78回転のレコード盤◎ ~社会人13年目のラストチャンス~

昨日の私よりも今日の私がちょっとだけ優しい人間であればいいな

◎人工問題と闘う“形だけ職長”の記録

2009-04-02 15:13:28 | 本当の日記はこちら
「人工」と書いて「にんく」と読むのが我々の業界。
「人工費」という言葉は営業職や接客業の方には馴染みが薄いと思うので、「人件費」と同義語だと思って差し支えない。



2009年3月中旬。
当方が初めて会社の代表、すなわち「職長」として一現場を任されることとなった。
といっても仕事のことはまだ半分どころか5分の1も解っていない。
会社の人間が当方だけで、残りは全て下請け(=外注社員)というメンバーのため、やむを得ずこうなってしまったのだ。
ちなみに他の会社の工事部の人たちは全員、重なった2箇所の出張に割り振られた。
一人残された当方は東京郊外の某清掃工場の現場を担当することとなった。



そして、初日から「人工」の問題に悩まされることとなる。
現場に集まった下請け社員の人数を数えると、1人多いのだ。
初日は予定では当方を含め7人。しかし何回数えても8人いる。


「経費削減のためなるべく少人数で、基本は5人体制で現場を収めろ」という社長の通達により、今年から少人数体制を取ることになっていた。
ただ今回は作業が色々とハードなため、2日目までは1日7人工、3日目は6人工に増やすことを許されていた。
しかし8人工で作業する許可は得ていない。リアルな話、1人違えば1日2万円も違うくなる。
下っ端社員の当方がお金のことを考えていると何だか偉そうだが、経費削減は社長命令なので仕方がない。


とにかく原因を追究せねば。
まず予定ではM社から1人、A社から5人、そして当方の計7人工。月給制の当方を除く6人に2万円ずつ、計12万円が支払われる。
確認したところA社が1人多く6人いた。これにより初日の人工費は14万円となってしまった。
A社に依頼した工事部の上司Bに電話をかけたが、そのBも「俺はA社に5人でお願いしてある」と言っていた。
どうやらA社側が勝手に1人増やしたようだ。


どうにかしてA社が勝手に増やした理由を探らねば。と言ってもA社の現場主任T氏(メンバーに入っています)はとても怖い。
前にも書いたが昨年の石川出張で怒鳴られまくり、軽いトラウマになっているあの人なのだ。
T氏に直接聞くことなんてとてもできない。
そこで、朝のKY(危険予知)ミーティングでさりげなくこう言った。
「エー、今日は7人だと思っていたら8人いますので、4人ずつに分かれて……」
それを聞いたT氏は堂々と自白してくれた。
「いいだろ。多いほうが早く終わるんだから。7人じゃ予定の日数で終わらないって」
それが理由ですか。だからといって勝手に増やさないで欲しかったのだが。


初日の作業は清掃工場屋根部に付いている3棟の養生テントのうち1棟をレッカーで吊り降ろすというもので、
それに必要な「吊り天秤」の地組、さらにはトラックで運ばれた資材や工具の荷降ろしまで含めるとかなりのハードとなる。
だが、8人もいたということもあり、予定通り終わることができた。

初日の作業が終わった頃に上司Aから電話がかかってきた。
「ところでお前、今日そっち何人いるの?」
「エーット、僕を入れまして8人です」
「8人!? それいくらなんでも多すぎだろ」
まあ、そういう反応になりますよね……。
「これ絶対社長怒るよ? 基本5人体制って言ってるんだから」
確かに問題は社長である。
「せめて1人減らせよ。1人少ない分、他の人が動けばどうにかなるだろ」
当方もそう思う。


しかし、初日の終わりにT氏は「明後日も増やして8人にしましょう」と言い出し、下請けは全員賛成してしまった。
3日目は予定では6人工なので、2人分、4万円も増えてしまう。
当方は「イヤ、人を増やすのは会社の許可が無いと無理ですね」と言ったが、
「必要な人数は現場の人間にしか解らないんだから、お前が会社に説得しとけ」
と言い返された。無茶言うな。



というわけで翌日、事務に電話して説得を試みた。
「まず昨日が手違いで8人になってしまったんですよ。Bさんは間違いなくA社に5人で依頼したと言ってますので、Tさんが間違えたのか勝手に増やしたのかどちらかだと思います」
「それはね、A社側が間違えたのであれば本来なら『うちからは6人工分しか払えません』ってA社に言わなきゃいけないのよ」
やはり勝手に1人増やす行為は許されることではなかった。
「それでですね、明日も2人増やしたいって言ってるんですよ。というかTさんはもう増やす気満々でいます」
「それは困るね。たぶん社長怒るよ」
やはり問題は社長である。そこで事務からこんな提案が。
「社長を説得できるのは工事部でも上のほうのBしかいないから、まずはBと相談して決めてみて」


というわけで今度はBに電話。するとこう言われた。
「予定より1日早く終わるなら増やしてもいいだろ。そうすりゃトータルの人工は安く上がるだろ? 人工費は1日1日で考えてちゃ駄目なんだよ」

予定工期は6日。人工は初日から順に【7人、7人、6人、5人、5人、5人】の予定だった。つまり計35人工。
初日は8人、2日目は予定通り7人なので現在15人工。
もし1日早く終わるのなら、明日2人増やしたとしても【8人、7人、8人、5人、5人】で計33人工。つまり2人工分安くなるのだ。


だがそれは1日早く終わるという仮定での話。それが実現出来るかどうかは翌日の3日目にかかっている。
何故なら3日目は、屋根部の養生テントを2棟も吊り降ろさなければならないのだ。
それはどんなにベテランな下請けの皆さんが結集しようが、強風などの悪天候にやられれば不可能なことなのである。
そして、天気予報は大雨警報に強風注意報。
もし3日目の予定を完遂できなければ、予定工期までに終わらせるのは絶望的となる。



3日目は6人のままにすべきか、それとも8人に増やすべきか。



当方はこう考えた。翌日が強風で予定通り進めなかった時のことを考えると、保険として3日目は6人にしておいたほうがいい。
それでいいと思うのだが……
そこで、今日だけ不在のT氏に電話で伝える。

「あの、明日2人増やすことに会社は否定的で、唯一Bさん(上司B)が『1日早く終わらせるなら』という条件付きでOKを出しています。
そうなると明日予定通り2棟降ろせるかどうかが最大の問題になります。
しかし予報では明日は大雨で強風だそうです。そうなると予定通り終わるかは微妙だと思いますので、結論を言いますと……」

するとT氏は間髪を入れずにこう言った。

「終わるか微妙じゃなくて、 終 わ ら せ る んだよ。残業してでも終わらせるの!」
「わ、分かりました。では明日は2人増やすことを会社に伝えておきます」

当方は負けてしまった。結論を言う前に言いくるめられてしまった。



そして問題の3日目の朝。予報どおり大雨・強風だった。
(こうなると思ったから今日は6人にすべきだったんだよ)
当方は中央高速を運転しながらずっとそんなことを考えていた。

しかし午前9時、奇跡的に晴れた。
結果的には8人がかりで屋根部の養生テントを2棟降ろすことに成功し、予定は完遂された。
その後も順調に進み、予定工期より1日短い5日間で清掃工場の現場をコンプリート出来た。
人工も結果的には2人工分安く上がった。



だが当方は、今でもこれは賭けだったと思っている。
もし強風が止まないままだったら予定は確実に狂い、人工も予定より多くかかってしまっただろう。





後日、社長にどうだったかと聞かれた。
「初めての職長で不安でしたが、Tさんたちがちゃんと段取りしてくれたおかげで予定より早く終わることが出来ました」
「早く終わったって言っても、途中8人に増やしたりしたんだろ?」
「イヤ、それは……トータルの人工は安く上がったんですけど……」
「この日は少なくてもいいんじゃないかとか、必要な人数をその場その場で考えて、下請けには厳しくすることも大事だからね」


どうやら社長には上手く伝わらなかったようだ。
本当は「予定より1日早く終わることを見越して、その分だけ人工を増やしましたが結果的にはトータルの人工は安く上がりました」と言いたかったのだが……。



それだけは悔しい。せめて社長には解ってもらいたかった。




というわけで人工問題に絞った報告になってしまったが、
全部書いていたら物凄く長くなって書く気が起きないのでこうしました。

最近は毎日夜勤でブログを書いてる余力が無い・・・orz