“子ども”を取り巻く諸問題

育児・親子・家族・発達障害・・・気になる情報を書き留めました(本棚4)。

自閉症スペクトラムの非定型的な視覚認知、機能的結合異常に由来

2017年11月13日 18時41分42秒 | 子どもの心の問題
 自閉症スペクトラムの原因解明に一歩近づいた研究報告を紹介します。
 でも複雑で「ASDはコネクトパチーだという新しい疾患概念」だそうです。

■ 自閉症スペクトラムの非定型的な視覚認知、機能的結合異常に由来-九大
2017年11月10日:QLifePro
視覚情報に対して知覚過敏や知覚鈍麻がみられるASD
九州大学は11月8日、自閉症スペクトラム(ASD)の非定型的な視覚認知が、脳内ネットワークの神経結合の病気である機能的結合異常(コネクトパチー)に由来することを突き止めたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院の山﨑貴男学術研究員と飛松省三教授らの研究グループによるもの。研究成果は、神経科学国際誌「Frontiers in Neuroscience」のオンライン速報版に掲載された。



 ASDでは視覚情報に対して知覚過敏や知覚鈍麻がみられ、それらの知覚異常がASDの社会性障害の基礎である可能性が指摘されている。しかし、その脳内メカニズムは未解明な部分が多かった。
 そこで研究グループは、ある刺激に対する脳の特異的反応を捉える検査の「誘発脳波」や、神経線維の走行を捉える検査の「拡散テンソルMRI」を用いて、ASDの視覚認知に関する研究を10年ほど継続的に行ってきた。

ASDの早期診断バイオマーカー開発、早期の治療介入に期待
 研究グループは今回、一連の研究成果および文献的考察から、ASDで生じている視覚ネットワーク異常に関する新しいモデルを発表。ASDの病態は単一の脳領域の障害ではなく、複数の脳領域間の複雑な機能的・構造的な脳内ネットワークの障害が本質であるとし、ASDはコネクトパチーだという新しい疾患概念を提唱した。
 研究グループは、今後もさまざまな非侵襲的脳機能計測法や数理学的解析法を用いてASDの病態解明を進めていきたいとしている。また、視知覚異常はASDの診断基準にも採用されているが、客観的な指標は未だ確立していない。今回の研究をさらに発展させることで、ASDの早期診断バイオマーカーの開発や、早期の治療介入にも貢献したいとしている。
(遠藤るりこ)


<参考>
九州大学 研究成果

いのちの電話 「この叫び聞いて」(毎日新聞)

2017年11月12日 09時37分22秒 | 子どもの心の問題
 子どものつらさは大人のつらさの反映です。
 「生きづらい」日本社会。
 五木寛之さんの「日本人は高度成長時代にプラス思考を良しとし、マイナス感情を封印する空気を作ってしまったことによる社会のゆがみが今、噴出している」という言葉を思い出します。

■ いのちの電話 「この叫び聞いて」相談内容は深刻化
毎日新聞2017年11月11日
 自殺予防のために悩みを聞く全国の「いのちの電話」に相談が殺到し、対応が追いつかない状況が続いている。神奈川県座間市のアパートで9人の遺体が見つかった事件では、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で自殺願望を漏らした女性たちが巻き込まれた。追い詰められた人々のケアの現状はどうなっているのか。【和田浩幸】
 「以前自殺未遂をしたが、やっぱり死ぬしかない」「衝動的に線路に飛び込んだ」。昨年、全国最多の約2万8000件の相談を受けた「埼玉いのちの電話」には毎日、悲痛な声が届いている。電話5台、24時間態勢でボランティア約300人が相談に当たる。内藤武事務局長は「内容が深刻になり、1件当たりの相談時間が長くなった」と語る。
 昨年は相談時間の合計が1万5400時間(1人当たり33分)と過去最長だった。相談件数は最多の2013年(約3万1000件)より減ったが、相談時間が延びたため、電話をかけたがつながらなかった人がむしろ増えた可能性がある。過去の調査では、かかった電話の3~4%しか出られなかったというデータもある。
 40年以上関わってきた女性相談員(79)は「自殺をほのめかした人から『思いのたけを話すことができた』と感謝されることもある。人間関係が希薄になり、話すことに飢えた人が増えたように思う」と振り返る。
 社団法人・日本いのちの電話連盟(東京都)によると、全国の相談件数のピークは東日本大震災後の12年の約76万件。昨年は約68万件に減った。ただ、相談内容をみると「死にたい」と話したり未遂歴があったりするなど、危険性が高い人の割合(自殺傾向率)は11・5%。2%程度だった1990年代より高い傾向が続いている。
    ◇
 座間市の事件の被害者は、全員が10~20代の若者だった。
 同連盟によると、電話相談に占める20代以下の割合は06年の23%から16年は13%まで低下した。しかし昨年、メール相談を始めたところ多くの利用者は若者で、自殺傾向率は40%台に上った。連盟の担当者は「テキストによる相談のほうが若い世代はなじみやすい。若者が何を求めているか分析したい」と危機感をにじませる。
 厚生労働省の統計では、11年まで年3万人台で推移した自殺者数は16年は2万1897人。それでも日本の14年の自殺死亡率(人口10万人当たりの自殺者数)は19・5で、世界で6番目に高い。
 立教大の福山清蔵名誉教授(臨床心理学)は「自殺者は減っても不安や絶望、孤独を訴える人は減らず、予断を許さない。若い世代はSNSなどで心情を吐露しており、コミュニケーション方法の変化に応じた新たなアクセス手段を考える必要がある」と語った。

主婦や退職者が応対 1年半講習受け認定
 いのちの電話は1953年、イギリスで始まった自殺予防のための市民運動がモデル。日本ではドイツ人宣教師の呼び掛けで71年に始まり、その後に全国に広がった。運営費のほとんどを寄付などで賄っている。
 現在では全国52カ所で約6500人がボランティアで相談員を務めており、主婦や退職者らが多い。相談員はピークの2001年に約8000人を数えたが、高齢化などで減少傾向にある。
 このため、各地のセンターが参加を呼びかけている。最も歴史のある「東京いのちの電話」は22~65歳を対象に募集しており、臨床心理士などによる約1年半の養成講座を受講し、認定を受ける必要がある。
 応募や相談先の電話番号は「日本いのちの電話連盟」がホームページで周知している。

人間は自分自身を家畜化することで文明を生んだ。

2017年11月04日 15時34分39秒 | 子どもの心の問題
 NHK-BSプレミアムの番組を見ていて出てきた文言。
 非常に奥が深い表現です。

■ プレミアムカフェ いのちドラマチックスペシャル オオカミはこうしてイヌになった
NHK-BSプレミアム:2016年6月2日:初回放送:2011年) 
出演:福岡伸一ほか
<詳細>
 はるか昔、オオカミを“イヌ”として飼うようになってからイヌの歴史が始まった。福岡伸一さんがひもとく進化の歴史。


 人間が動物を家畜化する過程は、その動物の幼児期にヒト社会に馴染ませることがポイント。
 幼児期は学習能力に長けており、成長が止まるとその能力が落ちるのです。
 動物全般に共通する現象として、物事を恐れず、探究心に富んでいるのは「子ども」の特質。
 これを利用して子ども時代を長くすることによりヒト社会に順応させたのが家畜化。

 家畜化、ペット化した動物には子どもの特質が形質変化として出てきます。
 番組中のキツネでは、「スター白斑」「巻き尾」「垂れ耳」「丸い形の頭蓋骨」など。
 実はこれは、現在ペットや家畜化されている動物にも観察することができるのです。

 「薄い警戒心」という性質も子どもの特質です。
 アメリカの学者、クライブ・ウィンの研究によると、オオカミが警戒心を示すのは生後5週以降であることが判明しました。

 人間をヒト社会に適応させることが文化・文明の始まりと考えると、人間は学習能力に長けた幼児期が長くなったためにそれをなしえたとも捉えることができます。
 つまり、動物をヒト社会に馴染ませるという点で、家畜化と文明化は共通しているという意味で、題名の表現にたどり着くわけです。

・家畜・ペットの歴史
(15000年前)イヌ
(11000年前)ヤギ、ヒツジ
(10000年前)ブタ、ウシ、ネコ
(8000年前)ニワトリ
(5000年前)ウマ

<参考>
Lyudmila Trut et al. Animal evolution during domestication:the domesticated fox as a model.Bioessays. 2009 Mar; 31(3): 349–360.
 家畜化における動物の進化は「エピジェネティックな変化」である。これは、遺伝子が変わるのではなく、遺伝子の働き方が変わることにより行動や形質が変わるという考え方。
 遺伝子のみではなく、遺伝子を働かせる仕組み(タイミングや順番)も遺伝する。

・マックス・プランク進化人類学研究所の報告書:Somel et al. Transcriptional neoteny in the human brain. Proc Natl Acad Sci USA 2009; 106: 14:5743-5748.
 遺伝子が働くタイミングの違いにより人間は賢くなれたのではないか。人の脳では神経細胞の発達に関わる遺伝子が他の霊長類に比べてかなり遅れて活性化することをつきとめた。
 

発達障害の会、運営に苦労 対人関係がネックに。

2017年11月01日 22時31分43秒 | 子どもの心の問題
 さもありなん。

■ 発達障害の会、運営に苦労 対人関係がネックに 初の実態調査
 自閉症やアスペルガー症候群といった発達障害がある人たちの当事者会で、対人関係がうまくいかず、運営に苦労するケースがあることが関連団体による初の実態調査で分かった。
 他人の気持ちを酌んだり、物事を計画的に進めたりするのが苦手な人が少なくないためで、お互いの特性を理解した上で、適切な役割分担が鍵となりそうだ。

 「それでは1人1分でお願いします」。
9月の金曜日、千葉県浦安市の公共施設で「アスペ・発達凸凹の集い『優しい時間』」の交流会が開かれた。
十数人が車座になり、まずは自己紹介。
自分の番がくると、隣の人からストップウオッチを受け取る。
周りを無視して1人で話し続けてしまわないようにと、この方法を取り入れた。
 7月から参加している女性(45)は外出時に財布や鍵をよく忘れ、時間の管理も苦手。
自分は注意欠陥多動性障害(ADHD)ではないかと思っている。
夫にもアスペルガーの特性があり、子育てを巡って意見がぶつかることが多い。
 "ママ友"に悩みを打ち明けても「ご主人には悪気はないのよ」と言われて、余計に苦しくなる。
だが交流会では「『ある・ある』だよね」と一緒に笑えるので、心が少しだけ軽くなる。
 代表の横山小夜子(よこやま・さよこ)さん(57)が運営で心掛けているのは、自分が苦しくなるまで頑張らないこと。
「週末に開いてほしい」と頼まれても無理をせず、別の当事者会を紹介。
参加申し込みの電話で長々と話す人には「当日聞かせてくださいね」と伝え、やんわりと切る。
 事務局は4人で担当。
横山さんは領収書の仕分けが苦手なので、会計は他の人に任せている。
会場予約やイベント告知、助成金の申請は分担し、互いにチェックする。
 一般社団法人「発達・精神サポートネットワーク」(東京)がこのほど公表した実態調査では、全国の当事者会61カ所のうち、運営で苦労している点として「利用者の対人関係」を挙げたのは半数超の32カ所に上った。
 都道府県や政令市が設置する発達障害者支援センターへの質問では、回答があった78カ所のうち、22カ所(28%)が「当事者会の運営支援が必要」とした。
 自由記述では「思い違いによるトラブルが発生することがあるので、参加者間で一定のルール作りを」「当事者が主体となりながら、外部の客観的な視点が必要」との意見があった。
 ネットワークの嘉津山具子(かつやま・ともこ)さんは「当事者に『相手の立場で考えて』と言うのは簡単だが、それができれば苦労しない。他人の気持ちを通訳してもらうため、必要に応じて専門職の支援を求めてもよいのでは」と話している。

妊婦のマルチビタミン摂取は児の自閉症スペクトラムのリスクを減らす(かもしれない)。

2017年11月01日 22時10分55秒 | 発達障害
 スウェーデンの大規模な統計です。
 妊婦におけるマルチビタミン摂取群は、栄養サプリメント非摂取群と比較して、ASD(自閉症スペクトラム)の児が生まれる確率が約半分に減った(0.26%:0.48%)という結果。

■ 妊婦のマルチビタミン摂取、児のASDリスク減/BMJ
2017/10/16:ケアネット
 妊娠中のマルチビタミン・サプリメントの摂取は、出産児の知的障害を伴う自閉症スペクトル障害(ASD)と、逆相関となる可能性が示された。米国・ドレクセル大学のElizabeth A. DeVilbiss氏らが、スウェーデン・ストックホルムの登録住民をベースにした前向き観察コホート研究の結果を報告した。著者は、「母体栄養と自閉症発症への影響を、さらに詳しく調査することが推奨される」とまとめている。母体のマルチビタミン、鉄分または葉酸のサプリメント摂取が、出産児のASDを予防するかについて、これまでの観察研究では一貫したエビデンスは得られていない。ASDの原因は知的障害の有無によって異なるが、認知機能レベルをベースに栄養サプリメントとASDの関連を調べた研究は、ほとんどなかった。BMJ誌2017年10月4日号掲載の報告。

マルチビタミン、鉄分、葉酸サプリの摂取とASDとの関連を調査
 研究グループは、住民レジスターから試験サンプルとして、1996~2007年に生まれた4~15歳の子供とその母親のペア27万3,107例を特定し、2011年12月31日まで追跡調査を行った。被験者の母親は、妊娠中の初回受診時に、マルチビタミン、鉄分、葉酸のサプリメントの摂取について報告していた。
 主要評価項目は、2011年12月31日までのレジスターデータで確認された、知的障害の有無を問わずASDと診断された子供の割合で、多変量ロジスティック回帰分析にてオッズ比を算出して栄養サプリメントとASDの関連を評価した。兄弟姉妹および傾向スコア適合群を対照とする検討も行った。

鉄分または葉酸サプリメントの摂取では逆相関の関連は認められず
 知的障害を伴うASDの有病率は、母体マルチビタミン摂取群0.26%(158/6万1,934例)、栄養サプリメント非摂取群0.48%(430/9万480例)であった
 栄養サプリメント非摂取群との比較において、母体マルチビタミン摂取群は鉄分や葉酸の追加摂取を問わず、知的障害を伴うASDのオッズ比が低かった(オッズ比:0.69、95%信頼区間[CI]:0.57~0.84)。同様の結果は、傾向スコア適合対照群でも認められた(0.68、0.54~0.86)。兄弟姉妹対照群においても認められたが(0.77、0.52~1.15)、信頼区間値が1.0を超えており統計的に有意ではなかった。
 鉄分または葉酸サプリメントの摂取では、ASD有病率と逆相関を示す、一貫したエビデンスはみられなかった。

<原著論文>
・DeVilbiss EA, et al. BMJ. 2017;359:j4273.