“子ども”を取り巻く諸問題

育児・親子・家族・発達障害・・・気になる情報を書き留めました(本棚4)。

「叱らない子育て」って叱っちゃいけないの?

2024年12月15日 12時42分44秒 | 子どもの心の問題
昨今はやりの「叱らない子育て」というワード。
これにとらわれると、親は叱った自分を責めたり、ノイローゼになってしまいそうです。

「叱ることのデメリットを回避する」と視点を変え、
「叱らないで済むスキルを磨く」と考えると少し楽になりそう。

LITALICOの動画で井上雅彦先生(鳥取大学教授)のレクチャーを聴きましたので、
メモを残しておきます。

▢ 叱ってはいけないのか?
・「よい行動を増やす」のが基本だけど「ダメなことをダメと言わない」わけではない。
・避けたい叱り方
✓ 人格否定・・・こどもの自尊心を傷つける
✓ 感情的に叱り続ける・・・お互いの行動がエスカレートして単なる親子ゲンカになってしまう
✓ 「ダメ」を指摘するのみ・・・どうすればよいかを学べない
 → 冷静に「ダメな理由」+「どうすればいいか」をセットで伝える、が理想だが・・・
・とりあえず「ちょっとやめて」と制止するのが最初、その後大人とこどもの両者の気持ちが落ちつくまで待って「ダメな理由」「どうすればよいか」を説明しないと伝わらない、理解してもらえない。

▢ 「ダメなこと・やってはいけないこと」の伝え方
3つの流れがあることを意識することがポイント;
① 不適切な行動を止める。
・毅然とした態度でシンプルに伝える。
・「ストップ!」と声をかけ、それでもダメなら体を使う。
② お互い落ちつく。
・こどもの興奮が高まっているときは、何を話しても耳に入らない。
・お互いに興奮していると言動がエスカレートしやすい。
・こどもの態度が親の感情を逆なでし、その親の態度でこどもがさらに興奮し悪循環を形成する。
・興奮しているときは一旦距離を取るなどクールダウンが必要。
③ 次につなげる(こどもの発達特性に合わせて伝える)。
・こどもに行動の理由を聞き、共感的な態度を示す。
・「どうして、ダメ・してはいけないのか」こどもの理解を促す。
・どうするとよいか“適切な行動“を一緒に確認する。

★ 弁の立つこどもは「〇〇ちゃんのうちではいいのに、どうしてうちだけダメなの?」と聞いてくる。
こどもの気持ちに共感して寄り添うことは大切だが、その議論には深くつき合わないで、
「これが我が家のルールです、お願いします。」と答えて切り上げる。
★ 「自分がされたらどう思う?」と聞いて「別にイヤじゃないけど」と答えたら・・・
「我が家のルールです」「やってほしくないことです」「おねがいします」で通す。
★ 「適切な行動」が思い浮かばないときは、「最悪の行動は取らない」を提示するとよい。

▢ 時には「ガツン」も必要?
・「ガツンと叱る」は叱る人(=親)の行動が強化されやすい。
・こどもの行動が一次的に止まるため効果を感じやすく、「叱るループ」にはまりやすい。
・ “時には”がいつの間にか“いつもガツン”や“気分次第でガツン”になってしまうリスクあり。
・常態化(気分次第でガツン)になってしまうと効果が薄れる。いけないことで叱られているのではなく、親の機嫌で叱られていると伝わり、残らない。ネガティブな効果が大きくなりやすい。
・「ガツンと叱る」を有効に使うためには、ガツンの基準をしっかり持って両親で共有しておく必要がある(けっこう難しい)。

▶ 避けたいガツン
・頻繁に雷を落とす。
・こどもの話を聞かない。
・一貫性がない。

▶ これならOK!のガツン
・大事なときは口調や表情に力を込めて伝える。
 〜信頼関係があることが前提
 〜ここぞ、というタイミングで
・大人が気分次第ではなく“真剣に伝えている“ことがわかる環境作りがポイント。

・・・以上、叱る側の大人は「効果的に叱るスキル」を身につけることが必要なのですね。

肥満・肥満症・メタボの違いとは?

2024年12月04日 06時45分42秒 | 子どもの心の問題
医師のボランティアで行われている学校健診。
そこでは「症状のないレベルでの病気のスクリーニング」が行われています。
「ん、これは怪しい…病院で検討してもらった方がよい」と判定すると、
「受診勧告」という書類が発行されます。

しかし現実は、受診勧告をもらった生徒の3割しか病院を受診していません。
医師は無力感を感じます。
外来診療の合間を縫って時間を作り学校健診に出かけ、
数時間かけて診察しまくり、
グッタリ疲れて帰ってくるのが開業医にとっての“学校健診“です。

そしてせっかく「病気が隠れているかもしれない」と抽出して病院での検討を指示しても、
守られていないのです。

もう、健診の意義が崩壊しています。

生徒側からすると“症状がない”から“受診の必要あるの?”
くらいにしか捉えていないのですね。

とくに肥満の生徒に受診勧告を出しても受診率が低いです。
そのような生徒の家族もたいてい、同じ体型もしています。
生徒と家族にとって「これが当たり前、問題ない」のですね。

肥満児の医療機関受診率をどうすれば上げることができるのか?
…これは地道な啓蒙しかないと思われます。

というわけで、読売新聞の記事を紹介します。
短い記事なのでサラッと読めます。
要点は、
・BMI25以上 → 肥満
・BMI25以上+検査値異常 → 肥満症
・メタボ(メタボリック症候群) → 内臓脂肪がたまる病態
となります。

ですから、肥満か肥満症かは検査をしなければわからないのです。
肥満症は将来の生活習慣病のハイリスク者です。
現在症状がなくても、今から対策を立てることにより成人後に病気で悩む確率を減らすことができます。


▢ 肥満、肥満症、メタボの違いは?…太るのは、自己管理ができていないからなのか
2024年12月2日:読売新聞)より一部抜粋(下線は私が引きました);

Q  太って、おなかの脂肪が気になる。血圧も高いし。
ヨミドック  それは単なる「肥満」ではなく、「肥満症」かもしれません。
Q  肥満と肥満症は違うの?
ヨ  肥満は体格指数(BMI)が25以上の体格を指す言葉で、特定の病気がなければ治療の対象にはなりません。しかし、BMIが25以上で、糖尿病や高血圧など11種類の健康障害のうち一つが該当するか、そのリスクが高い場合には、肥満症と診断されます。肥満症は適切な治療を受けることが必要です。
Q  メタボリックシンドロームという言葉もよく聞くね。
ヨ  内臓脂肪症候群とも呼ばれますが、肥満や肥満症とは異なる考え方です。内臓脂肪がたまると動脈硬化につながりかねないため、特定健診などに用いられる分類です。
Q  自分がしっかりしないから太るんだよね……。
ヨ  肥満や肥満症に対しては、思い込みや偏見が根強くあります。遺伝や体質、成育歴など様々な要因が関係するのに、自己管理ができていないなどと、必要以上に個人の責任を問われる傾向があるためです。こうした負の印象はスティグマと呼ばれ、苦しむ人が多くいます。
スティグマにとらわれ、「肥満は自己責任。医療の対象ではない」といった誤解が生じると、適切な治療の機会が奪われかねません。関連する学会は、肥満や肥満症に対する知識を普及させ、治療に前向きに取り組めるよう活動しています。
Q  どう治療するの?
ヨ  基本は減量です。医師や管理栄養士らの支援を受けながら、食事や運動、行動など生活習慣を改善します。さらに、食欲を抑える薬を使うこともあります。
BMI35以上の高度肥満症で、これらの治療を6か月ほど続けていても効果がでない場合などには、胃を小さくする外科手術も行われます。一部の肥満症患者は、BMI32以上でも手術の対象となります。
Q  治療を受けた方がいいかな。
ヨ  肥満症かもしれないと思う人は、肥満症専門病院や肥満症の外科手術の認定施設、内分泌・代謝・糖尿病内科など、専門医のいる医療機関に相談してください。
(余門知里/取材協力=横手幸太郎・千葉大学長、佐々木章・岩手医大教授)

小児肥満に薬物療法?

2024年11月07日 16時11分19秒 | 子どもの心の問題
小児の肥満が増えています。
学校健診でも実感するところです。

日本では肥満+血液検査値異常 → 肥満症として、
治療・管理が必要とされています。

私が担当している学校健診では「肥満度50%」で受診勧奨の通知が渡されます。
しかし、実際に受診する生徒の方が少ないのが現状です。
その理由は、
「本人が今困っていないから」
「家族全員が肥満体なので異常とは思えない」
等々、一言でいうと「病識がない」のですね。

一方、病識のある家庭の生徒は、
あの手この手で改善を試みています。
本日来院したお子さんは、
「どうしようもないので、冷蔵庫につける鍵を買いました」
とお母さんがため息交じりにつぶやきました。

さて、日本より肥満が深刻な欧米では、
薬や手術を行っています。

先日、欧米で小児肥満への投与が認可された薬が誕生しました。
もちろん、日本では未認可です。
それを扱った記事を紹介します。

▢ リラグルチドは小児肥満の治療薬として有効である
 解説:住谷 哲(すみたに さとる)  
 社会福祉法人恩賜財団大阪府済生会泉尾病院 糖尿病・内分泌内科 主任部長
臨床研究適正評価教育機構:2024/11/06)より一部抜粋(下線は私が引きました);
(オリジナルの記事)肥満小児へのリラグルチド、BMIが改善/NEJM(2024/10/08掲載)

 『小児肥満症診療ガイドライン2017』1)によると、小児肥満の定義は
「肥満度が+20%以上、かつ体脂肪率が有意に増加した状態(有意な体脂肪率の増加とは、男児:25%以上、女児:11歳未満は30%以上、11歳以上は35%以上)」
であり、肥満症
「肥満に起因ないし関連する健康障害(医学的異常)を合併するか、その合併が予想される場合で、医学的に肥満を軽減する必要がある状態をいい、疾患単位として取り扱う」とされる。
 ここで肥満度は学校保健安全法に基づき、
肥満度(%)={(実測体重-標準体重)/標準体重}×100
が広く用いられている。
 さらに小児期からの過剰な内臓脂肪蓄積は早期動脈硬化につながることから、小児期メタボリックシンドローム診断基準もすでに作成されている。小児肥満症患者の多くが成人肥満症に移行することから、現在では小児肥満症は成人の非感染性疾患(non-communicable disease:NCD)抑制のための重要な対象疾患と認識されている。

 わが国では肥満と肥満症が区別されているが、欧米では区別されず、ともにobesityである。本試験の対象者も肥満に起因ないし関連する健康障害の有無はinclusion criteriaに含まれておらず、obesity-related complicationsとして耐糖能障害や高血圧などを有する対象者が約半数含まれている。したがって、以下のコメントでは「小児肥満症」ではなく「小児肥満」を使用する。

 成人と同じく小児肥満の治療も食事・運動療法が基本となる。しかし、薬物療法が必要な患者も少なからず存在する。現在のわが国では残念ながら小児肥満に適応のある薬物は存在しない。(商品名:ビクトーザ)はわが国では肥満治療薬として承認されていないが、欧米では高用量(3.0mg/日)が肥満治療薬として承認されている。これまで成人(>18歳)2)、青少年(12~18歳)3)でその有効性が報告され、すでに治療薬として承認されているが、小児(6~12歳)での有効性は不明であった。そこで本試験「SCALE-Kids試験」が実施された。

 対象患者の背景は平均で年齢10歳、身長149cm、体重70kg、腹囲95cm、BMI 31kg/m2である。リラグルチドの投与量は成人、青少年と同量の3.0mg/日であり56週後のBMIの変化率が主要評価項目とされた。その結果は予想どおり、リラグルチド群で有意なBMIの減少を認め、有害事象も許容範囲であった。

 本試験の結果に基づいて、リラグルチドはおそらく小児肥満治療薬として欧米で承認されるだろう。わが国でも肥満の有病率は増加しているが欧米の比ではなく、本年ようやく成人に対してセマグルチド(商品名:ウゴービ)が肥満症治療薬として使用可能となったばかりである。わが国では成人に対してもリラグルチドは肥満治療薬として承認されておらず、小児肥満治療薬としての道のりはまだまだ遠いと思われる。

<参考文献・参考サイト>
1)日本肥満学会編. 小児肥満症診療ガイドライン2017. ライフサイエンス出版;2017.
2)Pi-Sunyer X, et al. N Engl J Med. 2015;373:11-22.
3)Kelly AS, et al. N Engl J Med. 2020;382:2117-2128.


友達にちょっかいを出す子ども

2024年10月10日 06時36分46秒 | 子どもの心の問題
「ちょっかい」と聞くと懐かしさがこみ上げてくる私。
小中学生の頃、よく「ちょっかい」を出されていたんです。

2人の同級生から・・・2人とも身体が大きくてケンカしたら確実に負ける相手。
一方、小さくてやせていたよわっちい私。
それから、私は転校生だったんです。

イジメとかイジワル、というレベルまで行かず、
朝礼で立っているときに触ってきたり、
小突いたり程度だったのですが。

それでもイヤでイヤでたまらなかった・・・

でも反撃をするほどの勇気もなかった。
先生に告げ口することでもないと思っていました。
そうすれば、
「この野郎、告げ口しやがって」
と行動がエスカレートしたかもしれません。

私は教師から殴られたこともあるので、
そんなに先生を信頼していなかったという事情もあります。

なんだか、私の闇歴史ですね。

彼らの心理ってどういうモノだったんだろう?
と素朴な興味があります。

こんな記事に出会いました。

▢ 友達にちょっかいを出す子の5つの特徴
2024/10/10:Yahoo!ニュース)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 「先生、Tくんが私の髪を引っ張るんです!」「Hさんが、私のペンケースの中身をいつもグチャグチャにするんです!」 

・・・

 「友達にちょっかいを出す子」について、私が長年観察してきた特徴をお話ししたいと思います。これを読んで、「あ、うちの子もそうかも」とか「私、昔そうだったな」なんて思い当たる節があかもしれません。

▶ 友達にちょっかいを出す子の5つの特徴


1. 注目の的になりたがり屋さん

 とにかく目立ちたい、誰かに見てもらいたいんです。授業中に突然「わー!」って叫んで、みんなをびっくりさせる子がいます。そのたびに「Yくん!」って注意するんですが、彼の満足そうな顔を見ると、ついため息が出てしまいます。

2. エネルギーが有り余ってる子

 エネルギーが有り余っていて、ずーっと動いていたい子たちです。休み時間、校庭を走り回って汗だくになってる子がいますよね。でも教室に戻ってきても、まだまだ元気。隣の子をつついたり、後ろの子の消しゴムを投げたり。「もう、エネルギーの使い道、そこじゃないでしょ!」って思わず言いたくなります。

3. コミュニケーションが今ひとつな子

 本当は仲良くなりたいんだけど、どうしていいか分からないタイプの子です。「一緒に遊ぼう」って言えなくて、代わりに相手の帽子を取って逃げ出す。そんな光景を見かけます。気持ちはわからなくもないですが、見ていて「あー、そうじゃないんだけどなあ」って思います。

4. 感情コントロールが難しい子

 頭では分かっていても、体が先に動いてしまうタイプの子に多いです。クラスには、ちょっとしたことですぐカッとなる子もいます。友達とぶつかっただけで、相手を押し返しちゃったり。でも、落ち着くと「ごめんね」って謝れる子なんです。

5. 他人との距離感がつかめない子

 自分と他人との境界線が、ちょっとあいまいなタイプの子です。「これくらいなら大丈夫だろう」って思って、友達の髪を引っ張ったり、背中をバシバシたたいたり。その子はスキンシップのつもりでも、相手が嫌がってるのに気づかない。そんな時は「もし自分がされたら?」って聞くと、はっとした表情を見せます。「僕は気にしない」と言ってくる子には、「それを嫌がる子もいるから、叩かないで声をかけるとか他の方法はないかな?」と代わりの方法を考えさせます。

まとめ

 ここまで読んでみて、どうでしたか? 「ああ、あの子のことだ」とか「自分の子育てに活かせそう」なんて思った人もいるでしょう。

 結局のところ、友達にちょっかいを出す子は、周りに「私のこと見て!」って必死にアピールしているんです。エネルギーは有り余ってるけど、うまく表現できないだけなのです。感情のコントロールも、他人との距離感も、まだまだ勉強中なんですね。

 正直、私たち大人だって完璧じゃありません。子育てや教育に正解なんてないんです。でも、こういう子たちの気持ちを少しでも理解しようとすること。それが大切だと思うんです。

ちょこっとアドバイス

 ちょっかいを出す子を見かけたら、すぐに叱るんじゃなくて、まずは「どうしたの?」って聞いてみてください。きっと、意外な答えが返ってくるかもしれません。



読んでみて、どれが彼らに当てはまるかな・・・
意外にも3の、
本当は仲良くなりたいんだけど、どうしていいか分からないタイプ
だったかもしれないと思いました。

転校生である私に興味がありつつも、
どうやって近づいていけばよいのか、
わからなかったのかな。

あれから約50年という長い年月が過ぎました。

先日、地元の小学校で市民運動会があり、
同級生に渡したいものがあったので、
懐かしの校庭に行ってきました。

仲のよかった友達2人に会うことができました。
30分ほど立ち話・・・プチ同窓会ですね。

私にちょっかいを出した彼らはどうしているのか聞いてみたら、
1人は父親の後を継いで神社の神主に収まり、
もう1人は詳細不明・・・でした。


こどもの気質と腸内細菌の関係

2024年10月04日 14時02分59秒 | 子どもの心の問題
何かと注目される腸内細菌。
色々な病気との関連が指摘されています。

こどもの“気質“と関係しているという報告があるそうで、
今回はそれを扱った記事を紹介します。

<ポイント>
・気質は、情動・活動(行動)・注意の側面から他者を含む環境刺激に対する反応や、それを制御する行動特性(個人差)のこと。
・近年、ヒト成人を対象とした研究により、うつや不安障害などの精神疾患が腸内細菌叢と関連することが知られている。
・個人が生涯もつことになる腸内細菌叢の原型が生後3~5歳頃までに安定化する。
・全国の保育園・幼稚園・こども園に通う3~4歳の日本人幼児 284人を対象に、気質と腸内細菌叢を調べたところ、気質は腸内細菌叢の構成の違いと関連していた。
・気質のうち、高次因子「否定的情動性」と下位尺度「恐れ」「怒り」「悲しみ」「内気さ」の得点の高さは、腸内細菌叢の構成の違いと負の関連がみられた。
・気質のうち、高次因子の「外向性/高潮性」と下位尺度の「衝動性」の得点の高さは、腸内細菌叢の構成の違いと正の関連がみられた。
・腸内細菌叢の構成の違いにどの菌が寄与しているかを調べたところ、酪酸の産生や抗炎症に関わる腸内細菌(e.g., Faecalibacterium)と、炎症の誘発に関わる腸内細菌(e.g., EggerthellaやFlavonifractor)が寄与しているがわかった。
・腸内細菌叢の構成の違い(ディスバイオシスな状態)は、不快情動やストレス反応の表出の多さ、さらには快情動の表出や新奇な環境や刺激に対する探索接近行動の低さと関連することが明らかになった。
・腸内細菌の多様性は、気質の下位尺度の「衝動性」と正の関連がみられた。つまり、腸内細菌叢の多様性が高い子どもほど、新しいことに挑戦したり、動機に基づいて行動しやすい特性をもつことがわかった。
・腸内細菌叢のバランスが乱れたディスバイオシスの状態が、将来(思春期、成年期)のメンタルヘルスリスクを予測する気質の側面と明確な関連がみられた。
・気質には腸内細菌叢が関連していたことから、腸内細菌叢を幼少期に改善することでメンタルヘルスのリスクを緩和、予防できる可能性がある。

・・・ウ〜ン、わかったようなわからないような・・・腸内細菌の話って、いつも最後は煙に巻かれてしまう印象がありますね。


▢ 幼児期の衝動性や外向性などに「腸内細菌叢」が関連-京大ほか
2024年09月12日:QLIfePro)より抜粋(下線は私が引きました);

▶ 幼児の不快情動やストレス反応特性は「腸内細菌叢」と関連するのか?
 京都大学は9月6日、幼児期の気質が腸内細菌叢と関係することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院教育学研究科の明和政子教授、上田江里子元博士後期課程院生、大阪大学大学院医学系研究科の松永倫子研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Developmental Psychobiology」にオンライン掲載されている。
 気質は、情動・活動(行動)・注意の側面から他者を含む環境刺激に対する反応や、それを制御する行動特性(個人差)のことを指す。生後すぐに現れ、一定期間持続する遺伝的要因が大きいと考えられているが、その神経生理学的な発達機序については不明なままだ。
 気質は、
(1)恐れや悲しみ、怒りなどの不快情動の表出や脅威刺激に対する特性「否定的情動性」、
(2)笑顔など快情動の表出や新奇な環境などへ積極的に探索接近する特性「外向性/高潮性」、
(3)(1)と(2)の行動を制御する特性「エフォートフル・コントロール」
・・・という3つの高次因子に基づき評価されている。
 気質の中でも、不快情動やストレス反応(1)、それを制御する能力(3)の個人差は、後の問題行動や精神疾患と関連することが知られており、リスクを早期発見し得る指標の一つとして注目されている。
 近年、ヒト成人を対象とした研究により、うつや不安障害などの精神疾患が腸内細菌叢と関連することが知られている。しかし、生後早期の気質、特に精神行動リスクにかかわる不快情動やストレス反応特性が腸内細菌叢と関連するか否かについてはわかっていなかった。

▶ 心身のリスク評価スクリーニング法の確立などを目的に284人の日本人幼児を調査
 研究グループは、精神機能や認知機能の発達の個人差に関連する要因として、腸内細菌叢(腸内フローラ)に着目した研究を行っている。腸内細菌叢は、免疫系や内分泌系、自律神経系を介して脳と相互作用している。これを「腸内細菌叢-腸-脳相関」と言う。成人を対象とした研究では、腸内細菌叢の多様性や構成が、精神疾患や認知機能の低下と関連することが示されている。ここで重要となるのは、個人が生涯もつことになる腸内細菌叢の原型が生後3~5歳頃までに安定化するという点だ。この時期は、我慢などの感情制御や、推論、記憶、イメージなどの認知機能の中枢となる前頭前野が著しく発達する時期でもある。
 この時期の前頭前野の発達は、成人期の健康状態や社会経済状況を予測することも知られており、幼児期は、腸(内臓)と脳の発達、さらにはその後の心身の健康を左右するきわめて重要な時期と言える。幼児期の気質と腸内細菌叢との関連が明らかになれば、心身のリスクを早期にかつ客観的に評価するスクリーニング手法や、心身の健康増進を目的とした生後早期からの支援法の提案などが期待できる。
そ こで研究グループは今回、全国の保育園・幼稚園・こども園に通う3~4歳の日本人幼児 284人を対象に、気質と腸内細菌叢を調べた。幼児の気質と腸内細菌叢は、以下の手順で計測、評価した。

▶ 気質は腸内細菌叢の構成の違いと関連、否定的情動性・衝動性など
 まず、参加児の母親に92項目からなる質問紙(Childrenʼs Behavior Questionnaire Short Form: CBQ-SF)に回答を依頼。過去2週間の日常場面で、それぞれどの程度見られたかを7段階(「1. まったくみられなかった」~「7. いつもみられた」)で評定してもらい、3つの高次因子(上記(1)~(3))、および下位尺度である15項目(e.g., 怒り、恐怖、内気さ、衝動性)から得点を算出した。
 さらに専用キットを用いて、家庭で子どもの糞便の採取を依頼。次世代シーケンサーを用いて16S rRNA解析を行い、腸内細菌叢の「多様性(種の豊富さや均等度を示すα多様性指標に基づく主成分)」「構成の違い(菌叢の構成の違いを示すβ多様性指標にもとづく主成分)」を評価した。また、腸内細菌叢の構成の違いにどの菌が寄与しているかを詳細に検討するため、「各菌が全体の菌の中で占める割合(占有率)」についても算出した。
・・・
 その結果、気質は腸内細菌叢の構成の違いと関連していた。気質のうち、高次因子「否定的情動性」と下位尺度「恐れ」「怒り」「悲しみ」「内気さ」の得点の高さは、腸内細菌叢の構成の違いと負の関連がみられた。また、高次因子の「外向性/高潮性」と下位尺度の「衝動性」の得点の高さは、腸内細菌叢の構成の違いと正の関連がみられた。

▶ 腸内細菌叢の多様性が高い子どもは新規挑戦や動機に基づいて行動しやすい特性をもつ
 腸内細菌叢の構成の違いにどの菌が寄与しているかを調べたところ、酪酸の産生や抗炎症に関わる腸内細菌(e.g., Faecalibacterium)と、炎症の誘発に関わる腸内細菌(e.g., EggerthellaやFlavonifractor)が寄与していることがわかった。
 これらのことをまとめると、腸内細菌叢の構成の違い(ディスバイオシスな状態)は、不快情動やストレス反応の表出の多さ、さらには快情動の表出や新奇な環境や刺激に対する探索接近行動の低さと関連することが明らかになった。
 また、腸内細菌の多様性は、気質の下位尺度の「衝動性」と正の関連がみられた。つまり、腸内細菌叢の多様性が高い子どもほど、新しいことに挑戦したり、動機に基づいて行動しやすい特性をもつことがわかった。

▶ 腸内細菌叢を幼少期に改善することで、メンタルヘルスリスク緩和・予防できる可能性
 欧米圏を中心に、「腸内細菌叢-腸-脳相関」の観点から、生後早期(乳児期)から現れる気質と腸内細菌叢の関係の解明が進められつつある。しかし、現時点では一貫した結果は得られていない。研究グループは今回、腸内細菌叢の多様性や構成が大人レベルへと安定化し、かつ前頭前野が急激に発達する幼児期に着目することが重要と考えて同研究を実施し、日本人の子どもの腸内細菌叢が気質と関連することを初めて示した。中でも、腸内細菌叢のバランスが乱れたディスバイオシスの状態が、将来(思春期、成年期)のメンタルヘルスリスクを予測する気質の側面と明確な関連がみられた点は重要だ。
 従来、気質は生後すぐから現れ、個人が持続的にもち続ける行動特性であるとみなされてきた。しかし、気質には腸内細菌叢が関連していたことから、腸内細菌叢を幼少期に改善することでメンタルヘルスのリスクを緩和、予防できる可能性がある
「今後は、本研究が示した結果(仮説)を長期縦断的に検証していくことや、腸内細菌叢を改善する介入(e.g., 食生活習慣への介入やプロバイオティクスの投与)によって因果の検証を行う必要がある。将来的には、子どもの心身の健康を早期にかつ客観的にスクリーニングする手法や、個々の心身の特性に合わせた個別型の発達支援法の開発なども期待できる」と、研究グループは述べている。

大対先生のかんしゃく対策

2024年08月22日 07時40分46秒 | 子どもの心の問題
他の講師(大対香奈子先生:近畿大学総合社会学部)によるかんしゃくレクチャーのメモ書きです。
専門分野は応用行動分析学。
しかし一筋縄ではいかない質疑応答では、回答の切れが悪い印象がありました。
まあ、生きているこども相手だから仕方がないかな。

▢ 消去バースト(=かんしゃく)への対応
・かんしゃくには反応しない(目も合わせない)
・激しく泣いたり暴れたりしているときは、落ちつくまで待つ
・落ちついてきたら、代わりにすべき適切な行動を促す
・促した適切な行動が少しでもできたら大げさなくらい褒める(強化)

▢ かんしゃくへの保護者のスタンス
・大人だってイライラしちゃう
・そんな時こそ子どもにモデルを示すチャンスです!
・「落ちつくための時間」を持ちましょう
 → ママも気持ちを落ちつかせてから話すね。
 → 気持ちが落ちついたから話を聞くね、待ってくれてありがとう。

▢ かんしゃく中の言動には反応しない
・かんしゃく中は大人の心を逆なでするような言動が起こることがある
(例)お母さんなんて大嫌い! 死ね!
 → 一切そのような言動には取り合わない
・まったく別の角度から新しいボールを投げる
(例)直接関係のない話題に振る、など
・感情の高ぶりが収まってから、聞いてみる;
「さっきはどんな気持ちだった?どうしたかった?」
「お母さんはさっきの言葉に傷ついたわ」

▢ かんしゃくの際のルール作りは事前に
・何がダメか、そのルールを具体的・明確にして事前に(落ちついているときに)共有しておきましょう。
✓ ヒトを傷つけること
✓ 自分を傷つけること
✓ 社会のルールを守ること


“かんしゃく”の分析と対策

2024年08月19日 07時50分45秒 | 子どもの心の問題
自治体の乳幼児健診の際に、
「他に困ったことはありませんか?」
という質問に対する答えで多いのは、
“かんしゃく”と“偏食”です。

先日、かんしゃくに関するWEBセミナーをいくつか視聴しましたので、
ポイントと思ったことをメモしておきます。

応用行動分析を用いているのが注目されます。
行動の理由は次の4つに分けられるとのこと;

物・活動の要求
回避・逃避
注目要求
感覚(自己刺激)

かんしゃくが起きた時、
その理由が4つのどれに当てはまるのか、
その都度立ち止まって考えると、
具体的な対策が思い浮かぶかもしれません。
例示されていたそれぞれの対策は、

① 事前のお約束、良い行動が少しでもできてからものを渡す。
② 子どもが良い行動をしているときに声かけ。
③ やること(課題)の調整(量・レベルを下げる)、適切な発散方法を増やす。

という解説でした。

また、かんしゃくを起こしやすい子どもは
“興奮レベルの振れ幅が大きい”
という表現を興味深く聞きました。
小児科医である私はかんしゃくの相談を受けたときに漢方薬を処方しているのですが、
有効例のご家族から、
「感情の振れ幅が小さくなりました」
と報告されることが多いので、実感があります。

▢ “かんしゃく”とは?
興奮を伴う混乱状態により発生する過度な行動
(例)
 ✓ 声を荒げて泣く
 ✓ 激しく奇声を発する
 ✓ 手足をバタバタする
 ✓ 床に寝転がる
 ✓ モノを投げる
 ✓ 足を踏み鳴らす

▢ かんしゃくのキッカケ
生理的な不快感にもとづくかんしゃく
(例)眠い、お腹が空いた
学習性のかんしゃく
(例)幼稚園に行きたくない

▢ かんしゃくは氷山の一角
・周囲から見えるのは“かんしゃく”だけであるが、
 そのバックグラウンドには以下のことが隠れている;
 ✓ 友達とのコミュニケーションがうまくできない。
 ✓ 大人にかまって欲しい
 ✓ 運動面の不器用さがある
 ✓ こだわりが強い

▢ かんしゃくにおける“個”の問題
・その子の特性
 ✓ 性格
 ✓ くせ
 ✓ 好み
 ✓ 感覚
 ✓ 身体的特徴
 ✓ 情報の認知
 ✓ 情報処理の仕方 など
・獲得できるスキル
 ✓ 学習力
 ✓ コミュニケーション力
 ✓ スケジュール管理力
 ✓ セルフコントロール力
 ✓ 金銭管理力 など

▢ かんしゃくにおける“環境”の問題
・ヒト
 ✓ 家庭、教育機関
 ✓ 地域や周囲の理解
 ✓ サポート体制
 ✓ 福祉的サポートサービス など
・場所・モノ
 ✓ 広さへの配慮
 ✓ 音への配慮
 ✓ 視覚的・聴覚的補助
 ✓ 学習の補助アイテム活用
 ✓ 部屋の明るさへの配慮 など

▢ “個”と“環境”の間にある困難さ
・コミュニケーションが難しい
・かんしゃくが起きる
・落ち着きがない
・自分の気持ちを伝えにくい
・感情のコントロールが難しい
・読み書きなど、勉強が苦手
・切り替えることが難しい
・なかなか自信や意欲が持てない

▢ かんしゃくの理由〜応用行動分析学の世界〜
・かんしゃくが起きる理由は大きく分けて4つ〜どの理由からかんしゃくが起きているのか把握しよう
物・活動の要求:物や活動を獲得するための要求
(例)欲しい!見たい!やりたい!
回避・逃避:イヤなことが生じたときにイヤなことから逃れるための行動
(例)つまんない、飽きた!やりたくないよ〜、ムリ!
注目要求:他者からの注目がないときに注目を集める行動
(例)見て見て、すごいでしょ!困っているのに気づいて!
感覚(自己刺激):刺激がないときに自分の好きな刺激を入れる行動
(例)こうしていると落ちつく〜、だって楽しいんだもん!
〜これらが判明したら、それを解消する対策を取ろう

▢ かんしゃくと興奮のメカニズム
・ヒトの興奮レベルは常に変動している。
興奮レベルの振れ幅が大きい子どもは、
 興奮が繰り返し起きやすくなる。

▢ “したいことを伝える”方法いろいろ
・興奮して感情的になっていると、
 複雑なことができなくなってしまう、
 ふだんできていることもできなくなってしまう。

(複雑)         ふだん   興奮時
 ↑  交渉する     できない  できない
    理由を伝える   できない  できない
    文章で伝える   できない  できない
    短文で伝える   できる   できない
    単語で伝える   できる   できない
    指さす      できる   できる
 ↓  叩く・叫ぶ    できる   できる
(容易)

▢ 興奮につながる要因
・子どもの個性や現状スキル
 ✓ 体力、身体発達の未熟さ
 ✓ 過敏性
 ✓ 特性:こだわりの強さ、気持ちのコントロールが難しい、
     友人関係がうまくいっていない
     他者と自分の意図を合わせるのが苦手 など
・環境
 ✓ 頑張らなければいけない環境
 ✓ 友人関係がうまくいっていない
 ✓ 疲れている など

▢ かんしゃく発生時にしてはいけないNG対応
1.興奮を高める対応は避ける
・かんしゃく時の発言は「発散」としていっているだけかも・・・
 → まともに取り合わない方がよい
・子どもにつられて親も爆発!
 → 子どものかんしゃく状態と同じ?

▢ かんしゃく発生時の対応その1〜まずは安全確保(環境調整)が何よりも大事!
✓ 怪我をしないように物をどける、場所を移動する。
✓ 壁に頭を打ち付ける等の場合は、間にクッションを置くなどの工夫。
✓ 子どもだけでなく、保護者や兄弟などの安全も確保する、など。

▢ かんしゃく発生時の対応その2〜対応の基本はクールダウン興奮を低下させ、適度に落ちついた状態(中庸)に)する
興奮を引き起こす刺激をなくす/減らす
・多少のことはスルー(売り言葉に買い言葉はNG)、ただし無視だけで対応しようとしない。
・再燃させる刺激がなければ、時間経過により落ちついていく。
 クールダウンルームやスペースを利用する。
※ 話しかける関わりも興奮につながることがあるので、
 安全な場所で放っておくことも手立て。
・訴えてきても、イヤな気持ちに対する共感のみ(要求には反応しない
落ちつくことにつながる活動をしてもらう
・水を飲んだり、深呼吸したり、ぬいぐるみを抱いたりする。
・別の活動をして気をそらす。
・単調なことをする(プチプチを潰す、数字を数える、など)

▢ 保護者自身のセルフコントロールーその1
・感情は伝染するので、巻き込まれてしまうのはある意味自然。
・保護者自身もふだんできていることが興奮してできなくなっている。
(例)子どもへの伝え方
 (複雑)             (ふだん)  (興奮時)
  ↑  折り合うポイントを探す   できない   できない
     学んだ対応をする      できる    できない
     簡潔に伝える        できる    できない
     手を取ってやらせる     できる    できる
  ↓  叩く・怒鳴る        できる    できる 
 (容易)

▢ 保護者自身のセルフコントロールーその2
〜ふだんから意識をして落ちつく方法を決めておく。
 疲れをためないように自分の時間を作る。
① アンガーマネジメント
・関わる前にゆっくり10数える。
・一回深呼吸する。
・水を飲む、など。
② 余暇や自分の時間の確保
・自分なりのリラックス方法
・自分なりの発散方法

▢ かんしゃくを減らす取り組みの基本的な考え方
・かんしゃくを減らすのではなく、
 その他の望ましい行動を増やすことで、
 結果的にかんしゃくの出現頻度が下がっていく。
・かんしゃくはすぐにはなくならない、
 半年前、1年前に比べると「少しはましになったかな?」でOK。

▢ かんしゃくを減らす具体的な取り組み
① 子どもの“できる”を増やす。
② 楽しく過ごせる場所や活動を増やす。
・楽しめることの選択肢が少ない場合や疲れているときは、
 かんしゃくや興奮が起きやすい。
・余暇やリフレッシュの時間を作る、子どもが楽しめる習いごとをする、など。


子どもの“こころの問題”を精神科は診てくれない

2024年07月26日 16時23分42秒 | 子どもの心の問題
当院は小児科開業医です。
小児科はこどもの病気一般を扱いますが、
外科系(ケガや手術)などは扱えず、
「小児内科」と呼ぶ方が正しいですね。

そして昨今増えてきた“こころの問題を抱える子ども”。
これは内科というより精神科の分野なので、
やはり従来扱ってきませんでした。

では精神科で診療してもらえるのかというと、
どうやらそうでもなさそうです。
精神科や心療内科に中学生が受診すると、
「高校生からです、
 中学生以下は診療していません」
と門前払いに会うことがほとんど。

精神科の中には「児童精神科」「小児精神科」という分野があるようですが、
その専門医の数はとても少ないようです。

しかし「小児科」はこどもの病気の入口として(外科以外)何でも診療していますので、
「精神科」も子どもを診てくれてもいいのでは、と思ってしまう私です。

というわけで、中高生の“こころの問題”を抱えて困っている患者さんが、
全国にたくさん彷徨っているという状況です。

さて、当院の取り組みですが...
年齢別に考えると、以下のようになるでしょうか。

(乳児期)夜なき
(幼児期)睡眠障害、かんしゃく・こだわり、パニック、落ち着きのなさ
(学童期)同上
(思春期)同上、月経前症候群(PMS)

すべてに対応できるわけではなく、
また心理師はいないのでカウンセリングもできませんが、
効果を実感して通院する子どもが最近増えてきました。

そんなタイミングで以下の記事が目に留まりましたので紹介します。
米国では“思春期の抑うつ”を主訴とする患者がプライマリ・ケアと精神科を受診した際、
寛解率に差がなかったという内容です。

日本の現状を考えると、ちょっと想像できないこと。
おそらく医療事情が大きく異なるのでしょう。
それとも米国では、小児科医が精神科の研修も受けている?

■ 思春期の抑うつ、対応は小児科?精神科?〜重症度や寛解率を比較
 思春期の子どものうち20%程度が「抑うつ」を経験するとされる。これは自殺行動にもつながる重要な公衆衛生学的な問題だが、思春期はそもそも精神科へのアクセスに消極的という課題がある。そのためプライマリケア環境で「抑うつ」の評価と治療を行い、必要に応じて精神科の助けを受けることが推奨されている。
 成人では、抑うつを主訴に受診する患者の重症度はプライマリケアと精神科で同程度であり、同一のケアを提供した場合、寛解率に差がないことが報告されている(STAR*D研究)。これはプライマリケアが専門的治療の良い代替になりうることを示唆するが、思春期の抑うつに対し小児科が同様の役割を果たせるかは明らかでない。そこで今回、小児科と精神科で思春期のうつ病治療を比較した米国の研究を紹介したい(J Child Adolesc Psychopharmacol 2024; 34: 80-88)。
 ちなみに、医療インフラは日本や米国では民間を中心に形成されているのに対し、英国では英国保健サービス(NHS)を中心に家庭医(GP)の配置を行う政府管理システムを構築している。また、日本と同じくフリーアクセスを採用していたフランスは、2005年にかかりつけ医(Médecin Traitant)制度を導入し、登録を国民に義務付けることでプライマリケアを強化している。
 国の医療システムがどの程度プライマリケア提供を支援しているかを示す指標(プライマリケアスコア)は、日本は経済協力開発機構(OECD)加盟国平均を下回っており、特に「プライマリケアを提供する医療者の地理的配分がどの程度計画、調整されているか」および「longitudinality(患者登録/患者パネル)が存在するか」の項目で低いことが示されている(Health Serv Res 2003; 38: 831-865)。

▶ 研究のポイント:抑うつの寛解率は同等も、小児科を訪れる患者で軽症傾向
 今回の研究は、うつ病のスクリーニングと測定ベースのケア(measurement-based care;MBC)によるプライマリケアモデルであるVitalSign6プログラム(Pharmaceuticals 2019; 12: 71)の評価プロジェクトの一環として実施された。治療期間、小児科と精神科のいかんにかかわらず、さまざまな主訴で大都市の子ども病院を受診した3,498例に対しPatient Health Questionaire(PHQ)-2(0〜6点)を用いてスクリーニングを行い、2点以上だった患者1,323例(平均年齢14.3±1.9歳)を抽出。PHQ-9(0~27点)を実施し、10点(中等度のうつ)以上の患者のプロファイル、治療内容、経過について小児科(121例)と精神科(495例)を比較した。
 検討の結果、精神科を訪れた患者は小児科を訪れた患者と比べ、抑うつの重症度(15.9±5.0点 vs. 12.1±5.5点)、大うつ病性障害と診断される割合(60.6% vs. 24.7%)、薬物療法が提供される割合(54.8% vs. 6.6%)が多く、精神科医と比べて小児科医は、薬物を使用せずに治療する割合(4.3% vs. 36.3%)、他院に紹介する割合(5.7% vs. 27.7%)が高かった。そして興味深いことに、寛解率では精神科と小児科で有意差を認めなかった(χ2=0.99、P=0.32)。

私の考察①:プライマリケア環境としての小児科は、精神科の良い代替になりうる
 本研究が実施された米国と日本では、患者側の医療へのアクセスの容易さや、経済的な負担が異なり、医療者側としても費やせる時間(と、おそらく提供される医療の質)が異なるため、結果をそのまま当てはめることはできない。とはいえ、重度ではない思春期の抑うつに対し、プライマリケア環境としての小児科が、精神科の良い代替になりうる可能性が示されたことは意義深く、日本における思春期医療の政策的な課題を考える上でも示唆に富む。
 日本における10〜19歳の自殺者数は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延に伴って増加した。成人の自殺者数が大きく増加した日本列島総不況(1998年)、リーマン・ショック(2009年)では、19歳以下の小児・思春期への影響は乏しかったが、COVID-19では成人とともに増えたのである。
 特に女性でその傾向が顕著であり、経済的理由以外では社会的つながりの希薄化などが大きく影響したと推察される。ちなみに10歳代の日本における死因第1位は自殺であり、主要7カ国で唯一である。また、10歳代の自殺死亡率はフランス、英国、ドイツ、イタリアの3〜4倍程度である(厚生労働省「令和5年版自殺対策白書」)。

私の考察②:精神科へのアクセスはハードル高く、支援は不十分
 本研究の土台となるVitalSign6プログラムでは「抑うつ」というある程度定量化が可能な指標を用いてスクリーニングおよび介入がなされているが、小児・思春期はライフステージ(学校の各段階)や、立場(社会との接点)ごとで状況が大きく異なり、認識できるつらさの対象(友人関係・家庭環境・いじめ・学業など)もさまざまであることから、一元的な対策で全体効果を得ることは難しい。
 そのため、子どもが接する社会単位ごとの取り組み(学校での自殺予防教育の導入、スクールカウンセラーの配備など)がなされ、周辺者らが利用可能な危機察知ツールの開発なども用いて、受け止め・つなげる支援体制の構築が広がりを見せている。しかし、つながり先としての精神科へのアクセスは、心理的にもリソース的にもハードルが高く、「生きにくさ」や「しんどさ」を抱えた小児・思春期への支援は十分ではない現状がある。
 一方、小児科臨床医は既に1万8,000人ほどおり、ワクチンや健診を通じて親子に接する機会も確約されている。小児・思春期はこころの葛藤が身体化しやすく、初期には高率で小児科を訪れている。抑うつが重度ではなく、まだ死が強く意識されていないこの前段階で小児科が適切な介入を行い、限られた高リスク患者のみを精神科につなぐ構造的合理性について、本研究の結果は支持するものといえる。

私の考察③:日本における小児科の課題を解消し、良い受け皿として機能させたい
 とはいえ、感染症診療を中心とした薄利多売を求められる日本の小児医療構造下で、この負担を一方的に押しつけることは現実的ではない。おそらく「生きにくさ」や「しんどさ」を抱えた子どもを放っておいてよいと考える小児科医はいない(筆者は小児科医をとても信じているのだ)が、それができない実情があると考えるべきであろう。
 診療にかけられる時間、経営上の理由、技能・知識の不足、認識の問題、医療者自身の安全性など、解決しなければならない課題があるのだと推察している。筆者は現在、厚生労働大臣指定法人・一般社団法人「いのち支える自殺対策推進センター」の支援を受け、課題と介入効果を明らかにするための大規模アンケートの実施に向けて取り組んでおり、政策提言や実装のためのシステム構築に発展させる予定である。
「こころ」とは、広い、冷たい、折れる、盗まれる、騒ぐ、砕くなど、さまざまな表現がしっくりと当てはまるように、正解がないものであるように感じる。今回の研究では、重度ではない思春期の抑うつに限れば、薬物療法の割合が少ない小児科が、精神科と比べ寛解率に差を認めないという結果だった。治す対象としての「精神」ではなく、理解する対象としての「こころ」について、小児科医が果たせる役割があることを示した研究といえるだろう。

子どもの「スマホ依存・ゲーム依存・ネット依存」への対応

2024年07月26日 08時45分42秒 | 子どもの心の問題
近年話題になっていることですが、
小児科医の私には基礎知識しかありません。

主に児童精神科医が担当する分野と思われますが、
その児童精神科医の数が少ないため、
悩んでいても満足のいく医療を受けることができないのが現状です。

心理士の解説を参考に、ポイントをまとめてみました。
一読してみての感想は、
・依存症に陥る子どもは、ほかに悩み事を抱えていることが多い。
・家族だけで抱えず、専門家のサポートを受けることが解決への近道。
に集約されると思いました。

<ポイント>
・「スマホ依存」という単語を耳にする機会が多いが、実は医学用語ではなく定義も定められていない。
・依存症とは、特定の何かに心を奪われ「やめたくてもやめられない」状態になること。スマホ依存とは、スマホから得られるワクワクや快感に没頭するあまり、自分で自分をコントロールできなくなる状態。
・子ども本人が「スマホ依存症である」と自覚しているケースは少なく、本人の意志だけで回復するのは困難。
・治療の中で重視されているのは「子どもへの寄り添い」。なぜ、こんなにスマホにのめり込みたくなったのか、背景にある悩みや問題にスポットをあてる。「学校に居場所がない」「勉強がわからない」「友達とうまく付き合えない」など、孤独でプレッシャーに押しつぶされそうな子どもにとって、スマホでつながる世界は大人が思っている以上に重要。
・病院を嫌がるときは無理強いをしない、本当のこと(受診する)を伝えずに連れていってはいけない。
・子どもが病院に行きにくいようなら、まずは家族だけで診察を受けるのもよい。
・うまく病院受診につなげられない場合は、子どもを受診させる考えをいったん捨てて、家族だけで相談できる場所を探す。信頼できる医師や心理師などの支援者に出会うことが大切。
・次のような機関でもスマホ依存の相談可能:
 ✓ 各都道府県の精神保健福祉センター
 ✓ 市役所や保健所の子育て相談窓口
 ✓ 自治体の教育支援センター
 ✓ 小中学校のスクールカウンセラー
・まずは子どもの気持ちにしっかりと寄り添うことで、スマホ依存の背景にある子どもを本当に苦しめているものを一緒に見つけてあげる。そして、子どもに寄り添い、支えるためにも家族自身の心も大切にする。「苦しい」「助けてほしい」、そんな気持ちを抱いたときには無理や我慢をせず、専門家や相談機関を頼る。
・病院受診はゴールではない。やっとの思いでたどり着いた病院受診が、ゴールではなく治療のスタートだと知ったとき、絶望感に打ちのめされる親は少なくない。スマホ依存は治るのに時間がかかる。「いつになったら治るのか」明るい未来を想像できず、つらさを抱える親子たちの思いを受け止めるのが、病院や学校、自治体、家族会などの機関。
・苦しいときほど、人とつながってください。人とのつながりが、子どものスマホ依存を乗り越えるための力となってくれる。


■ 子どもの「スマホ依存・ゲーム依存・ネット依存」 公認心理師が「やりすぎ」と「依存」の境目を解説
#1 スマホへの依存度を判断するためには?
公認心理師:中井 ようこ
2024.01.16:コクリコ)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 ゲームやSNSを簡単に楽しめるスマホ(スマートフォン)は、子どもが夢中になりやすいコミュニケーションツールの一つです。しかし、使い方によっては依存傾向が高まり、子どもの心身に大きな影響を与えることも。・・・1回目では、子どものスマホ使用に悩む保護者に向けて、子どもがスマホ依存症なのかを見極めるポイントを教えていただきます。

<目次>
・スマホ依存の症状とは?
・日常生活に良くない影響が出ていれば「依存」
・将来起こりうる問題
・専門家の手助けがスマホ依存から救う

▶ スマホ依存の症状とは?
 近年、「スマホ依存」について耳にする機会が多くなりましたが、実は医学用語ではなく定義も定められていません。スマホ依存とよばれる症状を考える前に、まずは「依存症」という大きな概念を知っておきましょう。
 依存症とは、特定の何かに心を奪われ「やめたくてもやめられない」状態になることです。特定の行為を繰り返す、より強い刺激を求める、いつも頭から離れないなどの特徴があります。この定義をスマホ依存に置き換えると理解しやすいでしょう。つまり、スマホ依存とは、スマホから得られるワクワクや快感に没頭するあまり、自分で自分をコントロールできなくなる状態といえます。
 では、スマホ依存の症状にはどのようなものがあるのでしょうか。
 ソウル聖母病院のキム・ダイジン教授のグループによって作成され、多くの言語に翻訳されている「スマートフォン依存スケール」では、スマホ依存の症状が10項目が挙げられています。
 それぞれの項目について「全く違う」「違う」「どちらかというと、違う」「どちらかというと、その通り」「その通り」「全くその通り」の6段階で評価し、回答の合計点が31点以上の場合を「スマホ依存症の疑い」としています。

▶ 日常生活に良くない影響が出ていれば「依存」
 スクリーニングテストをすると「うちの子にほとんど当てはまる……」とドキっとした方もいるかもしれません。
 スマホの使い方で気になる様子があったら、まずは子どもと話しあってみましょう。本人に改善する様子が少しでもみられる場合は、しばらく見守っても良いでしょう。
 たとえば、テスト前はスマホを見ないように我慢していたり、時間制限を守ったりするなど、子どもが努力してスマホと距離を置こうとしていたら、見逃さずに認めてあげてください。
 しかし、本人がスマホを手放せずに日常生活に影響が出ているようであれば、依存症である可能性が高まります。
・・・
▶ 専門家の手助けがスマホ依存から救う
 子どもをスマホ依存から救うには、適切なタイミングで病院受診や専門家への相談をすることが大切です。「子どもの様子が今までと違う」と思ったら、それが家族にとって適切なタイミングといえます。
 子ども本人が「スマホ依存症である」と自覚しているケースは少なく、本人の意志だけで回復するのは困難です。そのため、子どもを支える家族がスマホ依存について正しい知識を持ち、受診や相談をする必要があります。
 しかし、スマホ依存を専門的に治療できる病院は全国的にも少ないのが現状です。まずは、近くにある児童精神科か心療内科に問い合わせをするのが良いでしょう。久里浜医療センターが作成したリストを参考にしてください。どうしても相談先がみつからない場合は、かかりつけの小児科や民間のカウンセリング機関に相談する方法もあります。
 いざ受診をしようとなると「病院でどんな治療をするの? 痛いことは嫌だ」と心配する子どもも少なくありません。実際にどんなことをするのか、保護者も子どもも知っておく必要があります。
そこで、一般的な治療の流れをご紹介します。

・外来診療での問診、身体的な検査や心理検査
 ↓
・問診や検査をもとにした依存症の診断・治療方針の決定
 ↓
・精神科医による診察、心理師によるカウンセリング
 ↓
・ 認知行動療法やソーシャル・スキル・トレーニングなどを組み合わせた治療
 ↓
・必要があれば入院治療

 認知行動療法とは、物事に対する考え方のクセに気づき、さまざまな考え方を身につけることでストレスへの対処法を増やす心理療法の一つです。認知行動療法を基盤とし、コミュニケーションの技法を練習するソーシャル・スキル・トレーニングなどを行います。
 著しい日常生活の乱れ、体調不良や家族への暴力などがあるケースでは、入院治療も一つの方法です。スマホやメディアから離れ、運動やレクリエーションなどを通じ、周囲とのコミュニケーションや日々の生活に自信をつけていきます。
 このような治療の中で重視されているのは「子どもへの寄り添い」です。なぜ、こんなにスマホにのめり込みたくなったのか、背景にある悩みや問題にスポットをあてます。「学校に居場所がない」「勉強がわからない」「友達とうまく付き合えない」など、孤独でプレッシャーに押しつぶされそうな子どもにとって、スマホでつながる世界は大人が思っている以上に重要なのです。
 親にはなかなか打ち明けられないことも、専門家に話せるケースもあります。子どもの悩みが明らかになってきたら、子どもの気持ちを理解するようにしてみてください。家庭でも子どもに寄り添いながら回復をサポートしていきましょう。


■ 子どもの「スマホ依存・ゲーム依存・ネット依存」 病院受診の無理強いがNGな理由を公認心理師が解説
#2 病院への受診を子どもが嫌がったら?
公認心理師・中井ようこ
2024.01.17:コクリコ)より一部抜粋(下線は私が引きました);

<目次>
・病院を嫌がるときは無理強いをしないこと
・スマホ以外の子どもの悩みを聞く
・病院以外の相談機関や家族向けの支援を利用しよう

▶ 病院を嫌がるときは無理強いをしないこと
 「スマホ依存」の子どもを、いざ病院に連れていこうとすると、受診を嫌がって抵抗されることは珍しくありません。「スマホを取り上げられるかもしれない」「痛いことをされるかもしれない」など、何をされるか分からない不安があるからです。
 そんなときに、つい家族がしてしまいがちなのが、「本当のことを伝えずに連れていくこと」。
 以前、私のところに寄せられた相談では、「すぐに終わるよ」「行ったら○○を買ってあげる」などと、病院に行く目的をしっかりと話さないまま、子どもを連れて行ってしまったケースがありました。そのお子さんは、おとなしく受診しましたが「長い間待たされた」「知らない人に聞かれるのが嫌だった」など、ネガティブな体験だけが心に残り、その後受診をしなくなり、さらには部屋に引きこもるようになってしまったのです。

▶ スマホ以外の子どもの悩みを聞く
 受診につなげるための子どもへの接し方としては、スマホ以外で子どもが望んでいることは何かを探してみてください。「スマホ以外で?」と思うかもしれませんが、少し視点を変えて声をかけるのがポイントです。
 たとえば、勉強や友達、進路など、子どもが悩みを抱えやすい話題について話し合ってみましょう。
「勉強のことがすごく不安」「教室で気軽に話せる相手がいない」など、子どもが心の奥底で抱えている本当の悩みにフォーカスしてみるのです。
 子どものニーズがだんだんと分かってきたら、悩みに沿った声かけで受診を促します。次のような例を参考に、子どもとコミュニケーションをとってみてはいかがでしょうか。

「病院の相談室やデイケアでは、勉強や進路について話せるみたいだよ」
「同じ趣味の人で集まって話せる場所があるみたいだよ」

 このように、病院は決して子どもを苦しめる場所ではなく、悩みや不安を一緒に解決してくれる所だと伝えることが大切です。
 子どもが病院に行きにくいようなら、まずは家族だけで診察を受けるのもよいでしょう。家族も病院への信頼感を持てて「とても優しい先生だったよ」などと教えてあげられますね。

▶ 病院以外の相談機関や家族向けの支援を利用しよう
 子どもと向きあいながら話し合ってみても、うまく病院受診につなげられない場合もあるかと思います。
 そのようなときは、子どもを受診させる考えをいったん捨てましょう。家族だけで相談できる場所を探し、信頼できる医師や心理師などの支援者に出会うことが大切です。
 子どものスマホ依存を診察する病院の多くは、家族だけでも受診できるシステムが整っています。子どもの様子や家族の悩みについて相談できる場所の一つです。
 子どもの依存症に悩む方のために「家族教室」を開催している病院もあります。スマホ依存に関する知識だけでなく、他の家族の体験談やアドバイスを聞くことができる貴重な場です。
 さらに、次のような機関でもスマホ依存の相談ができます。

・各都道府県の精神保健福祉センター
・市役所や保健所の子育て相談窓口
・自治体の教育支援センター
・小中学校のスクールカウンセラー

 精神保健福祉センターでは、スマホ・ゲーム依存の自助グループや家族会を紹介してくれることも。同じような境遇に悩んでいるメンバーとの出会いは、先の見えない不安を抱える家族にとって大きな心の支えになるはずです。
・・・
 まずは子どもの気持ちにしっかりと寄り添うことで、スマホ依存の背景にある子どもを本当に苦しめているものを一緒に見つけてあげる。そして、子どもに寄り添い、支えるためにも家族自身の心も大切にしなければなりません。「苦しい」「助けてほしい」。そんな気持ちを抱いたときには無理や我慢をせず、専門家や相談機関を頼ってくださいね。


■ 子どもの「スマホ依存・ゲーム依存・ネット依存」 小5息子の依存で自信を失ったママパパの「回復策」
#3 長く続く治療を親子で乗り越えるために

 スマホ依存は治癒までには数年かかることも。大きな試練を親子で乗り越えるためにはどうすればよいのでしょうか?・・・

<目次>
・はじまりはオンラインゲームから
・スマホ依存の症状があらわれ不登校に
・「病院受診はゴールではない」
・「人とのつながり」を通して見つけた解決へのヒント

▶ はじまりはオンラインゲームから
・・・
 寒くて手先が凍える12月の夕方5時ごろ、公園の片隅に子どもたちが集まっていました。それぞれゲーム機を握りしめ、対戦ゲームに熱中しています。
 その中に小学校4年生のA君がいました。前年のクリスマスに買ってもらったゲーム機がマイブーム。放課後は友達とのゲームが習慣となっていました。
 5年生になると、まわりの友達がスマホを持ちはじめました。クラスにLINEグループができ、その中で盛り上がった会話をクラス内で話す子も。オンラインゲームもできると聞き、A君はスマホが欲しくなり両親に頼みました。
 すぐにスマホを買ってもらえたA君は、さっそく友達数人とオンラインゲームをするように。みるみるうちに夢中になっていきました。
 Wi-Fi環境がないとスマホを使うのが不便なため、公園に行くことはもうありません。家にいながら友達とつながることができるスマホ。画期的なアイテムを手に入れて、A君は楽しく放課後を過ごしているように見えました。

▶ スマホ依存の症状があらわれ不登校に
 スマホの使用頻度がどんどん上がっていったA君。次第に今まで見られなかった様子が表れはじめた5年生の2学期。A君の両親は、担任からの紹介でスクールカウンセラーのもとをはじめて訪れました。

スクールカウンセラー・ヨウコ(以下、スクールカウンセラー):担任の先生より、息子さんのことで悩んでいるとお聞きしました。

A君ママ:はい。昼夜逆転していて、朝起きられない状態です。最初は遅刻しながら行っていましたが、夏休みが明けてからはほとんど通えていません。

スクールカウンセラー:それは大変でしたね。原因として何か思い当たることはありますか?

A君ママ:(しばらく言葉に詰まって)……スマホです。5年生になってから買い与えました。朝から晩までスマホを見ています。ゲームをしたり、インスタグラムを見ていたり。

スクールカウンセラー:そうなんですね。スマホから離れる時間はありますか?

A君ママ:いいえ。お風呂場やトイレにも持っていきます。最近では食事の時間に呼んでも来なくなり、外出も嫌がるようになりました。外食に行こうと誘っても「今、友達とゲームしている」と。家族の時間よりもスマホが大事なのかと……。(涙ぐむ)

スクールカウンセラー:それはとてもつらい状況ですね。息子さんとスマホについて話し合いはできそうですか?

A君パパ:話をするのは……、とても難しいです。ついこの前も、息子が食卓の上にスマホを置き、LINEで通話しながらパンを食べていたので「いい加減にしなさい」と𠮟りました。

それから、スマホを取り上げようとすると、息子が激高して私に暴言を吐いてきたんです。スマホを取り返そうと暴力もふるってきて……。

A君ママ:「ご飯をしっかり食べなさい」と言っても、スマホに夢中でちゃんと食べません。夜中もずっと起きているので、朝方に寝落ちしてしまうんです。

「頭が痛い」といつもイライラしていて親や兄弟に暴言を吐きます。兄弟のフォローも必要だし、私たちも精神的につらくて……。親としての自信もありません。(涙が止まらない)

A君パパ:実は、息子がスマホアプリで高額な課金をしていたことが分かりました。妻のクレジットカード番号を入力したようです。正直、とても情けなくなってしまい、息子のことも信じられなくなってきました。

こんなことは担任の先生にも話せないし、どうしたらよいのか分からなくて……。何か方法はあるのでしょうか?

スクールカウンセラー:つらい状況をよく話してくださいましたね。今のお話だと、息子さんは「スマホ依存」の可能性があるかもしれません。スマホ依存は早めに治療が必要ですので、息子さんに合った方法を一緒に考えていきましょう。

▶ 「病院受診はゴールではない」
 最初の相談から数ヵ月後、6年生になったA君の両親は再びカウンセリングに訪れました。
 A君は学校でのカウンセリングを嫌がったため、自治体の教育相談に行くようになり、病院受診をすすめられました。

スクールカウンセラー:その後のA君の様子はいかがですか?

A君ママ:特に大きくは変わっていないのですが、先月初めての病院受診をしました。予約をしてから半年待ちで、その間に心が折れそうでしたが、なんとか受診できてホッとしています。

A君パパ:医師からスマホ依存は治るのに時間がかかると聞きました。病院に行けば治る、状況が変わると思い込んでいたので……。私も妻もかなりショックを受けています。

A君ママ:息子は相変わらず学校には行けないし、自宅に引きこもりの状態です。友達とはスマホでつながっているようで安心していますが……。

息子をこんな状態にしたのもスマホだけど、外とのつながりをつくっているのもスマホなんですよね。頭の中がすごく混乱していて「これからこの子はどうなってしまうんだろう」という不安でいっぱいです。(涙が頰をつたう)

スクールカウンセラー:話してくださってありがとうございます。つらい気持ちはどこかで吐き出さないと、体や心に悪い影響をおよぼしてしまいます。よかったらご両親だけでもこちらに通ってください。何かお力になれるかもしれません。

▶ 「人とのつながり」を通して見つけた解決へのヒント
 A君の両親はその後、1ヵ月に1回のペースでカウンセリングに訪れました。病院の医師にも相談を続けており、A君との関わり方やスマホ依存の知識を学ぶ中で、考え方に変化があったようでした。

A君パパ:息子に聞いてみたんです。「何か悩みがあるのか?」と。そのときは何も返ってきませんでしたが、別の日に、「お父さんも気持ちが沈んでいたとき、現実逃避がしたくてパチンコばかり行っていたな」と話しかけてみたんです。
 すると、息子の表情が少し変わって、久しぶりに他愛もない会話ができました。息子の悩みは今も分かりませんが、きっと何かあるんだろうなと感じています。

スクールカウンセラー:息子さんとのコミュニケーションができてきましたね。パパは何か心境の変化があったのですか?

A君パパ:はい。病院から紹介された「家族会」でヒントをもらいました。スマホ依存や、ゲーム依存の子どもを持つ親の会ですが、同じ境遇の方と話すうちに子どもと、もっとかかわることが大切だと気づいたんです。そこで、息子とつながるにはどうすればよいか、考えるようになりました。

スクールカウンセラー:それはよかったです。ママのほうはどうですか?

A君ママ:息子は病院やデイケアを嫌がりはしませんが、積極的に行こうとはしなくて。医師や心理師からは「焦らずに。見守りながら、できたことを認めましょう」と言われています。
 以前だったら「うまくいかないことばかり。もう逃げ出したい!」という気持ちでいっぱいだったと思います。でも今は、この相談室でも自分の気持ちを話せますし、病院や家族会の人たちも助けてくださる。
 まわりから見たら何も変わっていないのかもしれませんが、もし話せる場所がなかったら、皆さんとつながっていなかったら……、きっと前には進めなかったと思います。

スクールカウンセラー:少しずつ親子関係にも変化があらわれていますね。

A君パパ:そうなんです。今度、息子と一緒に町内のお祭りを手伝うんですよ。息子の友達も参加するから、「それなら行こうかな」と言ってくれて。当日になったらどうなるか分かりませんが。
 でも、こんなふうに息子のことを誰かに話せるようになったのは、すごく大きな進歩です。

スクールカウンセラー:そうですね。本当に頑張っていらっしゃると思います。息子さんが元気になると信じて、少しずつでも前に進んでいきましょう。

 A君のご両親は、現在でもA君に合ったスマホ依存の治療方法を模索し続けています。病院受診をきっかけに、いろいろな人のアドバイスを受けたことで、確実に親子の距離は近くなっていると感じました。
 いつかきっと、A君は両親に本当の悩みを打ち明けてくれるでしょう。A君との心の距離に悩むご両親を、さまざまな人とのつながりと支援で変化が訪れたと気づかされたケースでした。
「病院に行けばスマホ依存が治ると思っていたのに」やっとの思いでたどり着いた病院受診が、ゴールではなく治療のスタートだと知ったとき、絶望感に打ちのめされるママパパは少なくありません
「いつになったら治るのか」明るい未来を想像できず、つらさを抱える親子たち。そんな思いを受け止めるのが、病院や学校、自治体、家族会などの機関です。
 公認心理師として言えるのは、苦しいときほど、人とつながってください、ということ。人とのつながりが、子どものスマホ依存を乗り越えるための力となってくれるでしょう。


子どものネット依存は脳活動においてギャンブル依存に類似

2024年07月21日 15時21分47秒 | 子どもの心の問題
子どもがスマホ依存、ネット依存になることが社会問題化している今日、
「ネットの使いすぎがギャンブル依存に近い症状になり得る」
という衝撃的な研究結果が報告されました。

<ポイント>
・インターネット中毒になっている若者の脳は、能動的思考に関係する部分に変化を起こしている。
・こうした脳の変化はさらなる依存行動そして知的能力や身体の整合性、メンタルヘルス、発達に関連する変化につながる。
・インターネット中毒は、青年期の生活に悪影響を及ぼしかねないネガティブな行動や発達の変化につながる可能性がある。
・例えば、人間関係や社会活動を維持するのに困難を抱えたり、ネット上での活動について嘘をついたりする。また、食事が不規則になったり睡眠障害に陥ったりする可能性がある。
・英議会の委員会は2024年5月に「16歳未満のスマホ利用を禁止することが、スマホがもたらし得る害を抑える最善の策かもしれない」と警告する報告書を出した。

■ ネットの使いすぎが「10代の脳」に大きく影響、ギャンブル依存に近い症状に 研究結果
Nick Morrison | Contributor
2024.6.9:Forbes Japan)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 過剰なインターネットの使用が10代の若者の脳を変化させているとの研究結果が6月4日に発表された。インターネット中毒になっている若者の脳は、能動的思考に関係する部分に変化を起こしていることがスキャンで示されているという。
 英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の研究者らによると、こうした脳の変化はさらなる依存行動そして知的能力や身体の整合性、メンタルヘルス、発達に関連する変化につながることがわかった。
 UCLグレート・オーモンド・ストリート小児保健研究所の修士課程の学生で、この研究の筆頭著者であるマックス・チャンは「思春期は身体や認知機能、性格が大きく変化する重要な発達段階だ」と指摘する。「そのため、この時期の脳は強迫観念によるインターネット使用や、マウスあるいはキーボードを使用したい、メディアを視聴したいという欲求を促すインターネット中毒に対して特に脆弱だ」と説明する。
 研究者らは、インターネット中毒と診断された10〜19歳の237人の脳を機能的磁気共鳴画像法(fMRI)でスキャンして調べた12の研究を分析した。インターネット中毒とは、インターネットを使いたいという衝動を抑えることができず、それが心身の状態や社会生活、勉強、仕事に悪影響を及ぼしている状態と定義される。
 fMRIによる脳スキャンでは、安静時に活性化する脳の部位の活動の増加と減少の両方が見られ、能動的思考に関係する部位である実行制御ネットワークでは、脳の領域間の相互作用を示す機能的結合が全体的に減少していることが示された。
・・・機能的結合の減少によって影響を受けるものには強調運動、短期記憶、衝動抑制、注意力の持続、意思決定、意欲、報酬に対する反応、情報処理などがある。思春期の脳の変化は、インターネット中毒の影響を特に受けやすくすると研究者らはいう。
「研究で、インターネット中毒は、青年期の生活に悪影響を及ぼしかねないネガティブな行動や発達の変化につながる可能性がある」とチャンは指摘する。
例えば、人間関係や社会活動を維持するのに困難を抱えたり、ネット上での活動について嘘をついたりする。また、食事が不規則になったり睡眠障害に陥ったりする可能性がある
・・・英議会の委員会は5月に、16歳未満のスマホ利用を禁止することが、スマホがもたらし得る害を抑える最善の策かもしれないと警告する報告書を出したばかりだ。
 ある調査によると、イングランドとウェールズでは10〜15歳の4分の3以上が週末に3時間以上、5人に1人(22%)が7時間以上、約半数が学校のある日に3時間以上インターネットを使用しているという。米シンクタンクのピュー研究所の2022年の報告書では、米国では10代の若者のほぼ半数がインターネットを「ほぼ常時」使用しているとされた。
 チャンとともに研究をまとめたアイリーン・リーは「インターネットに一定の利点があることは間違いない」としながらも、「だがそれが日常生活に影響を及ぼし始めると問題だ」と指摘している。