緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

お父さんの絵(3)

2023年03月19日 | 医療



大切な人を亡くした子供たちのサポートグループ。
ある日のテーマは、亡くなった人の絵を描こうというものでした。
お父さんの顔を知らないみほちゃんは、描けないと言葉にしてくれたことで、ファシリテータだった私はリフラクションというスキルを使いながら、絵を描くことではなく、記憶にないお父さんのことについて、対話を進めていました。
絵本を作っているお母さん。
お父さんの写真をしまってしまったお母さん。
そんなお母さんもつらかったのだと思うと、言葉にしてくれた時、止まっていた手はクレヨンを持ち、絵を描き始めました。



「お母さん、色んなのを描いてたよ。

 (描いた蝸牛をさして) 

これ、お母さん。・・・・




 (ちょっと小さい蝸牛を描いて)

これ、私。



 (もっと小さい蝸牛を描いて)

これは、弟。」




 しばらく、手は止まっていました。 

  そして・・、
 点々で蝸牛を描き始めました。
 
  他より、大きく、
 でも、点線なので、
 色は薄い蝸牛でした






「これは・・誰?」


「これはね。 お父さんだよ・・。 

 お母さん、蝸牛の絵本を描いてた。

 私、お父さんの顔は思い出せないけど

 心の中にはいるんだよね。 

 死んじゃったから、点々で描いたよ」






何か、突然吹っ切れたようでした。 

顔を上げたみほちゃんは、晴れ晴れとしていました。




画用紙には、
4つの蝸牛。

一つは大きくお母さん。

二つはみほちゃんと弟

最後の一つは点線の大きな蝸牛・・

描けない自分から、記憶にないお父さんを自分の中で再構築させた自分へ、みほちゃんはクレヨンを持ったとその時、変わりました。




「これ、有賀さんにあげる。 持ってて欲しい」

4つの蝸牛の絵を私に差し出してくれました。



その日は、確か、6人くらいの子供たちが参加していました。

グループワークの最後は、子供たちとファシリテーターを交互に円座になります。

その日の出来事を、
みほちゃんは、

「お父さんの絵を描きました。」

と、皆にちょっとだけ絵を見せてくれました。




こうした出来事があっても、
私たちは、基本的に

ここに参加していない大人、例えば、お母さんには伝えません。

最初に、

お母さんなど保護者にも、
子供たちにも、
ファシリテーターも
そう約束します。

そのことで、

子供たちは何を言っても、何をしても安全だと感じてくれます。

伝えたいときは、
子供たちから、伝えたいことを伝えたい人に伝えることになります。



次の会の時・・

お母さんが
みほちゃんが 急に良く笑うようになって
友達とも楽しく遊べていると

話してくれました。 

そして、この会に参加して本当に良かったとも話してくれました。



グリーフワークを学んでいた私にとって
みほちゃんのこの出来事は大切な経験となりました。

ここで学んだ
言葉の有無にかかわらない
コミュニケーションの方法は
私を成長させてくれた大きな一歩でした。


言葉を繰り返したり、
ふるまいをまねる(なぞる)
リフラクション(反映)のもつ力を実感しました。




今も、みほちゃんから貰った蝸牛の絵は
宝物として大切にしまっています。 

Henrieta OndrejkováによるPixabayからの
画像 


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16 コメント

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良かった! (himawari)
2007-11-23 23:49:03
先生とはブログという媒体がなければ出会えませんでした。本当に良かった!感謝!!
夫がリンパ腫を初発した16年前はインターネットも自宅になく田舎の書店で家庭の医学を安くない値段で買い求めましたがそれだけでしたもの。
緩和医療という事も知り、私と同い年の先生が私と同じ時間を過ごす中でこのような出会いを今の先生の財産としていてくれるDrと出会えて本当によかった!!

直接的支援は何一つできませんが、先生のブログを拝見すると感謝と活動を広げてほしいという気持でいっぱいです。反面同じ大学受験生を持つ親としても共感しつつ・・・
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本当にありがとうございます (aruga)
2007-11-24 22:14:10
同じ世代を生きるものとして、出会えたことに感謝です。ご主人のご病気のおかげかもしれません。
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 (よっしー)
2009-12-17 22:38:53
小学二年生の時。作文の授業がありました。出されたお題は『おとうさん』。父の日が目前でした。
周りの友達は自分のお父さんのこと=何の仕事をしているとか…それぞれ書いているようでした。でも、私は何も書けずにいました。
私の父は私が四歳の時にくも膜下出血で倒れ、以来右半身不随で自宅療養していました。そんな父のこと、何を書いてよいのかわからず…私は泣き出してしまいました。

担任の先生が傍に来て泣いている理由を尋ねました。
『泣くことない。お父さんのありのままを書いたらいい。』
『いいか。お父さんには学校から帰ったら、いっぱいいっぱい今日あったことをお話してあげるんやで』

その時何を書いたのか、覚えていません。でもその時の先生のストレートだけど思いのこもった言葉だけは今も心に残っています。

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よっしーさん (aruga)
2009-12-17 23:16:37
肺癌学会でお目にかかった時の先生の姿が思い起こされ、頂いたコメントに涙が溢れてきました。

大切な出来事をここでシェアしてくださったことに、心から感謝いたします。

最近は、おとうさんやおかあさんといったタイトルの作文は避ける場合が増えたといいますが、本当に素敵な担任の先生だなあと思います。
そして、先生の温かさの原動力をここにかいまみたような気がいたします。
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素敵な出会いですね (きみ)
2011-05-06 22:19:43
元気になったみほちゃん、私も、とても嬉しくなりました。

私は、オーストラリアの病院の先生が講師となられるグリーフケアの勉強会に参加したことがあります。

グリーフケアが、探さなければケアを受けられなかったり、勇気を出さなければ行けないようなところではなく、

もっと当然のケアになるといいですね。
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きみさん (aruga)
2011-05-08 10:30:44
コメントありがとうございます。
当然のケアになるには、医療者はもっとグリーフケアの勉強をし、力をつけなければいけないように感じています。
私もまだまだです。
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Thanks Mother's Day (くまごろう)
2011-05-08 11:01:55
「グリーフワーク」初めて聞く言葉で、調べてしまいました。
本当は、誰がこのようなことをやっていけばいいのかなと思いました。 医師?臨床心理士?学校の先生?・・・たくさんの「?」が浮かびました。

今日は『Thanks Mother's Day』
いつも頑張っている先生に、「カーネーション!」だったのですが、絵文字でカーネーションがありませんでした。(ショックです)
今日は、大きな赤いカーネーションが、きっと先生の心の中にある1日だと思います。 
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くまごろうさん (aruga)
2011-05-08 23:13:01
グリーフワーク・・
基本的なケアの方法は、公的機関に関わる人達には求められるのかなと思います。
お書きくださった以外でも、警察、司法、役所の方々。。

でも、専門性が高いのは、臨床心理士の方です。専門的にもっと磨かなくてはいけないのは、医師や看護師だと思っています。

カーネーションを探してくださったとは!!
本当に、ありがとうございます。
頑張ったねって言葉とお気持ちで、心はホワッと暖かになりました!!
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こんにちは。 (ももちゃん)
2011-08-24 22:00:51


こんにちは。

私は現在、高2のももちゃんです。
緩和ケアの専門医か、プライマリーケア医(総合医)になるために医学部医学科を目指しています。


私が緩和ケアを知ったのは、末期がんの父が緩和ケアと出会い、本人の希望どうりに、住み慣れた自宅で死ぬのを見たからです。
正直、その時は何が起こったのか分からなくて、今でも納得していません。
そして、私も父の顔や声、性格……覚えてないのです。時々、夢に出てきますが。


先生はどうして、医師になったのですか??
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ももちゃん (aruga)
2011-08-24 22:56:49
ここに立ち寄ってくれてありがとう。
医師を目指しているのですね。
同じ道の入り口に立ってくれているももちゃんの言葉は、本当に心強いです。

お父さんを覚えていらっしゃらないけれど、医学の方に心を向けてくれ、緩和ケアか総合医に思いを馳せることができてるのは、見えざるお父さんの大きな力なのではないのでしょうか。記憶になくても、無意識の力が働いているような感じを受けます。

私が本当に、医師になると決めたのは、大学4年生の時でした。医学部に進みながらモダンバレエの道も捨てきれなかったとき、レッスン中に靭帯を切ってしまいました。大きな力が私に進むべき道を示してくれたのかなと思っています。

私の好きな言葉です。
「キャリアのドアにドアノブはない」
自分磨きの道のりには、意識すること以上に無意識の出来事が沢山あるものです。それは人として厚みをもたらせてくれる宝物のようなものだと思います。
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