かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『泡宇宙の蛙』の一首鑑賞 193

2022-11-28 09:25:22 | 短歌の鑑賞
 渡辺松男研究2の26(2019年8月実施)
     Ⅲ〈行旅死亡人〉『泡宇宙の蛙』(1999年)P125~
     参加者:岡東和子、A・K、T・S、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:岡東和子    司会と記録:鹿取未放


193 西行はうらやましされど今われは「行旅死亡人取扱法」読む

      (レポート)
 西行は、良く知られた歌僧である。鳥羽上皇に仕えて北面の武士になるも、23歳の時に無常を感じて僧となり、歌作の旅に生涯を送った。その生き方には、作者のみならずうらやましさを感じる人は多いと思う。しかし作者は今、「行旅死亡人取扱法」を読んでいるという。この「今」によって臨場感が高められている。(行旅死亡人)とは、「旅行中に死んで引きとるものがない者。行き倒れ。」(広辞苑)のことであり、行旅人が病気や死亡をした場合は所在地の市町村が救護するべきことなどを定めたのが「行旅死亡人取扱法」である。条文は現在も文語体のままであるという。歌を詠みながらの旅には憧れるが、行き倒れになってしまったらこの古い法律に頼るしかないのだろうか。物のように取扱われるのだ。理想と現実の狭間を行き来する人間の葛藤を描く作品は、短歌以外にもあるであろう。そんな中、この作品では「行旅死亡人取扱法」が効いている。これによって一気に現実を直視することになるからである。作者の物事を冷静にみつめる姿勢を、うかがわせる一首になっている。「行旅死亡人取扱法」の正式名称は「行旅病人及行旅死亡人取扱法」で、明治32年施行。 


    (当日意見)
★西行は全国を行脚していたから、いつ行き倒れになるか分からない。そして松男
 さんは地方公務員だから、そういう人を介護したり埋葬したりする責任を負っている
 立場だったのですね。西行の諸国放浪はうらやましいけれど、自分は地方公務員
 で「行旅死亡人取扱法」に関連した役職にいるからやむなくそれを読んでいると
 いう設定でしょうかね。そこがずいぶんリアルですね、明治32年施行なんってそ
 んな古い法とは知りませんでした。(鹿取)
★渡辺さんにしては上の句と下の句が分かりすぎる。西行の頃は野垂れ死にしても
 ほっとかれたんでしょうけど、今は違うよって。でも「行旅」なんですね。
    (A・K)
★はい、法律用語は民には知らしめるなってわざと難しく書いているんでしょう。
  (鹿取) 
★上から目線ですね。(A・K)


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