小児科開業医の当院には、
1年に数人ペースで夜尿症の相談があります。
夜尿症とは、膀胱に貯められる尿量(膀胱容量)を夜間つくられる尿量(夜間尿)が上回り、
あふれてしまう状態です。
乳幼児期は、
(膀胱容量)<(夜間尿)
ですが、小学校に上がる頃には
(膀胱容量)>(夜間尿)
となり、夜尿は消えていきます。
しかし中には、
1.膀胱容量が小さいまま
2.夜間尿が多い
ため、この逆転が起きずに夜尿が残ることがあります。
当院での治療は、
1 → アラーム療法を提案
2 → 薬物療法(ミニリンメルト®)
が基本です。
おっと、その前に大切な生活指導がありました。
それは「水分の摂り方」です。
飲んだ水分は約3時間後に尿となって排泄されます。
ですから、寝る時刻の前3時間は水分を制限していただきます。
もちろん、喉が渇いて眠れない、というのはやり過ぎ。
夕食の味を薄めにして、夕食後のがぶ飲みを予防しましょう。
小児夜尿症の解説記事を見つけました。
知識のアップデート目的で読んでみました。
ポイントを記しておきます。
…気づいたのですが、著者(インタビューを受けた今西Dr.)はアラーム療法を第一選択としている様子、薬物療法(ミニリンメルト®)は第二選択に位置づけられています。これも時代の流れかなあ。
<ポイント>
・子どもによっては眠りが非常に深く、尿意が生じても目を覚ますことができない、これに加え、膀胱機能の発達や、自律神経の働きが未熟だと、夜間に作られる尿の量が多いことが重なって、おねしょをしてしまう。
・徐々に4歳を過ぎると、夜もおねしょをしなくなります。
・気をつけてほしいのは、大きくなっても日中に漏らしてしまう場合です。日中は夜寝ているときと違い、意識があります。それでも漏らしてしまったり、おしっこが我慢できなかったりするというのは、場合によっては膀胱・尿道の神経や機能に問題がある可能性も考えられます。
・5歳を過ぎても「おねしょ」「おもらし」が頻繁に続く場合は一度受診を考えてください。「5歳以上で、1ヵ月に1回以上のおねしょが3ヵ月以上続く場合」「1週間に4日以上のおねしょは“頻回”」。
・日本では夜尿症は7歳でも有病率は10%程度。
・治療では、主に生活指導。投薬なども行うことで、自然に治癒する場合より治癒の期間も短く、2~3倍治癒率が高まる。
・生活指導の内容は、基本的に就寝2時間~3時間前から飲水制限、夜寝る前に、必ずトイレに行く(2度行かせるという専門家の意見もあります)。
・アラーム療法はパンツや専用のパッドにセンサーをセットして、おねしょを感知して、寝ている子どもを音や振動で起こすように促すもの、これを繰り返して子ども自身がおねしょに気がつくようにすると、子どもは「眠いから起こされたくない」という意識が働いて、膀胱の尿を蓄える能力を高めていくようになり、夜間の尿の量が減るという効果も現れる。
・アラーム療法の効果が今ひとつの場合は薬物療法を考慮する、デスモプレシン(ミニリンメルト)という抗利尿作用ホルモンと同じような働きをする薬を投薬する。この薬は口の中で「溶かして飲む」ものなので、薬の飲み方のコントロールができることが必要になり、ちゃんと飴を舐めて食べられるような年齢の子でないと、処方をするのが難しい。
・昼間のおもらしは“意識がある状態での排尿”であり、夜尿とは別の病態と考えるべきである。
■ 夜尿症」 5歳でも1ヵ月以上続く場合が受診目安 専門家ふらいと先生が解説
#1 受診が必要な「夜尿症」について
小児科医・新生児科医:今西 洋介
幼稚園や保育園、学校への進学が気になる時期や、お泊り保育、林間学校などの泊まりがけのイベント前などに気になってくるのが「おねしょ」や「おもらし」。進学前になんとかしなくては、と焦る保護者の方も多いのではないでしょうか。・・・そこで今回は今西先生に、おねしょとおもらしについて解説してもらいました。
1回目は「おねしょはどうして起きるのか」について。症状が起きる原因や、日中のおもらしと夜間のおねしょの違いなどについてお聞きしました。
<目次>
- 成長と共に自然治癒しない「夜尿症」
- 「おねしょ」と「おもらし」の違い
- 「5歳」が受診の目安
▶ 成長と共に自然治癒しない「夜尿症」
──進学・入学の時期が近づくと、「おねしょ」や「おもらし」について気にしだす親御さんが多くなります。でも、「おねしょだし、そのうち成長すれば治るかな」と思う方も多いと思うのですが、そもそも、おねしょはどうして起きるのでしょうか?
今西洋介先生(以下、今西先生):尿が膀胱に溜まって、膀胱が大きくなると神経が刺激されて尿意を感じるようになります。でも、子どもによっては眠りが非常に深く、尿意が生じても目を覚ますことができない場合があります。これに加え、膀胱機能の発達や、自律神経の働きが未熟だと、夜間に作られる尿の量が多いことが重なって、おねしょをしてしまうのです。
とはいえ2歳ごろまでは、排尿を上手にコントロールできないので、反射的にしてしまいます。だからおねしょは当たり前のことなんです。
でも、4歳ごろには徐々にコントロールができるようになり、親が「トイレに行こうね」と促したりすれば、昼も夜も漏らすことは少なくなります。そうして徐々に4歳を過ぎると、夜もおねしょをしなくなります。
▶ 「おねしょ」と「おもらし」の違い
──夜間の「おねしょ」と、昼間に漏らしてしまう「おもらし」では違いがあるのでしょうか?
今西先生:昼間の「おもらし」もおねしょと同様に、大きくなって排尿・膀胱の機能が発達していくことで改善する場合が多いですね。夜間の「おねしょ」と同じように、2~3歳ごろには少しずつおもらしもなくなっていきます。
身体の発達と同じように、排尿・膀胱機能の発達にも個人差があるので、「3歳なのにおもらしをしている」「なかなかおむつがはずせない」と焦ることはないでしょう。
ただ、気をつけてほしいのは、大きくなっても日中に漏らしてしまう場合です。日中は夜寝ているときと違い、意識があります。それでも漏らしてしまったり、おしっこが我慢できなかったりするというのは、場合によっては膀胱・尿道の神経や機能に問題がある可能性も考えられます。これは便を漏らしてしまうのも同様です。
5歳を過ぎても「おねしょ」「おもらし」が頻繁に続く場合は一度受診を考えてください。この場合、おねしょの場合は「夜尿症」、おもらしの場合は「尿失禁症」の可能性があります。
▶ 「5歳」が受診の目安
──ではまず、親としては「5歳」というのが受診の目安と考えて良いのでしょうか?
今西先生:そうですね。夜尿症には明確なガイドラインがあって、『5歳以上で、1ヵ月に1回以上のおねしょが3ヵ月以上続く場合』、そして『1週間に4日以上のおねしょは“頻回”』といわれています。
日本では、調査によると夜尿症は7歳でも有病率は10%程度と報告されています。つまり、1クラスのうち約3人は夜尿症の子がいるという計算です。
幼稚園の年長さんや、小学校に上がってもおねしょをしているというのは、なかなか保護者としても周りに相談しにくいでしょう。さらに子ども自身も、お泊まり保育でオムツを持っていかなくてはいけないというのは、子どもの自尊心が傷つくことになります。これが高学年になれば、なおのこと子どもの心は傷つくはずです。
実際、小学校の2~3年生くらいで「おねしょが続いているから受診しよう」と考える方は比較的少なく、林間学校が行われる4~5年生ぐらいになって、そのとき初めて親も子どもも受診しようと考えるご家庭が多いです。
受診後の治療では、主に生活指導になります。また症状によっては、投薬なども行うことで、自然に治癒する場合より、治癒の期間も短く、2~3倍治癒率が高まるといわれています。
確かに昔は、おねしょは“ときがくれば治る”という考えもありました。しかし、放っておいても治らない「夜尿症」だと、治療が必要な場合もあるということ。そして、月に2~3回のおねしょだから」と放っておかずに、5歳を過ぎてもおねしょが続いているようなら、ぜひ受診を考えてみてくださいね。・・・
■ おねしょが続く「夜尿症」 3つの治療法「生活指導」「アラーム法」「投薬治法」
#2 「夜尿症」の治療について
小児科医:今西 洋介
・・・今回は「夜尿症」の治療法についてです。生活指導、アラーム法、投薬治法の3つの治療法を、今西先生に詳しくお話しいただきました。
<目次>
- 飲水のコントロールや生活リズムを整えるのがファーストステップ
- アラーム療法と投薬での治療法
- 効果の早い投薬治療でも水分摂取量の管理が重要に
▶ 飲水のコントロールや生活リズムを整えるのがファーストステップ
──・・・実際に、病院ではどのような治療をするのでしょうか?
今西洋介先生(以下、今西先生):最初は生活指導を行います。診察時に話を聞いていると、子どもによっては、寝る前にかなりの量のお水やお茶を飲んでいるという子が結構いるんですよね。これではもちろん、夜間におしっこが出てしまいます。
ですので、生活指導では、基本的に就寝2時間~3時間前から飲水制限をしてもらいます。また、夜寝る前に、必ずトイレに行くこと。そして毎日の排便の習慣や、早寝早起きといった生活リズムを整えることの重要性も伝えていきます。実はこれだけで改善をする子もいるんですよ。
▶ アラーム療法と投薬での治療法
今西先生:生活指導だけで改善が見られない場合は、「ピスコール」というアラーム療法を取り入れます。
具体的には、パンツや専用のパッドにセンサーをセットして、おねしょを感知して、寝ている子どもを音や振動で起こすように促すものです。
これを繰り返して、子ども自身がおねしょに気がつくようにします。このアラーム療法を行っていくと、子どもは「眠いから起こされたくない」という意識が働いて、膀胱の尿を蓄える能力を高めていくようになり、夜間の尿の量が減るという効果も現れるように。しかし、それでも難しい場合は投薬を考えます。
──投薬をすると、具体的にどのような作用が体に起きるのでしょうか?
今西先生:デスモプレシン(ミニリンメルト)という抗利尿作用ホルモンと同じような働きをする薬を投薬します。
例えば、水を飲んだら間髪入れずにおしっこが出てしまうようでは生活できませんよね。そうならないため、人間の体の中では抗利尿作用ホルモンが働いて、利尿を妨げる働きをしています。デスモプレシンはこの働きを薬にしたもので、持続的な尿量の調整が可能になります。
ただ、この薬は口の中で「溶かして飲む」ものなので、薬の飲み方のコントロールができることが必要になります。ですから、ちゃんと飴を舐めて食べられるような年齢の子でないと、処方をするのが難しいです。
▶ 効果の早い投薬治療でも水分摂取量の管理が重要に
──夜尿症で悩む保護者にとっては、投薬で尿量が調節できて、親も子も安心して夜眠れるというのは大変うれしいと思います。でも一方で、投薬となると副作用のことも気になります。
今西先生:そうですよね。実はこの薬は副作用が強く、「水中毒」になる可能性があります。・・・寝る前に水分を規定以上飲んだ上に、薬を摂取することで、さらに体内に水分をとどめてしまう。そして、血液中のナトリウム濃度が低くなり、水中毒が起きるのです。そこで、水分摂取量の管理について保護者が気を配る必要が出てきます。
──たとえば夜尿症ではなく、昼間にも漏らしてしまうような場合でもこのお薬は効果があるのでしょうか?
今西先生:日中漏らしてしまうというのは、実は夜のお漏らしとはまた別と考えたほうがいいでしょう。
というのも、前回の記事でもお話ししたように、日中は寝ているときとは違い、意識がはっきりしています。そういう状態でもおしっこを漏らしてしまうというのは、自分で排尿のコントロールができなくなっているということです。この場合はデスモプレシン(ミニリンメルト)ではなく別のお薬が必要になってきます。
──ということは、日中と夜間のおもらしは別のものと認識して、病院へ受診する際に伝えたほうがいいということですね。ちなみにほかに保護者が気をつけておくべき点はありますか?
今西先生:生活指導やアラーム療法、投薬で夜尿症が一度は治ったのに、半年後など間隔を空けてまた症状が出てしまうパターンがあります。この場合、夜尿症ではなく、例えば糖尿病や脳腫瘍、甲状腺の病気などの病気が隠れていることも考えられます。「おねしょがまた再開した」と気軽に考えず、再度受診をするようにしましょう。・・・
■ 「夜尿症」は育て方や子どもの性格が問題ではない
#3 「夜尿症」を悪化させてしまう要因を取り除くには?
小児科医・新生児科医:今西 洋介
・・・最終回となる3回目は、「夜尿症」に悩む家庭が心掛けるべきことについてお聞きしました。
<目次>
- 夜尿症は育て方や子どもの性格が問題ではない
- おねしょを繰り返しても𠮟らないことが大切
- トイレトレーニングと同じ「成功したらほめてあげる」
▶ 夜尿症は育て方や子どもの性格が問題ではない
──どんな子どもでもおねしょをした経験はあるのに、自分の子どもが夜尿症になってしまうと、「わたしの育て方が悪かったのかな」と、つい考えてしまうものです。
子どもと接する時間が長いからこそ、保護者が自分のせいだと責めてしまい、親子にとって夜尿症がよりつらいものになっているように思います。
今西洋介先生(以下、今西先生):「私がオムツを外すことにプレッシャーをかけたからかも……」など、保護者の方が受診時にお話しされることがあります。
でも、夜尿症は親の育て方や、子どもの性格などが原因ではありません。1回目でもお伝えしたように、膀胱の収縮や尿道括約筋の緊張・弛緩を司る神経は未発達なこと、夜間の尿量が多い、睡眠から覚醒できないということが原因です。ですから必要以上にお母さん、お父さんが自分、そして子どもを責めることはありません。
夜尿症は身体の発育に関係する部分も多く、治療にかかる期間もそれぞれ。決して焦る必要はないのです。ですから周囲と比較する必要もないですし、見守る気持ちで治療をしていきましょう。
▶ おねしょを繰り返しても𠮟らないことが大切
──子育てと一緒ですね。それぞれの子どもに個性や特性があって、成長を見守るように、夜尿症も子ども自身のペースを見守って、一緒に伴走してあげることが大切なんですね。
今西先生:そうですね。そして見守ってあげることと同じくらい大切なのが「𠮟らないこと」です。頻繁におねしょをされると親の負担は本当に大変ですよね。
「なんでまたおねしょしたの!」とつい言ってしまう気持ちもわかります。でも、𠮟られることで子どもは排尿時に緊張するようになってしまい、夜尿症が悪化することも。
できる限り𠮟らずに、おねしょをしなかったときはほめてあげて、子どもに自信をつけてあげるといいでしょう。
──お話をお伺いすると夜尿症では精神的な影響が大きいように思いました。
今西先生:𠮟らない、ということも大切ですが、同時に子どもが置かれている状況で受けるストレスというものも考える必要があります。
実は受験のストレスや親の離婚などが引き金となって、夜尿症が起きることもあるのです。身体的な発育に加え、子どもの心にストレスがかかっていないかということを考えてみることも必要でしょう。
――受験のストレスで引き起こされる夜尿症というと、やはり大きくなってもなかなか治らない場合もあるのでしょうか?
今西先生:ほとんどのお子さんは、成人するまでに治ると言われていますが、15歳以上でも1~2%程度の子は夜尿症があるといわれていて、稀に成人しても続くケースはあります。小さいうちでもかなりおねしょの頻度が高いのであれば、早めに受診をすることをやはりおすすめしますね。
▶ トイレトレーニングと同じ「成功したらほめてあげる」
──ちなみに2~3歳ごろのお子さんを抱えているお母さん・お父さんは、オムツをはずすトイレトレーニングを始めるかと思うのですが、その際にあえておしっこでオムツが濡れる感覚を覚えさせたります。しかし、このことで夜尿症を引き起こすということはないのでしょうか?
今西先生:オムツを外すトイレトレーニングをする中で、お尻が濡れる感覚に慣れて遊び続けてしまう子どももいるかもしれませんね。でも、それが夜尿症を引き起こすということはないでしょう。
逆に、夜尿症だからといってオムツを履かない年齢なのにオムツを履かせるのは、子どもも嫌がるのであれば、あまりおすすめはしません。おねしょシーツなどを敷いて、寝具などが濡れない対策をとりましょう。そして、お母さん、お父さんは「応援しているよ」という気持ちを子どもにきちんと伝えてあげてほしいと思います。
特に、子どもの年齢が大きくなると「自分だけおねしょをして恥ずかしい」「親に迷惑をかけている」という不安や劣等感を抱くようになります。オムツを外すトレーニングのときに、「トイレでおしっこできたね、えらいね!」と褒めてあげたように、まずは子どもの不安を取り除いてあげましょう。
そして、そういった親の心のケアがベースにあった上で、さらに親と子ども本人の「治したい」という気持ちが大切になってきます。治すには、生活習慣を見直したり、飲水の制限をしたりと、いろいろ地道な努力が必要ですが、焦らずに取り組んでいってください。・・・