“子ども”を取り巻く諸問題

育児・親子・家族・発達障害・・・気になる情報を書き留めました(本棚4)。

黙り込んだ子どもの気持ち

2025年02月23日 07時41分12秒 | 子どもの心の問題
児童精神科看護師の書いた書籍が話題になっています。
内容の一部が消化された記事が目に留まりましたので、紹介します。

黙り込んだ子どもの心を紐解く方法が書かれていました。
従来「傾聴」が大切、とされてきましたが、
そこから一歩進んで「聴きに行く力」が必要とのこと。
その入口は「子どもの得意分野について本気で質問する」だそうです。

・・・読んでみて感じたことは、
「これを日常生活で行うことは難しい」
なぜかというと、大人自身が「話を聞いてもらえない」状況だから。
話を聞いてもらえない経験を重ねてきた大人が、
人の話(子どもの話)を「傾聴する」「傾聴するために努力する」
のは困難でしょう。

保育士は子育てのプロ、と考えられていますが、
実際に自分の子どもの育児をすることになると、
思うように行かずギブアップすることも珍しくないと聞きます。
なぜって「育児はエンドレス、保育士の仕事は9時5時」だから。

こど看さんも仕事だからここまでできるのでしょう。
というわけで、この本を購入する価値を見いだせませんでした。


▢ 子どもには子どもの「言えない」理由がある…黙り込んだ子に大人がやるべきたった一つの行動「話さないとわからないよ?」と促しても効果は薄い
こど看:精神科認定看護師
2024.2.1:PRESIDENT Online)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 何を考えているか話してくれない子どもに、どう声かけすればいいか。児童精神科看護師のこど看さんは「子どもが黙っているときは、言いたいことがあっても言えずにいる場合が多い。『話さないとわからないよ?』と急かすのではなく、言葉を待つことが重要だ」という――。(第1回/全3回)

▶ 大人は子どもの言葉を待つことができない
 子どもと大人の気持ちはよくすれ違います。子どもが何も語らずに黙っているとき、大人は「話さないとわからないよ?」と語りかけがちです。しかしそのとき、子どもは「話せないんだよ。わからないの?」と感じているかもしれません。
 なぜこのようなすれ違いが起きるのでしょうか? その原因のひとつとして、私たち大人が「子どもの言葉を待てない」ことがあると思うのです。大人は、自分の気持ちを言葉で伝えて、その言葉を受け取ってもらったという経験を積み重ねているので、「言葉で伝えることの大切さ」を理解しています。
 しかし、子どもは言葉でやり取りする経験を積んでいる真っ最中なので、言葉にする前に「これ言ったら怒られるかな」「迷惑かけちゃうかもしれないな」と考え、自分の言葉が変に伝わってしまわないか怖くなり、「言いたいのに言えない」状況が発生します。
 それに加え、自分の気持ちを適切に表現する言葉を知らなかったり、大人から言葉を求められるプレッシャーに圧倒されているなど、子どもながらに言えない理由や背景があります。それを理解し、私たち大人には、子どもの言葉を待つ姿勢が求められるのではないかと思うのです。

▶ 「言えるけど言わない」のではなく「言いたいけど言えない」
 大人は「言えるけど言わない」ができます。しかし、子どもは「言いたいけど言えない」のです。もし、子どもから言葉が返ってこなかったら、「話さないとわからないよ?」と子どもの言葉をせかすのではなく、「話せないの、つらいよね」と共感しながら子どもの言葉を待ってみましょう
 そして、子どもが自分の思いや感情を言葉にすることができたときは、その言葉を否定せずに受け止めてあげてください。そうすることで、子どもは「自分の言葉には価値がある」と実感し、「言葉で伝えるって大切なんだな」と思えるようになるのです。

▶ 誰かに話しかけるのは子どもにとって勇気がいる
 子どもの話を聞く上で、傾聴力が大切なのは言わずもがなです。しかし、傾聴力だけでは子どもの話を聞くことはできません。なぜなら、子どもの話を聞く場面をつくらなければ、子どもの話を聞けないからです。だからこそ私は、「子どもの話を聞きに行く力」が大切だと思うのです。
 子どもにとって、「誰かに話しかける」って結構勇気が必要なことです。大人と違い、誰かに声をかけたり相談してきた経験が少ないので、たとえそれが親相手であったとしても、「今忙しくないかな?」「こんなこと話しても大丈夫かな?」と、自分から話しかけることに躊躇しやすい面があります。そんな背景があるからこそ、大人のほうからも子どものところに行って、声をかけてほしいのです。
 では、子どもの話を聞く場面を多くつくり、子どもの話を聞きに行く力を伸ばすにはどうしたらよいでしょうか。
 私のおすすめは「子どもの得意分野について本気で質問する」という方法です。「絵を上手く描きたくて」、「サメの弱点を知りたいんだけど……」のような感じで、子どもが得意としていることに関して本気で質問や相談をし、会話のきっかけをつくるのです。その中で、子どもの困り事をさりげなく聞いてみるのもよいでしょう。ただし、強引に子どもの話を聞き出そうとするのは避けてください。私たち大人と同じように、子どもだって話したくないときはありますので、子どもから「話したくない」と言われたら、潔く身を引きます。
 このように、子どもの話を聞く力には、「子どもの話を積極的に聞きに行く力」が含まれます。「子どもの話をどうやって聞こう」を考えることと同じくらい、「子どもの話をどうやって聞きに行こう」と考えることが重要なのです。

▶ 「なんでそんなふうにできるの?」と聞いてみる
 どんなときでも全力で遊び、楽しみ、悔しがる。
 周りの目を気にせず、自分の好奇心に従って行動する。
 このような子どもの姿を見て大人が心を動かされることってありますよね。それはきっと、子どもの頃はできていたことが、大人になった今となってはできなくなっていることに気づかされるからなんだと思います。
子どもの姿から学ぶことは大切なのですが、それだけで終わるのはもったいない! もし、あなたが子どもの姿を見て学んだのであれば、その子から直接指導を受けることを強くおすすめします。
 方法はシンプルで、子どものそばへ行き、「◯◯なところが勉強になったんだけど、意識していることや、コツとかってあるの?」「なんでそんなふうにできるの?」と、子どもに直接指導をしてもらいたいと真剣にお願いするのです。こうした姿勢は大人だけではなく、子どもにも大きなメリットがあります。それは、「その子が自分のすばらしい部分に気づける」という点です。

▶ 大人の「教えて!」が子どもの自信を育てる
 子どもから見た大人は、自分よりも経験豊富な「たぶん自分よりもすごい人」に見えています。その「すごい人」から、急に「あなたのやっていることを教えてください」と言われたら、「自分のしてることってなんかすごいのかも」と、その子が気づいていないすばらしい部分を、その子自身が感じられます。
 さらに、「大人に認められた」といううれしい事実も残ります。こういった、少し恥ずかしくもうれしい気持ちが、その子にとって大切な要素になります。
 ぜひ、子どもの素敵な姿に心を動かされたら、真剣に「教えて!」とお願いしてみましょう。大人のそんな姿勢が、子どもの自信を育む手助けになるのです。

▶ 「よくわからないけど」は子どもの心を閉ざす枕詞
 子どもが発する話題は、大人にとってなじみがなく、理解しづらい場合が多いものです。それで私たち大人はつい「よくわからないけど、そうなんだ」と相槌を打ってしまうことがあります。実はこの言葉、子どもには否定的に捉えられてしまう可能性があり、注意が必要です。
そもそも、子どもが熱心に話しているということは、あなたに対して、「この人ならこの話を理解してくれるかもしれない」と期待して話している可能性が高いです。そんな子どもにとって、「理解してくれるかもしれない」と期待している大人からの「よくわからないけど、そうなんだ」という言葉は、かなり衝撃的に聞こえます。「この人、この話をわかろうともしてくれないんだ」とネガティブに捉え、「もうこの話題は出さないようにしよう……」と心を閉ざしてしまうかもしれません。
子どもの興味・関心を子どもの目線で学ぶ
では、代わりになんと言えばよいのでしょうか。ここでも「その話、教えてほしいな」と、子どもに教えてもらう姿勢で声をかけるのが私のおすすめです。この言葉は、子どもの話を前のめりに聞こうとする大人がいるというポジティブな事実を伝えることができる上に、子どもが大人に教える機会を自然につくり出すことができる、まさに一石二鳥の言葉です。
大人である私たちが、子どもの話を適当に聞いてしまうことがあるのは事実でしょう。しかし、あなたに向けて子どもが熱心に話しているときこそ、子どもの興味・関心を、子どもの目線から学ぶことができるチャンスです。何かを一生懸命話している子どもに、「その話、教えてほしいな」と伝えたら、きっとその子は目を輝かせて、あなたがまったく知らない世界を力強く語ってくれるはずです。


<参考>
・『児童精神科の看護師が伝える 子どもの傷つきやすいこころの守りかた』(こど看著、KADOKAWA)

生きるためにリストカットをする

2025年02月19日 07時07分55秒 | 子どもの心の問題
「リストカットは自殺未遂ではない、生きるためにしている」
と某番組で耳にしました。
でも自殺者のデータを見ると「自傷歴あり」という言葉も目につきます。
・・・どう考えればいいのか、わかりません。

リストカットを繰り返す中学生、
ココロの問題を相談しようと精神科を受診しても、
「ここは高校生から」と門前払いされるという話も聞きました。

彷徨う思春期の自傷行為を止められない子どもたちに、処方箋はあるのでしょうか。

精神科医の松本俊彦先生を取材した記事が目に留まりましたので紹介します。
親がリストカットに気づいたとき、
「やめなさい!」
ではなく、
「何があったの?」
と声をかけるのがよいと書いてあります。
・・・あれ、このフレーズ、どこかで聞いたことがあるような・・・

そうそう、幼児の兄弟ゲンカの際、上の子に
「やめなさい!」
ではなく、
「何があったの?」
と声をかけましょう。
と育児本に繰り返し書いてあるのですね。

その行為に至った子どものココロを見つめることが大切、ということ。

また、自傷行為は“悩みを痛みで解消する”という面があり、
例えていえば、オーバードーズ、過食・拒食、仏教の厳しい修行にもその要素がある、
という説明に一部頷きました。

そして気になったキーワードは「解離状態」。
人間はあまりにもつらい体験をするとそれから逃れるために“意識を飛ばす”ことがあります。
もう1人の自分を作り、そこに逃げ込むことで本能的に自分を守る。
小説や映画でよく扱われる「多重人格」は、
幼児期に受けた虐待の記憶から逃れるための解離という説もあります。

子どもたちの「声にならないSOS」が自傷行為につながっていくようです。
そんなトラウマを抱えた子ども達に、周囲の大人は何ができるのでしょうか?

<ポイント>
・女子中高生の12.1%はリストカットの経験がある。一度でもリストカットをしたことのある人のうちの6割が、10回以上繰り返していた。
・彼女たちの多くは、怒りの感情をストレートにぶつけられず、つらい記憶や感情を打ち消すために自傷してしまう。自分では手に負えない感情に対処するため、つらい感情を一時的に緩和するための行為、それがリストカットだ。
・歴史を遡っても、人間は耐え難い心の痛みや困難を克服するのに身体の痛みを使ってきた。1980年代には、居場所のない子どもたちが煙草の火を腕に押し付け合う“根性焼き”という現象が見られた。根性焼きもリストカットも自傷行為。細かく考えれば、聖書にも自傷と思しき描写があり、禅宗では僧侶が過酷な修行をする、あれも自傷的である。
・歌舞伎町を居場所とする中高生を「トー横キッズ」と呼ぶ。家に安全な居場所がなく、人の繋がりを求めて歌舞伎町に集まってくる女の子たちの多くが、カミソリやカッターナイフで自らの腕を傷つけるリストカットをしている。
・本人ははっきりと言葉で説明することができないが、われわれ精神科医が整理すると、それは、怒りや恐怖、緊張がごちゃまぜになった、名前をつけることのできない強烈な感情。生きているのか死んでいるのかさえわからない不気味な感じ。その感情が心に渦巻いている状態から回復するために、本人は解離状態になる。自分自身から解離することによって、言葉にならない強烈で不気味な感情をリアルに感じないで済む。でも、つらい感情が去ったあとも解離状態が続いていると気持ちが悪い。それで腕を切る。すると最初は痛みを感じないのが、ザクザク切っているうちにだんだん痛みを感じるようになってきてそこで現実を取り戻す。
死ぬことを目的として行為の結果を予測して自分の体を傷つける自殺に対し、非致死的な結果を予測して傷をつけるリストカットは、生き延びるための行為なのだ。
・一方で、10代での自傷行為経験者の10年内自殺既遂リスクは400~700倍にもなる。長期的に見ると自殺の危険因子でもある。生き延びるために自傷を繰り返す少女たちだが、初めての自傷の際には死のうと思っていたというケースが実は多い。死にたいと思いつめて自傷したけれど、失敗した。ところが、死にたいくらいつらい状況を一時的に生き延びるのに自傷は役立つと発見してしまう。リストカットによる苦痛の緩和が報酬となって、自傷が常習化していく。依存性があるため効き目が弱くなっていって、当時と同じ効果を維持するために頻度や程度がエスカレートする、また、手段や方法が過激になっていく。
市販薬や睡眠薬を過剰服用するオーバードーズや、過食・拒食も、自分を傷つける行為だ。オーバードーズは、つらい記憶や感情がフラッシュバックした際に、死にたい、消えたい、怖いといった意識をシャットダウンすることができる。だがだんだん効きが悪くなるため致死量を超えて服用してしまう危険がある。
・自傷行為は子ども時代に体験した家族ドラマを象徴的に再現しているという説がある。切る自分と切られる自分とその一部始終を無力感を持って眺めている自分、それは暴力を振るうお父さん、殴られているお母さん、両親がこんなに中が悪いのは、私が生まれたからこうなったんだと勝手に意味付けしてしまう子ども自身という三者をリストカットによって再現している。
風俗も自傷行為と捉えることができる。外来で診ているリストカットする女の子たちの多くが、風俗でバイトしている。風俗をする子たちの多くが子ども時代に性的な虐待や身体的な虐待を受けていて、自分は大事じゃない存在なんだという意識が染み込んでいる風俗で見知らぬ男性に抱きしめられているとこの世にいていいんだという感情を持つことができると松本氏に話したある女の子は、その繰り返しによって少しずつ自己愛をためていき生き延びられている
・もしリストカットに気づいたら「何があったの?」と言葉をかけてほしい。頭ごなしに「やめなさい」と言うのは意味がない。最も苦しいのは本人だ。周囲の大人にできることは、感情的にならずに、自傷について話せる関係をつくること。

風俗嬢の下り、悲しすぎます。
では、記事本文を。

▢ 決して好きで痛い思いをしているわけではない…「リストカットを繰り返す少女たち」の悲しい共通点自傷行為を「やめなさい」と否定してはいけない
三宅 玲子:ノンフィクションライター
2023/08/11:PRESIDENT Online)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 女子中高生の12.1%は「リストカットの経験がある」という調査結果がある。調査した精神科医の松本俊彦氏は「彼女たちの多くは、怒りの感情をストレートにぶつけられず、つらい記憶や感情を打ち消すために自傷してしまう。親など周囲の人は、頭ごなしに否定するのではなく『何があったの?』と声をかけてほしい」という。ノンフィクションライターの三宅玲子さんが聞いた――。

▶ なぜ少女たちは自分の腕を傷つけるのか
 新宿・歌舞伎町で警視庁が「トー横キッズ」の一斉補導を実施し、26人が補導されたと報じられたのは、夏休み直前の7月16日だった。歌舞伎町を居場所とする中高生をトー横キッズと呼ぶ。ここ数年は低年齢化が進み、文字通り、小学生のキッズも紛れ込んでいる。
 家に安全な居場所がなく、人の繋がりを求めて歌舞伎町に集まってくる女の子たちの多くが、カミソリやカッターナイフで自らの腕を傷つけるリストカットをしている。援助交際やデリヘルなどに入り込む女の子もいて、彼女たちのリストカット率は極めて高い。
 彼女たちがリストカットをせずにいられないのはなぜなのか。そのわけを依存症の研究者で精神科医の松本俊彦氏(国立精神・神経医療研究センター)に聞いた。
 女子中高生の12.1%。これは松本氏が行ったリストカットに関する調査結果だ。さらに、一度でもリストカットをしたことのある人のうちの6割が、10回以上繰り返していた。実は女の子たちにとってリストカットは遠いものではないのだ。

▶ 心の痛みを克服するために身体の痛みを使う
 自分では手に負えない感情に対処するため、つらい感情を一時的に緩和するための行為、それがリストカットだと、松本氏は語り始めた。
 「居場所のない子どもたちが煙草の火を腕に押し付け合う根性焼きという現象が見られたのが80年代でした。根性焼きもリストカットも自傷行為です。細かく考えれば、聖書にも自傷と思しき描写がありますし、禅宗では僧侶が過酷な修行をする、あれも自傷的です歴史を遡っても、人間は耐え難い心の痛みや困難を克服するのに身体の痛みを使うというのがあったと思います」
 松本氏は薬物依存症をはじめ依存症を30年にわたり研究している。リストカットは2000年代に入ってその数が目立ってきたという。女の子がリストカットをする際、心の中ではどのようなことが起きているのか。

▶ 生き延びるために自傷を繰り返すのだが…
 「本人ははっきりと言葉で説明することができないのですが、われわれ精神科医が整理すると、それは、怒りや恐怖、緊張がごちゃまぜになった、名前をつけることのできない強烈な感情です。生きているのか死んでいるのかさえわからない不気味な感じです。その感情が心に渦巻いている状態から回復するために、本人は解離状態になります。自分自身から解離することによって、言葉にならない強烈で不気味な感情をリアルに感じないで済むのです。でも、つらい感情が去ったあとも解離状態が続いていると気持ちが悪い。それで腕を切るわけです。すると最初は痛みを感じないのが、ザクザク切っているうちにだんだん痛みを感じるようになってきてそこで現実を取り戻すのです
 死ぬことを目的として行為の結果を予測して自分の体を傷つける自殺に対し、非致死的な結果を予測して傷をつけるリストカットは、生き延びるための行為なのだという。それでも、10代での自傷行為経験者の10年内自殺既遂リスクは400~700倍にもなる。長期的に見ると自殺の危険因子でもある
また、生き延びるために自傷を繰り返す少女たちだが、初めての自傷の際には死のうと思っていたというケースが実は多い

▶ オーバードーズや摂食障害も「死」と隣り合わせ
死にたいと思いつめて自傷したけれど、失敗した。ところが、死にたいくらいつらい状況を一時的に生き延びるのに自傷は役立つと発見してしまうわけです。リストカットによる苦痛の緩和が報酬となって、自傷が常習化していく。依存性があるため効き目が弱くなっていって、当時と同じ効果を維持するために頻度や程度がエスカレートする、また、手段や方法が過激になっていきます
 市販薬や睡眠薬を過剰服用するオーバードーズや、過食・拒食も、自分を傷つける行為だ。オーバードーズは、つらい記憶や感情がフラッシュバックした際に、死にたい、消えたい、怖いといった意識をシャットダウンすることができる。
 だがだんだん効きが悪くなるため致死量を超えて服用してしまう危険がある。昏睡こんすいするほどに効かず酩酊めいてい状態になった場合、衝動のコントロールが悪くなり、つらいという感情から自殺念慮が生じて飛び降り自殺や首吊り自殺の衝動に突き進んでしまうこともある。

▶ 「何があったの?」から始まる関係がある
 頭ごなしに「やめなさい」と言うのは意味がない、そして、もしリストカットに気づいたら、「何があったの?」と言葉をかけるよう松本氏は勧めた。
 「親はショックかもしれません。でも、感情的に反応すると余計にエスカレートしたり隠すだけになったりします。何かあったの? と尋ねてみても、本人は言葉にすることはできないと思うのですが、次、切ったらちゃんと教えて、と親御さんは娘さんに語りかけてほしい。自傷について親子で話せるようにして、ひどく切ってしまったときや切っても効き目がなくなったときに、早めに教えてもらえるような関わりをつくった方がいいです」
 だが、親との間にそのような対話が成立していれば、そもそも女の子たちは自傷しないのではないか。ところが、松本氏は、そこから対話が始まった家庭があると、次のケースを話した。
 その家庭では、母親に過干渉の傾向があった。娘がリストカットをするのに気づいた母はしばらく気づかないふりをして時期を過ごしたが、不安になり松本氏の勤務する病院に相談に訪れた。そこで母親はリストカットとはどういう行動なのか説明を受け、感情的にならずに娘のリストカットに向き合う方法を学んだ。

▶ 親が「育て方が悪かった」と自責する必要はない
 「リストカットが少なくともすぐに死ぬ行動ではないこと、今すぐ死ぬのを延命している行動でもあること、でも上から押さえつけると、リストカットの背景を話せなくなってしまう、というメカニズムを、お母さんに説明しました。その結果、親が感情をコントロールして向き合えるようになったのがよかったのでしょう」
 親に対してのアドバイスを求めると、松本氏はこう話した。
 「自分の育て方が悪かったんじゃないかと言うお母さんもいらっしゃいますが、自責するのはおかしい。どの家にも問題はあるわけですから。年をとってから子どもに爆発されるのではなくて、今、たまっていたものが出た、ということで、それをきっかけに、自分たちの家庭のあり方について、修正すべき点はどこなんだということを早めに言葉にして話し合う。そして自傷について子供と会話できる関係をつくっていったほうが良い」
 自傷行為の背景や言葉にできないつらい感情の程度には、女の子一人ひとり、グラデーションがある。複合的な自傷行為へと進んでしまった末に自殺念慮が強まった結果、自死してしまった患者も残念ながらいるという。

▶ 「自分は大事じゃない存在だ」という悲しい意識
 「例えば僕が外来で診ているリストカットする女の子たちの多くが、風俗でバイトしています。風俗をする子たちの多くが子ども時代に性的な虐待や身体的な虐待を受けていて、自分は大事じゃない存在なんだという意識が染み込んでいます。僕の調査では、精神科外来に来る10代の女の子の67%が深刻なトラウマを抱えていました。人生のどこかで暴力の持つパワーを体験している人たちです。
 精神分析の専門家の中には、自傷行為は子ども時代に体験した家族ドラマを象徴的に再現しているという説を述べる人もいます。つまり、切る自分と切られる自分とその一部始終を無力感を持って眺めている自分、それは暴力を振るうお父さん、殴られているお母さん、両親がこんなに中が悪いのは、私が生まれたからこうなったんだと勝手に意味付けしてしまう子ども自身という三者をリストカットによって再現しているというのです。そういうセルフイメージを持っている女の子たちが、風俗やAV出演の誘いに敷居が低くなっているのは間違いありません」
 風俗も自傷行為と捉えることができる。風俗で見知らぬ男性に抱きしめられているとこの世にいていいんだという感情を持つことができると松本氏に話したある女の子は、その繰り返しによって少しずつ自己愛をためていき生き延びられている。一方で、風俗で働くうちに自傷がエスカレートして性的なトラウマの蓋が開き、覚醒剤に手を出してしまった女の子もいる
「物事にはポジティブとネガティブの両面がある、その最たるものが自傷行為だと思います。だから、自傷を頭ごなしに否定するのは意味のないこと」

▶ 精神科医が「話を聞くことしかできない」と言う理由
 親との関係をはじめ、人によって傷ついた女の子たちが、必要な出会いを得て、回復していく可能性もあるという。その土台を整える大切な場となるのが診察なのだ。だが、松本氏は意図的に女の子に期待させないようにしている。
 「そもそも人を信じることのできない子たちですから、変に期待を持たせてがっかりさせることは避けなくてはなりません。ですから僕に任せてなどとは決して言いません。『できることは話を聞くことだけなんだよねー、しかも5分だけ』(笑)と最初に限界を明示して、『でも、応援しているからね』と」
 そうしてなんとか嵐をしのいでいくうちに、恋愛や友達との出会いによって、女の子たちが自分から変わっていくこともあるという。
 嵐が吹き荒れる間、最も苦しいのは女の子本人だ。周囲の大人にできることは、感情的にならずに、自傷について話せる関係をつくること。このスタンスを大人が心得て初めて、リストカットをせずにいられない心のうちを知る一歩が始まるようだ。



ゴールデンチャイルド症候群

2025年02月18日 06時13分58秒 | 家族
ゴールデンチャイルド?
初めて耳にする単語です。
どうやら「親の期待に応える“いい子”」を意味するらしい。

記事を読んでみると、まさに自分のことを言われているような気がしてきました。
紹介します。

▢ 親の期待に応える「いい子」でいることに苦しむゴールデンチャイルド症候群の兆候と救い
Mark Travers | Contributor 
2025.2.15:Forbes Japan)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 彼らのことは、あちこちで耳にする。彼らはしばしば、映画に出てくるような完璧な悪役であり、Reddit(レディット)には、彼らを痛烈に批判するスレッドが数え切れないほどある。
 「ゴールデンチャイルド(黄金の子/自慢の子)」はしばしば、家族の中の「ブラックシープ(厄介者)」と対照を成す。彼らは通常、両親にとって最大の誇りであり、喜びであり、そして、ほかの全員が見習うことを期待される輝かしい基準だ。
 これは、完璧な子ども時代を送るための公式に思えるかもしれないが、驚くことに、ゴールデンチャイルド自身も苦しんでいる家族のブラックシープと同じように、彼らは、貼られたレッテルに対して何も言うことができず、多くの場合は、とてつもなく高い期待に応えなければならないというプレッシャーを感じているのだ。
 俗説とは裏腹に、ゴールデンチャイルドは恵まれているわけではない世界は、彼らにとっても、やはり残酷な場所であり得る。彼らはしばしば、愛情を得るためには体面を保たなければならない、と教え込まれている。研究によれば、あなたがゴールデンチャイルド症候群かもしれないことの兆候は以下の3つだ。

1. 兄弟姉妹と緊張関係にある
 ゴールデンチャイルドとして育つと、兄弟姉妹とのあいだに暗黙の緊張感が生まれることがある。あなた自身は気づかなかったかもしれないが、おそらく兄弟姉妹はえこひいきの存在を感じており、それが不満や対抗心につながる。
 こうした力学は必ずしも、あなたの行動に原因があるわけではない。多くの場合は、両親が家族構造の中で、あなたをどのように位置づけていたかが原因だ。
 学術誌『Family Journal』に発表された研究によれば、機能不全家族において子どもたちは、さまざまな役割を押し付けられることがある。例えば、ヒーロー、スケープゴート(身代わり)、ロストチャイルド(忘れ去られた子ども)、マスコット、ケアテイカー(世話役)、マスターマインド(黒幕)などだ。
 ゴールデンチャイルドの場合、大人になってから、兄弟姉妹との関係がぎこちない、あるいは複雑だと気づくことになるかもしれない。兄弟姉妹はおそらく、あなたを両親の「お気に入り」として見ているが、あなたは内心、重荷を背負っている無理な期待に応え続けない限り安心することはできない、という重荷だ。
 こうした緊張関係は、単なる嫉妬によるものではない。両親のえこひいきによって、1人の子どもが称賛され、ほかの子どもが悪者扱いされることで、兄弟姉妹で対立するようになったときに生じる感情的な溝の表れだ。
 例えば、家族のスケープゴートにされた子どもはしばしば、自分を「完璧な」兄弟姉妹と比較して、劣等感にさいなまれる。一方、ゴールデンチャイルドの方は、両親の言いなりになり、家族の問題をスケープゴートのせいにすることがある。こうした力学によって、どちらの子どもも真実を見失う。どちらの子どもも、家族の物語を演じているだけなのだ。
 さらに、家族における役割が、「完璧なイメージを維持すること」だった場合、弱さを見せたり、あるいは、「あまり好まれていない」兄弟に同調したりすれば、両親を失望させるのではないかと恐れることの結果として、感情的に距離を置いていた可能性がある。こうした力学が、大人になっても持続し、生涯にわたる亀裂が生じることもある。

2. 他者を喜ばせなければいけないと感じる
 世間が彼らをどう見るかは別にして、「ゴールデンチャイルドであること」は、生き抜くためのメカニズムでもある。ほとんどのゴールデンチャイルドは子どものころに、もし自分が親の「お気に入り」でない場合は、「スケープゴート」の代わりに犠牲になる可能性がある、とすぐに気がつく。
 利己的に見えるかもしれないが、実際のところ、これは自己防衛だ。愛する人からより良く扱われるためであれば、ほとんどの人はどんなことでもする。家族のような、容易に逃げ出すことができない環境ではなおさらだ。
 問題は、この好意を維持するために、ゴールデンチャイルドは、たとえ自身の不利益になるとしても、そのレッテルを貼った両親を喜ばせ続けなければならないことだ。多くの場合、これは人を喜ばせるような行動を強化し、それが大人になっても続く。ゴールデンチャイルドは、許容され、期待される特定の物語を演じた場合のみ、世界は自分を受け入れると教え込まれている
 『International Journal of Society Reviews』誌に発表された2024年の研究によれば、自己受容のレベルが低いことも、両親を喜ばせようとする行動の一因になっているという。
 ゴールデンチャイルドはおそらく、すでに問題を抱えている家族においては、自分が「模範的な子ども」でいることが、最も波風を立てない方法だと気づいているのだろう。しかし、者を喜ばせるために自分の感情を抑え続けることは、メンタルヘルスに悪影響を及ぼす。過度の不安、さらにはうつ病につながる可能性もある。

3. 失敗をひどく恐れる
 多くの育児専門家は、子どもの健全な自尊心を育むには、「正の強化」が重要だと強調している。しかし、過ぎたるは及ばざるがごとしだ。子どもを理想化することは、特に非現実的な期待をかけた場合、逆効果となり、自信ではなく重圧を与えることになる。
 「人は完璧ではなく、人生には失敗もある」と子どもに教えることは、子どもの成功を褒めることと同じくらい重要だ。「失敗は恥だ」と考える両親は、子どもに対して、何が何でも勝たなければならないという固定観念を植え付けてしまう。これは、挫折したときに立ち直る力を教える「成長マインドセット」とは正反対の考え方だ。
 家族において「ゴールデンな存在」であるとは、失敗の余地はほとんどなく、ひいては、成長の余地もほとんどないということを意味する。完璧な子どもなど存在しないが、ゴールデンチャイルドは、それが自分に投影されているがために、自分に完璧さを求めるようになる。このような姿勢でいると、人生が計画通りに進まなかった時に、打ちのめされてしまう可能性がある。
 もしこのような経験があり、何より、ゴールデンチャイルドというレッテルを貼られたことがあるのなら、まずは、これらのことはすべて、あなたのせいではないと認識してほしい。あなたは、理想化されることを求めてきたわけではないし、あなたに貼られたレッテルはあなたの責任ではない。
 このような力学によって兄弟姉妹や家族との関係が悪化している場合、関係の修復には、正直さと共感、時間が必要だ。えこひいきがあなたの対人関係をどのように形成したかを認識することは、体験の相互理解に基づく真のつながりを育む助けになる。
 最後に、ゴールデンチャイルドというレッテルから自由になるには、まず、成果や評価を超えた「自分の価値」を再定義する必要がある。あなたは、家族の物語で強制されてきた役割以上の存在なのだ。大人になった今、あなたはその役割から進み出て、自分自身の言葉で自分を定義する力を持っている。本物の感情、自分への思いやり、そして、新たな解放感とともに。


・・・この記事を読んで、私の人生はまさに“ゴールデンチャイルド症候群”に当てはまると頷きました。

 勉強嫌いの姉と比較して私はコツコツ努力するタイプで負けず嫌いでもあったので、成績はそこそこよく、両親の期待を一身に背負うことになりました。
 それが思春期はイヤでイヤでたまらなかった。
 よい成績を取ると褒められるけど、そうでないときはガッカリした表情を見せる両親。
 それが繰り返され、私は「よい成績を取り続けなければ自分に価値はない」と思い込まされました。
 一方でよい成績を取って両親が喜ぶと、
「努力したのは私であって、あなたたちではない」
 という反抗心も芽生えていました。

 高校時代、私は民俗学や文化人類学に興味を持ち、文系に進もうと考えました。
 しかし進路を決定する3年生の時、父親から、
「医学部以外は学費を出さない」
 と言われて夢が砕かれました。

 その当時は、親の夢を叶えて親をガッカリさせないことと、自分の夢を天秤にかけ、前者を選択しました。
 まだ「家族の幸せ」を優先する気持ちが残っていたのでしょう。

 それは、自分の人生ではなく、親の夢を辿る人生。
 還暦を過ぎた今になって、後悔しています。
 心のどこかに「これは自分の人生じゃない」という気持ちがつきまとうのです。

 そして現在、両親と同居し彼らの面倒を見て看取る生活をしています。
 そんなストレスを知ってか知らずか、家を出た姉からは、
 「お前は親の面倒をちゃんと見ていない」
 と文句を言われたりして、心が荒れます。

 私には記事の最後にあるような「自分への思いやり」「新たな開放感」は存在しません。


子どもに「遊んでばかりいないで勉強しなさい!」と言うのは「いずれ自発的に勉強するようになる」と信じていないから

2025年02月17日 04時50分10秒 | 育児
スマホ、ゲーム、SNS・・・デジタル機器は子どもに良いのか悪いのか?
この問いには小児科医の中でも賛否両論があり、結論は出ていません。

一方通行の情報なのでコミュニケーション能力が育たないとか、
神経発達症傾向のある子どもには必須のアイテムだとか、
喧々顎学です。

そんな中で「デジタル機器を子どもから取りあげてはならない」
という記事が目に留まりましたので、紹介します。

ポイントは「前頭葉を働かせて鍛える」ことらしい。
そのためには字面を追うだけの読書ではなく、考えさせる、想像させることが重要。
インプットだけでは脳は活性化しない、アウトプットして初めて活性化する。
・・・このことは私も実感しています。本を読んだだけ、セミナーを聴いただけでは、わかったようでいて十分理解できていないことが多く、それを反芻して自分でまとめてみて初めて記憶に残り、他人へも説明できるようになる経験をしてきましたので。

<ポイント>
・「本を読みなさい」とうるさく言うのは逆効果。本に触れさせたいなら、親自身が読書を楽しみ、家のなかに自然に本がある環境をつくるのがベター。
・親が読み聞かせるにせよ、子供がひとりで黙読するにせよ、読書中には前頭葉は働かない。読書は「ただ読む」だけではなく、書かれたことについて思考を巡らせることに意義がある。読書中、文字を追っている間は働かない前頭葉も、ふと本から目を上げて反芻したり、本を閉じた後に内容を振り返って考えをまとめようとするときには急激に活性化する。
・前頭葉を育てるには、「考えさせる」ことと、その考えを言葉にして「外に出させる」ことが不可欠。
・大事なのは、子供の自由な発想を促すこと、そのために忘れてはならないのが「否定しないこと」。正解か否かは重要ではない。言葉を出そうとするときに前頭葉が著じるしく活性化することに意味がある。否定されない安心感のある場で、思いつきをどこまでも言葉にしながら、子供のこころの脳はぐんぐん育っていく。
・前頭葉の発達という観点からも、子供の思いやりを育てるためにも、まずは家庭内の発言の安全と自由を保証することが大事。
・学んだ知識は、最終的には言語化して「外に出す」ことでこそ生かされる。
・「映像を言語化するのは難しい」が、それをあえて言語化しようと努力するとき、前頭葉を思い切り働かせることになる。子供たちを対象としたある実験で、簡単なゲームをさせた後に「どんなゲームだったの?」と口頭による説明を求めると、言葉を出そうとしている子供たちの前頭葉が、非常に活性化することが判明。ゲームをプレイするだけでは全く働かない前頭葉も、それを誰かに伝えようとすると一転、フル活動を始める。
・言葉を引き出す際、間違っても否定せずに受け入れるべし。主目的を「引き出す」ではなく、「正答を伝える」に置いていて、これは子どもにとって窮屈である。「勉強はしておいたほうがいいよ、あとあと役に立つよ」といった優しい言い方でも同じ。自分がうるさく言わないと、この子は勉強しないから」と思ってやることが、実は逆効果になっているのですから皮肉としかいいようがない。

子どもが情報をインプットし、アウトプットしやすい環境を整え、それを見守ることが育児の極意!と理解しました。


▢ ゲームやYouTubeを取り上げてはいけない…「頭のいい子」を育てるために親が子に繰り返すべきフレーズ「本を読みなさい」とうるさく言うのは逆効果
成田 奈緒子:文教大学教育学部教授、子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表
2024.5.26:PRESIDENT Online)より一部抜粋(下線は私が引きました);

「頭のいい子」を育てるには、どうすればいいのか。小児科医の成田奈緒子さんは「読書や勉強させればいいわけではない。子供の自由な発想を否定せず、親が受け入れることが重要だ」という――。

▶ 「読み聞かせ」や「読書」に対する誤解
「国語能力を高めたいなら、本を読ませるのが一番だろう」
 このように考える方は多いでしょう。確かに、本は子供の言語能力を発達させます。小さいときからぜひ、たくさんの本に触れさせたいものです。
 ただし、その方法を誤らないように注意してください。「本を読みなさい」とうるさく言うのは逆効果です。義務だと思ったとたん、子供は読書を苦行だと誤解し、本を敬遠するでしょう。
 本に触れさせたいなら、親自身が読書を楽しみ、家のなかに自然に本がある環境をつくるのがベターです。
そしてもう一つ、読書にまつわる「誤解」があります。
 親が読み聞かせるにせよ、子供がひとりで黙読するにせよ、読書中には前頭葉は働きません。読書中の子供の脳波を測ると、活性化するのは視覚を司る後頭葉、言語能力を司る側頭葉、そして「からだの脳」に相当する大脳辺縁系のみです。
 読書は「ただ読む」だけではなく、書かれたことについて思考を巡らせることに意義があります。子供の思考を促す言葉がけを工夫しましょう。
 読書中、文字を追っている間は働かない前頭葉も、ふと本から目を上げて反芻したり、本を閉じた後に内容を振り返って考えをまとめようとするときには急激に活性化します。ですからこの場面でも、親が子供の思考を「引き出す」働きかけが有効です。その具体的な方法をお話しします。

▶ 子供の言葉を引き出す働きかけ
 前頭葉を育てるには、「考えさせる」ことと、その考えを言葉にして「外に出させる」ことが不可欠です。
子供の言葉を引き出すことは、親にできる最大のサポートです。
 こう言うと、よく親御さんからは「もちろん心得てます! 私、子供にしょっちゅう問いかけています」という答えが返ってきます。しかしその問いかけが、本当に子供自身の言葉をひき出せているかどうかには疑問符がつきます。教育熱心な親御さんは確かに、「お勉強的」な問いかけはさかんにされています。例えば、「お空はなんで青いんだと思う?」など。
 それ自体はもちろん、悪いことではありません。しかし親のなかの「学んでほしい」「賢く育ってほしい」という願望が強すぎると、子供に「いい答えを出さなくては」という、無言のプレッシャーを与えてしまいます。実際、期待に沿わない答えだったときに、それを正そうとする親御さんもいます。
 それでは前頭葉は育ちません。大事なのは、子供の自由な発想を促すことです。そのために忘れてはならないのが、「否定しないこと」

▶ 否定されない安心感が大事
 たとえば、昔話の「桃太郎」のお話を聞かせた後に、その内容について問うとします。このとき子供は「正答」を言うとは限りません。「おばあさんはどこに行ったんだったかな?」と聞いて、「鬼ヶ島に行った」などと答える子はいくらでもいます。そんなとき「違うでしょ」と言ってはいけません。間違ってもいいから、とにかく言葉を出させること。特に乳幼児の場合は、それが鉄則です。正解か否かは重要ではありません。言葉を出そうとするときに前頭葉が著いちじるしく活性化することに意味があるのです。
 ですから「そうかぁ、おばあちゃん、鬼ヶ島行ったんだ~」「面白いねえ」という風に、楽しくあいづちを打てばいいのです。ほかの場面も同じように自由に話させて、原型をとどめない「新しい桃太郎」が創出されていくのも面白いのではないでしょうか。誤りを正さず、かといって「素晴らしいわね」などと褒めそやす必要もなく、ただ「それが君の発想なんだね」と受け止めましょう。否定されない安心感のある場で、思いつきをどこまでも言葉にしながら、子供のこころの脳はぐんぐん育っていきます

▶ 家の中は、好きにものを言える場所に
 一方、子供どうしの社会では、大人から与えられるのとはまた違うプレッシャーがあるようです。
 おしゃべりし、ふざけ合う子供たちの間にはしばしば、「さあ、面白いことを言ってくれよ」「どうしよう、面白いことを言わなくちゃ」といった、無言の圧力が働いています。同年代の子が集まる場で、面白く楽しい子であることを求められるのは、ある程度仕方のないことです。
 しかし、家の中でまでそれを求められるのは非常に窮屈です。ですから家の中は、何を言っても良い場にしましょう。好きなことを言っていいし、つまらないことも無意味なことも言っていい、という「自由と安心」を与えましょう。子供の発想はユニークなので、どんな子でも多かれ少なかれ面白いことを言いますし、笑わせてもくれます。クリエイティブな視点に感服させられることもあります。
 しかし、親がそれらを「期待」するのは良くありません。大人から見て中身がないと思える言葉も、思う存分、出させてあげましょう。

▶ 家で「発想を広げ」学校や社会で「調整する」
 これは前頭葉の発達の観点からも、理にかなっています。家という完全な安全地帯で、いったん自由に、すべて出す。その後、学校などの外の社会では、ある程度の制限が課される。その認識のもと、「これは言わないでおこう」「これは言おう」と判断していく。このように、まず大きく広げてから調整していくのが、適切な発達プロセスです。
 最初に大きく広げる段階から制限をかけてしまうと、出てくるはずの発想も出てこなくなります。もしくは、四六時中制限をかけられることでストレスが溜まり、外で「言葉を選べない」――誰かに悪意を向けたり、意地悪をしたりする子になる危険もあります。子供の思いやりを育てるためにも、まずは家庭内の発言の安全と自由を保証することが大事です。

▶ 動画で勉強すると語彙が育たない
 ここ10年で、YouTubeやTikTokなどの動画プラットフォームは若い人たちの中で必要不可欠なものになりました。大学生の間でも、知識を文字からではなく動画で得る傾向が強くなっています。小中学生も、動画を勉強に活用している子が多いようです。
 しかしこれは「前頭葉を育てる」という観点からいうと、ベストな方法とは言い難いと思います。これまで幾度となく述べてきたように、学んだ知識は、最終的には言語化して「外に出す」ことでこそ生かされるものです。この点、動画は文字情報に比べると分が悪いのです。
 試しに、動画で学んだ内容を人に口頭で教えるのと、本で読んだ内容を教えるのと、どちらがたやすいか想像してみてください。当然、本という文字媒体で入れた情報のほうがスムーズでしょう。動画で見た視覚情報を正確に文字情報だけで伝えるのは至難の業わざです。
 「こんなでっかいのがバーンと出てきて、次にドーンってなって」、というような説明になってしまいがちです。相手に伝わるように説明できる語彙ごいがないため、そこを擬音ぎおんで埋めているのです。映像を言語に変換できる語彙――色彩、大きさや、形などを表現する言葉を持たないと、相手に伝わるアウトプットはできません。これらの語彙は、映像やSNSの短文を流し見しているだけでは培つちかわれません。ですので、本を読んだり、大人と会話を交わすことで、多くの言葉を知ることが必要です。「おりこうさんの脳」でインプットを積む過程では、映像だけに偏かたよらず、文字に触れる機会を多く持つことを意識したいところです。

▶ 映像を言葉で説明させてみる
 さて、今の話は逆手に取ると「前頭葉を鍛えるチャンス」にもなりえます。「映像を言語化するのは難しい」ということは、それをあえて言語化しようと努力するとき、前頭葉を思い切り働かせることになるからです。実際、子供たちを対象としたある実験で、簡単なゲームをさせた後に「どんなゲームだったの?」と口頭による説明を求めると、言葉を出そうとしている子供たちの前頭葉が、非常に活性化することが判明しました。
 これは、一定程度の語彙が備わっていないと難しいかもしれないので、はじめは「絵にして説明させてみる」ことからはじめてもいいかもしれません。家庭内でも折に触れ、子供に「教えて」と聞いてみてはいかがでしょうか。

▶ アニメやゲームの内容を聞く
 動画の内容でもいいですし、ドラマやアニメも格好の材料です。「昨日のあれ、どんなお話だった?」「見逃しちゃったから教えて」と問いかけて説明してもらいましょう。ストーリー性のあるものは「あらすじ」を話すことになるので、大事なポイントを押さえつつ要旨を伝える「要約力」も鍛えられます。
もちろん、小さい間はうまくできなくて当たり前。ここも「桃太郎方式」で、正解を強いずに、前頭葉を働かせている様子を見守りつつ楽しみましょう。
 日ごろ子供がいそいそと楽しんでいるゲームの説明をしてもらうのも、大いにおすすめです。多くの家庭では、ゲーム三昧ざんまいの子供を叱ることはあっても、ゲームに夢中になっている様子に関心を持ち、内容を聞き出すことはほぼ皆無。これは非常にもったいないことです。
 関心のあることについて語らせてもらえるとなると、子供は俄然乗り気になります。「○○っていうキャラがいてね」「それが冒険に出てね」と一生懸命話そうとしてくれます。大人からすると稚拙ちせつな説明に聞こえるかもしれませんが、それもまたよし。子供自身は、何度も繰り返しやっているゲームだけに「話しやすい」感覚を持てているはずです。
 ゲームをプレイするだけでは全く働かない前頭葉も、それを誰かに伝えようとすると一転、フル活動を始めるのです。このチャンスを生かさない手はありません。

▶ 「正論」は前頭葉の成長を妨げる
 言葉を引き出す際、間違っても否定せずに受け入れるべし、という話に意外な印象を持たれた方も多いでしょう。たいていの親御さんは、こうした場面でしょっちゅう否定をしてしまいます。それは主目的を「引き出す」ではなく、「正答を伝える」に置いているせいです。
 親が、そこに注力する必要はありません。こころの脳が成長すれば、いずれ子供が自分で見つけ出せるようになるからです。親はそれを信じること、つまりは子供を信頼することが大事です。
日ごろの行動に関しても同じです。子供に「遊んでばかりいないで勉強しなさい!」と言うのは、子供が「いずれ自発的に勉強するようになる」と信じていないからです。信じていないから、うるさく言う。これを続けていると、困ったことに「いずれ」が遠ざかります。この手の正論が、前頭葉を鍛える機会を奪うことになるからです。

▶ 信頼して待つことが大事
 「勉強はしておいたほうがいいよ、あとあと役に立つよ」といった優しい言い方でも同じです。正論を言われると、子供は自分で考えなくなるのです。
 「はーい、ママ」と従順に勉強する子もいれば、「うざいなあ」と不貞腐ふてくされてますますゴロゴロする子もいるでしょうが、いずれも親の言葉に反射的に対応しているだけで、「今、勉強しなければどうなるだろう?」と、自らの思考を働かせることにはなっていません。その結果、前頭葉の発達が妨げられて「言われないと勉強しない」「言っても勉強しない」というフェーズがいつまでも続いてしまうのです。
 「自分がうるさく言わないと、この子は勉強しないから」と思ってやることが、実は逆効果になっているのですから皮肉ですね。ですから、言いたくなってもぐっとこらえて、子供に考えさせましょう。そうしてこころの脳を鍛えていくと、あるときから子供の行動が変わります。
 こころの脳がきちんと備わった子は、「漫画を読みたいな、ゲームしたいな、でも明日はテストだから今から勉強しないと」という風に、自制心や思考力を使って行動に移せるようになるのです。そのときをじっくり待つのも、親に必要な「自制心」かもしれませんね。


<参考>
・成田奈緒子『子育てを変えれば脳が変わる こうすれば脳は健康に発達する』(PHP研究所、2024年発行)

糖類の過剰摂取は心代謝疾患リスクを増加させる

2025年02月05日 12時47分40秒 | 子どもの心の問題
もう一つ、糖質過剰摂取関連の記事を拾ってみます。
その前に、「糖類」と「糖質」の違いを確認しておきましょう。


(「KIRINお客様相談室」より)

よく「糖類ゼロ」という食品・飲料を見かけますが、
それは砂糖中心の単糖類や二糖類が入っていない物を指し、
しかし糖質(多糖類、糖アルコール)は入っているので、
消化吸収されるときはブドウ糖に分解されるので血糖値は上がり、
過剰であれば脂肪として蓄積されます。

<ポイント>
・糖類(単糖類、二糖類、多価アルコール、遊離糖、添加糖)の過剰な摂取は、一般的に健康にとって益よりも害が大きく、とくに体重増加、異所性脂肪蓄積、心血管疾患などの心代謝疾患のリスクが増大する。
・食事による糖類の摂取と有意な関連が認められたのは、有害な関連が45項目(内分泌/代謝系:18項目、心血管系:10項目、がん関連:7項目、その他:10項目[神経精神、歯科、肝、骨、アレルギーなど]だった。
・エビデンスの質が「中」の有害な関連としては、体重の増加(砂糖入り飲料)(エビデンスクラス:IV)および異所性脂肪の蓄積(添加糖)(エビデンスクラス:IV)であった。
・エビデンスの質が「低」の有害な関連では、砂糖入り飲料の摂取量が週に1回分増加するごとに痛風のリスクが4%(エビデンスクラス:III)増加し、1日に250mL増加するごとに、冠動脈疾患が17%(エビデンスクラス:II)、全死因死亡率が4%(エビデンスクラス:III)、それぞれ増加した。
・糖類の健康への有害な影響を低減するには、遊離糖や添加糖の摂取量を1日25g(ほぼ小さじ6杯/日)未満に削減し、砂糖入り飲料の摂取量を週1回(ほぼ200~355mL/週)未満に制限することが推奨される。

この記事を読むと、糖類に多価アルコール(糖類ではなく糖質)が入っているので、ライターは十分理解していないようですね。
糖類過剰接種でリスクが増加した病名の列挙すると、、体重の増加(加糖飲料)、異所性脂肪の蓄積(加糖)、痛風、冠動脈疾患、全死因死亡、膵臓がん等々・・・あれ、意外なことに糖尿病がありませんね。
とにもかくにも健康を保つためには、ジュースは週に1本未満に制限、という結論です!

▢ 糖類の過剰摂取、心代謝疾患リスクを増大/BMJ
(医学ライター 菅野 守)
ケアネット:2023/04/19)より一部抜粋(下線は私が引きました);
  食事による糖類(単糖類、二糖類、多価アルコール、遊離糖、添加糖)の過剰な摂取は、一般的に健康にとって益よりも害が大きく、とくに体重増加、異所性脂肪蓄積、心血管疾患などの心代謝疾患のリスク増大に寄与していることが、中国・四川大学のYin Huang氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2023年4月5日号で報告された。
▶ 糖類摂取と健康アウトカムの関連をアンブレラレビューで評価
 研究グループは、食事による糖類の摂取と健康アウトカムの関連に関する入手可能なすべての研究のエビデンスの質、潜在的なバイアス、妥当性の評価を目的に、既存のメタ解析のアンブレラレビューを行った・・・。
・・・対象は、急性または慢性の疾患のないヒトにおいて、食事による糖類の摂取が健康アウトカムに及ぼす影響を評価した無作為化対照比較試験、コホート研究、症例対照研究、横断研究に関する系統的レビューとメタ解析であった。
 8,601本の論文から、73件のメタ解析と83項目の健康アウトカム(観察研究のメタ解析から74項目、無作為化対照比較試験のメタ解析から9項目)が特定された。
▶ 体重増加、異所性脂肪蓄積と有意な関連
 83項目の健康アウトカムのうち、食事による糖類の摂取と有意な関連が認められたのは、有害な関連が45項目(内分泌/代謝系:18項目、心血管系:10項目、がん関連:7項目、その他:10項目[神経精神、歯科、肝、骨、アレルギーなど])、有益な関連が4項目であった。
 エビデンスの質(GRADE)が「中」の有害な関連としては、食事による糖類の摂取量が最も少ない集団に比べ最も多い集団では、体重の増加(砂糖入り飲料)(エビデンスクラス:IV)および異所性脂肪の蓄積(添加糖)(エビデンスクラス:IV)との関連が認められた
 エビデンスの質が「低」の有害な関連では、砂糖入り飲料の摂取量が週に1回分増加するごとに痛風のリスクが4%(エビデンスクラス:III)増加し、1日に250mL増加するごとに、冠動脈疾患が17%(エビデンスクラス:II)、全死因死亡率が4%(エビデンスクラス:III)、それぞれ増加した
 また、エビデンスの質が「低」の有害な関連として、フルクトースの摂取量が1日に25g増加するごとに、膵がんのリスクが22%高くなることが示唆された(エビデンスクラス:III)。
 著者は、「既存のエビデンスはほとんどが観察研究で、質が低いため、今後、新たな無作為化対照比較試験の実施が求められる」と指摘し、「糖類の健康への有害な影響を低減するには、遊離糖や添加糖の摂取量を1日25g(ほぼ小さじ6杯/日)未満に削減し、砂糖入り飲料の摂取量を週1回(ほぼ200~355mL/週)未満に制限することが推奨される」としている。

<原著論文>

この記事に対する専門家のコメントも紹介します。

▢ 糖質過剰摂取は糖尿病患者のみならず万人にとって生活習慣病リスクを高める危険性がある?
島田 俊夫氏(地方独立行政法人静岡県立病院機構 静岡県立総合病院 リサーチサポートセンター長)
提供元:臨床研究適正評価教育機構:2023/05/09)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 私たちは生きるために食物を食べることでエネルギーを獲得している。その主要なエネルギー源は3大栄養素であり、その中でも代表的なエネルギー源が糖質である。
 糖質の摂り過ぎは糖尿病患者では禁忌だということは周知されている。しかし健康人においてさえ、糖の摂り過ぎには注意が必要だとの警鐘を告げる論文も散見され、その中には糖質過剰摂取1,2)が3大死因に密接に関連し、生活習慣病を引き起こす可能性について言及した論文も少なくない。しかしながら、エビデンスレベル不ぞろいの論文が混在しており、玉石混交の中で可能な限り厳密に分析・評価し、糖質過剰摂取に関する情報の真実を明らかにすべく行われた、中国・四川大学のYin Huang氏らにより解析されたUmbrella Review(包括的Review)が、BMJ誌の2023年4月5日号に期せずして掲載された。一読に値するとの思いで取り上げた。
▶ Umbrella Reviewの概略
 今回のUmbrella Reviewのデータソースは、検索により、観察研究のメタアナリシスにおける74のユニークなアウトカムと無作為化対照試験のメタアナリシスでの9アウトカムを含む、8,601のユニークな論文から73のメタアナリシスと83の健康アウトカムを特定した。健康に関するアウトカム83項目中、食事由来の糖質摂取と有意な関連を認めた45項目の内訳、内分泌/代謝系18項目、心血管系10項目、がん7項目、その他10項目(神経精神、歯科、肝臓、骨、アレルギーなど)に関して有害性が確認された。
 食事の砂糖消費量の最高と最低では、体重の増加(加糖飲料)(クラスIVエビデンス)および異所性脂肪の蓄積(加糖)(クラスIVエビデンス)と関連していることを示唆した。低品質のエビデンスでは、1食分/週の砂糖入り飲料消費の増加は、痛風の4%リスク(クラスIIIエビデンス)増加と関連し、250mL/日の砂糖入り飲料消費の増加は、冠動脈疾患(クラスIIエビデンス)および全死因死亡(クラスIIIエビデンス)のそれぞれ17%および4%のリスク増加と関連することを示した。さらに、低品質のエビデンスでは、フルクトース消費量が25g/日増加するごとに、膵臓がんのリスクが22%増加(クラスIIIエビデンス)することを示した。
 現時点では糖質過剰摂取の有害性をすなおに受け入れることが賢い選択だと考えるが、全面的に信じることはせず、多少の疑問を残しておくことが大事である。糖質の過剰摂取が肥満を招くことは欧米ではすでに受け入れられており、糖尿病のみならず肥満是正に糖質制限食が好んで使用されていることを考えれば、今回の解析結果は理にかなっている。その反面、長期にわたる糖質制限食に関しては議論の多いところであり3,4)、安全性への不安が根強く残っていることも忘れてはならない。現時点では、長期の糖質制限食への不安が払拭されない限りは、この結果を無条件に受け入れるのは時期尚早ではないかと考える。

<参考文献>
1)Halton TL, et al. N Engl J Med. 2006;355:1991-2002.
2)Chazelas E, et al. BMJ. 2019;366:l2408.
3)Noto H, et al. PLoS One. 2013;8:e55030.
4)Seidelmann SB, et al. Lancet Public Health. 2018;3:e419-e428.

やみくもに“糖類制限”に走るのではなく、制限した際のリスク評価も必要、という慎重な意見ですね。


“加糖飲料”(≒ジュース)は糖尿病・心血管疾患につながる

2025年02月05日 08時27分54秒 | 健診
コンビニに行くと飲み物コーナーには子どもが好きそうなジュースが並んでいます。
近年、“低糖”を謳ったタイプも増えてきましたが、
それでも子どもが好きなのは甘〜いジュースです。

ヤクルトも甘いですね。
あの小さな80mlの中に、砂糖が14g入っています。
角砂糖3個分の砂糖ですよ!
カロリーハーフでも6g(角砂糖2個分)。
ヤクルトの会社、子どもの健康を守る気がないのでしょうか?

加藤飲料の一覧表がこちらにありましたので引用提示します:

・・・この表を見ると、ジュース類を飲むのが恐くなりますね。
糖分の取り過ぎが長い期間年単位で続くとインスリンが枯渇し、
将来のII型糖尿病のリスクになります。

そのことを扱った記事が目に留まりましたので紹介します;

<ポイント>
・加糖飲料の影響で、世界中で毎年200万人以上の人が2型糖尿病(T2DM)を発症し、120万人以上の人が心血管疾患(CVD)を発症している。
・2020年において、約220万人(95%不確定区間200~230万)の新規T2DM患者、および、約120万人(同110~130万)の新規CVD患者が、加糖飲料摂取に関連するものと推定された。この数はそれぞれ、2020年の新規T2DM患者全体の9.8%、新規CVD患者の3.1%を占めていた。また、加糖飲料摂取に起因するT2DM患者の死亡が8万人、CVD患者の死亡が約26万人と推定された。日本の加糖飲料摂取に関連する新規T2DM患者数は2万8,981人、新規CVD患者数は8,396人、死亡はそれぞれ158人、1,947人と推定されている。
・加糖飲料がこれほどの害をもたらす理由の一つとして、栄養価が低いにもかかわらずカロリーは高く、また吸収が早いために満腹感を感じる前に飲み過ぎてしまいやすいことなどの影響が考えられている。
・長期にわたる加糖飲料の習慣的な摂取は、体重増加、インスリン抵抗性、そして、世界の死亡原因の上位を占めるT2DMやCVDの発症につながる。

これを解決する有効な方法は、教育・啓蒙よりも“課税”とのこと。
一度味わった快楽を人間は理性で捨てることは出来ないのですね。


▢ 加糖飲料により毎年世界で数百万人が糖尿病や心血管疾患を発症
提供元:HealthDay News:ケアネット:2025/02/05)より一部抜粋(下線は私が引きました);
   加糖飲料の影響で、世界中で毎年200万人以上の人が2型糖尿病(T2DM)を発症し、120万人以上の人が心血管疾患(CVD)を発症しているとする論文が、「Nature Medicine」に1月6日掲載された。・・・
 この研究では、184カ国から報告されたデータを用いた統計学的な解析により、加糖飲料摂取に関連して発症した可能性のあるT2DMとCVDの新規患者数を推定した。その結果、2020年において、約220万人(95%不確定区間200~230万)の新規T2DM患者、および、約120万人(同110~130万)の新規CVD患者が、加糖飲料摂取に関連するものと推定されたこの数はそれぞれ、2020年の新規T2DM患者全体の9.8%、新規CVD患者の3.1%を占めていた。また、加糖飲料摂取に起因するT2DM患者の死亡が8万人、CVD患者の死亡が約26万人と推定された
 人口規模が上位30カ国の中で、加糖飲料摂取に関連する新規T2DM患者が多い国は、メキシコ(成人100万人当たり2,007人、新規T2DM患者全体に対して30%)、コロンビア(同1,971人、48.1%)、南アフリカ(1,258人、27.6%)などであり、新規CVD患者については、コロンビア(1,084人、23.0%)、南アフリカ(828人、14.6%)、メキシコ(721人、13.5%)などだった。なお、日本の加糖飲料摂取に関連する新規T2DM患者数は2万8,981人、新規CVD患者数は8,396人、死亡はそれぞれ158人、1,947人と推定されている
 加糖飲料がこれほどの害をもたらす理由の一つとして、栄養価が低いにもかかわらずカロリーは高く、また吸収が早いために満腹感を感じる前に飲み過ぎてしまいやすいことなどの影響が考えられている長期にわたる加糖飲料の習慣的な摂取は、体重増加、インスリン抵抗性、そして、世界の死亡原因の上位を占めるT2DMやCVDの発症につながる。さらに加糖飲料は安価で、広く入手可能だ。
 論文の共著者である米タフツ大学のDariush Mozaffarian氏は、「低所得国や中所得国では加糖飲料が盛んに宣伝・販売されている。それらの国々では、長期的な健康への影響という視点での対策が十分講じられておらず、人々は健康に有害な食品を摂取してしまいやすい」と解説。また、著者らによると、国が発展し国民の所得が伸びるにつれて、加糖飲料がより入手しやすい飲み物になり、好まれるように変化していくという。
 ソーダ税などの政策が、この問題の拡大を遅らせるかもしれない。米国の一部の地域で行われた研究は、そのような取り組みが効果的であることを示している。米ボストン大学公衆衛生大学院のデータによると、シアトルやフィラデルフィアといった米国内5都市で、課税に伴う加糖飲料の価格上昇による消費量減少が観察されたという。さらに最近の調査からは、カリフォルニア州の複数の都市で課税が導入された後、加糖飲料の売上減少とともに、若者のBMIの平均値が低下したことが明らかにされた。
 課税を含む公衆衛生アプローチは、米国以外の国でも有効な可能性がある。また著者らは、課税などの戦略に加えて、人々の意識を高めるための公衆衛生キャンペーンや、広告の規制を求めている。現在すでに80カ国以上が、加糖飲料の消費削減を目的とした対策を実施しており、著者らによると「一部の国では介入効果が現れ始めている」という。

<原著論文>

「食べない子」の給食対策〜食べない子が変わる魔法の言葉〜その4

2025年02月01日 15時26分32秒 | 子どもの心の問題
食べない子が変わる魔法の言葉」の備忘録メモ、その4です。

給食が原因で集団生活(園・小中学校など)が楽しめない子どもが一定数います。
私の長男も偏食で、小学校ではパンと牛乳しか食べず、おかずには手をつけない日々が続きました。
あれから20年、現在は料理好きな青年になっているから、人生不思議です。

さて「食べない子」が給食を食べられるようになるためにはどうしたらよいでしょうか。
食べない理由を根気強く探り、それがわかったら対策を練る、
ときには担任の先生とコミュニケーションを取り、
環境を整備する、といったところでしょうか。

いや、先生や学校側が原因を作っている場合も想定されますね。

私のおぼろげな記憶ですが、
約50年前の小学2年生の時、「給食全員完食」が目標に掲げられ、
肉が苦手だった私は苦労しました。
私よりもっと肉が苦手だった友だちは、がんばって食べたけど吐き出してしまいました。
なんだか、軍隊みたいですね。
今でもその空気感は残っているのでしょうか?

さて、備忘録としてのメモを残しておきます。
担任からの過剰な完食指導等により給食を食べられなくなった場合の対応方法が書かれています。

▶ 学校への3つのお手紙


2.文部科学省発行の「食に関する指導の手引き(第二次改訂版)」内の「第6章 個別的な相談指導の進め方」の「指導上の留意点」の部分(P234~)

① 対象児童生徒の過大な重荷にならないようにすること。 
② 対象児童生徒以外からのいじめのきっかけになったりしないように、対象児童生徒の周囲の実態を踏まえた指導を行うこと。
③ 指導者として、高い倫理観とスキルをもって指導を行うこと。
④ 指導上得られた個人情報の保護を徹底すること。
⑤ 指導者側のプライバシーや個人情報の提供についても、十分注意して指導を行うこと。
⑥ 保護者を始め関係者の理解を得て、密に連携を取りながら指導を進めること。
⑦ 成果にとらわれ、対象児童生徒に過度なプレッシャーをかけないこと。
⑧ 確実に行動変容を促すことができるよう計画的に指導すること。
⑨ 安易な計画での指導は、心身の発育に支障をきたす重大な事態になる可能性があることを認識すること。
・・・基本的には上記9点が守られていれば、給食が原因で不登校や会食恐怖症を含めた大きな問題には発展しないはず。

3.「我が子のトリセツ」
・うちの子はこうすると食べられます、こうすると食べられなくなります、といった取扱説明書。
(例)「食べなさい」ではなく「無理しなくていいよ」と伝えてください。
(例)「どれくらい食べられたか」について聞かないでください。
(例)「環境に変化(席替え、クラス替え、長期休暇明け等)があると慣れるまでに時間がかかり食欲が落ちます。
・これを担任の先生宛に提出し、反応がない場合は園長・校長に相談する。上手くいかない場合は保健室の先生やスクールカウンセラーなどに相談する。

▶ 友だちへの対応
・お友達から「なんで食べないの?」と言われるのがイヤで不登校傾向の子ども。こういう場合は「給食だと緊張して一杯食べられないんだよね」と返答する練習を家族と一緒に繰り返すとよい。

▶ 給食の代わりにお弁当を持たせる場合
・苦痛だった給食時間が解消されて最初はよいかもしれないが、ずっと続けていると「給食が食べられない」状況から抜け出せなくなる。
・次のスモールステップは、「給食の一部を少し、子どもの机の上に並べてもらう」ことを親から担任の先生にお願いする。そうすることで、少しずつ給食に慣れて、食べられるようになる可能性がアップする。
・ただ、周囲から「食べてみたら?」の声がけはプレッシャーになるので、そっとしておいて欲しいことも付け加える。
・これで上手くいかなくても子どもや先生を責めることはしない。食べられるようになったらラッキーというスタンスで、あせらずゆっくりと。


「会食恐怖症」への対応〜食べない子が変わる魔法の言葉〜その3

2025年02月01日 14時58分11秒 | 子どもの心の問題
食べない子が変わる魔法の言葉」の抜粋メモ、その3です。
著者自身が「会食恐怖症」であり、その克服体験を元に同じ病態の人たちの相談に乗る事業をしている、
“当事者&支援者”です。

会食恐怖症へのアドバイスとして以下のように述べています。

▶ 克服につながる適切な行動をする
▶ 前向きな考え方を身につける
▶ 習慣や環境を整える

なんだかどれも抽象的でイメージしにくいですね。
こちらの本「会食恐怖症を卒業するために私たちがやってきたこと」に詳しく書いてあるそうです。
購入して読んでみたいと思います。

基本は「不安を認めてあげて、自分から動き出すのをじっと待ち、アドバイスを求めてきたらスモールステップを意識しながら提案する」こと。
求められていないのにアドバイスを連発したり、無理矢理変えようとしても解決しないとのこと。

声かけとして例示されていることを列挙します。

「そうなんだ、他の人と一緒に食べることが不安なんだね」
「何か協力できることはある?」

「一杯食べなくても大丈夫だよ」
「食べられない分は、残してもいいんだよ」
「どれくらい食べられたかじゃなくて、美味しく食べることや、楽しんで食べることが大切なんだよ」

等々。