“子ども”を取り巻く諸問題

育児・親子・家族・発達障害・・・気になる情報を書き留めました(本棚4)。

パンダの子育てから学ぶこと。

2017年01月25日 07時44分59秒 | 動物の子育て
 今朝(2017.1.25)びNHKニュースで、和歌山県白浜町の動物園におけるパンダの飼育が紹介されました。

 その中で気になったこと。
 生まれたパンダを母親から引き離して飼育員が育てると、大きくはなるけど、成熟しても子作り・子育てができないパンダになってしまう。
 そして、母親から引き離さずに飼育員がサポートに徹するようにしたら、この問題が見事に解決した、というエピソード。

 これは他のほ乳類でも以前から指摘されてきた現象です。
 ほ乳類は母親の愛情を十分すぎるほど与えないと、心が健康に育たない。
 
 人間もほ乳類です。
 現状の育児(保育園に預けて母は働く)を考えると、危機感を感じませんか?
 種の保存目的、本能として用意されているはずの性行為願望が乏しいのは正常と思えない。

 この内容、番組としても放映されたのですね。
 見逃してしまいました・・・再放送してくれないかなあ・・・ん、関東では放映されない?

■ かんさい熱視線「パンダ子育て 密着100日“主役は母と子” 白浜方式」2017.1.6:NHK
 絶滅のおそれがあるジャイアントパンダ。その出産、子育てに100日間にわたって密着。パンダを増やすカギは「母と子の絆」。世界から注目される動物園の取り組みに迫る。
 去年9月、和歌山県白浜町の動物園でパンダが誕生した。中国を除けば世界一という繁殖実績で注目されるこの動物園には“白浜方式”とも言うべき独自のノウハウがある。母と子の絆を大切にし、なるべく長い時間、赤ちゃんを母親に抱かせる。そのために、人間は子育てのサポート役に徹する。わずか200グラムの小さな赤ちゃんと100キロのお母さんを支える飼育スタッフたちの奮闘を追う。


 3年以上前に産経新聞で記事になっていました。
 一部を抜粋します。

■ 【関西の議論】和歌山でパンダが次々生まれる理由は…子作り上手『永明』の見習いたい“強さ”と“優しさ”
2013.8.25:産経新聞
・・・ こうした子育てをサポートするのが、同園の出産方針。それを紹介する前に、まずパンダの生態を説明しておこう。
 一般的にパンダは夏に生まれ、1年2、3カ月ほどで乳離れをして竹を食べられるようになる。ただしパンダはもともと食肉目(ネコ目、食肉類ともいう)で、繊維の多い竹をうまく消化できない。1日に20~30キロの竹を食べるが、それ以外の時間はエネルギー消費を抑えるためほとんど寝ている。体は本来、竹を食べるようにはできていないのだ。
 つまり赤ちゃんパンダが乳離れして竹を食べて生きていけるようになるのは、乳歯が抜けて永久歯に生え替わってからという。最短でも約1年2カ月、長ければ1年半。この期間は、新しい子供をみごもることなく、しっかりと育てさせようというのが同園の方針だ。
 一方、中国の繁育施設では1年に1回の人工交配が普通とされる。最初から人工保育なら親離れなど考える必要もなく、その方が個体数を増やすには手っ取り早い。同園があえてそうしない理由は、子供パンダがお母さんを見習えるようにするため。「育てられた期間が長いほど、母親の行動を覚えていて、いいメス、いいオスになる。わざと1年半、ゆっくりと子育てをさせるのです」(高濱課長)
 そのため「子作りは2年に1度」というルールを定めている。また、こうすることで母親パンダにも余裕ができ、次の子作りにも前向きになるというわけだ。


 う〜ん、「離乳するまで母親とずっと一緒にべったり」というのがポイントなのですが、反論を気にしてか肝心なところをぼかしていますね。

 人類の母乳保育は何年が適切なのでしょう。
 チンパンジーでは4年とされており、その間は妊娠をしません(雄の誘いを拒絶します)。

 世界保健機構(WHO)・ユニセフでは、生後6か月までの完全母乳育児と、少なくとも2歳を超えるまで授乳を続けることを推奨しています。
<参考>
お母さんにも赤ちゃんにもやさしい母乳育児をしよう!」-母乳はいつまで?どんな栄養素がある?母乳に関する疑問やメリットのまとめ(Medical Note:2017.1.25)

 小児科医である私の視点から意見を述べさせていただきます。
 あくまでも私見です。

 ほ乳類の育児研究の成果を、人間の育児にエッセンスとして導入すべきです。
 目指すべき人間の理想の子育て環境とは、
「母親を子育てから解放する」
 ことではなく、
「母親が育児に喜びを感じられる環境」
「母親が子育てにストレスなく専念できる環境」
 を提供できる社会ではないかと思います。
 でないと、体は大きくなっても心が健康に育たず、将来いろんなトラブルを抱えてしまいます。

 実現するのは50年後か、100年後か・・・。

子どもの耳掃除はしてはいけない。

2017年01月16日 08時34分29秒 | 育児
 お母さん(恋人?)の膝枕で耳を掃除してもらうことは至福のひとときであります。
 しかしこの耳掃除、実は賛否両論状態。

 随分前から耳鼻科のテキストには「耳掃除は必要ない」と書いてありました。
 外耳道の皮膚は内側から外へ移動するので自然に排出されるはず、という理由です。

 昨日(2017.1.15)の古館さんのテレビ番組でも同じことを言ってましたね
 ・・・耳掃除は皮膚の繊毛を痛めるのでかえって有害。耳かき/綿棒は使ってはいけない、見える耳垢をピンセットでつまみ出す程度で良い、と。

 一理あると思いますが、耳垢には乾いたタイプ(いわゆる“粉耳”)と湿ったタイプ(いわゆる“アメ耳”)が存在します。
 粉耳は上記の通り自然に出てくるかもしれませんが、アメ耳はどうでしょう?
 外耳道にへばりついて塞いでしまう確率が高くなるのではないでしょうか。
 実際に小児科診療をしていると、鼓膜が見えないほど耳垢がたまっている幼児が時々いて困ってます(^^;)。

 とそんなところに下記報告が・・・

■ 耳掃除のしすぎは有害:アメリカの最新ガイドラインが警告
ケアネット/HealthDay News:2017/01/16
 耳掃除は耳の損傷につながる可能性があると、米国耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会(AAO-HNSF)が発表した最新の臨床診療ガイドラインで警告されている。「Otolaryngology-Head and Neck Surgery」1月3日号に掲載された同ガイドラインによると、耳垢は耳を清潔にして保護するために生じ、塵や埃などを捉え、耳の奥に入り込まないようにしているという。
 顎を動かして咀嚼するなどの日常動作で、新しい耳垢は古い耳垢を耳の入口に押し出し、耳垢は剥がれ落ちるか入浴中に洗い流される。これは持続的に生じる正常なプロセスだが、時にこの自浄プロセスがうまく働かず、耳垢がたまって部分的または完全に外耳道を塞ぐことがある。
 ガイドラインによると、過度の耳掃除は外耳道を刺激し、感染を引き起こし、耳垢が蓄積する可能性を高めうる。ガイドライン更新グループのSeth Schwartz氏は、「耳掃除をすると耳垢が奥に入り、外耳道に詰まってさらに問題が生じるだけだ。耳に何かを入れることは、鼓膜や外耳道に深刻な害につながる可能性がある」と話す。
 耳を守るためのポイントは以下の通り。

・耳掃除をしすぎない。
・耳に何かを入れない。綿棒、ヘアピン、楊枝などは外耳道を傷つけたり、鼓膜に穴を開けたり、耳の骨のずれを生じさせたりするため、難聴、めまい、耳鳴などの問題を引き起こしうる。
・「イヤーキャンドル」は使用しない。外耳道や鼓膜に重篤な損傷を引き起こしうる。
・難聴、耳閉、排液、出血、耳の痛みがあれば医師を受診する。
・自分で耳垢の詰まりを治療しても大丈夫か、医師に相談する。特定の全身疾患または耳の疾患がある場合は安全でない可能性がある。


<原著論文>
Seth R. Schwartz, et al. Otolaryngology-Head and Neck Surgery. 2017 Jan 3.

「正しく知ろう、吃音支援」 (by 菊池 良和 先生)

2017年01月12日 12時53分44秒 | 子どもの心の問題
 前項と同じく、NHKラジオ「健康ライフ」で放送されました。
 菊池先生自身が吃音で悩み、克服した方で、著作もたくさんあります。

 再確認できた事項は以下の通り;

・吃音は遺伝的なもので、親のしつけが原因ではない。
・緊張して言葉が出ないというだけ病態ではない。
・その人により出にくい言葉は異なる。
・会話では出にくい言葉が、歌う時はふつうに出てくる。


 最後の話を聞いて、私は自閉症の東田直樹君のことを思い出しました。
 彼はしゃべれません。
 しかし、パソコンのキーボードに入力することを訓練の末に覚え、入力する際には言葉を発することができるようになりました。
 何かをきっかけに、あるいは何かの力を借りると、ブレーキになっていたものが外れて言葉が出るという状態は共通していると感じました。

 脳の機能が詳しく解析される過程で、「発語障害」のメカニズムが解明され、対策が可能になることを祈ります。


(菊池先生)


************<備忘録>************

■ 身近な疾患『吃音』
□ 吃音の特徴3つ

1.繰り返し ・・・(例)「ぼっ、ぼっ、ぼくは・・・」
2.引き延ばし ・・・最初の音が伸びる(例)「ぼ〜くは」
3.難発 ・・・最初の言葉がなかなか出ない
小児期は1と2が目立ち、成人後は3が多い。

□ 子育て歴・生育歴ではなく、遺伝的なもの
親が責任を感じる必要はない。

□ 常に吃音が出るわけではない。
出やすい言葉と出にくい言葉、言える言葉と言えない言葉がある。
吃音の人ごとに言えない言葉が異なる。
母音が言えない例等。

□ 頻度は100人に一人
この頻度は全世界共通。

□ 吃音は治る?
3年で6割(男児)、8割(女児)が治る。
思春期を過ぎてしまうと大人まで持ち越すことが多い。

□ 大人の吃音者で一番困っているのは「電話」
自分の名前を言うのが苦手な人が多い。
自己紹介が苦手など、小児期の失敗体験が影を落としている。

■ 吃音のメカニズム
□ 吃音回避の言い換え/置き換えのスキル
・「昨日」が言えない場合は「曜日」で言い換える。
・「ありがとう」が言えない場合は「サンキュー」と言い換える。
※ 自分の名前は言い換えることができないので困る。

□ 吃音は「自分で発音のタイミングを取れない/合わせられない」のが下手な状態
・会話では言えない単語が歌うときは言える。
・一人では言えないが、みんなで一緒の場合は言える。

□ 社交不安障害という二次障害
吃音があるために新たな出会いが億劫になる。

■ 吃音の治療
□ 吃音の始まりは防げない。

□ 治療のコツは吃音があることでイヤな思いを重ねないようにすること
対人恐怖症、社交不安症対策。

□ 吃音を隠すスキル
・「あの、あの・・・」と言葉をはさむ。
・言いにくい単語の前に言いやすい単語を入れる。
・最終的にはしゃべる場面から逃げる。

□ 病院での治療
・二人で一緒に文章を読むと吃音が出ないことを経験させるとメカニズムが理解できてよい。
・メトロノームに合わせると話すことができるので、それを練習をする。

□ 自分だけ悩んでいるという誤解を解く
・吃音は君一人じゃない。
・わざとしているわけじゃない、あなたは悪くない。
・しゃべりたいという気持ちを持ち続けて社会参加にトライ。

■ 吃音への誤解
□ 日本の吃音研究には100年の歴史がある。
1930年代の治療(伊沢先生)は以下の通り;
・腹式呼吸
・引き延ばしながら発声する
・精神強化・・・「吃音を絶対治してやる」という根性論

□ 吃音の捉え方の変遷
・遺伝ではなく親のしつけ、ストレスが重視された。
・吃音があると差別された。
・その後、治すのではなく受け入れて吃音を持ったまま社会参加しようという流れに変わった。

■ 吃音とうまく付き合うためには
□ 吃音を支えるシステム
・発達障害者法の対象疾患になっている
・言語聴覚士が専門的にリハビリを担当する
・言語聴覚士が登場する前は小学校の「ことばの教室」で扱っていた。

□ 吃音の取説
・努力や訓練ではゼロにはならない。
・吃音のある自分を受け入れる。
・周囲の他人にも受け入れてもらう。吃音がある自分の取説を相手に説明する。

「増える子供の生活習慣病にどう対処するか」(by 岡田知雄先生)

2017年01月09日 06時58分52秒 | 子どもの心の問題
NHKラジオ 毎日ライフ(2016年)より
お話:神奈川工科大学 特任教授・医学博士 岡田知雄先生


(岡田先生)


子どもの生活習慣病の大元は、まだお母さんのお腹にいる胎児期の影響が出生後の生活習慣より大きい、という衝撃的な内容でした。
近年、赤ちゃんの出生体重は減少しつつあり、なんとなく「小さく産んで大きく育てる」がよいというイメージがあります。
しかし、それは赤ちゃんにとってはマイナス。

胎児期に栄養が十分にもらえないと、赤ちゃんの体は必死にカロリーをためて自分の身を守る体質に変わってきます。
そして出生後もその体質が続き、栄養をがむしゃらに自分の体に取り込み続ける事になり、これが肥満につながるというのです。

栄養は多すぎても足りなくてもよくないのですね。
そして、子どもの肥満の責任は子ども自身にあるのではなく、周囲の大人や社会の問題であるという認識が必要なこともわかりました。

**********<備忘録>**********

■ 「子供の生活習慣病の現状」
□ 肥満の定義
・肥満:標準体重+20%以上
・高度肥満:標準体重+50%以上
近年のデータでは、11歳の9〜10%が肥満、2%が高度肥満

□ 肥満の問題点
・運動機能の低下
・睡眠時無呼吸
・寝不足
・いじめ、不登校
・大人肥満への移行しメタボリック症候群へ:思春期肥満の70%が持ち越す

□ 脂肪細胞の数は一度増えると減らない
軽度肥満も放置せずに対策を立てる必要がある

□ 小児肥満の原因として近年わかってきたこと
過食など生活習慣よりも
・胎内環境の影響
・新生児期〜乳児期の栄養が影響
が大きいことが指摘されてきた。

■ 「母親の胎内にいる時の影響」
□ 低出生体重児(2500g未満)の弊害
・やせた母親からやせた赤ちゃんが生まれることが多い
・胎児の栄養が不十分な状態が続くと、特殊な遺伝子がonになり、低栄養状態になれてしまう(順応)。
・出生後もその状態が続くため、ふつうの栄養状態でもインスリン分泌が多く肥満になりやすい。
・成人してもその状態が続くため、成人肥満〜メタボリック症候群につながる。
・その子どもが母親になるとその子どもにも同様の状況が受け継がれる。
・日本はOECDの中で低出生体重児が一番多く生まれる国。

□ 過体重児も肥満のリスクが高い。

■ 「乳幼児期の影響」
□ 新生児〜乳児期の過栄養・体重の急激な増加は肥満遺伝子がonになりやすい。
とくに低体重児にその傾向がある。
体重の急激な増加は脂肪がメインである。
母乳の脂肪は脂肪球という形で供給され、消化吸収に適切。人工乳は吸収されやすい形で共有され、肥満につながりやすい。
母乳の方が満腹中枢が働きやすく、人工乳にありがちな飲み過ぎが少ない。

□ 食事・運動療法に取り組んでも効果が上がらない肥満の小学生のからくり
胎児期・乳児期の問題が隠されていることを念頭に置く必要がある。

■ 「学童期の影響」
□ 動脈硬化は小学生期から始まる。

□ 小児のメタボリック症候群基準
・腹囲:80cm以上(中学生)、75cm以上(小学生)
かつ、以下の検査値を3つ以上満たす;
・中性脂肪:120mg/dl以上
・LDL-C:40未満
・血圧:125/70mmHg以上
・空腹時血糖:100mg/dl以上

□ 注意すべき生活習慣
・?(聞き逃しました)
・運動不足
・睡眠不足
・ストレス
・朝食を食べない:肥満児の朝食欠食は30%、非肥満児では10%未満
・孤食:食べたいものだけをたくさん食べる傾向、満足感が乏しいためたくさん食べる

■ 「社会環境と子供の肥満」
□ 昔は裕福な家庭の方が肥満が多かったが、現在は貧困家庭の方が肥満が多い。
・やせ妊婦が多い。
・学童期にファストフードを多く食する。

□ 子どもを取り巻く環境の影響
・群馬県の太田市から東京23区に転居した小学生が肥満&脂肪肝になった例
・東京23区に住んでいた小学生が、山形のりんご園に預けられて6ヵ月で肥満が改善した。
・東日本大震災の放射能汚染地域では、屋外で遊べない状態が続き、肥満児が急増した。

□ 子どもの肥満は子ども自身の問題ではなく、周囲の大人の問題に起因することを肝に銘じるべきである。

「子どもの声は騒音?」問題

2017年01月08日 08時53分08秒 | 育児
 出口の見えない「保育園/幼稚園騒音問題」。

■ 「うるさい」と保育施設に苦情、自治体の75%
読売新聞 2017/1/8
 保育施設の子どもらが出す音や声を巡り、「うるさい」との苦情を受けたことがある自治体が、全国主要146自治体のうち109自治体(約75%)に上ることが、読売新聞の調査でわかった。
 苦情が原因で、保育施設の開園を中止・延期したケースも計16件あり、施設の整備や運営が年々難しくなっている状況が浮き彫りになった。
 調査は昨年11~12月、保育ニーズの高い政令指定都市や県庁所在市、東京23区などの都市部に、昨年4月1日時点の待機児童数が50人以上の市町村を加えた計150自治体に実施し、146自治体から回答を得た。
 2012~16年度の5年間に、建設計画段階のものを含む保育所や認定こども園への苦情を受けたことがあるのは109自治体。うち、5年間すべての件数を把握している43自治体では、12年度の計37件から15年度は計88件、16年度は12月までに既に計89件と増加傾向だった。


 解決法はないのでしょうか?

 わたしは「縁」の有無が重要な要素になっていると思います。
 住民と子どもたちが“見知らぬ他人”として分断されていれば、子どもの居場所はなくなります。

 でも、住民が園を見学するなど交流を深めてみたらどうでしょう。
 誰かの大きな声が聞こえても「ああ、あの子が元気に遊んでいるんだな」と思えると、騒音が愛らしい声(?)に変わるかもしれません。

 誰しも、その昔は“うるさい子ども”だったのですから。