緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

人生会議で思い出した11年前の凍結された診療報酬

2019年12月01日 | 社会時事
「人生会議」とは、
もしものときのために、あなたが望む医療やケアについて前もって考え、家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する取組のことです。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02783.html


厚生労働省のホームページに記載されている文章です。


この人生会議の普及を目的としたポスターをめぐり
先週1週間は荒れに荒れ、
お陰で、多くの市民が
人生会議という言葉を知ることになりました。

ポスターをめぐっては、
様々な意見がSNSで飛び交いました。
特に、ここでこのSNSに言及するつもりはありません。

ただ、私は多くの市民の方々の注目点とは異なったところで、
とても、気になったことがありました。





平成20年3月
厚労省はこんな告示をしました。
偶数年に医療の診療報酬が改訂される年の3月のことです。

後期高齢者終末期相談支援料
○診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号)(抜粋)B018 後期高齢者終末期相談支援料 200点 注 保険医療機関の保険医が、一般的に認められている医学的知見に基づき回復を見込むことが難しいと判断した後期高齢者である患者に対して、患者の同意を得て、看護師と共同し、患者及びその家族等とともに、終末期における診療方針等について十分に話し合い、その内容を文書等により提供した場合に、患者1人につき1回に限り算定する。
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/05/dl/s0521-5d_0002.pdf


これは、2008年4月から
診療報酬算定が開始となるやいなや
相当の批判を受け、

その年の6月には以下の文章によって凍結
https://www.mhlw.go.jp/topics/2008/03/dl/tp0305-1dn.pdf
その年の12月には中止となりました。
https://www.m3.com/news/iryoishin/112608
このM3ニュースには、以下のように記述されています。


◇後期高齢者終末期相談支援料
       
 終末期における診療方針等について患者本人、家族、医療従事者が話し合いを行うことを評価する「後期高齢者終末期相談支援料」は、「国民に誤解と不安を与えた」として2008年7月より凍結されていたが、廃止する方針で合意された。一方で、「後期高齢者に限らず、終末期医療をどうするかは国民一人ひとりが考えるべき問題」(邉見公雄氏・全国公私病院連盟副会長)、「なぜこの点数ができたのかを国民が考えるべき。医療現場が実践していることを評価し、一緒に進めようというアナウンスではないか」(西澤氏)など、終末期医療のあり方については改めて議論を行うよう要望された。白川修二氏(健康保険組合連合会常務理事)は「患者側からも終末期についての話し合いの要望は圧倒的に多く、診療側も協力している。いったん廃止した上で、国民な課題として、医政局『終末期医療のあり方に関する懇談会』などの状況も見ながら診療報酬上の評価を検討すべき」と述べた。
       
 それ以外の診療所後期高齢者医療管理料、後期高齢者総合評価加算、後期高齢者退院調整加算などについては、今回提出された資料では議論を行うのに不十分であるとして、論点などを整理した上で改めて議論されることとなった。
https://www.m3.com/news/iryoishin/112608






昨年ごろから、これに相当するような
診療報酬の動きが再度、あるのではないかと
あくまでも推察の範囲ですが
気になっていました。






ここで整理が必要なのですが、
人生会議に元になっているアドバンス・ケア・プランニング(ACP)と
アドバンス・ディレクティブ(AD)の違いです。

ここが実にポイントなのです。

ACPはプロセス。
つまり、話し合うというそのこと自体で、結論を得ることが目的ではありません。
一言でいえば、「対話」することそのもの

ADは結論を得ること。
つまり、書面で残し、意思を示すこと。
事前指示書といった言葉を使うこともあります。




2008年の厚労省が中止したもの

「患者及びその家族等とともに、終末期における診療方針等について十分に話し合い、その内容を文書等により提供した場合に、患者1人につき1回に限り算定する。」

話し合った内容を文書にして、意思を示すわけですから、
まさに、ADでした。





今回、人生会議のポスターを巡って、
望ましくないという声を上げた方々は、
ADを表現していて、APCではない
ということを表明されていました。

この一連の騒動を通して、
国は2008年の失敗を
再度招いてしまったと感じました。





国は、
ACP(対話の促進)と言いながら、
AD(医療の事前指示意思表明)としての相談料に相当するものを
考えてはいないでしょうか。

それなら、ACPの普及とするのではなく、
政策としてADが必要であることを
率直に、国民に説明することが重要です。




医療費の増大と高齢者の増加を考えると
日本は緊迫した状況です。

ですから、終末期医療が必要を越えた
過度な医療にならないことを
政策医療として進めるべきであることは
誰も反対はしないことと思います。

適正な医療の選択とは、国民の人生の幸せ
目的としたものであるべきです。

その視点を忘れないで、
副次的効果としての医療費抑制につながっていくような
医療政策であり、提言をしていくことが重要と思います。

来年の4月の診療報酬改定まで、
注視していきたいと思っています。

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