“子ども”を取り巻く諸問題

育児・親子・家族・発達障害・・・気になる情報を書き留めました(本棚4)。

子どもの人権を守る学校健診とは?

2024年11月23日 08時49分42秒 | 健診
2022年の学校健診に関する京都新聞の記事が目にとまりました。

1件の盗撮事件を起点に、学校健診を「半裸健診」というネガティブイメージを持たせた単語で表現し、
学校健診全体を悪と追い詰める内容です。

1件のインパクトあるトラブルから、市民の興味や不安を煽り、大きな社会問題化していくメディア…
しかしほとぼりが冷めて間違いだったとしても責任を取らないメディア…
もう、うんざりです。

例えば、HPVワクチン事件。
接種後に不随意運動をきたした女性の動画がSNSで拡散し、
政府は積極的勧奨を止めざるを得なかった…
しかし勧奨停止の間にも、日本では約3000人の女性が毎年命を奪われていた。

例えば、兵庫県知事問題。
1人の自殺者を起点に、メディア総動員で知事を責めて、再選挙に追い込んだ。
その結果は、皆さんご存知の通り。
メディアはちょっと反省の弁が聞かれましたが、ほとんどスルーしています。

過多情報でなにが正しい情報なのか、判断しにくくなっている現在社会。
心して情報に向かい合う姿勢が必要です。

さて話を戻します。

学校健診は健康状態の生徒を問診・診察して病気のスクリーニングをする医学的な処置です。
ここで医療者と検診を受ける生徒・家族側でギャップが発生すると感じています。

医療者は「症状がない状態で病気を拾い上げる目的のため神経を使って診察」します。
生徒・家族側は「健康なんだから肌を見せて診察するのは大げさ、必要ない」と考えがちです。

子どもが恥ずかしがるから健康診断の目的を黙殺して儀式的にこなすことが、
子どもの人権を守ることでしょうか?

小児科医である私は、子どもの健康状態をチェックして病気を未然に防ぐことが、
子どもの人権を守ることだと考えています。

ですから、還暦過ぎの満身創痍の体で学校へ出向き、
数時間診察を続けています。

所見が取れないような診察方法、以上のチェックが不完全になる診察方法が選択されるなら、
目的が達せられませんから、即、学校医を辞退する所存です。


▢ 「学校での半裸健診、早くやめるべき」医師盗撮逮捕で教員から怒りの声
 「盗撮は最悪の事態で許せない。京都市立学校で行われている半裸健診も、とにかく早くやめるべき」。岡山市内の中学校の定期健康診断で下着姿の生徒を盗撮していたとして医師が京都府警に逮捕された事件を受け、京都市立中のある教員が京都新聞社に怒りの声を寄せた。京都新聞社は2020年、一部の自治体や学校の健診で、児童生徒に上半身裸にさせていることに対する保護者の疑問や校医の見解を報じたが、いまだに健診を巡る不安の声は絶えない。今回は、現場の教員の声や専門家の意見から、安心安全な健診の在り方についてあらためて考えたい。
■中学での一律脱衣健診は少数派
 京都市教育委員会は、学校の定期健診時に児童生徒の上半身を脱衣させるよう、市立の全ての幼小中高校と総合支援学校に通知している。市学校医会と協議した結果といい、脱衣の理由を「見逃しのない診察をするため」と説明する。
 一方、京都市を除く京都府内では、脱衣をさせない学校も一定ある。府医師会が京都市を除く府内全公立小中学校を対象に行った2018年度アンケートによると、背骨のゆがみを診る検査を男女とも上半身脱衣で実施したのは小学校で70.9%。だが生徒の心身が大きく変化する中学校では32.1%にとどまる。他の政令指定都市でも、一律に脱衣で健診を行っている自治体は少数だ。
 京都新聞社に声を寄せた教員は訴える。「思春期の生徒が半裸を強制される気持ちの悪い独自ルールに、生徒からは毎回助けを求められ、保護者からは苦情が来る。ただ教育委員会が方針を変えないため『決まりなので』と返すしかない。私たちは生徒の心を守ってやれないのでしょうか」
 この教員は以前から「半裸健診」を問題視し、養護教諭に相談してきた。だが現状は変わらず、管理職や養護教諭から「生徒から反対意見が出ても教師は同調したり共感したりしないように」と言われたという。健診の在り方を疑問視する教員は他にもいるが、職場ではこの話題を持ち出してはいけない雰囲気で、声を上げづらいと漏らす。
 市立高教員も「裸を嫌がって生徒が逃げたり、脱がない生徒に校医が声を荒らげたりという話はこれまで何度も聞いた」と話す。半裸にさせる必要性については「学校側は疾患を見逃さないためと言うが、効率よく健診を済ませたいというのが本音。少なくとも私は必要性を理解していません」ときっぱり。「会社の健診とか、大人には同じことやらないでしょう。子ども相手だったら無理強いが許されると思っているのか」と指摘した。
■学校の性被害防止に取り組むNPO法人代表 亀井明子さんに聞く
 「今回の盗撮事件を、逮捕された医師個人の問題で済ませるべきでない。学校健診は昔から性的なトラブルを抱えやすい場だった」と指摘するのは、学校の性被害防止に取り組むNPO法人スクール・セクシュアル・ハラスメント防止全国ネットワーク(大阪府守口市)の亀井明子代表だ。健診をめぐる課題と対策について、亀井代表に聞いた。
 -健診に関する相談は。
 「毎年十数件寄せられる。ある生徒は、かかりつけ医でもある校医に久しぶりに健診で会った時、胸に聴診器を当てられたタイミングで『大きくなったね』という声を掛けられ、非常に不安に思ったという。触診に違和感を持ったという声も少なくない」
 「私は中学校教員だった20年以上前から健診での性被害に問題意識を持っていた。『校医にいやらしい目で見られた』と打ち明ける生徒がいたり、特定の生徒だけ診察が長いのでは、という相談があったりした。今でも裸で健診をさせている学校があるのは驚きだ」
 -生徒が健診の悩みを打ち明けると「自意識過剰だ」で済まされると聞く。
 「自意識過剰は性被害者によく向けられる言葉だが、私は二次加害だと考える。それによって被害の声を上げづらくなる」
 -今回の盗撮を、医師個人の資質の問題だと捉える意見もある。
 「それは違う。教員によるセクハラもそうだが、学校での性加害は、弱い立場にある生徒が、嫌でも断れないという力関係の中で起きている。健診の脱衣も力関係の中で強制され、児童生徒と保護者の不安や、盗撮のような性被害のリスクにつながっている。盗撮は職業や場所に関係なく起こる。どこにどんな問題が潜んでいるか分からないという視点で、学校は健診の在り方を見直すべきだ」
「学校は、どのような人間関係や環境でセクハラが起こるかを知り、予防することが大切」と訴える亀井さん(大阪府守口市)

小児肥満に薬物療法?

2024年11月07日 16時11分19秒 | 子どもの心の問題
小児の肥満が増えています。
学校健診でも実感するところです。

日本では肥満+血液検査値異常 → 肥満症として、
治療・管理が必要とされています。

私が担当している学校健診では「肥満度50%」で受診勧奨の通知が渡されます。
しかし、実際に受診する生徒の方が少ないのが現状です。
その理由は、
「本人が今困っていないから」
「家族全員が肥満体なので異常とは思えない」
等々、一言でいうと「病識がない」のですね。

一方、病識のある家庭の生徒は、
あの手この手で改善を試みています。
本日来院したお子さんは、
「どうしようもないので、冷蔵庫につける鍵を買いました」
とお母さんがため息交じりにつぶやきました。

さて、日本より肥満が深刻な欧米では、
薬や手術を行っています。

先日、欧米で小児肥満への投与が認可された薬が誕生しました。
もちろん、日本では未認可です。
それを扱った記事を紹介します。

▢ リラグルチドは小児肥満の治療薬として有効である
 解説:住谷 哲(すみたに さとる)  
 社会福祉法人恩賜財団大阪府済生会泉尾病院 糖尿病・内分泌内科 主任部長
臨床研究適正評価教育機構:2024/11/06)より一部抜粋(下線は私が引きました);
(オリジナルの記事)肥満小児へのリラグルチド、BMIが改善/NEJM(2024/10/08掲載)

 『小児肥満症診療ガイドライン2017』1)によると、小児肥満の定義は
「肥満度が+20%以上、かつ体脂肪率が有意に増加した状態(有意な体脂肪率の増加とは、男児:25%以上、女児:11歳未満は30%以上、11歳以上は35%以上)」
であり、肥満症
「肥満に起因ないし関連する健康障害(医学的異常)を合併するか、その合併が予想される場合で、医学的に肥満を軽減する必要がある状態をいい、疾患単位として取り扱う」とされる。
 ここで肥満度は学校保健安全法に基づき、
肥満度(%)={(実測体重-標準体重)/標準体重}×100
が広く用いられている。
 さらに小児期からの過剰な内臓脂肪蓄積は早期動脈硬化につながることから、小児期メタボリックシンドローム診断基準もすでに作成されている。小児肥満症患者の多くが成人肥満症に移行することから、現在では小児肥満症は成人の非感染性疾患(non-communicable disease:NCD)抑制のための重要な対象疾患と認識されている。

 わが国では肥満と肥満症が区別されているが、欧米では区別されず、ともにobesityである。本試験の対象者も肥満に起因ないし関連する健康障害の有無はinclusion criteriaに含まれておらず、obesity-related complicationsとして耐糖能障害や高血圧などを有する対象者が約半数含まれている。したがって、以下のコメントでは「小児肥満症」ではなく「小児肥満」を使用する。

 成人と同じく小児肥満の治療も食事・運動療法が基本となる。しかし、薬物療法が必要な患者も少なからず存在する。現在のわが国では残念ながら小児肥満に適応のある薬物は存在しない。(商品名:ビクトーザ)はわが国では肥満治療薬として承認されていないが、欧米では高用量(3.0mg/日)が肥満治療薬として承認されている。これまで成人(>18歳)2)、青少年(12~18歳)3)でその有効性が報告され、すでに治療薬として承認されているが、小児(6~12歳)での有効性は不明であった。そこで本試験「SCALE-Kids試験」が実施された。

 対象患者の背景は平均で年齢10歳、身長149cm、体重70kg、腹囲95cm、BMI 31kg/m2である。リラグルチドの投与量は成人、青少年と同量の3.0mg/日であり56週後のBMIの変化率が主要評価項目とされた。その結果は予想どおり、リラグルチド群で有意なBMIの減少を認め、有害事象も許容範囲であった。

 本試験の結果に基づいて、リラグルチドはおそらく小児肥満治療薬として欧米で承認されるだろう。わが国でも肥満の有病率は増加しているが欧米の比ではなく、本年ようやく成人に対してセマグルチド(商品名:ウゴービ)が肥満症治療薬として使用可能となったばかりである。わが国では成人に対してもリラグルチドは肥満治療薬として承認されておらず、小児肥満治療薬としての道のりはまだまだ遠いと思われる。

<参考文献・参考サイト>
1)日本肥満学会編. 小児肥満症診療ガイドライン2017. ライフサイエンス出版;2017.
2)Pi-Sunyer X, et al. N Engl J Med. 2015;373:11-22.
3)Kelly AS, et al. N Engl J Med. 2020;382:2117-2128.