「立ちくらみがする」「めまいがする」「疲れやすい」「朝なかなか起きられない」と訴える中学生の相談を時々受けます。
血液検査で貧血やほかの病気の可能性が否定されると、
「起立性調節障害」という病態を疑います。
これは自律神経失調症の思春期版とも言える病名です。
自律神経は体中に張り巡らされており、
体の働きを自動で調節していますから、
これが乱れると様々な症状が出ておかしくありません。
つまり「何でもあり」なのです。
ちなみに、診断は除外診断と症状を数えて行います。
★ OD身体症状項目(項目が3つ以上当てはまるか、あるいは2つであってもODが強く疑われる場合には、アルゴリズムに沿って診療する)
1. | 立ち眩み、あるいはめまいを起こしやすい |
2. | 立っていると気分が悪くなる。ひどくなると倒れる |
3. | 入浴時あるいは嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる |
4. | 少し動くと動機あるいは息切れがする |
5. | 朝なかなか起きられず午前中調子が悪い |
6. | 顔色が青白い |
7. | 食欲不振 |
8. | 臍疝痛をときどき訴える |
9. | 倦怠あるいは疲れやすい |
10. | 頭痛 |
11. | 乗り物に酔いやすい |
なんだか「体調が悪い」ことを数えただけという診断基準で、
捉えどころがありませんね。
西洋医学では、立ちくらみ・めまい・朝の調子が悪い現象を、
「起立性低血圧」という視点で捉え、
血圧を上げる治療をします。
メトリジン®やリズミック®という薬がそれです。
それから驚いたことに、塩分過量摂取を“治療”として勧めます。
その量は、1日10〜12g!
ホ、ホントにいいの?
と私は以前から感じており、
学会レベルでもいまだに質問が出る治療です。
そして、失神のエピソードのある患者さんには、
「新起立試験」という検査を行います。
これは連続して血圧を測り続ける必要があるため、
特殊な器械がないとできません。
つまり開業医ではできないところが多いため、
病院へ紹介することになります。
新起立試験の結果、
いくつかのサブタイプに分類されます。
さて、そこまで検査・治療しても手応えがない場合、
ガラッと方針が変わって「心身症」として扱うのが、
現在の日本のガイドラインです。
そして「専門家(心療内科医、児童精神科医)にコンサルトする」ことになるのですが、
その“専門家”がふつう、周りにいません。
というわけで、西洋医学的“起立性調節障害”は、
開業小児科医では手が出しにくい疾患になってしまいました。
一方で、起立性調節障害は不登校とリンクして語られることも多い病気です。
「朝起きられない」→ 「学校へ行けない」
とわかりやすい。
ここで、
「朝起きられない」→ 「学校へ行けない」
「学校へ行きたくない」→ 「朝起きられない」
のどちらの方向がメインなのかという問題が発生します。
後者の要素が大きい場合、
子どもはあらゆる手段を使って、
無意識のうちに学校へ行けない理由を作り上げます。
その中に起立性調節障害の診断基準を満たす症状もあるわけです。
精神科医の意見によると“不登校”の原因は、
発達障害や他の疾患の可能性はあるけれど、
それらを除くと「人間関係」の問題に帰すると説明します。
その人間関係とは、
・教師との関係 → モラハラ・パワハラ
・友達との関係 → いじめ
とのことです。
以上より、
起立性調節障害症状を訴える思春期の患者さんの相談を受けたら、以下のような診療フローになると考えます;
・基礎疾患の存在を検査で検討→ 見つかればその治療
↓
(基礎疾患なし)
↓
・起立性調節障害基準を満たすか確認 → 満たせばその治療
↓
(治療の手応えなし)
↓
・心因性を考慮し、専門医へつなぐ、カウンセリングを受ける
ここで注意が必要です。
“心因性”というと、
どうしても周囲は「怠けている」とか「仮病だ」という視点で患者さんを見る傾向がありますが、
症状を訴える本人はとてもつらいのです。
言葉で訴えられないから、体が症状としてSOSを出しているのです。
ですから、症状をやわらげる治療とともに、
原因検索(人間関係の問題解決)とカウンセリングを行わないと、
おそらく解決に向かわないでしょう。
毎年9月の夏休み明けは、
不登校や子どもの自殺が話題になる季節です。
そんな記事を拾ってみました。
なお、赤字や下線は私が手を加えました。
▢ 朝起きられず全身に倦怠感…子供を苦しめる「起立性調節障害」を知っていますか?
子供を持つ家庭は、多くがあすから新学期だろう。親は子供の世話をせずに済むことにホッとする一方、ストレスを抱えた子供はつらさを感じているかもしれない。夏休み明けは不登校が始まったり、最悪の場合、自死を招いたりする。子供のSOSをどう受け止めればいいか。
◇ ◇ ◇
不登校の生徒数は中学で急増する。文科省が毎年、調査している「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸問題に関する調査結果」(2020年)によると、不登校の生徒数は、小学生が全体の1%に当たる6万3350人。それが中学生になると、13万2777人にハネ上がる。25人に1人の割合で、クラスに1人か2人は、不登校の生徒がいる計算だ。高校生は4万3051人で、約1.4%。
友人や教師との関係や勉強の遅れ、中学生なら進路の問題も重くのしかかる。それらが複雑に絡まって、あるとき、学校に行けなくなる。そのキッカケのひとつが、夏休み明けで、夏休みの宿題が終わらないことなどを理由に2学期の初日から数日休むと、それからまったく登校できなくなったりする。
東京脳神経センターの松井孝嘉理事長が言う。 「子供が自宅の部屋に引きこもって、四六時中スマホやパソコンをやり続けるのは、勉強がおろそかになること以上に、子供の精神面への影響からよくありません。首の筋肉が障害され、それによって首を通る自律神経も異常をきたすのです。その病名が、起立性調節障害。頭痛やめまい、首や肩の凝り、吐き気、食欲不振、ドライアイ、不安、無気力、倦怠感、集中力の低下のほか、うつもあります。この病気が悪化すると、不登校になりやすい上、自殺とも密接に関係するため要注意です。
日本小児心身医学会は軽症も含めると小学生は約5%、中学生は約10%が起立性調節障害だという。小学校高学年から中学生の間に発症することが多く、男女比は女性の方が1.5~2倍多い。不登校の生徒のうち、3~4割はこの病気とみられる。
立ち上がったり、体を起こしたりすると、脳への血流が低下し、さまざまな症状が現れる。重症になると、朝起きられずベッドに寝たまま過ごすことも珍しくないが、午後になると調子が戻ることも多く、「怠け者」「学校をサボるための仮病」などと誤解されるゆえんだ。
親としては、ひきこもりも不登校も心配の種。その先に自殺があるとすると、「頑張って学校に行きなさい」などと子供の尻を叩くのは禁物だろう。 高校生以下の自殺者数は、2020年に過去最多の499人を記録。昨年は26人減ったものの、400人を大きく超えて高止まりしている。その数を月別に見ると、過去5年の合計は9月205人でトップ。8月が204人で続く。データも、夏休みから2学期にかけて自殺者数が増えることを示している。
子供がトンネルにはまって先が見通せないばかりか、自ら命を絶っては親としてはたまらない。決して軽い病気ではなくて、自殺を念頭においてしっかりと対応しないと危ういという。では、どうすればいいか。松井氏に聞いた。 「起立性調節障害には、倦怠感や頭痛などの全身症状のほか、うつ症状があります。このうつ症状は、精神障害のうつ病(大うつ病)とは全く異なるもの。大うつ病の自殺率は重症で15%ですが、起立性調節障害によるうつ症状が重症化すると、いつ自殺しても不思議ではない状態になります。全身倦怠感がとにかくひどく、生きがいをまったく感じられず、それまで楽しかったことも楽しく感じられません。常に不安と頭重感に強く悩まされるのです。自殺との兼ね合いでは、大うつ病より起立性調節障害の方が5倍も自殺リスクが高い」
スマホやタブレット、PCの普及で起立性調節障害は、患者数が低年齢化しながら増える傾向にあるそうだ。なるほど、最近はベビーカーに乗った子供がスマホやタブレットで動画を見ていたりする。生まれてすぐ“スマホ漬け”といっても過言ではないだろう。そうやってスマホなどの画面を見つめる、うつむく姿勢が自律神経をじわじわとむしばんでいく。
日体大の野井真吾教授と城所哲宏助教は2019年、東京・世田谷区の公立小中学校に通う8~15歳の3万4643人を対象に電子デバイスと精神面への影響をアンケート調査。回答に不備があったものを除外し、2万3573人を分析した。電子デバイスの使用は、1週間当たりのテレビ、ビデオ、DVDの視聴時間、オンライン動画のプレー時間、そして中学生のみSNSの利用時間をチェックした。 うつ状態の割合は、小学生男子が3.3%、同女子が2.7%で、中学生男子が9.5%、同女子が8.8%。その上で電子デバイスとの関係を調べたところ、SNSの利用時間が1週間に2時間以上だと、中学生の男女ともにうつリスクが有意に高いことが判明。
オンライン動画は、中学生男子でうつリスクの低さと有意な関係を示したが、1週間に2時間以上視聴する小学生男子、1週間に30~60分視聴する小学生女子では、うつリスクの高さと有意な関係が見られた。テレビは、小学生女子を除き、うつリスクが低いことと有意に関係したという。
この結果から、研究チームは、SNSなど新しいタイプのデバイスの使用時間は、うつレベルの高さと関連していると解説する。松井氏の見方を裏づける研究結果といえるだろう。
では、どうすればいいか。
「頭の重さは5~6キロですが、スマホやPCなどを見てうつむき加減の姿勢だと、首への負担はその3倍になります。まずスマホやPCを長時間使用しないこと。アップルの創業者スティーブ・ジョブズは、iPadを子供のそばにおかず、マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツは自分の子供には14歳までスマホを持たせなかったといいます。このことからITの巨人たちは、スマホやPCが子供の精神に与える影響を把握していたことが分かるでしょう。これらを15分使ったら、30秒首を休めるといい。頭と首の境目あたりで両手を組んで、頭を後ろに反らして30秒キープすると効果的です。濡れタオルなどを電子レンジで温めて首の後ろに当てるのもお勧めします」
首や肩がつらいと、自分でそのあたりをもんだりしがち。自己流のマッサージは、逆効果だという。
「自分でやるなら、首伸ばしと保温が一番です」
日体大の研究では、十分な運動はうつのリスクを低くすることが分かっているから、運動も重要で、さらに十分な睡眠も欠かせない。
松井氏の元には日本全国から親に付き添われて心を病んだ子供が訪れている。「自殺に失敗した子供や自殺寸前の子供たちです」というから深刻だ。 「乱れた自律神経を改善することが治療の目標ですが、一般の小児科や内科では頭痛には鎮痛剤、ドライアイには目薬、うつ症状には抗うつ薬、不眠症には睡眠薬といった具合に対症療法薬が処方されるだけで、原因である自律神経の治療がなされません。だから、治らない。特に抗うつ薬は百害あって一利なし。それで症状をこじらせてしまうのです。しかし、この病気は、首を改善すれば確実に治ります。その治療が首への低周波刺激や遠赤外線による理学療法です。重症の場合は、入院で治療します」
精神障害としての大うつ病と起立性調節障害によるうつ状態を見分けるポイントがあるそうだ。 「大うつ病では、『理由のない悲しみ』が特徴で、悲しみから目に涙をためていることがよくあります。起立性調節障害によるうつ状態では、そのような悲しみはなく、涙目になることもありません。その代わり、全身の倦怠感が強く出ます。その強い倦怠感が要注意なのです」
子供が夏休みの宿題をできないのは、怠けていたのではなく、倦怠感から宿題をしようにも手につかないのだとしたら……。 それが、子供の声なきSOSかもしれない。
インタビューに答えている松井Dr.は「SNSの利用時間が長いと起立性調節障害や“うつリスク”が高くなる、首コリを治療しないとよくならない」という考えの持ち主のようですが、これは学会レベルで標準的とは言えません。
記事が「日刊ゲンダイ」というスポーツ紙ですから、耳半分で読んだ方がよさそうです。
▢ 医師が警鐘「不登校=起立性調節障害」という誤解 加藤善一郎「背景に中学校の『かくれ校則』も」
◇ 起立性調節障害には「単純型」と「複合型」がある
依然として増え続ける不登校。最近はその一因に「起立性調節障害」という病気があることが知られるようになってきた。一方で、「誤解も生じている」と話すのは、小児神経専門医として不登校の子どもたちの診療に当たる岐阜大学大学院教授の加藤善一郎氏だ。
不登校特例校の岐阜市立草潤中学校で「こころの校医」も務め、講演や著作を通じて起立性調節障害の啓発に取り組む加藤氏に、起立性調節障害から学校に行けなくなっている子どもの現状や、周囲が理解すべきことなどについて伺った。
Q. 不登校の背景に多くの場合、起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation/以下、OD)があることは認知されてきたようですが、改めてどのような病気かお教えください。
A. 自律神経系の異常から循環器系の調節がうまくいかなくなる疾患ですが、花粉症(アレルギー)が体質であるのと同じように、ODも自律神経が弱い、感受性が強いといった体質によるものです。 頭痛、腹痛、倦怠感、立ちくらみ、朝起きられないなど、多様な症状が表れます。そうした症状から登校できなくなるのですが、夕方以降は元気になることも多いので、「うそをついているのでは?」「サボりでは?」などと誤解されがちです。そうではなく、体質に起因する病気だということをまずご理解いただきたいです。
Q. 治療法はあるのでしょうか。
A. 通常は水分の摂取量を多くしたり、血圧を安定させる薬を投与したりします。ODには「単純型」と「複合型」があり、OD単純型であればこうした治療で2~3週間後には症状が改善します。以前、医師から「怠けている」「親のしつけが悪い」と責められ、7年間も病院を転々としたお子さんがいましたが、私の外来に来て2週間後にはよくなりました。OD単純型の場合、適切な医療を受ければ大抵の場合、元気に登校できるようにもなります。
Q. 今も適切な医療にたどり着けないケースは多いのですか。
A. ODの認知拡大とともに治療可能な小児科が増え、OD単純型のお子さんは適切な医療につながりやすくなりました。一方で、親御さんや学校の先生、医師の間に「不登校=OD」という誤解が広がっており、ODの治療をしているのになかなか登校できないと「なぜ?」と困惑されてしまう問題が起きています。
OD単純型に適した治療をしても症状が改善せず長期化する場合は、OD複合型であると考える必要があります。自律神経の異常からくる身体症状であるODと、こだわりの強さや敏感さなど本人の特性が絡み合った病態がOD複合型です。ここが見過ごされているケースが多く、私も情報発信に努めているところです。 最近ではODへの対応をアピールする整骨院が増えるなど、ODがビジネス化している印象もあります。治療の選択肢が広がり救われるお子さんが増えればよいのですが、OD複合型の理解が浸透しないままでは、本来の医療につながれないお子さんが増えてしまうのではと危惧しています。
また、ODと特性はまったく別物なのですが、個人の特性があたかもODの一症状のように見えてしまうので、先ほどお話ししたように「サボっている」などとお子さんが責められる事態も起こりがちです。ODと特性は別物であることを理解し、ODの治療とは別に複合する要因もきちんと診断してケアするという認識が重要になります。
◇ 重要な「外的環境」、最も歪みが大きいのは中学校
Q. OD複合型は、どのように診断するのですか。
A. 私の外来ではWISC(ウィスク)検査を行うことが多いです。よく発達障害を診断するための検査と誤解されますが、これは知的作業をする際の「知的な個性」を知るための検査。言語理解、知覚推理、ワーキングメモリー、処理速度という4つの指標と総合IQ(知能指数)を数値化します。 どれか1指標だけ突出して数値が高かったり低かったりする場合は「知的アンバランス」の状態と判定されます。たとえ総合IQの数値が高くてもアンバランスな状態だと、苦手な領域が得意な領域の足を引っ張り、感情や考え方が混乱するなど「困り感」が強くなります。
このほか、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)などの発達特性も調べます。ちなみに私の外来の患者さんは、不登校が長期化している子がほとんどです。ODと知的アンバランス、そしてASDが絡んでいるケースが全体のおよそ95%を占めており、ODの治療とともに発達特性に対する治療も行い、知的アンバランスに配慮しながら内的環境を整えます。
Q. OD複合型の場合は治療期間が長くなるのでしょうか。
A. そうですね。私の外来では、親御さんには「1年以内に手放しで学校に行けるようになるとは思わないでください」とお話しします。実際、登校が始まっても1年以内に何もサポートしなくても大丈夫という状態にはならない場合がほとんどです。 なぜなら、中学校に入って不登校になったとしても、実は小学校の頃から登校渋りがあったり、登校はできていても本人の中で不安や緊張がずっとたまっていたりというケースがほとんどだからです。この場合、長期にわたる我慢が中学校に入ったタイミングで限界に達して不登校になったわけですから、単純型のように数週間で元に戻すことはほぼできませんし、そうしてはいけないのです。
Q. 時間をかけて治療すれば、ODは完治しますか。
A. 完治ではなく寛解のイメージです。OD単純型のお子さんの場合は高校に進学し、服薬をやめても元気にしている方はたくさんいらっしゃいます。ただ、花粉症と同様に体質は残るので、大学に行って夜更かしを始めたことを機に状態が悪くなるなどもあります。とくに睡眠リズムが崩れると調子は悪くなりやすいです。
OD複合型の場合は、本人の体質や特性といった内的環境だけでなく外的な環境の影響も大きいので、治療の段階からその面でのケアが大切になります。
Q. 外的環境の影響とは?
A. 主に家庭と学校の環境ですが、最も大きいのは学校ですね。私は、教育の歪みは中学校がいちばん大きいと思っています。内申書をはじめ、とくに「かくれ校則」が不登校の最大の原因ではないかとみています。これは私の造語ですが、要は非公式のルールのようなもの。 例えば、先生が質問したら生徒は「全員挙手」とか、休み時間なのに次の授業が始まる3分前には勉強を始めなければいけない「3分前学習」のほか、ノートの取り方など個々の学習面に及ぶ決まりもあります。先生が授業ごとにクラスの態度や提出物などを5段階で評価し、すべて5をもらう「オール5day」を年間150回目指すことを掲げる学校もあり、生徒同士で「お前のせいで5がもらえなかった、内申書に響くじゃないか」と言ってけんかになったりもしています。 今は中学校のこうしたルールが小学校にも降りてきているほか、コロナ禍で生まれたルールもあり、子どもたちは不安と緊張でいっぱいになっています。
OD複合型の場合、こうした外的環境が大きく影響します。 そのため私の外来では、中2くらいまでの年齢のお子さんは、登校をゴールとせず、自分に合った高校を見つけて卒業することを目指して治療を進めています。皆さん高校進学を強く希望されており、私もほぼ毎日進路や学習の相談に乗っていますが、とくに困っているのが、ODは病気であるのに診断書を出しても病欠にしてもらえない場合が多いこと。進路に関わることですので、少なくとも病欠は認めていただきたいです。
◇ 「何もしない」ことがいちばんの支援
Q. ODの児童生徒に対して、学校や教員は何をしたらよいのでしょうか。
A. 逆説的ですが、何もしないことがいちばんの支援になります。ODについての理解は教育現場にも広まりましたが、OD複合型への理解はまだ十分ではありません。理解不足のまま的外れのことをすれば事態は悪化しますので、まずは生徒が何に困っているか、どういう状態なのかをよく見ていただきたいです。 例えば、板書をノートに書き写すのが苦手な子どもがいたら、その子のやりやすい方法を尊重してあげてください。まずは観察すること、そしてOD複合型についてきちんと理解すること。そうすれば、「何もしないこと」の重要性、つまり頭ごなしに叱ったり苦手なことを無理やりさせたりするのがどれだけよくないことなのかがわかるようになるはずです。 これは医師も親御さんも一緒です。医師は薬を処方すれば何かやったような気になりがちですし、お子さんの意欲が少しでも出てくると親御さんは「じゃあ学校に行こう」と引っ張ってしまいがち。周囲の方々には“理解ファースト”でお願いしたいです。
A. はい。2021年4月の開校前日の研修会でそう話しましたが、「何かをしよう」と志を持って赴任されてきた先生ばかりでしたからカルチャーショックだったようです。しかし、今は「何もしない」を十分にご理解いただけていると感じます。実際、学校が好きになる子が出てくるなど、生き生きと過ごしている子は多いです。草潤中には「かくれ校則」がありませんので。
Q. こころの校医をはじめ、積極的に学校や自治体と連携されていますが、今後どのような取り組みが大切になると思われますか。
A. こころの校医は、各学校に必要だと思います。そのためにも人材育成は課題です。精神科ではODなどの身体的な部分への対応が困難で、内科では精神的な対応が困難、そして医療者が「子どもの生活」を理解し支援することが難しいのが現状で、ワンストップで対応できる人材が少ないのです。 私はたまたま小児科医と小児神経科医のベースがあり、かつ学習を含めた毎日の生活の大切さを発達診療を通して実感しているのでワンストップで診療していますが、不登校の問題はやはり心・体・生活面を総合的に診るスタンスが必要です。
草潤中での経験を生かし、興味のある医師の方にはノウハウを伝えていきたいですね。 また昨年から、ODの理解促進や事例共有などを目的に、教師、スクールカウンセラー、医療者からなる「教育医療連携ネットワーク」という研究会もオンライン上で始めました。学校と医療との連携には“ぶっちゃけ話”ができる場が必要だと感じていて、Slackなどを使って普段から事例共有や意見交換ができる仕組みも稼働させたいと思っています。
Q. 夏休みが明けましたが、先生方はどんなことに気をつけたらよいでしょうか。
A. 9月1日は子どもの自殺が最も多い日として知られていますが、学期始めはODの子に限らずみんな緊張しています。そこへいきなりテストを行う学校がありますが、そういうことはできればやめていただきたいです。 また、困り事や体の不調を抱えている子どもは必ず何らかのサインを出しているので、見逃さないようにしてください。先生方も毎週月曜日は何となく気分が重いと思うのですが、同じように子どもたちも頑張っています。とくにODや発達特性のある子どもは、自分だけが悪いと思いがちです。 でも、誰でも得手不得手はあるし、個性や特性がありますよね。不登校もODも、誰が悪いとかいいという問題ではありません。だから「おたがいさま」のスタンスで子どもたちに接していただきたい。その視点に立つことから第一歩が始まるのだと私は考えています。
加藤善一郎Dr.は、起立性調節障害を単純な自律神経失調症の思春期版である「単純型OD」と、心の特性や発達障害がベースにある「複合型OD」に分けて話を進めています。
そして、複合型ODの治療は一筋縄ではいかない現状を説明しています。
私の印象もこれに近いですね。
また「不安」と「緊張」という言葉が何回も出てきます。
ふつう、起立性調節障害では立ち上がったときに力が入らない状態ですから、
緊張とは無縁のはず。
しかし、思春期の起立性調節障害症状を訴える子どもたちは、緊張、言い換えると“交感神経の過緊張”状態にある例が多数存在します。
この辺、西洋医学が見落としている点ではないかと以前から感じてきました。
不登校の子どもたちは、家でリラックスしていると思われがちですが、
家にいても緊張しているのです。
当院では、一般の起立性調節障害治療に反応しない、
けど心療内科・精神科へ行くほどでもない・敷居が高い患者さんには、
漢方薬で対応しています。
漢方的診察法に「腹診」があります。
お腹に手を当てると、交感神経の過緊張状態の患者さんは、
おへその周囲に「ドックン、ドックン」と心臓の拍動が下大動脈まで響く動悸を触れます。
これを漢方的に“気逆”と呼び、それに対応する漢方薬がいくつも存在します。
ほかに“水毒”という漢方概念もあり、
これは体の中の水バランスが偏っている状態で、
胃からポチャポチャ音がするヒトがそうです。
水毒傾向のあるヒトは、立ちくらみ・めまいが起きやすく、
また車酔いしやすく、最近話題の天気痛(低気圧が来ると頭痛がつらい)症状も出やすいという特徴があります。
この“水毒”を軽減する漢方薬もあります。
気逆・水毒を考慮して漢方薬を処方すると、
西洋薬(メトリジン®)で効果がなかった子どもたちも、
「少し楽になりました」ということが多いです。
耳鼻科医で漢方使いの境修平先生は、
起立性調節障害診断基準の項目を漢方の証に当てはめることを
試みています;
★ OD身体症状項目(項目が3つ以上当てはまるか、あるいは2つであってもODが強く疑われる場合には、アルゴリズムに沿って診療する)
1. | 立ち眩み、あるいはめまいを起こしやすい |
2. | 立っていると気分が悪くなる。ひどくなると倒れる |
3. | 入浴時あるいは嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる |
4. | 少し動くと動機あるいは息切れがする |
5. | 朝なかなか起きられず午前中調子が悪い |
6. | 顔色が青白い |
7. | 食欲不振 |
8. | 臍疝痛をときどき訴える |
9. | 倦怠あるいは疲れやすい |
10. | 頭痛 |
11. | 乗り物に酔いやすい |
気虚と捉えられるもの:5、6、7、8、9
気逆と捉えられるもの:1、2
水滞と捉えられるもの:10
気逆と捉えられるもの:1、2
水滞と捉えられるもの:10
また、小川恵子先生著の『女性の漢方』(中外医学社)によれば起立性調節障害に対しての漢方薬を以下のように対応させています;
1、2、11に対して:五苓散、苓桂朮甘湯、半夏白朮天麻湯
4、5、9に対して:補中益気湯
3、9、10に対して:柴胡桂枝湯、四逆散、小建中湯
反復性腹痛(8)に対して:小建中湯、黄耆建中湯、当帰建中湯、柴胡桂枝湯、安中散
漢方の専門家でも、微妙に捉え方が異なるのが興味深いですね。
ちなみに、私の臨床経験からの捉え方は小川恵子先生に近いです。