新説百物語巻之一の4、甲州郡内で炎となった女の事
2019.11
黒沢氏は、この様に語った。
甲州(山梨県)の郡内(都留市あたり)と言う所に、老人夫婦で下女を一人使って、暮らしていた者があった。
ある時、近所に仏事があって、二人とも出かけ、下女一人を留守番として、出て行った。
夜の初更(午後7時から9時)もすぎて、四つ前(午後十時前)になろうかと思う頃、「火事だ」と、誰かが言い出し、皆大騒ぎしたが、どこが火事であるかわからなかった。
火の光があちことと、さ迷っていた。
皆皆途方にくれたが、その火の所に近づいて、よくよく見れば、火の高さは、小家が一軒位が焼ける程であった。
火は西、東、北、南へとさ迷い歩いた。
その火の中に、髪を振り乱した女の姿が見え、はあはあと言いながら走り歩いていた。
しばらくして、倒れ伏して死んだ。
あとあとよく見れば、彼の老夫婦二人が、留守に置いていた下女であった。
何でそうなったのか、解らなかった。
その遺体を親元へ送って、葬った。
人々は、「前代未聞の事である」と、噂した。
この話は、黒沢氏が、実際に見たとの物語である。
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