小説家、精神科医、空手家、浅野浩二のブログ

小説家、精神科医、空手家の浅野浩二が小説、医療、病気、文学論、日常の雑感について書きます。

携帯SM小説

2015-07-16 00:08:31 | 小説
携帯SM小説

あるトコモショップである。受け付けは圧倒的に女が多い。そもそも銀行にせよ、受け付け、という仕事は女の方が向いているのである。客だって、男に説明されるより、きれいなお姉さんに説明してもらった方が嬉しいのである。しかも、携帯は女の方が詳しいのである。メカは男の方に向くが、それはハードやソフトの開発であって、女は、お喋りで、小さな可愛い物が好きだから、携帯が男よりも好きなのである。好きであると、色々な機能をチョコチョコ使ってみるから、結果として、携帯の使い方にも詳しくなるのである。実際、男の携帯オンチというのは、いるが、女に携帯オンチはいない。そういう事もあって、トコモショップの受け付けは、皆、若いきれいな女性だった。

しかしバブル崩壊以降、未曾有の平成不況のため、日本の経済はガタガタになった。安泰である銀行まで倒産するほどである。ましてや一般企業にあっては、経営は厳しくなった。そのため大量のリストラが行なわれた。純もその一人である。せっかく大学も頑張っていい成績で卒業し就職した企業なのに。しかし世の不況は致し方ない。だがリストラの受け皿もあった。その一つがトコモショップである。平成不況の中にあってパソコン関係や携帯電話関係の産業は伸びる一方である。純の企業はトコモと提携していて、リストラの受け皿となっていた。純はおとなしい性格だったので、上司から、トコモに転職する話を聞いた時も、素直に受け入れた。そして純は、あるトコモショップの受け付けとなった。周りは皆、若い女ばかりである。純は一ヶ月、玲子という一人の受け付け嬢に、携帯の操作をみっちり教えてもらった。そして転職して一ヵ月後から、携帯の操作の仕方を説明する、受け付けになった。純はすぐに仕事に慣れた。

ある時、一人の客が純の所に来た。迷惑メールはパソコンからくるので、携帯の初期設定では、パソコンからのメールの受信は出来ないように設定されている。しかし、その人は、仕事で、自分の勤める会社のパソコンからのアドレスからだけは来るように設定して欲しいと言ってきた。純は説明書を見ながら、そのように操作して設定した。
「ありがとうございました」
客は喜んで帰っていった。純も嬉しかった。

   ☆   ☆   ☆

しかし、翌日、またその客が来た。会社がメールを送っても届かない、と言ってきたのである。純は焦った。純は説明書を読みながら操作した。iモード→iメニュー→お客様サポート→各種設定→メール設定→詳細設定→4桁のiモードパスワード→受信拒否設定→設定→ステップ3→宛先指定→会社のアドレス入力→登録。と操作した。昨日と同じだが、これで間違いないはずである。会社のアドレスも間違っていないし、ちゃんと入っている。
「これで大丈夫なはずです」
純は自信を持って言った。
「しかし、これは昨日と同じ操作ですから、もしかすると、またメールが届かないかもしれません。試しに、今、会社にメールを送ってみてもらえないでしょうか?」
「はい。わかりました」
そう言って客は会社に携帯で電話した。
「もしもし。今、トコモショップにいます。そちらから私の携帯にテストメールを送ってもらえないでしょうか」
「ええ。じゃ、すぐ送ります」
会社の人が言った。客は電話を切って、しばし待った。しかしメールはこない。客は会社に電話した。
「もしもし。テストメールを送って下さいましたか?」
「ええ。でも『メールは送れません』と出てしまいます」
純は額に皺を寄せて考え込んだ。
「おかしいなー。これでいいはずなんだけどなー。どうして、送れないんだろう」
困惑している純の所に玲子がやって来た。
「どうしたの」
「一つのインターネットのアドレスからだけ受信できるように設定したんですが、メールが送れないんです」
「どれどれ。見せて」
そう言って玲子は客の携帯を手にとった。そして、カチャカチャと操作した。純は説明書など見ないでも操作できる玲子を仰ぎ見ていた。
「純さん」
玲子は厳しい目を純に向けた。
「ダメじゃない。これはステップ3じゃなくて、ステップ4の受信設定にしなければダメよ」
そう言って玲子は客に携帯を返した。
「お客様。申し訳ありませんでした。基本的なミスです。今、ちゃんと設定しましたので、これで会社からのメールが届くはずです。本当に申し訳ありませんでした」
と深々と頭を下げた。そして玲子は純を睨みつけた。
「純さん。立ちなさい」
玲子は鈴木宗男以上の大きな声で言った。
「は、はい」
優しい玲子に強気の口調で命令されて純は、おどおどと立ち上がった。
「こんな基本的なミスをして、どうするの」
玲子は大きな声で怒鳴って、純の頬をピシャリと叩いた。他の受け付け嬢や、店にいた客達は、驚いて、咄嗟に玲子に視線を向けた。皆、玲子の怒気に圧倒されて黙っている。
「さあ。お客さんに迷惑をかけたんだから、土下座して謝りなさい」
玲子の圧倒的な気迫に気圧されて、純は、オドオドと客の前に座り込んだ。
「さあ。土下座してこう言いなさい。『私の怠慢でお客様に御迷惑をおかけしてしまいまして誠に申し訳ありませんでした。もう二度とこのような事がないよう万全の注意を持って仕事致します』と」
純は、額を床に擦りつけて、玲子に言われたセリフを言った。
「私の怠慢でお客様に御迷惑をおかけしてしまいまして誠に申し訳ありませんでした。もう二度とこのような事がないよう万全の注意を持って仕事致します」
玲子は、よし、と言って驚いて目を白黒させている客に向かって深々と頭を下げた。
「お客様。どうも申し訳ありませんでした。私の監督不注意です。もう二度とこんな過ちはおかさせません。徹底して厳しく教育します。ですから、どうかお許し下さい」
そして玲子は純に目を向けた。
「純さん。今日、会社がおわった後、残りなさい。徹底的に教育してあげるから」
「は、はい」
純はオドオドと答えた。
「あ、あの。ど、どうも有り難うございました。で、でも、そこまでしなくてもいいのではないでしょうか。誰にでもミスはありますから」
客は玲子の気迫に気圧されて、小さな声で言った。
「いえ。我が社はサービス第一をモットーにしております。社会人にミスは許されません。二度とこのような事がないよう厳しく教育します。本当に今日は御迷惑をお掛けしてしまいまして申し訳ありませんでした」
そう言って玲子は客に深々と頭を下げた。
客は、「ど、どうも」と小声で言って逃げるように去って行った。
その後、純は尻をはたいて自分の席に戻った。玲子も自分の席に戻った。
唖然とした顔でこの一連の出来事を見ていた社員や客達は、二人が席に戻った。しばしすると、やっと呪縛が解けたように、会話が再開された。店内に穏やかな日常が戻ってきた。
だが純は気が動転していた。転職して初めて見た時から、憧れつづけてきた、可愛く、優しい玲子に、こうも厳しい事をされるとは。今日は何か虫の居所が悪いのだろうか。それとも嫌われてしまったのだろうか。しかし転職した時には、実に優しく教えてくれた玲子が。純は、何度も、想像でビキニ姿の玲子と夏の由比ヶ浜で水を掛け合ったり、浴衣姿の玲子と平塚七夕祭りに行って、一緒に金魚すくいをしたり、一緒に綿菓子や焼き蕎麦を食べる事などを想像して寝ていたのである。どういう事なのか、さっぱり分からない。ともかく、今日、会社の営業時間が終わった後、徹底的に教育する、と言ったのだから、残って、土下座して玲子に平謝りに謝ろうと純は思った。


夜の10時になった。
皆は、「さようなら」と言って三々五々、帰っていった。いつもは時間がきても、少し残ってお喋りしていくことが多いのだが、今日は玲子が純と残って、純を教育すると、さっき玲子が言ったので、皆はそれの邪魔しないようにと気を使っている様子だった。とうとうショップには純と玲子だけになった。ショップの中はしんと静まり返った。純は、玲子にどんな事を言われるのか気が気でなかった。いっその事、自分の方から玲子の前に土下座して、ごめんなさい、と平謝りに謝ろうかとも思った。しかし純は萎縮してしまって、ちょうど蛇に睨まれた蛙のように、体が金縛り状態になってしまって動く事が出来なかった。「純さん」
後ろから純は声を掛けられた。純は振り返った。玲子が慎ましく立っている。両手を前で合わせて照れくさそうにモジモジしている。その態度は昼の厳しい態度とは人が違っているかと思われるほどであった。
「純さん。今日は本当に御免なさい。皆の前であんな事をして恥をかかせてしまって」
そう言って玲子はペコリと頭を下げた。厳しく叱られると怖れて、緊張してオドオドしていた純は、まるで人が違ったように豹変した玲子の態度に驚いて目を白黒させた。
「い、いえ。いいんです。僕が悪いんですから」
純は焦りながら言った。だが、ともかく玲子に嫌われていないという実感が起こって純は、ほっとした。玲子はつづけて言った。
「いえ。本当に申し訳ありませんでした。でも、今は携帯各社の競争が激しくて。うちの会社は社員教育を徹底してやっているという事を、お客さんに見せたかったのです。お客さんの口コミで噂が広がってくれるでしょうし」
玲子はニコッと微笑んで言った。
「なるほど。そうですか。そんな意図があったんですか」
そんな意図があったのかと純は感心したように玲子を見上げた。玲子はつづけて言った。「それと。これは私の利益のためなんですけど、他の社員に、ああいう場面を見せつける事によって、私は厳しく教育している真面目な社員という事を皆に見せつけたかったのです。そうすれば私の評価が上がりますから。今日は人事考課の部長も来ていましたし・・・」そう言って玲子は悪戯っ子のように舌をペロリと出した。
「なるほど。そういう意図もあったんですか」
純は玲子が、かなりしたたかな策士家である事を知って感心した。
「あ、あの。純さん。皆の前で純さんに恥をかかせてしまって本当に申し訳ありません。罰として、さっきの仕返しをして下さい」
玲子は顔を赤らめて言った。純は手を振った。
「いいです。玲子さん。僕は何とも思っていませんし、実際、僕が悪いんですから」
「でも私の気持ちがすみません。女の分際で男の人にあんな事をしてしまったのですから」
「いえ。いいです。玲子さん。僕は玲子さんに嫌われてしまったのではないかと思って、それに怯えていたんです。でも、そうでないと分かって、僕は今、ほっとしているんです」
純は和やかな口調で言った。心も和やかだった。それに玲子の言う、仕返し、というのは、どういう事をするのかも分からない。
「お願いです。私の気持ちがすまないんです」
玲子は純に自分の頼みを聞いてもらえないと思ったのだろう。さっと純の足元の前に座り込んだ。そして頭を床に擦りつけた。土下座である。
「純さん。今日は皆の前で、平手打ちしたり、怒鳴りつけたり、土下座させたりしてしまって申し訳ありませんでした。どうぞ、思う存分、仕返しをして下さい」
玲子は、奴隷が主人に物申す時のように、床に頭を擦りつけながら言った。それは実際、男主人と女奴隷の図だった。
「いいですよ。玲子さん。土下座なんかやめて立って下さい」
純は言ったが玲子はガンとして聞こうとしない。
「そうですか。それでは私は謝罪として明日までこうしています」
「あわわっ。そんな事をされては困ります」
純は焦って言った。
「では仕返しをして下さい」
「な、何をすればいいんでしょうか」
純は恐る恐る聞いた。
「私を踏んで下さい」
玲子は縮こまったまま言った。
「わ、わかりました。では靴を脱ぎます」
そう言って純は靴を脱ごうとした。すると途端に玲子が制した。
「い、いえ。靴を履いたまま踏んで下さい」
純は驚き、そして躊躇したが、玲子の言う事を聞かないと、玲子はまた、「明日まで土下座します」と言うだろうと思って決断した。
「わかりました。玲子さんの言う通りにします」
純は立ち上がって玲子の背中を靴で踏んだ。
「ああっ」
踏まれて咄嗟に玲子は声を出した。
「さあ。純さん。思うさま、好きなだけ私を踏んで今日の鬱憤をはらして下さい。顔を踏んでも、蹴っても何でも自由になさって下さい」
言われて純は玲子の背中に乗せた足を揺すってみた。柔らかい女の体がそれに伴って揺れた。玲子は、
「ああっ」
と声を洩らした。純は、だんだん面白くなってきて、華奢な肩を踏んでみたり、床につけている手の甲を踏んでみたりした。その度に玲子は、
「ああー」
と叫んだ。そんな事をしているうちに純は躊躇いがなくなっていった。そして女を虐める事に快感を感じ出した。純はもう容赦せず、玲子の顔を踏んだ。そして頬を靴の底でグリグリと揺さぶった。
「ああー」
玲子は靴と床に挟まれてひしゃげた顔から、苦しげな声を出した。
「どうですか。玲子さん。今の気分は」
純は余裕の口調で言った。
「み、みじめです。い、いっそ死んでしまいたいほど。でも私は悪い事をしてしまいました。罰は耐えなくてはなりません」
純はニヤリと笑い、体重を乗せて玲子の顔を踏んだ。靴で顔を踏まれるという、これほどの屈辱があるであろうか。その靴は外を歩き、犬の糞を踏み、汚い公衆トイレに入った靴である。
「ふふふ」
純は玲子の顔を踏みながら笑った。しばし純は玲子の顔を押し潰すように踏んでいた。
「あ、あの。純さん」
「何ですか」
純は冷ややかな口調で言った。
「も、もう、許していただけないでしょうか」
玲子は泣き崩れそうな顔で言った。
「いや。まだ、気が晴れません。公衆の前であれだけみじめにされたんですから」
もう純は躊躇いが完全になくなっていた。純は女を虐める快感に激しく興奮していた。
「わ、わかりました。純さん。私は私の出世欲のために、あなたを皆の前で恥をかかせてしまった悪い女です。好きなだけ、うんとお仕置きして下さい」
玲子は切れ長の目に涙を滲ませながら言った。
「ええ。もっと、たっぷりお仕置きさせていただきますよ」
純は勝ち誇った口調で言った。
「わかりました。では、もっと辛い罰を受けます。純さん。申し訳ありませんが、足を一度おろして頂けないでしょうか」
「ええ」
純は玲子を踏んでいた靴を顔からどけた。玲子の頬には靴の跡が烙印のようについていた。玲子はそっと立ち上がった。
「あ、あの。純さん」
玲子は顔を真っ赤にして小声で言った。
「何ですか」
「ちょっとの間、後ろを向いていただけないでしょうか」
「ええ。いいですよ」
純は踵を返して後ろを向いた。ゴソゴソ音がする。
「あ、あの。純さん。よ、用意が出来ました。こっちを向いて下さい」
玲子の声は震えていた。言われて純は振り返った。純は心臓が止まるかと思うほど吃驚した。丸裸の玲子が恥ずかしそうに、両手で乳房と秘部を押さえていたからである。純が後ろを向いている間にスーツの制服もブラジャーもパンティーも脱いだのだ。純は、しばし唖然と丸裸の玲子を眺めていたが、顔を真っ赤にして、両脚をピッチリ閉じプルプル体を震わせている玲子を見ているうちに、ゆとりが出てきて純はニヤリと笑った。
「ふふ。玲子さん。どうして裸になったのですか」
純は余裕の口調で聞いた。
「そ、それは、女にとって男の人の前で裸の晒し者になる事が一番つらい事だからです。女にとって、最も辛い罰を受けるために脱いだのです」
玲子は声を震わせながら言った。
「確かにそうでしょうね。それで、これからどうするんですか。僕は玲子さんの裸を眺めていればいいんですか」
純はしたり顔で言った。
「い、いえ。わ、私は私の出世欲のために、純さんを皆の前で恥をかかせてしまった悪い女です。うんとお仕置きして下さい」
「何をすればいいんですか」
純は落ち着き払った口調で聞いた。
「こ、これで私を吊るして鞭打って下さい」
玲子は、そっと手錠と鞭を純に差し出した。
「手錠はどのようにすればいいんですか」
私の右手に手錠をかけて、もう一方を天井の桟につなげて下さい」
そう言って玲子は、天井を指差した。天井には桟があった。
「わかりました」
純は礼儀正しい口調で言って、椅子を持ってきた。そして玲子の右手に手錠をかけて、椅子に乗り、もう一方を天井の桟につないだ。玲子は丸裸で片手だけ吊るされている。その姿はまるで、電車のつり革につかまっているような格好である。裸の体を覆えるのは、左手だけなので、乳房と秘部は両方は隠せない。掌で秘部を押さえ、二の腕で苦しげに片方の乳房を隠そうとしている。しかし乳房は両方とも丸見えである。たとえ隠せなくても、何とか隠そうとする仕草がいじらしく見える。しかしムッチリ閉じ合わさった豊満な尻は丸見えである。
「ふふ。玲子さん。素晴らしいプロポーションですね。豊満な尻がムッチリ閉じ合わさっていて、すごくセクシーですよ」
純が揶揄すると、玲子の尻がピクンと震えた。純は椅子に座って、片手を吊られ、片手で秘部を必死に隠している玲子をまじまじと見つめた。
「ふふ。女の人って隠さなきゃならない所が三ヶ所あるから大変ですね」
純は余裕の口調で言った。
「どうですか。今の気持ちは」
「は、恥ずかしいです。で、でも私は純さんをはずかしめた悪い女です。死にたいほど恥ずかしくても耐えます」
玲子は腿をピッチリ閉じて、片手をピッタリと秘部にあてがって答えた。純は、丸裸の玲子をしばし、じっくりと眺めた。
「あ、ああー。みじめだわ」
純の刺すような視線に耐えられなくなって玲子は叫んだ。
「ふふ。玲子さん。僕を叱ったのに、もう一つの意図があったんではないんですか」
純はしたり顔で言った。
「な、何を言うんですか。それ以外に理由はありません」
玲子はキッパリと否定した。しかし、その顔は真っ赤だった。
「そうですか。僕には、もう一つ、理由があるように思うんです」
純はポケットから煙草を取り出して一服して、ふーと煙を燻らせた。玲子は黙っている。純はつづけて言った。
「つまり玲子さんは、厳しく叱った部下に、みじめにされる事に喜びを感じるマゾ女なのではないのですか」
純は核心を突くようにビシッと言った。
「ち、違います。そ、そんな事ありません」
玲子は首を激しく振って否定した。しかし、その顔は真っ赤だった。
「そうですか。僕には信じられません。きっと今日の事は、部下を厳しく叱った女上司が、みじめに部下に仕返しされるスリルを味わいための、お膳立てだったのではないんですか」純は再び鋭く切り込んだ。
「そ、そんな事ありません」
玲子は否定した。だが、その声は震えていた。
「それじゃあ、手錠とか鞭とかがあるのは、どうしてですか」
「そ、それは・・・」
玲子は言葉に詰まって唇を噛んだ。
「ふふ。まあ、いいでしょう。じっくり気長に責めますから」

純はしばしの間、片手を吊られ片手で秘部を必死に隠している玲子をまじまじと見つめていたが、おもむろに立ち上がった。
「では、責めさせていただきます」
そう言って純は鞭を持って玲子の背後に立った。
「ふふ。玲子さん。キュートなお尻がムッチリ閉じ合わさっていて、とてもセクシーですよ」
そう言うと玲子の尻がピクンと震えた。
「では責めさせていただきます。鞭打ちをしますから、覚悟して下さい」
「は、はい。ど、どんなに辛くても耐えます」
玲子は手錠で吊り上げられている手の指をギュッと硬く握りしめた。純は鞭を振り上げた。豊満な柔らかい尻が、鞭打ちの恐怖のためか、ピクピク震えている。ふと純はある事に気づいて、振り上げた鞭をおろした。そして純は等身大の鏡を持ってきて玲子の前に立てた。
「ふふ。後ろからだと玲子さんの顔が見えませんからね。それと片手で秘部を隠しているセクシーな姿も。僕は鞭打たれている時の玲子さんの表情とセクシーな姿もぜひ見たいんです」
純は玲子の前に鏡を立てると、すぐに後ろに回った。鏡の中に、丸裸で、片手で秘部を隠している玲子の姿が写って見える。純と視線が合うと、玲子はあわててサッと顔をそむけた。
「ふふ。玲子さん。片手で秘部を隠している姿はとてもいじらしくて、可愛いですよ」
純はそんな揶揄をした。
「ではいきます」
そう言って純は鞭を勢いよく振り上げて、容赦せず、力の限り、玲子の白桃のような美しい尻を目掛けてビュッと振り下ろした。鞭はビシーンと大きな炸裂音をたてて玲子の柔らかい尻を一撃した。
「ああー」
玲子は苦しげに眉を寄せて、反射的に体を反った。その姿は玲子の前の鏡によって純にも見える。すぐに柔らかい白桃のような尻に鞭の跡が線状にクッキリと赤く浮かび出た。玲子は眉を寄せ、目を瞑って苦しげに口を開いている。尻が痛いだろうが、それでも片手は女の秘部にピッタリつけて隠している。
「ふふ。玲子さん。目を開けてしっかり自分の姿を見て下さい」
純に言われて玲子は、目を開けてそっと鏡を見た。丸裸で片手を吊られ、片手を秘部に当てている自分のみじめな姿を見ると、玲子は顔を真っ赤にしてサッと鏡から視線をそらした。鏡は、後ろから純が玲子の前の姿をみるためだったが、玲子に、みじめな自分自身をしっかり見せつけて認識させる効果もあった。
「ふふ。玲子さん。今の気持ちはどうですか」
「み、みじめです」
玲子は小さな声で言った。
「そうでしょうね。今日、男子社員を皆の前で、叱って、ビンタして、土下座させた、遣り手の格好いい女上司が、今は丸裸になって片手を吊られ、必死で片手で女の秘部を隠しているんですから」
純は、昼間のやり手の女社員が今では丸裸で片手を吊られているみじめな立場になってしまった事をことさら玲子に気づかせるように余裕の口調で言った。玲子は、昼間、純を厳しく叱った自分を思い出したのだろう。玲子の顔が一瞬で真っ赤になった。純はさらに調子に乗って言った。
「玲子さん。今日、僕を叱ったセリフを今、言って下さい」
「お、覚えていません」
「そんな事はないでしょう。ついさっきの事ですよ。覚えているのにウソをついているんでしょう」
「そ、そんな事はありません。叱った事は、しっかり覚えていますが、具体的にどう言ったかは正確には思い出せないんです」
玲子は必死で訴えるように言った。
「そうですか。僕はしっかり、覚えてますよ。叱責の言葉は、言った人より、言われた人の方がショックとして心に強く残りますから」
そう言って純は目前の玲子の豊満な乳房をまじまじと眺めた。玲子は真っ赤になった顔を純からそむけた。自分だけ裸で片手を吊られ、片手を秘部に手を当てている姿をまじまじと目前の純に見られている事に羞恥を感じたのだろう。純はそんな玲子を見てニヤリと笑った。
「ふふ。玲子さん。玲子さんは、こう言ったんですよ」
と言って純は、玲子が叱ったセリフを言った。
「ダメじゃない。これはステップ3じゃなくて、ステップ4の受信設定にしなければダメよ」
「こんな基本的なミスをして、どうするの」
「さあ。お客さんに迷惑をかけたんだから、土下座して謝りなさい」
「さあ。土下座してこう言いなさい。『私の怠慢でお客様に御迷惑をおかけしてしまいまして誠に申し訳ありませんでした。もう二度とこのような事がないよう万全の注意を持って仕事致します』」
「純さん。今日、会社がおわった後、残りなさい。徹底的に教育してあげるから」
玲子の顔が見る見る赤くなった。純に言われて思い出したのだろう。
「さあ。玲子さん。これらの叱責のセリフを今、言って下さい」
純はニヤリと笑った。強気の時、言った叱責のセリフを、丸裸のみじめな姿の玲子に言わせて、辱しめようという魂胆である。
「さあ。言って下さい。徹底的に教育したいのでしょう」
黙っている玲子に純は大きな声で言った。玲子は、顔を真っ赤にして、声を震わせながら喋り出した。
「ダ、ダメじゃない。これはステップ3じゃなくて、ステップ4の受信設定にしなければダメよ」
「こ、こんな基本的なミスをして、どうするの」
「さ、さあ。お客さんに迷惑をかけたんだから、土下座して謝りなさい」
「さ、さあ。土下座してこう言いなさい。『私の怠慢でお客様に御迷惑をおかけしてしまいまして誠に申し訳ありませんでした。もう二度とこのような事がないよう万全の注意を持って仕事致します』」
「純さん。今日、会社がおわった後、残りなさい。徹底的に教育してあげるから」
言い終わって玲子は真っ赤になった。強気の時、自分が言った叱責のセリフを、丸裸のみじめな姿で言った事が激しい羞恥を玲子に起こしたのだろう。
「じゅ、純さん。も、もう許して下さい。わ、私をこれ以上、みじめにしないで下さい。お願いです」
玲子は純に縋るように言った。純はニヤリと笑った。
「でも、それを望んだのは玲子さんの方ですよ。玲子さんは、こう言いましたよ。『私は私の出世欲のために、純さんを皆の前で恥をかかせてしまった悪い女です。うんとお仕置きして下さい』と」
玲子は苦しげな表情で黙っている。返す言葉がないといった様子である。
「さあ。玲子さん。そのセリフも言って下さい」
純は強気の口調で玲子に命じた。玲子は、顔を真っ赤にして小声で言った。
「わ、私は私の出世欲のために、純さんを皆の前で恥をかかせてしまった悪い女です。うんとお仕置きして下さい」
「ええ。お望みの通りうんとお仕置きしますよ」
純はホクホクした口調で言った。そして自分の携帯をポケットから取り出した。そして裸の玲子に携帯のカメラを向けた。
「や、やめてー」
玲子は叫んだが、純はおかまいなく、パシャパシャと、色々な角度から丸裸の玲子の写真を撮った。玲子はクスン、クスンとすすり泣き始めた。純はカチャカチャと一心に携帯のメールを操作した。そして、出来上がったものを玲子に見せつけた。それにはこう書かれてあった。
「私はトコモショプ横浜店の佐藤玲子です。ちょっと恥ずかしいですけど私のヌード写真を投稿します。よく見て下さい。よろしかったらトコモショップ横浜店にぜひいらして下さい。男の方達が来るのを楽しみに待っています。佐藤玲子」
「そ、それをどうするのですか」
玲子は恐る恐る聞いた。
「ネットの画像投稿掲示板に送るんですよ」
純は笑いながら言った。
「や、やめてー」
玲子は錯乱したように叫んだ。
「いいじゃないですか。ここまでサービスすれば、トコモは他の携帯会社より人気が上がりますよ」
純はニヤニヤ笑いながら言った。
「じゅ、純さん。お願いです。そんな事はやめて下さい。私を好きなだけ鞭打って下さい。でもそんな事だけは、どうか許して下さい」
玲子は必死に哀願した。
「じゃあ、投稿するか、どうかは、ちょっと考えておきます」
そう言って純は鞭を持って玲子の背後に回った。
「じゃあ、鞭打ちますよ」
「は、はい。どうぞ好きなだけ、鞭打って下さい。私は耐えます」
そう言って玲子は足をピッチリ閉じた。純は、鞭を振り上げると、玲子の柔らかい尻や太腿、背中、などを力一杯、鞭打ち出した。
「ああー」「ひいー」「い、痛―い」
玲子は悲鳴を上げつづけた。玲子の目からは涙がポロポロこぼれ、華奢な体は海草のように、激しく揺らめいた。
「じゅ、純様。お許し下さい」
玲子は、その哀願の言葉を叫びつづけた。しかし純は無視して鞭打った。しばし鞭打った後、純は鞭打ちの手を休めた。
「あ、ありがとうございます。純様」
玲子はハアハアと息を切らしながら言った。玲子の体には、鞭打ちによる蚯蚓腫れの赤い線状の跡がたくさん刻まれていた。
「玲子さん」
「はい。何でしょうか。純様」
玲子は純を、「さん」ではなく、「様」と呼ぶようになっていた。
「玲子さん。本当の事を言って下さい。玲子さんはマゾで、今、こうされている事が本当は嬉しいんじゃないでしょうか。今日、僕を厳しく叱ったのは、こうやって、みじめになって虐められるマゾの喜びを楽しみたい口実のための演技だったのではないでしょうか」
「そ、それは・・・」
と言って玲子は唇を噛んだ。
「では本当の事を言うまで責めますよ」
そう言って純は再び、玲子をめっためたに鞭打ち出した。
「ひいー。お許し下さい。純様」
玲子は体を激しく揺すりながら叫びつづけた。
「玲子さん。僕が聞きたいのは、哀願ではなく本心です。玲子さんはマゾなんじゃないんですか。そして今も本当は嬉しいんじゃないんですか」
純は鞭打ちながら玲子に問いかけた。だが玲子は答えない。純は一層、鞭打ちの力を強めた。玲子は、髪を振り乱し、ひーひー声を上げて泣きながら、純に許しを求めた。だが純は鞭打ちをやめようとしない。とうとう玲子が口を開いた。
「じゅ、純様」
「何ですか」
「ほ、本当の事を言います」
玲子は泣きながら言った。
「そうですか。じゃあ言って下さい」
純は鞭打ちの手を休めた。
「じゅ、純様の仰るとおりです。私はマゾです。今日、純様を厳しく叱ったのも、こうやって、みじめに仕返しされたいためのお芝居だったのです。鞭は痛くて、私は、許しを求めていますが、本当は、今、凄く嬉しいんです」
とうとう玲子は白状した。
「そうですか。じゃあ、もっと鞭打って欲しいですか」
「は、はい」
「わかりました。では鞭打ちます」
そう言って純は、再び、玲子を手加減せずに鞭打ち出した。
「ああー。痛―い」
玲子は体を激しくくねらせながら叫んだ。
「ふふ。美人OLの成れの果てだな」
純が鞭打ちながら揶揄した。
「ああー。いいー。もっと言って」
「お前は、美人なのに、どうしようもない変態マゾ女なんだな」
「そ、そうです。私は変態マゾ女です」
「今の気持ちはどうだ」
「し、幸せです。最高に」
「お前はオレの奴隷になるか」
「な、なります。私は純様の奴隷になります。純様の言う事には絶対服従します」
「じゃあ、責め殺してやるぞ」
「は、はい。純様に責め殺されるなら幸せです」
とうとう玲子はマゾの究極の心境を露吐した。
「ふふ。ついに言ったな」
純はしてやったりという表情で、鞭打ちをやめた。玲子は、体中、汗まみれで、ハアハアと肩で呼吸した。

しばしして、やっと玲子の呼吸が落ち着いた。
「どうでしたか。楽しかったでしたか?」
「ええ」
玲子は顔を赤くして答えた。
「じゃあ、そろそろ僕は帰ります」
「ま、待って。私の手錠をはずして下さい」
「玲子さんはマゾなんですから、明日までそうしていて下さい。明日、一番にきた人に解いてもらって下さい。最高のスリルが楽しめますよ」
「じゅ、純様。お願いです。手錠をはずして下さい。どんな事でもします。私は純様の言う事には何でも従う奴隷になります。ですから、お願いです。手錠をはずして下さい」
だが、純は、背広を着て、荷物をまとめ、机の上を整理して帰る用意をした。そして、玲子のスーツとパンティーとブラジャーを広げて床に並べた。
「お願いです。純様。手錠をはずして下さい」
玲子はさかんに訴えたが純は玲子の哀願を無視してトコモショップを出て行った。

   ☆   ☆   ☆

翌日。
「いらっしゃいませー」
元気な顔の玲子がいつものように客の対応をしていた。その笑顔は、いつも以上に明るかった。実は昨日、純が去った後、二時間ほどして純が戻ってきて、玲子の手錠を解いて、玲子は服を着て家に帰ったのである。純が戻ってきた時、項垂れてすすり泣いていた玲子は、はっと顔を上げた。
「あっ。じゅ、純さん」
玲子は、純が来た事が助けなのか、それとも、さらなる虐めのためなのか、分からず一瞬、戸惑った。
「玲子さん。どうでしたか。興奮しましたか。それとも怖かったですか」
と純が聞いた。
「こ、怖かったです」
玲子はすすり泣きながら言った。
「手錠をはずしますよ」
純が黙って手錠をはずすと玲子は、わっと泣き出した。
「あ、ありがとうございます。純さん」
そう言って玲子は純にしがみついたのである。



平成21年11月19日(木)擱筆



  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

自民党議員は全員、偽善者である

2015-07-15 22:45:32 | 政治
安保法案、強行採決。

自民党議員は全員、偽善者である。

公明党も。

選挙で、せっかく当選した自分の地位を失いたくない、保身しか考えていない。

正義感や良心のあるヤツなど、一人もいない。

仙石由人氏が言った、通り、自衛隊は、(何をするか、わからない)「暴力装置」になったじゃねえか。

(個人の)信念とか、宗教の信仰心とか、統合失調症患者の妄想、とかは、回りの人間が反対すれば、するほど、その情熱を強めてしまう。のである。

オウムの信者、然り。江戸時代のキリシタン然り。統合失調症患者の妄想、然り、である。


「 世の学者はおおむねみな腰ぬけにてその気力は 不慥かなれども、文字を見る眼はなかなか慥かにして・・・」

(福沢諭吉「学問のすすめ」)

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

理容店(小説)

2015-07-15 00:07:09 | 小説
理容店

純は神奈川県のある町に住んでいる。ここは純の好きな海にも近く、東海道線で東京へも一時間かからず行ける至極便利な場所である。ある時、三省堂で本を買った帰り、ある事務手続きのため、ある駅で降りた。事務手続きが済んでさて、買ったばかりの本をどこか静かな喫茶店で読もうと思って街をぶらぶら歩いていると、小さな路地に出くわした。「××横丁」との大きな看板が門のように路地の入り口にかかっている。ここになら静かな喫茶店もあるだろうと、純は路地に入っていった。昔の面影を残している小さな店が道の左右に並んでいて、純はなんとも言えぬ心の安らぎを感じた。さらに行くと赤と青の螺旋模様の円筒がくるくる回っているのが目についた。小さな床屋である。長くなってきた髪が邪魔になって、そろそろ床屋へ行こうと思っていた時分だったので、ちょうどいいと思い、迷うことなく店の戸を開けた。チャリン、チャリンと鈴の音がなった。店員は、
「いらっしゃいませー」
と明るく大きな声を出して純の方を見た。純はびっくりした。三人の店員は皆、若くてきれいな女性である。一人の女性がレジの所に来た。
「お荷物をお預かりします」
彼女に促されて純は上着を脱いで、カバンと一緒に彼女に渡した。彼女は大切そうにそれを受けとるとレジの後ろの戸棚にそれを入れた。
「はじめてですか」
「はい」
「ではカルテをつくりますので・・・」
と言って、彼女は記載事項が書かれた記入用紙とボールペンを差し出した。記載事項には、氏名、住所、電話番号、メールアドレス、生年月日、職業、まである。何でこんなことまで書かなくてはならないんだ、と純は首を傾げつつも、記入して用紙を彼女に渡した。彼女は嬉しそうな顔で用紙を受けとると、引き出しの中にしまった。
「次回からこのカードをお持ち下さい」
そう言ってプラスチックのカードに純の名前を記入して純に手渡した。
「ではどうぞこちらへ」
そう言って彼女は調髪椅子の奥から二番目の椅子へ手招きした。純はその椅子に腰掛けた。
「じゃあ、お願いね」
彼女は床を掃いていた女性に言うと、店の奥の部屋へ入っていった。床を掃いていた女性は、
「はい」
と言って箒と塵取りを壁に立てかけて、急いで純の背後に立った。正面の鏡から彼女の顔が見える。性格温順そうな彼女の顔の口元には、かすかな微笑の兆しが見えた。きっと、さっきの女性がこの店のチーフなのだろう。
「よろしくお願いします」
と言って彼女はおじぎした。
「今日はどうなさいますか」
玉を転がすような優しい声。
「全体に二センチほど切って下さい」
「耳はどうなさいますか」
「耳は出さないで下さい」
「前はどのくらいにしますか」
「眉毛の二センチくらい上にしてください」
「はい。わかりました」
純の注文を聞きおわると彼女は整髪の準備をはじめた。首をタオルでまき、調髪用の白い絹のシーツを首に巻いた。首だけ出してあたかも、てるてる坊主である。
「お首、苦しくありませんか」
「はい」
純は目を瞑った。これからこの優しい女性と二人きりの時間が持てるのである。しかも彼女の指が自分の髪や顔を触れるスキンシップを感じながら。そう思うと純の心臓は高鳴った。

夢心地のうちに整髪は終わった。顔を剃る時、彼女のしなやかな指か純の口唇に触れた。純は気づかれないよう平静を装っていたが、それはたとえようもない極楽のスキンシップだった。

料金を払って純は理髪店を出た。帰りの途、純は浮き足立っていた。ああ、あんなフェアリーランドがあったとは。(純はその理容店をフェアリーランドと呼ぶ事にした)何て素晴らしい見つけものをしたことだろう。若い女のいる床屋はある。しかし、たいてい男の理髪師も必ずいる。だから、女の理髪師にあたるとは限らない。隣の客は女の理髪師がついて、自分は男の理髪師がついた時など、隣の幸運な客に対する嫉妬心でかえって気分が不快になる。しかも、かりに女の理髪師があたっても、垢抜けていない、暗い性格の純には親愛の情を持つ女などあまりいない。いくら女の調髪を受けても、心無くば寂しく、むなしい。むしろ自分だけこの世から疎外されているつらさを感じるだけである。

しかるにあの店の理髪師達はみな優しい。険がない。自分をあたたかく受け入れてくれる。しかも全員、女だから男に当たるという事もない。確実に最初から最期まで、優しい手つきの女の調髪を受けられるのである。

その晩、純はなかなか寝つけなかった。これからの散髪はすべてあの店にしようと思った。

しかし日を経るにつれ、この感激も次第に薄れていった。心地よい逢瀬とはいっても数ヶ月に一度きりの、一時間ちょっとの逢瀬なのである。しかも、あくまでも仕事の上。この絶対の条件の下に彼女らも自分を受け入れてくれるのである。

小心な純は今まで一度も恋人というものを持ったことがない。純粋な彼は世間を知らず、恋人のつくり方を知らないのである。もちろん、「ナンパ」だの「合コン」だのというものの存在は知っている。しかし彼は女に声をかけて、断られたときの絶望を思うとそれが恐ろしくて出来ないのである。それはおそらく一生の心の痛手になるであろう。その上、純は内気で話す話題もない。女を退屈させて、結局わかれる事になるのはほとんど明らかである。

だが純の女を求める気持ちは人一倍強かった。彼にとって女は神だった。彼にとって女とは対等な関係ではなく、ひたすらひれ伏し拝むべきものだった。

純は手をつないで街を歩いている男女、レストランで向き合って、お互い笑いながら対等に延々と話しつづけている男女を見る時、居ても立ってもいられない肉体のうずく羨望を感じずにはいられなかった。
「ああ。一度、自分も恋人というものをもってみたい」
純は叫びたくなるようなほどのそんな思いが起こってくるのだった。

純は髪が伸びてくるのが待ち遠しくなった。たとえ仕事の上とはいえ、たとえ一時間程度とはいえ、あのフェアリーランドへ行けば無言のうちに女の好意を感じる至福の時間を過ごせるのである。
「さあ。いこう」
純は髪が伸びてきて、そろそろ行こうと思ってきた頃、ある日、意を決して出かけるのである。そして夢心地の散髪を受けて帰ってくる。

あの優しい女だけの床屋を知ってから彼に心地よい夢想が起こるようになった。それは正常な人間にはおぞましく思われようが、先天性倒錯者の純には、その形態の夢想こそが至福なのである。

その夢想の形態とはこうである。
彼は調髪椅子に座っている。椅子が倒される。彼は目を瞑っている。蒸しタオルが顔からとられる。彼女は散髪のときと変わらぬ快活な調子である。
「では目をえぐります」
はい、と純は答える。剃刀が彼の閉じている瞼に垂直にサクッと入る。鮮血がピューと勢いよく噴き出す。ぎゃー、と純は悲鳴を上げる。
「痛くありませんでしたか」
彼女は淡々と聞く。
「・・・は、はい」
純はダラダラ顔の上を流れている血を感じつつガクガク声を震わせて答える。
「では耳をそぎます」
剃刀が耳の付け根に入って鮮血が吹き出ながら、耳が切り取られていく。ぎゃー、と純は悲鳴を上げる。両耳が切りとられると彼女はまた温かい口調で淡々と聞く。
「痛くありませんでしたか」
純はワナワナ声を震わせながら、かろうじて、
「・・・は、・・はい」
と答える。
「では顔を切り刻みます」
垂直に立った剃刀がサクッと彼の頬に入り鮮血がピューと吹き出る。ぎゃー、と純の悲鳴。剃刀はかろやかに彼の顔を隈なく切り刻んでいく。一通り終えると彼女は、淡々と聞く。
「痛くありませんでしたか」
「・・・は、・・・はい。だ・・・大丈夫です」
純はワナワナ声を震わせながら答える。
「では、これでおわりです。おつかれさまでしたー」
彼女は快活な口調で言う。
純は顔中、血に染まった中から息も絶え絶えに答える。
「・・・あ、あ、ありがとうございました」
そうして純は死んでいく。

それが彼の至福な夢想の形態なのである。それは彼女らが罪のない天使のような心の持ち主だからである。彼女らは心に険がないからである。あんな優しい女に酷く殺されたい。酷ければ酷いほどいい。純の夢想はどんどん酷いものになっていった。

夏が来た。夏こそ彼がそのためにのみ生きている季節であったが、同時にそれはつらい季節であった。手をつないで街を歩いているカップルがことさら羨ましく見える。それを見せつけられる事は彼にとって耐え難い事だった。

ある日、彼は車をとばして海に行った。海水浴場では美しいビキニ姿の女性ばかり。女性には皆、彼がいて手をつないでいる。彼は激しい嫉妬を感じた。男一人では海水浴場に入る事すら出来にくい。
「ああ。一度でいいから女性と手をつないで砂浜を歩いてみたい」
純は夕日が沈むまで渚で戯れている男女を見つめていた。
海風が長く伸びてきた純の頬を打った。純は思った。
「よし。あのフェアリーランドへ行こう。そして一度でいいから個人的に会ってくれないか、勇気を出して聞いてみよう。もしかすると彼女に断られてしまうかもしれない。気まずい雰囲気になってしまうかもしれない。あくまで彼女が僕に好意を持ってくれるのは仕事の上、という絶対の条件があるからだろう。断られたら僕はもうあの店に行けなくなってしまうかもしれない。言わなければずっと気持ちよく、通いつづけることが出来るものを。壊してしまうかもしれない。しかし、あの子の態度を思うとどうしてもそう無下に怒るようには思えない。よし。勇気を出して告白しよう」

翌日、純はあのフェアリーランドへ出かけた。出不精でめったに電車に乗らない純には女がこの上なく美しく見える。薄いブラウスやスカートの上からブラジャーやパンティーのラインが見えてこの上なく悩ましい。
「ああ。きれいた。何てきれいなんだろう」
純は心の中で切なく呟いた。

駅に着いた。フェアリーランドに近づくにつれて心臓が高鳴ってくる。戸を開けるといつものように、
「いらっしゃいませー」
との明るい声。幸い客はいない。店員は二人いた。チーフとあの子である。最近は指名制の床屋もある。が、ここではしていない。店としても指名性をしたい、が、ちょっとそこまで露骨なことは出来ない、という所だろう。が、チーフが気を利かせて客が望んでる相性の合う店員を割り当ててくれるのである。チーフは、
「じゃあお願いね」
と言って店の奥の部屋へ行った。
純の担当は、純がはじめにカットを受けた子である。純が店のドアを開けると、いつも彼女はニコッと笑って、「いらっしゃいませー」とペコリと頭を下げる。彼女が純に好意を持っていることは彼女の態度ではっきりわかる。純はペコリとおじぎして調髪椅子に座って目を閉じた。カットがおわって顔剃りになった。椅子が倒され、ちょっとあつい蒸しタオルが顔にのせられた。少し待ってから彼女は蒸しタオルをとって、純の顔を剃りだした。一心に顔を剃っている彼女に純は勇気を出して話しかけた。
「あ、あの。お姉さん・・・」
「はい。何でしょうか」
「あ、あの。冗談ですけど、言っていいでしょうか」
「ええ。かまいませんわ」
「あ、あの。その剃刀で顔を切り刻んで下さい」
彼女はプッと噴き出した。
「ごめんなさい。変な事、言っちゃって」
純はあわてて謝った。
「いいですわ。でも、どうしてそんな恐ろしい事を考えるんですか」
「お姉さんのような、きれいで、やさしい人に殺してもらえるんなら幸せなんです」
「いや。むしろ、そうされたいんです」
「そうまで私の事、思って下さるなんて幸せですわ。でも、そんな恐ろしい事、とてもじゃないですが出来ませんわ。私達、ただでさえ、剃刀を扱う時は、ほんのちょっとの傷をお客様につけることにでも過敏になってますもの」
「そうでしょうね。僕も本当に顔を切り刻まれる事に快感を感じられるかどうかは分かりません。あくまで空想の中では、痛みはありませんからね。でも、空想の中では切り刻まれる事が最高の快感なんです」
彼女は、「ふふふ」と笑った。
「はい。おわりました」
と言って、彼女は台を上げた。そしてブラシで背中と前をはたいた。
「シャンプーとカットと洗顔で四千円です」
「はい」
純は財布から紙幣を取り出した。
「あ、あの。もし御迷惑でなければ一度、海に行ってもらえませんか」
「ええ。かまいませんわ」
純は携帯の番号とメールアドレスをメモに書いて渡した。彼女はそれを受け取ってポケットに入れた。

その夜、純は寝つけなかった。はたしてメールの着信音がビビビッと鳴った。それにはこう書かれてあった。
「純さん。今日は有難うございました。海は何処で、いつがよろしいでしょうか。私は、月、金、が休みです」
純はいそいで返事のメールを出した。
「美奈子さん。メールを下さり、有難うございます。では、今週の金曜日、××ビーチに、正午で、というのはどうでしょうか」
送信するとすぐに返事のメールが返ってきた。
「はい。わかりました。必ず行きます」

金曜になった。
純は夢のような気持ちで××ビーチに行った。客は程よく少なく、デートにはもってこいの場所である。純は日焼け用オイル、ビニールシート、ビーチパラソル、ビーチサンダル一式を揃えて待っていた。来てくれるだろうか。来てくれないだろうか。
その時、海の家からピチピチの黄色いビキニで胸を揺らせながら一人の女性が手を振りながら笑顔で、
「純さーん」
と叫びながら走ってきた。
「美奈子さーん」
純は嬉しくなって満面の笑顔で手を振った。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

保母(小説)

2015-07-14 00:51:35 | 小説
保母

小学校5年の時である。
私は静岡県伊東市から少し離れた所にある喘息の療養施設に入った。
初夏の頃だった。私はそこの生活にすぐ慣れて友達も多く出来た。
寮は一部屋が4~5人位で、一人の保母さんが、その部屋の受け持ちになった。
受け持ち、といっても、特にする事はない。朝の部屋の掃除がおわった時、報告するくらいである。保母さんとは友達のような間柄だった。
部屋には私の他に、石田、木村、吉田の三人がいた。
私の部屋の保母さんは、面白く、いたずっら気のある人だった。
彼女は一ヶ月前にこの施設に来た。
保母になりたての若くてきれいな人だった。
名前を京子といった。彼女はよく部屋へ来て面白い話をしてくれた。
彼女は、時々、畳の上にうつ伏せに寝て、私達にマッサージさせた。
殿様気分である。しかし私達は、それがむしろ楽しみだった。マッサージという口実で女の体を触れたからだ。私達は脹脛や腕を揉んだり、彼女に言われて背中に乗って踏んだりした。彼女にしてみれば4人に働かせていい気分になっているのだろうが、私達にとっては、4人で彼女を玩んでいるような気分だった。
「もっと力を入れなさい」
とか、
「肩を揉みなさい」
とか、彼女は色々、私達に命令した。私達は彼女の命令に忠実に従った。怒られはしないかと、恐れながら私達は、彼女の太腿やお尻もそっと揉んだ。だが、彼女は怒らなかった。女の肉づきのいい太腿や尻の感触は最高だった。
始めは、怒られはしないかと、恐る恐るだったが、彼女に怒る気配が無いので、私達はそのうち、遠慮なく彼女の体をあちこち触って揉んだ。

ある日の事である。
その日は日曜の午後だった。
私達は4人で彼女の体を揉んでいた。もう私達も彼女も、このマッサージには慣れっこになっていた。私達が揉んでいると、スースーと寝息が聞こえてきた。手足は完全に力が抜けてダランとなった。口が半開きになって、全くの無防備である。マッサージが気持ちよくて寝てしまったのだ。
一人が合図して、私達は彼女から離れた。女が、子供とはいえ、男達の前で無防備に寝ているのである。私達は興奮して彼女の体を眺めた。
もちろん私達は興奮して勃起していた。
私達はゴクリと唾を呑んだ。
「いいか。気づかれたらおこられるぞ。声を立てるな」
私はそう言って彼女のスカートをそっとめくり出した。
彼女のスカートは裾の広いフレアースカートだったので、めくるのは容易だった。スカートがたくしあげられるのにつれ、ムッチリした太腿が見えてきた。
ついに私はスカートの裾を腰の所まで引き上げた。
大きな尻を覆うパンティーが丸出しになった。
「すげー」
一人が小声で言った。
大人の女の人のパンティーを見るのは、初めてだった。
私達は、興奮して息を殺し、彼女のピッチリしたパンティーやパンティーからつづく太腿などを眺めた。見つかったら、叱られる、という恐れが余計、私達を興奮させた。
と、その時、彼女は、
「ああん」
と、言って寝返りをうってゴロンと仰向けになった。
私達はびっくりした。私達の刺激を彼女が感じとったのではないかと思ったからだ。
だが、彼女は口を半開きにして、口からは涎まで出ている。体の緊張は全くなく、スースーと寝息を立てている。
私達は、ほっとした。
私達は仰向けになった彼女をじっくりと眺めた。
いつも見ている顔だが、いつもは相手もこっちを見ているから、じっと見つめることは出来ない。だが、今はそうではない。私達は彼女の顔を、じっくり眺めた。鼻の穴や半開きの唇などを、じっくり眺めた。彼女の腰までとどくストレートの黒髪が畳の上にばらけ、極めてエロティックだった。ある者が、彼女のばらけた髪をそっと、手にして匂いを嗅いだ。おちんちんをズボンの上からさすりながら。
私達は彼女の美しい体を服の上からまじまじと眺めた。
私達は、特に胸の隆起を間近で、まじまじと眺めた。
女の体は芸術品だとつくづく思った。
私達の視線は下の方に移っていった。
私達は目を見合わせてゴクリと息を呑んだ。
「おい。石田。しっかり、顔を見張ってろよ。ちょっとでも何か変化がおこったら、すぐ合図しろ」
そう言って、私は彼女のスカートの裾をそっと、たくし上げて行った。
ムッチリした柔らかそうな太腿が現れてきた。
私はスカートの裾を完全にめくりあげた。
ピッチリしたパンティーが丸見えになった。
ピッチリしたパンティーは小高い盛り上がりが出来ている。
私達は、生まれて初めて見る大人の女のパンティーを、夢のような気持ちで、心臓をドキドキさせながら、時間が経つのも忘れ、食い入るように見つめた。
その時、彼女は、
「ううん」
と、声を洩らした。
やばい、と私は、あせって、スカートを元にもどした。
「おい。みんな。はやく先生から離れて、何も無かった振りをしろ」
私は、小声でみんなにそう言った。
みなは、言われた通り、蜘蛛の子をちらすように京子から離れた。
京子は寝ぼけまなこで、目を覚ました。
そして目を擦りながらムクッと起き上がり出した。
私達は、京子から離れて、漫画を読んだり、寝そべって寝たりと、何もなかったように装った。
「あーあ。気持ちいいもんだから、ねむっちゃった」
じゃあねー、と言って、京子は去って行った。
彼女がいなくなると、私達は小躍りして喜んだ。
「すごかったなー」
「女の人のスカートの中、始めて見たよ」
「女の人のあそこの部分を、あんなに間近に見たのは俺達だけだろうな」
私達は、そんな感想を言い合った。

それからも彼女は、よく私達の部屋に来て、トランプをしたりして遊んだ。
保母さんは、子供の遊びの相手などしないで、仕事とわりきって、何かなければ詰所で、保母さん同士お喋りしている人も多いが、彼女は、よく来て私達と遊んでくれた。
彼女のスカートの中を見てから、私は彼女を見ると、すぐに彼女のパンティーの盛り上がりが想像されてしまって興奮した。

トランプがおわると彼女は、また、畳に横になった。
「さあ。マッサージして」
言われて私達はめいめい、肩や腕や脹脛を揉んだ。
私達は、また、前回と同じように彼女が寝ることを期待して、一心に彼女の体を揉んだ。
しばしすると、彼女は、またスースーと寝息を立て始めた。
私達は小躍りして喜んだ。
私は前回と同じように、そっと彼女のスカートをめくった。
太い太腿と大きな尻が丸出しになった。
彼女は水玉模様のパンティーを履いていた。
何と横紐で蝶結びになっているパンティーだった。
私達は、心臓がドキドキ高鳴った。
彼女はうつ伏せなので、紐を解けば彼女の尻を見れる。
私達は、小声で相談した。
「どうする。紐を解いてみようか」
「だめだよ。もし、紐を解いている時に目が覚めちゃったら、どうするんだよ」
「先生がすぐに起きなかったら紐を結び戻せばいいじゃないか」
「間にあわなかったら、どうするんだよ」
「間に合わなかったら、スカートだけ、元に戻せばいい」
「それじゃあ、僕達が悪戯したことがばれちゃうじゃないか」
「大丈夫だよ。蝶結びの紐は、ほどけちゃうことはあるんだから。僕達がほどいたとは、思わないよ。しらんぷりしてれば、自然にほどけちゃったと思うよ」
「そうだな」
私達は、そっとパンティーの横紐をほどいた。
そして、そっとパンティーをめくった。京子の大きな尻が、ほとんど全部、丸出しになった。
「うわー。すげー」
私達は小さな声で驚嘆の言葉を言った。
大人の女の大きな尻を見るのは初めてだった。
だが、それ以上に、大人に、こういう悪戯をしていることに私達は興奮した。
豊満な尻がムッチリした太腿につながっている。
その、つながり具合がエロティックであり、また、美しくもあった。
私達は息を呑んで、京子の尻を見つめた。
「ああん」
京子が、悶えるような寝息をたてた。
眉が苦しそうに八の字になっている。
私達の悪戯で眠りから覚めかけたのか。
「やばい」
私は、いそいで、京子のパンティーの横紐を結んだ。そしてスカートを元にもどした。
そして蜘蛛の子を散らすようにサッと四方に分かれた。
彼女は目を擦りながら起き上がった。
幸い、彼女は気づいていないようだった。
「あー。よく寝た」
そう言って彼女は手を大きく伸ばして欠伸した。
「マッサージが気持ちいいから、つい寝ちゃった。また、お願いね」
そう言って彼女は立ち上がって陽気な表情で、部屋を去って行った。

(プール)
夏になった。それは、ある日曜日の事だった。
私達はいつものように、部屋で京子とトランプをして遊んでいた。
その日は、特に蒸し暑い日だった。
「あーあ。暑いな。プールで泳ぎたいな」
一人が言った。
「同感」
他の者も口を揃えて言った。
「先生。プールで泳ごうよ」
一人が言った。皆も、それを強く主張した。
プールは学校の裏手にあった。当然の事ながら、規則で、学校の決められた体育の時間で使用が制限されていた。監督する責任者がいないと、万一、事故が起こった場合、責任問題になるからだ。まだ泳げない子もいる。
「先生。プールで泳ごうよ」
一人が京子の肩を叩いて、催促した。
「だめよ。規則よ。かってにプールに入ることは出来ないわ」
「そう、固く考えなくてもいいじゃない。他のやつらだって、こっそり、無断でプールに入っているやつだって、いるじゃない。先生がいれば、先生が監督者になるから、大丈夫だよ」
京子は、しばし躊躇していたが、決断したと見え口を開いた。
「わかったわ。じゃあ、私が責任者になるわ」
京子は、堅物の保母さんではないので、他の保母さんなら許可しない事でも、大目に見てくれるのである。
「やったー」
一人が叫んだ。
「じゃあ、行こう」
京子がそう言ったので私達は立ち上がって、学校の裏手のプールに向かった。
「私が行くまでプールに入っちゃダメよ」
京子が言った。私達は海水パンツに履きかえ、プールに行った。
プールに手を入れると、プールの水温は、泳ぐのには十分だった。
そのため、私達は京子が来ないうちにプールに入った。
そして生温かい水に身を任せていた。
京子が来た。
私達は思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
京子はセクシーな黄色のビキニだったからである。
胸と尻が、体の形を変えないで覆っているだけで、裸同然の姿だった。
京子の体の稜線は美しかった。こぼれ落ちそうな胸。大きな尻。キュッと引き締まったウエスト。しなやかな下肢。
私達は呆然と美しい京子の裸を眺めた。
「先生。すごい。セクシーだ」
一人が、明け透けに感動の発言をした。
言われて、京子は顔を紅潮させた。
「先生も入りなよ」
一人が言ったが、京子は手を軽く振った。
「いいわ。私は君達を監視するだけにするわ」
そう言って京子はベンチに座った。
私達はプールの中から、京子に水をかけた。
京子は笑いながら、プールサイドを逃げ回った。

私達はこそこそと話し合ってニヤリと笑って、プールから出た。
そして京子に近づいた。
私達は京子の腕を掴むと、京子をプールの縁まで連れて行った。
「な、何をするの」
京子が困惑して言ったが、私達は、かまわず、そーれ、と掛け声をかけて京子の背中をドンと押した。
「ああっ」
京子の体はバランスを崩してプールの方に大きく傾いた。
ドボーン。
水が割れ、京子の体はプールの中に落ちた。
京子は水中から、すぐに顔を出し、髪をかき上げてプハーと大きく深呼吸した。
「やったわねー」
と、京子は、膨れっ面をした。
私達は、皆、勢いよくプールに飛び込んだ。
私達は、歓声を上げながら京子と水を掛け合った。
「先生。泳いでみせてよ」
一人が言った。
「だめなの。私、泳げないの」
そう言って京子は手を振った。
私達も達者に泳げる者はいなかった。
20メートル位を平泳ぎで、何とか泳げる程度だった。
京子は水を掻き分けて水中を歩いた。
私達は、ニヤリと笑った。
私達はゴーグルをつけてプールに入り、水中に潜った。
水中で、水に濡れて体に貼りついた、京子のビキニ姿が見えた。
それは、とても美しく、エロティックだった。
私達は、水中から京子の太腿や尻を触った。
「あっ」
と叫んで、京子は触ってくる手を払おうとした。
だが、こっちは4人である。
それに京子は顔だけ水の上に出しているだけなので、水中の様子が、よく見えないため、水中の触手から身を守ることは出来なかった。
私達は、それをいいことに、京子の太腿や大きな尻や胸を触った。
そして、呼吸がこらえなくなると、水中から顔を出した。
「やめてー」
京子は言ったが、それほど嫌がっている様子は感じられなかった。
むしろ私達の悪戯を楽しんでいる顔つきで微笑していた。
プールで体をつかむのは、自然な戯れである。
私達も、その感覚があったから、京子の体を触れたのである。
京子は、泳げない、と言っただけあってプールの中で立っているだけである。
私達は、それをいいことに、プールの中に潜っては京子の柔らかい体を触った。
水の中なので、京子の体は重力がなくなり、とても柔らかくて、気持ちのいい感触だった。
私達は水中で京子の体を触っては水中から顔を出し、プファーと深呼吸した。
そして、集まってヒソヒソと話して、ニヤッと京子を見た。

私達は水を掻き分けて京子に近づいた。二人が京子の腕をつかんだ。

その時、残りの二人が水の中に潜った。そして油断している京子に近づいて、ビキニの横紐を、素早くほどいた。
「あっ。やめてっ」
京子は、あせって手をほどこうとした。
だが、二人はガッチリと京子の手を掴んで離さない。
二人は、横紐のはずれたビキニを抜き取った。
下のビキニがとられて、京子は下半身は覆いがなくなった。
「や、やめてー」
京子は叫んで、手を振りほどこうとしたが、私達はガッチリと京子の手を掴んで離さなかった。
水中の二人は、顔を出すと、京子の胸のビキニを結んでいる背中と首の後ろの紐も解いて、胸のビキニも抜き取った。
これでもう、京子は、覆う物、何一つない丸裸になった。
二人は京子を掴んでいた両手を離した。
そして、4人で再び、水中に潜った。
京子は手で胸と秘部を覆っている。
だが、豊満な尻は丸見えである。
私達は京子の尻の割れ目をサッと触った。
「あっ」
京子は驚いて、声を上げた。
私達は、水を掻き分けて京子から奪い取ったビキニを持ってプールから上がった。
そして、丸裸でプールの中に立っている京子をニヤついて眺めた。
「お願い。水着を返して」
京子は水中で胸と秘部を手で覆いながら、訴えた。
だが、私達は京子の困る姿を楽しんで眺めた。
「先生。上がってきなよ。そしたら返すから」
私達は、そう言って京子のビキニをヒラつかせた。
だが、京子は困惑した表情で、水中で胸と秘部をおさえて、じっとしている。
「じゃあ、返すよ」
一人がそう言って、京子のビキニの上下をプールの中に放り投げた。
京子からは、かなり離れた所に。
京子は、ちょっと躊躇っていたが、いそいで、急いでビキニの所に向かって水を掻き分けて歩き出した。
一人が、ドボンと飛び込んで泳いで、京子がたどりつく前に、ビキニをとって、プールの中からビーチサイドに投げた。
ちょうど、京子がたどりつく、ほんの少し前だった。
私達は彼の投げた京子のビキニをとると、水中の京子に囃し立てた。
「へへ。もうちょっとだったね。先生」
ビキニを投げた者は、役割をおえると、ゆっくり泳いでビーチサイドに上がった。
京子は、口惜しそうな顔で胸と秘部を覆った。
「先生。いつかはプールから出なくちゃならないんだから、出なよ」
私達は水中で進退きわまっている京子に言った。
京子は、とうとう、あきらめたかのように、ゆっくりとプールサイドに向かって歩いた。
プールサイドにつくと、京子は手すりを昇ってプールから出た。
京子は一糸纏わぬ丸裸である。
「さあ。お願い。水着を返して」
京子は、乳房と秘部を手で隠して、訴えた。
「じゃあ、こっちに来てよ」
言われて京子は、水着を持っている者に、近づいた。
乳房と秘部を手で覆いながら。
その姿はエロティックで滑稽だった。
「返して」
京子は片手を伸ばした。
手がビキニに、ほとんど触れそうになった時、彼はサッと後ろにひきさがった。
「おい。石田」
と言って彼は、石田に注意を促した。石田が彼の方を向くと彼は石田にビキニを赤に投げた。
石田はビキニを受けとるとニヤッと笑ってビキニをヒラつかせた。
残りの二人も彼が何をしようとしているのかの意図がわかって、4人で裸の京子を、遠巻きに取り囲んだ。
「お願い。返して」
京子は、乳房と秘部にピタリと手を当てながら、石田の方に近づいた。
手で前の乳房と秘所は隠せても後ろは隠せない。
大きな尻が丸見えである。
尻を丸出しにして、モジモジしている京子の姿は、みじめでエロティックだった。
ピッチリ閉じ合わさった大きな尻が揺れて、私は激しく興奮した。
「先生。お尻の割れ目が丸見えだよ」
一人が揶揄した。私達はどっと笑った。
石田はビキニを持った手を京子の方に伸ばした。
京子は、サッと手を伸ばしてビキニを掴もうとした。
石田はサッと手を引いた。
京子は、ビキニを掴めず、あっ、と言って口惜しそうな顔をした。
みじめ極まりない。
「ほらよ」
石田はビキニを木村に放り投げた。
木村はビキニをキャッチすると、笑ってビキニをヒラつかせた。
京子は、うらめしそうに木村の持っているビキニに顔を向けたが、もう取りに木村の方に行こうとはしなかった。
京子は胸と秘部を手で覆って立ち往生してしまった。
「お願い。水着を返して」
京子は胸と秘部を手で隠して訴えた。
だが、私達はとりあわなかった。
「いいじゃない。先生。こんなの遊びだよ」
一人が揶揄した。
「一度、こういうエッチな事をしたいと、思っていたんだ」
別の一人が満足げな口調で言った。
「おい。木村。水着をあそこへ置いてこい」
一人が言った。
「あそこって何処?」
木村が聞き返した。
「ほら。この前、行った所」
男は思わせ振りに言った。
「ああ」
木村はニヤッと笑った。
京子の水着を持って、駆け出してプールサイドを出た。
「ど、どこへ持っていくの」
京子は手で体を覆いながら不安げな口調で聞いた。
私達は、答えず、三人で京子を取り囲んで、裸で胸と秘部を手で隠している京子をしげしげと眺めた。
胸とアソコは隠せても、ムッチリ閉じ合わさった尻は丸見えである。
すぐに木村はもどってきた。
「おう。あそこに置いてきたよ」
木村が言った。
「ど、どこへ持っていったの」
京子が不安げな口調で言った。
私達は、答えず、京子の背後に廻った。
「さあ。先生。行こう」
そう言って私達は京子の肩をトンと叩いた。
「ど、どこへ行くの」
「木村がビキニを置いてきた所だよ」

(小屋)
そう言って私達は京子の肩を押して、連行するように歩き出した。
一人が先になって、その後ろに、京子が胸と秘部を押さえて歩き、その後ろに三人が京子について歩いた。私達は海水パンツを履いているが、京子は、覆う物のない丸裸である。
ピッチリと閉じ合わさった大きな尻が、歩くのにつれて揺れた。
「先生。お尻の割れ目が丸見えだよ」
後ろの一人が揶揄した。
校舎の後ろは荒れた雑木林だった。
プールを出ると、私達は雑木林の中に入っていった。
荒れた雑木林の中を私達はぬうように歩いた。
しばし歩くと林の中にバラックが見えてきた。
以前、林の中を歩いていて、そのバラックを見つけたのである。
それ以来、私達は、時々、そのバラックに行くようになった。
バラックの近くに、誰かが捨てていったエッチな本があった。寮には置いておけないので私達は、バラックで、それを興奮して見た。
私達は、そのバラックを、「秘密の隠れ家」と呼んでいた。
「さあ。京子先生。ついたよ。入りなよ」
そう言って先頭の者が戸を開けた。
京子は、黙って入った。
私達4人もつづいて入って、戸を閉めた。
密室の中は裸の女一人と男四人だけである。
「さ、さあ。水着を返して」
京子は、入るや否や訴えるように言った。
だが、私達は黙って胸と秘部に手を当てている裸の京子をニヤついて眺めた。
前は手でかろうじて隠せても、大きな尻は割れ目まで、丸見えである。
「まあ、そうあせらなくてもいいじゃない」
一人が言った。
京子は、私達が水着を返そうとしない雰囲気を察すると、いそいで、後ずさりして、壁にピッタリ背中をつけて座り込んだ。
京子は腿をピッチリくっつけ横座りし、両手で胸を覆った。
私達が京子のビキニを返さない限り京子は、寮に戻る事は出来ないのである。

一人が、京子に近づいてエッチな雑誌をひろげて見せた。
それには、露出願望、マゾ女、などの見出しで、裸の女の写真と女の告白文が書かれてあった。
「先生。こういう雑誌が落ちていたんです。今まで男はエッチだけど、女の人の心は解りませんでした。でも、これを読んで、女の人にも男にエッチな事をされたい人がいるんだなと解りました。先生は、うわべは、嫌がってますが、本当は、どうなんですか」
彼は、裸の京子に問い詰めた。
京子は答えない。顔を赤くして黙っている。
彼はさらに問い詰めた。
「先生。先生は僕達にマッサージさせている間に寝てしまいましたね。僕達は先生が寝てる間に先生のスカートをめくりました。先生は、はじめ普通のパンティーでしたが、次は、セクシーな横紐のパンティーになりましたね。今日もセクシーなビキニで来ましたね。先生は、本当は僕達にエッチなことをされたいんじゃないですか。マッサージの時も寝たふりをしただけの狸寝入りだったんじゃないですか。本当の事を教えて下さい」
彼は、裸の京子をじろじろ見ながら言った。
だが、京子は顔を赤くして黙っている。
私達は顔を見合わせてニヤリと笑った。
「先生。言わないと拷問しちゃいますよ」
一人が言った。だが、京子は答えない。
私達はニヤリと笑って、縄を持ってきて京子に近づいた。
「や、やめて。何をするの」
京子はおびえた表情になり、乳房をヒシッと抱きしめて、縮こまった。
「まずは先生を後ろ手に縛っちゃうのさ」
それっ、と言って、私達は京子に襲いかかった。
二人が京子の手を掴んで、後ろに廻そうとした。
だが、京子は両手で胸をヒシッと抱きしめて、離そうとしない。
複数の男とはいえ、私達は子供であり、京子は女とはいえ大人である。
私達は、力を入れて京子の手を引き離そうとしたが、ピクリとも動かせなかった。
「だめだ。おい。じゃあ、あれをやれ」
と、京子の手を掴みながら後ろの二人に声をかけた。
後ろにいた者は、サッと京子の前に座り込み、片方の足首を掴んだ。
「な、何をするの」
京子は、声を震わせて言ったが、二人が京子の両手をしっかり掴んでいるので、京子はどうしようも出来ない。
京子の片足の足首を掴んだ者は、余裕で、カッチリと京子の右足の足首を縛った。
そして椅子を持ってきて縄のあまりを持って椅子の上にのった。
小屋の天井の梁にはカラビナが結び付けてあった。
彼は椅子に載って縄をカラビナに通して椅子から降りた。

二人は、えーい、と声をかけて縄を引っ張った。
京子の片足が天井に引き上げられた。
「ああー」
京子は真っ赤になって叫んだ。
京子の手を掴んでいた二人も、京子の手を離し、縄を掴んで4人で思い切り引っ張った。
子供とはいえ、4人の力にはかなわない。
京子の足は、どんどん引き上げられ、京子はゴロンと床に倒れた。
それでも、私達は、縄を引き上げつづけた。
京子は、とっさに秘部と胸に手を当てて女の恥ずかしい所を隠した。
京子の足はピンと一直線に引き上げられて、伸びきった。
京子の足を吊り上げている縄はピンと緊張している。
私達は小屋の取っ手に縄をカッチリと縛りつけた。
京子は片足を高々と吊られ、床に横になって秘部と胸に手を当てて隠している、という、みじめ極まりない格好になった。
私達は一仕事おえて、ほっとして、床に腰をおろした。
そして、みじめな姿の京子をしみじみと眺めた。
「先生。すごくエッチな格好だね。僕、先生のこんな姿が見れて最高に幸せです」
一人がそう言って、海水パンツの上から、おちんちんを揉んだ。
「お願い。見ないで。縄を解いて」
京子は顔を真っ赤にして、胸と秘部にピタリと手を当てている。
私達は、ニヤニヤ笑いながら、みじめな姿の京子を眺めた。
「だから、先生が、本当の事を言ってくれれば、縄は解きますよ。先生は、本当はエッチな事をされるのが嬉しいんではないですか。本当は、今も嬉しいんじゃないですか」
一人が言った。だが、京子は答えない。
「じゃあ、答えるまで拷問します」
そう言って、私達は、裸で足を吊られ、胸と秘部を手で隠している京子の体の周りに座った。
「ふふ。先生。胸とあそこは隠せても、お尻は、丸見えですよ」
言われて京子は真っ赤になって、尻に力を入れてキュッと尻の割れ目を閉じ合わせた。
「先生のお尻の穴を見させてもらいます」
そう言って、一人が京子のムッチリ閉じ合わさった尻の割れ目をグイと開いた。
「ああっ。やめて」
京子は、反射的に尻に力を入れて、尻の割れ目を閉じようとした。
だが、片足を吊られている上、尻の筋肉の力では、腕の力にはかなわない。
彼は、京子の尻の割れ目を、グイと開いた。
京子の尻の割れ目はパカリと開かれて、すぼまった尻の穴が現れた。
「ああー」
京子は、臀筋に力を入れて、開かれてしまった尻の割れ目を閉じようとした。だが、腕の力には、かなわなかった。
女の、いじらしさが、尻の穴が丸見えになっても、何とか、見られるのを防ごうと、尻の穴がキュッとすぼまっている。
「す、すごい。お尻の穴を初めて見た」
彼は、ことさら驚いたように言った。
尻の穴は、ヒクヒク動いている。
「おい。みんな。来いよ。尻の穴が、ヒクヒク動いてるぜ」
三人は、いそいで、京子の尻の方に回って座り、割り開かれている京子の尻の穴を、まじまじと見た。
「わー。すごい。女の人のお尻の穴を初めて見た」
一人が言った。
「ほんとだ。すごい。お尻の穴がヒクヒク動いてる」
別の一人が言った。
「見られないように、お尻の穴に力を入れているからヒクヒク動いているんだよ」
別の一人が、解説するように言った。それが京子の羞恥心を煽った。
「や、やめてー。お願い」
京子が叫んだ。
だが、私達は、京子の訴えなど、どこ吹く風と、ヒクヒク動いている京子の尻の穴を眺めつづけた。
大人の女の、しかも美人のお尻の穴を見られる機会など、これをおいては、絶対ない。
「おい。赤。もういい。尻の割れ目を開くのは。もう、十分見たから、満足だ」
一人が言った。
赤は京子の尻を割り開いていた手を離した。
京子の尻の割れ目は、元のように、ピッチリ閉じ合わさった。
「お尻の穴を見るのもいいけど、やっぱり割れ目がピッチリ閉じている方がいいな」
一人がそう言った。
そして、ピッチリ閉じ合わさっている京子の大きな尻に手を当てた。
彼は、柔らかい京子の尻の弾力を楽しむように、念入りに尻を触りまくった。
割れ目に、手を入れたり、割れ目を開いてみたりした。
「や、やめてー」
京子は叫んだが、彼は、京子の訴えなど無視して、京子の尻を触りまくった。
「ああー。最高だ。女の人のお尻をこんなに自由に触れるなんて」
「柔らかくて、温かくて、最高だ」
彼は歓喜した口調で言った。
「俺達にも触らせろ」
京子の尻を触っているのを、横で見ていた二人が言った。
「ああ。うんと楽しみな」
そう言って彼は、京子の尻の前からどいた。
二人は、順番に京子の尻を触りまくった。
「どうだった」
最初に京子の尻を触った男が聞いた。
「ああ。柔らかくて、温かくて、最高だよ」
あとから、尻を触った者の一人が感想を言った。
「尻の穴は、わかったけど、女の人のあそこは、どうなってるんだろう」
一人が言った。
「よし。じゃあ、女の人のあそこも見ておこう」
一人がニヤリと笑って言った。
「や、やめてー」
京子は、叫んだが、一人が秘部を覆っている京子のしなやかな手を掴んで、えーい、と掛け声をかけて、引き離そうとした。
だが、京子は、そこだけは守ろうと必死に力を入れているため、なかなか引き離せなかった。
「4人で力を合わせてやれば、出来るさ」
一人が言った。
京子は、真っ青になった。
京子は、乳房を覆っていた手を急いで離して、両手で秘部をピッチリと覆った。
私達はニヤリと笑った。
私達は二人ずつ、京子の腰の両側に廻った。
そして、右側の二人が京子の右手の手首を掴み、左側の二人が京子の左手の手首を掴んだ。
私達は、ニヤリと笑って、そーれ、と掛け声をかけて、秘部を覆っている京子の両手を、引き離そうとした。
「ああー。お願い。やめてー。そんなこと」
京子は、叫んだ。
だが、私達は容赦せず、力の限り、京子の手を引っ張った。
今度は、大人の手の力と、子供四人の手の綱引きである。
勝ち目はある。
だが、私達は面白がって引っ張っているが、京子は、必死の力で抵抗しているので、容易には引き離せない。
しばし、引っ張ったが、京子の力が強く引き離せないので、私達も疲れて、あきらめた。
「おい。もう、疲れちゃったし、これは、あきらめよう。でも、もっと楽に見れる方法があるから、あとにしよう」
一人が言った。
「どんな方法だ」
一人が目を輝かせて聞いた。
「ふふ。それは、あとのお楽しみだ」
彼は、思わせ振りな口調で言った。
私達は京子の手を離した。
「おい。この際、京子先生の体を隈なく触りまくろうぜ」
一人が言った。
「同感」
皆が、声を合わせて言った。
私達は片足を吊られて動けない京子の体を触りまくった。
京子は必死で女の秘部を押さえているため、どうすることも出来ない。
「ああー。女の人にこんなエッチな事ができるなんて最高に幸せだー」
一人が京子の体を触りながら叫んだ。
「女の人にこんなエッチな事をしたのは俺達だけだろうな」
別の一人が言った。
「お願い。やめて。こんな事」
京子は片足を吊られ、床に根転がされ秘部を必死に両手で隠しているというみじめ極まりない姿で叫んだ。
「だから先生が本当の事を言ってくれれば止めますよ」
一人がそう言ったが京子は苦しげな表情で答えない。
私達は、ふー、とため息をついて、ひとまず休止した。
「おい。縄を持ってこい」
私が命令すると、
「よしきた」
と一人がほくそ笑んで縄を持ってきた。
私は京子の両手首を縛りだした。
秘部をしっかり隠しているため、それは容易に出来た。
「な、何をするの」
京子が不安げな口調で言った。
「ふふふ」
私は笑って黙って、きつく京子の両手首を縛った。
京子はアソコを必死に隠しているため手首を縛るのは容易だった。
そして、その縄を天井の梁に取り付けられているカラビナに通した。
私達は4人で縄をしっかり持って、
「そーれ」
と、掛け声を出して力の限り引っ張り出した。
「ああー。や、やめてー」
京子は叫んだ。
「じゃあ、言って下さい。先生は本当はエッチな事をされるのが嬉しいんでしょう」
「今も本当はこうされて嬉しいんでしょう」
私達は縄を引っ張りながら、そんな事を言った。
「わ、わかったわ。言うわ。言うからお願いだから、引っ張るのはやめて」
ついに耐えきれなくなって京子が言った。
「だ、誰にも言わないでくれる」
京子は脅えながら確かめるように聞いた。
「言いません」
私達はキッパリと言った。
「本当ね」
京子はさらに念を押すように聞いた。
「ええ。本当です」
私達もキッパリと言った。
「負けました。言います。君達の言うとおりです。私はエッチな事をされるのが嬉しいんです」
ついに京子は告白した。
「やっぱり」
「今も本当はこうされて嬉しいんでしょう」
「そ、そうよ」
「これからも、エッチな事していいですか」
「いいわよ。うんと私にエッチないじわるして。その代わり、誰にも言わないでね。こんな事が人に知れたら、私、もう寮にいられなくなっちゃうの。こういう事、本当はしちゃいけないことなの」
「それは、わかってます。こんな事がわかったら、僕達だって叱られちゃいますから」
「じゃあ、これは私達だけの秘密よ。さあ、思う存分、私をいじめて」
私達は、京子の手首の縄を解いた。
京子は片手を秘部に当てて隠し、片手を胸に当てた。
「じゃあ、お言葉にあまえて、たっぶり悪戯させていただきます」
そう言って私達は丸裸で片足を吊られて動けない京子の顔をいじったり、体を触りまくった。
「ああー。いいー」
京子は目をつぶって眉を寄せ苦しげな表情で叫んだ。
「お願い。顔を踏んで」
京子がそう言ったので、一人が京子の顔を踏んだ。
「ああー。いいー」
京子は顔を踏まれて、叫んだ。
私達は代わりばんこに京子の顔を踏んだ。
足の裏で京子の口を踏んだり、目を踏んだりした。
私達は、顔といわず京子の体を4人で踏みまくった。
京子は私達に踏まれて、何度も、
「ああー。いいわー」
と叫んだ。
その日から私達は京子を小屋に連れ込んで色々なエッチな遊びをするようになった。


平成20年12月12日(金)擱筆


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

いじめ

2015-07-13 22:42:36 | 考察文
いじめ、は、いじめられて、泣き寝入りして、自殺した子供の方が悪い。と私は思っている。

死ぬほどの度胸があるのなら、いじめてるヤツラに、チキン・ゲームの決闘を申し込めばいい。

簡単なチキンゲーム=「サイコロを振って、偶数が出たら、オレが死ぬ。奇数が出たら、お前が死ぬ」

という、極めて簡単なルールの決闘である。

私とチキン・ゲームをする度胸のあるヤツは、はたしているだろうか?

私は、誰とでも、いつでも、受けてたつぞ。

「命が惜しけりゃ、男はやめな」

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

精神科医物語(上)

2015-07-13 00:51:09 | 小説
精神科医物語

 丈太郎は精神科医である。医師国家試験に通った後、ある国立病院で二年研修した。彼が大学の医局に入らなかったのは、いろいろ理由がある。彼は学問好きではあったが、ひとコトで言ってしまえば、彼は文学、芸術に価値を感じていて、学問には、はるかに低い価値しか感じられなかったためである。

 ガリレオ・ガリレイは地動説を唱えたため、宗教裁判にかけられ、地動説を否定することをせまられた。ガリレオはやむなく、「それでも地球は動く」と小声で言って、表面上は地動説を否定した。ガリレオと同時期にジョルダーノ・ブルーノという哲学者がいた。彼は天文学者でもあった。彼もガリレオと同じく地動説を主張した。そのためガリレオと同じく宗教裁判にかけられた。だが、ブルーノは地動説を最後まで否定しなかった。そのためブルーノは火あぶりにされた。どんなに時の権力者が力づくで、ある科学の説を否定しても、科学の真理そのものが変わることはない。時がたち、社会体制が変われば、いずれ科学の真理は認められる時が来るのである。だからガリレオは地動説を表面上、否定できたのである。しかしブルーノにとって地動説は彼の思想であった。科学は万人のものであるが、思想は、かけがえのない個人のものである。思想を否定する事は自分を否定する事になる。そのため、ブルーノは、火あぶりにされる、とわかっていても自分の思想を捨てる事は出来なかったのである。
また、アインシュタインの相対性理論にしても、アインシュタインがいなくても、彼の死後、50年以内に、誰か、別の科学者が相対性理論を発見できた事は間違いない、という事はもう物理学者の間では常識である。
科学でも医学でも、新しい法則や病気を発見すると、それらには第一発見者の名前がつけられる。ビルロート、ブラウン=セカール、バセドウ、ハーバーボッシュ。
しかし、それらは、第一発見者が見つけなくても、時間の問題で、いずれは別の科学者によって発見されるものである。そうなると科学者というものは代替がきくものなのである。一生かけて、何かの素晴らしい発見をして医学書の中に自分の名前を一文字入れる事だけに自分の生涯をかけるなど、丈太郎には、極めて虚しく思われて仕方がなかった。それに比べると、思想や芸術というものは、どんなに稚拙なものであっても、自分以外の人間では、つくり出せない代替のきかない、まさに自分のかけがえのない生きた証なのだ。

 こう書くと芸術にだけ価値があって、科学者を卑しめているようにとらえられかねない。しかし、もちろん、そんな単純な見方は間違いである。真の科学者は、研究する事が面白くて面白くてしかたがない人達である。名誉などは二の次に過ぎない。そもそも時代とともに生活が豊かに、便利になっていくのは、科学者のおかげ以外の何物でもない。そもそも芸術家は人間の生活に必要な物資など何一つ生産しない。農業従事者は世の中にかかせない職業だが、芸術家などいなくても世の中は何も困りはしない。芸術家は、先生、などと呼ばれているが、この明白な事実をいつも肝に銘じておかなくてはならない。だからといって、やたら卑下する必要もない。芸術家はその作品によって、世人を楽しませたり、勇気を与えたりする。要は各人が自分の職業に励んでいるから世の中は成り立っているという事である。

 大学の医局に入る人間は、好むと好まざるとにかかわらず、医学で身を立て、名をなしたいと思っている人間が行くところである。大学の医局とは、教授を頂点とする封建社会である。医学の知識や技術を教えてやるから奴隷になれ、である。もちろん給料など出ない。あと、何年もかけて博士号とやらである。博士号というのは、武道の世界で言うなら、段位のようなものであり、ハクのような面もあり、じっさい実力がある証明書であることもあるが、そうでないこともある。少なくとも臨床の能力とは、あまり関係がない。文学、芸術方面に価値をおいていて、医学に価値を感じられない彼のような人間には、そういうものを汲々と求める必要がなかったのは、当然である。加えて、教授に気に入られなかった人間はヘンピなイナカの病院へ売りとばされ、教授は紹介料として、その病院から謝礼をうけとり、ふところに入れる。文学、芸術に命をかけている彼にとっては、芸術の世界でなら、そういう奴隷的苦難、修業、しがらみ、をもよろこんで忍従するが、関心のない、学問世界に涙を流して奴隷化し、医学の実力とやらを身につける気はさらさらなかった。ただ医学は、経験を有した上級医のコトバによって伝承されていくものであり、技術や理解を向上させるには、上級医や仲間との、コトバによる伝授がどうしても必要なのである。実際、大学の臨床実習では上級医のひとコトは、宝石ほどの価値があった。ひとコトひとコトによって目からウロコがおち、己のゴカイや無知に気づかされ、又、理解が向上するよろこびを、丈太郎は臨床実習で、ひしひしと感じた。医学の修得には独学は困難なのである。不可能とはいえないが、上司や仲間とのコトバによる教授がないと100倍くらいの遠まわり、をすることになる。100読は1聞にしかず、である。
だから医学を身につけたい人間は奴隷制であっても医局に入るのである。しかし、医学に、そもそも価値観を感じていない彼にとっては、奴隷化して実力をつけるよりも、100倍遠まわりをしても、文芸を創作する自由な時間をもつことの方が大切だった。医学に興味をもっていない、などといっても、6年、医学をつめこまされ、国家試験まで通る理解力をもっている人間である。いやがうえでも医学に興味をもてるのは教育の当然の結果である。彼は音楽理論はチンプンカンプンでも、医学はチンプンカンプンではなく、医学書なら読みこなすことが出来るのである。それでともかく、彼は国家試験に通ると、ある国立病院に入って、研修した。国立病院は大学病院とくらべると全然教育体制などなく、実力はつきにくいが、逆にいうなら、大学病院のように実力を身につけなくても、しかられることもない。ので文学創作の時間を持ちたい彼には向いていた。しかし、彼は一分たりとも文学創作に打ち込みたかった。彼には、発作のように、書きたい衝動が起こると、所と場所をわきまえず、筆を走らすのだった。今かける、今しか書けない、と感じた時は、キンム時間であっても、医局の自分の机か、図書室で、3時間も4時間も一人、筆を走らせるのだった。そのため彼は、小説を書いていて病棟に行かないこともあって、医学修得に、やる気がないと、思われたのか、最低の二年の初期研修は、おえたが、レジデントにはなれず、ものの見事にリストラされた。しかし彼は小説を書いていてリストラされたことは、むしろ誇り、とさえ感じていた。文学創作のためなら命をもおしくない、との信念の証明であった。ただ困ったことはリストラされたため、生活の資を失ったことである。彼はリストラを宣告された時、筆で食べていけるか、さすがにあせって今まで書いてきた小説のうち、完成した自信作を、ある出版社に送った。しかし出版社の返事は、自費出版なら可、だが、企画ではダメというものだった。そのため彼は自費出版の費用をためるため、不本意な医学医療で働くことによって生活の資と出版費をためようと、ある小規模病院に再就職した。今は医者の斡旋業者がたくさんいて、これがまた、儲かるのである。丈太郎も、ある斡旋業者に頼んで再就職したのである。130床の精神病院である。CTもなければエコーもない。あるのはレントゲンくらい。医学に価値をおいているほとんどの人なら最新機器もない、最新情報も入らない、このような病院にはきたがらない。しかし彼にとっては医学はどうでもいいことだったので、最新機器、CTスキャンも、エコーも無い、ことは別に何とも思わなかった。むしろ最新機器があれば、最新機器にたよって、それなしには、診断できない医師になりうる可能性もある。教育は不便なるがよし、ではないが、CTを使わなくても症状から診断できる医者の方が能力が上であることはいうまでもない。そういう心理も彼にはあった。おそらく自分のような変わった人間でなくては、このような条件のわるい病院に来てくれる医師はいないのではなかろうか。そのためか、金銭的な待遇は、わりとよかった。入って間もない頃、彼ははやく病院になれようと、入院患者の名前と病気と、その薬を憶えようと夜おそくまで勉強していた。
その日は水曜だった。
夜になると夜勤のドクターが来る。どういう、つてで、この病院を知ったのか、人とあまり話をしない彼にはわからない。だが当直医というのは、たいていどっかの大学病院に勤める医局員で、研修医かそれよりもうちょっと経験年数が上か、それは知らない。が、ともかく大学の知識、技術を学んでいるという身分であり、給料は信じられないほど低く、無給というところさえある。大学病院にいて出世をのぞむ人間にとっては給料がでるようになるには何年もかかる。そこで生活の資は、アルバイトで捻出するというのが医道人の経済である。しかし出世だの技術、知識の修得だの、などにはクソクラエと眼中にない人間は民間の病院に常勤医として就職すればいい。給料だけはしっかりでる。自費出版の金もためられる。今まで彼は、教育熱心でない、国立病院で月曜から金曜まで、勤め、というか、研修し、週一回県のはずれの当直病院で当直のバイトをしていた。何と月曜から金曜、の労働の給料と、週一回、つまり月4回の当直病院のアルバイトの給料は同額なのである。何とバイトの方が割がいいことか。そんなわけで彼は、常勤医になったので、立ち場が逆転してしまった。常勤医になると、さすがに責任感というものもでてくる。
ある夜、彼が夜おそくまで医局で勉強していると当直医が来た。ふつう常勤医は5時で帰り、当直医は6時くらいに来て、顔をあわせることがあまりない。別に気まずい理由というのもないのだが、当直医も自由にくつろぎたい、という気持ちを尊重して、そんな習慣が何となくあるのである。ある日きたのは、名前は苗字だけ、だったから、バイト医なんて、みんな男の研修医だと思っていたのだが、女の人がきた。あとできいたのだが、この病院の当直にくる大学の医局もわりときまっていて、三つか四つある。その中の一つはレベルの高い公立大学だった。実をいうと彼は、地元のこの大学に入りたくて受験したのだが見事に落ち、やむなく、もう一つうけた関西の公立大学に入った。それで彼は関西で医学を学び、大学生活を送った。関西に行ったことのない彼には関西はカルチャーショックだった。第一に女子学生達が駅で関西弁でまくしたてているのにおどろいた。日本では地方では方言がのこっていることは知っていたがテレビによって標準語は普及しているはずだし、関西にいる人間は標準語で話をしているものだと思っていた。まるで異国へきたようなカンジ。しかし第二志望で入っても母校は母校。母校に対する誇りと思いはもっている。それでも関東へ卒業と同時にUターンしたのは、やっぱ関東がこいしくて、関西にはなじめきれへんかったのである。やはり関東の人間が関東をこいしがる気持ちは強く、居残る者も半分くらいはいるが、半分近くはUターンし、卒業と同時に関東のどこかの大学の医局に入るのである。丈太郎もそれと同じだった。ただ彼は大学というヒエラルヒーのある権威の象徴に入らず、研修指定の国立病院に入ったのである。彼が入れなかった地元の公立大学というのは、東大、医科歯科ほどべラボーに偏差値が高くはないが、やはりレベルはやや高く、それもあってか病院も付属の図書館も、きれいで、エレガントで、加えて、学生はみな知的そうで上品である。かえりみてみるに彼の母校の学生はやや下品で頭のわるい人儀礼智忠信孝悌にかけるところの者もいた。それで彼は、この大学出身者にコンプレックスを持っているのである。
ある夜のことである。彼が一人で医局で勉強していると女の当直医が入ってきた。彼は内心びっくりした。彼女は、
「はやく来すぎてしまってすみません。お仕事中のところをおじゃましてしまって」
と言った。いとやんごとなき、めでたき人である。これは、あやまるに価しないことである。むしろ丈太郎が謝るべきなのである。当直医がおそく来すぎることは、あやまってもおかしくはないが、早く来てわるいはずはない。ひきつぎも口頭でできる。丈太郎が勉強している、ところで、テレビをみるわけにもいかず、最も彼女が何をしたがっているのかは、わからないが、たいていは当直病院に来た人は、まずテレビのスイッチを入れる。一度、部屋に入った以上、部屋を出ていくわけにもいかず、彼女はソファーに座ってテーブルに置いてある雑誌を読むともなくパラパラみていた。彼の方が本当は悪いのである。当直医は病院にとって大切な存在なのだから気をきかせて、出会わないよう早めに去るべきなのである。彼女はジーパンをはいていたが、座った姿が少し男っぽくみえる。彼は医局に属せず、独学で医学を100倍の遠まわりして学んだ。わからないことがまだ山ほどある。一方、彼女は大学の医局で、もち前の頭のよさ、のみこみのよさ、に加えて縦と横の豊富なつながりから、どんな事態にも的確な指示をだせる実力ある医者だろう。それなのにさらに大学の医局にのこって医学を深めているのである。彼は彼女のうしろに、みえざる大学の権威をみた。大学の権威の後ろ盾がなく、学会にも入らぬ彼にとって大学の権威の象徴である彼女は内心、タジタジであった。しかし、それとは別にもう一つ想像力過多の彼を悩ましているものがあった。それは彼女のジーパンの下にはかれている肉づきのいい太ももにフィットしているパンティーがどんなのか、ということだった。彼女もセクシーな水着をきて海に行くんだろうか、とか、彼女にはかれて、洗濯され、ほされているパンティーが頭に浮かんできたりする。そんなことばかりに興味が行くから丈太郎の医学の実力はなかなか身につかないのである。彼女が来たからあわてて帰るというのも間がわるく、少ししてから、
「では、よろしくおねがいします」
と言って、あたかも彼女に関心がないような態度で部屋を出て行った。彼女は、
「おつかれさまでした」
とつつましく、挨拶した。
翌日、丈太郎が病院に行くと、つつましい彼女が、寝たベットが気にかかってしかたがなかった。彼は、田山花袋ほど、むさぼりかぐようなことは絶対しなかったが、彼女の香を含んだフトンを前に一人悩み、あんな知的できれいな人が週一回、当直にきてくれると思うとうれしい思いになるのだった。
ここの病院は130床くらいの病院なので、常勤の医者は彼がくる前は院長だけだった。あとは夜勤の当直医と、土日の日当直のバイト医で、やりくりしていた。院長は高齢で、体力的衰えから、一人での診療は少しきつくなっていた。以前、それを補佐するように院長と同じ大学の女医が常勤で勤めていたのである。病院の求人というのは、在籍医局との、しがらみがあるため少し、ややこしい。ほとんど100%大学病院の医局と民間病院の院長に何らかのつながり、があって、たとえば院長が、その医局出身というのであれば、最高のつながり、であるが別の大学の医局に友人がいる、というのでもいい。ともかくコネクションが必要なのである。それで、民間病院の院長が人手がほしいと思ったら、大学の医局にたのむのである。すると最終的には、人事権をもっている教授が、「○○君、ちょっとあそこの病院へ行ってくれないか」というのである。大学の医局もヒエラルヒーある一般の会社と同じようなもんで上司の命令にはさからえない。医者不足で困っている病院としては、医者を派遣してくれる大学教授は、涙、涙、でうれしい、ので教授に紹介料としていくばくかの謝礼をわたす。この額はかなりのものである。しかし、これは派遣される医師にとっては人身売買である。「二年、行ってきてくれないか」と言って、行って二年我慢しても、戻ってこれるか、どうかは、教授の胸三寸である。この病院の院長は関西の大学出身で、近くに、つて、のある大学の医局がない。近くにも大学病院は、あるが、近いからといって、あまり話しをしていない、ご近所さんに、きやすく、ものは頼みにくい。それより遠くても、気軽に頼めて、いざ、という時に頼りになるのは何といっても出身母校である。母校は他人ではなく、もはや身内、我が家みたいなものである。いざ困ったことになって泣きつけるところは母校である。それで院長が出身医局に頼んで、女医が来てくれたというところである。この女医を彼は知らない。だが、この女医は半年くらい前から休んでしまっている。それで人手がなくなってしまって、また院長一人になってしまったので、丈太郎がそのあとがま、として来たということになる。エコーもなければCTもない。やる気をもたねば、どんどん最新知識からはなれてしまう。このような病院にきてくれる人はめったにいないだろう。そもそも彼はババッちいニオイのするオンボロ病院が嫌いではないのだから変わっている。院長室は、別にあり、広い医局室を一人で使える。静かにものを書くにはすごくよい環境である。彼も、かえりみてみるに、はたして常勤で、この病院にきてくれる医者は自分以外にみつかるだろうか、と思ったが、たぶん医学的向上、出世を考えている医者のほとんどは、よほど変わり者でなければ、来ないんじゃないかと思われた。そのためか、待遇がよく、医者をひきつけておこうという意識が感じられる。冷蔵庫には、いつもかかさずジュースをきらさないで入れといてくれるし、クーラーはきいてるし、クッキーはおいてあるし。さらには、何と休職中の女医さんの持ち物が入ったダンボールが医局の部屋の隅に置いてあるのである。その中に何と、パンティーが入ってる。しかもTバックのかなりセクシーなのである。つい彼はそれが気になってしまう。彼女は常勤医だったのだから当直もあり、かえ、の下着をもってくることは、おかしくない。しかし休職中に病院に置いたままにしてある、ということはどういうことか。何となく、医師を病院につなげておくための意図的なものなのでは、という妄想が起こってくる。じっさい、それは彼を病院につなげておくために非常に有効に働いていた。
彼は、いけないと思いつつも、ついフラフラとダンボールの方へ行き、彼女のセクシーなパンティーを前に想像の翼をめぐらし、心地よい快感に心を乗せるのだった。医局には彼しかいないものだから、つい箱の中のパンティーが気になってしかたがない。患者の診療中の時まで、その雑念が入ってくる。診療がおわると彼は耐えきれず、急いで医局室にもどり、パンティーを前に、酩酊にふけるのだった。
ある日、彼がパンティーの前に座して夢うつつな気分でいると、ガチャリと戸が開いて、女の人が入ってきた。彼は、あせってパンティーをかくそうとポケットにつっこもうとした。
「あなた、いったい何をしているの。それ私の下着よ」
と言う。丈太郎は心臓が止まるかと思うほどあせった。おこっているがストレートヘアーのかぐや姫のような、うるわしい、いとやんごとないお方である。
「い、いえ。あ、あの・・・」
彼が困っているところを彼女はつづけざまに言った。
「人がいない時に人の下着をあさるなんて、あなたそれでも医者なの」
彼は答えられない。ぬすみを現行犯でみつかった犯罪者で弁明の余地がない。
「あ、あの岡田玲子先生ですか」
彼がおそるおそる聞くと、
「そうよ。ちょっと体調をくずして休んでいたけど、また来月から勤めることになったの。で、病院に電話したら常勤医が一人きたというから、どんな人かと思って、久しぶりに来てみたら、人の下着を無断であさる人だったなんて・・・」
と言って彼女はおこっている。
「ご、ごめんなさい。ゆるしてください」
と丈太郎はひれふしてあやまった。彼女は、しばし丈太郎を細目で見ていたが、黙って去って行った。
水曜日がきた。水曜日になると彼はうれしくなるのだった。というのは水曜日に、当直に、あのお方が来てくれるからだった。前日、新しいクッキーのつめあわせがさし入れされていた。前のクッキーのつめあわせは、ほとんど彼が食ってなくなってしまった。からだ。彼は土日の日当直に、来る当直医にクッキーを食われてしまうことが何となく腹だたしかった。こうなったら当直者用のクッキーと常勤医用のクッキーをわけておくべきだと思った。彼はセサミストリートのクッキーモンスターではなかったが、精神科の仕事は精神的なストレスがかかるので、ついつかれるとクッキーに走ってしまうのだった。これは性格が未成熟なためにおこる神経性過食症というものなのかもしれない。水曜日には、あの方がこられて、医局のベットにおやすみになってくださると思うと彼はうれしいのだった。土日は男の当直医で、部屋をどっちゃらけにして帰るのだが、女の方はつつましく、何もなかったかのようにモクレンのような残り香をのこし医局をさられるのだった。あのお方が横たえられたフトンの、のこり香をつい彼は、ねて、あの方が寝たフトンにねて、あの方と一時的にでも一体化できるような夢心地になってうれしいのだった。彼は二ヶ月でたべられるところのクッキーのひと缶を一週間でカラにしてしまっていた。そこで新しいクッキーがさしいれされた。翌日、クッキーのカンをあけると、一枚だけへっていた。あの方がお召し上がりになられたのだ。ああ、何とつつましいことか。クッキーはたくさんあるから、10枚でも20枚でも食べていいのに、一枚だけお召し上がりになられるなんて。そのお心に彼は大和なでしこのつつましさに心うたれるのであった。彼は腹は減ってなかったが、クッキーを食べようと思った。クッキーには5種類あった。白系、黒系(コーヒー系 )に、クリームつき、のやら、チョコつきのやらだった。あのお方が召されたのは白系の、中心部にチョコレートがのっているものだった。選び方にもつつましい品行方正なお人柄がにじみでている。彼もそれと同じ種類のクッキーを一枚とってたべた。何か、あのお方と一体化できたような、うれしさがおこるのだった。

が、幸福というものは、おうおうにして、長続きするものではない。人生には必ず別れがくる。しかも予告無しに。
ある木曜日の朝、丈太郎は、上気した気分で病院に行った。
彼は、朝一番に、当直日誌を見るのだった。その日は大凶だった。当直日誌には、こう書かれてあった。
「昨夜は、特に何もありませんでした。医局の人事で、当直は昨日までとなりました。長い間、お世話になりました」
丈太郎は号泣した。何度も読み返した。もう彼女は、この病院に当直に来ないのだ。それは、最愛の恋人を失った男が感じる悲しみの百倍の悲しみだった。数日、虚無の日々がつづいた。しかし、丈太郎は、子供の頃から苦難の人生を送ってきて、逆境には強かった。彼は悲哀を忘れようと本腰を入れて、精神保健指定医の勉強を始めた。精神保健指定医というのは国によって認定された精神科医の資格である。これは精神科を選んだ医師は必ず取らなくてはならない資格である。医学の世界では、各科ごとに、色々な専門医の資格がある。内科ならば、内科専門医というように。眼科ならば眼科専門医というように。しかしこれらは、学会がつくった資格であって、国が認めた国家資格ではない。しかし、たいていの専門医の資格は、それぞれの学会が、かなり厳しいテストをつくっていて、やはり、それなりの経験と実力がなければ、取れるものではない。そのため、専門医の資格を持っている医者はそれなりの実力があると見てさしつかえない。
しかし精神科の専門医はちょっと他科と違うのである。精神科の専門医は、精神保健指定医といって、国が決める国家資格なのである。これは、当然といえば当然である。精神科医は、あばれる患者や、自殺の可能性のある患者を個室に隔離したり、拘束したりしなくてはならない。治療の必要があれば、入院をいやがる患者を入院させたり、退院を求めても許可しない権限があるのである。つまり、患者の人権を制限する権限を持っているのである。他人の人権を制限できるのは、警察官と精神科医くらいである。このような、たいへんな権限を持つ資格なので、それは学会のレベルではなく、国が決める国家資格なのである。年に二度、夏と冬に行われる。これはペーパーテストではなく、8症例の患者のレポートを厚生省に提出して、合否が決められるのである。このレポートは、いわゆる医学の研究目的のためのレポートとは違い、精神保健福祉法を理解しているかどうかの、レポートで、医学のレポートというより、法律の条文を重視したレポートである。この審査はけっこう厳しく、落ちる人も多い。しかし精神科を選んだ以上、この審査には、どうしても通らなくてはならないのである。精神科医のほとんどは精神保健指定医の資格を持っている。もちろん、精神保健指定医の資格を持っていない精神科医もいる。しかし、精神保健指定医の資格を持っていない精神科医は、精神科において、人間以下と言われるほど、みじめな立場なのである。精神科医である以上、精神保健指定医の資格は持っていて当然の資格なのである。
なので、丈太郎も指定医の資格を取ろうと、精神保健福祉法の勉強に取り組んだ。

元のように単調な状態にもどった。医局と病棟は離れていて何か用があると、ナースコールがして、病棟に行くのである。ここの病院は、どう見ても赤字経営である事は間違いなかった。そもそも民間の精神病院は赤字経営の所の方が多いのである。そのため、病院は何とか収益を上げようと色々な手を打つ。ボロ病院のわりには、結構、高齢の患者が外来で来るのである。それは、病気の治療というより、孤独な老人が話し相手を求めて来るのである。院長は、そこらへんの、あしらいが上手く、患者を、よもやま話で、病院にひきつけておくのが上手いのである。
受け付けの事務の女性もピンクの事務服である。色っぽい。丈太郎は、初めて彼女らを見た時、思わず、うっ、と声を洩らしてしまった。しかし、患者を集めるには、彼女らの、色っぽい服は、たいして効果は無いだろう。しかし、彼を病院につなぎとめておくには、確実に効果があった。しかし、丈太郎はウブで純粋で、奥手で、スレッカラされていないので、女と話をすることが出来ないのである。
ある日の昼休み、事務の女性が、いつものようにクッキーの缶を持って医局にやってきた。
彼女は、クッキーの缶を冷蔵庫の上に置いた。
「先生。来週から、体調をくずして休職していた岡田玲子先生が復職することになりました。よろしくお願い致します」
そう言って彼女は去って行った。
丈太郎はドキンとした。当直の女医の事ばかり懸想していたので、彼女の事は忘れていたのである。丈太郎はあせった。彼女には弱みがある。彼女のパンティーを手にしている所をもろに見られてしまっているのである。これから、ここで彼女と二人きりで、過ごさなければならないのである。彼女は何と言うだろう。丈太郎は意味もなくグルグル医局の中を歩き回った。

その週末の休日、丈太郎は何と言って弁解しようかと、頭を絞った。そして、ある苦しい、一つのいいのがれを思いついた。

月曜になった。病院についた彼は緊張して、医局のドアを開けた。いつものように、日曜の当直医が、部屋をどっちゃらけにして帰っていったので、彼は丁寧に部屋をかたづけた。病棟に行って、一回りした。ナース詰め所で、隔離患者の患者の状態をカルテに記載し、定時処方の薬の処方箋を書いた。そしてまた、医局にもどってきた。
昼近くになった。ガチャリとドアが開いた。岡田玲子先生である。彼女はチラリと丈太郎を見た。丈太郎はこちこちに緊張して直立して深々と頭を下げて挨拶した。
「岡田玲子先生。はじめまして。山本丈太郎と申します。これから、よろしくお願い致します」
彼女は、黙ったまま、ロッカーから白衣を出して着て、デスクについた。彼と向かい合わせである。彼女の胸には精神保健指定医の金バッジが燦然と輝いている。指定医なのだ。
彼女が黙っているので、彼は小さな声で言った。
「あ、あの。よろしく」
「よろしく。変態さん」
彼は真っ青になった。彼女は上を向いて独り言のように呟いた。
「あーあ。ついてないなあ。これから変態と二人きりなんて。恐くてしょうがないわ」
彼は、急いで彼女の発言を打ち消すように力を込めて言った。
「ち、違います。僕は変態なんかではありません」
「なんで。だって女の下着をあさって、履くじゃない」
「ち、ちがいます」
「どう違うの」
彼はゴクリと唾を飲んだ。そして、昨日、考え抜いた事を堂々とした口調で言った。
「か、患者の半分は女です。ぼ、僕は女の患者の心理を理解するためには、男の視点からではなく、女の視点から理解しなくては本当に女の心を理解する事ができない、と思ったからなんです。あくまで人間の心理の理解の一環だったんです」
「へー。学術熱心なのね。そんな高邁な理由だとは知らなかったわ」
丈太郎はほっとした。
「それなら私もあなたの研究に協力してあげるわ」
彼女はコンパクトを取り出すと、彼など見ずに、ルージュの口紅をつけた。
「あなたに女の心理というものを教えてあげるわ」
「わ、わかってくれたんですね。ありがとう」
彼は最大の難関を無事に通過できた事に感激して随喜の涙を流した。
その時、ナースコールがした。
「あなた、行ってきなさい。私、ちょっと疲れてるから休むわ」
そう言って玲子はベッドに横になった。
「はい」
彼は、元気に返事して病棟へ向かった。
そんな風にして二人の病院勤めが、はじまった。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

精神科医物語(下)

2015-07-13 00:48:51 | 小説
ある日の昼食後、丈太郎は彼女にお茶を入れて出した。お茶を入れる事は、彼の役目だった。その他、全て、雑用は彼の仕事になった。精神科では、指定医の権限は絶大なのである。丈太郎も何としても、指定医になろうと思っていた。指定医を取るためのレポートには、指定医のサインが必要なのである。院長も指定医だが高齢で腎臓が悪く休みの日が多い。どんなに立派なレポートを書いても、指定医のサインがなければ、厚生省に提出することは出来ない。そのため、丈太郎は指定医になるためには玲子にゴマをするしかないのだ。
玲子は、彼の出したお茶を飲みながら、目の前のヤカンをじっと見ていた。
「ねえ、このヤカンかわいいと思わない」
「えっ。このヤカンが、ですか」
丈太郎はどうしても、わからなかった。ただのヤカンである。かわいさなんて、あるのだろうか。
「わ、わかりません。ぬいぐるみとかペットとかなら、わかりますが。ヤカンに、可愛さなんてあるんですか」
「もちろんよ」
「どこがかわいいんですか」
「全体の感じがよ」
彼は首をかしげた。
「あなた、女の心が全然わかってないわね。女は世の中の全てのものを、可愛いか、可愛くないか、という視点でみているものなのよ」
「はー。そうですか」
丈太郎は、なるほど、そんなもんかと思った。
「僕なんか、全然かわいくないですよね」
丈太郎は憐れみを求めるような弱気な口調でボソッと言った。
「そんなことないわ。あんた、けっこう、可愛いわよ」
「心にも無い、お世辞は言ってくれなくてもいいです」
丈太郎は決然とした口調で言った。
「お世辞じゃないわよ」
「どうしてですか。僕は今まで、ずっと、顔をけなされてきました。鏡を見ても、自分でも不細工だなーと思っています。これはもう、客観的に証明された事実なんです」
玲子はやれやれといった顔をしている。
「あなた、全然、女の心が解ってないわね。あなたは男の視点で女の心を考えているわ」
「どうしてです」
丈太郎は食い下がった。
「女は美の主体よ。特に私のような美しい女はね。自分が美を持っているんだから、女は外見の美しい物をムキになって求める気持ちはあまりおこらないの。女にとっては外見の美というものが、可愛さの判断基準じゃないの。その人の性格とか、ちょっとした仕草の中に可愛さを見出した時に、可愛いって思うものなのよ」
「なあるほど」
丈太郎は感心した。また、女が顔より性格に価値を置くのなら、自分もひょっとすると女と関わりを持てるかもしれない、と一縷の望みが起こって、嬉しくなった。

ある日の昼食後。その日は、デザートに苺のショートケーキがついていた。玲子は、それをムシャムシャ食べた。その姿は、ちょうど減量中の力石徹が白木邸で一個のリンゴをむしゃぶりつく姿に似ていた。食べた後、玲子は腹をポンと叩いて言った。
「あーあ。ケーキ食べちゃった」
「おいしくなかったんですか」
「違うわよ」
「じゃあ、なんで後悔じみたことを言うんです」
「あなた、わからない」
「え、ええ」
「本当にわからないの」
「え、ええ。どうしてですか」
玲子のケーキ皿が飛んできた。
「このバカ。トウヘンボク。太りたくないからに決まっているでしょ」
「じゃ、食べなきゃいいじゃないですか」
玲子のフォークが飛んできた。
「あなた、何て無神経な人なの。女はね、人一倍、食いしん坊なのよ。特に甘いものには目がないのよ。食べたい。けど太りたくない。女はいつも、この悩みに苦しみ、もがいているのよ。女はいつもプロボクサーなみの減量地獄と戦って生きているのよ。あなた、そんな事も知らなかったの」
玲子はつづけて言った。
「あなた。それでも精神科医。今まで神経性食思不振症の患者に何て言ってきたの」
「は、はあ。あんまり気にしないようにと・・・」
玲子のナイフが飛んできた。
「このバカ。ウスラトンカチ。それが精神科医のするアドバイス」
玲子は立ち上がって、鬼面人を驚かす形相で丈太郎の前に仁王立ちした。
「今の発言は許せないわ。あなたは、食べる事に対する女の涙ぐましい、けな気な気持ちを踏みにじったのよ。さあ、立ちなさい」
「立ってどうするのですか」
「つべこべ言わず立つのよ」
丈太郎は恐る恐る立ち上がった。玲子は乗馬ムチを握りしめている。
「さあ。手を壁につけて尻を突き出しなさい」
丈太郎は言われるまま、恐る恐る玲子に言われたように壁に手をつけて尻を突き出した。
「さあ。歯を食いしばりなさい」
丈太郎は歯を食いしばった。玲子はムチを振り上げて構えている。
「これは私、個人の怒りじゃないわ。日本の全女性の怒りの代弁よ」
玲子はムチを振り下ろした。
ビシー。
ビシー。
ビシー。
「ああー。痛―い。ゆ、許して下さい。玲子様」
丈太郎は泣き叫んだ。が、玲子は鞭打ちを止めない。百発くらい叩いた。
「ふー。つかれちゃった。でも、まだ、物足りないわ」
玲子は拷問用の算盤板の上に丈太郎を座らせた。そして20キロの御影石を二枚、膝の上に載せた。
「ああー」
向こう脛が算盤板の突端にゴリッと食いいった。
「い、痛―い」
玲子は、丈太郎の苦しみなど、どこ吹く風と石の上に、
「よっこらしょ」
と腰掛けた。
「ぎゃー」
丈太郎のけたたましい悲鳴が部屋に鳴り響いた。が、玲子は薄ら笑いで、尻をゆすった。
「ふふ。痛いでしょ。でもこれは愛の仕置きなのよ。あなたのような鈍感男は、こうして痛い思いをしない限り自覚できないわ。これからはどんどんスパルタ教育でいくからね」
玲子は笑いながら尻をゆすった。
「れ、玲子様。ゆ、許して下さい」
丈太郎は涙を流しながら訴えた。が、玲子は聞く耳を持たない。
「どう。痛いでしょ」
「は、はい。死にたいほど」
「オーバーね。女の生理の時の痛さは、こんなものの比じゃないわよ。この痛みの百倍の痛みなのよ。女の生理の辛さがわかった」
「は、はい。とくと」
玲子は余裕綽々でおもむろにタバコを一服して、吸いかけの火のついたタバコを悲鳴を上げている丈太郎の口の中に放り込んだ。
「ぎゃー」
丈太郎の悲鳴が上がる。もはや脚の感覚も頭の意識も麻痺して、丈太郎は死人のように、グッタリ項垂れた。玲子は、「あーあ」と大あくびをして、遊び疲れた子供のように立ち上がって席に戻った。丈太郎はノックアウトされたボクサーのようにグッタリと床に倒れ伏した。

ある日の事。
昼食後、丈太郎はレポートを書こうと思って、書棚から、精神保健福祉法の分厚い本を持ってきて、読み出した。
「あなた。何をしてるの」
「はい。レポートを書くため精神保健福祉法の勉強をするんです」
すると玲子が物差しでピシャンと丈太郎の手を叩いた。
「な、何をするんです」
「だめよ。そんな真面目に勉強なんかしちゃ」
この言葉の意味はどうしてもわからなかった。丈太郎は怒鳴るような大きな声で聞いた。
「ど、どうしてです」
「あなた、女の心理が知りたいんでしょ」
「・・・え、ええ」
「だったら、そんな真面目に勉強なんかしちゃだめよ」
「ど、どうしてです」
丈太郎はわけがわからず、また大きな声で聞いた。
「あなた、通るレポートを書きたいんでしょ」
「え、ええ。そうです。だから勉強するんです」
「だったら、そんな真面目に勉強なんかしちゃだめよ」
「ど、どうしてです。あなたの言ってる事は目茶苦茶な事のように思えます。あなただって、しっかりしたレポートを書いたから指定医の審査に通ったんでしょう」
「そうよ」
玲子はあっさり言った。
「じゃあ、なんで勉強しちゃいけないんですか」
丈太郎は大声で言った。
「カンが鈍るからよ」
「えっ」
丈太郎は耳に手を当てた。
「女はね、世の中の全ての事をカンでこなしているのよ。真面目に勉強なんかしちゃカンが鈍っちゃうわ」
「うぐっ」
丈太郎は反論できなかった。玲子はちゃんとレポートを書いて指定医の審査に通っているのである。確かに大学時代も女はやたらカンがよかった。真面目に勉強しなくてもカンがいいのか、丈太郎が一生懸命、勉強しても、なかなか通らない難しい試験も女は一回で通る事がよくあったのである。丈太郎はさびしそうな表情で玲子に言われた通り本を閉じた。もう大好きな勉強も出来なくなるのかと思うと丈太郎は泣きだしたくなる思いだった。
丈太郎はしかたなく本を書棚にもどし、かわりに机の上の新聞を手にした。
「××内閣。支持率90パーセントか。しかし靖国神社強行参拝なんかしたら、中国の反感を買うぞ」
彼はボソッと呟いた。
すると彼女は新聞を取り上げた。そして代わりに女性週刊誌をポンと投げ与えた。
「な、なにをするんですか」
「女は新聞なんか読まないものなのよ。女は政治や経済なんて全く関心を持っていないのよ」
「女はあくまで、女性週刊誌しか、読まないの」
「あなた、芸能人の○○と××は、離婚するかどうか、わかる」
「だ、誰ですか。その○○と××という人は」
「あなた、○○と××も知らないの。そんなの女にとって常識よ」
「じゃあ、△△が、所属事務所をやめて、独立したがってるって事は」
「し、知りません」
「あなた、何にも知らないのね。女は芸能人の動向やスキャンダルを血眼になって気にしているものなのよ。一週間後に、質問を出すからね。ちゃんと答えられるように勉強しておきなさい」

その翌日。玲子は朝から機嫌が悪かった。
「あー。むかつく。むかつく」
「何がむかつくんですか」
丈太郎はおそるおそる聞いた。
「生理よ。女は生理が近づくと、むかついてくるものなのよ。知ってる」
「し、知ってますよ。それくらい。月経前緊張ですよね。学生時代、産婦人科学で習いましたから」
「それは頭だけの知識よ。実際の辛さは、どんなものだか経験しなければ、わからないわ」
「ど、どんな痛さなんですか」
「それはもう想像を絶する痛みよ。生き地獄と言ってもいいくらいなものよ。女は顔では笑っているけど、心の中ではこの生き地獄に黙って耐えているのよ。あなたも生理前の苦しみをあじわってみる」
「い、いえ。いいです」
丈太郎は断わった。どうせ玲子のこと。何かひどい事をするに決まっている。
「あっ。痛い」
玲子は腹を押さえて椅子から落ちて、断末魔の人間のように、海老のように縮こまりながら、震える手を虚空に差し延べている。
「あなた、なにボケッとしているのよ。人が生き地獄に苦しんでいるというのに」
「救急車呼びましょうか」
「ばか。あなたは医者でしょ」
「ど、どうすればいいのですか」
「ベッドに運んで」
丈太郎は玲子をベッドに運んだ。
「なに、ボケッとしているのよ。助けようって気持ちはないの。女はデリカシーの無い男が大嫌いなのよ」
「鎮痛薬だしましょうか」
「そんなのとっくに飲んでるわ」
「じゃあ、どうすればいいんですか」
「物まねをしなさい。女は、お笑い、が好きなのよ」
丈太郎は顎を突き出してアントニオ猪木の物まねをした。すぐに玲子のスリッパが飛んできた。
「面白くないわ。よけい生理痛がひどくなったわ」
「ど、どうすればいいのですか」
「ストリップショーしなさい。それなら、きっと痛みも少しは軽減すると思うわ」
「そ、そんな事だけは許して下さい。は、恥ずかしいです」
彼がモジモジしていると、玲子は、つづけて言った。
「あなた男でしょ。私なんか、医局旅行の時、教授をはじめスケベな医局員みんなが、脱げ、脱げ、と言うもんだから、男達の目を楽しませるために、やむなく皆の前で、裸になったのよ。スケベな男の視線に耐えながら。女はつつましいから男に何か要求されると嫌とは言えないものなのよ」
丈太郎は、その光景を想像して、思わず下腹部があつくなった。
が、丈太郎は、本当かな、と眉間に皺を寄せた。
「なによ。その目は。女は疑い深い男が嫌いなのよ。女は正直者なのよ」
「ほれ。お盆」
そう言って玲子は盆をとって、丈太郎の方へ転がした。
玲子の命令に逆らっては指定医のレポートにサインしてもらえない。これも、指定医をとるための煉獄なのだ、と思って、丈太郎は服を脱ぎだした。ワイシャツを脱ぎ、ズボンを脱ぎ、Tシャツも脱いだ。丈太郎はパンツ一枚になった。丈太郎がモジモジしていると玲子は、
「はやく、それも脱ぎなさい」
と促した。丈太郎は、急いでパンツを脱いで、そこを盆で隠した。丈太郎は丸裸になって盆で、そこを隠しているという、みじめ極まりない格好である。玲子はみじめな丈太郎の姿を見てクスクス笑った。
「ボサッと立っているだけじゃ面白くないわ。歌でも歌いなさい」
玲子に言われて、丈太郎は浜崎あゆみの「SEASONS」を熱唱した。
「ほら。もっと腰をくねらせなさい」
玲子に言われて、丈太郎は腰をくねらせて歌った。
玲子はクスクス笑っている。
「じゃあ、今度は床に寝て、喘ぎなさい」
言われて丈太郎は床に寝て、盆でそこを隠しながら、胸を揉んで喘ぎ声を出した。丈太郎は何だか自分が本当に女になったような気がしてきた。
玲子はクスクス笑いながら、
「うまいじゃない。生理痛が、少しは軽減されたわ。もういいわ。服を着なさい。そこまでやった努力に免じて指定医のレポートには、サインしてあげるわ」
「本当ですね。本当にレポートにサインしてくれますね」
丈太郎は泣きながら訴えた。
「ええ。ちゃんと、レポートも指導してあげるし、サインもしてあげるわ。女は約束した事は、ちゃんと守るのよ」
丈太郎は後ろを向いてコソコソとパンツを履き、服を着た。
その時、病棟からのナースコールが来たので、丈太郎は、急いで医局を出て、病棟へ向かった。

その日、勤務がおわった後、丈太郎と玲子は横浜のロイヤルホテルへ行った。製薬会社の主催する新薬の説明会のためである。薬は、その値段を国が決めていて、それを公定薬価という。薬の値段は全国一律なのである。しかし、薬の値段から、製薬会社が薬をつくる費用を引いた金額、つまり製薬会社の利益はかなり、あるのである。そのため、製薬会社は病院に安い値段で販売契約をとろうとやっきになる。できるだけ安い値段で売っても、その値段から薬をつくる純費用を引いた金額、つまり製薬会社の利益は、十分出るため、製薬会社は何としても病院と契約をとりたがる。そして病院は安い値段で製薬会社から薬を仕入れる。そして、患者には公定薬価で処方するから、その金額の差が病院の利益となる。それが、薬価差益である。
そのため、製薬会社のMR(製薬会社のセールスマンみたいなもの)は、足しげく病院にくる。そして自社の薬の宣伝を腰を低くして、医者にするのである。ホテルで薬の説明会などもしょっちゅうするのである。外国から呼んだ高名な医者の講演をしたり、スライドを使って、自社の薬が、他社の薬より優れている客観的な統計を示したりする。その後は会食会があって、ホテルのゴージャスな料理が食べ放題なのである。
彼はどこの大学の医局にも、学会にも入っていないため、この講演会は、とても勉強になるので、よく出ていた。
勉強嫌いな玲子が、めずらしく、今日はこの会に出る、と言ったので、丈太郎と一緒に横浜に行ったのである。もちろん丈太郎は勉強のためだったが、食い意地のはった玲子は、説明会の後の料理のためである事は間違いない。
説明会は8時からなので、二時間待たねばならなかった。
玲子は高島屋へ入っていった。
丈太郎は、こういう高級店に入った事が無いので、タジタジとして玲子のあとについて行った。シャネルだの、エルメスだの、ルイ・ヴィトンだの、丈太郎には、さっぱり分からない。やたら高級そうである。
「あなた。シャネルとエルメスの違いがわかる」
「い、いえ。全然わかりません」
玲子は、やれやれ、といった顔つきである。
「あなた。女では、そんな事、常識よ」
丈太郎が黙っていると玲子はつづけて言った。
「あなた。女はブランドにこだわるのよ。ブランドものを買う時こそ、女の微妙なデリケートな心理が、最高超に達するのよ。あなたにブランドものを買う時の女のデリケートな心理を教えてあげるわ」
そう言って、玲子はルイ・ヴィトンと書かれた店に入って行った。玲子はさかんに店の中を回って、商品を物色している。丈太郎もあとをついて回った。
運動靴が、テーブルの上に厳かに置かれている。
値札を見て丈太郎はびっくりした。我が目を疑った。8万と書いてある。
「な、なんだ。こ、この値段は。どう見ても単なる運動靴が8万円。こんなの靴屋で三千円で買えるぞ」
さらに行くとゴムサンダルがあった。
丈太郎は値札を見て仰天した。5万と書いてある。
「な、なんだ。こ、これは。たんなるゴムサンダルじゃないか。これが5万円だと。こんなのはスーパーでは千円で買えるぞ」
玲子は、そして小さな赤いバッグの前で立ち止まった。値札に8万と書いてある。どう見ても五千円で買える代物である。
同じバッグで色の違う、二つをさかんに玲子は見比べている。
「レッドとフューチャーピンクと、どっちがいいかしら。迷うわー。ねえ、あんた、どっちがいいと思う」
「れ、玲子先生になら、どちらでもお似合いだと思います」
玲子は、10分近く迷っていたが、
「よし。決めた」
と言って、レッドの方を手にした。そして、それを丈太郎に渡した。
「さあ。レジに行って買ってらっしゃい」
丈太郎は、レジに行って財布から8万だして、バッグを受け取った。
そして、すぐに玲子の元に戻ってきた。
玲子はサッとそれを丈太郎から奪いとった。
「どう。ブランドものを買うデリケートな心理がわかったでしょう」
そう言って玲子は、クルリと踵を返して店を出た。丈太郎は一抹の不安を感じ出して、後ろから小声で玲子に声をかけた。
「あ、あの。お金・・・」
玲子はピタリと足を止めて、クルリと振り返ってキッと丈太郎をにらみつけた。
「あなた。女に支払わせようというの」
そう言って玲子はスタスタ歩いていった。
丈太郎は見栄も外聞もなく、子供のように泣き出したくなった。
玲子は、今度はランジェリーショップの前で立ち止まった。
「さあ。ブラジャーを買ってきなさい」
「な、なんでそんな事をしなくてはならないんですか」
「あなた、女の心理を理解したいんでしょ。下着を選ぶ時こそ、女の奥の深い微妙な心理が理解できるのよ」
「で、でも・・・」
「でも、も、へちまもないわ。ブラは試着して買うものなのよ。ちゃんと店員にサイズを測ってもらって買いなさい。パンティーも買うのよ」
丈太郎は真っ赤になって、ランジェリーショップに入った。ブラジャーの前で、モジモジしていると、女の店員がやってきた。ニコニコ笑いながら、
「彼女へのプレゼントですか。サイズはいくつですか」
「い、いえ。あ、あの。そ、その。サ、サイズをは、測って下さい」
途端に店員の顔が引きつった。
店員はメジャーを取り出すと、手を震わせながら丈太郎の脇を通してサイズを測った。
「あ、あの。お客様。トップが88で、アンダーが87ですので、サイズはAAAです。あ、あの、パッドをご使用になりますか」
丈太郎は真っ赤になって肯いた。
店員は、だんだん面白くなってきたらしく、ホクホクして丈太郎を試着ボックスに連れて行った。
上半身裸になった丈太郎に店員は、ストラップを手に通し肩にかけ、ベルトを後ろに回して、ホックをはめ、カップにパッドを入れて、アジャスターを調節した。
「お似合いですわよ」
と言って店員はクスクス笑った。
丈太郎は、
「か、買います」
と言って、急いでブラジャーを外してもらった。丈太郎は急いで服を着て試着室を出た。そして、そろいのパンティーも一枚、とって、レジで金を払い、急いで店を出た。
「どう。下着を買う女の微妙な心理がわかったでしょ」
丈太郎は真っ赤になって、急いで下着をカバンに入れた。
時計を見ると7時50分だった。
二人はデパートをでて、ロイヤルホテルに向かった。
ちょうど、薬の説明会が始まったところだった。
丈太郎は、目を輝かせて一心に講演を聞いたが、玲子は、ちょうど小学生が嫌いな授業を嫌々聞いているような様子だった。
講演は一時間でおわった。
その後の会食での玲子の食べっぷりは、凄まじいものだった。
そして、食べたあと、
「あーあ。食べちゃった」
と、後悔じみた口調で言った。
二人は、帰途に着いた。帰りの電車は、仕事帰りのサラリーマンでいっぱいだった。
やっと駅について、吐き出されるように降りた。
「あしたは、ちゃんと今日買った下着を履いてくるか、持ってくるのよ」
「は、はい」
そう言って、二人はわかれた。

翌日、丈太郎は玲子に言われたように、買った下着を持って出かけた。
その日、玲子は昼食を食べずに、蒟蒻ゼリーを一つだけ食べた。
丈太郎が食べるのを、羨ましそうに眺めながら、
「あーあ。お腹へっちゃったなー」
と呟いた。丈太郎が、
「どうして食べないのですか」
と聞くと、玲子は、
「女は少し食べ過ぎた日の翌日は蒟蒻だけで我慢するものなのよ」
と言った。
食事がおわって二時間くらいすると玲子の腹がグーと鳴った。玲子は空腹の不機嫌のためか、玲子は丈太郎を顎でしゃくって呼び寄せた。
「さあ、椅子になりなさい」
「な、なぜです」
「女はしとやかなのよ。男に命令されると、イヤとはいえないものなのよ」
丈太郎は、しぶしぶ玲子の前で四つん這いになった。玲子は、
「どっこいしょ」
と言って、丈太郎の背中に腰掛けた。
その時、焼き芋屋のマイクが聞こえた。
「やーきいもー。いーしやーきいもー。おいしい、おいしい、おいもだよ」
玲子は彼の尻をピシャリと叩いた。
「あ、焼きイモ屋だ。買ってきなさい」
「女は焼きイモが大好物なのよ」
丈太郎は、急いで、焼き芋を買ってきた。
「ほれ。また椅子になりなさい」
言われて丈太郎は再び、彼女の前で四つん這いになった。
玲子は、丈太郎の背中にドッカと尻を乗せて、焼きイモをホクホクいわせながら食べた。
「あー。食った。食った。ゲップ」
「ぶっ」
「あーあ。おならしちゃった」
「そ、それがしとやかな態度なのですか」
丈太郎は背中の上の玲子に問い糾すように言った。
「わかってないわね。女は一人でいる時には、かなりくだけるものなのよ」
そう言って玲子は丈太郎の背中から降りて椅子に胡坐をかいて座った。
「あなたは女を理想化し過ぎて見ているわ。女の心理が根本的に理解できていないわ」
「さあ。昨日、買ったセクシーなパンティーとブラを身につけて、鏡の前で悶えなさい」
「な、なぜ、そんな事をしなくてはならないんですか」
「わかってないわね。女はあなたが思っている以上に淫乱になりたくなくなる時があるのよ。特に下着を買った時にはね。鏡の前で自分の下着姿を見てナルシズムに浸って、激しく悶えるものなのよ」
丈太郎はコソコソと服を脱ぎ、パンティーとブラジャーを履いて鏡の前に立った。
「さあ、激しく悶えなさい」
そう言われても丈太郎は顔を真っ赤にしてモジモジしている。
「だめよ。そんな、突っ立っているだけじゃ。そっと胸とパンティーに手を当てて、ゆっくり揉むのよ」
丈太郎は、言われたように胸とパンティーに手を当てて、ゆっくり揉みだした。
「そう。だんだん感じてきたでしょ。もっと口を半開きにして、切ない声で喘ぐのよ」
「ああっ」
丈太郎はだんだん興奮してきた。
「そう。いいわよ。そのまま、もどかしそうにブラジャーとパンティーを脱いでいくのよ」
丈太郎の頭はもう混乱していた。本当に自分が女になっていくような気がしてきた。
「さあ、ブラジャーをとって、胸を揉むのよ」
丈太郎はブラジャーとパンティーを脱いで、片手で恥部を隠し、片手で、ゆっくり胸を揉みだした。
「ああっ。いいっ」
「さあ。私を男だと思いなさい。女はいつもは貞淑だけど、いったん、性欲が燃え出すと、徹底的に男に征服されたいと思うのよ。その極地は死よ。女はみな、性欲においては多かれ少なかれマゾヒストなのよ」
「は、はい」
「さあ、床に寝なさい」
玲子は丸裸で床に寝た丈太郎の顔をヒールでグイと踏みつけた。丈太郎の顔が歪んだ。
「ああっ。いいっ」
「ふふっ」
「ああっ。玲子様。好きです」
「ふふ。とうとう本心を吐いたわね」
「本当は女の心理の研究なんかじゃないでしょ。あなたは変態なマゾ男なだけでしょ」
「は、はい。そうです」
「こうやって女にいじめられる事がうれしいんでしょ」
「は、はい。そうです」
「いいわ。たっぷりいじめてあげるわ」
「さあ。犬のように四つん這いになりなさい」
言われて丈太郎は四つん這いになった。
「さあ。舌を出してヒールを丁寧に舐めなさい」
「はい」
丈太郎は四つん這いで、犬のようにペロペロと玲子のヒールを舐めた。
「ふふ」
玲子はヒールでグイと丈太郎の顔を踏みつけ、体重をかけてグリグリと揺さぶった。
「ああっ。幸せです。玲子様」
玲子は足をどけた。丈太郎は思わず彼女の太腿にしがみついた。
「ああっ。玲子様。好きです」
「ふふ」
彼女は白衣を脱いだ。白衣の下はTバックのパンティーとブラジャーだけだった。玲子はその姿のまま、ベッドにうつ伏せになった。
「さあ。奴隷君。体に触れさせてあげるわ。全身をマッサージしなさい」
「はい」
丈太郎は一心にマッサージした。
「玲子様。足を舐めていいですか」
「ふふ。いいわよ。しっかり丁寧に舐めるのよ」
「はい」
「ああっ。幸せです。玲子様」
この日から丈太郎は彼女の奴隷になって、彼女に身も心もつくすようになった。玲子も丈太郎を奴隷として好いている。二人はソフトなSとMの関係を持ったまま、それなりに楽しくこの精神病院で働いている。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

パソコン物語(小説)

2015-07-12 00:11:40 | 小説
パソコン物語

A子は、家が貧しかったため、また彼女は文学好きで、メカに弱く、よろず要領悪く、パソコンやワープロの使い方がわからなかった。彼女は高校を卒業して、ある会社に就職した。が、もちろんシンデレラのように、というか、さとう珠緒の走れ公務員のように、孤独な純真さをきらわれ、先輩にこき使われた。
 その会社には一台のパソコンがおいてあった。みんな時々、手慣れた様子で、パチパチと軽快なリズムでつかっている。A子はパソコンがぜんぜんわからなかった。ので、お茶くみと、そうじにあけくれていた。と、あと、灰皿のかたずけ、と雑用だけだった。A子もパソコンを使えるようにならなくては、と思った。それである日の昼休み、みんながいない時、そっとパソコンのスイッチをいれてみた。カチカチとそっとやってみたら一つの画面がバっとでてきた。A子は心配になった。ああ、どうやっておわらせたらいいのかしら。そう思っているうちにみんながドヤドヤと帰ってきた。ちょうどアラジンとまほうのランプ、でひらけゴマの、あいことば、を忘れてしまったところに盗賊の一団がもどってきたようだった。いじわるな先輩のBさんがいった。
「あなた、いったいなにをしているの?」
A子は、現行犯を逮捕された犯罪者のように、
「は、はい。パソコンをつかっていました。」と言った。
Bさんは、ひややかに言った。
「あなたパソコンの使い方、知っているの?」
A子は、うつむいて涙まじりに答えた。
「い、いえ。知りません。」
Bさんはさらにおいつめた。
「知りもしないくせに、無断でかってにいじって、こわれたらどうするの?パソコンは高いし、使い方はむつかしいのよ。」
A子は涙をポロポロ流し、
「ゴメンなさい。でも私もはやく仕事になれようと思って、パソコンの使い方をオボエなくては、と思っていました。」
Bさんはフンと鼻でせせら笑って、パソコンの使い方はむつかしいのよ。パソコンをつかおうなんて10年はやいわよ。あなたは当分、お茶くみと便所そうじ、と雑用よ。と言って、Bさんは、ことさら、みんなー、気をつけましょう。新人の子は、人がいない時に人のものに手をつけるかもしれないわよー、と言う。みなは、わー、いやだわ、といって、自分の引き出しをカタカタあけて、何か盗まれていないか調べだした。A子は、子供のようになきじゃくっている。Bさんは、フン。ゆだんもスキもあったもんじゃないわ。といって、パソコンのイスにすわろうとすると、ふん、このイスは、ちょっと具合が悪いから修理しなくちゃならないわ。つかえないからイスにおなり。といってA子をひざまずかせた。A子が四つんばいでイスになっている上に、Bさんが、どっしりとおしりをのせてすわり、パソコンをパチパチはじめた。A子はみじめこのうえなかった。パソコンはね、むつかしいけど、また同時に、サルでもできるという一面も、もっているものなのよ。トロイ人間が一番ダメなのよ。あなたなんてサル以下よ。Bさんは、仲間に目くばせして、ネコのたべのこした残飯に、のみのこした、牛乳をかけてA子の前においた。さあ、おたべ、といわれて、A子はなきじゃくりながらたべた。
 一ヵ月してやっとA子に給料がでた。そのなかから、二万五千円をだして、A子は、パソコン教室にかよった。ウィンドウ98と、ローマ字入力のしかた、ワード、表計算のし方、ファイルの移動などをおぼえた。そして次の給料で、ワープロを買った。会社がおわると、すぐアパートへもどって、ローマ字入力のしかたを練習した。もともと、何かをはじめると一心にとことんやってしまうA子のこと。一ヵ月くらいでタッチタイピングをおぼえてしまった。そして超図解のパソコンの本をよんで勉強して、パソコンの使い方をおぼえてしまった。
 ある日の昼休みのこと、A子は、前と同じように、みんながいない時、パソコンのスイッチを入れ、ワードに入力していた。この前と同じように、みんながドヤドヤともどってきた。が、みんなはシンデレラをみるように目をみはった。なぜならそこには、ほとんど音がしないほどのすばやさで、ピアニストのような神技の手さばきで完全なブラインドタッチで入力しているA子がいたからである。その手さばきは達人の域だった。みんながアゼンとしている中を、A子はサッと立ちあがって、自分の席にスッともどった。(便所そうじと雑用のA子だったが、一応自分の席はもっていた。)そのあと、その場は気まずいフンイキだった。いったいいつの間に、あんなに身につけてしまったのかしら。そのあとBさんがいつものようにパソコンに入力をはじめた。A子はモップで床をふきながら思った。フン。入力速度がぜんぜんおそいわ。これみよがしにパチパチはでな音をたててみっともないわ。ふふ。サル以下なのはあなたの方じゃない。Bさんはだんだん恥ずかしくなってきた。Bさんはブラインドタッチでは入力できず、キーボードをみながらでないと入力できなかった。パソコンが使えるようになったA子は、上司から仕事をたのまれるようになり、会社の有力な戦士の一人となり、トイレそうじはみんなで順番ですることになった。A子は、電子メールで知りあったステキな彼氏とつきあうようになり、結婚してしあわせになりました。
とさ。めでたし。めでたし。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

たけくらべ(小説)

2015-07-11 02:03:40 | 小説
たけくらべ

 純と愛子は幼馴染である。小学校から中学と、一緒だった。子供の頃から一緒に遊んでいた。いわば本当の兄弟のように。純は内気で、体が弱く、男の友達の中には、入っていけなかった。内気な少年の必然として、自然、与えられた学校の勉強に凝るようになった。その他、あらゆる学科で上位になった。だが、運動は全くダメ。逆上がりも出来ない。一方、愛子は明るく元気で自然、友達も出来たが、当然、女の特性として、数学はダメ。勉強は総じてダメだった。結果、純は愛子の家庭教師のようになってしまった。
「純君。教えて」
といった、ものほしそうな愛子の瞳を純はすぐ察知した。愛子も、あまりにも遅れている低レベルな質問を、他の人に聞くのは、恥ずかしいが、純なら恥ずかしくはない。
「ばか。こんな事も分からないのか」
と、からかいながらも純は丁寧に教えてやった。愛子は、
「てへへ」
と、笑いながらも、
「ああ、そうか。わかった」
を繰り返した。だが、困った事が出てきた。子供の頃は、スカートめくり、などと、ふざけていっていたものが、違う意味をおびだした。のである。愛子の間近に座っていると、愛子に起こり始めたアドレスンスの胸の隆起や、肉体の成熟が、同じく起こり始めている純のアドレスンスを刺激した。第二次性徴といっても、精神的には女は男に嵐のように起こる性欲の亢進に、気づかない。純は勃起したマラを気づかれないようにするのに苦労した。純は家でも亢進した性欲に苦しめられた。何より、勉強中にも起こる性欲のため、成績が下がることを恐れた。純は内向的で、優しい人間がおちいる性的倒錯だった。天性に宿っているマゾヒズムが第二次性徴の性欲の亢進で激しく純を悩ませた。純は女に踏まれ、裸にされ、縛られることを想像して興奮した。電車の中で、膝組みしている美しいOLを見るとつい足に目が行ってしまう。
「ああ。あの足に踏みつけられたい」
ある勉強を教えに愛子の家に行って、勉強が終わって、一休みになった。愛子は、
「おやつ、持ってくるわね」
と言って、パタパタと階下へ降りて盆にジュースにクッキーやら、せんべいを載せて戻ってきた。
「はい」
と言って、差し出しても純は黙ってモジモジしている。
「どうしたの」
愛子は純の顔を覗き込んだ。
「あ、あの」
純は口唇をカタカタ震わせている。
「ぼ、僕を踏んで」
言って純は真っ赤になって俯いた。
「えっ」
少女は一瞬、真っ赤になって我が耳を疑うといった表情になった。
「ぼ、僕をいじめて」
「じゅ、純君。マゾなの」
「う、うん」
少女は一瞬、ためらった表情になったが、しばし目前で、うなだれている純を思案げに見つめていたが、意を決したといったキッパリした口調で言った。
「わかったわ」
純は全てをまかすといった様子でドサリと畳の上に倒れ伏した。少女は椅子に座ったまま、そっと白いソックスに包まれた足を少年の頬に載せた。踏まれた途端、少年は、
「ああー」
と、眉を寄せて苦しげな声を上げた。
「え、遠慮しないで。もっと体重をかけて強く踏んで」
少年は靴下の下から叫ぶように言った。言われるまま、少女は体重をかけて猫をじゃらすようにグイグイ足を揺すった。
「ああー。いいー」
少年は目尻から涙を流しながら、被虐の喜悦の悲鳴を上げた。少年に言われるまま、少女は足で少年の口を塞いだり、目を踏んだりした。しばし少女は純の顔に足を載せてじっとしていた。純は、女に顔を踏まれている事を実感しているかのように顔を火照らせて、目を瞑ってじっとしている。
「愛ちゃん」
「なあに」
「今度はプロレスごっこしよう。愛ちゃんが関節技で僕をいじめるの」
「ふふ。いいわよ」
愛子は純をうつぶせにして、純の背中に乗り、手を後ろに捻り上げた。愛子は、
「チョーク」
と言って、首を閉めたり、口と鼻を塞いだりした。
「ああー」
純は、苦しげな声を出した。
「愛ちゃん。今度は、仰向けにして、乗って」
「わかったわ」
愛子は純を仰向けにして。その上を跨いで、どしんと胸の上に尻を降ろした。そして脇腹をくすぐったり、口を塞いだりした。純は愛子にくすぐられる度に、つらそうに眉を寄せ、
「ああー」
と苦しげな声をだした。愛子は、
「ふふふ」
と笑った。愛子の顔の真下には、純の顔がある。
純は目をつぶって、口を大きく開いた。
「愛ちゃん。唾を入れて」
愛子は、ふふふ、と笑って、唾を純の口の中に垂らした。
純はゴクリと唾を飲み込んだ。
「愛ちゃん。唾を顔にかけて、塗って」
愛子は、ふふふ、と笑って、純の頬に唾を垂らし、満遍なく顔に塗った。
「ふふ。何か面白くなってきちゃった」
愛子は、そう言って唾を塗られた純の顔を見た。
「愛ちゃん。向きを変えて」
「いいわよ」
愛子は純の足の方に顔の向きを変えた。
「さ、さあ。いじめて」
愛子は、純の玉をつかみ、力を入れて握ったり、引っぱったりした。
「ああー」
純が悲鳴を上げると愛子は、つかむ力をゆるめた。
「愛ちゃん。顔にお尻を載せて」
「えっ」
少女はためらいの表情になった。
「で、でも私、重いわよ」
「だ、大丈夫。お願い」
「で、でも、そんなの私が恥ずかしいわ」
「お願い。愛ちゃん」
「わ、わかったわ」
少女は、恐る恐る純の方に尻をずらしていった。そして、ついにそっと少年の顔の上に、申し訳なさそうに尻を載せた。愛子は足と手で体重を支え、出来るだけ純に体重がかからないようにした。
「ああっ。恥ずかしい」
少女は自分の尻が純の顔に触れると、切ない叫びを上げた。
「あ、愛ちゃん」
「なあに」
「手と足で体重を支えないで、全部載せちゃって」
「で、でも。私、重いわよ。そんな事して大丈夫」
「大丈夫だよ。重いと言ったって、たかが女の子一人の体重。どうって事ないよ」
愛子は申し訳なさそうに、少しずつ、手足の支えを緩めていった。ついに愛子は純の顔の上に座る形になった。
「は、恥ずかしいわ。純君にくさい所の匂いまでかがれちゃって」
「クサくなんかないよ。とってもいい匂いだよ」
愛子は真っ赤になった。
「重くない」
愛子は恥ずかしそうな顔で聞いた。
「だ、大丈夫。遠慮しないで、リラックスして」
純は愛子の尻の下から苦しげな顔から声を絞り出した。しばし、そのままの時間が経った。
「ああー。いいー。愛ちゃん。お尻を載せたまま、余裕を示すため、おやつでも食べて」
言われて愛子は煎餅を一つとって、四つに割って、そのひとかけらを口の中に入れた。愛子は煎餅をポリポリと食べた。
「ああー。いいー」
純は被虐の喜悦を上げた。
「一度、女の子にこうされたかったんだ」
静かな部屋に無言の時間が流れていく。純は今まで、ためにためてきた夢想の現実化の実感の喜びに浸り切っているという様子である。
「純君。つらいでしょ」
「ううん。大丈夫。気にしないで」
「気にするわよ。相当つらいはずだわ」
「僕は大丈夫。愛ちゃんはどんな感じ」
「は、恥ずかしいわ。純君にくさい所の匂いまでかがれちゃって」
「クサくなんかないよ。とってもいい匂いだよ」
愛子は顔を真っ赤にして尻をプルプル震わせている。
「もうちょっとこうしていて。僕は何ともないから」
愛子は石のように固まったまま、不動の状態をとりつづけた。しばしの静止した時間が経った。愛子が遠慮がちに相手の許可を求める恐れ恐れの口調で重たい口をやっと開いた。
「じゅ、純君。もうつらいでしょ。お、降りるわ。いいでしょ」
「うん」
純は十分満足したのか、素直に返事した。愛子はほっとした様子で、載せていた尻をのけて恥ずかしそうに俯いて座った。純はゆっくりした動作でムックリ起き上がった。純はもう、ためらいがふっ切れたという表情である。
「愛ちゃん。ありがとう」
「う、ううん」
愛子は顔を真っ赤にして答えた。
「愛ちゃん」
「なあに」
「僕を裸にして」
「ええー。どうしてそんな事するの」
「脱いで裸になったみじめな姿を女の子に見下されて、惨めになりたいんだ」
「わ、私はどうするの。私も脱ぐの」
「ううん。愛子ちゃんは脱がないよ。僕だけ裸になった、みじめな姿を愛子ちゃんが見下すんだ」
「わ、わかったわ」
そう言うや純は力を抜いて愛子に体をまかせるように寄りかかった。
愛子は純の服を脱がせ出した。ワイシャツを脱がせ、ランニングシャツも脱がせた。華奢ではあるが血色のいい瑞々しい上半身が露わになった。愛子は靴下を脱がせ、ベルトも緩めてズボンも脱がせた。愛子はパンツも脱がせて足からぬきとった。純は丸裸になった。純は男の恥部を手で隠しながら愛子の前に正座した。純は脱いだ服を全部まとめて愛子に、畳の上を滑らせて渡した。
「なあに。純君。純君の服を私がどうするの」
「僕は愛ちゃんに裸にされて、服を取り上げられちゃったんだ。だからどこかへ隠してきて」
「わ、わかったわ」
愛子は差し出された服を抱えて階下の押入れの奥に仕舞い、また、パタパタと戻ってきた。
純は脚を寄り合わせ、恥部を両手で隠して、恥ずかしそうに裸の体をモジモジと必死に隠そうというような素振りをしている。
愛子は元々お転婆なので、だんだんこの奇矯な遊戯を面白く思うようになってきた。
「さあ。愛ちゃん。椅子に座って、裸の僕を見下して。おやつを食べながら」
言われるまでも無く愛子は椅子に腰掛けて、膝組みしてストローでジュースを吸いながら、裸でモジついている純を、女帝が残酷な遊戯を楽しむようなイジワルな目つきで眺めている。
純はしばしボーとした表情で、いたが、犬のように愛子の前に四つん這いになった。
「さあ。愛ちゃん。僕の背中に乗って」
愛子は、ふふふ、と笑って、裸で四つん這いになっている純の背中に跨った。
「さあ。純君はお馬よ。いいと言うまで、右回りにぐるぐる回りなさい」
愛子は純の肩甲骨に、突っ張った手を載せて、バランスをとり、相撲取りの四股のように、股を大きく開いて、下半身のバランスをしっかりとった。純は膝を大きく開いて踏ん張って、肘をピンと伸ばし、背中に乗っている愛子を中心に、手と足を交互に一歩ずつずらして、右回りに回り始めた。愛子は自分を中心に回転しているのが面白くなって、背中でキャッキャッ騒ぎ、だんだん足は踵を浮かせ、足先はバランスをとるだけにして背中に体重を全部載せるようになった。
「もっと早く回りなさい」
と言って、尻をピシャリと叩いたり、
「今度は左回りよ」
と言って、回転の方向を変えさせたりした。遅いと尻をピシャリと叩いた。純は全体重がかかったまま、四つん這いでグルグルいい加減長く回っているうちに、だんだん疲れてきて、息が切れて手も痺れてきて、回転の速度が遅くなり、背をガクガク震わせるようになった。そうすると愛子は容赦なく、
「乗り心地が悪いわよ」
と言って、尻をキュッとつねった。とうとう純は体をガクガク震わせながら立ち往生してしまった。
「ゆ、許して下さい。愛子様」
純は泣き出しそうな情けない口調で哀訴した。愛子は、
「ふふふ」
と笑って、
「わかったわ。もう許してあげる」
と言って、立ち上がり、椅子に腰掛けて膝組みした。イジワルな微笑で純を見下して笑っている愛子の足元へ純はヨロヨロと近づき、
「お許しくださり、有難うございました」
と、恭しく言って、足をペロペロ舐めた。
「さあ。愛ちゃん。僕は愛ちゃんの奴隷だよ。いろいろ命令して」
愛子は、
「ふふふ」
と笑って、靴下を脱いだ。
「さあ。純君は私の飼い犬よ。四つん這いのまま、こっちへおいで」
「はい」
純は犬のようにいざりながら愛子の前に来た。
「さあ。足の指をお舐め」
愛子は純の鼻先で膝組した足をブラつかせながら、遠慮ない命令的な口調で言った。
「はい」
純は愛子の足の指をペロペロ舐めた。愛子は、
「あん。くすぐったいわ」
と言いながらも、マッサージのような心地よい快感に興奮しながら、浸って身を任せていた。純が土踏まずをペロリと舐めると、
「あん。くすぐったいわ」
と言って、足を反射的に引っ込めた。愛子は足を組み替えて、床につけていた足を純の鼻先に突きつけた。
「さあ。今度はこっちの足よ」
「はい」
純は同様にペロペロ舐めた。愛子はもはや純に足を舐めさせても何のためらいも感じなくなっていた。
「そのまま四つん這いになってなさい」
愛子はそう言い残して、部屋を出てパタパタと階下へ降りて、ドッグフードと牛乳と小鉢を持って戻ってきた。愛子は小鉢を出して、褐色の兎糞状のドッグフードを入れて、それに牛乳をかけた。
「さあ。お食べ。犬なんだから四つん這いのまま、舌ですくって食べるのよ」
「はい」
純は言われたように、四つん這いのまま、肘を曲げ、首を伸ばしては、牛乳で崩れたドッグフードを少量ずつ咥えては、少し咀嚼してから飲み込んだ。
「よしよし。牛乳も底がきれいになるまで全部、お飲み」
言われたように純は首を伸ばして牛乳に口つけしてはズーズーすすり、飲み込んだ。そして、底が見えてくると愛子に言われたように舌を出して、小鉢の底をペロペロ舐めた。顔を上げた純は、鼻の頭や頬っぺたには、牛乳が惨めにまみれている。愛子はクスッと笑って、
「よしよし」
と言って、ティッシュで純の顔を拭いた。
「愛ちゃん。あ、あの・・・」
と言いかけて純は真っ赤になってうつむいてしまった。
「いいわよ。何でも。私、もう、何を言われても驚かないから・・・」
「あ、あの。軽蔑しないでね」
「うん」
「誰にも言わないでね」
「うん」
「あ、あの・・・。女の子のパンティー履いてみたい」
純は蚊の鳴くような声で言った。愛子は、
「ふふふ」
と笑った。
「いいわよ。私のパンティーでよければ・・・。どんなのがいい」
愛子はそう言って衣装箪笥を開けた。
「あ、あの。出来るだけ女の子っぽいの。ピッチリしたの」
「私、そんなお洒落じゃないから、派手なのとか、セクシーなのはないわ」
これで我慢してくれる、と言って、愛子はピッチリした黄色のパンティーを取り出した。
「う、うん。ありがとう」
純はそれを受け取ると小さな声で、
「み、見ないで」
愛子はクルリと体を反転させ、後ろを向いた。しばしして、
「もういいよ」
との声。愛子が振り返ると、果たしてそこには真っ赤にうつむいてピチピチの黄色のパンティーをはいて、女の子のように膝を揃えて、横座りしている純の姿があった。男の余計なものが無理やりに詰め込まれて、モッコリと異様に膨らんでいる。あわやの動きではみ出しかねない。純は真っ赤になって、うつむいて、両手を膨らんだそこに、隠すように当てている。
「ふふ。純君。似合うわよ」
「ふふ。純君。とっても可愛いわよ」
愛子が揶揄する度に純はいっそうドギマギして頬が紅潮する。
「どう。女の子になった気持ちは・・・」
「・・・・」
「愛ちゃん」
「なあに」
「あ、あの。ブ、ブラジャーもつけてみたい」
純は真っ赤になって言った。
「いいわよ」
愛子は、ふふふ、と笑って、衣装箪笥からブラジャーを取り出した。
愛子は、うっとりしている純の胸にブラジャーを当て、背中でホックをプチン、プチンと、留めた。
純はパンティーとブラジャーを取り付けられた体をピクピク震わせている。玉がパンティーからはみ出さないよう、ピッチリ腿を寄り合わせている。
「ふふふ。純君。似合うわよ」
そんな揶揄を言われても純は黙ったまま、真っ赤になってピクピク体を震わせている。ソワソワともどかしそうにパンティーとブラジャーの上に手を当てて隠しながら。それは恥らっている女の姿だった。愛子は笑いながらマニキュアの小瓶や、メイク用のマスカラやら口紅やらを取り出して、純の前に楽しそうに並べた。
「はい。純君。手を出して」
「な、何をするの」
「メイクよ。純君は女の子になりたいんでしょ。うんと綺麗にメイクしてあげるわ」
躊躇している純の手を掴むと愛子はマニキュアの小瓶を開けて、刷毛で純の爪に派手な赤色の液を塗りだした。
もう純はボーとした表情で、ダランと力を抜いて、愛子のなすがままになっている。
「ふふ。純君の手、細くて、華奢で女の子みたい。マニキュアがよく似合うわ」
愛子はそんな事を言いながら笑ってマニキュアを塗っていった。ダランと垂れた華奢な手の爪に真っ赤なマニキュアが塗られている。
「はい。次は右手」
片手を塗り終わると、愛子はもう一方の手を掴んで、その手も彩色した。
「はい。おわり」
彩色し終わると愛子は刷毛をマニキュアの小瓶に戻した。
「どう。綺麗でしょ」
愛子はマニキュアが施された純の手首を掴んで、純の目の前につきつけた。愛子は、そう言って、手を離したが、自由になった、彩色された指は、いやがうえにも目についてしまい、純は手をモジモジさせている。
「じゃあ、次は顔ね」
と言って、愛子は薄紫のアイシャドーを塗り、ビューラーで睫毛をカールさせ、マスカラを塗った。そしてルージュの口紅を丁寧に塗った。愛子は純のピッチリ閉じている足を掴み、楽しそうに時間をかけてペディキュアを塗った。そして首にネックレスをかけた。そして楽しげな手つきで両方の耳に大きなハートの飾りのついたイヤリングを着けた。
「はい。出来たわよ」
愛子はパンパンと手をはたいて、メイクの道具を机の引き出しに戻した。愛子は等身大の鏡を純の正面に立てた。
「はい。女の子になった純君の姿」
純は恐る恐るの様子で鏡を見た。そして見ると同時に咄嗟に真っ赤になって目をそむけて俯いた。
そこには女の下着を履いて、派手なメイクを施されている純がいたからである。
「ふふ。可愛いわよ。よく見なさい」
愛子は純の顔を鏡に向けさせた。いやおうなく純のメイクされた顔が鏡にうつる。
「ふふふ」
愛子はそれを見て笑った。しばし純は鏡の中に写っている女の格好の自分を顔を真っ赤にして顔をそらして見ていた。
「愛ちゃん。縄で僕を縛って」
突然、純が訴えるように言った。愛子はニコッと笑った。
「わかったわ。じゃあ、縄を持ってくるから、ちょっと待ってて」
そう言って愛子は、部屋を出て、直ぐに縄を持ってパタパタと戻ってきた。
「さあ。両手を後ろに回して」
「はい」
純は華奢な腕をそっと後ろに回して、手首を重ね合わせた。愛子は重ね合わさった手首を捕って、縄尻をとった。手はダランとしている。愛子はピョンと椅子に腰掛けた。縄尻をグイと引くと縄がピンと張り、体がユラリと揺れる。純はおし黙って自分の世界に浸っているという感じである。
「ふふ。純君。こうされたかったんでしょう。捕まえられて、縛られる女の子に・・・」
純は黙っている。
「ふふ。純君。ちかく、純君のためにブラジャーとパンティーをデパートに買いに行きましょうね。もうこれからは一生、女物の下着だけで過ごすのよ。女物の下着だけで学校に来るのよ。きっと、ウットリして気持ちいいわよ」
純は顔を赤くして黙っている。
愛子は、ふと、純のカバンを手にして、中をゴソゴソあさりだした。
「あっ。愛ちゃん。やめて」
純は、身を捩って訴えたが、後ろ手に縛られているため、どうしようもない。
愛子は、カバンの奥に、カバーのかけてある本を見つけて取り出した。めくってみると、ドギついSM写真集である。女が丸裸で柱に縛り付けられていたり。後ろ手に縛られて、きれいに剃られたアソコをことさらエロティックに見せるために、褌のようにカッチリと縄が女の秘所に食い込むようにとりつけられている。脚は言いようも無いほど大きく開かれている。その他、尻を高々と突き上げている写真。竹や梯子を使って、実に恥ずかしいポーズにされている写真が項をめくるたびに現れた。愛子は息を弾ませながら食い入るように見た。
「すごーい。ものすごい写真」
「純君て秀才なのに、こういうのを隠れてこっそり見ているのね」
などと感心したような口調で言う。
「純君はマゾだから、こういうみじめな格好の女の人に感情移入して興奮してるんでしょ」
「愛ちゃん。僕をいじめて。僕、愛ちゃんになら殺されても幸せだよ。うんとうんと酷くいじめて」
純は顔を真っ赤にして言った。愛子は、ふふふ、と笑った。
「いいわ。うんといじめてあげる」
そう言って、愛子は縄尻をとった。
「純君。立って」
言われて純はヨロヨロと立ち上がった。少しでも気を緩めると玉がはみ出てしまう。勃起したペニスの先も、はみ出る直前である。純はそれらが何とか見られないよう、膝を寄り合わせ、腰をモジつかせた。愛子はそれを余裕で眺めている。
「ふふ。困ってモジついている純君。かわいいわよ」
「私ってサドなのかしら」
と言って愛子は、ふふふ、と笑った。
「じゃあ、家の中を散歩しましょうね」
そう言って、愛子は立ち上がって、縄尻をクイと引っ張った。愛子は純を連れて部屋を出て、階段を下りた。純は、
「真直ぐ。左。右」
と、愛子が後ろから指図するのに従って歩いた。
「ふふふ。パンティーがピッチリしてて、かわいいわよ」
「何だか捕虜にした女の子を引き回しているみたいで面白い」
などと言って。風呂場に入れて行った。
「ふふ。水、かけちゃおうかしら」
などと言って、パンティーが濡れない所まで、足に水をかけた。そしてタオルで濡れた足をふいた。風呂場を出て食卓につくと、愛子はイチゴケーキを持ってきた。純は、後ろ手に縛められて手が使えないので、どうしたらいいか、わからずに困った顔つきである。愛子は自分が一口食べると、純の皿のケーキを一切れ切って、
「はい。アーンして」
と言って、大きく開いた口の中に入れた。愛子は自分のケーキを一切れ切って、食べながら、純にもケーキを食べさせ、純がケーキを咀嚼して、ゴクリと飲み込むのを楽しそうに眺めた。
ケーキを食べ終わると。愛子は純を玄関へ連れて行った。
「はい」
と言って、ヒールサンダルを出し、純に履かせた。愛子もヒールサンダルを履いて玄関に下り、ドアを開けた。午後の蒸し暑いムッとするような空気が入ってきた。
「な、何をするの」
「ちょっとだから。その姿で庭に出て御覧なさいよ」
そう言って愛子は純を無理やり外に出し、急いでドアを閉め、ロックした。ドンドンと純が体をドアに当てている音が聞こえる。愛子は居間のソファーに、足を投げ出して、余裕で座った。正面はガラス戸でレースのカーテンがかかっている。純は庭に回って、ガラス戸ごしに身をすりつけ、訴えるように何かを叫んでいる。が、防音で、音が遮断されて、何を言っているかは分からない。純は玄関に戻って、インターホンを鳴らした。
「愛ちゃん。お願い。中へ入れて」
「純君はいじめられたいんでしょ」
「でも、それは、あくまで愛ちゃんとの二人きりの秘密ということだよ」
「でも、私の言う事には何でも従うんでしょ」
「ともかく入れて。こんな姿、人に見られたら大変だよ」
「それがスリルがあるんじゃない。私、一休みするから、純君もスリルを楽しみなさいよ。きっと純君もスリルが快感になるわ。純君の性格なら」
「そんな。愛ちゃん。お願い。家へ入れて」
そんな純の訴えを無視して愛子はインターホンをきった。愛子はソファーに横たわって、目を瞑り、わざと寝乱れた姿をとった。クーラーが聞いていて部屋は心地いい。愛子はソファーに身をもたせた。全身横たえられるソファーと、足にひんやり触れる心地よい皮の感触から、いろいろに体を崩した。スカートがめくれても気にならなかった。
しばし愛子は、ソファーの心地よい感触に身を任せていた。
グウという自分のいびきで、愛子は起こされた。時計を見ると時間は三十分経っていた。
愛子は、立ち上がって窓ガラスの所へ行った。庭には純はいない。愛子は玄関に行って、ロックを開いてドアを開けた。玄関の前に純が小さく縮こまっている。純は顔を上げた。
「愛ちゃん」
純は潤んだ瞳を愛子に向けた。
「ふふ。純君。よく我慢したわね。もう許してあげるわ。入りなさい」
純はソロソロと立ち上がって、家の中に入った。
「どう。スリルがあって気持ちよかったでしょう」
純は答えない。が、恥ずかしそうに頬を紅潮させている。
「否定しないって事は、気持ちよかったって事ね」
愛子は嵩にかかったように楽しそうに言った。
愛子はソファーに座って、純を隣に座らせた。愛子は、
「つらかったでしょう。よく我慢したわね」
と言って、純の体をいたわるように揉んだ。いたずらっぽく、乳首をキュッとつねったり、尻を撫でたりした。が。純はもはや逆らおうとはしなかった。
「あ、愛ちゃん。もう、どうにでもして」
純は目を瞑って叫ぶように訴えた。愛子は、
「ふふふ」
と笑って、
「ふふふ。いいわよ。うんとおとしめてあげる」
と言って、純の縄尻をとった。愛子は純にアイマスクをした。
「な、何をするの」
愛子は、それには答えず、純の縄尻をとって、外に出た。愛子の誘導、によって、純はどこへ行くとも知れず歩いた。
「あ、愛ちゃん。どこへ行くの」
純が不安げに尋ねた。愛子はそれには答えず、
「ふふふ」
と笑った。

しばし歩いた。純には、どこをどう歩いたのかも分からない。愛子の足が止まった。
そこは学校に程近い、荒れた社だった。周りは雑木林で囲まれている。一本の太い立ち木がある。ここは、生徒が煙草を吸ったり、お菓子を食べながらお喋りするために来ることもある所である。愛子は、一本の立ち木立に純の縄尻を回して、木に縛り付けた。そして目隠しをとった。
「あっ。愛ちゃん。ここは」
愛子は持ってきた純のカバンからノートを取り出して数学の教科書を下敷きにして、ボールペンをサラサラッと走らせた。
「な、何を書いているの」
純が不安げに言った。愛子は書き終わると、それを純の鼻先へつきつけた。それにはこう書かれてあった。
「僕は青葉台高校一年の山本純という者です。僕は秀才ですけど変態です。僕はマゾで女装趣味があります。通行人の方。どうか、僕の恥ずかしい姿をとっくり見て下さい」
純は真っ青になった。
「や、やめて」
必死で叫ぶ純を無視して、愛子はいたずらっぽく笑いながら、純の頭の上に、それを画鋲で紙をとめた。あたかも江戸時代の晒し者の罪人の前に立てる罪状の立て札のように。
愛子は純のカバンから、500ccのオレンジジュースのペットボトルを取り出した。
「はい。純君。暑いから脱水になるといけないわ」
「い、いいよ」
イヤそうに顔をそむける純の顎をつかんで、愛子はペットボトルの口を純の口に突っ込んで、無理やり飲ませた。周りの木々の中では蝉がミンミン鳴いている。純は眉をしかめ、苦しげな表情で、んぐんぐ言わせながら、最後の一滴まで飲まされた。愛子は純が飲むのを楽しそうに見つめている。
「はい。お茶も飲みたいでしょう」
「い、いいよ」
と顔をそむける純に愛子は無理やり、ペットボトルの口を突っ込んで、麦茶を飲ませた。愛子は、折ってきた木の枝で純の体を子供の悪戯のように、あちこちつついた。しばしして、純は足をモジモジさせだした。
「ふふ。どうして足をモジつかせているの」
と言って、愛子は純の脇腹を爪の先でスッとなぞった。
「あっ」
純が悲鳴を上げる。
「ふふ。どうしたの」
純はうつむいて黙っている。
「おしっこがしたいの?」
純は頬を赤らめて小さく肯いた。愛子は、
「ふふふ」
と笑って、
「じゃあ、私は帰るわよ。一時間したら、戻ってくるからね。しっかり通行人の人に見てもらうのよ」
愛子は祠の前に立ってパンパンと柏手を打った。
「どうか、私がいない間、誰も来ませんように」
そう言って愛子はクルリと背を向けて歩き出した。愛子が帰ろうとすると。
「待って。愛ちゃん」
と言う純の訴えを後に愛子はパタパタと帰ってしまった。

あとにはパンティーとブラジャーを着て耳にハートのイヤリングをつけ、ルージュの口紅をつけて木に縛り付けられた純が残された。杉木立に囲まれた社の一角の木に女の下着を身につけて、気に縛り付けられている光景は何とも珍妙である。

しばししてキャッキャッと騒ぎながら石畳を上ってくる二人の女の声が聞こえた。純はギョッとして体を震わせた。が、木に縛られているため、どうすることも出来ない。二人は事もあろうに同じクラスの銀子と桂子だった。二人は女物の下着を履いて、木に縛られている純を見て、ギョッとして顔を見合わせた。
「いったい、どうしたの。純君」
「お、お願い。見ないで」
二人は純の訴えを無視して近づいて純の顔を覗き込んだ。純は顔を真っ赤にして横を向いた。二人は純の頭の上にある張り紙を見つけて声を出して読んだ。
「僕は青葉台高校一年の山本純という者です。僕は秀才ですけど変態です。僕はマゾで女装趣味があります。通行人の方。どうか僕の恥ずかしい姿をとっくり見て下さい・・・だってさ」
「へー。人は見かけによらないわね。純君がマゾで女装趣味があったなんて・・・」
「数学が出来る人って変態が多いって聞いた事があるけど、やっぱり本当なのねー」
ことさら驚いたように銀子が言った。
「何言ってるの。そんな事聞いたこと無いわ。自分が数学が出来ないからって負け惜しみ言ってるだけじゃない」
桂子は銀子の頭をコツンと叩いた。
二人は顔を見合わせて腹を抱えて笑った。
「きっと今まで学校にも学生服の下にブラジャーとパンティーを履いて、通っていたのねー」
「でも誰が縛ったのかしら。これ、自分じゃ縛れないわ」
銀子が後ろ手に縛りつけられている純の手首の所を覗き込んで言った。
「きっと、誰か純君とこういう趣味の合うパートナーがいるのよ」
「誰かしら。うちの学校の生徒かしら。男の子かしら。女の子かしら」
「ともかく、マゾで見られたいって言うのだから、とっくり見て、いじめてあげましょう」
と言って、二人はコチョコチョ純の脇腹を二人がかりで擽りだした。
「ああっ。やめて。銀子さん。桂子さん」
純は顔を右に向けたり、左に向けたりして叫んだ。二人はだんだん図に乗ってきて、キャッキャッ言いながら純の体をあちこちをくすぐった。ブラジャーの上から胸を揉んだり、痴漢のように、パンティーの上から尻を撫でたりした。
「やめて。お願い。銀子さん。桂子さん」
二人はだんだん図に乗ってきた。
「ふふ。マゾの人の発言の『やめて』は『やって』の裏返しだわ」
そう言って二人は笑いながら、いっそう激しく純をくすぐりつづけた。
とうとう純は耐え切れなくなったように叫んだ。
「ああっ。やめてっ。お願い」
純は全身を捩りながら激しく足踏みした。
「純君。どうして足踏みしてるの」
そう言って二人は悪戯の手を止めた。純はさかんに足をモジモジさせている。その純の前には空のペットボトルが二本転がっている。
「ああ。そうか。パートナーの人に二本も飲まされて、尿意に耐えているのね。かわいそう」
「でも、そうされて苦しむ事がマゾの人には嬉しいんでしょ」
「マゾの人ってかわいそうね」
そう言いながらも、二人は純に猫のように近づいて、爪の裏でスッと体を撫でたりした。
「ああっ」
純は悲鳴を上げた。
「ふふ。純君。このまま激しく擽られたら本当にもれちゃうわよ。そんなのイヤでしょ」
純はベソをかきそうな顔で肯いた。
「だったら、もっと丁寧な言葉使いで恭しく頼みなさい」
「そうよ。私も何だか興奮してきちゃったわ。私達もあなたの女王様になってあげるわ」
と言って、銀子はチラリと自分のスカートをめくって見せた。
「銀子様。桂子様。どうかくすぐるのはお許し下さい。私は銀子様、桂子様の命令には何でも従う奴隷になります」
そう言って純は殉教者のようにガックリうな垂れた。
二人は、ふふふ、と笑った。
「わかったわ。私達、純君の女王様になって、たっぷりいじめてあげるわ」
銀子は落ちていた木の枝を拾って、モジモジしている純のパンティーの膨らんだ所に当てて、プニョブニョさせた。
「ふふ。モジモジさせている純君。とってもかわいいわよ」
「ふふ。いつまで我慢できるかしら」
などと揶揄の言葉をかけた。銀子は木に立てかけてある、純のカバンを持ってきた。
「これ。純君のカバンでしょ」
純は黙って肯いた。
「何でカバンがあるのかしら」
「パートナーの人が置いておいたのよ。きっと何かわけがあるんだわ」
「ともかく開けてみましょうよ」
二人は興味深そうに、その中をゴソゴソ漁った。奥にカバーのかけてある本を見つけて取り出した。めくってみると、ドギついSM写真集である。女が丸裸で柱に縛り付けられていたり。後ろ手に縛られて、きれいに剃られたアソコをことさらエロティックに見せるために、褌のようにカッチリと縄が女の秘所に食い込むようにとりつけられている。脚は言いようも無いほど大きく開かれている。その他、尻を高々と突き上げている写真。竹や梯子を使って、実に恥ずかしいポーズにされている写真が項をめくるたびに現れた。二人は息を弾ませながら食い入るように見た。
「すごーい。ものすごい写真」
「純君て秀才なのに、こういうのを隠れてこっそり見ているのね。やっぱり数学が出来る人ってむっつりスケベなのね」
などと感心したような口調で言う。
「純君はマゾだから、こういうみじめな格好の女の人に感情移入して興奮してるのね」
「でも、これ18禁でしょ。立派な犯罪じゃないの」
「そうねー。これは問題だわねー。今度のクラス会議で問題にしましょう」
「じゃあ、今ここで予行演習やってみましょう」
「さあ。純君。クラス会議の時間よ。いつものようにはじめて」
そう言っても純は口を開こうとしない。足をモジモジさせている。銀子は純の脇腹を爪の先でスッと撫でた。
「ああっ」
純は悲鳴を上げた。
純は頼りない声で語り始めた。
「で、では今週のクラス会議を始めます。な、何か議題のある人は手をあげて下さい」
「はい」
銀子が勢いよく手をあげた。
「は、はい。銀子さん」
純は足をモジモジさせながら言った。
「最近、我が校の生徒で著しく性的な風紀を乱している人を見かけました。具体的には言葉では言えないほどです。まず、こういう事に関する委員長の意見を述べて下さい」
純は眉を寄せ、足踏みしながら苦しそうな表情で言った。
「ぼ、僕たち学生の本義は勉強に励み、運動に励み、学業と身体の向上に勤める事にあります。そして母校の一員として、誇りと責任を持って絶えずモラルの向上を意識して行動すべきです。銀子さんは、その方を知っているのですから、まずは個人的に厳しく注意していただけないでしょうか。それでも聞かないようであれば、私に告げて下さい。今日は性風紀の乱れについて議論したいと思います」
「言ってる本人がこんな事やってるんだからねー」
「厳重に注意しないとねー」
「ダメよ。もうこんな事しちゃ」
と言って銀子は純の頬をピシャンと平手打ちした。
「でも注意したからって止めそうにないわよねー。名前を挙げてみんなで議論した方がいいんじゃないかしら」
そう言って銀子は純の脇腹を爪の先でスッと撫でた。
「ゆ、許してください。も、もういじめるのは。銀子さん。桂子さん」
純は泣きそうな顔で言った。
「さん、じゃなくて、様、でしょ」
と言って銀子は純の鼻をキュッとつまんだ。
「お、お許し下さい。銀子様。桂子様」
二人はベンチに腰掛けて純のカバンの中からノートを取り出した。そしてパラパラッとめくった。
「すごーい。この前、出された宿題の答えが全部もうきれいに書いてあるわ」
「どれどれ」
と言って桂子も覗き込んできた。
「わー。ほんと。模範解答ねー」
「近くにコンビニがあるからコピーしてきちゃおうかしら。いい。純君」
「は、はい。どうぞコピーなさって下さい」
そういう純の声は震えていた。足踏みもいっそう激しくなっている。二人はそれを見てクスリと笑った。
「いや。コピーは後でさせてもらうわ。手書きで移した方が頭に入るわ。私達も少し勉強しましょう」
「そうね。書き写した方が勉強になるわね」
そう言って二人は純の数学のノートを開いて書き写しだした。時々、顔を上げては激しく足をモジモジさせ、歯をカチカチ噛み鳴らしている純を見てはクスリと笑いながら。
セミがやかましく鳴いている。
しばしの時間がたった。
純は激しく足踏みして、全身を捩らせ出した。
とうとう純は悲鳴を上げた。
「ああー。お願い。銀子さん。桂子さん。あっち向いてて下さい」
二人はノートの手を休めて笑いながら顔を上げて純を見た。見る見るうちに純のパンティーにシミが広がっていき、堰を切ったようにジョロジョロと流れ出し、足を伝わって地面に広がっていった。
純はガックリとうな垂れている。
「あーあ。こんなにしちゃって。どうするの」
「出し切って気持ちよかったでしょう」
「濡れたパンティーじゃ気持ちが悪いでしょう。脱いで乾かしましょう」
そう言って銀子は純の腰の前に屈んだ。銀子はパンティーのゴムに手をかけた。
「や、やめてー。お願い。銀子さん」
「じゃあ、どうするの」
「このままにしておいて下さい」
「そういうわけにもいかないわよ。じゃあ、私のパンティーを貸してあげるわ」
そう言って銀子はスカートの中に手を入れて、履いていたパンティーを脱いだ。
「桂子。スカートを脱いで」
「えっ。どうして」
「純にスカートを履かせてあげるのよ。スカートを履いている間にパンティーを換えれば、見られないでパンティーを交換できるじゃない」
「わかったわ」
そう言って桂子はスカートのホックをはずしてスカートを脱いだ。そしてスカートを銀子に渡した。
「さあ。スカートを履かせてあげるわ。片足を上げて」
銀子は桂子のスカートを受けとると、純の片足をピシャリと叩いて上げさせた。そしてスカートをくぐらせた。同様にして銀子は反対側の足にもスカートをくぐらせ、スルスルと引き上げて、腰のホックをはめた。
純は上はブラジャーに、下は桂子のスカートという格好である。二人はプッと噴き出した。
「ふふ。純君のスカート姿、とっても似合うわよ」
銀子は純のスカートの中に手を入れて、パンティーをつかむとスルスルと降ろして濡れたパンティーを抜き取った。そして、それをビニールに入れた。桂子が、
「ふふふ」
と笑って、木の枝で純のスカートをソロソロと上げた。
「ふふふ。スカートめくり」
「あっ。いやっ」
純は膝を寄り合わせて抵抗した。
「桂子。悪ふざけはやめなさいよ。純君の数学のノートまで貸してもらえるのに」
銀子にたしなめられて桂子は、
「テヘヘ」
と笑って木の枝を捨てた。銀子は脱いだ自分のパンティーを純の足に通し腰の位置まで上げてピチンとはなした。純はほっとした様子である。
「どう。女の子のスカートっ便利でしょ。見られる事なく、下着を履き替えたり、取り替えたり出来るんだもの」
「その点、男の子は不便よねー。やっぱり女に生まれてよかったわ」
「何言ってるの」
そう言って銀子は桂子の額をツンとつついた。二人は顔を見合わせて笑った。
「どう。純君。桂子のスカートを履いた気持ちは」
「はい。お慕いする桂子様のスカートを履けてとても幸せです」
桂子は怒った顔で銀子の額をピシャンと叩いた。
「いやだわ。銀子。なに、変な事言わせてるのよ。恥ずかしいじゃない」
そう言って桂子は純を見た。
「それより。どう。銀子のパンティーを履いている気持ちは」
桂子が言った。
「はい。憧れの銀子様のパンティーを履けて無上に幸せです」
今度は銀子が桂子の頭をコツンと叩いた。
「いやだわ。桂子ったら。変な事言わせて。恥ずかしいじゃないの」
そう言って二人は顔を見合わせてクスクス笑った。
「でも純君の木に縛められたスカート姿、本当に可愛いわよ。金閣寺の雪姫みたいで。哀愁があって。今度、純君に私も下着だけで木に縛ってもらおうかしら」
銀子がそう言うと、
「私も」
と桂子が言った。二人はしばらく、うつむいて黙っている純をみとれて眺めていた。しばしの時間がたった。
「じゃあ、もうスカートを履いての哀愁は十分味わったでしょ。返してもらうわよ」
そう言って桂子は純のスカートのチャックをはずして、降ろし、スカートを抜き取った。そしてそれを急いで履いた。
純はブラジャーと銀子のパンティーという格好で木に縛られて、うな垂れている。
「スカート姿もいいけど、あらためて見るパンティーとブラジャー姿も哀愁があっていいわねー」
「じゃあ、もう、そろそろ帰りましょうか。十分楽しんだことだし」
「そうね。純君のパートナーの人に会っちゃうのも気まずいし」
銀子は純の履いていた濡れたパンティーをビニール袋に入れて、カバンの中に入れた。そして純の数学のノートをヒラつかせて。
「じゃあ、純君。数学のノート借りるわよ。パンティーは洗って返すわ。私のパンティーも洗って返してね」
そう言って純の数学のノートを鞄の中に入れた。二人は帰っていった。あとには木に愛子のブラジャーと銀子のパンティーを履いて木に縛られている純が残された。

階段をのぼってくる人の音がした。愛子だった。愛子は楽しそうな顔で。
「どうだったー。一時間。長かったー。誰も来なかったでしょ」
と、一方的に言った。愛子は地面に広がっている水びたしの地面を見て。
「うわー。すごーい。漏らしちゃったのねー」
と、嘆声を上げた。
「でもパンティーは全然濡れてないし。それに、私のじゃないわ。一体、どういう事かしら」
「ねえ。純君。何があったの」
「まあ、縄を解いてから、ゆっくり聞くわ」
そう言って愛子は純の縄を解いた。後ろ手の縛めも解いた。純はクナクナと倒れるように座り込んだ。
「はい。純君の上着とズボンと靴」
と言って、愛子は持ってきたバッグから取り出した。
「ねえ。そのパンティー誰の。何があったの」
と、聞いても純は黙っている。愛子は純を立たせて、ブラジャーをとり、ズボンをはかせ、シャツを着せ、靴を履かせた。そしてハート型のイヤリングをとり、口紅もティッシュでふいた。
「ねえ。どうしたの」
愛子が心配そうな口調で聞くと、純は、
「愛ちゃん。ひどいよ。僕もう学校行けないよ」
と言って、大声で泣いて愛子にしがみついた。愛子は
「よしよし」
と言って純の頭を優しく撫でた。愛子は何だか自分が純の母親になったような気がした。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校教師(小説)

2015-07-10 05:28:25 | 小説
高校教師


 設定 Situasion
 東京郊外のある私立の女子高校で、
一学期の半ば頃、英語担当の女教師が結婚して、他県の高校へ、転任することになったので、今春大学をでて、ある男子校で教鞭をとっていた山武に、彼女から後任のたのみがもちかけられました。彼は彼女と同じ大学で、クラブの後輩でした。山武はこれをひきうけました。山武は女子高の近くのアパートに引っ越して、さっそく女子高で教鞭をとることになりました。山武は英語の担当の他に、二年B組の担当もすることになりました。山武は内気な性格でしたが、熱心なため、生徒達の評判もよかったのですが、でも担任の二年B組の一生徒、根木玲子はなぜか山武が自分にだけはよそよそしい態度のように感じられてなりませんでした。一学期が無事終わり、夏休みも過ぎ、二学期も半ばにさしかかったある秋の日のこと…・。

 三日つづけて山武が学校を休んだ日の昼休み、玲子はそのわけを教員室にたずねにいった。すると何でも山武はどこかの男子校に転任するらしいとのことだった。
 その日の放課後、玲子は山武のアパートをたずねた。
 玲子は山武が自分をさけているような気がしてならなかったのだ。その疑問がわからないまま山武が転任してしまうのはなんともあとくされが悪い。さらに玲子はなんだか山武が転任するのは自分のせいであるような気さえしていた。山武のアパートは学校の最寄の駅から二駅目で、駅から歩いて十分くらいの静かなところにある四階建てのワンルームマンションだった。
周りは一面大根畑だった。このあたりの土壌は、深くてやわらかい黒つちなので、大根、にんじん、ごぼうなどの根菜類に適していた。山武の先任の女教師もそこに住んでいた。以前、玲子は数人の友達と、その女教師のアパートをたずねたことがあったので、場所は知っていたのだ。
 先任の女教師が転任して部屋をでるのと入れ替わるように、山武が同じ部屋に入居したのである。玲子は駅前の不二家でマロンケーキとモンブランを買っていった。途中、玲子は通行止めにあった。
 小学校低学年くらいのい子供達が四、五人、道にしゃがみ込んで、チョークで絵を書いている。玲子はしゃがみこんで、馬の絵を書いた。
 子供達は、
 「うまーい。」
 と言って拍手した。その中の一人の子は自分達の言ったことばが、しゃれになっていることに気がついて笑った。一人の子が、
「もっとかいて」
と催促した。が、玲子は立ち上がり、
「ちょっと用事があるから、また今度ね。」
と言って手を振って歩き出した。
 それから数分もしないうちに山武の住んでいるアパートが見えてきた。
 山武の部屋は3階だった。玲子が戸をノックすると鈍い返事がして、足音が聞こえ、戸が開いた。そして中から山武が眠そうな目をこすりながら、ものぐさな様子でぬっと顔を出した。
それをみて玲子はクスッと笑った。山武は予期しない訪問者にたいそう驚いた様子で、へどもどして、さかんに髪をかいて、「やあ。」と返事した、が当惑して
「すまないがちょっとまって。」
と言って戸を閉めた。中でどたばた音がする。5分位して戸はまた開いた。出てきた山武をみて玲子は再びクスッと笑った。山武は、いつも学校へ着てくるスーツを着ている。さすがにネクタイまではしていなかったが。
 「よくきてくれたね。まあ、とにかく入って。」
 山武は言った。玲子は山武の口調に、かすかに社交辞令ではない真意があるような気がしてうれしくなった。通された部屋は応急手当したあとらしく、多少きれいにかたづいていた。
 「あんまりきれじゃなくてすまないけど…・。」
 と言って山武は玲子に座布団を差し出した。それはぺしゃんこで生地が光っていた。
 玲子はカバンを置いて、座って部屋をみまわした。
 さすがに教師の部屋だけあって書物が多い。
 まさに汗牛充棟である。山武は英文学が専攻だった。
 心理学や哲学の本が多かった。
 「先生。ケーキを買ってきました。」
といって玲子はそれを机の上に置いた。
 「やあ。それはどうもありがとう。じゃ今、お茶を入れるよ。紅茶でいいかな。」
 と山武が聞くと、玲子は「はい。いいです。」と答えた。
 山武は台所にポットと紅茶ととティーポットと紅茶茶わんをとりに行った。
 紅茶ちゃわんは一つしかなかったのいで、自分は湯のみにすることにした。
幸いポットはいっぱいだった。それをやかんにうつしてあたためなおしたが一分もかからずお湯はわいた。
 キッチンからもどって山武は玲子と向かい合わせに座った。
 「先生。モンブランとマロンケーキのどっちが好きですか。」
 「君はどっちがいい。」
 「私はどっちでもいいです。先生のために買ってきたんです。先生が好きなほうをとってください。」
 「そう。じゃ、マロンケーキをもらうよ。」
 山武はあっさり答えた。もし、モンブランがなかったら、レストランに入るとすくなくても3分はメニューとむきあう、優柔不断度の偏差値が少なくみても65はある山武に、この選択に最低でも一分は費やさせたであろう。山武があっさり答えられたのはモンブランがあったからである。アルコール分解酵素の少ない山武は以前モンブランを食べて、それに含まれている少量のブランデーで顔が赤くなって恥ずかしい思いをした経験があるからである。山武は紅茶を入れた。二人は紅茶が出るのを少しの時間、待った。
 「あっ。そうそう。ケーキはいくらした?」
山武はあわてて財布をだした。
 「いいです。私のおごりです。」
 「いや、そういうわけにもいかないよ。僕が払うよ。」
 「先生。」
玲子は少し強い口調で言った。
 「人の好意は素直にうけるものですよ。ショートケーキ二つなんて五百円しかしません
。」
「…・わかったよ。ごめん。」
確かにそのとうりだと思って山武は財布を内ポケットに戻した。二人は食べ始めた。山武はなんだか、照れくさくて、うつむき加減に食べた。
玲子はそんな山武がちょっと面白くて、じっと山武をみつめながら食べた。普通こういう時、女同士だったらしゃべられずにはいられない。
だが山武は内気な性格なので、こんな時、何を話したらいいのかわからないのである。
(何か話さなくてはならない。でも何を話したらいいのかわからない。)と山武は困っている。
玲子はそんな山武の心を見ぬいている。
 山武は玲子から目をそらすようにして紅茶を飲んだ。重苦しい沈黙を玲子がやぶった。
 「先生。どうして転任なさるんですか?」
山武は、たいそう驚いた様子で、口の中に含んでいた紅茶をあわてて飲み込んだ。
 「いや、それは、つまり、その…・。」
山武はさかんに髪をかきあげながら、あやふやな返事をした。山武が当惑して口篭もるのを玲子はじっとみつめていた。玲子は何かやさしいことばをかけようかと思った。が、やっぱりそれはやめた。山武の本心をききだすには、こうしてだまってじっとみているのがいちばんいい。玲子は眉を微動だにせず、じっと山武をみつめつづけた。数分その状態が続いた。物理的には短い時間だったっが、精神的には山武にとって長い時間だった。山武はとうとう沈黙に耐えられなくなって、観念して言った。
 「僕個人のちょっとした事情のためさ。」
 「事情って何です?」
 玲子はすぐに聞き返した。
 「だからそれはいえない事情だよ。」
山武は湯呑に茶をつぎたした。山武は少しほっとして眉をひらいた。玲子もそれ以上問い詰める気にはならなかった。
 「わかりました。それならばもうそのことは聞きません。そのかわり…。」
と言って、玲子は声を少し強めた。
 「そのかわり、一つ教えて下さい。」
 「ああ、いいよ。」
 山武は肩の荷がおりた安堵感でおちついた口調で言った。
 「どうして私を無視するんですか?」
 (うっ。)
 山武は驚きで一瞬のどをつまらせた。
 「無視なんかしてないよ。」
山武はあわてて否定した。
 「ウソ。先生は授業の時もホームルームの時も一度だって私をみたことがないわ。先生はわざと私から目をそむけるようにしていたわ。」
 「そんなことはないよ。もしそうみえたんだとしたらあやまるよ。…ごめん。」
 「あやまってもらわくてもいいんです。どうして私を無視するのか、そのわけを教えてください。」
玲子の口調は真剣だった。
山武は大きなため息をついた後、目をつむり、額に手を当てて再び黙ってしまった。重苦しい沈黙が再び起こった。山武は額にしわを寄せ、唇をかんだ。その沈黙を玲子はおちついた口調で破った。
 「先生。何か悩んでいらっしゃるんじゃないでしょうか?」
 山武の瞼がピクっと動いた。
 「なやんでなんかいないよ。」
 山武はすぐに否定したが、その声は少しふるえていた。それがはっきりわかったので玲子は少しうれしくなった。
 「うそだわ。顔にあらわれてるもん。」
 山武は答えない。
 「先生。悩み事があるんでしたら教えてください。私でお役に立てることがありましたら何でもします。」
 「ありがとう。でもいいよ。これは僕の問題だから…・。」
 「ひきょうだわ。先生。」
 玲子は間髪を入れずピシャリと強い語調で言った。山武は玲子の発言に驚いた。
 「ひきょうってなぜ?」
 「だって先生、ホームルームの時おっしゃったじゃないですか。悩み事があったら、どんな事でもいいから一人で悩んでいないで話しにきなさいって…・。」
 「それとこれとはわけがちがうよ。」
 「どうちがうんですか?」
 「それは…・僕は教師で、君達は生徒という立場の違いだよ。」
 「そんなのわからないわ。人にいってることを自分はしないなんて、やっぱりずるいわ。それに先生が学校をやめるんなら先生と生徒という関係もなくなるんじゃなくて?」
 (うぐっ。)
 山武は再びのどをつまらせた。
 再び沈黙に入りそうな気配をおそれた玲子は勇気をふるって言った。
 「先生。やめないでください。これは私の気持ちであると同時にみんなの気持ちでもあると思います。だって先生はとってもやさしいんですもの。でも私だけは別みたい。私、今日先生が学校をやめると聞いて、それは何だか私のせいのような気がしてしようがないんです。いいえ、きっとそうにちがいないわ。私、先生にやめられたらつらくてしかたがないわ。私のせいで先生がやめるなんて…・。これは私の思い込みでしょうか?」
 玲子の目にキラリと一粒涙がひかった。
 「教えてください…・。先生。」
 玲子は涙にうるんだ瞳をに向けた。
 玲子はつかれていた。山武も同じだった。山武はうつむいたまま両手で顔をおおった。再び沈黙がおとづれた。静まり返った部屋の中で置き時計の音だけがだんだん大きくなって聞こえてくる。たまに聞こえるのは夕焼け空をわたる烏の鳴き声くらい…・。
 二人はともに悩み、そしてつかれていた。山武はうつむいていたが玲子の気持ちは手にとるように伝わってきた。
 (これ以上、彼女を苦しめるのは教師として失格だ。)
 山武は決断した。
 「じゃ、話すよ。」
 その口調にはやや諦念の感があった。
 「でもいったらきっとけいべつされるだろうな。」
 山武は上目づかいに半ば独り言のように言った。
 「そんなことぜったいしません。」
 玲子はきっぱり言った。
 「いや、するよ。」
 「しません。」
 山武は大きくため息をついた。
 「だれにもいわないでくれる。」
 「いいません。」
 「ほんとう?」
 「私は敬虔なクリスチャンです。神に誓います。」
 山武は再び大きくため息をついた。それは以前の悩みのため息とは違う諦念のため息だった。
 「実は…・。」
 「ええ。」
 玲子は少し身をのり出した。
 高校生は好奇心のかたまりである。そして教師を説得させたという思いが彼女を少し陽気にさせていた。
 玲子は好奇心満々の表情だった。目は、かっと大きくみひらかれ、その照準は寸分たがわず山武の口唇に定められ、そして全神経を耳に集中しているかのごとくだった。まさに満を辞して山武の返答を待っているといった様子である。
そんな玲子をみて山武の言葉はまたとぎれてしまった。玲子の心に少しいらだちが起こった。
 「先生。男でしょ。」
 この言葉はいかに気の小さい男にでも行動を起こさずにはおかないものである。山武のためらいは完全に消え去った。
 「じゃ、言うよ。けいべつされても、もういいよ。実は…・・夜、床につくとなぜか必ず君の顔がうかんでくるんだ。そして…・」
 と言って山武一瞬はためらった。が、
 「そしてどうなんです。」
 と玲子が非常に強い語調で言ったので、山武は(もうどうとでもなれ)という捨て鉢な気持ちになってきっぱり言った。
 「そして君がいろんな拷問にかかって、泣き叫んでいる姿が浮かんでくるんだ。」
 言って山武は強く目をつむってうつむいた。あと彼女が自分をどう思うか、それはもうすべて彼女に任せてしまったのだ。そう思って山武は恐る恐る顔を上げた。玲子はにこにこしている。山武はおそるおそる聞いた。
 「どう。けいべつした。」
 「ううん。けいべつなんかしてないわ。ほんとうよ。でもちょっとおどろいたわ。」
 玲子の目には確かに軽蔑の念は感じられなかった。山武はほっとした。玲子は無邪気に笑っている。
 「でもどんな拷問なの。」
 「いえないよ。そんなこと。」
 「ずるいわ。たとえ想像でも私を拷問にかけといて…・私知る権利あるわ。」
 彼女は子供っぽい口調で言う。山武の心に瞬時に彼女に秘密を話してしまったことに対して後悔の念が起こった。いわなければよかったと思った。玲子の心変わりのあまりもの速さに、さっきの玲子の真剣な表情や、涙の訴えなどは実は多少芝居がかっていたのではないかと、鈍感な山武は今になってはじめて思った。そういえば玲子は演劇部でもある。だがもうおそい。覆水盆に返らず…・である。一度聞かれてしまった言葉は一生忘れられないのである。
 「どんな変質的な拷問なんですか。」
 玲子はじっと山武を見据えながら聞いた。
 「言えないよ。そんなこと。かんべんしてくれ。」
 山武は紅潮した顔を下げて哀願した。
 「だめです。言ってください。」
 玲子は眉を微動だにせず真剣な表情で山武の哀願を却下した。玲子はまるで宇宙人でも見るかのような目つきで黙ったままじっと山武を見つめつづけた。数分そのままの状態が続いた。
 山武は何だか自分が刑事の尋問をうけている犯罪者のような気がしてきた。玲子の固定した視線が山武を苦しめた。(もちろんこれは玲子の芝居である。こうすることが山武を最も苦しめるということを玲子は知っている。だが小心な山武にはそれがわからないのである。)いつまでたっても玲子は黙ったまま山武をじっと見つめている。このままでは自分が言わないかぎり玲子はいつまでもこの状態を続けるだろうと山武は思った。また玲子もそのつもりだった。それで、とうとう山武は玲子のこの沈黙ぜめに耐えきれなくなって、尿意は起こっていないが、
 「ちょっとトイレにいかせてくれ。」
 と言って立ち上がろうとした。だが玲子はすぐさま「だめです。」といって山武の腕をつかんで引きとどめた。この玲子の強引な行為に山武はおそれを感じて、トイレに行くのをあきらめて腰を下ろした。玲子は相変わらず黙然とした表情で炯々と山武をみつめている。ついに山武は玲子の黙視責めに耐えられなくなって
 「わかったよ。はなすよ。話すからどうかその宇宙人をみるような目はやめてくれ。」と言った。
 「そうです。言ってください。」
 「ええと。何についてだったかな。そうそう。今度の文化祭で、何をやるかについてだったね。」
 といって山武は手を打った。だがそんな子供だましが通用するはずがない。玲子はあいかわらず真顔で山武をみつめながら即座に、
 「ちがいます。想像で私をどんな拷問にかけて楽しんでいたかについてです。」
 おそれを感じてすぐさま、
 「別にたのしんでなんかいないよ。僕の意思とは無関係におこるんだよ。」あわてて弁明する。山武の頭の中は混乱していた。やっぱりいわなければよかった、とつくづく後悔した。
 だがもうおそい。のってしまった船である。山武はうつむいてため息をついた。
 しばしの時間がたった。山武の頭は混乱から疲弊状態へと移っていった。
 「実家で父親と母親が病気で寝ているんです。」
 などとありもしないことを目に涙を浮かべて言いたくなった。
 窮鳥もふところにはいれば…・。
 それで山武はチラッと玲子をみた。するとそこにはさっきと少しも違わない氷のような無表情の玲子のまなざしがあった。そしてそのきびしい女刑事のような表情は無言のうちにこう語っているように思われた。
 「君はもうすでに完全に包囲されてる。いかなる抵抗も無駄である。」
 山武はついにこの女刑事に自首する覚悟をきめた。
 「わかったよ。いうよ。」
 だがそれは彼女に軽蔑の念が全くなかったとしても最悪の羞恥の念なしには言えるものではなかった。言いながら声が震えてきた。
 「雪の日に木に縛りつけたり、算盤板の上に正座させて石を膝の上にのせたり、木につるして火あぶりにしたり、体がやっと入るくらいの頑丈なガラスの箱に入れてヘビを入れたり…・。」
 「ひどいわ。私ヘビなんていれられたらとてもじやないけど耐えられない。」
 言いながら玲子はクスクス笑い出した。
 それをみてはじめて、鈍感な山武は玲子の芝居に一杯くわされたことを知って地獄におとされた罪人のようにくやしがった。
 「でもどうしてそんなことするの。私がそんなに憎いの。」
 「にくくなんかないよ。むしろ…・。」
 と言ってあわてて口篭もった。
 「じゃ何で私を拷問にかけるの。」
 「わからないよ。自分でも自分がいやでたまらないよ。」
 「学校やめるのもそのため。」
 「ああ。そうさ。こんな性格の教師、失格だよ。」
 玲子は今度はさっきとはうってかわったうれしそうな顔である。
 「先生。やめないで下さい。私なら別にかまいません。」
 「ありがとう。本当なら僕のほうから言うべきなのに。まったくなさけない話しだ。」
 「転任するのもそのため。」
 「ああ。そうだよ。」
 「先生。やめないで下さい。私なら本当にかまわないんです。」
 彼女の口調は真剣になった。
 「ありがとう。でも君かよくても僕がだめなんだ。こんな性格で女子校の教師をするべきではないよ。」
 「そんなこと絶対にありません。先生ほどいい先生めったにいません。授業は誰がきいてもわかるように丁寧に教えてくださるし。とってもやさしいし。」
 「ありがとう。僕だってできることならこの学校でつづけたいさ。でもやっぱりやめるべきだ。僕自身苦しいしね。僕のこの変な癖は昔っからだった。たぶん一生なおらないと思う。ここにいれば悩みつづけるだけにきまっている。だから転任すると決めたんだ。」
精神浄化作用が心の重荷を解いた。
 玲子はうつむいて考え込んだ。今度は自分が何か言う番だと思った。
 窓からさしこむ西日か玲子の頬を照らした。が、しばしの後、行雲によって遮られた。
 時計の音は以前のように大きくなってこなかった。むしろ二人の間で時間が止まっているかのようだった。突然、玲子はパッと顔を上げた。
 「先生。もしよければ私を拷問してください。そうすればきっと先生の気持ちもはれるわ。でもヘビだけはゆるしてくださいね。」
 山武は驚きのあまりしばし呆然と玲子をみつめた。山武が玲子の顔をはっきり見たのはこれがはじめてだった。その目はとても澄んでいた。一瞬山武は我を忘れて玲子の目を見た。だが次の瞬間、頬のあたりから起こってきた羞恥の念が山武の意識を現実に戻した。
 「できないよ。そんなこと。絶対に。それに現実に君を拷問にかけたいと言う気持ちはないような気がするんだ。」
 「それって空想サディズムね。」
 「ああ、そうだね。」
 ちょっぴり投げやりな口調で言う。山武が心のすべてを語ってくれたことが玲子に安心感をもたらした。同時に玲子の心にちょっぴり、(いや、かなり)いたずらな気持ちが起こった。
 「先生、やめないで。やめたらみんなに先生が変態だって必ずいいふらしますから。」
 玲子は子供っぽい口調で言った。山武はおそれで顔が真っ青になった。
 「ずるいよ。さっき誰にもいわないっていったじゃないか。」
 山武はおおあわてに言った。
 「女心は秋の空っていうじゃない。」
 そういって玲子は両手で頬杖をついて笑った。
 「お願いだからそれだけはやめてくれ。そんなことされたら僕はもう生きてられないよ。」その哀願は真剣そのものだった。玲子はますますうれしくなった。それは生殺与奪の権を手にした人間が感ぜずにはいられない至福の喜びだった。
 「そうね…・じゃ考えとくわ。先生が学校をやめないでくれるんなら絶対だれにもいわないわ。」
 「そ、そんな…・」
 その声は蚊の鳴くほど弱かった。玲子は手を打った。
 「そうだわ。私が3年に進級するまではやめないで。だってあと半年じゃない。そうすれば絶対誰にも言わないわ。」
 山武はぐったりうなだれていた。自分がばかなことを言ってしまったとつくづく後悔した。しかし心の片隅に、あえて言ってよかったという気持ちもかすかではあるが確かにあった。
 山武は大きくため息をついて顔を上げ、玲子をみた。ふたたび雲間からあらわれた西日が玲子の顔を照らした。玲子は無邪気な笑顔で笑っている。その無邪気さに一点のくもりもないのを感じると山武の心の中にあった、あえていってよかったというかすかな気持ちは徐々に大きくなっていった。山武は言った。
 「わかったよ。そうするよ。」
 そういって山武は大きく一呼吸して窓の外をみた。何度もみなれたつまらない田園の風景がはじめてみた景色ほどに新鮮に感じられた。山武は玲子に再び顔を向けていった。
 「なんだかとてもすっきりしたよ。もう一度この学校でやってみようと言う気持ちが起こってきたよ。君のおかげだよ。ははは。変な話だな。教師が生徒に立ち直らされるなんて。」
 山武は苦笑した。
「そんなことありませんわ。老いては子に従え、というじゃありませんか。」
「老いては、はひどいな。ぼくはまだ23だよ。」
 「それより先生、もう辞表をだしてしまったんでしょ。どうするんですか。」
 「それは撤回してもらうようたのんでみるよ。」


 やっと一段落した気持ちになった。窓の外には一番星が見える。
 秋は日がくれるのがはやい。山武は立ち上がってカーテンをしめ、電気をつけた。
 再び玲子と向かい合わせに座った。
 「先生、本当にやめないんでくれるんですね。」
 「ああ。」
 「あしたからまたきてくれるんですね。」
 「ああ、いくよ。」
 「よかった。これでまた先生のわかりやすい授業がきけるわ。」
 と胸に手を当てて半ば独り言のように言う。
 「せっかく先生のうちに来たんだから」
と言って玲子は思い出したようにカバンから教科書をとりだした。
 「わからないところがあるんです。教えてください。」
 と言って玲子は山武の隣にきて教科書のあるページを開いた。
 「ああ、いいよ。」
といって山武は玲子のさしだした英語の教科書に少し顔を近づけた。
 「ここがわからないんです。」
と言って玲子はあるセンテンスを指した。そこはまだ授業では教えていないところだった。だが勉強熱心な玲子はかなり先まで予習しているらしい。
 「えーと、ここのherのとこです。」
 「これは前文のa ship(船)のことだよ。英語の名詞はほとんど中性というか無性だ
けど船は例外で女性名詞なんだ。フランス語ではすべての物事に性別があるんだけどね。」
 「わかりました。じゃ、ここはどうなんてすか。」
 と言って玲子は別のページのセンテンスを指した。
 「ああ、これは強調構文だよ。Itとthatの間のin self-sacrificeがthat以下のクロー
ズの副詞句になっているんだよ。」
 「わかりました。じゃここはどう訳すんですか。」
 と言って玲子は別のページを開いた。そして山武の体にほとんどふれんばかりに近づいた。玲子のストレートの長い黒髪から石鹸のような匂いが伝わってきた。
 山武はここにいたってはじめて一つの重大なことに気がついた。それは自分が女性とこれほど近づいて話しをしたことなど一度もないということである。さらに山武はもっと重大なことに気がついた。それは今のこの状況がとてもあぶないということである。閉鎖された密室に男と女か肌がふれんばかりに近づいているのである。山武は心臓の鼓動がだんだん早くなってゆくのに気がついた。顔はだんだん赤くなっていった。同時に山武は自分の下腹部に血流が増加しはじめているのに気がついた。山武はあわててそれを玲子に気づかれないよう腰を少し引いた。山武は必死になってそこへの血流をいかせないようにした。だがそれは意志の力でコントロールできるものではなかった。心拍数の増加も同じであった。それは山武の必死の意志の制止をうらぎり指数関数的に上昇していった。山武が玲子の質問に答えないので玲子は山武の方にふりむいて、
 「これはどう訳すんですか。」
と再び聞いた。玲子がもろに山武に顔を向けたことが致命傷を与えた。
 「こ、これは…」山武の言葉はひどく震えていた。彼はもうその先を言うことができなかった。これ以上少しでも何かしゃべれば玲子に今の自分の苦境を悟られてしまう。だが答えないわけにはいかない。だが何かしゃべればその震えた口調から今の自分の心境を気づかれてしまう。まさにどうしようもない状況である。頭はますます混乱し、心拍数はますます高まる。
 「どうしたんですか。先生。」
 答えてくれない山武にしびれをきらした玲子が山武のほうに再び顔を向けて聞いた。だが山武は答えられない。うつむいて真っ赤になっている山武をみて玲子は山武の心を察し、うれしくなった。同時に山武をからかってみようといういたずらな気持ちが起こった。
 「先生。何を真っ赤になっているの。」
 わざとおちつきはらって丁寧な口調で言う。
 山武は答えられない。うつむいたまま頬を紅潮させている。そんな山武をみて玲子のいたずらな気持ちはますます大きくなった。玲子はいきなり山武の手をにぎった。ふるえている。
 「な、なにをするんだ。」
 山武は声を震わせていった。
 「先生、いやらしいこと考えていたでしょ。」
 「ば、ばかな。そんなことはないよ。」
 「じゃ何で声が震えているの。」
 山武は答えられない。玲子の山武をからかいたい欲求は頂点にたっした。
 「せえ~んせえ~。」
 玲子はめいっぱい、あまい声で言って山武の肩に頭をのせてきた。そして目を閉じた。
 山武の心臓は、はちきれんばかりにその拍出量を増した。
 「な、なにをするんだ、根木君。」
 山武は声を震わせていった。
 普通良識のある教師だったら、こういう時、「ばかなまねはやめたまえ。」と言って、彼女をひきはなすであろう。だが小心な山武には、それができないのである。
なぜかというと、一般に女性の方から男に声をかけてきた場合、それをことわることは女性に大変恥をかかせることになる。すぐに彼女をつきはなしてしまっては彼女に恥をかかせることになる。それがこわくて山武は玲子の手をふりほどくことができないのである。
それは山武の本心である。だがそれを大義名分に山武は、確かに、感じてはならないものを、いけないと思いつつ感じていた。
 頬にふれる清潔な石鹸のような匂いがする黒髪を…。
 肩から伝わってくるふくらみを…。
 その谷間から伝わってくる心臓の鼓動を…。
 山武の心は、極楽の蓮台の上で身を寄せ合っている佐助と春琴の心境に近かった。
 山武の本能は求めていた。
 できることならいつまでもこうしていられたら・・・。
 だが山武の理性はそれを激しく否定していた。
 (こんな状態をみとめることは教師のモラルに反する。)
 山武の超自我は山武にそう強く訴えていた。
 「や、やめたまえ。根木君。」
 山武は声を震わせていった。
 玲子に恥をかかせることのできない山武にできる唯一のことは、言葉による制止だけであった。だが玲子は山武の言葉など聞く耳をもたぬかのごとく、うっとりと、柔らかい笑顔で目をつむったまま、手を離そうとしない。
 「先生。」
 玲子はあまい声で言った。
 「好きにしてもいいわよ。」
 山武は一瞬、心臓が破裂して死ぬかと思った。全身がカタカタと小刻みに震えてきた。 「な、なにをばかなことをいうんだ。」
 すぐさま言うが玲子は聞く耳を持つそぶりもみせない。
 「私を拷問にかけたいんでしょ。かけてもいいわよ。」
 山武の心臓は破裂するかと思うくらいその拍出量を増した。
 「そんなことできるわけがないじゃないか。それにさっきも言ったように現実に君を拷問にかけたいという気持ちなんかないんだよ。ほんとうだよ。」
 玲子は何も言わない。うっとりと柔らかい笑顔で目をつむっている。
 「とにかくこんなことしててはいけないよ。」
 そう言って山武は玲子の手をほどき、彼女をひきはなした。
玲子が体を寄せてきてからかなりの時間がたっていたので、これならもう玲子に恥をかかせないですんだことになると思ったからだ。だが山武の本心を言えば、ちょっぴり(いや、かなり、いや、相当)残念ではあったが…・。
 引き離された玲子は笑顔で山武をみている。山武はやっと極度の緊張感から開放されて、ほっとした。山武の心拍数は徐々に平常値にもどっていった。玲子は立ち上がって山武と向かい合わせに座った。玲子はしばし、うれしそうな顔をして山武をみていたが突然、
 「先生、恋人いる?」
 と聞いた。
 「…・。」
 「どうなんです?」
 「い、いないよ。」
 山武はうつむいて答えた。
 「イナイ歴何年?」
 山武の心に(そんな質問に答えなきゃならない義務はないよ)と言いたい衝動が起こったが、小心な山武は玲子を前にして彼女に何か聞かれると正直に答えなくてはならない義務感のようなものが起こってしまうのだ。それでうつむいて「23年。」と正直に答えた。
 「じゃ、いままで一度も恋人をもったことがないんですね。」
 玲子はものすごくうれしそうな顔をしている。
 「恋をしたことはあるんですか。」
 玲子はさらに追い討ちをかける。これにはさすがの山武も少しいらだって、
 「そこまで答える義務はないよ。」
と言った。 玲子はうれしそうな顔をして、
 「先生。なにかの本で読みましたが、禁欲的な精神状態があまりに嵩じすぎると倒錯し
た感情が起こると書いてありましたよ。」
 山武自身そのことは知っていた。そして自分の精神状態がまさにそれであることも…・。
 「先生。私のこときらい?」
 「な、何を言うんだ。やぶからぼうに。」
 「どうなんです。きらいなんですか。」
 玲子は即座に追い討ちをかける。
 「き、きらいじゃないよ。」
 「じゃ、好き?」
 (そんな子供じみた質問に、)と、つい思ったが、自分自身に、短気をおこすな、と叱咤して、
 「生徒に個人的な感情をもつことは教師のモラルに反することだよ。だが一生徒として
はもちろん好きさ。」
 玲子はあいかわらず、うれしそうな顔で山武をみつめていたが突然、
 「私が先生の恋人になってあげるわ。どう?私じゃいや?」
 と聞いた。狼狽した山武だったが、すぐに、
 「だめだよ。そんなこと教師のモラルがゆるさないよ。」
 玲子は山武のあまりに融通のきかなさにいささかじれったくなって、
 「じゃ今度いつか一回でいいですから、どこかでデートしません?」
 「だめだよ。それもモラルに反するよ。」
 「もう、モラル、モラルって、かたっくるしいんですね。」
 玲子はいらだたしげに言った。
 山武はうつむいて「ごめん。」と言った。一瞬の間を置いて、玲子にふと面白い口実がおもいついた。
 (これなら山武の律儀さを逆に利用できる)
 と思ってうれしくなった。
 「一日でいいからデートしましょう。だって今まで私を無視しつづけてきて、私を悩ま
してきたんだもの。その謝罪としてなら先生の心のバランスもたもてるんじゃなくて…。」
 山武はしばし考えた後、
 「わかったよ。デートするよ。ただし一回だけだよ。こんなことが学校にしれたらたいへんだからね。君も僕も身の破滅だよ。」
 「うれしい。じゃ、どこにしようかなー。」
 玲子は頬杖をついて天井をみながらしばし考えた。
 「そうね。じゃ今度の日曜日。渋谷で。ブティックで洋服買って…。前からほしいと思っていた服があるの。それから他にもほしいものいろいろあるの。そのあとスカイラウンジでフランス料理食べて…・。もちろん費用は全部先生持ちで…。どう?」
 「わかったよ。それで謝罪になるならそうするよ。ただし一回だけだよ。こんなことが学校にしれたら身の破滅だからね。」
 もう、外は暗くなっていた。
 秋の日はつるべ落としである。
 もう7時になっていた。
 「もう、こんな時間だから帰ったほうがいい。」
 玲子は「はい。」と言って、教科書をかばんにしまった。そして、立ち上がって、玄関にむかった。彼女は靴をはいてから、ふりかえり、
 「先生。あした必ず学校にきてくださいね。」
 「ああ、必ず行くよ。」
 「絶対ですよ。こなかったら先生の秘密いいふらしちゃいますからね。」
 山武は一瞬、ギョッとして、顔から血の気が引いた。
 「いくよ。必ずいくから、それだけはお願いだからいわないで。」
 玲子は一瞬、「いまのはジョークですよ。」と言おうかと思ったが、やっぱり、それはやめにした。多少、非常なようでも言わないでいるほうが山武を確実に学校に来させることができると思ったからだ。それで、つつましい口調で、
 「先生。今日はどうもありがとうございました。私の勝手な頼みをきいてくださって。
それに勉強もおしえていただいて。」と言って、ペコリと頭をさげた。
山武は内心ほっとして、
 「僕の方こそ君にお礼をいわなくっちゃ。またあの学校で教師をつづけようと思うことができたのは君のおかげだよ。」
 玲子は再びペコリと頭をさげてから階段を降りていった。

  ☆   ☆   ☆

 玲子を見送ってからドアを閉めると山武は再び机の前に腰をおろした。
山武はしばしの間、我を忘れて、呆然としていた。山武の頭は、まるでるめまぐるしく進行する映画をみたような状態だった。実際、副交感神経優位型の山武にとって、これほど神経の酷使を要求された経験は生まれて一度もなかった。山武の頭はしばしの間、空白状態だった。
だが時間の経過が徐々に山武の意識を現実にもどしはじめていた。山武は無意識のうちに、玲子に対して心のすべてをあかしてしまったことが、はたして本当によかったのかどうか考えだしていた。再び、「やっぱりゆわないほうがよかったのでは。」という考えがあらわれだした。だが、玲子の悩みを解いてやったのだし、再びあの学校で教師をつづけようという決意がもてたのだし、やっばり言ってよかったのだという考えも心の一方にあった。30分ほど、その葛藤が山武を悩ませつづけた。
 ポツポツと窓ガラスを打つ音が聞こえ出した。小雨がふりだした。
 結局、山武はやっぱり、言ってよかったのだという結論に達した。心のそこからそう思ったのではなく、無理にそう思い込もうとしたのだった。それで気をまぎらわそうと明日の授業の予習をはじめた。山武は書棚から教科書とノートをとり、机に向かった。明日おしえるところは関係代名詞である。わかりにくい授業というのは教師が、わかっている自分を基準にして教えるからわからないのだ。もっと生徒の立場に立ってわかりやすくおしえなければ…・。
 「えーと。関係代名詞とはそもそも先行詞とそれを形容する形容詞節をつなぐ代名詞であって、先行詞はその形容詞節の中で、関係代名詞がwhoであれば主格、whomであれば目的格、whoseであれば所有格としてはたらき…。」
 (だめだ。だめだ。こんな説明の仕方じゃわかってもらえない。もっとわかりやすく説明しなければ…・。)
 それから30分近く、山武は関係代名詞の説明の仕方を考えた。だがどうもうまい説明の仕方が思いつかない。すると再び心の奥にしまいこんた玲子のことが気になりだした。
「やっぱりいわない方がよかったのでは。」という否定論が生まれ出した。そしてそれは加速度的に大きくなり、小心な山武を悩ませ出した。
「よく考えてみれば、ばかなことをいってしまったものだ。何で心のすべてを言ってしまったのだろう。なにも、いわなくてはならない義務などないのだ。」
そう考え出すと山武の心は否定論一辺倒になってしまった。山武は茶を飲みながら、冷静になろうと考え、もう一度何で自分が玲子に心を開いてしまったかを考えてみた。
「彼女に心を開いたのは彼女が真摯な態度で悩みを打ち明けてきたからだ。生徒の深刻な悩みに応じるのは教師の責任だからだと思ったからだ。ましてや自分が生徒を悩ましてるのであればなおさらだ。」
 そう思うと山武の心に再びいってよかったという気持ちが起こってきた。そう思うと山武は急にうれしくなって、歌でもうたいだしたい気分になった。外ではあいかわらず小刻みに小雨が窓ガラスをたたいている。山武は再び関係代名詞の説明の仕方にとりくんだ。だがどうもうまい説明の仕方が思いつかない。髪をかきむしり、呻吟して考えた。一時間ほど経った。するとまた一つのことが気になりだした。それは、彼女が誰にもいわないでくれるだろうか、ということだった。彼女ひとりが知っているならまだいい。だが玲子が誰かにしゃべってしまったら。そして、それが口から口へと学校中の生徒達に知れ渡ってしまったら。そう考えると山武はいてもたってもいられなくなった。彼女はしゃべらないでくれるだろうか。絶対しゃべらないとさっきは約束してくれた。あの子は誠実な子だから、もしかしたらしゃべらないでくれるかもしれない。だが彼女は友達も多く、友達と愉快におしゃべりするのが三度の食事より好きな子だ。そう考えると山武は気もそぞろになり、血の気の引いた顔を両手で覆った。おれはなんてばかなことをしてしまったのだ。彼女は今日のことは一生忘れないだろう。彼女が一生秘密を守ってくれるなんてまず無理だ。きっといつかなにかのひょうしにいってしまうだろう。
おれは一生彼女のきまぐれにおひえて生きなければならない。気の小さい人間の考えというものはひとたび否定的になるとそれは雪の坂道から雪だるまをころがすようにとめどもなく大きくなっていくものである。もしかすると彼女はもうすでに携帯電話で友達に今日のことを自慢げにはなしてしまっているかもしれない。そんな考えまでも起こってきた。あした学校にいくと玲子に約束したけれどやっぱりやめようか。学校も転任しようか。山武は一瞬本気でそう思った。だがすぐにそれはゆるされなことに気づいた。あした学校にこなければみんなにいいふらすといったからだ。(玲子にしてみればこれは冗談でいったつもりだったが小心な山武にはそれがわからないのである)
「ともかくあした学校へいかなくては…。」
山武はそのため、再び、関係代名詞の説明の仕方を考えようと思って教科書を手にとった。だが混乱した頭には、とてもそんなことを落ち着いて考えるゆとりはなかった。
山武は(もうどうとでもなれ)という捨て鉢な気持ちになって、ポテトチップスとポカリスエットをもってきて、テレビのスイッチを入れた。酒が飲める人ならこういう時、やけ酒を飲むのだろうが山武は酒が飲めない。
テレビではボクシングの日本バンタム級タイトルマッチが始まるところだった。放送席にはゲスト解説者として、元ライト級世界チャンピオンがいた。
「挑戦者はどういった戦術でチャンピオンに対抗したらいいのでしょうか。」とのアナウンサーの質問に対し、ゲストの元世界チャンピオンは、
「チャンピオンは持久戦に強いです。一方、挑戦者のA君はスタミナの点でやや劣りますが、インファイトを得意とする速戦型です。ですから第一ラウンドから一気に攻めるべきでしょうね。それが唯一の勝機をつかむ方法ですよ。」
と自信に満ちた解説をした。それをセコンドが聞いていたのか、実際、試合が始まると挑戦者は第一ラウンドから一気に攻めた。すると第二ラウンドでチャンピオンのカウンターパンチが挑戦者にきれいにきまった。それが起点となって勝敗の趨勢は一気にチャンピオンの側へ傾いた。第二ラウンドの終わりには挑戦者はもう足にきていた。そして第三ラウンドで挑戦者はチャンピオンの連打をうけ、ダウンし、あっけなくK・Oで勝負がついた。
「敗因はいったい何だったのでしょうか。」
とのアナウンサーの質問に対し、ゲストの元世界チャンピオンは、
「いやーA君はスタミナの配分を考えなかったのがまずかったですね。それが最大の敗因とみてまず間違いないでしょう。」
としみじみした口調で語った。山武はこの元世界チャンピオンは現役時代、パンチをくいすぎてパンチドランカーになってしまったのだと確信した。山武はチャンネルをかえた。プロレス中継をしていた。ジュニアヘビー級の試合で、メキシコの空中殺法を得意とする覆面レスラーと蹴りのうまい日本のレスラーとの対戦だった。ヘビー級ではみられない、スピーディーな試合だった。山武は覆面レスラーをみてふと思った。
覆面・・・・正体を知られない・・・・うらやましい・・・・あした・・・・ふくめんをしていこうか・・・・そのためには・・・・今からふくめんを縫わねば・・・・先生が・・・・よなべーをして・・・・ふくめーん編んでくれた・・・・などとばかげたことを考えていた。プロレス中継は三十分ほどでおわった。時計をみるともう一時をまわっていた。あした遅刻してはみっともない。山武はもう寝ようと思って、机をかたずけて、蒲団をしいた。そして歯をみがいてから、10回口をゆすいで、寝間着に着替え、床についた。山武は蒲団の中で、えびのようにちぢこまって、どうか玲子が一生しゃべらないでください、とゲッセマネのキリスト以上の敬虔さをもって心の底からいのった。窓の外では、あいかわらず雨が屋根を叩いている。山武は枕元に置いてある数冊の本の中から「図太い神経になるには」という本をとって、パラパラとめくって読んだ。山武は小心な自分の性格をかえたくて、以前にこれを買って読んだのだが、本をよんだからといって性格はかわるものではない、とつくづく思った。そうこうしているうちにやがて睡魔がおとずれて、山武の意識は徐々にうすれていった。山武の精神は山武にとってもっとも安楽で平和な世界へ入っていった。

   ☆   ☆   ☆

 翌日は雨はやんでいたが、あいかわらず降り出しそうなくもり空だった。降水確率は五十パーセントとテレビの天気予報は言った。彼女はもうきのう、みんなに電話をかけまくって、みんなおれの恥を知っているにちがいない。ペシミストの山武はもう、そう確信していた。だが鏡の前でネクタイをしめながら、山武は心の中で決死の覚悟をした。
しっかりしろ。世の中にはもっとつらい恥に耐えて生きている人間もかぞえきれないほどいるじゃないか。なにも死刑になるわけじゃなし…・。
トーストとコーヒーの軽い朝食をすませたのち、七時半に、意を決し、アパートをでた。学校へは四日ぶりである。精神が高ぶっているため、いつもの景色がはじめてみるように新鮮に感じられる。駅までの道で、山武はこの日、この前まではまったく気がつかなかった、路傍の一輪の青紫色の桔梗の存在に気づいた。通勤電車はあいかわらず、すしづめだった。
駅を降りて、学校に近づくにつれ、生徒達の姿がちらほらみえだした。山武の心に再びためらいの気持ちが起こった。
躊躇する気持ちが山武を立ちどまらせた。
その時、
(キキー!!)
自転車の止まる音が背後に聞こえた。山武はうしろからポンと肩をたたかれた。
山武がふり返ると玲子がいた。
「おっはよ。先生。」
その笑顔は昨日のことなどまるで忘れているかのようだった。
「や、やあ。お、おはよう。」
山武はひきつったような無理につくった笑顔でこたえた。だがその顔は今にもなきそう
なほど弱々しかった。玲子は刹那に山武の今の心をみぬいた。同時に、やさしさがおこってきた。
「きのうのこと、まだ誰にもいってないよ。一生誰にもいわないよ。だから学校やめな
いでね。今度の日曜デートしよ。」
そう言って玲子はペダルを力強くこいでいった。
この一言は山武の悩みを瞬時にして完全に取り去った。
きのう一晩悩んだことは、まったくの取り越し苦労だったのだ。
山武の心に今まで一度も経験したことのないほどのよろこびがわきあがってきた。
この学校でもう一度やろう。やっていける。という自信と、そのよろこびが胸の奥深く
からはちきれんばかりにわきあがってきた。
刹那の手持ちぶさたが山武の顔を空へ向けさせた。
かわりやすい秋の空ではいつしか雲間から日がさしはじめていた。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

EU

2015-07-09 11:40:20 | 考察文
ギリシャ危機が言われている。よくまあ、ギリシャは、図々しい、というか、怠けきった国民だと思う。首相や政府も、おかしい。しかし、首相を選んだのは、国民なのだから、国民の感覚がおかしい。としか、いいようがない。公務員25%、失業率25%、などという、数字から、財政赤字になるのは、目に見えている。それでも、緊縮策に反対して、快適な老後を、送ろうと思っているのだから、図々しい。欧州では、夏には、長いサマーバカンスをとる習慣があり、それが、当然、という感覚なのであろう。
しかし、日本人が、なぜ、勤勉なのかも、わからない。
わかりきったことだと思うが。
ヨーロッパは、戦争の歴史である。
日本は、地理的に他国と接していない、から、(内戦はあっても)外国との戦争がない歴史である。それと天皇制である。日本の権力者は、飾り物の、天皇制を、うまく利用することによって、いわば、形の上での摂関政治をしてきたようなものである。権力者は、天皇に任命され、天皇を補佐する、という形をとってきた。天皇制がなかったら、内戦は、もっと、数多く起こっただろう。戦争が起こらず、公家がいたから、紫式部の源氏物語などに、発する文化が発達した。
それに比べて、ヨーロッパは、戦争の歴史である。
もちろん、どの国も、自国の利益、拡大しか考えていない。
もちろん、ゲルマン系、ラテン系、スラブ系、などの、民族の違いも、あるし、第一、ドイツ語、フランス語、ポルトガル語、などの各国での言語の違いもある。それと、ヨーロッパは、概ね、キリスト教だが、プロテスタント、カトリック、ギリシア正教、などの違いがあり、この思想の対立も(戦争になるほど)激しかった。
もちろん、どの国も、自国の利益、拡大しか考えていない。
ヨーロッパでは、どこかと、どこかの国が、戦争を始めると、他の国は、自分の国は、どっちについたら、自国の利益になるか、という目で、戦争を見てきた。そして、戦争に参加してきた。
世界大戦は、第一次、と、第二次の、二回だけ、行われただけ、ではないのである。
ヨーロッパでは、ヨーロッパ世界の、世界大戦の歴史である。ただ、時代が進むにつれ、科学が進歩するから、毒ガスや、爆弾や、戦車や、戦闘機、や、戦艦、や、通信技術、などが、開発されるから、殺傷能力が高まって、第一次、と、第二次では、戦死者の数が、膨大な数になったのに、過ぎない。
だから、EUの元の目的は、ヨーロッパで戦争を、起こさないことにあった。もちろん、ヨーロッパは地理的につながっているから、経済の向上という目的もある。
しかし、所詮、各国は、自国のことしか考えていないのに、(国家として当たり前)通貨をユーロというもので、統一してしまうと、ややこしくなってしまう。
自国の通貨の制度の方が、自国の経済に、責任感と、危機感をもたなくてはならないから、その方がいいのだが。
さてギリシャ、EUは、どうなるか。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

愛子と鬼二(小説)

2015-07-09 00:12:57 | 小説
愛子と鬼二

愛は平和ではない。
愛は戦いである。
武器のかわりが誠実であるだけで、
それは地上における、もっともはげしい、きびしい、
自らを捨ててかからねばならない戦いである。
我が子よ。このことを覚えておきなさい。
(ネール元インド首相の娘への手紙)



横浜の山の手に、人もうらやむほどの豪邸がある。五億かけた、十五部屋もある豪邸である。家の主は団鬼五といって、日本のSM小説の第一人者である。氏は二十年にわたり、日本のSM小説の第一人者として、嗜虐的官能小説を執筆してきた。また、小説以外にも、エロ出版社をつくったり、SM映画製作、緊縛写真集発行など、SMに関する事は、ありとあらゆる事をやってきた。それらが、売れに売れて、巨万の富を手に入れたのである。それで、その金で横浜の山の手に、大邸宅を建てたのである。
鬼五は、再婚の美しい妻と、その一粒種の一人息子の三人で、豪邸で優雅に暮らした。
一人息子は鬼二といった。それは、鬼のように非情に女を責め抜く男に育って欲しいという父親の願望から、そう名づけたのである。だが、鬼二は、この名前のために、どんなに子供の頃から、からかわれてきたことか。

ある朝の登校時の風景である。
爽やかな朝の日差しの中、元気一杯の生徒達が、三々五々、愉快にお喋りしながら、学校へ向かって歩いている。だが、彼らと離れて、一人黙って歩いている少年がいた。少年には孤独の陰りがあった。三人の生徒が、後ろから少年を囃し立てている。
「おーにじ。おにじ。お前の父ちゃん、変態作家」
あっははは、と、笑いながら、三人は校門まで、少年を囃しつづけた。
少年は、かれらのからかいを無視し黙って黙々と歩いた。

教室に入って席についても、少年は、誰と話すでもなく、何をするとでもなく、じっとしている。すると、さっきの三人が、少年の所にやってきた。
一人が両手を後ろに廻して、手首を重ね合わせた。そして身をくねらして、眉を寄せ、
「許して。許して」
と、女の声色を使って、責められる女の真似をした。
二人は、それを見て、あっははは、と、腹を抱えて笑った。
少年は、黙ってうつむいてじっと耐えていた。
少年は、クラスでも孤独な生徒で、友達も一人もいなかった。

その時、始業のベルがなり、ガラリと戸が開いた。
担任のきれいな女教師が入ってきた。
三人は、蜘蛛の子を散らしたように、すぐに自分の席にもどった。
女教師は、逃げる三人にキッと鋭い視線を向けた。
「起立」
「礼」
「着席」
彼女は、京子といい、このクラスの担任で、国語を教えていた。
「みなさん。前回の授業で、作文の宿題を出しましたね。書いてきましたね」
「はーい」
皆は、元気に答えた。
彼女は、前回の授業の時、作文の宿題を課したのである。題は、「私の父」である。
「では、今日は、皆さんの書いた作文を朗読してもらいます」
そう言って彼女は、教室を見回した。
鬼二は左の列の三番目だった。
「では、左の列の前の人から、読んで下さい」
左の列の一番前はA子だった。
「では、A子さん。読んで下さい」
「はい」
A子は立ち上がって、滔々と読み出した。
「私の父は花屋です。私の店にはきれいな花が一杯あります・・・」
読み終わって皆は拍手した。
「では、次。Bさん」
教師は微笑んで促した。
二番目のBは立ち上がって朗読しだした。
「私の父は牧師です。私の家では食前に必ずお祈りをします・・・」
読み終わって皆は拍手した。
教師も微笑んだ。
「では次。団君。団鬼二君」
呼ばれて鬼二はためらいがちに立ち上がった。
そして読み出した。
「僕の父はSM作家です。世間では僕の父を日本の恥、国辱といって、大人は、父の本を健全な青少年を堕落させる有害図書と言っています。近所の人達は父のことを有害図書を世に出しつづけて、それで儲けた金で大邸宅を造った極悪人だと言って物も売ってくれません。僕も父の本を読んでみて、そうされても仕方がないと思いました。しかし、僕は、あらゆる悪罵を浴びせられても一人で世間と戦っている父を尊敬しています。僕の父は・・・僕の父は・・・日本一のSM作家です」
言い終わるや鬼二はわっと机に泣き伏した。京子は慌てて教壇から駆け下りて鬼二の方に駆け寄り、そっと鬼二の肩に手をかけた。
「いいのよ。鬼二君。すばらしい作文だったわ。決して引け目に思ったりする必要なんかないのよ。先生、聞いてて涙が出るほど感動したわ」
はい、鬼二君、涙をふいて、と言って京子は鬼二にハンカチを渡した。鬼二はうつむきながら涙をぬぐった。京子はキッとした表情で顔を上げ、しんと静まり返っている生徒達を見渡して、強い主張のこもった声で、言い聞かせるようにキッパリ言った。
「皆さん。いいですか。先生、一部の生徒が鬼二君をからかっているという噂を聞きました。それが誰かを調べる気はありません。でも、先生、はっきり言いますが、その人たちは間違っています。職業に貴賎はありません。物事を表面的に見ることは思慮の浅い短絡的な考え方です。これからは決して鬼二君をからかうようなことはしてはいけません。いいですね」

学校がおわった。
一人の少女が鬼二について来る。
「鬼二君。今日の作文、とっても立派だったわ。私、感動しちゃった。私でよかったらお友達になってくれない」
鬼二は、クラスでもへそまがりで友達など一人もいない。鬼二は黙ったまま、さめた一瞥を与えた。
「私じゃダメ。そうよね。クラスにはもっときれいな子、いっぱいいるものね」
「さびしいな。鬼二君、私のこと嫌いなのね」
「ああ。神様って不公平ね。きれいな人と、きれいでない人を作るんだから」
などと独り言を言っている。分かれ道に来た。
「私、嫌われても、鬼二君のこと好きよ。鬼二君が少しでも好意を持ってくれる日が来てくれるのを、私じっと待つわ」
(まーつーわー)
と、感傷的に口ずさんでいる。
「それじゃ、また、あした学校でね」
と言って手を振って分かれようとした。
「ふん。同情しかできない、うすっぺら女め」
鬼二ははじめて、ポソリと呟いた。それを耳にした愛子はあわてて言い返した。
「鬼二君。ひどいわ。私、本当に純粋に鬼二君が好きなのよ。ひどいわ」
「ほーら。そうやってすぐムキになって腹を立てる」
「ち、違うわ。つい大声で言ってしまったけど、鬼二君の誤解だったからなの。あやまるわ。ゴメンなさい」
「ふん。本当に好きなら、誤解されてもそんなに怒鳴ったりしないさ。所詮おまえは上に立って見下ろしているんだ」
鬼二は続けてしゃべった。
「それに何だ。一人でペラペラ好き勝手なこと吐いて。本当に女が男を好きになったら静かになるはずだ。軽口ケーソツ女」
「ち、違うわ。私、本当に鬼二君のことが好きなの」
愛子は力を込めて訴えた。
「お前は同情を自覚してないだけだ。お前はクラスのみんなと友達だ。俺は友達なんか一人もいやしないし、欲しくも無いヒネクレ者だ。おまえはクラス一きれいなのに、きれいでない、なんてみえすいた卑下自慢している。本当にブスで悩んでいる女は一人で暗くなっている。C子がそうじゃないか。いっつもポツンとしている。それに比べてお前は休み時間は友達とワキアイアイだ。俺は顔も良くないし、性格もヒネくれている。お前ならいくらでもいいボーイフレンドが出来る。お前がオレに好意を寄せる理由に同情以外の何がある」
「ち、違うわ」
と、言いつつも愛子の声は震えていた。指摘されたことは、実感として愛子の胸に刺さった。
「本当に好きなら、相手の男の言うことには何でも従えるはずだ。お前は俺に従うことなんか出来ないだろう」
「で、出来るわ。鬼二君の言うことなら何でもするわ」
自分が純粋である、という誇りにしがみつく心が愛子にこんなことを言わせた。
「じゃあ、こっちへ来な」
と鬼二はグイと愛子の手を引いた。
「あっ。どこへ行くの」
「お前は今、俺の言うことには何でも従う、と言ったじゃないか」
鬼二は愛子を連れてしばらく歩いた。
古びた廃屋のバラックの前で鬼二は立ち止まった。
鬼二は愛子をドンと押した。
愛子は押されて躓いた。
鬼二は冷めた目で愛子を見ている。
「さあ。脱げよ」
「えっ」
愛子は一瞬、我が耳を疑った。
「な、何で私が今、ここで脱がなくちゃならないの」
愛子は声を震わせて聞いた。
「お前はさっき、俺の言うことには何でも従うと言ったじゃないか。SMは悪いことじゃないと言ったじゃないか」
鬼二は相手の矛盾を責めるように、突き放した口調で言った。鬼二は父親からしっかりSMの遺伝を受けていた。父親の書斎にあった、女が裸で縛られている写真をみた時は強烈な興奮を催した。それ以来、鬼二は父親がいない時、こっそりと父親の所蔵するSM写真集を見るようになった。鬼二は自分の性癖に関して引け目を感じつづけて生きてきた。自分がSM的性癖を持っていることは、心の中に封印して、一生人に悟られずに生き抜こうと思った。そしてSM的性癖を持っているかどうかは、本人が言わない限り人に悟られること無く、隠しおおせるものなのである。だから愛子は鬼二がSM的性癖を持っているとは思ってもいなかったのである。
おびえてオロオロしている愛子に鬼二は罵るように言った。
「ほらみろ。お前の、好き、だの、純粋、だのなんて自慢してるものなんて全て贋物じゃないか」
黙ってモジモジしている愛子に鬼二はつづけて言った。
「もう二度とオレにつきまとうな。ウソツキ女」
鬼二は吐き捨てるように言って、クルリと背を向けてスタスタ歩き出した。ざまあみろ、鬼二は愛子の欺瞞を証明した優越感でいっぱいだった。人間なんてあんなものさ、と、軽蔑の対象は拡大した。
「ま、待って。鬼二君」
背後から愛子の力強い声が聞こえた。鬼二は足を止めた。どうせまたヘタクソな弁解を思いついたんだろう、無視しようかと思ったが、いやそれよりもヘタクソな弁解の欺瞞性を完膚なきまでに潰してやろうという気持ちが勝って、重たそうに振り返った。
「何だよ。しつこいな。何の用だよ」
鬼二はうるさそうに言った。愛子はしばし俯いて指をモジつかせていた。が、
「ぬ、脱ぐわ」
と、蚊の鳴くような声で言った。恐怖のため、体がワナワナ震えている。鬼二は、よくそこまで決断できたな、と、少し見直す気持ちが起こった。が、愛子は俯いたまま何も行動を起こせないで立ったままである。ははあ、これはきっとそこまで言えば同情して本当に脱ぐことを要求することは出来ないだろう、と、計算したんだろう、と思った。そう思うとチャチな計算家の化けの皮を剥いでやれ、という嗜虐的な気持ちが起こってきた。

鬼二は、部屋の隅にあった肘掛けの付いた事務用の回転椅子を持ってきて、ドッカと座った。愛子も、この賭けには十分な確信を持てなかったのだろう。震えながら祈るように指をギュッと握っている。
「ほら。どうした。脱ぐ、と言っといて、なんで脱がないんだ」
畳み掛けるように鬼二は言った。しばし待っていても愛子はどうしたらいいのか分からない、といった様子で棒立ちしている。鬼二は、勝ち誇ったように、
「フン。どうせ口先だけだろうと最初から思っていたよ。じゃあ、あばよ」
と言って立ち上がって背を向け、去ろうとした。
「ま、待って。脱ぎます」
愛子が引き止めるように言った。この女はつくづく自分の精神を傷つけられることを嫌がるエゴイストだな、と思った。二度目のコトバである。今度は本当に脱ぐかもしれないと思って、鬼二は再び椅子に座って、非情な視線を愛子に向けた。
「ほら。どうした。脱ぐ、と言っといて何で脱がないんだ」
鬼二に畳み掛けられて、愛子はようやく決心がついたらしく、震える手でセーラー服の上着を脱いだ。発育中の胸を覆うグンゼの子供の下着の延長のような清潔な白のブラジャーが顕わになった。愛子は羞恥のため、思わず胸を覆った。生まれてはじめて男に下着を見られる恥ずかしさのため、反射的に手が動いたのだ。
愛子はクラス委員長で、成績もクラスで一番だった。クラス会議で、「近頃、一部の女生徒が伝言ダイヤルなどで風紀の乱れた遊びをしている、という噂を聞きました。伝統ある我が校にそのようなことをする生徒がいるのはとても嘆かわしいことだと思います」と、クラス会議の時には決然と注意してきた。それが今では自らの手で、二人きりの廃屋の中で、男子生徒の前で不良女生徒のように自らの意志で服を脱いでいるのである。そう思うと愛子は、いっそう恥ずかしくなった。
「どうした。何をしている。それじゃ裸とはいえないぞ。スカートも下着も、着ている物は全部脱ぐんだ」
胸の前で両手を交差させて、震えている愛子は鬼二に恫喝的な口調で言われて、震える手でスカートのチャックを外し始めた。鬼二は思わず生唾を飲み込んだ。が、父親と同じようなことをしている自分に反抗期の嫌悪感が起こった。それを鬼二はこんな理屈で正当化した。
「自分は人間の欺瞞の化けの皮を剥いでやる、という高尚な目的のため、こんな事をしているのであって決してスケベだけを目的とした父親とは違うのだ」
鬼二は心の中でそう自分に言い聞かせた。
 スカートがパサリと落ちるとグンゼの純白なパンティーが目に飛び込んできた。まだウェストも十分な引き締まりをしていない発育中の肉体であっても、これから見事な発育が保証されているような均整のとれた美しいプロポーションだった。
「さすがクラス委員長に選ばれるだけあって、約束はちゃんと守る誠実な性格なんだな。だが、まだ、それじゃ裸とはいえんぞ。ブラジャーもパンティーも靴下も靴も全部脱ぐんだ」
言われて愛子は哀しげな表情で恐る恐る靴下を脱ぎ、ワナワナ震える手でブラジャーをとった。たるみのない、発育中の胸が顕わになった。鬼二は、
「ほー」
と言って、
「クラス委員長の胸を見たやつは俺だけだな。そのうち、その部分は、女の何とかホルモンとやらの作用でどんどん大きくなっていくんだな。委員長は、どのくらいまで大きくなるやら」
野卑な揶揄をされて、愛子は真っ赤になって思わず両手で胸を覆った。
「ほら。とっとと、最後の一枚も脱ぐんだ。俺の言うことには何でも従う、と言ったじゃないか。あれはウソだったのか」
怒鳴りつけるように言った。
「ゆ、許して。お願い。これだけは、許して」
愛子はとうとう耐えられなくなって、すがるような口調で哀願した。目が涙で潤んでいる。いくら約束とはいえ、女が絶対、男に見せてはならない所をどうして同じクラスの男に見せられよう。愛子は腿をピッタリ合わせ、手で胸と下着を覆いながら、目からこぼれた涙の顔を鬼二に向けて哀願した。
「お願い。鬼二君。許して」
「フン。泣けば許してもらえると思っているのか。ちやほや育てられた、いいとこのお嬢様は、始末におえないな。鬼に泣き落としなんか通用しないんだよ。とっとと脱ぎな」
愛子は今まで思ってもいなかった鬼二の、まさに鬼のような非情な性格を知らされた驚き、と同時に、もうどう訴えてもダメだと観念し、パンティーをソロソロと下ろして、足から抜きとった。愛子は覆うもの一枚ない丸裸である。まだ生えそろっていない、そこに鬼二の冷たい視線が注がれていると思うと愛子は耐えられなくなり、手で羞恥の二ヶ所を必死に覆って、くなくなと座り込んでしまった。
「誰が座っていいと言った。立ちな」
鬼二が命じても愛子はぺったりと座ったまま、返事をする気力も持てないといった様子で両手で胸と秘部を覆ってじっとしている。鬼二は思いついたように、愛子の回りに散乱している制服やカバンを掻き集めて、引剥ぎのように取り上げて、座っていた椅子の横の古びた事務机の上に載せた。
「な、何をするの。鬼二君」
訴える愛子を無視して、荷物の入ったスポーツカバンも取り上げた。
さーてと、何をするかな、などと言いながら鬼二は、取り上げた愛子の清楚なセーラー服を無造作につまみ上げた。セーラー服。いつもは一時たりとも男の視線を惹きつけずにはおかない、この陽光の下ではじけるような健康的な美と魅力を放ちつづけている男の崇拝物は、今ではうす暗い廃屋の中でぶらりと吊り下げられて、いつもの活力を失ってしおれた朝顔のように物寂しげな哀感を呈している。触れることさえ許されない、憧れのものを自由に出来るようになった、うれしさ、から鬼二は服の隅々まで点検していたが、だんだん興奮してきてついに鼻を制服に押し付けた。
「あっ。い、いやっ。やめて」
恐怖と羞恥から必死で二ヶ所の秘所を押さえて座り込んでいた愛子が思わず、服にしみ込んだ体臭を嗅がれる恥ずかしさから、顔を赤くして叫んだ。鬼二は愛子の哀願などどこ吹く風と無視して今度は紺色のスカートを手に取った。愛子は、
「いやっ。いやっ」
と、さかんに顔を振るが鬼二は能面のような無表情でスカートに鼻を強くあてがった。愛子は出来ることなら鬼二の前に駆け寄りたいくらいだったが、二ヶ所の秘所を手で必死に覆っているため動けない。蛇ににらまれた蛙のように竦んでしまっている。
「お願い。鬼二君。許して」
涙に潤んだ瞳を向けて哀願する愛子を無視して鬼二は、臭いを貪り嗅いだスカートから一旦顔を離し、口元を歪めてせせら笑った。
「ふふ。さすが美人クラス委員長だ。体臭もきわめて自然に男を惹きつける健全そのものだ。美人ってのは全てが綺麗なんだな」
じゃあ、これもそうだろうな、と言って純白のパンティーを摘み上げた。鬼二がするだろう、恐ろしい行為が愛子の心を震撼させ、愛子は恐怖のあまり鬼二の方を向いて両手をそろえて地に頭を擦りつけた。下着の匂いを嗅がれることなど奥手で清純を絵に描いたような性格の愛子にどうして耐えられよう。
「お願い。許して」
愛子は胸と秘部を手で押さえながら言った。
だが鬼二は愛子の訴えなど無視して、縄を持って愛子に近づいた。

鬼二は俯いて二ケ所の秘所を手で押さえている愛子の両腕を掴んでグイと後ろにまわし、後ろ手に縛り上げた。
「あっ。な、何をするの。鬼二君」
愛子の問いかけを無視して鬼二は淡々と、縛っていって、瞬間強力接着剤、アロンアルファを結び目にたっぷり塗りつけた。ふふ、もうこれで絶対はずれないさと言いながら縄尻を梁に取り付けられている滑車に通した。
「そーらよ」
と言いながら、鬼二は縄を思い切り引っ張り出した。
「あっ。いやっ。やめて」
愛子は叫んだが、鬼二の引く力にはかなわず、だんだん膝が伸びていった。
愛子は膝をピッタリと閉じ合わせながら必死で抵抗した。
だがついに愛子は完全に立たされてしまった。
鬼二は縄をしっかりと机の脚の一つに結びつけた。

これでもう愛子は逃げられない。鬼二は仕事が済むとドッカと愛子の前で椅子に座り込んで、打ち震えている愛子の体を隅々まで見てやろうというような視線を投げかけている。
「み、見ないで。鬼二君」
まだ生まれて一度も見られたことのない花も恥らう乙女の一糸纏わぬ裸を同じクラスの男子生徒に見られる辛さにどうして耐えられよう。秘所を覆っていた手を後ろで縛られて、隠す術を失っても鬼二の刺すような視線から、最後の砦は何としても守ろうと、ピッタリ腿をくっつけて必死に腰を引いている。そして女の体はそうすることによって最羞の部分はギリギリ隠せるのである。
鬼二はそんな愛子の姿をニヤニヤ笑いながら眺めた。

愛子は必死で女の最羞の部分を隠そうと腿をピッタリつけ、膝を寄り合わせている。そしてそうすることによって女のその部分はギリギリかろうじて隠すことが出来るのである。この体の構造は女にとってかえってつらいものである。裸になれば、すべてが見られてしまうが、それは不可抗力としてわりきって観念することが出来る。見られても仕方がないと諦めがつく。しかし裸にされて手の自由を奪われても足を撚り合わすことによってギリギリかろうじて隠せる以上、女は男の視線からそこを守ろうと苦しい努力をし続けなくてはならない。その、女のいじらしい姿が男の嗜虐心を刺激するのである。
何とか最羞の部分は守ろうと必死で腿を寄り合わせている愛子の苦闘を、薄ら笑いで見ていた鬼二が、よっこらしょ、と大儀そうに立ち上がってパンティーを持って裸で吊るされている愛子の横に立った。愛子の腿をつついて、
「ほら。パンティーを履かせてやるから足を上げな。脚をモジつかせるのはつらいだろ」そう言って、脚をモジモジ寄り合わせている愛子の腿をつついた。唐突に鬼に情けをかけられるようなことを言われて愛子はとまどった。パンティーを履けるのなら、これほどの救いはない。自分で履くべきパンティーを人形のように他人に履かされる屈辱はあってもそれは、履かされる時のわずかな一時だけであり、履いてしまえば後は安全である。パンティー一枚の姿とて恥ずかしいが、それでも一糸も許されない全裸よりはくらべものにならないほどましである。ほら、足を上げなよ、と言って鬼二は愛子の右の足首を掴んだ。
「あ、ありがとう。鬼二君」
鬼二がなぜ仏心を起こしたのか分からないことには一抹の不安があったが、鬼二も自分のやっている、余りにもひどいことに罪悪感が起こったのだと、性善説を信じる愛子は解釈した。愛子は履かされている最中、最羞の部分を見られないよう、今まで以上にピッタリと腿をくの字にして重ね合わせながら、恐る恐る鬼二につかまれている右足を上げた。鬼二は約束通りパンティーを足に通すと、ほら、こっちも上げな、と言って、左足をピシャリとたたいた。愛子が左足を上げると鬼二は左足にもパンティーを通した。そして鬼二はするするとパンティーを上げていった。愛子はこれは本当の情け心だと確信して、他人に目の前で下着を履かされる恥ずかしさは感じつつも仏心に対する感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。
「ありがとう。鬼二君」
と目を潤ませて言った。パンティーはするすると上がって行き、愛子はもう安心だとほっと心の内で胸を撫で下ろした。が、ちょうど膝と腿の付け根の中間の位置でその動きが止まった。鬼二はパンティーから手を離し無言のまま立ち上がって椅子に腰掛けた。

「お、鬼二君」
愛子は恐る恐る言った。
「何だよ」
鬼二は五月蝿そうに言った。
「ま、まだ途中よ」
「何が」
「ちゃ、ちゃんとはかせて」
「ちゃんとはいてるじゃねえか」
「ちゃんと上まであげて」
「まあ、そうあせることもないじゃないか。現代人は何でもあせって、もっと立ち止る心のゆとりが必要だって先生も忠告してたじゃないか」
「お願い。鬼二君。上まであげて」
鬼二は愛子の後ろに回った。
「お尻の割れ目がピッタリくっついて、かわいいぜ」
「裸よりこっちの方がずっとセクシーで芸術的だぜ」
鬼二はそんな揶揄をした。
「見ないで。鬼二君。お願い」
「ああっ。鬼二君。これ以上私をみじめにしないで」
「お願い。はかせて。お願い」
愛子は必死で哀願したが、鬼二はどこ吹く風と無視して、
「はは。はきかけてる、というより、ずり下げられているという感じだな」
などと揶揄した。
しかし、あまりにも愛子が叫びつづけるので、
「ギャーギャーうるせーな。ほら。はかせてやるよ」
と言って鬼二はパンティーを腰まで上までしっかりはかせた。
「あ、ありがとう。鬼二君」

鬼二は愛子の感謝の言葉をよそに自分のカバンから、何かをとり出した。
何かの動物がモソモソ気味悪く動いている。
「な、なあに。それ」
愛子は声を震わせながら聞いた。
「オレのペットのタランチュラさ。名前はタランさ。どうだ。かわいいだろう」
「そ、そうね。か、かわいいわね」
と言いながらも愛子は気味悪そうに目をそむけている。鬼二はしばらく、気味の悪い蜘蛛を手の甲に載せて、蜘蛛のゆっくりした脚の動きを眺めていたが、そっと掴むといきなり愛子のパンティーの中に入れた。
「い、いやー」
とっさに愛子は驚天動地の悲鳴を上げた。モゾモゾと気色の悪い生き物がパンティーの中を這い回っている。が、パンティーの縁のゴムのため、蜘蛛はパンティーの中から出ることが出来ない。
「とって。お願い。とって」
愛子は体をブルブル震わせながら叫んだ。
「なんだ。かわいいんだろ。なんでイヤなんだ」
「お、鬼二君。許して。本当は私、ものすごく気味悪いの」
モゾモゾと気色の悪い毒蜘蛛がパンティーの中を這い回っている。が、パンティーの縁のゴムのため、蜘蛛はパンティーの中から出ることが出来ない。
「お、お願い。鬼二君。とって」
鬼二は酷薄な目で愛子を眺めている。
「蜘蛛をとってやってもいいぜ。ただし、とったらオレの大事な友達のタランは殺すからな。さあ、どうする」
「お願い。やめて。鬼二君。そんな人間の心をもてあそぶような事・・・」
「人間の心をもてあそぶ、だと・・・。お前は動物愛護の精神がないから、鍛えてやってるんだ」
鬼二はつづけて言った。
「蜘蛛だって生き物なんだぞ。蜘蛛なんてかわいそうな生き物だな。みんなに嫌われて・・・。まるでオレみたいだな」
鬼二はそんな事をボソッと呟いた。
「お、お願い。鬼二君。許して」
愛子が何度も繰り返して、許しを求めつづけるので鬼二は、チッと舌打ちして立ち上がった。
「仕方のないヤツだ。じゃあ、とってやるよ」
鬼二は愛子のパンティーの中から蜘蛛を取り出してカバンの中に入れた。
「あ、ありがとう。鬼二君」
愛子は嗚咽しながら言った。
「ふふ。これでおわりだと思ったら大間違いだぜ」
鬼二は不敵な口調で言った。
「お願い。鬼二君。許して。もうこんな変態じみたこと」
「変態じみたこと?とは何て言い草だ。ほらみろ。やっぱり本心ではSMを軽蔑してるんじゃないか。それに俺の言うことには何でも従うと言ったじゃないか。うそつき女」
鬼二はつづけて言った。
「こんなウソを平気でつく風紀委員長だからな。ご本人の所持品も調べておく必要があるな」
と言って鬼二は愛子のカバンを開けた。
「あっ。い、いや。やめて」
鬼二は丹念に一つ一つ取り出して調べ出した。
「ほー。さすがはクラス委員長だけあっていかがわしい物はないな」
鬼二は数学のテストの答案を見つけた。
「すげー。この前の数学のテスト、100点じゃねえか」
鬼二は歓声を上げた。それは二週間前行われたテストで、採点されて、今日返された答案だった。
「俺なんか35点だぜ。先生も、最後の問題は東大で出題された入試問題だから出来なくても悲観しなくていいって言ってたほどの問題だぜ。数学の秀才の哲也でさえ解けなくて悔しがってたのに。塾にも行ってないのにどうしてこんなに出来るんだろう。やっぱり脳ミソの質が違うんだな」
と鬼二は感心している。鬼二はノートを取り出してサラサラッとみた。
「すげー。物理のノートも化学のノートも完璧じゃないか。物理の湯川の授業は、早口で喋って気のむいた時だけ適当に黒板に乱雑に書くから、みんなノートしにくいって言ってるのに。どういうドタマの構造してるんだろう」
と鬼二はノートを見ながら感心している。

鬼二はカバンから携帯を取り出した。
そして送信メールを開けてみた。
その中に数日前、愛子が由美に送ったメールがあった。
「由美ちゃん。今度の数学の試験、がんばってね。分からないところがあったら、遠慮なく聞いてね 愛子」
由美は愛子の一番の親友である。
「ほー。博愛主義者なんだな。オレなんか、知ってることがあったら、誰にも言わないぜ。人が落ちこぼれることがオレの幸せだからな。最も、オレだけにわかる事なんか、何もないけどな」
と言って笑った。

そして今度は着信メールを見た。
由美からのメールがあった。
「へへ。愛子ちゃん。この間の数学の試験、見事に30点取っちゃった。私ってほんとバカね。チョーみじめ。愛子ちゃんは何点だった。由美」
「へー。あいつ、社会や国語はできるのに、数学はバカなんだな。オレでも35点はとれたぜ」
鬼二は携帯を操作して、こう書いた。
「由美。あなた、救いようのないバカね。私はもちろん、満点よ。あんなの、そうとうのバカでも50点は取れるわよ。あなたの場合、数学は勉強するだけ時間の無駄よ。もうあきらめなさい。きびしい愛子」
鬼二はこう書いて、愛子に見せつけた。
「お、鬼二君。そ、それをどうするの」
愛子は起こってきた一抹の不安に声を震わせながら聞いた。
もちろん、送信するに決まってるだろ。
「や、やめて。鬼二君。お願い」
鬼二は椅子にドッカと座って、おびえる愛子をしばしニヤつきながら眺めた。
「お願い。鬼二君。そんなメール、由美ちゃんに送信しないで。私はどうなってもいいわ。でも人はキズつけないで」
鬼二は無視して、笑いながら、「送信」と言って、ボタンを押した。
「ああー」
愛子は泣き崩れた。
ビビー。
しはししてすぐにメールの着信音が鳴った。
鬼二はそれを愛子に見せつけた。
それにはこう書かれてあった。
「愛子ちゃん。ひどい。あなたがそんな人だとは知らなかったわ。もうあなたとは絶交します。由美」
メールにはそう書かれてあった。
「お、鬼二君。ひどいわ。あんまりだわ」
そう言って愛子はクスン、クスンと泣き出した。
しばしもう何もする気力もなくガックリと項垂れていた愛子が、そっと口を開いた。
「お、鬼二君」
愛子は蚊の鳴くような声で言った。
「何だよ」
「テ、テストもノートも私のでよかったらいつでも貸してあげるわ。だ、だからもう許して」
鬼二は愛子の完璧なノートをパラパラっとめくった。
「ダメだこりゃ。俺みたいなサル程度の頭じゃ貸してもらっても分からねえや。こういうのを何とかに真珠って言うんだよな。いいぜ。借りても分からねえもん」
そう言って鬼二はノートを愛子のカバンの中にもどした。
「えーと。こういう諺を何て言うんだっけ。犬に真珠、だったっけか?サルに真珠だったっけか。国語も満点の委員長様、教えてよ」
と鬼二は愛子に質問した。
「し、知りません」
愛子は声を震わせて言った。
「そんなことはないだろう。こんな基本的な簡単なことわざ、秀才の委員長様が知らないはずないぜ。そーか。教えてもすぐ忘れるだろうから言うだけ無駄だと思ってるんだろうな。まさに、何とやらに真珠、ってやつなんだよな」
「ち、ちがうわ。そんなことけっしてないわ」
「じゃあ、何に真珠なのか、正確に教えてくれよ」
「ぶ、豚に真珠です」
と言って愛子はわっと泣いた。
「ああ。そうなの。確かに俺は頭が悪いよ。でも豚よばわりはちょっとひどいんじゃないか。ご自分が頭がいいからって、劣等性を豚よばわりするってのは」
「お、鬼二君。お願い。いじめないで。も、もう、これ以上のいじめ、わ、私、耐えられない」
と言って愛子はわっと泣いた。
「いじめてるのはそっちの方だろ。おれ、豚よばわりされてもう立ち直れないほど落ち込んでるんだ」
どうせ、オレは豚だよな、と言って、地面に這いつくばってブーブー豚のまねをした。

しばしもう何もする気力もなくガックリと項垂れていた愛子が、そっと口を開いた。
「お、鬼二君。いっしょに勉強しない。わからないところ教えてあげるわ」
鬼二は一瞬、「うっ」と喉をつまらせた。それは打算でない愛子の真心から出たコトバと直覚したからだ。みんながあこがれるクラス委員長と二人きりで手取り足取り、マンツーマンで勉強するなごやかな情景が瞬時にイメージされた。鬼二は一瞬、その安息の世界を求める気持ちに屈しそうになった。が、思春期の理由なき反抗心がすぐにそれをブチ壊した。「フ、フン。そんなママゴトみたいなこと出来るか。バカにするなよ。オレだってやる気を出せば人並み程度の成績くらいとれるぜ。ただ学校の勉強なんて無意味だと思うからやらないだけだ」
「ち、違うわ。一方的に教えるんじゃないわ。人に教えるのってすごく自分の勉強になるの。教えているうちに自分の考えの誤りが見えてくることが多いの。一方的に見下すんじゃないわ。私も勉強したいの」
「い、言うな。二度と言うな。そんな変な悪魔のささやきみたいな事。口が達者なヤツほどホンネとタテマエが違うんだ。今度いったら猿轡して喋れないようにするぞ」
鬼二のとりみだしように愛子は鬼二の本性を垣間見た思いからクスッと笑って言った。
「鬼二君はワルぶってるだけで根はとってもいい人なんだわ。素直になることが照れくさいからワルぶってるいるんだわ。鬼二君は本当はとってもやさしくて・・・」
鬼二はあわてて耳をふさいだ。
「い、言うな。そ、そんなデタラメは」
鬼二はブルブル震えている。
「じゃあ、どうしてそんなに取り乱すの。図星だからじゃない」
「だ、だまれ。こいつ。奴隷の分際で嵩にかかった言い方しやがって。ようし。喋れないよう猿轡してやる」
鬼二は愛子の口を無理やりこじ開けて愛子の白いソックスで猿轡した。ふっくらした頬っぺたにソックスが厳しく食い込んで、愛子は金閣寺の雪姫のように眉を寄せて、苦しげに顔を左右に振っている。
「へっへ。猿轡されて喘いでいる委員長の姿はこの上なく色っぽいぜ。これを写真集にして売ったらみんな買うだろうな。どうだ。自分の靴下の味は。猿轡されてると、そのうち涎が出てくるんだ。委員長の涎をたらす姿も楽しみだぜ」
やっぱりパンティーも下ろす必要があるな、と言って、パンティーのゴムに手をかけると愛子は、顔を振りながら、激しい抵抗を示して腰を引いた。愛子は眉を寄せながら、んー、んーと猿轡の中からコトバにならない声を出している。
「何だ。何が言いたいんだ。委員長殿」
愛子は哀しそうな目を鬼二に向けた。
「猿轡をとってほしいのか。そうだよな。猿轡されてたんじゃ何も言えないからな」
鬼二が言うと、愛子は黙っておとなしく肯いた。
「よ、よーし。じゃあ、とってやらあ。そ、そのかわり、証拠もないのに人の心を揣摩臆測するようなこと言ったら、すぐに猿轡して、二度ととらないからな。いいな」
と鬼二は強く念を押した。愛子は黙って肯いた。
「よ、よーし。じゃあ、とってやるけど、こう言うんだ『もう二度と証拠もないのに人の心を決めつけたりするようなことはしません』とな。言うか?」
愛子は黙って肯いた。
鬼二は緊張しながら猿轡を解いた。
鬼二が猿轡をとると愛子は息止め、から解放された潜水夫のように大きく何度も深呼吸した。
「お、おい。約束した言葉を言え」
と言われて愛子は誠実にそれをなぞった。
「私はもう二度と証拠もないのに人の心を決めつけるような言動は決してしません」
その声には強制されて、仕方なく、ではない、自分の意志が含まれているように聞こえた。
愛子はクスッとも笑わず、静止した表情でいる。
「よ、よーし。その言葉、決してやぶるなよ」
と鬼二は愛子の頬をつついて念を押した。

しばしの沈黙の時間がたった。
「もう勘弁してやる。縄をといてやる」
そう言って鬼二は愛子の縄を解いた。
鬼二は愛子に服をほおった。
愛子はブラジャーをつけ、制服を着た。
愛子はすぐに、由美へ謝罪のメールを送ろうとした。
だがメールの受信を開けてみると、鬼二が由美へ送ったメールはまだ未送信だった。
そして由美から来たメールの宛先は愛子自身になっていた。
着信音が鳴ったのは、自分の携帯から自分の携帯へメールを送ったために鳴ったのだ。
愛子は感動して鬼二を見上げた。
「鬼二君」
愛子は涙に潤んだ瞳を鬼二に向けた。
だが鬼二はしかめっ面してうるさそうな顔つきである。
「オレはもう帰るからな」
そう言って鬼二はカバンを持って歩き出した。

外ではいつしか雨が降っていた。鬼二は愛子を後ろに立ち去ろうとした。鬼二は傘を拡げた。すると愛子が後ろから声をかけた。
「待って。鬼二君」
鬼二は振り返って愛子を見た。
愛子はひしっと鬼二の手を掴んだ。
「あ、あの。私、傘もってないの。よかったら入れてくれない?」
だまって鬼二は愛子の目を見つめた。
「鬼二君。私、鬼二君の奴隷だから何でも言う事を聞きます。でも、私、鬼二君の傘に入りたいの。入れてもらえないかしら?」
鬼二は自分の心の中の氷が少し解けているのを悔しく感じた。
「入れよ」
鬼二はそっけなく言った。愛子は鬼二にひしっとしがみついた。
雨はその激しさを増した。傘は二人を雨から守るには小さすぎた。鬼二は愛子が濡れないよう傘を愛子の方へずらした。
「鬼二君。濡れちゃうよ」
「フン。おれは雨に濡れるのが好きなんだ」
激しい雨で鬼二の体はびしょ濡れになった。

二人はコンビニの近くを通った。鬼二はポケットから千円冊を出して、突きつけるように愛子に渡した。
「お、おい。お前はおれの奴隷でおれの言うことは何でも聞くんだろ」
「はい」
愛子は素直な口調で言った。
「じゃあ、それをやるから、コンビニで傘を買ってこい。いちゃいちゃ、くっつかれちゃ、迷惑でしょーがねえぜ」
鬼二は突き放したような口調で言った。
「はい」
と愛子は満面の笑顔で答えた。その瞳には涙が浮かんでいた。愛子は雨の中を急ぎ足でコンビニへ向かって走り出した。


平成20年12月21日(日)擱筆


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

岡本君とサチ子(小説)

2015-07-08 06:06:04 | 小説
岡本君とサチ子

 岡本君は都内の、とある商事会社に勤めている社の信望もあつい商社マン・・・である。彼は入社後一年で、大学の時親しかった山下サチ子と結婚した。大学時代、岡本君は野球部のエースだった。彼のピッチングは打者の心理をよみ、直球と変化球のたくみな配球による、どちらかというと、打たせないものだった。豪速球ではなかったが、コントロールがバツグンで、見送りしてしまう打者も多かった。対抗試合では相手チームを完封することもおおかった。野球においてはクレバーで、三振した打者の多くはつい舌打ちした。が、それはスポーツの中での反射的なものだった。彼には悪意というものがなく、頭の回転がはやく、おしつけのない親切があった。あっさりしていて、何事に対しても、こだわり、や、とらわれがなかった。野球部にはマネージャーが二人いた。山下サチ子と堀順子である。二人はともに岡本君に思いをよせていた。が、サチ子の思いはことのほか強かった。岡本君と順子が二人で話しているところをみると必ずサチ子が入ってくる。そのたび、やむをえず、順子はその場を去らなくてはならなかった。親しかった二人だが、その点において、順子は内心、サチ子を快く思っていなかった。そんな状態が卒業までつづいたのである。卒業後、岡本君は、都内のある東証一部上場の商事会社に入った。会社にも野球部があり、仕事はできるわ対抗試合では完封するわで、会社が彼を歓迎したのは入社してから後のことである。おもねりのない彼の性格的魅力にひかれて商談がうまくまとまるのである。入社して一年後、岡本君は山下サチ子と結婚した。
 幸福な日々がつづいたことはいうまでもない。そして、月並みですまないのですが、少したってから多少やっかいなことがおこったのです。そのあらましはこうです。
 ある日、彼女に電話がかかってきたのです。その人の言うところによると・・・岡本君はどうもこのごろ誰かと親しくしている。二人が喫茶店で話しているのをみた・・・というのである。電話の相手はその喫茶店の名前と場所を言った。サチ子は、はじめウソだと思っていた。だがある日の夕食の時、さりげなく言ったさぐりのコトバに、彼女は夫の表情に憂色をみた。ちなみにおかずは有色野菜が多かった。数日後、「今日は少しおそくなるから」と言って岡本君がでかけた日のこと。彼女はとうとう疑心に抗しきれなくなり、岡本君の退社時間より数時間前に、電話の相手が言ったその喫茶店のある場所へ行ってみた。するとたしかにその名の店がある。彼女はその店をみることができる向かいの喫茶店に入った。一時間ほどたった。「あっ。」と言って彼女がスプーンを落とし、我が目を疑ったことは想像に難くない。彼女はいたたまれず店を飛び出した。何もわからなくなってしまった。ただ足だけがうごいて、ともかく家についた。そしてそのまま食卓についた。
 「あの相手の人はいったい・・・」
 日はどんどん暮れていく。
 チャイムが鳴った。
 「ただいまー。」
 岡本君が帰ってきた。ほろ酔いかげんである。ドッカと腰かけ、
 「おい。サチ子。メシは。メシ。」
 これがいけなかった。こういう状態でおこらずにいるにはインドで三年は瞑想修業していなくては不可能である。彼女は今日みたことをすべて語った。そして相手の女性は、どういう人なのか問い質した。みるみる酔いが消えて、かわって蒼白になった岡本君は、このように弁明した。
 「彼女は自分と同期で入った人で、近く結婚するんだ。相手の男を愛してはいるが、僕にも好感を感じるというんだ。来春結婚するが、不安があるというんだ。そのため、自分の気持ちをたしかめるため、一ヵ月だけつきあってくれないか・・・とたのまれた。」
 「それで・・・」
 と彼女はあっさり言った。
 岡本君は冷汗をながしながら、
 「自分には最愛の妻がいるので、それはできない・・・ときっぱりことわった。だが彼女はどうしてもという。」
 「それから」
 「君にはすまないが、彼女の不安も、もっともだ、と思った。」
 「だから」
 「一ヵ月だけ・・・という条件でやむをえず承知した。心の中ではたえず君にすまない・・・とわびていたんだ。わかってくれ。」
 「わかったわ。」
 「そうか。わかってくれたか。」
 岡本君の顔が一瞬ほころんだ。
 「でも一つわからないことがあるわ。」
 「何だい。」
 彼女は急に険しい表情になり、声を大に言った。
 「本当にすまない・・・と思っている人が、どうしてほろ酔いかげんで、オイ、メシは・・・なんて言うの。私は一生浮気はしません。今日は食事をつくる気がしないので食事はありません。例の有色野菜が冷蔵庫にありますから、かじるなり、きざむなりしてください。」
 言って彼女は、その場を去るや、そのまま寝てしまった。これはこたえた。しかたなく岡本君は有色野菜をきざんでマヨネーズをかけて食べた。
 翌日、彼女がそのことを再びもちだそうとした時岡本君はつい、
 「ああ。きのう。そんな夢をみたの。」
 と言ってしまった。こんな賭は、まず成功しない。失敗すれば火に油をそそぐだけである。結果はみごとな失敗だった。
 岡本君の苦難の日々がはじまった。
 彼女はプンとおこり、何もしてくれない。岡本君は困って、
 「なあ。サチ子。おれがわるかったよ。もうカンベンしてくれ。」
 と頭をさげた。だが彼女はふくれっつら。
 「どうしたらゆるしてくれる?」
 と岡本君が聞くと、
 「もう二度と浮気しないとちかう?」
 と彼女は問いつめた。
 「ああ。誓うよ。」
 「じゃ、証拠をみせて。」
 「証拠ってどうすればいいの?」
 「あなたの気持ちを行為で示して。それとバツとしてこのノートにすべて、「サチ子。世界一愛してる。」と心をこめた、きれいな字でびっちりかいて。誠意がみとめられたら今回だけはゆるしてあげます。また浮気したら今度はもっときびしくするからね。わかった。」
 岡本君「トホホ・・・。わかったよ。でも仕事もあるし、時間もかかるから、すぐにはできないよ。」
 彼女、少し考えて、
 「じゃ、二週間だけまってあげるわ。」
 岡本君は内心で、
 「やれやれ。こまったことになった。」
 と言ってため息をついた。

 彼女はよろずのことを岡本君にいいつけるようになった。無条件降伏の立場を感じていた岡本君は、それに従うしかなかった。し、実際従った。彼女はだんだん、これからの結婚生活において、有利な条件を自分が手に入れたことに気づきだした。そして又、彼女は、自分の方から許しを求めず、それをすべて彼女の心に委ねている彼のまじめさに、いとおしさ、を感じるようになりはじめた。だが有利な条件を簡単に手離す気にはならなかった。狡知が彼女にめばえた。
 そんなある日曜日の様子。
 夕御飯は彼女がつくってくれたのだが、彼女に命じられて食器洗いをしている岡本君に、ゴロリと横になってテレビをみながら、ふりむきもせず、
 「ねえ。あなた。おわったら肩もんで。こってるんだから。」
 岡本君は肩を揉みながら思うのであった。
 「トホホ。何でオレこんなことしなくちゃならないんだろう。なんでこんな女と結婚しちゃったんだろう。結婚を申し込んだ時は、無垢な少女のように恥じらいながら、もじもじして「一生、何を言われても最善をつくすようがんばります。」と言ったが、あれはいったい何だったのだろう?それなのにオレが彼女のいうことをきいてれば手をかけた料理をつくって頬杖しながらニコニコして「ねえ。あなた。どう。おいしい?」などと言って本当に幸福そうな顔してる。」
 「ひょっとしてオレはだまされてしまったのかもしれない。」
 と、岡本君は思い、いたたまれなくなって外へとびだし、駅前ののんべえ横丁の飲み屋へ行って安酒をあおり、
 「オレは彼女のおもちゃじゃなーい。」
 と大声で一人どなるのであった。そして酒のいきおいをかりて、一大決心し、
 「よーし。もーガマンの限界だ。今日こそは白黒つけるぞ。」
 と、言って家へひき返し、
 「やい。サチ子。お前はオレをだましたんだろう。ほんとうのことを言え。おれは腹をきめている。お前がほんとうのことをいわないならばオレはお前と離婚する。」
 と問い詰めた。すると彼女は途端につつましく正座した。
 「そ、そんな。だます・・・なんて。ひどいわ。そんなふうにわたしを思っていたなんて、いくらなんでもひどいわ。ふつつかで、いたらない所は多くあるでしょうが、私なりに精一杯、努力しているつもりです。」
 と言って涙をポロポロこぼすのであった。
 「ひどいわ。だましたなんて。あんまりだわ。」
 彼女は何度も、くり返しながら泣きじゃくるのであった。そんな彼女をみていると岡本君はだんだん自分がひどいことを言って彼女を傷つけてしまったように思い、後悔し、
 「わかった。オレがわるかった。うたがってすまなかった。だからもう泣くのはやめてくれ。」と彼女の肩に手をかけていうのであった。すると彼女は、おそるおそる「ホント?」と言って目を上げた。
 「ああ。ホントだとも。」
 「もう離婚するなんていわないでくれる?」
 「ああ。いわないよ。」
 すると彼女の涙はピタリととまった。彼女は居間を出た。なにやら机でゴトゴト音がする。しばししてパタパタと早足に彼女はもどってきた。便箋とボールペンと印鑑と朱肉をもっている。彼女は、それらを机の上に置き、
 「じゃ、こう書いてくれない。」
 とモジモジして彼女が書いたらしい文をそっとだした。それにはこう書かれてあった。 「私、岡本○○はもう二度と自分から、妻サチ子と離婚したいなどとはいいません。もし、自分の意志で離婚を願い出るのであれば、自分の財産はすべて、妻サチ子にゆずり、生活の保障として毎月、収入の六割を妻サチ子に支払います。」
 岡本君が「何でこんなことまでしなきゃいけないの?」と聞くと、彼女は真面目な口調で、 「私たちの愛ってこわれやすく、弱いでしょ。だから今もう一度、私たちの愛の永遠性を誓いあいたいの。」
 と目をかがやかせていう。岡本君は、何かへんだなーと思いながらも、ことば通りを書いて、印を押すのであった。
 でもこんな様子は一日だけ。彼女はまたしても、もとのような態度になった。岡本君は、とうとう本当に彼女の本心がわからなくなってしまい、それを知ろうと一計を案じた。
 それはこうである。
 大学の時、彼女と親しかった、堀順子・・・に自分の留守中に家に来てもらう。サチ子は順子には何でもはなすだろう。バックにテープレコーダーを入れておいてもらってサチ子に気づかれないように二人の会話を録音してもらい、動かぬ証拠をとるのだ。 はたして、それは実行された。順子は、近くに来たからついでによってもいい・・・と聞いて、岡本君の家にきた。ひさしぶりに会ったよろこびから、二人の会話は、はずんだ。順子はさりげなく言った。
 「いいわねえ。サチ子、岡本君と結婚できて・・・。彼にあこがれてた子、多かったのに。私もそうだったわ。うらやましいわ。」
 これはサチ子の優越感をくすぐった。
 サチ子は自慢げに言った。
 「そうでしょ。彼は私だけのものよ。一生ね。」
 「でも彼、結婚しててももてるわよ。そうしたらどうする?」
 「ダーメ。そんなことゆるさないわ。ちょっとでも他の人と親しくしたら、きびしくおしおきしてやるの。」
 「でも彼だって人がいいけど、そんなことしておこらない?」
 「ダイジョーブよ。あの人、頭わるいもん。ちょっと涙みせればすぐ信じちゃうわ。」 彼女は自分の狡猾さを思う所無く自慢した。
 二人はその後、話題をかえ、少しはなしたのち、学生時代と同様、バーイ、といってわかれた。
 その日、彼女はうかれた気持ちで、ダンナさまが帰ってくるのをまっていた。夕方から小雨がふりだした。
 チャイムがなった。
 「おかえりなさい。今日は、あなたの大好きなビーフシチューよ。」
 と、いつも以上の笑顔で言った。
 だが様子が変である。
 岡本君は今まで一度もみせたことのない険しい表情で彼女をジロリとニラミつけたのち、だまって上がっていった。このはじめてみる岡本君の態度に彼女は少し、不安を感じだした。
 「ねえ。あなた。どうしたの。」
 といっても岡本君は何もいわない。
 「おふろを先にしますか。食事を先にしましか。」
 と聞いてもこたえてくれない。
 岡本君は上着をぬぎすてて、食卓についた。そして彼女をひとニラミした。彼女は、おそるおそるテーブルについた。シチューの鍋はさめるのを警告するかのごとくカタカタ音をならしている。雨の音がはげしくなった。
 岡本君はだまってカバンからテープレコーダーを出した。それは、今日のサチ子と順子の会話だった。話が大事なところへきた。それもすべて録音さていた。岡本君は彼女をニラミつけている。彼女の顔からみるみる血の気がひいた。そしてワナワナ、ガクガクふるえだした。岡本君はテープをきった。そしてどなりつけた。
 「おい。サチ子。何とかいってみろ。このおおうそつき女!!このサギ師。オレはお前と離婚する。お前なんかに慰謝料をやる必要なんかない。それとも、このテープをおれとお前の両親にきかせてやろうか。どっちが正しいか、きいてみようじじゃないか。」
 彼女はただワナワナ、ガクガクふるえているだけである。
 「えっ。オイ。何とかいってみろ。」
 岡本君はシチューの鍋をおもいっきり床へたたきつけた。
 「何が永遠の愛だ。人をバカにしやがって。」
 彼女は無力感にうちひしがれてしまっている。だまっている彼女に、
 「エッ。オイ。何とかいってみろっていってるんんだ。」
 とどなりつかた。
 彼女は目からポロポロなみだをこぼしだした。
 「フン。その手はもうくわん。このペテンおんな。」
 彼女は、ますます泣きながら、
 「ゴメンなさい。かるはずみなことをいってしまって。でもあなたを愛している気持ちは本当です。」と訴えた。
 「フン。もうオレはお前の口車には二度とのせられないぞ。」
 彼女は答えられない。
 「でてけ。今すぐでてけ。お前の顔などもうみたくない。」
 と言って岡本君は一万円札を卓上にたたきつけた。でも彼女は、うつむいたまま動けない。業を煮やした岡本君は一万円札を彼女のポケットにつめこみ、腕をつかんで彼女を無理矢理立たせた。そして彼女を玄関まで荒っぽく連れていった。岡本君は玄関をあけると、降りしきる雨の中へ、彼女をつきとばした。そして靴と傘を放りだした。いかりを込めて戸を閉めてカギをかけた。岡本君はテーブルについた。箪笥の上にのってる結婚式の二人の笑顔の写真が目についた。無性に腹がたって、写真をとりだして、二人をひきさいた。それでも気がおさまらず、ズタズタにひきさいた。
 岡本君は台所から酒をもってきてのんだ。のみにのんだ。彼女のものが目につくたびに虫酸が走った。そしてそのいくつかのものを床にたたきつけた。外では雨がはげしく屋根をうっている。気づくと、もう十一時を過ぎていた。岡本君はワイシャツのまま床のついた。このうっとおしい雰囲気から、ともかくはなれたかった。彼女の実家は電車で五つはなれた所である。
 「もうとっくについているだろう。あいつは今、どんな弁解を考えてるだろう。いや、もう弁解なんかかんがえられないだろう。」全部いいきったマンゾク感、翌日が休みである安心感に酒の力が加わって、岡本君はいつしか眠りへと入っていった。外では、あいかわらず、雨がはげしく屋根をうっている。

        ☆     ☆     ☆

 岡本君が目をさましたのは翌日の昼過ぎだった。のんだわりには頭はすっきりしていた。カーテンをあけると雨はもう、すっかりやんでいた。雨上りの虹がかかっている。その美しさは岡本君の心にゆとりを与えた。岡本君は何本かタバコを吸った。
 「考えてみてば、オレもちょっといいすぎたかもしれない。あいつにとってはオレがすべてだったんだからな。あいつは嫉妬深いんだ。雨の中につきとばしたのはちょっとやりすぎだったかな。だがこれで、あいつの方でも、オレがきらいになっただろう。あとくされなくわかれられる。」 岡本君は顔を洗い、パンと牛乳の軽い食事をした。そして新聞をとりにいこうと思って玄関をあけた。すると、そこに一人の女性がうつぬいたまま正座している。全身ズブぬれである。サチ子だった。稲妻のような衝撃が岡本君の全身をおそった。しばしの間、茫然と立ちつくしたまま、彼女をみていたが、彼女は微動だにしない。しばしして、やっとわれに帰った岡本君は彼女のもとにしゃがみこんだ。彼女は、まぶたはさがっていたが、目はとじていなかった。岡本君は彼女のひたいをさわった。かなりの熱がある。
 「お前。昨日からずっとこうしていたんか?」
 岡本君が聞くと彼女は力なくうなずいた。岡本君の目から涙が急にあふれだし、とまらなくなった。岡本君は心の中で思った。
 「ああ。この女だ。おれにとって世界一の女はこの女だ。オレが一生、命をかけてまもってやらなくてはならないhのはこの女だ。」
 岡本君は彼女を力づよくだきしめた。彼女は意識がうすれ、感情もほとんどマヒしていた。ただ一言、
 「ゴ・メ・ン・ナ・サ・イ。」
 と感情のない電気じかけの人形のように言って、たおれふしそうになった。岡本君は彼女をささえ、力づよくだきしめた。
 「オレがわるかった。お前をうたがったオレがわるかった。もう二度とお前をうたがったりしないよ。お前をうたがったオレをゆるしてくれ。」
 すべてを洗いながしたかのごとく降った雨の後の日の光は、ときおりおちる庭の樹の雫を宝石のようにかがやかせていた。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

鬼ごっこ(小説)

2015-07-07 06:26:36 | 小説
鬼ごっこ

ある田舎の小学校である。新学期が始まって一ヶ月すると六年に一人の転校生がやってきた。
「今日から転校生が来た。佐藤京子ちゃんだ。さあ。佐藤くん。みなに挨拶して」
先生に言われて女の子は教壇に立った。
「佐藤京子といいます。よろしく」
女の子はペコリと頭を下げた。目がパッチリしていて、頬がふっくらしていて、とても可愛い。純は思わずドキンとした。出席番号は苗字から彼女は純の次である。
純は、その晩、京子のことが気になって、なかなか眠れなかった。
彼女は元気一杯の天真爛漫な子で、すぐにクラス中の生徒と友達になった。女の子にありがちな、女の子同士だけで遊ぶというのではなく、男に対するこだわりがなく、男子生徒とも親しくなった。悪戯好きな男子生徒が、「スカートめくり」と言って、彼女のスカートをサッとめくると、彼女は本気で怒るのではなく、「やったなー」と言って、男の子を追いかけた。男の子は笑いながら逃げたが、彼女も怒りながらも楽しそうに追いかけた。京子はそんな、お転婆な女の子だった。純は内気な性格なので、自分にはとても恥ずかしくて、ああいうことは出来ないと、さびしく思っていた。京子と無邪気に遊べたらどんなに楽しいだろうかと、京子と遊んでいる男の子をうらやましく思った。
彼女は、昼休みになると、男子生徒に、「鬼ごっこをしようぜ」などと誘われると、「うん。いいよ」と笑って気軽に応じた。純は窓から、京子が男の子たちと遊んでいるのを見た。お転婆といっても、やはり女の子。京子が鬼になると、男達はすばしっこくて、なかなか捕まえられない。逆に男が鬼になると、鬼は京子ばかりを追いかける。京子はすぐ捕まってしまい、京子を捕まえた鬼は京子の腕を背中に捩じ上げてしまう。男の子たちは、面白がって京子をからかっているように見え、純はその光景を見ると、何とも言えぬ羨望が起こるのだった。

京子は遊びだけでなく勉強にも何事にも熱心だった。授業でも先生が問題を出すと、京子は積極的に手を上げて答えた。
純は出席番号が京子の前だったので、小グループでの勉強は、京子と同じ班だった。京子は、何事につけ純に親切にした。純は京子の隣に座ると、胸がドキドキしてくるのだった。理科の実験では、純は京子と一緒の班だった。水の入った盥にビーカーを逆さにして水で一杯にするため、ストローで逆さにしたビーカーの底の空気を吸うが、なかなか全部とれない。「純君。やってみてくれない」京子に頼まれて、京子が口をつけたストローに口をつけることに純は、興奮するのだった。

家庭科の実習で、京子と一緒に料理を作った時など純は最高に幸せだった。純は京子といると緊張して真っ赤になってしまう。それで純は京子に話しかける時、真っ赤になって声が震えてしまう。純は自分に好意をもっているけれど、内気で恥ずかしがり屋なため、言い出せないのだと感のいい京子は、すぐ気づいたのだろう。純があまり話さなくても、京子は純に、積極的に色々と親しげに話しかけた。それが純には嬉しかった。

ある日の放課後、いつも昼休み、京子と校庭で鬼ごっこしている二人の男、森田と川田が、京子に、「遊ぼうぜ」と誘った。「うん。いいよ」京子は気軽に答えた。二人は、放課後、よく京子を誘って遊ぶようになった。一体どんな事をして遊んでいるのか、純は興味津々だった。純も遊びに加わりたいと思ったが、純から言い出すことは出来なかった。

ある日の放課後のことである。
「純。お前も来いよ」
と森田と川田の二人が純を誘った。京子も、
「純君も来ない?」
とニコッと笑って誘った。
「は、はい」
純は、小声で返事して彼らについていった。四人は、近くの神社にへ行った。山の一部を切り崩してつくられた神社で、周りが崖になっているため、遠くへは行けず、鬼ごっこにはちょうどいい場所だった。
「じゃあ、四人で鬼ごっこだ」
森田が言った。四人はジャンケンした。
「じゃんけんぽん」
京子が負けたので、京子が鬼になることになった。
「じゃあ、始めるわよ」
京子は目をつぶって、ゆっくり10数えだした。男たち三人は急いで、それぞれ神社の周辺の林の中に隠れた。
「1・2・3・4・5・6・7・8・9・10」
10数え終わると京子は、林の中を探し出した。京子は林の中に隠れていた森田を見つけた。
「森田君。見つけ」
京子が元気に言った。
「チッ」
森田は舌打ちをして逃げた。
「まてー」
逃げる森田を京子は追いかけた。いくら京子がお転婆とはいえ、駆け足では男の森田にはかなわないはずだが、意外にも森田は京子に簡単に捕まえられてしまった。
「どうだ。まいったか」
京子は森田の腕を背中に捻り上げた。
「まいった。まいった」
森田はおどけた口調で言った。
「じゃあ、今度はオレが鬼だ」
鬼の交代が起こり、森田が鬼になった。森田は目をつぶって、10数えだした。残りの三人は急いで、それぞれ神社の周辺の林の中に隠れた。
「1・2・3・4・5・6・7・8・9・10」
10数え終わると森田は、林の中を探し出した。森田は林の中に隠れていた京子をすぐに見つけた。
「ふふ。京子。みーつけ」
森田は嬉しそうに言って、逃げる京子を追いかけた。やはり男だけあって、京子より足が速い。森田は逃げる京子をすぐに捕まえた。
「ふふ。京子。つーかまえた」
森田は京子の両手を背中に捩じ上げた。
「おい。川田。女スパイを捕まえたぞ」
森田は大きな声で言った。隠れていた川田が急いでやって来た。なにやら単なる鬼ごっことは違うようである。
「ふふ。こんな綺麗な女スパイを捕まえたんだ。うんと楽しませてもらうぜ」
川田が言った。
「よし。裸にしちまえ」
川田は、森田に両手を背中に捩じ上げられて身動きのとれない京子の服を脱がせ始めた。
「いやっ。やめてっ」
京子は身を捩って抵抗した。だが二人は容赦せず、京子の上着を脱がせ、スカートも抜きとった。京子はパンティー一枚になると足をピッチリと閉じ合わせた。
「ふふ。これも脱がしてやる」
そう言って川田は、京子のパンティーを降ろしていった。
「や、やめてー」
京子は足をピッチリ閉じて叫んだ。だが森田は京子の訴えなど、何処吹く風と京子からパンティーを抜きとった。裸にされた京子はアソコと胸を手で隠して座り込んだ。
「お願い。見ないで。服を返して」
京子は縮こまって座り込み、手で恥ずかしい所を隠しながら二人に哀願した。二人は京子のパンティーやスカートをつまんで京子の前に差し出した。京子がそれを取ろうと手を伸ばすと、男はサッと引っ込めた。
「あはははは」
森田と川田の二人は意地悪く笑った。
丸裸で困惑する京子をしばし二人は眺めていたが、しばしして、
「よし。もう許してやる」
と川田が言って京子に服を返した。京子は急いで、パンティーを履きスカートを履いた。
「もう。ひどいったらありゃしないわ」
京子は、プンプン怒って文句を言いつつも、どこか、いじめられる事を楽しんでいるような様子があった。純は、激しく興奮して勃起してこの光景を見ていた。

純は、その夜、興奮で眠れなかった。

数日後の放課後のことである。
「おい。純。また、今日も遊ぼうぜ」
森田と川田が純を誘った。
純は、「うん」と言って、二人について行った。
神社の境内には京子がいた。
「よし。鬼ごっこをしよう」
森田が言った。四人はジャンケンした。純が負けて鬼になることになった。
「いいか。隠れるヤツは悪人だから、捕まえたら、拷問するんだぞ」
森田は純にそんなことを言った。
純は目をつぶって10数え出した。三人は林の中に隠れた。
10数え終えて、純は辺りを探し出した。木の陰に京子のスカートが見えた。純は、京子を捕まえようと走り出した。京子は逃げたが、簡単に純に捕まえられてしまった。森田と川田がやってきて純に縄と竹の棒を渡した。
「さあ。京子は悪人だから、これで縛って、拷問するんだ」
森田が言った。
「じゃあ、純。しっかりやりな。オレ達は遠くで見てるから」
そう言って二人はその場を離れた。純と京子は二人きりになった。
純はどうしていいかわからず、立ち竦んでしまった。
「さあ。純君。遠慮しないで私を縛って」
そう言って京子は両手を背中に回して手首を重ね合わせた。
「ご、ごめんね。京子ちゃん」
そう言って純は、そっと京子の手首を縛った。純の手は震えていた。
「あん。純君。もっときつく縛っていいわよ」
純は、ドキドキしながら京子の手首をきつく縛った。純は、激しい興奮で勃起していた。これでもう京子は自由を奪われてしまった。京子は、おとなしく後ろ手に縛られたまま、正座している。純は竦んでじっとしていた。
「純君。私、悪い女スパイだから、何をしてもいいわよ」
京子が言った。
「ご、ごめんね」
純は申し訳なさそうに、京子の背を渡された竹で突いた。
「あん」
京子の柔らかい体がユラリと揺れた。
「ご、ごめんね。京子ちゃん」
純はペコペコ謝った。
「いいの。遠慮しないで。もっと、やって」
京子に言われて純は、京子の体のあちこちを突いた。その度、京子は、
「ああん」
と、苦しそうに声を出した。
「痛くない。京子ちゃん」
純が聞いた。
「大丈夫。もっとやって」
京子は純にいじめられることを求めているかのようである。しばし経った。いつの間にか二人はいなくなっていた。
「ごめんね。京子ちゃん」
「ううん。楽しかったわ」
京子は笑顔で言った。
純は京子の縄を解いた。
その日の遊びは、それで終わった。

その晩。純は興奮で眠れなかった。

数日後の放課後。
「純君」
京子が純に声をかけてきた。
「なあに。京子ちゃん」
「あの神社に来てくれない?」
「う、うん」
純はオドオドしながら言った。京子と純が二人きりになった。他の二人はいない。
「あ、あの。純君。私を、この前のようにいじめてくれない」
いきなり突拍子もないことを言われて純は驚いた。
「ど、どうして」
純はわけを聞いた。
「この前、純君に縛られた時、なんだか、すごく気持ちがよかったの。森田君と川田君にいじめられるのを純君に見られた時も、何だか、すごくドキドキしちゃったわ」
京子の告白を聞いて純は、かなり、ほっとした。
「実は、僕もそうなんだ。この前、君を縛って、竹で突いた時、すごく気持ちが良かったんだ」
京子はニッコリ笑った。
「そう。それじゃあ、お願い」
そう言って京子は、純に縄を渡した。純が、京子を縛ろうとすると、
「待って」
と京子が制した。
「あ、あの。私、裸になるわ。裸になった私を縛って、いじめて」
京子は、そう言って、服を脱ぎ出した。純は吃驚した。心臓がドキドキ音を立てた。京子は上着を脱ぎ、スカートを降ろし、ブラウスとパンツも脱いで丸裸になった。
「さあ。純君。縛って」
そう言って京子は背中に手を回した。純は震える手で、京子の手首を重ね合わせ、縄で縛りあげた。もう、自由が利かない。
「は、恥ずかしいわ。でも、何だか、すごく気持ちいい」
そう言って京子は、膝をピッチリ閉じ合わせた。
「ぼ、僕も、京子ちゃんを自分の物にしたようで、すごく気持がちいい」
純は興奮して鼻息を荒くしながら言った。
「ふふ」
京子は、膝をピッチリ閉じ合わせたまま、ニコリと笑った。
「し・あ・わ・せ」
京子は、温まったような言葉を言った。
「僕も、すごい幸せだよ」
純は京子に遠慮する気持ちがなくなっていった。
「ふふ。京子ちゃんが逃げられないよう、柱に縛りつけちゃお」
そう言って純は、京子の縄尻を神社の柱に縛りつけた。
「ああん。恥ずかしいわ」
そう言って京子は足をピッチリ閉じて座った。
「待ってて。お菓子、買ってくるから」
そう言って純は走り出した。
「すぐ戻ってきてね」
京子が言った。純は、林を出て、近くの駄菓子屋で、スナックを買った。そして、急いで京子の所に戻ってきた。
俯いていた京子は純の顔を見ると、ほっとしたようにニコッと笑った。
「よかったわ。純君が、私をこのままにして、帰っちゃうんじゃないかって怖かったわ」
純は、ふふふ、と笑った。純は、ポッキーを京子の口に入れた。京子は、小さな口を開けてモグモク噛んでゴクリと飲み込んだ。その仕草が純には、とてもかわいく見えた。
小学校を卒業すると、純は父親の転勤で、東京に引っ越した。
しかし、小学校六年の時、京子としたエッチな遊びは、純の心の中で一番楽しい思い出となっている。



平成22年11月19日(金)



  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

山の中(小説)

2015-07-06 00:24:20 | 小説
山の中


 ある日、伸一は裏山に登ってみた。ここはただ雑木が暗く茂っているだけの殺風景な山でめったに人は来ない。初めてこの山に入った人ならただ一筋、踏みならされて出来ている山道を外れれば迷ってしまうだろうが、子供の時から何度も登っている伸一にとって、この山は庭のようなものだった。頂上に登って、持って来た文庫本を読みおえて、帰途についた。尿意が起こって道から外れて笹の中を入って行き、一本の大木の陰で用をすませた。
「はー。すっきりした」
道に戻ろうとすると、その先の方で何かカサコソと音がする。何の動物だろうと思って、そっと足音を忍ばせて笹を分けて行った。人影が見えた。セーラー服の女学生だった。何やらソワソワしている。伸一は心臓の高鳴りを押さえて相手に気づかれないよう、忍び足で腰を屈めて引き返し、相手に気づかれないほどの距離をとった。ちょうど太い大木があったので、それに身を寄せて腰を屈め、息を殺してそっと女を見た。驚いたことに女は同級の秀才でクラス委員長の愛子である。ソワソワして様子がおかしい。小用をしたいのなら、ここは山道から入り込んでいて、まず人に見つかる事は無いのだからさっさとすればいい。しかし、そもそも何の用でこの山に登ってきたのだろう。

伸一が疑問を感じながら息を潜めて見ていると、驚いた事に愛子は服を脱ぎだした。セーラー服を脱ぎ、ブラウスも脱ぎ、スカートも脱いだ。伸一が息を呑んで見つめていると愛子はブラジャーをとり、パンティーも脱いで一糸まとわぬ丸裸になった。着やせするたちだ。ムッチリとした太腿、スラリと伸びた脚。乳房も十分な肉の量のため、下縁がクッキリと輪郭をつくって、胸板の上にのっている。尻も十分な量の肉のため、ピッチリ閉じ合わさっている。それはもう十分発育しきった女の肉体だった。伸一が息を潜めて眺めていると、愛子は信じがたいようなポーズをとりだした。仰向けに草の上に寝て、膝を立て、足を目いっぱい大きく開いた。伸一の位置からは見えないが、愛子の正面に立ったら女の恥ずかしい所が全てが丸見えである。愛子は笹の葉を一本とって、葉の先で乳房やら、腋下、脇腹などをなぞったりした。それがだんだん下降して女の部分へと行く。

しばらく目を瞑って笹の葉で体を弄んでいた愛子は今度は体を反転させ、四つん這いになり、足を大きく開いて、尻を高々と上げた。そして尻の割れ目に笹の葉を持っていくと、スッと触れさせては、「ああっ」と切ない声を出し、尻から太腿をピクピクと震えさせた。何度もそんな事を繰り返した後、尻の穴を広げて笹の茎を尻の穴に差し込んだ。キュッと尻の穴がすぼまって、あたかも尻尾のようである。

伸一は息を潜めてじっと見ていた。愛子は裸のまま、草の上に仰向けに寝て右手を女の割れ目に入れ、ゆっくりとしごきだした。だんだん蠕動が速くなっていく。残りの手で乳房を揉んだり、乳首を摘んだりしている。愛子の呼吸はだんだん速くなっていった。顔は眉を寄せ、苦しそうな表情である。時々、「あっ。あっ」と声を洩らすようになった。蠕動はどんどん速くなっていく。ついに愛子は「ああー」と大きな叫び声を上げた。ガクガク震えていた体は動かなくなった。愛子はカバンからティッシュを取り出すと、女の部分を丁寧に拭いた。しばし、じっとしていたが、愛子はムクッと立ち上がると足を大きく開いて、手で尻の肉を掴み、ピッチリ閉じ合わさった尻の割れ目をグイと開いた。まるで人に尻の穴を見せつけるように。愛子は大木の前に立つと、両手を背中に回してみたり、頭の上で手首を交差させたりした。あたかも木に縛られた格好である。しばし、そうしてじっとしていた後、胸と秘部を手で隠してソロソロ歩いてみたり、捕縛された女が連行されるように両手を背中に回して、背中で手首を重ね合わせて、ソロソロと歩いたりした。そして立ちどまって足を開いて手で割れ目を開いてみたりした。
その後、髪を掻き揚げて、顔を空に向け、片手の手の甲を腰に当て、腰をくねらせてヌードモデルの様なポーズをとったりした。そんな事をしているうちに日が暮れだした。愛子はカバンの所へ行き、パンティーを履き、ブラジャーをつけた。そしてセーラー服を着ると、いかにも満足したような表情で、カバンを取り、笹を掻き分けて、山道に出て、山を下っていった。
一部始終を見ていた伸一は口元を歪めてニヤリと笑った。

 翌日の月曜日の昼休み。愛子はいつものように、はしゃいでいる皆をよそに一人静かに、教科書を開いて勉強していた。伸一が愛子の所に行くと、愛子は顔を上げて、屈託のない笑顔で、
「なあに。伸一君」
と言った。伸一は口元を歪めてニヤリと笑って言った。
「昨日の××山での君は、とっても素晴らしかったぜ」
とたんに愛子の顔が真っ青になった。口唇がピクピク震えだした。握っていたシャープペンがポロリと落ちた。伸一はフフンとせせら笑った。
「安心しな。まだ誰にも言ってないぜ。そのかわり、今日の放課後、学校の裏にある廃屋へ来な」
そう言い捨てて伸一は席に戻った。
その後、愛子はまるで尻が椅子にくっついてしまったかのように、微動だにせず、授業中も顔を上げる事も無く、ずっと俯いたままだった。一度、そっと伸一のいる席の方をそっと見た。伸一のニヤついた目を見ると、真っ赤になってサッと顔を戻した。

 休み時間。伸一は太男に、「いい事をおしえてやるぜ」と言って校庭に連れ出した。
伸一と太男は仲がいい。太男は愛子に激しく恋していて、以前、付き合ってほしい、と、告白したのだが、愛子に「ごめんなさい」と断られて、それ以来、愛子に愛憎いりまじった複雑な感情を持つようになっていた。太男が、
「いい事ってどんなことだ」
と聞くと、伸一は、
「お前の好きな愛子をお前の玩具にさせてやるよ」
と言った。太男がびっくりして、
「どうしてそんなことが出来るんだ」
と聞いたが、伸一はしたり顔で笑って、
「それは内緒だ」
と厳しい口調で言った。

 放課後、伸一と太男が学校の裏の廃屋で待っていると、ギイと戸が開いて愛子が入ってきた。愛子はソファーに座っている伸一と太男を見ると、戸を閉めて二人の前にやって来て、立ち竦んだ。俯いて手をギュッと握りしめ、睫毛をフルフル震わせている。
太男はしばし、信じられないという様な顔で、あっけにとられていたが、気を取り直すと伸一の裾をつかんで激しく引っ張った。
「おい。伸一。どういう事なんだ。どうしてこんな事が出来るんだ」
伸一は、ふふふ、と余裕の笑いを見せるだけで答えない。
「そうか。きっと何か、愛子の秘密をつかんだんだな。何だよ。教えろよ」
太男はまた力強く伸一の裾を引っ張った。伸一は答えず、うつむいている愛子の目をじっと見据えた。
「どうだ。愛子。言った通り、まだ誰にも言ってないだろう」
愛子はフルフル睫毛を震わせながら、少し顔を紅潮させている。
「おい。愛子。別にオレが喋っちゃいけない義務は無いんだぜ。それともみんなに言いふらしてもいいのか」
愛子はあいかわらず、睫毛を震わせながら手をギュッと握っている。伸一は大きな声で怒鳴った。
「おい。愛子。黙ってばかりいないで何とか言え。皆に言ってもいいのか。返事しろ」
「・・・い、言わないでください」
愛子は小さな声で言って真っ赤になって俯いた。伸一は得意顔になって腕組みした。
「よし。ちょっと声が小さいがまあいいだろう」
伸一はしばし俯いている愛子を眺めていたが、再び威嚇的な声で怒鳴った。
「おい。愛子。お前のやった事は極めて不道徳な事なんだぞ。公序良俗を乱す事なんだぞ。皆に言って、ああいう行為がいい事かどうか、聞いてもいいんだぜ。それを黙っているのは、皆にそんな事が知れたらお前がかわいそうだと思うからだ。礼くらい言ったらどうだ」
「・・・あ、ありがとうございます」
愛子は顔を真っ赤にして言った。
「よし。じゃあ、お情けでお前のした事は一生誰にも言わないでやる」
「あ、ありがとうございます」
今度は心のこもった口調だった。伸一はすぐに言葉を継いだ。
「しかし無罪放免というわけにはいかないな。罪を犯したら、それ相応の罰を受けるのは当然だろ。お前にふさわしい罰を与えてやる。それがいやなら皆に言いふらす。さあ、どうする」
「ど、どんな罰なんですか」
愛子は小さい声で聞いた。
「だから、お前にふさわしい罰だ。今日一日で勘弁してやる。そうすれば無罪放免だ。どうだ。従う気はあるか」
愛子はしばし眉を寄せ、困惑した表情をしていたが、訴えるように聞いた。
「・・・ほ、本当に今日一日なのですね」
愛子は念を押すような口調で言った。
「ああ。本当だとも」
伸一は堂々とした口調で言った。愛子はしばし伸一の目を見つめていたが、伸一は愛子の視線をそらそうとしない。
「・・・わ、わかりました」
愛子は小さな口を開いて小さな声で言った。伸一は太男の腕を引っ張った。
「おい。ちょっと耳をかせ」
伸一に言われて太男は頭を伸一の方に寄せた。伸一は掌を太男の耳の前に立て、その後ろで愛子に聞こえないように何かを太男に耳打ちした。太男はニヤリと笑って愛子を見た。伸一は、よっこらしょ、と言って立ち上がった。
伸一は愛子の背後に回ると愛子の両腕をグイと背後にねじり上げた。愛子は反射的に、
「あっ」
と声を出し。
「な、何をするの」
と自由を奪われた体を揺すって叫んだ。伸一は愛子の訴えなど無視して愛子をガッチリと取り押さえたまま急いで太男に目配せした。
「おい。太男。愛子にやりたい事を何でもやりな。俺が愛子をしっかり押さえててやるから」
言われて太男は口元を歪ませながらジリジリと愛子に近づいていった。愛子は近寄ってくる太男を気味悪がるように後ずさりしようとしたが、伸一が愛子をガッチリと後ろ手に捕まえているのでどうにもならない。伸一は腕力が強い。愛子がもがいても銅像のようにビクリとも動かない。あたかも愛子は後ろ手に縛められカッチリと不動の柱に繋ぎ止められているかのごとくである。太男は愛子の目前に来るとドッカと胡坐を組んで座った。
「おい。太男。俺がしっかり押さえててやるから何でも好きな事をして愛子を弄びな」
愛子をガッチリと後ろ手に掴んでいる伸一が言った。
「おう。しっかり押さえててくれ」
そう伸一に向かって言って。太男は目前に佇立している愛子に視線を向けた。愛子はあたかも蜘蛛に捕らえられた美しい蝶のごとくである。太男は涎を垂らしながら愛子を頭の天辺から爪先まで、美術品を鑑賞するかのごとく舐めまわすように眺めた。愛子はその視線に耐えられなくなり頬を紅潮させて顔をそむけた。これから何をされるか分からない恐怖でピッチリ閉じた腿がプルプル小刻みに震えている。
「うーん。きれいだ。まるで人形のようだ。こんな綺麗な女を自由に出来るなんて。まるで夢のようだ。お前が押さえててくれなかったら、俺みたいな不細工な男には、こんな綺麗な女には一生、手を触れる事なんて出来ないだろう。うんと楽しませてもらうぜ」
そう言うや、太男はピッチリ閉じている愛子の太腿に手を入れた。そして膝頭の上から腿の付け根までの柔らかい太腿の感触をおもうさま貪った。太男は愛子の太腿をヒシッと両手で抱きしめて愛子の柔らかい太腿に頬を押し当てた。
「ああー。柔らかくて、最高の感触だ」
太男は愛子の太腿に頬ずりしながら言った。太男は何もかも忘れた忘我の法悦境にいるかのような様子だった。愛子はあたかも蜘蛛の巣にかかって毒蜘蛛に弄ばれている美蝶のようであった。
伸一に背後からガッシリと掴まれているため、愛子は逃げることも抵抗することも出来ない。下肢は太男にラグビーのタックルのように抱きつかれている。「嬲る」という字は一人の女が二人の男に挟まれている形だが、愛子はまさに二人の男に嬲られられていた。もはや愛子は抵抗をあきらめたかのごとく立ったまま動かなくなって首を垂れた。しばしの陶酔の眠りから醒めたように太男は愛子の太腿にかけていた手をほどき愛子から離れた。太男が愛子の顔に視線をやると愛子は羞恥に頬を赤くして顔をそむけた。

「おい。休んでないで、もっと弄べ。こんな事が出来る機会は今日だけかもしれないぞ」
しばし酩酊の余韻に浸っていた太男だったが、一休止すると、再び動き出した。
伸一に促されて太男は再び舌なめずりして愛子に手を伸ばした。太男は愛子のスカートの中に手を入れると、柔らかい弾力ある尻や女の果肉をパンティーの上からまさぐりだした。愛子は反射的に、
「あっ」
と叫んで腿をピッチリ閉じた。愛子の腿はプルプル震えている。太男の手がパンティーをまさぐる様子がスカートで見えないため、それが辛さに加えて不気味さを起こさせた。スカートの中でパンティーの上を不気味に触手が這い回っている。
「ああー」
愛子は眉を寄せて切ない悲鳴を上げた。
「や、やめてー」
太男は愛子の訴えなど無視して愛子を嬲りつづけた。
「ふふ。普通ならスカートの中のパンティーを見る事さえ出来ないのに。こうやって心ゆくまで触れるなんて、まるで夢のようだ」
太男はさかんに愛子の大きな柔らかい尻を撫でたり、パンティーの上から女の肉をつまんでみたり、パンティーのゴムを摘んで、パンティーの弾力を調べたりした。
「ふふ。パンティーを降ろしちゃおうか。この状態なら、わけもないぜ」
太男はパンティーの腰のゴムを摘んでそんな事を言った。太男は口元を歪めて愛子の顔を見ながらパンティーの腰のゴムを少し引き下げた。
「お、お願い。やめて」
愛子は腿をピッチリ閉じて泣かんばかりに訴えた。太男は薄ら笑いしながら続けて言った。
「ふふふ。パンティーもスカートも上着も全部脱がしちまう事も出来るな。愛子を一糸纏わぬ丸裸にしちまおうか」
太男は、そんな事を言って愛子を押さえている伸一に顔を向けた。
「おい。伸一。どうする。全部、脱がしちまおうか」
伸一は両手を愛子の腋の下へ通し襟首の所で組み合わせてガッチリと羽交い絞めした。
「ふふ。まあ、そうあせることもねえ。脱がすのもいいが。服を着たままの、いつもの姿の愛子をもてあそぶってのが脱がすよりエッチなものだ」
伸一はつづけて言った
「力づくで脱がせば強姦だが服の上からさわりまくれば痴漢だ。痴漢の快感を心地ゆくまで味わえ」
「なるほど。それもそうだな」
そう言って太男は掴んでいたパンティーのゴムを離した。太男は伸一に取り押さえられ腿をピッチリ閉じて立っている愛子の前にドッカと胡坐をかいて座った。目の前はちょうど愛子のスカートである。太男はスカートの裾をつかむと、ゆっくり時間をかけてスカートを持ち上げていった。
スカートの中のパンティーが顕わになった。腿がピッチリ閉じプルプル震えている。純白のパンティーが顕わになった。パンティー。この実用物は女に履かれて女の体と一体化する事によって、この上なく美しい構造美をつくっている。パンティーはその伸縮性によって女の恥部を見事に整えている。女の肉は形よくピッチリとおさまって美しい輪郭の小さなふくらみを作っている。
太男は目の前の愛子のパンティーをしげしげと見つめた。
「ふふ。すげえ。女のスカートなんて、めくるどころか触れることも出来ないのに。こんなにどうどうとスカートをめくってパンティーを目の前でじっくり見ることが出来るなんて。夢のようだぜ。もしかするとこれは夢で、俺は夢を見ているのかもしれないな」
そう言って太男は自分の頬をギュッとつねった。
「いてー。やっぱりこれは夢じゃないんだ」
そう言って太男は再び涎を垂らさんばかりの表情で愛子のパンティーを見つめた。視線は一点。愛子の女の部分に固定されている。太男は愛子を見上げた。
「おい。愛子。どうだ。こうやってスカートをめくられてパンティーを観賞される気分は」
「は、恥ずかしいわ。お願い。やめて」
愛子は顔を火照らせて顔をそむけた。太男は愛子の訴えを無視してパンティーの一点をうっとりと見つめていたが、
「どれ。どんな匂いがするか、嗅いでみるか」
と言って、グッと身を乗り出して愛子のパンティーの女の部分に顔を近づけた。太男の鼻先が愛子のパンティーの柔らかい部分に触れた。
「あっ。いやっ」
愛子は首を振って抵抗した。愛子が反射的に腰を引いたため、鼻先がパンティーから離れた。太男はニヤリと笑い、太腿を愛撫した時と同じように両腕で愛子の太腿をガッシリと抱き、顔をパンティーに埋め、鼻先を女の部分に当てがった。
「あっ。いやっ。やめて」
愛子は必死で叫んだが、ラグビーのタックルのように太腿をしっかり掴まれているためにどうにも出来ない。顔をピッタリとパンティーに押しつけているため。空気の流通が無くなり。愛子の女の部分から発散される女の匂いが太男の顔の前によどんだ。太男はピッタリと鼻先を愛子の女の部分に押しつけると勢いよく鼻から吸気した。そしてそれを何度も繰り返した。
「ああっ。いやっ。やめて。お願い」
愛子は腿をプルプル震わせながら真っ赤になった顔を激しく左右に振った。太男は愛子の訴えなど無視して酩酊した表情で瞑目して愛子の女の谷間に顔を埋め愛子の太腿を抱きしめている。
「おい。どんな匂いだ」
愛子を取り押さえている伸一が聞いた。
「いい匂いだ」
「どんな匂いだ」
「腐ったチーズのような匂い」
「ほう。愛子ほどのきれいな女でもアソコの匂いはやっぱり臭いんだな」
伸一はつづけて言った。
「でも、くさいからこそ、かえっていいんだ。女のそこの匂いがいい匂いだったら、かえって駄目だ。一番、大事な所がくさいからこそいいんだ」
愛子は真っ赤になって顔をそむけている。太男はしばし恍惚とした表情で愛子のパンティーに顔を埋めていた。愛子はもう、どうしようもないと諦めたのか、静止して太男のなすがままになっている。
「おい。太男。そろそろ快感に浸りつづけるのはおわりにしろ」
伸一に言われて、太男は愛子から顔を離した。太男は酩酊者のように上気した顔で、伸一に取り押さえられている目前の愛子を眺めている。伸一は羽交い絞めを解いた。愛子は虚脱したようにクナクナと倒れるように座り込んだ。
「おい。太男。どうだった。愛子の味は」
「最高だったよ。まさに夢かなったり、だ」
「そうか。それはよかったな」
太男は床の上に俯いて座っている愛子をニヤついた顔で眺めている。伸一はキッと厳しい目で、うかれている太男を見た。
「おい。太男。お前はもう帰れ。それと今日の事は誰にも言うなよ」
太男は伸一を見た。
「ああ。わかったよ。こんないい思いが出来たのは、お前のおかげだからな。今日の事はオレの一生の宝物だ。お前には感謝してもしたりないくらいだ。お前の言うとおり今日の事は誰にも言わないよ」
そう言って太男は立ち上がり、廃屋を出て行った。
あとには伸一と愛子がのこされた。
愛子はうつむいて座っている。
「おい。愛子。俺は約束は守る。お前はもう罰をうけたから今日で無罪放免だ。俺は一生、誰にも言わないから安心しな」
そう言って伸一も廃屋から出て行った。
小屋には愛子一人になった。愛子はしばし力なく目を瞑って無言のままソファーに身をもたせていた。外は真っ暗である。一時間くらいして愛子はやっとソロソロと立ち上がった。愛子はそっとスカートをはたきカバンを取って廃屋を出て家に向かった。目に涙が滲んでいた。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする