2025年度版 渡辺松男研究47(2017年3月実施)
『寒気氾濫』(1997年)【睫はうごく】P157
参加者:泉真帆、M・S、鈴木良明、曽我亮子、
A・Y、渡部慧子、鹿取未放
レポーター:鈴木 良明 司会と記録:鹿取 未放
392 おそろしきひたすらということがあり樹は黒髪を地中に伸ばす
(レポート)
この歌を読んだ時、能の『定家』を憶った。そのなかに、昔、式子内親王が藤原定家と誰にも知られてはいけない「忍ぶ恋」をしたが、ふたりの仲は裂かれて離れ離れになって死ぬ。定家の執心は定家葛となって蔦紅葉のように焦がれて彼女の墓に纏わりつくと、地中の彼女のからだから髪が伸びて、定家葛と絡まるというくだりがある。「おそろしきひたすら」とは、前の歌の「ひとの嬬」を思い、思われる執心のことなのだろう。その執心が黒髪(若き女性の象徴)を、樹の根が水を激しく吸い求めるように地中に伸ばしてゆく。(鈴木)
(当日発言)
★樹の根っ子というのはほっておくとどこまでも伸びてコンクリでも壊すほどの勢いですよね。それを黒髪と見ておそろしきひたすらと見ていらしゃるのかなと。(M・S)
★前の歌の「ひとの嬬を吾はおもうなり六月の樹をよぎるとき魚のにおいせり」、次の歌は「黒髪にあっとうさるるわれの上にわらわらと解きはなたれにけり」との関連で黒髪が出てくるんですよね。木の根を黒髪に例えているのですが、樹の歌だけど情念とエロスがもろに出ている。(鹿取)
★この歌には根っ子という言葉は出てこなくて、黒髪というどろどろした情念のようなものが出てくるのですね。(慧子)
393 黒髪にあっとうさるるわれの上にわらわらと解きはなたれにけり
(レポート)
前の歌の「おそろしきひたすら」な執心も逢瀬によって解消される。喩としての黒髪が、執心とともにわれの上にわらわらと解き放たれたのだ。(鈴木)
(当日発言)
★松男さんの歌集には珍しい場面のように思います。392番の歌(おそろしきひたすらということがあり樹は黒髪を地中に伸ばす)はヘビ女のことを思い浮かべました。だけどこの歌を読むと昔からの女性の命である黒髪であって、おどろおどろしい感じです。松男さんの歌の女性はみんな髪の毛が長いようですね。母のことかもしれませんね。これは性愛のうたですかね?(真帆)
★黒髪にあこがれるから懼れもする。自分の上に黒髪が解き放たれてたじたじとなっている、圧倒されている男性の姿ですね。性愛の場面だと思いますが、こういう時の男性心理、面白いですね。(鹿取)
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