かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 61

2023-06-18 13:50:40 | 短歌の鑑賞
  2023年版渡辺松男研究⑧(13年9月)
    【からーん】『寒気氾濫』(1997年)30頁~
     参加者:崎尾廣子、鈴木良明、曽我亮子、高村典子、渡部慧子、鹿取未放 
     司会と記録:鹿取 未放


61 敗走の途中のわれは濡れてゆくヤンバルクイナの脚をおもいぬ

    (当日意見)
★ヤンバルクイナは1981年に新種として登録された沖縄固有のクイナで、ほとんど
 飛べないんですね、天然記念物かつ絶滅危惧種に指定されています。(鹿取)
★ヤンバルクイナの脚に注目していて、その脚が強力だということで何か分かりやすい
 気がする。渡辺さんの知識がすばらしいと思いました。(高村)
★クイナの脚というのはやっぱり強烈ですよね。鮮紅色の脚というのが適切に使われて
 いる。あと敗走の途中については現実の生活で作者自身がそういう場に置かれたとい
 うこともあるし、この場において前の歌「白き兵さえぎるもののなき視野のひかりの
 向こうがわへ行くなり」の白き兵とダブらせているところもあるのかなという感じが
 する。現実に自分自身の問題としてまず捉えて敗走と思っている部分もあるし、前の
 歌と絡めて自分を重ねてもいる。実際、戦争は終わったと言っているけど、沖縄はほ
 んとうはまだ終わっていないし。(鈴木)
★これはやっぱり白き兵からの続きで敗走と出てきているんだろうと思うけど、〈わ
 れ〉が出てきているから人生途上で挫折を経験して、そのときすがるようにヤンバル
 クイナの脚を思っている。ヤンバルクイナは降る雨にぐっしょり濡れながら歩を進め
 ているんだけど、〈われ〉はそれに望みをつないで進んでいく、そんな感じ。もちろ
 ん〈われ〉はイコール渡辺松男ではないので、作中主体が挫折してということではな
 い。ヤンバルクイナは新種として発見される前から土地の人には「アガチー」(せか
 せか歩く、の意)と呼ばれて親しまれていたそうで、くちばしと脚が鴇色をしてい
 る。この歌は、その鴇色の脚がせかせかと動く圧倒的な映像を読み手に見せる力がす
 ばらしいと思う。ヤンバルクイナの歌のきっかけは沖縄に旅行された事かもしれない
 けど、そしてそこで聞いた鳥の生態だったかもしれないけど、知識そのままを提示す
 るんじゃなくて、こんなふうに本質をつかんで物語つくちゃうというのがすごい。
    (鹿取) 


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