かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『泡宇宙の蛙』の一首鑑賞 109

2022-08-07 12:15:41 | 短歌の鑑賞
  2022年度版 渡辺松男研究2の15(2018年9月実施)
    【〈ぼく〉】『泡宇宙の蛙』(1999年)P75~
     参加者:泉真帆、岡東和子、A・K、T・S、曽我亮子、
         渡部慧子、鹿取未放
      レポーター:渡部慧子   司会と記録:鹿取未放


109 おいしそうに野のあちこちに蛇苺ママの乳首がちらちらとある

       (レポート)
 蛇苺は赤くてかわいい、それなのに毒がある。成長期の羞恥心にとって垣間見える景のように禁忌めく乳首のように「ちらちらとある」という苺。幼児の気分がいつとはしれずエロスにすりかわろうとしていよう。(慧子)


       (当日意見)
★美味しそうだけど毒がある、ママの乳首はママの怖い部分と繋がっている。(T・S)
★野いちごでもよかったのに蛇苺といったらやっぱりエロスかなあと。前の108番の歌
 (どうしてママ歯をみがくときさみしいの昼寝に覚めた三時の気分)を読んだとき幼稚園
 児くらいを想定して詠んだのかなあと思ったのですが、これはもう少し大きい子で10代
 の性の芽生えというのを思ったんですね。松男さんがこういうふうに幼い抒情性を展開す
 るのは詩の現場として理屈ではなくて感情の細かな部分で何かを感じてみたいという欲求
 とか、大人になっても残っている原初的なものがポエムとして表れているのかなと。それ
 で見ちゃいけないものを見たくて、感じ ちゃいけないけどもやもやと何か感じそうな、
 そういうのを蛇苺の赤いポチポチに見ている。結句の「ちらちらとある」もそういう感じ
 を出していて面白い歌だと思いました。(真帆)    
★蛇苺の形が乳首と繋がる。やっぱりエロスを感じる歌だと思いました。(岡東)
★「おいしそうに」は「ある」に繋がるんですよね。(A・K)
★そうすると主語が蛇苺と乳首と2つになりますね。(鹿取)
★同格になりますね。見えているのは蛇苺だけど、それはママの乳首なんだよって。蛇苺の
 蛇はアダムとイブに繋がるようで、禁忌って感じはすごく伝わります。こういう感じを子
 どもは持つんだろうなと。ちらちらとかあちこちとか何でもないように言っているけど、
 蛇苺と乳首を結びつける練られた言葉だと思う。ところで、蛇苺って毒なんですか?
   (A・K)
★毒はないって辞書には出ていますね。私はこの発話主体は十代の男の子とは思わなくて、
 108番歌「どうしてママ歯をみがくときさみしいの昼寝に覚めた三時の気分」と同じよ
 うな小学校入学前の男の子だと思うんですけど、だからといって禁忌がないとは思いませ
 んが。それで歌は二重構造になっていて、蛇苺をママの乳首のように感じているのは幼児
 で、それを描写しているのは大人。(そんなこと言ったら、全ての歌が、例えば木になり
 きっている歌も記述しているのは作者以外にないので、みな同じ構造ということになりま
 すけど)幼児はエロスとかたとえ感じたとしても意識化はしないし言語化も出来ないんだ
 けど、記述する隙間のところにエロスとか禁忌とかが入り込んでくるような気がします。
 そこが面白いのですが、入り込むように歌が仕掛けられているんでしょうね。(鹿取)


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