日々雑感

読んだ本やネット記事の感想、頭に浮かんでは消える物事をつらつら綴りました(本棚7)。

boy meets girl part-3

2022-11-30 22:47:41 | 小説
50年前に出会った少年と少女。
二人が別れてから、
40年もの歳月が経っていました。

少年の魂は半身をそがれた喪失感を抱えたまま、
さまよい続けました。

大人になり、
何人かの女性と近しくなりましたが、
喪失感は満たされませんでした。

縁あって、ある女性と夫婦になり、
子どもをもうけ、
幸せな日々を与えられました。

それでも欠落した体の痛みが時々うずきました。
気がつくと、初老の男になっていました。

「この癒えることのない痛みは何なんだろう?」

少女に会いたい、
彼女に会わなければ・・・

ほとんど切れかかっていた赤い糸を懸命にたぐり寄せ、
少女を探し出し、
とうとう再会を果たしました。

少女も初老の女性になっていました。

彼女も家庭を持ち、
子どもをもうけ、
幸せに暮らしていました。

そして二人とも、
命にかかわる大病を経験し、
満身創痍の体になっていました。

二人は並んで歩いた青春の日々を懐かしみました。
話し出すと、フッと昔の空気感に戻りました。

ふだん無口の彼から言葉があふれ、
そして彼女の話をウンウンうなづいて聞きました。

彼は彼女と話をしていると、
自分が素直になるのがわかり、
心が落ち着きました。

ふたりはタイムスリップして、
少年と少女に戻ったかのよう。

彼は、
「ずっと一緒にいたかったのに・・・
 なぜ突然いなくなってしまったの?」
と問いました。

彼女の目から涙があふれてきました。

「私も一緒にいたかった・・・
 けど、あなたの輝く未来には、
 いずれふさわしい女性が現れるはず」

「あなたに幸せになって欲しかったから、
 私がいない方がいいと思った」

・・・なんということでしょう。

初老の男は愕然としました。
昔、彼が指さしたゴールが彼女にとっては遠すぎて、
それに耐えきれず消えた、
と思い込んでいたのでした。

彼は自分のことしか考えていなかったことを恥じました。
自分の幸せを願って消えた彼女の愛に、
涙があふれて止まりませんでした。

うれしくて、悲しくて・・・
ああ、なぜこんなに魂を揺さぶられるんだ。

彼女は大病を患った時のことを話してくれました。

2週間意識が戻らず、
意識が戻った後も言葉が出ず、
記憶も失われて・・・
家族の名前もおぼつかない状況の中、

「でもね、あなたの名前は忘れないで覚えてた」
「文字も書けなくなったのに、
 あなたの名前だけ書けたんだよ」

と打ち明けてくれました。

この時、二人が別れてからすでに30年の月日が経っていました。

「私の中にはいつもあなたがいるの」
「だから会えなくても大丈夫だった」

と彼女は言いました。

別の人生を歩んでいたにも関わらず、
少年の心には少女が、
少女の心には少年が、
40年もの間、ずっと存在し続けてきたのでした。

この世の中に、
これ以上の幸せがあるでしょうか。

彼がそのことを知り得た瞬間、
ずっと抱えてきた欠落感・喪失感が消え失せ、
体の疼きがすうっと消えたのでした。

彼は少年時代に彼女からもらった、
初めての手紙を思い出していました。
そこには、

「あなたが好きです。
 この気持ちは一生変わりません。」

とだけ、書いてありました。
少年14歳、少女14歳の秋のことでした。


boy meets girl part-2

2022-11-30 22:37:19 | 小説
途中でゴールした少女は、
そこで出会った男性と夫婦となり、
子どもをもうけ、
幸せな日々を送りました。

少年と過ごした青春の日々を、
思い出すことも少なくなってきました。

それから30年の月日が流れました。
彼女の子ども達は独立し、
人生の節目を迎えました。

そのタイミングで彼女は体調を崩し、
寝込んでしまいました。

大病の前兆でした。

ある日、彼女は意識を失い、
病院に運び込まれました。
昏睡状態でした。

家族が見守る中、
2週間が経過しても、
彼女の意識は戻りません。

彼女は夢を見ていました。

誰かが私の名を呼んでいる・・・
懐かしい声、
温かい声、
でも少しもの悲し声・・・

そう、“あの少年”の声です。

「私はここ、ここにいるよ」
と答えた瞬間、
彼女は目を覚ましました。

白い天井が見える・・・ここはどこ?
彼女は病院のベッドの上に横たわっている自分に気づきました。

まわりには慌ただしく動く人たちがいました。
医師や看護師、
彼女の家族と友人達。

家族に声をかけようとしました。
でも、声が出ない、
家族の名前が出てこない。

私はどうなってしまったの?

彼女はハッと気づきました。
・・・少年の名前は覚えている。
そばにいないけど、
彼女の心の中に見える。

ああ、彼が呼び戻してくれたんだ。

一命を取り留めた彼女は、
リハビリテーションをはじめました。

文字を書く練習をしているとき、
不思議な体験をしました。

ほとんどの文字を忘れているのに、
少年の名前は書けたのです。

遠い昔、
心の奥深くに封印した青春。
少年は彼女の体の一部となり、
そこで生き続けていたのでした。

私の中には彼がいる。
いつでも会うことができるから、
私は大丈夫。



boy meets girl part-1

2022-11-30 06:57:32 | 小説
50年ほど昔のお話です。

少年と少女が出会って、
意気投合しました。

多感な思春期を、
仲良く手をつないで歩きました。

二人は楽しい時間を、
たくさんたくさん過ごしました。

交換日記をはじめ、
汲めども尽きぬ話題を語り合いました。

思い込みや誤解ですれ違い、
ケンカをすることもありましたが、
仲直りをするたびにさらに絆が強くなっていきました。

ふたつの魂は共鳴し、
まるで磁石のようにピタリと重なりました。

歩き続けて思春期が終わる頃、
広い平原にたどり着きました。

眼前には、夢と希望と、
不安と危険に満ちた未来が広がっていました。

「これからもゴールに向かって一緒に歩こう」
と少年は遠くを指さしました。

けれどそのゴールは遠すぎて、
少女にはよく見えず、
不安な気持ちが芽生えました。

少年がちょっと手を離した隙に、
少女は突然、走り出しました。

彼女は走るのが速かったので、
少年は彼女を見失ってしまいました。

途方に暮れる少年。

少女はほどなくゴールを見つけ、
そこに飛び込みました。

でもそのゴールは、
少年が指さした遠くのゴールではありませんでした。

少年は遅れて追いついたものの、
少女の姿はすでになく、
いつまでもいつまでも探し続けたのでした。