つ一つの段階を確認しながら物事を進めていくというスタンスが必要と思われます。
 自閉症者には「日本語が第二外国語のように聞こえる」そうですが、それをヒントにして、ASDの方を「外国人と同じように捉えて理解を求める、丁寧に説明する」ようにしたらうまくいくかもしれません。

妊婦のマルチビタミン摂取は児の自閉症スペクトラムのリスクを減らす(かもしれない)。

2017年11月01日 22時10分55秒 | 発達障害
 スウェーデンの大規模な統計です。
 妊婦におけるマルチビタミン摂取群は、栄養サプリメント非摂取群と比較して、ASD(自閉症スペクトラム)の児が生まれる確率が約半分に減った(0.26%:0.48%)という結果。

■ 妊婦のマルチビタミン摂取、児のASDリスク減/BMJ
2017/10/16:ケアネット
 妊娠中のマルチビタミン・サプリメントの摂取は、出産児の知的障害を伴う自閉症スペクトル障害(ASD)と、逆相関となる可能性が示された。米国・ドレクセル大学のElizabeth A. DeVilbiss氏らが、スウェーデン・ストックホルムの登録住民をベースにした前向き観察コホート研究の結果を報告した。著者は、「母体栄養と自閉症発症への影響を、さらに詳しく調査することが推奨される」とまとめている。母体のマルチビタミン、鉄分または葉酸のサプリメント摂取が、出産児のASDを予防するかについて、これまでの観察研究では一貫したエビデンスは得られていない。ASDの原因は知的障害の有無によって異なるが、認知機能レベルをベースに栄養サプリメントとASDの関連を調べた研究は、ほとんどなかった。BMJ誌2017年10月4日号掲載の報告。

マルチビタミン、鉄分、葉酸サプリの摂取とASDとの関連を調査
 研究グループは、住民レジスターから試験サンプルとして、1996~2007年に生まれた4~15歳の子供とその母親のペア27万3,107例を特定し、2011年12月31日まで追跡調査を行った。被験者の母親は、妊娠中の初回受診時に、マルチビタミン、鉄分、葉酸のサプリメントの摂取について報告していた。
 主要評価項目は、2011年12月31日までのレジスターデータで確認された、知的障害の有無を問わずASDと診断された子供の割合で、多変量ロジスティック回帰分析にてオッズ比を算出して栄養サプリメントとASDの関連を評価した。兄弟姉妹および傾向スコア適合群を対照とする検討も行った。

鉄分または葉酸サプリメントの摂取では逆相関の関連は認められず
 知的障害を伴うASDの有病率は、母体マルチビタミン摂取群0.26%(158/6万1,934例)、栄養サプリメント非摂取群0.48%(430/9万480例)であった
 栄養サプリメント非摂取群との比較において、母体マルチビタミン摂取群は鉄分や葉酸の追加摂取を問わず、知的障害を伴うASDのオッズ比が低かった(オッズ比:0.69、95%信頼区間[CI]:0.57~0.84)。同様の結果は、傾向スコア適合対照群でも認められた(0.68、0.54~0.86)。兄弟姉妹対照群においても認められたが(0.77、0.52~1.15)、信頼区間値が1.0を超えており統計的に有意ではなかった。
 鉄分または葉酸サプリメントの摂取では、ASD有病率と逆相関を示す、一貫したエビデンスはみられなかった。

<原著論文>
・DeVilbiss EA, et al. BMJ. 2017;359:j4273.

「障害プラスα~自閉症スペクトラムと少年事件の間に~」(NNNドキュメント)

2017年07月31日 06時20分12秒 | 発達障害
NNNドキュメント「障害プラスα~自閉症スペクトラムと少年事件の間に~」(2016.5.15放送、日本テレビ)

<内容紹介>
 「人を殺してみたかった」2年前の佐世保女子高生殺人事件の加害少女は動機をそう語った。少女には自閉症スペクトラム障害の鑑定結果が出た。しかし、障害がそのまま少年事件に結びつくわけではない。「2つの間には、プラスαの要因がある」と専門家たちは語る。〝プラスαの要因〟とは何か。少年院や児童自立支援施設の子どもたちの生の声を聞くことで、子どもたちの中にある〝生きづらさ〟の正体を探る。また矯正施設で行われる国内初といわれる、再犯防止のためのトレーニングにも密着する。


 録画してあったものを1年以上経過してから視聴しました。
 巷では賛否両論があった番組のようです。
 私は小児科医ですが、発達障害は専門外です。
 そんなスタンスの私にとって、いくつか新たな情報が得られました。

 専門家として杉山登志郎医師が登場。
 彼の著作を何冊か読んだことがあります。

 杉山医師は「発達障害だけでは犯罪に走ることはない。障害+迫害体験(虐待、過剰な叱責、いじめ等)がそのきっかけとなる」と断言していました。
 虐待でもネグレクトの方が身体的虐待よりハイリスクというデータも示しました。
 そして、虐待する親もまた過去に虐待された被害者であることが多いという事実(虐待の連鎖)にも言及しました。
 つまり、目の前の子どもの治療だけでは解決せず、親も治療する必要があるということです。

 それから、彼の診療場面が放映され、過去のトラウマを探る手法は一見、催眠術のように見えました。
 一般の小児科医にはとても真似ができません。
 やはり発達障害は非専門家が扱うものではないとあらためて観じた次第です。


より詳しい内容紹介
 犯罪白書 平成27年版によると、2014年の少年による刑法犯の検挙人員は戦後最小となった。その為、不可解な事件が目立つ様になった。2014年7月26日、長崎県佐世保市では15歳の少女による同級生殺害事件が発生し、彼女は動機について「人を殺してみたかった」と語った。家庭裁判所は自閉症スペクトラム障害の中でも特殊な例としながら、この障害の特性などが殺人の欲求に大きく影響していると述べた。一方、自閉症スペクトラム障害の子を持つ母親は「障害と少年犯罪を結び付けられて迷惑している」と語る。

 自閉症スペクトラム障害は発達障害の一種で、脳機能の発達が関係する先天性の障害であり、コミュニケーション能力や社会性に問題があるとされる。この障害には個人差がある為、周りが気づかない場合も多く、特定の分野においては驚異的な能力を発揮する事もある。アメリカの精神医学界ではアスペルガー症候群と自閉症などは自閉症スペクトラム障害として統一され、日本もこれに倣いつつある。

 30年以上発達障害の患者を診てきた浜松医科大学の杉山登志郎医師は、児童自立支援施設で調査を行った。すると、当時児童自立支援施設に入所していた102人の内、75%以上に自閉症スペクトラム障害がある事がわかったという。しかしこれは障害=犯罪という事ではない。杉山医師は、障害に「プラスαの要因」がなければ犯罪には結びつかないと話した。

 杉山医師が語るプラスαの要因とは何なのか?その答えを知る為に、三重県伊勢市の宮川医療少年院を訪れ、複数の少年にインタビューを行った。自閉症スペクトラム障害と、少年事件の間にあるプラスαの正体に迫る。

 宮川医療少年院の少年にインタビューし、自閉症スペクトラム障害の傾向がある少年達の生の声を聞いた。少年達は「ムカついて発散したかった」「やりたい気持ちを抑えられない」「怒られてイライラした」「思い通りにならなくて爆発した」「もっと難しいものを盗みたかった」などと語った。

 児童自立支援施設「阿武山学園」(大阪・高槻市)の中には中学校がある。児童自立支援施設とは、犯罪などの不良行為をしたり、する恐れのある少年たちを自立させる施設であり、進学に向けて支援を行う。入所者の中で自閉症スペクトラム障害の傾向がある少年達に話を聞くと、「ハマったら止まらなくなってしまう」「人がいった事を理解するのが苦手」「テンションのコントロールが出来ない」などと語り、社会での生きづらさが垣間見えた。

 家庭裁判所の調査官として少年達と接してきた、京都工芸繊維大学の藤川洋子特定教授は、自閉症スペクトラム障害と少年事件の関係について、「自閉症スペクトラム障害=犯罪ではないが、様々な要因が結びついて犯罪に至ってしまうという事例はある」と話した。自閉症スペクトラム障害などの発達障害の診断を受けた子どもを持つ親が集まる「アスペ・エルデの会」を取材すると、親達は「自閉症スペクトラム障害と犯罪を短絡的に結びつけるのはとんでもない。本人が一番自分の障害に困っている」などと話した。

 浜松医科大学の杉山登志郎医師は「発達障害だけでは何も起きない。プラスαの要因がないといけない」と語る。杉山医師によると、そのプラスαとは過剰な叱責や学校でのいじめなどの迫害体験であり、犯罪に繋がる可能性が高まるという。杉山医師の調べによると、自閉症スペクトラム障害の子どもが虐待を受けると非行に走ってしまう確率は3.7倍、ネグレクトだと6.3倍にも増えるという。宮川医療少年院

 警察庁の発表によると、虐待を受けた恐れがあるとして警察が児童相談所に通告した子どもは2015年には3万7000件を越え、過去最多となった。今回取材した宮川医療少年院の少年達6人すべてにネグレクトやいじめの経験があった。これが杉山医師が言うプラスαなのだろうか?杉山医師は、トラウマは脳に大きなダメージを引き起こす為、自閉症スペクトラム障害と犯罪をトラウマが結びつけてしまう場合があると話した。

 杉山医師は、トラウマを見つけ出して処理する治療を行っており、その現場に立ち会った。自閉症スペクトラム障害の診断を受けたという少年は、コミュニケーションが苦手で自分の行動が抑える事が出来ないと話した。治療には「パルサー」という器具を使うが、この器具の振動する部分を左右の手にもたせて交互に刺激を与えると、感情を司る右脳を落ち着かせ、理性を司る左脳を活発化させる事が出来るという。記憶に埋もれていたトラウマを探しだす事が目標だが、患者の安全が第一で、フラッシュバックなどの副作用が起きないようにやらなければいけないという。

 自閉症スペクトラム障害の診断を受けたという少年を杉山医師が診察していった結果、少年が暴力行為を繰り返す原因は親からの虐待から来るトラウマであった事が判明した。少年の母親も自閉症スペクトラム障害があり、彼女も子どもの頃に自分の母親から激しい叱責を受け続けていたという。彼女は幼い頃に母親から音楽への道を断念させられており、自分の母親から受けた心理的虐待がトラウマとなり、彼女も息子にしつけのつもりで虐待を行ってしまっていたのだった。少年の治療をすすめる為にはまずは母親が自分のトラウマを上手く処理出来る様にしなければならなかった。

 児童精神科医の宮口幸治さんは、6年前にここに赴任し、少年達を診察する中で、少年達は認知機能が弱いという事に気づいたという。認知機能が正常に働いていないと、特に見る・聞く事から得る情報が正しく認識されず、自分では間違っていないと思っていても誤った行動に出てしまう。宮口医師は自閉症スペクトラム障害などで困っている子ども達の特徴について「認知機能の弱さ」「身体的不器用さ」「融通の利かなさ」「感情理解の乏しさ」「対人スキルの乏しさ」「不適切な自己評価」の6つを挙げる。

 宮川医療少年院では、再犯を防ぐ試みが行われている。認知機能の訓練という事から「コグトレ」と名付けられたその訓練とは?

 宮川医療少年院では、再犯を防ぐ試みが行われている。認知機能の訓練という事から「コグトレ」と名付けられたその訓練は、週に2度、およそ90分間行われている。認知機能の弱さを改善する訓練「最初とポン」は、教官が読み上げる文章を聞いて最初の言葉だけを記憶し、文章の中に動物が登場したら手を叩かなければいけないという物だった。訓練を取材していると少年達はトレーニング中に先生の言葉を遮っており、話を最後まで聞く事が出来ないという自閉症スペクトラム障害の特徴が出ていた。

 身体的不器用さを改善するコグトレは「キャッチ棒」。新聞紙を丸めた棒を相手に投げて渡すという物で、相手との距離感を養う。宮川医療少年院の法務教官の佐藤秀紀さんは、日々の少年達の行動を見る中で、力の入れ具合や体の感覚がしっかりしていない事に気づいたという。また、認知機能の弱さと身体的不器用さを同時に改善出来る「色か絵か?」というトレーニングもある。絵の行動と色の行動を記憶し、絵と色を組み合わせて行うトレーニングだった。コグトレを続けた少年の絵は、わずか4カ月で驚くほどの変化を見せたという。

 コグトレは少年院以外でも広がりつつある。非行化した子ども達の進学を支援する大阪市立弘済中学校分校の奥村教頭(当時)は、コグトレを導入した理由について「この学校の卒業生の高校中退率は85%から90%以上。その原因は授業をきちんと聞けない事や、人の話をきちんと聞けない事」と話した。考案者の宮口医師は、学校教育の現場でもこのコグトレを必要としているはずだと訴えている。

 大阪府にある和泉市立国府小学校では、新たなる試みが始まっている。それは通常の授業についていくのが難しい子どもの為の特別支援学級で、勉強だけでなく生きづらさも改善してくれると、コグトレには大きな期待が寄せられている。自閉症スペクトラム障害の傾向がある子ども達に日常で感じている悩みを聞くと、「友達がやっているとしたら自分となんか違うと思う」「失敗ばかりしてしまう」などの意見が出ていた。


発達期のセロトニン減少が自閉症発症メカニズムに関与する可能性

2017年07月16日 08時34分13秒 | 発達障害
 自閉症の科学的解析記事です。
 セロトニン減少は、果たして原因なのか、結果なのか・・・・

■ 発達期のセロトニン減少が自閉症発症メカニズムに関与する可能性-理研
QLifePro:2017年06月26日
◇ 15番染色体において重複異常が頻出
 理化学研究所は6月22日、モデルマウスを使った実験で、発達期のセロトニンが自閉症発症メカニズムに関与する可能性を明らかにしたと発表した。この研究は、同脳科学総合研究センターの内匠透シニアチームリーダー、日本医科大学大学院医学研究科の鈴木秀典教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は「Science Advances」に6月21日付けで掲載されている。
 自閉症(自閉スペクトラム症)は、社会的コミュニケーション能力の欠如や繰り返し行動が特徴的な発達障害のひとつであり、症状は生涯にわたり表出する。また、自閉症の罹患率は年々増加しており、2010年の米国の調査では、約68人に1人が自閉症だとされている。そのため自閉症の症状を緩和させる療法の発見に向けて、原因解明が社会的に強く求められているが、その発症メカニズムはほとんどわかっていない。
 自閉症患者の中には、ゲノム異常を持つ人が見つかっており、なかでも15番染色体において重複異常が頻出することが知られている。また、過去の研究で、自閉症患者の脳内において神経伝達物質のセロトニンが減少していることが示されていた。

◇ セロトニン療法が自閉症に効果的である可能性
 研究グループは、ヒトの15番染色体重複と同じゲノム異常を持つモデルマウス(15番染色体重複モデルマウス)を解析したところ、脳内セロトニンの減少に関連して、セロトニンの供給元である中脳の縫線核の働きが低下していることや、セロトニン神経の投射先である大脳皮質(体性感覚皮質バレル野)での感覚刺激の応答異常を発見。また、発達期に重点をおいた選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)による薬理学的なアプローチでモデルマウスの脳内セロトニン量を回復させることにより、縫線核と大脳皮質の電気生理学的異常を改善させることに成功。さらに、15番染色体重複モデルマウスの成長後にセロトニン量を回復させることで、社会性行動異常も改善することがわかったという。
 抗うつ薬として使用されているSSRIは、過去にも自閉症患者に対して投与されてきた実績があるものの、その効果について結論が出ていなかった。今回の研究成果は、セロトニン療法が自閉症に効果的である可能性を示すもの。今回の研究による知見は今後、自閉症の適切な治療法の開発にも貢献するものと期待できる、と研究グループは述べている。


理化学研究所 プレスリリース

自閉症の人が他人と目を合わせない理由

2017年07月16日 06時36分49秒 | 発達障害
 自閉症児の行動には意味があることを東田直樹君から教わりました。
 目を合わせないことを脳の過敏性から説明した記事です;

■ 自閉症の人が他人と目を合わせない理由
HealthDay News:2017/07/12:ケアネット
 自閉症の人が他人の目をほとんど見ようとしない理由を追究した研究の結果が、「Scientific Reports」6月9日オンライン版に掲載された。
 研究を実施した米マサチューセッツ総合病院のNouchine Hadjikhani氏は、「自閉症の人は一見、他人との対話に興味がないように見えるが、そうではないことが分かった。目を合わせないのは、脳の特定部位が過剰反応することに由来する過剰な覚醒状態(excessive arousal)の不快感を低減させるための手段であることが明らかにされた」と述べている。
 アイコンタクトを避けることは、社会や個人に対する無関心を示すサインだとみなされることが多い。しかし、自閉症の人は「他人と目を合わせると不快感やストレスを覚える」と話すことが多いと、同氏らは指摘する。
 今回の研究ではこの問題を検討し、皮質下系(subcortical system)と呼ばれる脳の経路が関与していることを突き止めた。この経路は、乳児期には人間の顔に関心を示すように促し、後には他人の感情を理解することを助ける働きがあり、アイコンタクトをしたときに活性化される。
 同氏らは自閉症の人(23人)と定型発達の対照群(20人)に人間の顔の映像を見せ、自由に見てもらった場合と、目の領域だけを見てもらった場合の脳の活動を観察した。その結果、自由に見てもらった場合は両群で同様の脳の活動がみられたのに対し、目の領域だけを見た場合、自閉症の人では脳の皮質下系が過剰に活性化することが分かった。この傾向は特に怖がっている表情の顔を見たときに強くみられたが、楽しそうな顔や怒った顔、普通の顔でも同じ結果が得られた。
 Hadjikhani氏は、この知見が自閉症の人の関心を引くための有効な方法につながる可能性があると述べている。「自閉症児に対する行動療法では、他人の目を見ることを強制すると大きな不安を与える可能性がある。アイコンタクトを少しずつ習慣化する方法を取ることで、自閉症児はこの過剰反応を克服し、長期的にみればアイコンタクトをできるようになるかもしれない。それにより、人と目を合わせないことが社会脳の発達に及ぼす連鎖的な影響も回避できる」との見方を同氏は示している。


<原著論文>
・Hadjikhani N, et al. Sci Rep. 2017 Jun 9.

「ギーク」(Geek)とは?

2017年07月03日 06時09分51秒 | 発達障害
 見慣れない単語ギーク(Geek)。
 下記記事では「知能レベルが高く、興味のあることに対する集中力がある一方で、人付き合いは苦手なタイプの人を指す口語」と説明されています。
 そしてこの傾向は、高齢の父親の息子に多く、社会的に成功する傾向がある一方で、ギーク度の高さと自閉症には共通した遺伝子変異が関与している可能性を示唆しています。

 う〜ん、一部うなづけるところがありますね。

■ 高齢の父親の息子は“ギーク”度が高い?
HealthDay News:2017/07/03
 若い父親の息子よりも、高齢の父親の息子の方が、「ギーク(Geek)」になる可能性が高いことを示唆する研究結果が「Translational Psychiatry」6月20日号に掲載された。
 「ギーク」とは、知能レベルが高く、興味のあることに対する集中力がある一方で、人付き合いは苦手なタイプの人を指す口語。今回の研究を実施した米マウントサイナイ・アイカーン医科大学シーバー自閉症センターのMagdalena Janecka氏らは、「ギークの特性があると、学業で優秀な成績を収め、現代社会で成功しやすい」としており、父親が高齢であることのベネフィットを示されたとしている。
 同氏らは今回の研究で、英国の双生児を対象とした研究であるTwin Early Development Study(TEDS)に参加した子ども7,781人の12歳時の非言語的な知能レベルや興味の限定および反復行動、社会的孤立の評価データに基づき、子どもの “ギーク度”をスコア化した。
 その結果、男児の場合、父親が高齢になるほどギーク度のスコアが高まることが示された。一方、このような関係は女児では認められなかったほか、母親の年齢による影響はなかった。
 これまで、高齢の父親を持つ子どもは自閉症や統合失調症を発症する可能性が高いことを示す研究報告が相次いでいたが、Janecka氏は「今回の研究では高齢の父親の息子は学業面でもキャリア面でも有望であることが示された」としている。
 また、この結果について同氏は「高齢の父親の方が若い父親よりもキャリアが確立されていて、裕福である可能性が高いことが背景にあるのではないか」と考察。それによって、子どもがより恵まれた環境で成長し、レベルの高い学校に進学できているとも考えられるとの見方を示している。
 さらに同氏は、ギーク度の高さと自閉症には共通した遺伝子変異が関与している可能性を示唆。こうした遺伝子変異は高齢の父親に多くみられる傾向にあることも分かっているという。同氏は「このような遺伝子変異をいくつか持って生まれた子どもは学業で優秀な成績を収めるが、たくさんの遺伝子変異があり、さらに他の危険因子が加わると、自閉症の素因になる可能性があるのではないか」との推測を示し、「最近報告された自閉症と知能指数(IQ)の高さには共通した遺伝子が関与していることを示す研究結果も、それを支持している」と説明している。


<原著論文>
・Janecka M, et al. Transl Psychiatry. 2017 Jun 20;7(6):e1156.

「広汎性発達障害児への応用行動分析」(フリーオペラント法) 佐久間 徹 著

2016年06月26日 06時35分22秒 | 発達障害
広汎性発達障害児への応用行動分析」(フリーオペラント法)佐久間徹著、二瓶社、2013年発行

 きっかけは、NHKの「あさいち」という番組です。
 2016/6/22に「ほめて伸ばす!子どもの発達障害」という内容が放映され、その中で「応用行動分析」(ABA:Applied Behavior Analysis)という手法による自閉症スペクトラム患者への療育が紹介されました。

 その方法は至って単純で「望ましい行動が出たら秒速で褒める」が基本。
 それをひたすら繰り返すことにより行動を獲得させるのです。

 考えてみれば、人間の行動は社会生活をする中で、褒められたり責められたりしながら修正・獲得されていきます。
 それを療育の技法として取り入れたもの。
 おそらく「褒めて誘導する手法」は普遍的であり、健常児の発達補助としても有効と思われます。

 それを扱った本を読みたいな、と本屋さんに行って探してみると・・・ゲスト解説者として呼ばれていた平岩幹男Drの本は見当たらず、この本しかありませんでした。
 とりあえず購入して読み始めました。

 すると、興味深い記述が随所にみられました。
 久しぶりに目から鱗が落ちる本に出会い、一気に読了。

 今まではこの分野の書籍を読んでも「まあ納得できるけど実際にどうしたらいいの?」という疑問が解消しきれないものがほとんどでした。
 この本を読んで、すべてではありませんが疑問の一部が氷解しました。
 発達の基本は「模倣」すること。
 そして「模倣」する行動を引き出すには「逆模倣」、つまり親が子どもの行動をまねることが有効であると説いています。
 「模倣」を楽しいこと・うれしいことと捉えられるようになると、一つ一つの行動を教えなくても、どんどん発達が進むようになる。
 と、驚くような手法が記されています。

 ただし文中にもありますが、専門用語をかみ砕いてわかりやすく説明した一般読者向けとなっていませんので、医療関係者以外にはちょっと敷居が高いかもしれません。

 もう一つのこの本の魅力は、「私は棺桶に入る日が近いので、好きなことが云える」と本音トークで権威筋を批判しているところかな。あらら、そこまで書いて大丈夫? と心配になるほど(^^;)。

 内容のエッセンスを「まとめ」から抜粋します;

・言語発達のためにはまず、人を好きにならなければならない。依存し、依存される関係が基礎になる。行動分析的言い方では、相互強化関係が必須条件である。

・言語発達遅滞という問題の解決のカギは、言語発達のための条件整備と発達妨害要因の排除である。

・喃語の相互模倣からスタートして、有意味語の生成をまつ。発生や発語の強制や誘導は厳禁、あくまでも自発発声、自発発語を待つ。発音や言葉遣いの修正、訂正も厳禁。修正、訂正が一番の言語発達阻害要因になる。赤ちゃん言葉を経由せずに成人の言語レベルに達する人はいない。発達過程で働く自動的行動修正機能の働きを待つべきである。

・発声の相互模倣と行動の相互模倣を同時進行させていると、社会性や身辺自立も付随的に発達が進行する。社会性と呼んでいるものの大半は、相互模倣だからである。

・訓練で一つ一つを積み上げる指導はどうしても発達に歪みを作ってしまい、訓練がきつすぎると強烈な拒否反応に出会う。十分に模倣反応の自発性を高めれば、発達の大半は模倣反応を誘発させるモデルの提示だけで済む。

・子どもの行動に対する逆模倣は行動変容の効率は悪いが、模倣行動の自発性にははるかに有利で、子どもは喜び、無理がなく、失敗事例がゼロになる。

・不適応行動への対処:生活上の困難が深刻な場合には、不適応行動の消滅ではなく、弱化を目指す方が効率的である。反応強度分化強化法が有用である。


 ピンと来ない文言が並んでいますが、本書を一読すると頷けますので、興味のある方はどうぞ。

<メモ> ・・・自分自身のための備忘録

■ おねしょ
□ 具体的解決策その1
①生活全体をよく見回し、ストレスになっていると思われるものをできるだけ排除、低減する。
②入眠時に十分にリラックスする。
③水分の制限は昔からの常套手段だが、水分の不足は生理的に強いストレスになり、おねしょに逆効果である。終診30分前にたっぷり水分を取り、排尿後に寝る。
④朝、布団がぬれていないときには子どもと一緒に大喜びをする。失敗の朝は黙って後始末をする。
①-④で2週間経過観察し、効果が確認できたらそのまま続ける。重症ケースを含めて、これだけで半数は完治する。とくに水分制限の解除がポイントである。改善ない場合は次へ。
□ 具体的解決策その2
 寝具と寝室の雰囲気をガラッと変えてみる。とくに重要な点はアンモニア臭のない状況にすること。
 おねしょの子どもにとって、ベッドの中が排尿促進に働く正の条件刺激になっているため、ふだんとは全く異なる環境で寝てみるのである。1週間で効果がない場合は次へ。
□ 具体的解決策その3
 夜半覚醒を試みる。
 夜、何時頃排尿しているかおよその時間を調べて、それより半時間ほど早いタイミングで覚醒させ、トイレ排尿をさせる。このとき、なかなか目覚めないので抱きかかえたり、両手を引っ張りながらトイレに行くなど、半覚醒排尿をしていることが多いようだが、これでは半覚醒排尿の習慣づけにとどまり、おねしょを卒業できない。必ず、声かけ、身体揺すりだけで起こす。トイレまで自力で歩かせ、はっきり覚醒状態にしてから排尿させる。そして終わったら大いに褒めそやし、抱っこでベッドへ戻る。翌朝、布団が乾いていることを確認させ、一緒に大喜びをしてほしい。
 長期にわたりおねしょを繰り返している子どもは、夜半の覚醒が苦手なことが多いようだが、それは渇きのストレスや不安のストレスに抗して寝ているために、睡眠と覚醒の切り替え困難な状態ができあがっているためである。
 この方法を続けていると、次第に夜半覚醒がスムーズになってくる。1ヶ月で効果が得られない場合は次の最終手段を試みる。
□ 具体的解決策その4
 アラームパンツを使う。
 実は、長年おねしょの子どもを扱ってきて、どうしても成果が上がらない場合には最後の手段としてアラームパンツの使用を予定していたが、私は過去に一度も使ったことがない。


「子どものうつと発達障害」(星野仁彦著)

2012年06月02日 09時50分23秒 | 発達障害
 青春出版社、2011年。

 最近気になる患者さんがいて、今まで手を付けてこなかった分野なので手元にあった入門書を読んでみました。
 著者は心療内科医(専門は児童精神医学)、肩書きは福島学院大学教授で、発達障害関係の著作がいくつもあります。
 この本も、わかりやすい言葉で丁寧に説明されており、好感が持てました。

 著者は「発達障害」を「発達アンバランス症候群」と呼ぶべきである、と主張しています。
 成人の痴呆症→ 認知症精神分裂病→ 統合失調症と、マイナスイメージのある文字を消してきたのに対して、子どもの病気には「障害」とマイナスイメージを固定するような表現がされることに私も違和感を持ってきましたので、賛同します。

 そして問題なのは、発達障害を抱える子ども達へのケアが不十分なために、合併症・二次障害を発症して将来の社会生活に支障が出ることを指摘しています。
 発達障害そのものは遺伝的要因が大きいとされています。
 しかし、近年の発達障害増加傾向や合併症・二次障害の発生は環境要因が大きいらしい。
 著者は「脳の機能障害が増えたからではなく、発展途上にある子ども達に不適切な子宮内膜環境、社会環境、家庭環境があり、それらの要素が複雑に絡まり合っている」と推論しています。

 大切なのは認識・受容してサポートすること。
 サポートのキーワードは「母子関係」そして肝は「母親の笑顔」。
 その母親の笑顔のためには「良好な夫婦関係」が必要と記しています。

 まあ、他の児童精神医学の書籍と同じ論調ですね。

 う~ん、ここでも父親が諸悪の根源のように書かれているのが残念です。
 日本の年間自殺者は3万人、そのうち7割が男性です。
 つまり、日本男性は社会に追いつめられ、家庭でも居場所が無く自ら命を絶つ傾向があります。
 その事実に触れられていません。
 その父親に「母親が笑顔でいられるようにサポートしましょう」と言葉で云ってもできるわけがないと思います。

 すると、子どもの問題はやはり「社会的弱者にしわ寄せが来ている」と云うことになってしまう。
 社会が父親に優しければ、母親も子どもも笑顔になれるはずなのに。