“子ども”を取り巻く諸問題

育児・親子・家族・発達障害・・・気になる情報を書き留めました(本棚4)。

“生きづらさ”の正体

2024年10月11日 13時51分42秒 | 家族
 親が好きになれない・・・という悩みを抱えているヒトはたくさんいると思います。
 なぜなんだろう?
 その答えの一つに「愛着障害」があるようです。

 自分自身の子ども時代を振り返ると・・・

 私は虚弱体質ながらも負けず嫌いで、
 負けを認めることが苦手、
 勝つまでコツコツ努力するタイプでした。

 そのせいか、勉強も運動もそれなりの結果を残せました。
 親の喜ぶ顔を見て私もうれしくなりました。

 親はそんな私を見て、
 果たせなかった自分の夢を私に託すようになりました。

 私の親は、戦争に青春も将来の夢も奪われた世代。
 学校の成績もそこそこだったようですが、
 家庭の事情で大学進学は諦めざるを得なかった・・・

 そして“努力して結果を出し続けること“が私のルーチンになりました。
 楽しいけど苦しい、そんな思春期が始まりました。

 しかしそれが続くと徐々に、
 「努力しなければ親に認めてもらえない」
 「結果を出さなければ親に認めてもらえない」
 という窮屈な状況に陥っていきました。

 親の期待が喜びから負担に変わったのです。

 ただ生きているだけでは自分には価値がない、
 努力して結果を出さなければ認めてもらえない・・・
 私には疲れた時に受け止めてくれる「心の安全基地」がありませんでした。

 いや、当時つき合っていた女の子が受け止めてくれました。
 しかし私が親の希望に沿って医学部に入学し、
 遠方の大学へ行くことで最愛の彼女を失ってしまいました。

 私は医師になり、彼らの夢を叶えました。
 同時に親と距離を取りたくなりました。
 「もういいだろう?勘弁してくれ」
 自分の心がつぶれてしまいそうでした。

 親は私にたくさんの愛情を注いでくれましたが、
 同時に大きな期待をしてがんじがらめに絡め取り、
 私の自由を奪ったとも言えます。

 長男である私は結婚後に実家に戻り、
 両親の面倒を見ています。
 親と離れて暮らす選択もありましたが、
 それを実行する私を許せない自分もいます。
 昭和的な考えかもしれませんが・・・

 というわけで、今でも「楽しいけど苦しい」生活が続いています。
 これが私の“生きづらさ”です。


<ポイント>
・母親との不安定な愛着を示す子どもは、人口の3割程度かそれ以上にも及び、そうした傾向は、大人になっても解消されず、多くの人が引きずっている。
・愛着障害を抱えた人は、一見「発達障害」に似た特徴を示すことも多く、「発達障害」と診断されることも少なくない。
 ✓ 対人関係、とくに親密な対人関係において困難が強まりやすい。
 ✓ 自己肯定感の低下や心身の不調をともないやすい。
 ✓ 基本的な安心感の乏しさや他者に対する信頼感が弱い。
 ✓ 周囲の反応におびえ、傷つきやすい傾向を抱えるか、
 周囲にはなにも期待せず、無関心な態度を身につけるか、
 どちらかになることで、状況に適応しようとする。
 ✓ ストレスを受けやすく、健康面のリスクも高まりやすい。
 ✓ 不安定な愛着は心身の健康状態だけでなく、平均余命にも影響する。
・愛着障害は、本来「安全基地」として無条件の愛情と世話で子どもを守ってくれる養育者(通常は母親)が、「安全基地」としての役割をうまくはたせないことによって生じる。
・愛着が形成される期間は限られており、概ね1歳半までが、もっとも重要な時期とされる。それ以降でも、愛着の形成は可能だが、それまでの時期に安定した愛着が形成されなかった子には、深刻な影響が残りやすい。
・愛着形成の核は1歳半までが臨界期とされるが、その時点で安定した愛着が形成されていた場合でも、その後の要因によって、不安定な愛着に変わってしまうことがある。虐待やネグレクト、心理的な支配とともに、親の精神疾患や離婚、家庭内葛藤なども、子どもの愛着を不安定なものに変えてしまう。
・愛着というしくみは、本人の安心を守るだけでなく、生命を守る根幹となるしくみであり、それがうまく機能しなくなるとき、人は窮地に陥る。
・愛着は単なる心理学的なしくみではなく、生理学的な現象に基づいた生物学的なしくみであり、哺乳類に共通するものである。哺乳類として受け継いできたこのしくみが危機的状況に陥り、機能不全を起こしているのが「愛着障害」という状態なのである。


▢ 「人口の3割超?」愛着障害は平均余命に影響する概ね1歳半までが愛着形成に重要な時期
岡田 尊司 : 精神科医、作家
2024/10/11 :東洋経済オンライン)より一部抜粋(下線は私が引きました);
 長年、発達障害や愛着障害を研究し続け、豊富な臨床経験を持つ精神科医・岡田尊司さんの最新刊『愛着障害と複雑性PTSD』より、現代人の生きづらさの原因を紐解きます。

▶ 生きづらさの正体
 「愛着障害」という言葉が、一般にも広く知られるようになったのは、ここ10年ほどのことである。40年ほど前に、この言葉が最初に公式に用いられたとき、その意味するところは、深刻な虐待やネグレクトを受け、心身の発達や社会性に困難をきたした、極めて悲惨な子どもたちの状態を指し、その頻度は、非常に稀なものとされていた。
 ところが、その後の研究で、そうしたケース以外にも、母親との不安定な愛着を示す子どもは、人口の3割程度かそれ以上にも及び、そうした傾向は、大人になっても解消されず、多くの人が引きずっていることがわかってきた。
 こうした「不安定型愛着スタイル」のケースも含めて、「愛着障害」として理解されるようになってきた。愛着障害を抱えた人は、一見「発達障害」に似た特徴を示すことも多く、対人関係、とくに親密な対人関係において困難が強まりやすい
 また、自己肯定感の低下や心身の不調をともないやすいこともわかってきた。こうした人たちは、「発達障害」と診断されることも少なくないが、なにかしっくりといかないものを感じ、発達障害としての治療もあまり奏功せず、もやもやした状況が続くことも多い。
 愛着障害は、本来「安全基地」として無条件の愛情と世話で子どもを守ってくれる養育者(通常は母親)が、「安全基地」としての役割をうまくはたせないことによって生じる愛着が形成される期間は限られており、概ね1歳半までが、もっとも重要な時期とされる
 それ以降でも、愛着の形成は可能だが、それまでの時期に安定した愛着が形成されなかった子には、深刻な影響が残りやすい基本的な安心感の乏しさや他者に対する信頼感が弱いといったことは、その代表的な特徴である。
 周囲の反応におびえ、傷つきやすい傾向を抱えるか、周囲にはなにも期待せず、無関心な態度を身につけるか、どちらかになることで、状況に適応しようとする
 どちらにしても、ストレスを受けやすく、健康面のリスクも高まりやすい。実際、不安定な愛着は心身の健康状態だけでなく、平均余命にも影響するのである。

▶ 安心感のよりどころとなる存在
 愛着形成の核は1歳半までが臨界期とされるが、その時点で安定した愛着が形成されていた場合でも、その後の要因によって、不安定な愛着に変わってしまうことがある
 虐待やネグレクト、心理的な支配とともに、親の精神疾患や離婚、家庭内葛藤なども、子どもの愛着を不安定なものに変えてしまう。それ以外にも、きょうだいからの虐待や学校でのイジメなども深刻な影響を及ぼしうる。
 物心がついて以降に起きた出来事は、子どもの心に完全には同化されないまま、トラウマとなって残ることになる。未解決型愛着と呼ばれるタイプは、ある程度、年齢が上がってから起きた出来事(たとえば、親の離婚やイジメ)によって、安全基地が奪われることで愛着のしくみ(「愛着システム」とも呼ばれる)がダメージを受け、回復しないままになった状態だと考えられる。
 それに対して、もっと幼いころに起きた養育環境の問題は、子どものなかに同化されてしまい、愛着スタイルとして自分自身の一部として一体化してしまうため、通常はトラウマとして意識されることはない。
 成人してからは、恋人やパートナーとの関係が、本人にとって安全基地となるかどうかが、愛着の安定性に影響する。それ以外にも、職場において居場所を失うことや、上司との折り合いの悪さといったことも影響することがある。

▶ 哺乳類として受け継いできた生物学的なしくみ
 愛着が安定したものとして機能するためには、「安全基地」と呼ばれる安心感のよりどころとなる存在との関係が重要とされる。その人の所属する集団に、一人でもそうした存在がいれば、愛着システムが、大きなダメージを負うことは免れやすい。
 逆に、家庭にも学校や職場にも安全基地となる存在がいない状況に置かれることは、愛着システムの機能不全を引き起こし、心身に支障を生じやすくなる。
 愛着というしくみは、本人の安心を守るだけでなく、生命を守る根幹となるしくみと考えられ、それがうまく機能しなくなるとき、人は窮地に陥る
 愛着は、単なる心理学的なしくみではない。それは、生理学的な現象に基づいた生物学的なしくみであり、哺乳類に共通するものである。
 哺乳類として受け継いできたこのしくみが危機的状況に陥り、機能不全を起こしているのが、「愛着障害」という状態なのである。それが広まっているということの意味を考えたとき、それは地球環境の破壊と同レベルか、それ以上の深刻な事態が進行していることに気づかされることになる。

▶ トラウマで苦しむ人の増加
 愛着障害とともに、今日多くの人が苦しむ、身近な問題となりつつあるのが、トラウマの問題である。トラウマという言葉は、一般にも広く認知されるようになり、心が傷を受けたあと、その状況がなくなっているにもかかわらず、長期間にわたってさまざまな後遺症に苦しむ「PTSD心的外傷後ストレス障害)」という状態も知られるようになった。
 トラウマという言葉は、もともと「ケガ」という意味であるが、心のケガである「心的外傷」と訳されることが多い。医学的にトラウマという語が用いられたのは、大地震や戦争、生死にかかわる事故、犯罪被害といった突発的で、生命が危険にさらされるような出来事に遭遇する場合であった。
 ところが、近年になって、1回のダメージは生命にかかわるほどではなくても、長期間にわたって、逃れられない状況でダメージを受けつづけると、通常のPTSDに勝るとも劣らない深刻かつ持続的な影響が生じることがわかってきて、「複雑性PTSD」と呼ばれるようになった。
 その中核をなす原因が、親からの虐待である。それ以外にも、パートナーからのDVやハラスメント、学校や職場でのイジメなどが挙げられる。いずれもほかに助けを求めにくい、逃げられない状況において起きやすい。
 なかでも、とりわけ深刻な事態となりやすいのは、親からの虐待である。身体的、性的虐待だけでなく、心理的虐待や支配も原因となりうる。
 本来、だれよりもその子を愛し、守ってくれるはずの存在から傷つけられつづけることは、その人しか頼ることのできない幼い子どもにとっては、逃れようのない事態であり、もっとも信頼すべきものが信頼できない危険な存在であるという、絶望的な状況に子どもを陥れる。
 「近代化」という名の社会の崩壊と人々の孤立化にともなって、豊かになったはずの社会で、そうした状況が起きやすくなっている。