小説家、精神科医、空手家、浅野浩二のブログ

小説家、精神科医、空手家の浅野浩二が小説、医療、病気、文学論、日常の雑感について書きます。

兄妹

2008-04-14 03:11:50 | Weblog
兄妹
 私は高校時代を東京のK学園で過ごした。
K学園は男子部と女子部に分かれていて男女別学であった。
だが校舎は同じ敷地内にあり、公の行事は一緒に行われることが多かった。男子部にも女子部にも寮があり、全生徒の2/3は寮に入っていた。私も寮に入っていた。
 男子部にはワルが多かった。その中でも私より二年年上に岩川という札付きのワルがいた。彼は他人や学校のことなどおかまいなしにやりたい放題なことをやっていた。それで学校の名誉に著しくキズをつけていた。 
 だがワルには珍しく折り紙つきの秀才で、夜は徹夜で勉強し成績はクラスで一番だった。あんな頭のいい人間がどうしてあんなワルなのか私には不思議だった。
 だが私は岩川に「ワルの魅力」とでもいうようなものを感じた。
 岩川には二才年下の妹がいた。彼女は女子部に入っていた。彼女はあの兄と血のつながりがあるとは思えないほどおとなしく、そして心優しい子だった。
 女子部には専用の体育館がなかった。そのため体育の授業は男子部の体育館を使っていた。彼女達は体育の授業ではバスケットをやっていた。
 女子部の生徒達は体育館の行き帰りに男子部の校舎の裏を通らなくてはならなかった。そんな時男子部の生徒はよく女子部の生徒を冷やかした。 
 彼女が通るのも何回か見た。友達と陽気に話すというようなところは見たことがなく、いつも一人でだまって歩いていた。無口でおとなしい子にみえた。
 別に楽しいようでも悲しいようでもなく感情に乏しいようにもみえた。

 私には女子部の内情というものが全くわからなかった。わたしには女同士の会話というものが全くわからない。
 見た目には彼女らは心優しい人種のようにみえる。彼女らの社会にも男同士の社会にあるような乱暴さがあるのだろうか。
 だがとにかく岩川の悪事は全校に知れ渡る位の大規模なものであった。
 ケンカして相手を内臓破裂にさせ救急車が駆け付けたり、夜、人の車を無許で運転して校舎にぶっつけたり、などである。
 岩川の噂は当然女子部にも入っているはずだった。だが彼女はそんなことに影響されるでもなく相変わらず物静かでおとなしい子だった。
 だがきっと彼女は兄のことで形見の狭い思いをしていたに違いない。

 どうしようもなくワルな兄と心優しい妹。
ああ、神は一人の人間がもつ良心と悪をこの兄妹においては別々にしていまったのだ。
 彼女は兄の良心なのだ。
私は思う。
どんなに岩川がグレてしまっても、この妹との血のつながりがあるかぎり救われうるような気がする。
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