途中でゴールした少女は、
そこで出会った男性と夫婦となり、
子どもをもうけ、
幸せな日々を送りました。
少年と過ごした青春の日々を、
思い出すことも少なくなってきました。
それから30年の月日が流れました。
彼女の子ども達は独立し、
人生の節目を迎えました。
そのタイミングで彼女は体調を崩し、
寝込んでしまいました。
大病の前兆でした。
ある日、彼女は意識を失い、
病院に運び込まれました。
昏睡状態でした。
家族が見守る中、
2週間が経過しても、
彼女の意識は戻りません。
彼女は夢を見ていました。
誰かが私の名を呼んでいる・・・
懐かしい声、
温かい声、
でも少しもの悲し声・・・
そう、“あの少年”の声です。
「私はここ、ここにいるよ」
と答えた瞬間、
彼女は目を覚ましました。
白い天井が見える・・・ここはどこ?
彼女は病院のベッドの上に横たわっている自分に気づきました。
まわりには慌ただしく動く人たちがいました。
医師や看護師、
彼女の家族と友人達。
家族に声をかけようとしました。
でも、声が出ない、
家族の名前が出てこない。
私はどうなってしまったの?
彼女はハッと気づきました。
・・・少年の名前は覚えている。
そばにいないけど、
彼女の心の中に見える。
ああ、彼が呼び戻してくれたんだ。
一命を取り留めた彼女は、
リハビリテーションをはじめました。
文字を書く練習をしているとき、
不思議な体験をしました。
ほとんどの文字を忘れているのに、
少年の名前は書けたのです。
遠い昔、
心の奥深くに封印した青春。
少年は彼女の体の一部となり、
そこで生き続けていたのでした。
私の中には彼がいる。
いつでも会うことができるから、
私は大丈夫。