緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

LIFE Before Death~痛みを放置することは・・Torture

2011年07月16日 | 医療

Torture in health care

という言葉を聞いたとき・・
ショックでした。

Torture とは、拷問という意味です。

痛みの放置は、拷問である・・・

LIFE Before Death Movie Teaser 2

2009年WHO国際麻薬規制委員会は
麻薬がない国が少なくとも150か国はあると報告しました。

このことを含め、世界の状況は、
3000万人~8600万人程度の患者が
中等度から高度な疼痛に苦しんでおり、
末期では、がん患者が550万人、AIDS患者が100万人
含まれていると予想されています。

WHOの麻薬規制委員会はこの理由について
次の4つを挙げています。

麻薬はあるにも関わらず、政府が医療用に使えるようにしていない
依存・耐性のイメージが強く使用を控えてしまう
ヘルスケア従事者(医療者)の教育がなされていない
使用規制法律の存在

この背景には、国連のCommission on Narcotic Drugs(CND)
厳しい規制をうちだし、各国がそれを受け入れてきたという背景があるようです。

UICC、Human Rights Watch, World Palliative Care Alliance
CNDの不正防止に偏った活動を指摘しています。

このHuman Rights Watch の調査報告は、
前回ご紹介しましたが、
実は、この調査に協力するよう緩和医療学会から指名され、
昨年の3月、日本の疼痛対策について
電話インタビューに答えました。
ニューヨークからの電話に
時差調整、回答項目の事前調査など大変ではありましたが、
とても、勉強になりました。

そんなこともあって、
人権問題としてがん疼痛を取り扱われている世界の動きに
敏感になっている自分に気が付きました。


国際対がん連合(UICC)は世界対がん宣言の目標8に
がん疼痛救済イニシアチブ(GAPRI)を掲げました。

Torture in health care

日本の医療は、痛みに留まらないTortureにも
もっと感度高く見渡せるようにならなくてはいけません。
治療を優先するための抑制や
延命治療の在り方にも、
治療の対極にはTortureが存在する可能性を忘れないで
多角的、客観的に、繰り返し検討を続けていきたいと思います。


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9 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
苦しみを (きみ)
2011-07-17 00:20:01
ケアしないのはまさに拷問ですよね...

確かにその通りですね。

確かにそうなのだと思うのですが、

『まったくその通りだ』と感じて、我が身を反省したり、ショックを受けたりするのは、

緩和医療の大切さに気付いて頑張ってくださっている人ばかりなのではないかと感じました。

そんな方ほどそうなってしまう事に、私はなんだか心が痛みます。

もちろん、厳しい言葉でも、緩和医療がまだまだ十分でない現実には向き合わなくてはいけないと思いますが、

反省したり、ショックを受けたりされた事に、

頑張ってくださってありがとうございますと言わせていただきたくなりました。

もっともっと、緩和医療が広がっていきますように。


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患者の覚悟 (ALL)
2011-07-17 01:35:36
猛暑の中、毎日お疲れ様です。

私が骨髄移植を受けた施設は、自分が新人で入職した病院でした。

私が新人の時は、緩和ケアと言う言葉が使われ始める時期でした。

一部の麻酔科医が、モルヒネの啓蒙に大いに活躍していましたが、あの時代、殆どのスタッフがトータルペインに目を向けていた気がしています。

あれからおよそ20年経ち、自分が患者になり、いくら骨髄移植と言っても、あまりにも症状コントロールの視点が欠けていて、大変悲しかったです。

がん治療を受ける以上、何かしらの苦痛は必ずあります。
患者は覚悟します。
我慢して当然なのだと少なからず思っています。

治療をする医師は、副作用や他苦痛への必要最低限のケア技術は、もっているべきだと思っています。

でも、様々な苦痛はスルーされていると私は痛感しました。
幾度 拷問 を受けたことでしょう。

一般科の医師やスタッフの認識は、緩和ケアの広がりとは反比例しているのではないかと思わされました。
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皆さんのおっしゃるとおりだと思いました。 (PANDAの妻)
2011-07-17 16:23:11
S野義製薬さんのCMは「会社は『痛み』と闘ってきました」とあります。
患者さんは、我慢しなくて良いのですよ、「痛い」と口に出して良いのですよ、と、有名な俳優さんがおっしゃるCMもS野義製薬さんにはありますね。

一般の日本人の、癌疼痛に対するイメージが「我慢を『しなければいけないもの』だ」と、何故か?変な定着があるせいでしょうか?
過去の、癌を取り上げたドキュメンタリー等で、患者さんが疼痛に苦しみ、御家族がお体をさすっている…、観ている側に、そういう場面ばかりが印象に残ったせいなのでしょうか?

癌治療が変わってきている…と、某外資保険会社のCMがアイドルグループの一員を採用して、盛んにやっていますが、疼痛に関しても、一般人の認識を変えなくてはならないのではないかな…、患者側から、何をすればよいのかな?…と、考えました。

また、先にコメントしていらっしゃる方々のコメントを読ませていただきながら、本当にそのとおりだな…と、感じました。

先生、ご自身のご体調にもお気をつけて、このままのご活躍をお願いいたしますm(__)m。
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世界には・・ (そら)
2011-07-18 00:03:31
日本は、まだよいです。
医療用の麻薬が薬剤としてちゃんとあるのですから。

がんもですが、手術の後、心筋梗塞、尿路結石、こんな時、ボルタレン坐薬しかありませんなんて言われたら・・ぞっとします。

そんな国では、がん治療の薬剤もままならなかったりするのでしょうか。

世界にも目を向けなければならないですね。
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貴重な声をありがとうございます (aruga)
2011-07-19 00:44:43
きみさん
コメントありがとうございます。
緩和ケアを志しているものは、人一倍感度が高いのかもしれません。ご指摘の通り、ただ人一倍感じているのでは不十分です。
社会に啓蒙し、社会が変わって初めて、広がりがあるケアになります。
きみさんも、もし、ここで痛みを感じてくださったなら、それを次の方に伝えていってください。
共に、種をまき、育てることにお力を貸してください。

ALLさん
コメントくださり、ありがとうございます。
医療者でいたときと、患者の立場になったときと、大変大きな差を感じますね。私自身、医者としての経験以上に、我が身の疾病治療や母親として子供の病気を経験して、様々な苦痛が医療に存在することを味わいました。
でも、これも、経験したことのない医療者に、経験したことがあるものの苦痛を真に理解してもらおうと思っても、所詮、想像の域を超えることはできないものだとも思います。
ならば、どうすればよいのか・・ その様々なアプローチの一つがこうした動画の作成であったり、本や映画であったり、卒前、卒後医学教育であったりするのだと思います。
医療の場に、ぜひ、ALLさんの乗り越えてきた経験を広く生かしていくことを一緒に探索していってくださると嬉しいです。


PANDAの妻さん
疼痛のことに限定すると、医療の現場には医療用麻薬が普通のこととして、日本では使えるようになってきました。次は、やはり患者さんの心の壁、ご家族の心の壁を、正しい心配ができるように変えていくことだろうと思います。
お書きくださっている通り、お一人お一人が今何ができるか・・そんな風に、この記事や動画を見て感じてくださると、本当に、心強く、後押しされているような感覚になります。
これからも、一緒に、種をまいてくださいね!


そらさん
コメントありがとうございます。
その通りなのです。
薬剤はそろっているのですから、手はあるのです。日本には。心の壁が自らをtorture にしないように成長する時代に入ったことを感じます。
ただ、疼痛のことに留まらない問題は、まだまだ沢山あることは事実です。

一方で、内戦、治療薬が不十分、予防する物資の不足(例えば、靴がない、けがをする、感染するけれど抗生剤も鎮痛薬もない・・・)今の日本からは想像もできないような国々のことを今あらためて、想いをはせています。
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あきらめずに (きみ)
2011-07-19 21:39:15
種をまくことを、

私も続けたいと思います。

小さな力でも、
いつか必ず実を結ぶ事を信じています。
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きみさん (aruga)
2011-07-19 23:26:26
ありがとうございます。
一緒にがんばってくれる仲間がいると思うと、本当に心強いです。
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脊髄損傷後疼痛 (wakazono)
2011-07-22 22:06:49
 aruga先生、初めまして。「鎮痛補助薬 リリカ」で検索して、先生のブログにたどりつきました。
 痛みを放置することは拷問・・・まさにその通りだと思います。私の妻は、癌ではありませんが脊髄損傷後の激しい神経障害性疼痛を患っています。同じような患者さんは、あまり多くいませんが、ブログなどを通して知り合うことができます。
 その患者さんの多くは適切な治療を受けられず放置され、拷問のような状況にいます。更には、大げさとかうそつきなどと人格を否定されることや、「この痛みは治らない」と追い込まれるようなことをお医者様に言われ、精神的な「拷問」まで受けることもしばしばあります。
 お知り合いになった患者さんのうち、残念ながら昨年末に一人、先月一人自死されました。
 癌以外の患者さんにも、緩和ケアは必要だと考えています。aruga先生の進められている緩和ケアの考え方が他の激しい痛みを伴う病気にも広がり、すべての患者さんが拷問から開放されることを願っています。 
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wakazonoさん (aruga)
2011-07-26 23:39:13
コメントありがとうございます。
お辛い気持ちを圧して、ここにお書きくださり、ありがとうございます。
奥様の痛み、周囲の方々の痛みが少しでも癒されますように。
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