“子ども”を取り巻く諸問題

育児・親子・家族・発達障害・・・気になる情報を書き留めました(本棚4)。

大対先生のかんしゃく対策

2024年08月22日 07時40分46秒 | 子どもの心の問題
他の講師(大対香奈子先生:近畿大学総合社会学部)によるかんしゃくレクチャーのメモ書きです。
専門分野は応用行動分析学。
しかし一筋縄ではいかない質疑応答では、回答の切れが悪い印象がありました。
まあ、生きているこども相手だから仕方がないかな。

▢ 消去バースト(=かんしゃく)への対応
・かんしゃくには反応しない(目も合わせない)
・激しく泣いたり暴れたりしているときは、落ちつくまで待つ
・落ちついてきたら、代わりにすべき適切な行動を促す
・促した適切な行動が少しでもできたら大げさなくらい褒める(強化)

▢ かんしゃくへの保護者のスタンス
・大人だってイライラしちゃう
・そんな時こそ子どもにモデルを示すチャンスです!
・「落ちつくための時間」を持ちましょう
 → ママも気持ちを落ちつかせてから話すね。
 → 気持ちが落ちついたから話を聞くね、待ってくれてありがとう。

▢ かんしゃく中の言動には反応しない
・かんしゃく中は大人の心を逆なでするような言動が起こることがある
(例)お母さんなんて大嫌い! 死ね!
 → 一切そのような言動には取り合わない
・まったく別の角度から新しいボールを投げる
(例)直接関係のない話題に振る、など
・感情の高ぶりが収まってから、聞いてみる;
「さっきはどんな気持ちだった?どうしたかった?」
「お母さんはさっきの言葉に傷ついたわ」

▢ かんしゃくの際のルール作りは事前に
・何がダメか、そのルールを具体的・明確にして事前に(落ちついているときに)共有しておきましょう。
✓ ヒトを傷つけること
✓ 自分を傷つけること
✓ 社会のルールを守ること


“かんしゃく”の分析と対策

2024年08月19日 07時50分45秒 | 子どもの心の問題
自治体の乳幼児健診の際に、
「他に困ったことはありませんか?」
という質問に対する答えで多いのは、
“かんしゃく”と“偏食”です。

先日、かんしゃくに関するWEBセミナーをいくつか視聴しましたので、
ポイントと思ったことをメモしておきます。

応用行動分析を用いているのが注目されます。
行動の理由は次の4つに分けられるとのこと;

物・活動の要求
回避・逃避
注目要求
感覚(自己刺激)

かんしゃくが起きた時、
その理由が4つのどれに当てはまるのか、
その都度立ち止まって考えると、
具体的な対策が思い浮かぶかもしれません。
例示されていたそれぞれの対策は、

① 事前のお約束、良い行動が少しでもできてからものを渡す。
② 子どもが良い行動をしているときに声かけ。
③ やること(課題)の調整(量・レベルを下げる)、適切な発散方法を増やす。

という解説でした。

また、かんしゃくを起こしやすい子どもは
“興奮レベルの振れ幅が大きい”
という表現を興味深く聞きました。
小児科医である私はかんしゃくの相談を受けたときに漢方薬を処方しているのですが、
有効例のご家族から、
「感情の振れ幅が小さくなりました」
と報告されることが多いので、実感があります。

▢ “かんしゃく”とは?
興奮を伴う混乱状態により発生する過度な行動
(例)
 ✓ 声を荒げて泣く
 ✓ 激しく奇声を発する
 ✓ 手足をバタバタする
 ✓ 床に寝転がる
 ✓ モノを投げる
 ✓ 足を踏み鳴らす

▢ かんしゃくのキッカケ
生理的な不快感にもとづくかんしゃく
(例)眠い、お腹が空いた
学習性のかんしゃく
(例)幼稚園に行きたくない

▢ かんしゃくは氷山の一角
・周囲から見えるのは“かんしゃく”だけであるが、
 そのバックグラウンドには以下のことが隠れている;
 ✓ 友達とのコミュニケーションがうまくできない。
 ✓ 大人にかまって欲しい
 ✓ 運動面の不器用さがある
 ✓ こだわりが強い

▢ かんしゃくにおける“個”の問題
・その子の特性
 ✓ 性格
 ✓ くせ
 ✓ 好み
 ✓ 感覚
 ✓ 身体的特徴
 ✓ 情報の認知
 ✓ 情報処理の仕方 など
・獲得できるスキル
 ✓ 学習力
 ✓ コミュニケーション力
 ✓ スケジュール管理力
 ✓ セルフコントロール力
 ✓ 金銭管理力 など

▢ かんしゃくにおける“環境”の問題
・ヒト
 ✓ 家庭、教育機関
 ✓ 地域や周囲の理解
 ✓ サポート体制
 ✓ 福祉的サポートサービス など
・場所・モノ
 ✓ 広さへの配慮
 ✓ 音への配慮
 ✓ 視覚的・聴覚的補助
 ✓ 学習の補助アイテム活用
 ✓ 部屋の明るさへの配慮 など

▢ “個”と“環境”の間にある困難さ
・コミュニケーションが難しい
・かんしゃくが起きる
・落ち着きがない
・自分の気持ちを伝えにくい
・感情のコントロールが難しい
・読み書きなど、勉強が苦手
・切り替えることが難しい
・なかなか自信や意欲が持てない

▢ かんしゃくの理由〜応用行動分析学の世界〜
・かんしゃくが起きる理由は大きく分けて4つ〜どの理由からかんしゃくが起きているのか把握しよう
物・活動の要求:物や活動を獲得するための要求
(例)欲しい!見たい!やりたい!
回避・逃避:イヤなことが生じたときにイヤなことから逃れるための行動
(例)つまんない、飽きた!やりたくないよ〜、ムリ!
注目要求:他者からの注目がないときに注目を集める行動
(例)見て見て、すごいでしょ!困っているのに気づいて!
感覚(自己刺激):刺激がないときに自分の好きな刺激を入れる行動
(例)こうしていると落ちつく〜、だって楽しいんだもん!
〜これらが判明したら、それを解消する対策を取ろう

▢ かんしゃくと興奮のメカニズム
・ヒトの興奮レベルは常に変動している。
興奮レベルの振れ幅が大きい子どもは、
 興奮が繰り返し起きやすくなる。

▢ “したいことを伝える”方法いろいろ
・興奮して感情的になっていると、
 複雑なことができなくなってしまう、
 ふだんできていることもできなくなってしまう。

(複雑)         ふだん   興奮時
 ↑  交渉する     できない  できない
    理由を伝える   できない  できない
    文章で伝える   できない  できない
    短文で伝える   できる   できない
    単語で伝える   できる   できない
    指さす      できる   できる
 ↓  叩く・叫ぶ    できる   できる
(容易)

▢ 興奮につながる要因
・子どもの個性や現状スキル
 ✓ 体力、身体発達の未熟さ
 ✓ 過敏性
 ✓ 特性:こだわりの強さ、気持ちのコントロールが難しい、
     友人関係がうまくいっていない
     他者と自分の意図を合わせるのが苦手 など
・環境
 ✓ 頑張らなければいけない環境
 ✓ 友人関係がうまくいっていない
 ✓ 疲れている など

▢ かんしゃく発生時にしてはいけないNG対応
1.興奮を高める対応は避ける
・かんしゃく時の発言は「発散」としていっているだけかも・・・
 → まともに取り合わない方がよい
・子どもにつられて親も爆発!
 → 子どものかんしゃく状態と同じ?

▢ かんしゃく発生時の対応その1〜まずは安全確保(環境調整)が何よりも大事!
✓ 怪我をしないように物をどける、場所を移動する。
✓ 壁に頭を打ち付ける等の場合は、間にクッションを置くなどの工夫。
✓ 子どもだけでなく、保護者や兄弟などの安全も確保する、など。

▢ かんしゃく発生時の対応その2〜対応の基本はクールダウン興奮を低下させ、適度に落ちついた状態(中庸)に)する
興奮を引き起こす刺激をなくす/減らす
・多少のことはスルー(売り言葉に買い言葉はNG)、ただし無視だけで対応しようとしない。
・再燃させる刺激がなければ、時間経過により落ちついていく。
 クールダウンルームやスペースを利用する。
※ 話しかける関わりも興奮につながることがあるので、
 安全な場所で放っておくことも手立て。
・訴えてきても、イヤな気持ちに対する共感のみ(要求には反応しない
落ちつくことにつながる活動をしてもらう
・水を飲んだり、深呼吸したり、ぬいぐるみを抱いたりする。
・別の活動をして気をそらす。
・単調なことをする(プチプチを潰す、数字を数える、など)

▢ 保護者自身のセルフコントロールーその1
・感情は伝染するので、巻き込まれてしまうのはある意味自然。
・保護者自身もふだんできていることが興奮してできなくなっている。
(例)子どもへの伝え方
 (複雑)             (ふだん)  (興奮時)
  ↑  折り合うポイントを探す   できない   できない
     学んだ対応をする      できる    できない
     簡潔に伝える        できる    できない
     手を取ってやらせる     できる    できる
  ↓  叩く・怒鳴る        できる    できる 
 (容易)

▢ 保護者自身のセルフコントロールーその2
〜ふだんから意識をして落ちつく方法を決めておく。
 疲れをためないように自分の時間を作る。
① アンガーマネジメント
・関わる前にゆっくり10数える。
・一回深呼吸する。
・水を飲む、など。
② 余暇や自分の時間の確保
・自分なりのリラックス方法
・自分なりの発散方法

▢ かんしゃくを減らす取り組みの基本的な考え方
・かんしゃくを減らすのではなく、
 その他の望ましい行動を増やすことで、
 結果的にかんしゃくの出現頻度が下がっていく。
・かんしゃくはすぐにはなくならない、
 半年前、1年前に比べると「少しはましになったかな?」でOK。

▢ かんしゃくを減らす具体的な取り組み
① 子どもの“できる”を増やす。
② 楽しく過ごせる場所や活動を増やす。
・楽しめることの選択肢が少ない場合や疲れているときは、
 かんしゃくや興奮が起きやすい。
・余暇やリフレッシュの時間を作る、子どもが楽しめる習いごとをする、など。


子どもの夜尿症

2024年08月02日 19時23分53秒 | 育児
小児科開業医の当院には、
1年に数人ペースで夜尿症の相談があります。

夜尿症とは、膀胱に貯められる尿量(膀胱容量)を夜間つくられる尿量(夜間尿)が上回り、
あふれてしまう状態です。

乳幼児期は、
(膀胱容量)<(夜間尿)
ですが、小学校に上がる頃には
(膀胱容量)>(夜間尿)
となり、夜尿は消えていきます。

しかし中には、
1.膀胱容量が小さいまま
2.夜間尿が多い
ため、この逆転が起きずに夜尿が残ることがあります。

当院での治療は、
1 → アラーム療法を提案
2 → 薬物療法(ミニリンメルト®)
が基本です。

おっと、その前に大切な生活指導がありました。
それは「水分の摂り方」です。

飲んだ水分は約3時間後に尿となって排泄されます。
ですから、寝る時刻の前3時間は水分を制限していただきます。
もちろん、喉が渇いて眠れない、というのはやり過ぎ。
夕食の味を薄めにして、夕食後のがぶ飲みを予防しましょう。

小児夜尿症の解説記事を見つけました。
知識のアップデート目的で読んでみました。
ポイントを記しておきます。
…気づいたのですが、著者(インタビューを受けた今西Dr.)はアラーム療法を第一選択としている様子、薬物療法(ミニリンメルト®)は第二選択に位置づけられています。これも時代の流れかなあ。

<ポイント>
・子どもによっては眠りが非常に深く、尿意が生じても目を覚ますことができない、これに加え、膀胱機能の発達や、自律神経の働きが未熟だと、夜間に作られる尿の量が多いことが重なって、おねしょをしてしまう。
・徐々に4歳を過ぎると、夜もおねしょをしなくなります。
・気をつけてほしいのは、大きくなっても日中に漏らしてしまう場合です。日中は夜寝ているときと違い、意識があります。それでも漏らしてしまったり、おしっこが我慢できなかったりするというのは、場合によっては膀胱・尿道の神経や機能に問題がある可能性も考えられます。
・5歳を過ぎても「おねしょ」「おもらし」が頻繁に続く場合は一度受診を考えてください。「5歳以上で、1ヵ月に1回以上のおねしょが3ヵ月以上続く場合」「1週間に4日以上のおねしょは“頻回”」。
・日本では夜尿症は7歳でも有病率は10%程度。
・治療では、主に生活指導。投薬なども行うことで、自然に治癒する場合より治癒の期間も短く、2~3倍治癒率が高まる。
・生活指導の内容は、基本的に就寝2時間~3時間前から飲水制限、夜寝る前に、必ずトイレに行く(2度行かせるという専門家の意見もあります)。
・アラーム療法はパンツや専用のパッドにセンサーをセットして、おねしょを感知して、寝ている子どもを音や振動で起こすように促すもの、これを繰り返して子ども自身がおねしょに気がつくようにすると、子どもは「眠いから起こされたくない」という意識が働いて、膀胱の尿を蓄える能力を高めていくようになり、夜間の尿の量が減るという効果も現れる。
・アラーム療法の効果が今ひとつの場合は薬物療法を考慮する、デスモプレシン(ミニリンメルト)という抗利尿作用ホルモンと同じような働きをする薬を投薬する。この薬は口の中で「溶かして飲む」ものなので、薬の飲み方のコントロールができることが必要になり、ちゃんと飴を舐めて食べられるような年齢の子でないと、処方をするのが難しい。
・昼間のおもらしは“意識がある状態での排尿”であり、夜尿とは別の病態と考えるべきである。


■ 夜尿症」 5歳でも1ヵ月以上続く場合が受診目安 専門家ふらいと先生が解説
#1 受診が必要な「夜尿症」について
小児科医・新生児科医:今西 洋介
2024.03.25:コクリコ)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 幼稚園や保育園、学校への進学が気になる時期や、お泊り保育、林間学校などの泊まりがけのイベント前などに気になってくるのが「おねしょ」や「おもらし」。進学前になんとかしなくては、と焦る保護者の方も多いのではないでしょうか。・・・そこで今回は今西先生に、おねしょとおもらしについて解説してもらいました。
 1回目は「おねしょはどうして起きるのか」について。症状が起きる原因や、日中のおもらしと夜間のおねしょの違いなどについてお聞きしました。

<目次>
  • 成長と共に自然治癒しない「夜尿症」
  • 「おねしょ」と「おもらし」の違い
  • 「5歳」が受診の目安
▶ 成長と共に自然治癒しない「夜尿症」
──進学・入学の時期が近づくと、「おねしょ」や「おもらし」について気にしだす親御さんが多くなります。でも、「おねしょだし、そのうち成長すれば治るかな」と思う方も多いと思うのですが、そもそも、おねしょはどうして起きるのでしょうか?

今西洋介先生(以下、今西先生):尿が膀胱に溜まって、膀胱が大きくなると神経が刺激されて尿意を感じるようになります。でも、子どもによっては眠りが非常に深く、尿意が生じても目を覚ますことができない場合があります。これに加え、膀胱機能の発達や、自律神経の働きが未熟だと、夜間に作られる尿の量が多いことが重なって、おねしょをしてしまうのです。
 とはいえ2歳ごろまでは、排尿を上手にコントロールできないので、反射的にしてしまいます。だからおねしょは当たり前のことなんです。
 でも、4歳ごろには徐々にコントロールができるようになり、親が「トイレに行こうね」と促したりすれば、昼も夜も漏らすことは少なくなります。そうして徐々に4歳を過ぎると、夜もおねしょをしなくなります。

▶ 「おねしょ」と「おもらし」の違い

──夜間の「おねしょ」と、昼間に漏らしてしまう「おもらし」では違いがあるのでしょうか?

今西先生:昼間の「おもらし」もおねしょと同様に、大きくなって排尿・膀胱の機能が発達していくことで改善する場合が多いですね。夜間の「おねしょ」と同じように、2~3歳ごろには少しずつおもらしもなくなっていきます。
 身体の発達と同じように、排尿・膀胱機能の発達にも個人差があるので、「3歳なのにおもらしをしている」「なかなかおむつがはずせない」と焦ることはないでしょう。
 ただ、気をつけてほしいのは、大きくなっても日中に漏らしてしまう場合です。日中は夜寝ているときと違い、意識があります。それでも漏らしてしまったり、おしっこが我慢できなかったりするというのは、場合によっては膀胱・尿道の神経や機能に問題がある可能性も考えられます。これは便を漏らしてしまうのも同様です。
 5歳を過ぎても「おねしょ」「おもらし」が頻繁に続く場合は一度受診を考えてください。この場合、おねしょの場合は「夜尿症」、おもらしの場合は「尿失禁症」の可能性があります。

▶ 「5歳」が受診の目安

──ではまず、親としては「5歳」というのが受診の目安と考えて良いのでしょうか?

今西先生:そうですね。夜尿症には明確なガイドラインがあって、『5歳以上で、1ヵ月に1回以上のおねしょが3ヵ月以上続く場合』、そして『1週間に4日以上のおねしょは“頻回”』といわれています。
 日本では、調査によると夜尿症は7歳でも有病率は10%程度と報告されています。つまり、1クラスのうち約3人は夜尿症の子がいるという計算です。
 幼稚園の年長さんや、小学校に上がってもおねしょをしているというのは、なかなか保護者としても周りに相談しにくいでしょう。さらに子ども自身も、お泊まり保育でオムツを持っていかなくてはいけないというのは、子どもの自尊心が傷つくことになります。これが高学年になれば、なおのこと子どもの心は傷つくはずです。
 実際、小学校の2~3年生くらいで「おねしょが続いているから受診しよう」と考える方は比較的少なく、林間学校が行われる4~5年生ぐらいになって、そのとき初めて親も子どもも受診しようと考えるご家庭が多いです。
 受診後の治療では、主に生活指導になります。また症状によっては、投薬なども行うことで、自然に治癒する場合より、治癒の期間も短く、2~3倍治癒率が高まるといわれています。
 確かに昔は、おねしょは“ときがくれば治る”という考えもありました。しかし、放っておいても治らない「夜尿症」だと、治療が必要な場合もあるということ。そして、月に2~3回のおねしょだから」と放っておかずに、5歳を過ぎてもおねしょが続いているようなら、ぜひ受診を考えてみてくださいね。・・・

■ おねしょが続く「夜尿症」 3つの治療法「生活指導」「アラーム法」「投薬治法」
#2 「夜尿症」の治療について
小児科医:今西 洋介
2024.03.26:コクリコ)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・今回は「夜尿症」の治療法についてです。生活指導、アラーム法、投薬治法の3つの治療法を、今西先生に詳しくお話しいただきました。

<目次>
  • 飲水のコントロールや生活リズムを整えるのがファーストステップ
  • アラーム療法と投薬での治療法
  • 効果の早い投薬治療でも水分摂取量の管理が重要に
▶ 飲水のコントロールや生活リズムを整えるのがファーストステップ
──・・・実際に、病院ではどのような治療をするのでしょうか?

今西洋介先生(以下、今西先生):最初は生活指導を行います。診察時に話を聞いていると、子どもによっては、寝る前にかなりの量のお水やお茶を飲んでいるという子が結構いるんですよね。これではもちろん、夜間におしっこが出てしまいます。
 ですので、生活指導では、基本的に就寝2時間~3時間前から飲水制限をしてもらいます。また、夜寝る前に、必ずトイレに行くこと。そして毎日の排便の習慣や、早寝早起きといった生活リズムを整えることの重要性も伝えていきます。実はこれだけで改善をする子もいるんですよ。

▶ アラーム療法と投薬での治療法
今西先生:生活指導だけで改善が見られない場合は、「ピスコール」というアラーム療法を取り入れます。
 具体的には、パンツや専用のパッドにセンサーをセットして、おねしょを感知して、寝ている子どもを音や振動で起こすように促すものです。
 これを繰り返して、子ども自身がおねしょに気がつくようにします。このアラーム療法を行っていくと、子どもは「眠いから起こされたくない」という意識が働いて、膀胱の尿を蓄える能力を高めていくようになり、夜間の尿の量が減るという効果も現れるように。しかし、それでも難しい場合は投薬を考えます。

──投薬をすると、具体的にどのような作用が体に起きるのでしょうか?

今西先生:デスモプレシン(ミニリンメルト)という抗利尿作用ホルモンと同じような働きをする薬を投薬します。
 例えば、水を飲んだら間髪入れずにおしっこが出てしまうようでは生活できませんよね。そうならないため、人間の体の中では抗利尿作用ホルモンが働いて、利尿を妨げる働きをしています。デスモプレシンはこの働きを薬にしたもので、持続的な尿量の調整が可能になります。
 ただ、この薬は口の中で「溶かして飲む」ものなので、薬の飲み方のコントロールができることが必要になります。ですから、ちゃんと飴を舐めて食べられるような年齢の子でないと、処方をするのが難しいです。

▶ 効果の早い投薬治療でも水分摂取量の管理が重要に
──夜尿症で悩む保護者にとっては、投薬で尿量が調節できて、親も子も安心して夜眠れるというのは大変うれしいと思います。でも一方で、投薬となると副作用のことも気になります。

今西先生:そうですよね。実はこの薬は副作用が強く、「水中毒」になる可能性があります。・・・寝る前に水分を規定以上飲んだ上に、薬を摂取することで、さらに体内に水分をとどめてしまう。そして、血液中のナトリウム濃度が低くなり、水中毒が起きるのです。そこで、水分摂取量の管理について保護者が気を配る必要が出てきます。

──たとえば夜尿症ではなく、昼間にも漏らしてしまうような場合でもこのお薬は効果があるのでしょうか?

今西先生:日中漏らしてしまうというのは、実は夜のお漏らしとはまた別と考えたほうがいいでしょう。
 というのも、前回の記事でもお話ししたように、日中は寝ているときとは違い、意識がはっきりしています。そういう状態でもおしっこを漏らしてしまうというのは、自分で排尿のコントロールができなくなっているということです。この場合はデスモプレシン(ミニリンメルト)ではなく別のお薬が必要になってきます。

──ということは、日中と夜間のおもらしは別のものと認識して、病院へ受診する際に伝えたほうがいいということですね。ちなみにほかに保護者が気をつけておくべき点はありますか?

今西先生:生活指導やアラーム療法、投薬で夜尿症が一度は治ったのに、半年後など間隔を空けてまた症状が出てしまうパターンがあります。この場合、夜尿症ではなく、例えば糖尿病や脳腫瘍、甲状腺の病気などの病気が隠れていることも考えられます。「おねしょがまた再開した」と気軽に考えず、再度受診をするようにしましょう。・・・

■ 「夜尿症」は育て方や子どもの性格が問題ではない 
#3 「夜尿症」を悪化させてしまう要因を取り除くには?
小児科医・新生児科医:今西 洋介
2024.03.27:コクリコ)より一部抜粋(下線は私が引きました);

・・・最終回となる3回目は、「夜尿症」に悩む家庭が心掛けるべきことについてお聞きしました。

<目次>
  • 夜尿症は育て方や子どもの性格が問題ではない
  • おねしょを繰り返しても𠮟らないことが大切
  • トイレトレーニングと同じ「成功したらほめてあげる」
▶ 夜尿症は育て方や子どもの性格が問題ではない
──どんな子どもでもおねしょをした経験はあるのに、自分の子どもが夜尿症になってしまうと、「わたしの育て方が悪かったのかな」と、つい考えてしまうものです。
 子どもと接する時間が長いからこそ、保護者が自分のせいだと責めてしまい、親子にとって夜尿症がよりつらいものになっているように思います。

今西洋介先生(以下、今西先生):「私がオムツを外すことにプレッシャーをかけたからかも……」など、保護者の方が受診時にお話しされることがあります。
 でも、夜尿症は親の育て方や、子どもの性格などが原因ではありません。1回目でもお伝えしたように、膀胱の収縮や尿道括約筋の緊張・弛緩を司る神経は未発達なこと、夜間の尿量が多い、睡眠から覚醒できないということが原因です。ですから必要以上にお母さん、お父さんが自分、そして子どもを責めることはありません。
 夜尿症は身体の発育に関係する部分も多く、治療にかかる期間もそれぞれ。決して焦る必要はないのです。ですから周囲と比較する必要もないですし、見守る気持ちで治療をしていきましょう。

▶ おねしょを繰り返しても𠮟らないことが大切
──子育てと一緒ですね。それぞれの子どもに個性や特性があって、成長を見守るように、夜尿症も子ども自身のペースを見守って、一緒に伴走してあげることが大切なんですね。

今西先生:そうですね。そして見守ってあげることと同じくらい大切なのが「𠮟らないこと」です。頻繁におねしょをされると親の負担は本当に大変ですよね。
「なんでまたおねしょしたの!」とつい言ってしまう気持ちもわかります。でも、𠮟られることで子どもは排尿時に緊張するようになってしまい、夜尿症が悪化することも。
 できる限り𠮟らずに、おねしょをしなかったときはほめてあげて、子どもに自信をつけてあげるといいでしょう。

──お話をお伺いすると夜尿症では精神的な影響が大きいように思いました。

今西先生:𠮟らない、ということも大切ですが、同時に子どもが置かれている状況で受けるストレスというものも考える必要があります。
 実は受験のストレスや親の離婚などが引き金となって、夜尿症が起きることもあるのです。身体的な発育に加え、子どもの心にストレスがかかっていないかということを考えてみることも必要でしょう。

――受験のストレスで引き起こされる夜尿症というと、やはり大きくなってもなかなか治らない場合もあるのでしょうか?

今西先生:ほとんどのお子さんは、成人するまでに治ると言われていますが、15歳以上でも1~2%程度の子は夜尿症があるといわれていて、稀に成人しても続くケースはあります。小さいうちでもかなりおねしょの頻度が高いのであれば、早めに受診をすることをやはりおすすめしますね。

▶ トイレトレーニングと同じ「成功したらほめてあげる」
──ちなみに2~3歳ごろのお子さんを抱えているお母さん・お父さんは、オムツをはずすトイレトレーニングを始めるかと思うのですが、その際にあえておしっこでオムツが濡れる感覚を覚えさせたります。しかし、このことで夜尿症を引き起こすということはないのでしょうか?

今西先生:オムツを外すトイレトレーニングをする中で、お尻が濡れる感覚に慣れて遊び続けてしまう子どももいるかもしれませんね。でも、それが夜尿症を引き起こすということはないでしょう。
 逆に、夜尿症だからといってオムツを履かない年齢なのにオムツを履かせるのは、子どもも嫌がるのであれば、あまりおすすめはしません。おねしょシーツなどを敷いて、寝具などが濡れない対策をとりましょう。そして、お母さん、お父さんは「応援しているよ」という気持ちを子どもにきちんと伝えてあげてほしいと思います。
 特に、子どもの年齢が大きくなると「自分だけおねしょをして恥ずかしい」「親に迷惑をかけている」という不安や劣等感を抱くようになります。オムツを外すトレーニングのときに、「トイレでおしっこできたね、えらいね!」と褒めてあげたように、まずは子どもの不安を取り除いてあげましょう。
 そして、そういった親の心のケアがベースにあった上で、さらに親と子ども本人の「治したい」という気持ちが大切になってきます。治すには、生活習慣を見直したり、飲水の制限をしたりと、いろいろ地道な努力が必要ですが、焦らずに取り組んでいってください。・・・



子どものロコモティブシンドローム その3:子どもロコモを改善するために親子でできること

2024年08月01日 07時12分55秒 | 健診
子どもロコモ解説、その3は“親子でできること”。

読み終わって感じたのですが、
学校健診の「運動器検診」のチェック項目は、
「運動しなさすぎ → ロコモ」
の他に、
「運動しすぎ → スポーツ障害」
もあります。

3回シリーズのこの記事ではロコモのみ扱っており、
スポーツ障害については記載がなく、
“片手落ち”の感が否めません。

学校健診の短時間の流れ作業の中で、
あれやこれやとすし詰めのチェック項目をこなすのは無理というモノ。
運動器検診はやはり言い出しっぺの整形外科医が、
学校健診から独立して担当すべきだと思います。


<ポイント>
・体前屈ができない子は、単に股関節が固いだけでなく、肩甲骨まわりが固い硬い子が多い。
・姿勢で一番注意すべきなのが、骨盤を立たせること。
・日常生活で子どもロコモを改善できる方法は片足立ちがおすすめ。日常生活では、歯を磨くときなどに1~2分行うとよい。
・食べること、休養をとること、運動すること。この3つは、子どもロコモ改善にはとても大事。


■ 危険な「子どもロコモ」 改善策はストレッチ・体操・睡眠・食事…
整形外科医・林承弘先生に聞く「子どものロコモティブシンドローム」 
#3 子どもロコモを改善するために親子でできること
 整形外科医:林 承弘
2024.01.11:コクリコ

 1回目では子どもロコモの原因と症状、チェック項目について。2回目では子どもロコモを放置したまま成長するリスクと対策について解説してもらいました。3回目では、実際に親子でできるストレッチや体操と、睡眠・食事についてお話しいただきます。

<目次>
  • 「子どもロコモ体操」は親子で!
  • 片足立ちでロコモを改善
  • 運動機能を身に着けることが大切
  • ロコモ改善には朝食も大切
  • しっかり眠ることも子どもロコモの改善に
▶ 「子どもロコモ体操」は親子で!

──子どもロコモを改善するためには、やはり親の役割が大きいのでしょうか?

林承弘先生(以下、林先生):そうですね。私はいつも「子どもロコモ体操」をレクチャーするときには、必ず「お母さん、お父さんも一緒にやってね」と伝えています。
 というのも、子どもの姿勢をチェックすることでかなり変わってくるからです。それと、デスクワークが多い親御さんも、一緒にやることで効果が期待できますよ。
 では早速、以下の方法で一緒にやってみましょう!

【子どもロコモ体操】
① 両手を後頭部にあて、息を吸って肩甲骨を寄せる。
② 息を吐きながら両肘を前に。数回繰り返す。
③ 両手を組み、手のひらを天井に向けて両手を頭上に上げる。
…すべて引用:全国ストップ・ザ・ロコモ協議会「子どもロコモ

──実際にやってみると、肩甲骨がぐっと動くのがわかりますね。

林先生:そうなんです。肩甲骨の動きがよくなると体前屈もできます。体前屈ができない子は、単に股関節が固いだけでなく、肩甲骨まわりが固い硬い子が多いんです。
 そして、姿勢で一番注意すべきなのが、骨盤を立たせることです。腰のところに手を当てて前にぐっと押してみましょう。すると骨盤が立ちます。骨盤が立つと背骨が連動して猫背が解消されて姿勢がよくなります。

▶ 片足立ちでロコモを改善

──日常生活で子どもロコモを改善できる方法は何かありますか?

林先生:片足立ちがおすすめです。日常生活では、歯を磨くときなどに1~2分行うといいですね。親御さんは、キッチンにいるときや、デスクワークの合間などに。
 ちなみに、歩行中に両足がついている状態は2割程度で、8割は片足立ちです。片足立ちをしっかりやるとバランス能力や筋力がついてきて、歩行や階段昇降が楽になってきます。
 スキマ時間の中でロコモ改善運動の要素を入れるといいですね。

▶ 運動機能を身に着けることが大切

──ところで、スキャモンの発育曲線(※)のピークを逃すと運動機能を取り戻すことは難しいのでしょうか?
 スキャモンの発育曲線をみると、10歳前後で神経系はすでに成人の95.6%に達しています。10歳前後では、動きのもと(コーディネーション)を習得することが大切。

(※)スキャモンの発育曲線


1930年、スキャモンが人の身体諸属性は大きく4つのパターン(神経型、リンパ型、生殖型、一般型)に分類されることを提唱しました。神経系は10歳前後で成人の95.6%発達し、さまざまな神経回路が形成されることがわかっています。

林先生:無理ではないですが、子どもの成長曲線に合わせて身につけるのが一番いいと思います。ピークを超えてからでも遅すぎることはないのですが、そのときにやったほうが、動きの質を高めることができて、スポーツを楽しんだり、日常生活で安全に身を守ることにつながります。
 ロコモとは関係ないですが、小学生ぐらいの子どももダイエットしていると耳にします。一番困るのは、骨の成長に関してですが、最もスパークがかかる小学校高学年でダイエットをしてしまうことです。骨の成長のスパークに乗れず、骨密度が低いまま大人に……。
 特に女性の場合は、閉経を迎えると骨密度がグッと下がってしまいます。はじめの骨量をきちんと上げておくには、もちろん運動も必要ですし、過度なダイエットは避けるべきです。小学校高学年の女子がなぜ太るかというと、この時期は骨に刺激を与えるためでもあります。痩せてしまうと栄養もそうですし、骨にとっても良くないんです。
 だからこの時期は、体重を落とすのではなく、しっかりと食べてカルシウムなどの栄養素を十分摂っておくことが大切です。骨は20歳ごろに完成します。20歳の時点で骨量が少ないと、将来的に骨粗しょう症に早く入ってしまうことになります。これを伝えることも、子どもロコモ啓発のひとつになると思っています。

▶ ロコモ改善には朝食も大切
──ロコモ改善のためには、生活習慣改善という意味で、食生活も大切になってきますか?

林先生:そうですね。主食、主菜、副菜のそろった食事でバランスよく食べることが大切です。特に1日の原動力になる朝食たんぱく質をしっかり摂ること。
 以前、埼玉県で運動器検診のモデル事業を行ったとき、食事内容のアンケートも取りました。すると、約9割は朝食を摂っているという回答だったのですが、バランスよく摂れている子どもは、約3割でした。「パンだけ」「牛乳だけ」といった内容が多くみられました。
 朝食をバランスよく摂れているかどうかによって、学力も運動能力も明らかに違ってきます。文部科学省「平成31年度(令和元年度)全国学力・学習状況調査」のデータにもありますように、朝食がしっかり摂れている子は、算数や国語の成績も良く、かけっこやボール投げなどの運動能力も高いことが報告されています。

▶ しっかり眠ることも子どもロコモの改善に

──現代は「眠育」という言葉もあるほど、睡眠時間の短さが問題になっています。睡眠も子どもロコモに影響するのでしょうか?

林先生:睡眠時間が短いと、寝不足と寝坊して時間がないため、朝食がしっかり摂れないことが多くなります。食べること、休養をとること、運動すること。この3つは、子どもロコモ改善にはとても大事です。
・・・

子どものロコモティブシンドローム その2:子どもロコモの対策方法

2024年08月01日 07時00分51秒 | 健診
子どもロコモ解説、その2は“対策”です。

<ポイント>
・外遊びが減ったことで、体の使い方がわからない子どもたちが増え、ケガや骨折のリスクが高まっている。
・小・中学生のとき、スマホやタブレットゲームばかりして、外遊びをあまりしていないと、中高生になって身体能力の低下に気づく、というケースが多い。
・保育園や幼稚園のころの3~5歳ぐらいは、バランス能力や空間認知能力がもっとも伸びる時期。この時期に外遊びをしないと、小さなケガをしたり、痛みを感じたりする機会がなく、「危険回避能力」が身につかない。
・危険回避能力がないまま、中高生になって、いきなり激しい部活を始めると、大きなケガをしたり、骨折したりしやすくなる。
・オススメの外遊びは、鬼ごっこやジャングルジム、それからラジオ体操。
・スマホをしていると、猫背といった悪い姿勢になりやすい。
・「体が硬い」と言われている子どもは、実はそれほど硬くなくて、体の使い方がわからないことが多い。

■ 急増する「子どもロコモ」を放置… 心身の成長に与える「悪影響」〔専門医が解説〕
整形外科医・林承弘先生に聞く「子どものロコモティブシンドローム」 
#2 子どもロコモの対策方法
 整形外科医:林 承弘
2024.01.10:コクリコ)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 子どもが、体の使い方を学ぶ機会を失ったまま放置しておくと「転倒してもとっさに手が出ない。すぐ疲れてしまい、さらに体を動かすのが億劫になるなど、心身の成長に悪影響を与える可能性があります」とは、林整形外科院長・林承弘先生。
 さらに大人になったときには、生活習慣病への懸念もあるといいます。

<目次>
  • 運動の減少によってケガのリスクが増加
  • 子どもロコモ対策には適度な運動と外遊びが大切
  • 姿勢を正しく保つことを日ごろから意識すること
▶ 運動の減少によってケガのリスクが増加

──1回目では、子どもロコモが起きる原因と症状、チェック項目についてお話いただきましたが、部活で本格的にスポーツを始める中高生のころになると、ロコモの症状は改善されるのでしょうか?

林承弘先生(以下、林先生):工業高校の養護教諭の先生が以前、「体前屈ができない生徒が一定数いる」「最近の高校生は、小・中学生のころにあまりケガの経験がなく、入学後に初めてケガをするケースが多い」とお話しをされていたことがありました。
「靴ひもを結べない」「マット運動で前転したときに船酔いのような気持ち悪さを感じる」なども耳にします。小・中学生のとき、スマホやタブレットゲームばかりして、外遊びをあまりしていないと、中高生になって身体能力の低下に気づく、というケースが多いですね。
 また、1970年からの骨折患者でみると、約40年間で保育園児・幼稚園児の骨折はやや減少、小学生で増加し、中高生では3倍に増えています。
 幼稚園や保育園で骨折の件数が少ないのはなぜかというと、「危ないから……」といった理由で、外遊びをさせる機会が減ってしまったことが考えられます。ケガをすると子どもへの対応に加えて、親御さんへの対応も必要ですから。
 しかし、保育園や幼稚園のころの3~5歳ぐらいは、バランス能力や空間認知能力がもっとも伸びる時期です。この時期に外遊びをしないと、小さなケガをしたり、痛みを感じたりする機会がなく、「危険回避能力」が身につかないことになります。
 危険回避能力がないまま、中高生になって、いきなり激しい部活を始めると、先ほどの話のように大きなケガをしたり、骨折したりしやすくなります
 ほかにも、2023年2月にさいたま市のN小学校で「コロナ禍の子どもロコモ」というタイトルで講演会に行ったときの話です。養護教諭の先生に「廊下を歩いていると生徒同士がぶつかってしまうんです」という話をお聞きしました。

──「空間認知能力」がないため、相手を避けられないということでしょうか?

林先生:はい、特に低学年に多く見られるとおっしゃっていました。今の低学年の子どもたちは、コロナの自粛生活のときが3~5歳前後。空間認知能力を獲得する時期に体をほとんど動かしていないため、運動機能が低下したままきてしまったというのが原因と考えられます。

▶ 子どもロコモ対策には適度な運動と外遊びが大切

──子どもロコモの対策として、サッカーや野球など、スポーツ系の習い事をするのは効果的でしょうか?

林先生:習い事で運動をしていても、必ずしも運動機能がいいとは限りません。原因はうまく体を動かせていないこと。運動をしている子も、していない子と同じように、子どもロコモの兆候が出ていることがあります。
 例えば、「肩を上げなさい」「体前屈しなさい」と言っても、必ずしもすべての子どもができるとは限りません。運動をやりすぎることで、体の硬さやバランスにひずみが出てしまうこともあるので、ほどよい運動、外遊びが大事です。

──具体的にどのような外遊びがおすすめでしょうか?

林先生:鬼ごっこやジャングルジムがいいですね。今は「危ないから」といって、やらせない親御さんも見かけます。しかし、大人が見守っている中であれば危なくないですし、避け続けるといつまでたっても危険回避能力が身につきません。
 あとは、素足で行うトランポリンもおすすめですね。バランス能力と姿勢がよくなります。

▶ 姿勢を正しく保つことを日ごろから意識すること

──スマホが日常の現代の子どもたちは、操作中の子どもの姿勢についても気になるところです。

林先生:そうですね。大人もですが、スマホをしていると、猫背といった悪い姿勢になりやすい。たとえば、大人の頭の重さを約5kgとして、首を15°前傾すると首にかかる負荷が約10kg、30°だと約15kg、45°だと約20kgの負荷がかかると言われています。真下を向いた姿勢(60°)では小学3年生の体重にあたる27kgもの負荷がかかることに。
 そうすると、肩甲骨まわりや股関節がガチガチに固くなってしまい、疲れやすさやイライラするといった体の不調から運動機能全体が落ちてしまいます。
 先日、私のクリニックに手を骨折した子どもが来院しました。ドッジボールをしていて、後ろへ下がったときにバランスを崩して手をつき、骨折してしまったのです。
 その子を診ると、体が硬いし、しゃがむと尻もちをついてしまう。ドッジボールでもバランスがとれなくて倒れてしまった結果、変な手のつき方をして手首を骨折してしまったんですね。
 このように、運動をやっていてもやっていなくても、基本的な姿勢と、肩甲骨と股関節をしっかり動かせるかどうかがとても大切なのです。

──大人も肩甲骨まわりと股関節が固いと、姿勢が悪くなって腰痛や肩こりの症状が出ますよね。何か、効果がある取り組みはありますか?

林先生:良い姿勢がとれるか、維持できるかがとても重要です。良い姿勢を保ちながら、肩甲骨と股関節の動きをよくする。これが運動機能を改善・維持するために一番重要な要素です。
 取り組みとしては、体育の授業の準備体操でよく行われている、ラジオ体操がおすすめです。ただ、きちんとやらないと効果がありません。数分でいいから、しっかり股関節と肩甲骨を意識してやることによって、ずいぶん変わってきます。

──子どもや親御さんが、現在「子どもロコモ」に危機感を覚えていると感じられますか?

林先生:あまり意識していないように思います。それが一番問題ですね。車で例えると、ガチガチで余裕のないハンドルだと事故を起こしやすいので、ある程度ハンドルにもゆとりが必要です。
 体も同じで、関節の可動域も余裕が必要で、可動域が小さいとケガをしやすい傾向にあります。「体が硬い」と言われている子どもは、実はそれほど硬くなくて、体の使い方がわからないことが多い
 例えば、びんの蓋の空け方がわからなかったり、雑巾が絞れなかったりする子どもがいますが、これは一度きちんと教えるとできるようになります。やったことがないものは、想像が付かないからできないわけです。
 子どものときには、体のゆとりを最大限に持っておいても、大人になるにつれて体が硬くなってくる。しかし、姿勢を良くしたり、肩甲骨と股関節をしっかり動かしたりすることによって、ある程度の可動域を得られ、すると大人になってもケガのリスクが少なくなるのです。



子どものロコモティブシンドローム その1:原因と症状、5つのチェック項目

2024年08月01日 06時11分14秒 | 健診
私は小児科医で学校健診も担当しています。
現在の学校健診には「運動器検診」が含まれます。
整形外科医が提案し、他科医師(学校医の中で整形外科医は5%だけ)が担当するというねじれのある内容です。
ふだんの診療で扱わない疾患群を早期発見するミッションであり、
気を遣います。
「言い出しっぺの整形外科医が担当すべきだよなあ」
と思うこともしばしば。

現在社会問題化している“側弯症検診”も、
現場の混乱をよそに、
整形が会は高みの見物をしていますから。

解説・啓蒙記事を見つけたので、
知識の確認目的で読んでみました。

<ポイント>
・ロコモティブシンドロームとは、英語で移動することを表す「ロコモーション(locomotion)」と、移動するための能力があることを表す「ロコモティブ(locomotive)」からつくられた造語で、移動するための能力が不足したり、衰えたりした状態を指す。
・大人のロコモの兆候は「階段が上がりづらくなる」「速く歩けない」「すり足になってつまずきやすい」の3つで、老化現象による運動器の障害を指します。これらの兆候がコロナ禍の長期休校明けに、子どもの1割弱に見られた。
・子どもの外遊びが圧倒的に減ってきていることが子どもロコモの増えた大きな原因ではないか。
・子どもロコモチェック項目;
 ① 5秒以上ふらつかずに片足立ちすることができない
 ② しゃがみ込むとき、途中で止まったり、後ろに転んだりする
 ③ 両手を上げたとき、手の先から肩にかけて垂直にならない
 ④ 立って体を前にかがめたとき、ひざを伸ばしたまま手の指を床につけられない
 ⑤ 手をグーにしてひじを引いたあと、パーに開いて腕を前に出す動作をスムーズにできない
・学校健診における「運動器検診」で特に気になっていることは、子どもたちの姿勢が猫背なこと。そしてアゴが前に出ている子どもが多いこと。
・子どもロコモ3つの原因
 ① 運動習慣の変化:成長期の運動不足あるいは激しい運動のしすぎにより、からだの柔軟性が低下
 ② 生活習慣の変化:外遊びをする機会が減ったことにより、小さなケガをすることも少なくなり、危険回避能力が低下
 ③ 姿勢不良:長時間のテレビゲームやスマートフォンの使用により、あご出しやねこ背など姿勢が悪くなりやすい
・外遊びをしないでいると、股関節周りが固くなり、体前屈ができなくなる。しゃがむと転倒して床にお尻をついてしまうことも。今回のコロナ禍で、さらに増えた。身体の使い方がわからない子が増えている。
・体の柔軟性の低下は、肩甲骨や股関節をしっかり動かすことによって改善できる。親子で毎日1日数分間、「子どもロコモ体操」をやるよう指導すると、およそ1~2週間継続することで改善され、2ヵ月後にはきれいな姿勢になる。

■ 5歳で腰痛! 「子どものロコモ」3つの原因と症状・5つのチェック項目
整形外科医・林承弘先生に聞く「子どものロコモティブシンドローム」 
#1 原因と症状、5つのチェック項目について
 整形外科医:林 承弘
2024.01.09:コクリコ)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 近年、子どもの遊びはゲームが主流に。また、現代の子どもたちは習い事が多く、外で遊ぶ時間が少なくなったことで、体を動かす機会が減っています。
 そのため、「転びやすくなった」「姿勢が悪い」「疲れてすぐ座りたがる」などの症状が出る子も。そこで心配されるのが、子どもの運動機能低下を指す「子どものロコモティブシンドローム」、通称「子どもロコモ」です。
「コロナ禍で子どもロコモが一層進んだ」と話すのは、子どものロコモ予防・対策に取り組む林整形外科院長・林承弘先生。子どものロコモについて、原因と症状を林先生に解説していただきました。

<目次>
  • 子どもロコモと大人のロコモの違い
  • 子どもロコモ5つのチェック項目
  • 子どもロコモ3つの原因
  • 5歳の子どもに腰痛の症状
▶ 子どもロコモと大人のロコモの違い

──まずは、子どものロコモティブシンドロームについて教えてください。

林承弘先生(以下、林先生):ロコモティブシンドロームとは、英語で移動することを表す「ロコモーション(locomotion)」と、移動するための能力があることを表す「ロコモティブ(locomotive)」からつくられた造語で、移動するための能力が不足したり、衰えたりした状態を指します。通称「ロコモ」と呼ぶことが多いですね。
 これまではロコモというと、バランス能力や柔軟性の低下、不良姿勢など、40代以上の中高年の運動器機能低下として指摘されていましたが、最近では子どもにもロコモの症状が見られるようになりました。
 ただ、大人のロコモと子どもロコモでは兆候が異なります。大人のロコモの兆候は「階段が上がりづらくなる」「速く歩けない」「すり足になってつまずきやすい」の3つで、老化現象による運動器の障害を指します。興味深いのは、これらの兆候がコロナ禍の長期休校明けに、子どもの1割弱に見られたことです。
 しかし、子どもロコモのチェック項目は大人とは異なります。

▶ 子どもロコモ5つのチェック項目
 子どもロコモには、以下の5つの項目をチェックします。


【子どもロコモチェック項目】
① 5秒以上ふらつかずに片足立ちすることができない
② しゃがみ込むとき、途中で止まったり、後ろに転んだりする
③ 両手を上げたとき、手の先から肩にかけて垂直にならない
④ 立って体を前にかがめたとき、ひざを伸ばしたまま手の指を床につけられない
⑤ 手をグーにしてひじを引いたあと、パーに開いて腕を前に出す動作をスムーズにできない

<参考>

▶ 子どもロコモ3つの原因

林先生:子どもにとって、普段の運動や、外遊び、生活習慣がとても大事なこと。私が十数年ずっと子どもたちを見てきて、子どもの外遊びが圧倒的に減ってきていることが子どもロコモの増えた大きな原因ではないかと思っています。さらに今回のコロナ禍で、その傾向が増している印象です。2020年に自粛生活を送った、今の小学校低・中学年は、特にそうだと言えるのではないでしょうか。
 また、2016年から、小学1年生から高校3年生までの全学年を対象に、学校健診において「運動器検診」が必須化されたのですが、この検診で私が特に気になっていることは、子どもたちの姿勢が猫背なこと。そしてアゴが前に出ている子どもが多いことです。姿勢が悪い子どもは、腕がまっすぐ上に上がりません。これは肩甲骨まわりが、ガチガチに固くなっている状態だからです。

【子どもロコモ3つの原因】
① 運動習慣の変化:成長期の運動不足あるいは激しい運動のしすぎにより、からだの柔軟性が低下
② 生活習慣の変化:外遊びをする機会が減ったことにより、小さなケガをすることも少なくなり、危険回避能力が低下
③ 姿勢不良:長時間のテレビゲームやスマートフォンの使用により、あご出しやねこ背など姿勢が悪くなりやすい

林先生:外遊びをしないでいると、股関節周りが固くなり、体前屈ができなくなります。しゃがむと転倒して床にお尻をついてしまうことも。これは以前から多かったのですが、今回のコロナ禍で、さらに増えたと感じています。身体の使い方がわからない子が増えていると考えられます。

──林先生が、子どもにロコモの症状が出ていると気づいたのはいつごろでしょうか?

林先生:埼玉県教育委員会と協力して、埼玉県のモデル事業として「埼玉県学校運動器検診」を2010年~2013年に行いました。その際、校長先生や養護の先生から、「どうも最近、子どもたちの体の様子が変」という話をよく聞くことがあったんです。
 例えば、「雑巾がけをしていて、体を支えきれずにあごをついて倒れてしまう」「転倒したときに、手が出ず頭を打ってしまう」「先生とキャッチボールをしているとき、たった数メートルの距離でもボールが顔面に当たってしまう」などです。

▶ 5歳の子どもに腰痛の症状

林先生:私自身、診察中に子どものロコモに気づくということはありませんでした。しかし、養護の先生たちの話を聞いてから注意深く診てみると、ケガした子どもの中で、体が硬いとか、バランス能力がうまく整っていない子が多いことがわかりました。
 ある5歳の男の子の話ですが、お母さんから「この子は姿勢と体の動きが悪い。さらに腰痛があります」と、来院された子がいました。
 体の柔軟性の低下は、肩甲骨や股関節をしっかり動かすことによって、その場で改善できます。親子で毎日1日数分間、「子どもロコモ体操」をやるよう伝えると、およそ1~2週間継続することで改善され、2ヵ月後にはきれいな姿勢になり、腰痛もなくなっていました。
 よくなってからその子に「前の悪い姿勢をやってごらん」というと「いやだ」というのです。なぜかというと、悪い姿勢は自分にとって気持ちがいいものではないことがわかったから。姿勢が良くなると運動機能も良くなってきます。大人がそういう気づきを起こさせることも大事だと思いました。
 残念なことに、今の時点では子どものロコモに気づける人があまりいません。整形外科医も子どものロコモの視点で見ていないと、見逃してしまうことが多いのが現状です。
 ほとんどの子どもが整形外科に来院する理由はケガや故障。「バランスが悪い」「体が硬い」などの症状で受診したとしても、「体が硬いのはしょうがないね」と、そのまま返されてしまうケースが多くあります。
 私としては、運動器検診で「体が硬い」と指摘され来院された親子には、まずは丁寧に診ること。そして子どもロコモの対策と、親子で改善できる体操を教えるようにしています。
 しかし、まだまだ「なんでもない」と診断され、すぐに帰されることが多いといいます。もっと子どもロコモの認識が広まればと、日々活動を続けているところです。