緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

ACPの盲点:透析はしないと伝えたことがもたらしたこと

2019年12月11日 | 医療
(写真は、12月8日日本緩和医療学会第2回東海・北陸支部大会に出席のため、津市に宿泊していたホテルから撮影した太平洋の日の出です)

ある慢性腎機能障害の患者さんがいらっしゃいました。

初めてお目にかかったときは、
兎に角、感情を露わにされ、
多くの医療者が困った人として見ていました。

怒りが強かったのですが、
数分で、その怒りが
医療者がわかってくれないことから
発せられていることが
すぐに理解できました。

目を見て、伝えたいと思っていることを
しっかり聞きとろうとしました。
ただ、誤った要求をされたときは、
きっぱりと伝えました。

例えば、風邪のような症状があるから漢方薬が欲しいと言われたとき、
風邪の症状はどのようなものか確認し、
それが咳や咽頭痛などでもなく、鼻汁もないことから
ダルさだとわかり、安易な漢方薬はカリウムを増やしたり、
腎負荷をかけることがあったりするので、
その程度では処方できないと
それはそれはきっぱりと伝えました。

でも、理由が分かれば、怒ることなく、
そうか、わかったと
言ってくれました。



クレアチニンは3程度でした。

元々、慢性腎機能障害の診断は
自宅近くの大学病院(私の所属先ではありません)にかかっており、
そこからは、この患者さんは透析をしたくないと言われており、
大学病院としても、透析を導入する予定はないと情報提供書には
しっかりと記載がされていました。

ですから、私としては、腎機能の悪化をできるだけ遅らせ、
苦痛の緩和に徹するという方針でサポートしていました。



ある時、下痢になり、一時的に腎機能が悪化したことがありました。

患者さんは、自分なりの食事に気を付け、
薬剤にも注意を払っていました。

心の中で、あれ?
っと感じました。





透析はしないから、強い食事制限はもうしない、
悪化したらその時はその時、そして、逝くとき・・

そんな患者さん方とは違っていました。

だからこそ、いい加減な関りをする医療者には
激高することもあるのだと思われました。




ある月、クレアチニンは4、尿素窒素は50、カリウムは4.5くらいでした。

一般的に透析の導入はクレアチニン7程度で考えることが多いものです。




そして、1か月後、


急に体調が悪化したようで、
非常勤の私は不在の時で、
常勤医はきちんと関われず、
元々の腎臓内科主治医がいる大学病院の救急外来を受診したようでした。

クレアチニン7、尿素窒素100、カリウム6.0

救急外来の医師は、
この患者さんは透析を希望しないと決めている方だから、
終末期として自宅で過ごすようにと指示したようでした。

その数日後、私が定期診察をしたとき、
再度、あれ?っと感じました。
率直に質問しました。


今は腎臓の状態は良くありません。
透析をしなければ、
いのちは長くはない状況です。


半年くらいですか?

(ああ・・あれっと思ったのは、正しかった・・)


残念ですが、もっと短いです。


え?
そうなんですか?
大学病院では
私にはわかるように話してくれなかった・・


本当に、透析はしないという気持ちでよいのですか?


死んでしまうような状態なら、
透析はしなきゃだめでしょ。
今までは、自分の努力でなんとかしてきたけど、
それも限界だってことでしょ。




ここで、わかりました。
患者さんは、慢性腎機能障害(クレアチニン3位)と分かった時、

主治医から、多分、「今後」透析はどうするかと聞かれたのでしょう。

でも、患者さんは
「今」は、食事や薬などに気を付けて、
自分なりに、努力をしてみたいと
腎内科の医師に伝えたつもりだったのです。


それを、主治医は、透析希望なしと電子カルテに記載し、
何かあっても、救急外来の医師は、
透析希望なしの患者さんとして対応していたのです。




医療者は、この先の治療の選択、方針は、
患者さん自身からしっかりと聞いていると
思われていたことでしょう。

つまり、ACPは出来ていると?!

何という誤りなのか・・
驚きで震えるような気持ちになりました。

直ぐに、腎内科の主治医に連絡を取ってもらいました。
看護師さんも状況を話してくれ、
直ぐに、この経緯を書いた情報提供書を送ってくれました。

その一週間後の非常勤先に出向いた時
腎内科の主治医がすぐに入院の手配をし、
患者さんは透析導入に至ったことを聞きました。

ああ・・間に合った・・


ACP アドバンス・ケア・プランニング
これから先の治療について話し合うことです。
言葉はやっと認知され始めました。

でも、医療の方針を決めて、
それを診療録に書いておけばよいわけではありません。

話し合うこと、理解しようと耳を傾けること、
この人はこんな人と決めつけないこと、

心に届く、対話を・・・

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