78回転のレコード盤◎ ~社会人13年目のラストチャンス~

昨日の私よりも今日の私がちょっとだけ優しい人間であればいいな

◎もうひとつの虹

2013-07-25 04:59:30 | ある少女の物語
 太陽の光で輝く海や川から水蒸気が生まれ、青い空へ舞い上がり、雲の中で綺麗な結晶に進化したのに、やがて自重に耐えられず落ちてしまい、溶けて雫となり草木や土に吸収される。降りしきる雨は今の私を形容しているように見えて悲しくなる。
 




「……あ、あのさ。相談があるんだけど、いい?」
「私でも、もう一度やり直せるのかな」
「珍しいじゃん。どうしたの?」
「絶対にやり直せるという強い心さえあれば、大丈夫」
「私、ずっと家から外に出ていないんだ」
「ずっと怖かった。人と話すのも、人と仲良くなるのも」
「出来る限り肌を隠してみなよ。気持ち的に普通よりは外に出やすいと思うよ」
「君がまだ出会っていないだけで、この世界は優しい人たちで溢れているよ」
「わかった。私、外に出てみる」
「ずっと恐れていた。人に嫌われるのも、人に苛められるのも」
「頑張って。君なら出来るよ」
「自然体で良いんだよ。それを受け入れてくれる人だって必ず居る」
「眩しい太陽、春のそよ風、川のせせらぎ、車のエンジン音、全てが私の5つの器官を刺激する」
「信じて、良いんだよね」
「どうだい? この世界、そんなに悪くないだろう」
「良いんだよ。だってこの世界は本当は、夢と希望がたくさん詰まっているのだから」





 やがて雨は止んだ。
 雨粒たちが7本の光を曲げる。自然の悪戯が綺麗な橋を作る。

 私たちはなりたい。あの日、貴方と見た2本の虹のように。

「僕にはしっかり見えるよ。もうひとつの虹が」

 私はなりたい。せめて、貴方と見た薄い、でも高いところにある虹のように。



(Fin.)

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