かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『泡宇宙の蛙』の一首鑑賞 134

2022-09-01 13:49:49 | 短歌の鑑賞
  2022年度版 2の17(2019年1月実施)
     Ⅱ【膨らみて浮け】『泡宇宙の蛙』(1999年)P85~
     参加者:泉真帆、M・I、K・O、岡東和子、A・K、T・S、
       曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:泉真帆   司会と記録:鹿取未放


134 はかなかるサラリーマンの癖(へき)として「宇宙ひも」など浮かべて眠る

      (レポート)
 これは作者自身のことでもあろうしサラリーマンといわれてきた人々のことでもあるだろう。作者自身の癖としては遙かな宇宙たとえば「宇宙ひも」などを思い浮かべて眠りに入るのだという。(真帆)


    (当日意見)
★ホーキングが「どのようにして宇宙ができたかはおおよそ分かった」っていうのでそれな
 ら読まなくちゃとここ20年ほど彼の著作を読んできましたが、面白いけどあまり理解は
 できないです。
 もちろん高度な理論である「宇宙ひも」の概念は理解できません。ネットで見ると、「宇
 宙ひも」は宇宙のはじめの密度の揺らぎに関係していると考えられていたけど、近年はそ
 れほど影響が無いことが分かったと書かれています。でも、宇宙ひもを検証する場じゃあ
 りませんから、この歌はそういう宇宙のはじめの何かを思い浮かべて眠るんだと、漠然と
 した理解でいいのでしょう。私がホーキングを面白いと思うのは冒頭の記述「どのように
 して宇宙ができたかはおおよそ分かった」の後に「なぜわざわざ宇宙が存在するのかは分
 からない」って言っていて、でもその「なぜ」を問うていて、そのあたりの深さが好きな
 ので分からないけど時折りホーキングの本は出してきて読みます。(鹿取)
★宇宙的なスケールのものとちまちましたサラリーマンを対比させる、みんな同じ造りで
 すね。作歌する時の方式があるなって気がしますね。(A・K)
★宇宙ひもはものすごい重力をもっているのだそうです。それから時空に何か欠陥をもって
 いるものですよね。それで、重力に押しつぶされそうなサラリーマンを持ってくる。だか
 ら最後の宇宙ひもの歌を持ってきてひびきあわせた。この一連、重力でつないでいて他の
 歌とは違っている。
 それと、「へき」がうまいですよね。何か巨大なものを連想させる手がかりとして「へ
 き」がある。貝の紐なども連想させる面白さもある。はかなかる、へき、宇宙ひもとハ行
 の音も計算されている。(K・O)
★「へき」ってふりがなが抜群ですね。くせだったらまったく通俗的で歌にならないけ
 ど、「へき」だから飛躍できた。(鹿取)
★まったくその通りですね。宇宙ひもって欠陥があるとおっしゃったでしょう。私は蛍光灯
 の紐のようなもので、ひっぱると電気が点くように開かれているものかと思っていまし
 た、サラリーマンの希望みたいなものだと。でも、マイナスのイメージなんですね。そう
 すると宇宙にさえ欠陥があるんだとサラリーマンは思ってるってことですね。詳しいこと
 は分からなくても肯定的なものか否定的なものかが分からないと歌のニュアンスがまった
 く違ってきますね。やっとわかりました。(A・K)
★いや、私は松男さんが宇宙ひもを否定的なニュアンスを出すために使っているとは全く思
 いません。欠陥と言っても「宇宙の初めに複数の領域がそれぞれ個別に相転移した結果、
 領域の境界には位相的欠陥ができた」とかいう話で、それは人間的な価値観のプラスマイ
 ナスとはまったく違うものです。そういう価値観の問題では無くて、宇宙のはじめにあっ
 たらしい宇宙ひもという訳の分からない、だからこそ壮大なロマンのある、そういうもの
 をイメージして解放されて眠ろうと、日々がんじがらめになっているサラリーマンの習性
 として「宇宙ひも」を思い浮かべるんだと。もちろん、松男さん自身は「宇宙ひも」の概
 念をしっかり理解してうたってらっしゃるかもしれませんが。まあ、いろんな解釈ができ
 るのはいい歌だということです。(鹿取)


     (後日意見)
「ブリタニカ国際大百科事典」によると「宇宙ひも」は以下のように説明されている。
 【宇宙には電磁波では観測することのできない暗黒物質があると考えられている。宇宙
  ひもは,その候補の一つとして考えられている理論上の物質。ビッグバン直後,すべて
  の力が1つであったときにつくられたひも状のもので,高密度のエネルギーを持つとい
  う。銀河や宇宙の大規模構造をつくり出すもとだといわれる。しかし,その存在はまだ
  証明されていない。】
 ちなみに『泡宇宙の蛙』の後半にも宇宙ひもの歌が一首出てくるので挙げておく。
    (鹿取)
宇宙ひもループをつくる塵劫(じんごう)を一億の吾が遊行してゆく



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