日々雑感

読んだ本やネット記事の感想、頭に浮かんでは消える物事をつらつら綴りました(本棚7)。

「百日紅」by 杉浦日向子

2011-02-19 17:48:53 | マンガ
 以前取り上げた「百物語」と作者は同じです。
 今回は江戸モノでも葛飾北斎と取り巻きの日常を江戸情緒たっぷりに描いた作品。

 江戸っ子の”粋”が随所に感じられる傑作だと思います。
 これ見よがしのケレンではなく、行間(コマ間?)から情感がにじみ出てくる展開から推測して作者の力量は大したものです。
 例えて云えば”いぶし銀の仕事師”でしょうか。

 北斎は酸いも甘いもかみ分けた、ちょっと斜に構えたガンコ爺、風に描かれてよい味を出しています。
 ほかの登場人物も自他共に認める変人達、それが皆自然体で、人生を楽しんでいる様子が窺われます。
 いい時代だったんですねえ。

 残念ながら杉浦さんは2005年に若くして亡くなりましたが、この作品は後世に残ることでしょう。
 同じく葛飾北斎を扱った駄作映画「北斎漫画」(1981年、新藤兼人監督)とはえらい違いです。

「関東平野」by 上村一夫

2011-02-18 23:23:07 | マンガ
 上村一夫さんの名前は「同棲時代」というマンガで聞いたことがあるくらいでした。
 揺れ動く若者の心理を味わい深く描いた傑作として私のひと世代前のベストセラーだったようです。

 他の本を購入する際、「上村一夫の自伝的戦後史」「最高傑作」というキャッチコピーに釣られてついでに購入したのがこの作品。

 全4巻、一気に読み終わったとき、涙があふれてきました。
 戦後を生き抜いた個性豊かな登場人物達の生き様に共感し、その切なさに感情が抑えられませんでした。
 戦争を経験した「昭和」という時代に生きた人々の、貴重な記録でもあると思います。
 昭和歌謡曲の代名詞であり、親友でもある阿久悠さんの詩も作品中に登場します。

 戦争中の疎開先の千葉県の農村に広がる地平線・・・それが主人公”金太”の原風景。
 親を亡くして祖父に引き取られた金太は、女装趣味の美少年”銀子”やケンカ友達の”石松”達と貧しい中にも多感で刺激的な少年時代を過ごします。

 ほどなく祖父が亡くなり、東京の知人に引き取られていく金太。
 デザイン会社に勤めながら画家を目指す金太のやや屈折した青春。戦後の混乱の中、周囲には社会の日陰で生業を営む怪しげな人々が蠢いていてストーリーに深みと広がりを持たせています。

 作品のもう一つの中心テーマは「性」です。彼自信「戦後、抑圧が解放されいろんな形の”性が”子ども達にも直接なだれ込んできた」とコメントしています。

 少年期の性への憧れと垣間見える大人の性。
 仮の親になった画家は「女体緊縛図」の大家。
 その妻は元子爵令嬢の娼婦。
 赤線の娼婦に筆おろしをされる金太。
 ゲイボーイの走りとなった銀子。
 等々、ちょっと倒錯傾向あり(苦笑)。

 種の保存のために神様が与えた”快楽”に翻弄される人間達は、古今東西の文学で取り上げられてきた永遠のテーマでもあります。
 
 ”動物の交尾”と”人間の性交”の比較を生物学者のエッセイで読んだことがあります。
 一番大きな違いは「メスにも快感があること」だそうです。
 人間に一番近いチンパンジーでさえも、性交上の快感はメスにないとのこと。

 私も「関東平野」の片隅に生まれて育った一人。
 作品中の田舎の風景はわたしにとっても”ふるさと”そのものです。
 高校を卒業してから関東を離れ、帰郷したのは15年後でした。
 子ども時代に遊んだ里山や田んぼに囲まれた家に帰ることのできる私は幸せ者なのかもしれません。街中に住んでいたときに感じた”根無し感”が解消しました。

 さて、上村氏は1986年、45歳で亡くなっています。
 私は既に彼の死亡時年齢を通り過ぎてしまいました。
 後の人生をどう過ごそうか・・・。

パジェロ・フリーク

2011-02-11 17:18:08 | 趣味
 現在の愛車が古くなり、修理しても治り切らなくなってきたので次の車を購入することにしました。
 私は「鎮守の森(神社)巡り」という趣味があるので、小回りが利く小型車の方が良いな、でも雪道も安心の4WDがいいな・・・などといろいろ考えているうちに、三菱パジェロにたどり着きました。

 若かりし頃に憧れた車です。中でも第二世代のグレーとブルーのツートンカラーは、当時のアウトドアファン、4WD車ファンの垂涎の的。フロントにグリルガードを配し、屋根にはルーフラックを乗せてフル装備するのは、少年がカブトムシに惹かれるのと同じ感覚でしたね。でも値段が高いので、若者はなかなか手が出せなかった・・・人気車のため三菱のディーラーも強気でなかなか値引きしてくれなかった記憶があります。
 そんなわけで、私は日産テラノ(V6/3000)という4WD車に甘んじて乗ってました。

 時は流れ、パジェロの第3世代は流線型のグラマラス・ボディにモデルチェンジして往年のファンからブーイングが飛び、人気は下降。GDIエンジンの不具合やリコール問題で長い低迷期を経て、第四世代は昔のボックスシルエットが甦り、人気を回復してきたのでした。

 さて、今回私が選んだ車はもちろんツートンカラー。ゴールド系ツートンカラーの設定もありますが、アウトドアらしからぬゴージャスさが鼻につくので、迷わずグレーブルーを選びました。
 取り回ししやすさから云うとショートタイプがベターですが、それは将来にとっておいて、まだ子どもたちを乗せる必要性からロングタイプを選択。
 ネット上で探したら、試乗車が安価で売り出しに出ていたので、近隣の三菱ディーラーを介して購入にこぎ着けました。

 そして今、パジェロに乗って満足感に浸る日々。
 エンジンは昔の4WDのイメージを払拭し、気味が悪いほどアクセルが軽く、気がつくと結構スピードが出てしまいます。3.8Lエンジンなので燃費は6km/Lと泣きたいほど悪い。ハイブリットがもてはやされる時代ですから、この車はなかなか売れないだろうなあ・・・。

 オーディオも選択理由の一つです。4WDらしからぬ充実振りで、関連会社のダイヤトーンを差し置きアメリカのロックフォードというカーオーディオ専門メーカーのシステムが鳴り響きます。40GBのハードディスクにお気に入りのCDを読み込ませてジャズ三昧。ベースの低音もスーパーウーファーからしっかり聞こえてきます。

 そんなある日、ベレー帽姿の老紳士が訪ねてきて「あなたのパジェロの写真を撮らせてもらいたい」と宣いました。
 外に出てみると、私と同じパジェロが仲良く隣に並んで駐車してありました。老紳士はその車のオーナーなのでした。
 「この街で同じパジェロを初めて見たので、ぜひ一緒にカメラに納めたい」とのこと。
 それからパジェロ談義に花が咲いたことは云うまでもありません(笑)。
 彼はパジェロは3台目で、先代のディーゼル・エンジン車からエンブレム類を剥ぎ取り、今の車に貼りつけてあるのでちょっとレトロな雰囲気を纏っています。一目見てパジェロ・フリークであることがわかる車でした。
 
 よく見ると、彼の頭に乗るベレー帽はパジェロの配色と同じグレーブルーのツートンカラー。
 なんとオーダーメードだそうです。脱帽!