少し前にNHK総合「ダーウィンが来た!」で
ネコの生態を2回にわたって特集していました。
その中で私の興味を引いたのは「
雄ネコによる子殺し」です。
動物が生きる目的は「種の保存」という考え方もありますが、現在は「自分の遺伝子コピーの保存」が第一目的であるという考えがコンセンサスを得ているようです。
雄ネコが子ネコを殺すシチュエーションは、「発情期に雌ネコが他のオスの子どもを連れているとき」。
哺乳類では一般的に、子育て中(授乳中)は発情しないため、その子どもを抹殺すると自分の相手をしてくれるという論理です。
人間はそれを見て「残酷」と思うのがふつうでしょう。
でもネコにとっては自分の子どもを守る(かわいがる)のと、他のオスの子どもを殺すことは、「自分の遺伝子コピーを残す」という目的の下ではイコールなのですね。
これを学問的に解説した本を見つけました。
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「本当は怖い動物の子育て」(
竹内久美子、新潮選書、2013年発行)
たしか発売時に興味を持って購入したのですが、その後本棚のインテリアと化し、今回ようやく読了することになりました。
すると、子殺しに限らない厳しい動物界の「掟」がたくさん紹介されているではありませんか。
「自分の遺伝子のコピーを効率よく残す」ために子殺しも辞さないだけでなく、妊娠や受精をもコントロールするすべを身につけている種も存在することを知りました。
さらに後半、「動物の子殺し」という視点から、「人間の子殺し(虐待)」を検討している項目はこの本の白眉です。
原始的な狩猟採集生活をしている民族・部族の中には、母親に自分の産んだ子どもを育てるか捨てるかの判断を委ねられる社会が存在する、そしてそれは少数派ではないという事実を知り愕然としました。
そしてその母親が子どもを殺すときの判断材料は、現代日本が抱える“虐待”の危険因子とオーバーラップします。
つまり、虐待死させる前に育てられない子どもはなき者とするという社会システムが存在するのです。
子どもを捨てた母親は他人から責められることはありません。
その部族では「自分の子どもを見捨てたことのない女は皆無」という動かすことのできない現実があります。
これらの情報を、子ども虐待対策に導入して生かさなければならないと感じました。
“倫理観”や“母性”などという性善説に期待し、頼っている場合ではありません。
“生物”あるいは“哺乳類”としての生存目的から評価し、対応すべき時が来ています。
子どもを守るためには、ハイリスクの親子を抽出し、見守り、子育てが無理を判断したら問題が起きる前に(子どもに心の傷が残る前に)対処することが必要でしょう。
**********<備忘録>**********
・ジャイアントパンダの育児放棄:
ジャイアントパンダは双子を生む確率が45%と高いが、双子を産んだとしても片方の子しか育てず育児放棄する。
・兄弟姉妹どうしのサバイバルゲーム:
同胞同士で殺し合いをさせ、生き残った方を育てる種がいる(例:タスマニアデビル、イヌワシ、マグロやカツオ)。
(タスマニアデビル)一度に生まれる子どもは20〜40頭と多いが、育児嚢の中の乳首の数は4つしかない。そこでこの“先着4名”の座をかけ、生まれたばかりの子どもたちは命がけのレースを展開する。ひとたび乳首に食らいついたら、何が何でも離さない。当然、他の子どもは飢えて死ぬしかない。
(キハダマグロ)(参考1)「後期仔魚」(しぎょ)は目が異様に大きく、口が全体の1/3位を占めている“口裂け魚”様であり、これは共食い(自分と同じ種の魚を食べる)目的の変態である。この共食い期を過ぎると、体の大きさに対する口の大きさはだんだん小さくなり、ふつうの魚っぽい姿になっていく。
(近大マグロ)(参考2)近畿大学水産研究所が世界で初めて成功した完全養殖のクロマグロ。養殖の家庭で大きな問題点の一つが、やはり後期仔魚どうしの共食いだった。ただし、体の大きさが同じだと共食いは起きず、体の大きさが違うと起こることに気づき、体の大きさで分けて養殖することで解決した。
・母親の妊娠放棄・育児放棄:
エサが足りなくなると妊娠をストップする大型哺乳類がいる。せっかく産んだのに一頭しか子が生まれてこなかったら育児放棄する種さえいる(例:グリズリー)。
・哺乳類の子殺し:
自分の子を一刻でも早くメスに産んでもらうために、メスが抱えている乳飲み子(他人の子)を殺すオスがいる(例:ハヌマンラングール、ライオン・・・子殺しは霊長類では30種類くらいで確認されている)。
哺乳類のメスにはふつう、子に頻繁に乳を与えている限り、子が乳を吸うという刺激によって、発情もしなければ、排卵も抑えられるというメカニズムがある。乳を吸う者がいなくなってしばらくすると、発情と排卵が再開される(参考3)。
群れのリーダーが、群れの乗っ取りによって変わっていくようなタイプの社会を持つ哺乳類では、まず間違いなく子殺しが行われているはず。
★ 人間の授乳と妊娠:
人間社会でも狩猟採集生活をしている部族では、女は3年くらいの間、子に授乳する。頻繁に授乳している限りプロラクチンというホルモン分泌により排卵が抑制されて次の子はできにくくなる。この“頻繁”とは、5回未満と5回以上で分かれるようである(参考2)。
・ブルース効果:
メスが「今生まれてもどうせオスに殺される運命にあるのなら」と、妊娠中の我が子を流産してしまう性質を持っている種がいる(例:マウス、ゲラダヒヒ)。これを「ブルース効果」という。
・近所の人さらいおばちゃん:
自分の乳の出をよくするために、近所の子どもをさらい、食べてしまう小型哺乳類がいる(例:カリフォルニアジリス)。
・ラッコ、ミンク、ネコのイタい性交:
(ラッコ)オスはメスの背後から馬乗りになるが、ペニスの完全な挿入はメスが背を反らしてくれることが必要で、いったんメスが背を反らすと、オスは背後からメスの鼻にかみついて離さない。
(ミンク)首筋が標的になり、流血は免れない。
(ネコ)ネコのペニスには、根元に向かって棘が生えていて、挿入時には何ともないが、引き抜く際にメスに激しい痛みを与える。
・・・これらの動物では、交尾の刺激により排卵が起こるシステム(交尾排卵)になっている。
・昆虫の幼虫の共食い(例:モンシロチョウ、ナナホシテントウ、タガメ):
(モンシロチョウ)アブラナ科の葉の裏に産み付けられた卵から孵化した幼虫は、まずは自分の卵の殻を食べて栄養補給し、そして波を食べ始める。もし、別の卵があるとその卵を先ず食べる。ふつう、モンシロチョウは1枚の葉に1個しか卵を産まず、別の卵があるとすればそれは身内(兄弟姉妹)ではないから。
・“共食い”する哺乳類(例:チンパンジー、ライオン):
(チンパンジー)メスがある集団から別の集団へ移る際、乳飲み子を連れていると子殺しが起きる。そして雑食系(草食&肉食)のチンパンジーは殺した子を食べてしまう(ハヌマンラングールは草食なので食べない)。
これ以降は、人間社会での話になります。
・アヨレオ族の“子殺し”:(参考4)
南米のボリビアとパラグアイの国境付近に住む先住民で、狩猟採集生活と焼き畑農業を営んでおり、不完全な母系制社会。
女が男と正式に結婚するまでの期間、何人もの男と付き合ったり同棲したりするが、その過程でできた子を高い確率で殺してしまう習慣がある。
どういう場合に子を殺すのか?
1.父親から確実なサポートが得られそうにないとき
2.奇形児や双子が生まれたとき(双子の場合はどちらかを殺す)
3.連続して生まれた兄弟姉妹の年が接近しすぎていて、上の子の生存が危うくなりそうなとき
・・・この判断は出産する女に委ねられており、どう選択しても罰せられることはない。アヨレオ族では生まれたばかりの自分の子を殺したことのない女はいないという。
・“子殺し”の論点:
「人間関係地域ファイル」(HRAF)がまとめた60の文化人類学的社会についての情報からデイリーとウィルソンが分析したもの。すると、60のうち39の社会で子殺しが行われ、アヨレオ族は決して極端な例ではなく、ごくふつうの社会であると言うことが判明した。
1.赤ん坊が男にとって、本当に自分の子かどうか?
例)不倫での妊娠、別の部族の子、母親の前の夫の子
2.赤ん坊の質はどうか?
例)奇形児、重病
3.現在の環境は、子育てにとって適切か?
例)双生児、未婚の母、早すぎる出産/子が多すぎる、男性の支援が得られない、母親の死、経済的困窮
・乳飲み子がいるのに交尾ができるように進化した人間のメス:
人間では、メスが子に乳を与えていても“発情”することができて交尾ができるため、メスが他の男の乳飲み子を連れていても子殺しをする必要がなくなった。
人間のメスは、哺乳類として画期的な存在である。人間ではハヌマンラングールのような悲劇は起こらない(はず)。
・人間の夫婦形態と子殺し/虐待リスク:
人間は元々、狩猟採集生活を送っていた。その頃から一夫一妻制、または一夫一妻に一夫多妻が少し混じった、穏やかな一夫多妻制の結婚の形をとるようになったと考えられている。
男と女は一緒に住み、協力する。人間は男女が役割分担はあるにせよ、力を合わせて子どもを育てていくのが特徴である。
さらに国家が造られ、法律が整うと、結婚も法律下に置かれるようになった。
ただしこの関係は危うい部分も同時に抱えていて、どちらかが死んだり、家庭の外に秘めた関係を持ったりといったことから生活は一気に揺らぎ始めてしまう。だから夫に先立たれたり離婚した若い女が、新しい夫と子連れで再婚するのは自然な流れ。その際、子どもたちがまだ小さくて自立するまでには成長していないということが人間ならではの事情であり、この点で人間は他の動物に比べて子殺しや虐待に繋がりやすいリスクを抱えていると言える。
・赤ん坊・子どもから見た母系制社会のメリット:
母系制社会では、争いが少なく穏やかなものとなる傾向がある。
父系制であると、例えば妻が産んだ子が果たして自分の子かどうかと夫は疑い、それは夫の一族全体の問題ともなるが、母系制ではそんな問題は発生しない。女が産んだ子は、(父が誰であろうと)絶対にその女の子であり、紛れもなく一族のメンバーであるから。
デイリーとウィルソンの3つの論点で考えると、
1.赤ん坊が男にとって、本当に自分の子かどうか
2.赤ん坊の質がどうか
3.現在の環境は、子どもにとって適切か
の1と3をあらかじめクリアできる仕組みになっていると考えられ、母系制社会は人々が暮らす上で、また子が成長する上で、理想的な面が多い。
・母系制社会 vs. 父系制社会:
哺乳類の社会では、母とこの結びつきが強いので母系制であることが基本である。にもかかわらず、人間の社会では父系制であることが圧倒的に多い。
それはなぜなのか?
母系制社会は「他の部族との争いに弱い」という弱点があるため。
戦うのはもちろん男達。その男達が母系制社会ではお婿さん連合となり、血縁関係がない。一方父系制社会では、男達に血縁関係があり、結束力に差が出てきてしまう。
つまり、母系制社会は父系制社会の集団に滅ぼされやすい。
・児童虐待という“罪”
先住民では子殺しが暗黙の了解の内に行われる一方で、現代社会では子殺しは犯罪と捉えられている。この価値の転換はいつ起こったのか?
(1933年)「児童虐待防止法」・・・身売りや欠食(貧しくて十分食べられない)ことが問題
(1947年)「児童福祉法」・・・虐待を発見したら通告する義務、児童相談所による立ち入り調査、保護者の同意を得ずに子どもの身柄を保護することが盛り込まれた。
(1994年)「子どもの権利条約」批准。
(2000年)「児童虐待防止法」が新たに成立(2004年に改正)。初めて「児童虐待」が定義された。ただし、この法律は虐待そのものに対する罰則について決められていない。
★「児童虐待」とは;
保護者(実の親とは限らない)がその保護すべき児童について行う次の4種類の虐待のこと;身体的虐待/性的虐待/育児放棄/心理的虐待
・マーティン・デイリーとマーゴ・ウィルソンによるカナダにおける児童虐待の研究(参考5)
とくにステップ・ファミリー(継父、又は継母と継子からなる家庭)を対象とし「社会生物学」(E.O.ウィルソン)をテキストにして研究した。
1974〜1983年のカナダで起きた殺人事件から実の母親が子を殺したケースを解析すると、子が小さいほど高い確率で殺されていた。「見込みのない繁殖行動はなるべく早く中止し、
そのうち放棄せねばならなくなるような仕事にかまけるのを避ける評価メカニズムがあるはず」と推察している。
母親の年令と生後半年までの子殺し件数の関係を調べると、先住民アヨレオ族とほぼ同じパターンであった。母親が若いほど子殺しが多く歳を取るにつれて減少していく。若いほど繁殖のやり直しがきくので、今の子が育てられそうにないなら諦め、将来の実りある繁殖に期待しようというわけである。
そして最も虐待のリスクが高いと結論づけられた状況がステップ・ファミリーであった。0〜2歳の子どもが虐待されるリスクはステップ・ファミリーが実の親同士の家庭よりも7倍高いことが判明した。
オンタリオ州ハミルトンで1983年に行われた調査では、就学前の子どもが虐待されるリスクは、ステップ・ファミリーの方が実の親同士の家庭よりも40倍高かった。
1976年の米国のデータからは、児童が虐待によって死亡するリスクは、ステップ・ファミリーの方が実の親同士の家庭よりも100倍高いことがわかった。主に誰が手を下しているのかは、ほとんどの場合継父(内縁の夫も含む)だった。そして継父が虐待しているとき、実の母は見て見ぬ振りをするか、間接的に関わることになる。「赤ん坊は新しい関係にとっての足手まとい」になり、母親には「新しい男との今後の繁殖を有利にし、優先したい」気持ちが働くのである。
米国で児童虐待のリスクが最も高いのはマムズ・ボーイフレンド(内縁の夫)である。「周囲の目」という抑止力が働かないためにリスクが高まる。
・虐待リスクの評価:再び「3つの論点」+:
以下に示すリスクがいくつも重なると、場合によっては虐待が発生する。
1.赤ん坊が男にとって、本当に自分の子かどうか
(ステップ・ファミリー)前述
(里親が里子を育てる)里子の中には里親の愛情の度合いや、どこまでひどいことをやっても許してもらえるかを試すために「試し行動」なるものを示し、里親を翻弄する子がいる。たとえば、食事を突然ひっくり返すとか、赤ちゃんのように甘えるなど、行動が退行することもある。そもそも里子は、大抵先ず乳児院や児童養護施設に入り、それから里親の元にやってくる。施設に入所した理由には、元の家庭での虐待を逃れるためであることが多く、平成20年の厚労省の統計では半数以上に上る。そのような経験をしてきた里子が、受け入れ先の親と、すんなりとよい関係を築けるとは限らない。
さらには、乳児院や児童養護施設でのプロであるはずの所員による虐待も同じ様な理由で発生している。
2.赤ん坊の質がどうか ・・・共通するのは赤ちゃんに何らかの「育てにくさ」があること
(低体重児・早産)育てるのに手がかかる、経済的な問題も発生しやすい
・・・人間以外の動物では低体重や早産の子の命はすぐに尽きてしまうため、こうした虐待は起こらない。
(障害)親が精神的にも肉体的にも疲れ果てた末に、子を拒否する行動に出る場合もある。
・・・人間以外の動物では障害のある子が生き延びることは難しく、この問題も人間ならでは。
(多胎児)現代では不妊治療によって多胎児が増えている(2008年からは体外受精の胚は原則として一つだけ子宮に戻すことになっている)。多胎児はどの子も体重が軽く、それだけでも既に虐待のリスクが高まるが、各々の子の体重に差が大きいと、より体重が軽い子がより虐待されやすくなると考えられる。
かつては双子が生まれると片方を養子に出すという週間が日本にはあった。
3.現在の環境は、子育てにとって適切か
(望まぬ妊娠)直接的なリスク。
(貧困)
(育児不安)母親が周囲からのサポートを得られない。周囲に育児の先輩がいて直接教えてもらえる機会がないと、母親がいくら育児書を読んだり、医師などのアドバイスを受けても、不安は拭えない。
(周囲からの孤立)経済的な支援が無い場合も含む。
(この年齢が上の兄弟姉妹と接近している)共倒れとなることを避けようとして下の子を虐待するリスクが高まる。
(母に新しい男が登場)1人で必死に子育てをしていた女が、新しい男の登場により豹変し、我が子を育児放棄する流れ。
(兄弟姉妹が多すぎる)すでに育っている上の方の子の生存を確かなものにするために、下の子の方を虐待し、死に至らしめること(間引き)。
4.現代ならではのリスク
(産後うつ)女性の10人に1人が経験するといわれる。出産後、育児で睡眠不足に陥ると自律神経系が乱れ、重症化するとうつ状態になる。産後1〜6ヶ月まで幅がある(マタニティー・ブルーとは異なる)(参考6)。強いうつ症状が出て何もする気力がなくなることから、育児を放棄したり、ささいなことにカッとなって、身体的な虐待を加えることにもなる。ただし、家族などの協力が十分であれば、子どもへの影響をかなり回避することができる。
(虐待の連鎖)虐待する親の約3割が、自身もかつて親に虐待されていたことが判明している。
(家庭内暴力、DV)主に夫(または内縁の夫)から妻(または内縁の妻)への肉体的・心理的暴力という意味に使われる。この暴力の矛先が妻だけでなく、継子にも向くこと。
・霊長学者・福田史夫氏の警告:
「子どもを持った男女は、子どもが小学生以下の場合は決して再婚をすべきではない」
「児童相談所や保育園や小学校、さらには児童福祉施設の人達は『子殺し行動』の一つの根源的背景について学んで欲しい」
・虐待・子殺しが発生しにくい理想の母系制社会:(参考7)
中国の四川省と雲南省の境、標高2700mの高地に住むモソ人社会は母系制で結婚という概念が存在しない。「走婚」(ヅォウフン)と呼ばれる彼らの婚姻形態では、夜、男が女の元へ通う(日本の「妻問婚」に似ている)。男は明るくなる前に帰らなければならない。子が生まれても住むことは許されない。こうして走婚の相手は、生涯に平均で7〜8人にのぼる。
相手を選ぶ際に重視するものは、女は男に地位や財産を求めることはないし、その必要もない。生まれた子どもは、自分と血縁者達が育てるのだから。男も女も人柄やルックスの良さ、才能などを重視する。その結果、モソ人は男女ともにかっこいい人が多い。
生まれた子の本当の父親が誰なのか、わからないこともある。しかし女とその家系のもの達にとっては、そんなことは問題にならない。この養育をするのは、母親の他に、母方のおば、母方のおじなど。
母方のおじは自信が走婚をしていて、自分の子がよそにいたとしても一切その実子の養育には関わらない。育てるのは、自分の姉妹の子である甥や姪なのである。彼は父親の代わりとなり、我々の社会における実父とまったく変わらないくらいの役割を果たし、心強い後見人になる。
子どもは母親の属する家全体で育てるため、子の世話をするのがすべて、間違いなく、子の血縁者であり、虐待のリスク因子が存在しない。
母系制社会は子の虐待がかなり防がれる社会だが、子を養育する男が、その子の実の父ではない場合がある、という虐待が発生する最大のリスク要因を依然として残している。しかし、モソ人の社会では子の問題さえも完全に解消しているのである。
<参考>
1.「死んだ魚を見ないわけ」
(河井 智康著、情報センター出版局、1987年、角川ソフィア文庫)
2.「究極のクロマグロ完全養殖物語」
(熊井英水著、日本経済新聞出版社、2011年)
3.「月経のはなし」
(武谷雄二著、中央公論社、2012年)
4.「人が人を殺すときー進化でその謎を解く」
(マーティン・デイリー&マーゴ・ウィルソン著、長谷川眞理子・長谷川寿一訳、新思索社、1999年)
5.「シンデレラがいじめられるほんとうの理由」
(デイリー&ウィルソン共著、新潮社、2002年)
6.産後うつとマタニティー・ブルーの違い
□ 「産後うつ病とマタニティーブルーの違い」
□ 混同しやすい「産後うつ」と「マタニティブルー」。症状の違いは?
7.「結婚のない国を歩くー中国西南のモソ人の母系社会」
(金龍哲著、大学教育出版、2011年)