“子ども”を取り巻く諸問題

育児・親子・家族・発達障害・・・気になる情報を書き留めました(本棚4)。

不登校の多軸評価(斎藤万比古先生)

2015年03月25日 07時01分08秒 | 子どもの心の問題
 2014年7月20日に開催された日本小児漢方交流会主催講演会「第14回日本小児漢方懇話会」のテーマは「子どものこころと漢方」でした。
 その中で、招待講演「子どものこころの治療ー現状と治療の課題」(斎藤万比古先生)が印象的であり、とくに不登校の捉え方が勉強になりました。
 製本化された「小児疾患の身近な漢方治療13」(メジカルレビュー社、2015年発行)から一部を抜粋します;

■ 不登校を診立てる
第1軸:精神疾患(発達障害を除く)の診断
 精神疾患が存在するなら、それは何か?
第2軸:発達障害の診断
 発達障害が存在するなら、それは何か?
第3軸:不登校の下位分類
・過剰適応型 ・・・学校で背伸びをして適応的であろうと努めるタイプ
・受動型   ・・・萎縮し緊張しているタイプ
・衝動型   ・・・衝動統制が悪くて孤立しがちなタイプ
・混合型
第4軸:不登校経過の評価
・準備段階    
・開始段階
・ひきこもり段階
・社会との再会段階
第5軸:環境の評価


 確かに、このように整理すると問題点が浮かび上がり、対策も考えやすいですね。

 それから、齊藤先生は子どものこころの問題がもたらす、さまざまな影響も重視しています。
 「順調な生活と順調な発達路線の挫折」という大きな衝撃が本人と家族、ときには学校関係者までも襲う、それも考慮した対応と支援が必要であると;

 忘れてならないことは、親にとってもこの出来事とその後の治療経過は重大な挫折だったということである。そこからの立ち直りの作業そのものが、これまでの親自身の生き方との直面を意味したのではないだろうか。子どもの精神疾患の回復に寄与できたという親の実感が、治療終結時にいささかでも存在していたとすれば、そこに親の生き方、あるいは親の思いと子どもの人生との決定的な違いを当然のものとして受け入れる度量といい意味での「あきらめ」が、親に与えられた味わい深い果実として存在したはずである。
 治療とは、このような「親の苦痛に満ちた見守り」の姿勢に同伴する次元を必ず含んでいなければならない、と考える。


 確かに、子どものこころのトラブルに遭遇した親は「自分の子育てのどこが悪かったんだろう?」「自分が子どもの頃経験したあの時の感じと似ているのでは?」などと自問自答する傾向がありますね。
 さらに、治療者(つまり主治医)にも影響を及ぼし、治療者を鍛えると言及しています;

・子どもの治療は治療者の思春期葛藤を刺激する。とりわけ自立の危機や、自己愛的傷つきへの過敏性をめぐるつらさを刺激され苦しくなることがある。
・それへの防衛は治療者を万能的救済者の心性に走らせたり、抑うつ的にさせる傾向がある。その克服が治療者を鍛え大人にする。


 齊藤先生の話を聞いていると、子どものこころの問題や不登校は、マイナス面ばかりではなく、本人と周囲の人々(家族、学校/医療関係者)に乗り越えるべき課題を与え、克服することで大人になっていく/鍛えられる、という視点で見ることもできそうな気がしてきました。

「愛着障害」の治療にオキシトシン

2015年03月01日 08時40分42秒 | 子どもの心の問題
 先日見たNHKの番組「クローズアップ現代」(少年犯罪・加害者の心に何が ~「愛着障害」と子供たち~)は考えさせられる内容でした。

<番組内容紹介>
 16歳の少女が通信アプリ・ラインでつながった同世代の少年少女に殺害された「広島強盗殺人事件」。去年秋、主犯格の少女に1審判決が下された。残忍な犯行に酌量余地はないものの、幼少期の「愛着不形成」の影響が大きいことなどが加味され、求刑より減刑となり、注目された。いま、幼少期に周囲との信頼関係が育まれない「愛着不形成」に関する研究が進んでいる。脳の特定部位が萎縮を起こす、自己の行動抑制ができなくなるなど、「精神症状」や犯罪行動につながるメカニズムを解き明かそうというのだ。さらに愛着形成に失敗した少年たちの更正や回復をどうするかの研究も始まっている。福井大学病院では、愛着形成と関わりの深いホルモンを投与することで、脳へ働きかけ、治療につなげようという取り組みが行われている。一度生じた「愛着不形成」の克服には時間がかかる。広島の強盗殺人の主犯格の少女も、母親との手紙のやりとりなどを通じて、親子関係修復への第一歩を踏み出そうとしている。子どもたちの「愛着形成」を、社会全体で支えていく仕組みを考える。


 その中でショッキングだったのは、愛着障害の治療として「オキシトシン」が治験中というニュースです。
 オキシトシンは「幸福ホルモン」「愛情ホルモン」「抱擁ホルモン」などと呼ばれる、ヒトの体にもともと存在する物質です。

オキシトシン(Wikipediaより)
 2010年4月24日 金沢大学「子どものこころ発達研究センター」が知的障害のある自閉症患者にオキシトシンを投与したところ自閉症患者の症状が改善したと発表。主治医の棟居俊夫特任准教授は「知的障害のある患者で効果が確認された例は初めて」とコメントした。またアスペルガー症候群でも効果が確認されたとの報告もある。これを知った同センターに通院する20代の男性が2008年にオキシトシンの点鼻薬を輸入・服用(数か月間)しところ、主治医の目を見て話す、対話中に笑顔を見せる、IQテストが受けられるようになるなどの症状の改善が見られ、その後10か月間の投与でも改善の持続が確認された。男性は3歳で自閉症の診断を受け、以前は他者と目を合わせることができず、オウム返しの反応しかできなかった[2]。東京大、金沢大、福井大、名古屋大の4大学で大規模な臨床試験が行われる予定である。


 親の愛情の代わりに薬を使用するという時代になってしまうのか?
 人類存亡の危機ですね。

 別の視点の記事を日経メディカルに見つけました。
 虐待された子どもが親から引き離され、養子として受け入れた里親の愛情で回復するという報告です;

虐待児の脳の発達障害、里親での養育で改善 ~ルーマニアで行われた2歳児対象のランダム化比較試験が示唆
(日経メディカル:2015/2/13)
 生後の脳の発達は、環境と経験に大きく依存する。ネグレクト(養育放棄)が深刻な養護施設にいた2歳前後の子どもが、暖かい里親家庭に引き取られると、6年後には大脳白質の微細構造の統合性が普通の家庭に育った子どもと差の無いレベルになる──。そんな希望に満ちたデータが、ルーマニアで実施されたランダム化比較試験からもたらされた。米Boston小児病院のJohanna Bick氏らが、JAMA Pediatrics誌電子版で2015年1月26日に報告した。
※ 「Effect of Early Institutionalization and Foster Care on Long-term White Matter Development: A Randomized Clinical Trial

 次世代を一人前の人間に育て上げることは、最優先課題。
 すべからく生命体は、自分の身を削って生み育ててきました。

 昨今、自己実現>子育ての風潮を感じるのは私だけでしょうか。
 その流れの中で「愛着障害にオキシトシン」という短絡的な治療が発案されたのでしょう。