78回転のレコード盤◎ ~社会人13年目のラストチャンス~

昨日の私よりも今日の私がちょっとだけ優しい人間であればいいな

◎不倫男との対決 ~コミュ障だけど幹事をリベンジしてみた~(第2話)

2017-05-07 15:56:29 | ある少女の物語

 

※最近は会社での出来事をあまり書かないようにしてきましたが、今回は自分自身の反省の意も込めて書かせていただきました。ああ、コミュニケーションが上手くなりたい。

 

===

 

 

<幹事リベンジの任務(4):5月3日、不倫男との対決>

 

~5月5日、居酒屋~

 飲み会では、僕の口から不倫男との間に起きた凄惨な事件が語られようとしていた。

 

(僕)「過去に色々あって、僕は不倫男さんを気に入っているわけではありませんでした。だから水曜(5月3日)の朝、発注に来る時も、彼と会わないように9時半に出社しました」

 

(G)「えっ、9時半って、発注期限ギリギリですよね?」

 

 

~5月3日~

 その日、不倫男は朝6時から9時までのシフトだった。彼に会いたくないので出社は必然的に9時過ぎになるが、発注は10時までに本部に送信しなければならず、それがギリギリ可能な9時半に僕は出社したのだ。しかし、

 

(不倫男)「お疲れ様です」

 

 彼は事務所の机に座っていた。これは推測であるが、このあとファミレスでの勤務が控えており、それまでの繋ぎとして居座っている可能性があるのだ。このようなことは過去に何度もあったが、勤務後30分も居るのは初めてだった。当然ながら勤務後の長時間滞在は禁止されている。

 

(不倫男)「机、使いますか?」

 

(僕)「はい」

 

 不倫男は席を立った。いよいよ帰ってくれるのかと思いきや、同じ部屋の丸椅子に座り、スマホをいじっているのだ。こちらが会わないようにわざと遅く出社していることに気付きもしない、それだけで僕のヘイトは溜まりつつあった。

 

 PC画面と向き合い発注する僕と、スマホをいじる不倫男との間には沈黙の時間が流れた。普段より僕等は会話を交わすことがほとんど無かった。少し考えたが、僕はこの機会にあの話をしても良いだろうと思い、口を開いた。

 

(僕)「不倫男さん、S店でも勤務しているんですか?」

 

(不倫男)「どうして分かったのですか?」

 

(僕)「本部の人から聞いて、念の為Gさんに見に行ってもらったら、そこに居るということだったので」

 

(不倫男)「Gさん来ていたのか。気付かなかったよ」

 

 不倫男は「バレてしまった」という感じを見せていた。

 

(僕)「僕としては、遅刻や欠勤など、当店に迷惑をかけるようなことが無ければ何も言うつもりはありません」

 

 それを言うのは当然だと思いたかった。事実、不倫男は最近だけで何度も遅刻をしている。体調不良による急な欠勤で僕が代わりに勤務することも何度もあった。むしろ、これでも優しい言い方のはずなのだ。

 次に僕は、本部より言うように指示されていたことを伝えねばならなかった。

 

(僕)「あとは個店情報を漏らさないで下さい」

 

(不倫男)「それはしていないよ」

 

(僕)「では遅刻欠勤だけ気をつけて下さい」

 

(不倫男)「……はい」

 

 その返事に抑揚は無く、不満そうだった。情報漏えいは最初からするつもりが無かったようで、それを言われたことに対する苛立ちだろうか。だがこれは本人の意思に関係なく伝えねばならないことだ。万が一何か起きた際に、事前伝達の有無で僕の責任の度合いが大きく変わってくる。当たり前のことではないか。

 

(僕)「このことは他のスタッフには伝えないほうが良いですか?」

 

(不倫男)「いや、わざわざ伝える意味が分からない

 

 今度は噛み合っていない。僕は『伝える』とは一言も言っていない。むしろ他のスタッフには内緒にしたほうが良いのではという配慮の気持ちから確認したのに、なぜこんな言われ方をしなければならないのか。既に苛立っていることだけは容易に読み取れた。

 

 

~5月5日、居酒屋~

(僕)「今思うと、この時点でこの話をやめておけば良かったのでしょう。しかし僕はこのあと、あまり必然性の感じられない忠告を一つだけしてしまうのでした」

 

(G)「それは何ですか?」

 

(僕)「『もし今後、S店の勤務の関係でシフトを減らしたいということがあれば、事前に僕に相談して下さい』」

 

(G)「まあ、言っても問題は無いですよね」

 

(僕)「これは昨年なんですけど、僕に無断で他のアルバイトを始めて、勝手に当店のシフトを減らして、やがて他のアルバイトを優先して、当店をバックレた大学生が居たんですよ」

 

 その再発を避けるべく、事前に相談して欲しいと僕は言った。以前、他のスタッフにも数名、同じように伝えたが、素直に「ハイ」と言われるだけで終わった。しかし、不倫男はそうはいかなかった。

 

 

~5月3日~

 

(不倫男)「てゆーかね、他のアルバイトをしているとか関係ないでしょ! 私はシフトを減らさずにちゃんとやっているんですから。もしかして私に辞めろと言っているのですか!?」

 

 ついに怒りが爆発した。

 

(僕)「違います。過去に何人かのスタッフが相談もなしに他のアルバイトを始めて、勝手にシフトを減らして……」

 

(不倫男)「他の人は関係ないでしょ! 最初から減らそうともしない人に対してそれを忠告するのは失礼ですよ!!」

 

 ちょ待てよ。何か起きてからでは遅いから事前伝達をしているのに、まさかそれ自体を否定されるとは。例えば絶対的な信頼を寄せられるスタッフなら伝えなくても大丈夫だと思えるだろう。しかし不倫男は遅刻や欠勤をしている時点で信頼するのは難しかった。

 

(不倫男)「もっと言うとね、アルバイトは自由なんですよ。いつでも辞められるんですよ! 辞めるって言って次の日から来ないことも出来るんですよ!」

 

 突然話が飛躍した。他のアルバイトをしようが自由、シフトを減らすのも自由、辞めるのも自由だから社員にどうこう言われる筋合いは無いとでも言いたいのだろうか。ちなみに退職するには14日前までの申し出が必要であることは民法でもしっかり定められているので、不倫男の言い分は間違っている。それに自由だとしても、50近い大の大人が開き直ったように言うのは人としてどうなのか。

 

 そして、このバトルは思わぬ方向へと向かうのだった。

 

(不倫男)「あなたね、人の気持ちを考えたことありますか?」

 

 まさかの綺麗事である。それをこの男の口からは聞きたくなかった。

 

(不倫男)「今の言い方にしても、過去の言い方やLINEでの書き方にしても、人の気持ちを考えているとはとても思えない」

 

 これでも充分な配慮の上で発言したつもりなのだが。本来ならS店勤務を事前に報告しなかったことを責めているところだ。それを何も言わず、他のスタッフに伝えないとまで言っている。

 

(僕)「いや、僕より厳しい社員も居ますよ」

 

(不倫男)「厳しいっていうのは、ちゃんとコミュニケーションを取った上で厳しくするものでしょ! あなたはコミュニケーションも取らずに厳しく言うから駄目なんですよ」

 

 とうとうコミュ力にまで突っ込んできた。コミュ障なのは認めるが、社員とアルバイトの違いが考慮されていない。アルバイト同士のコミュニケーションと、社員とアルバイトのそれとでは意味が異なる。一定の距離を置かなければならないと僕は思っている。そして「言い方が厳しい」と言われたのはショックだった。確かに厳しい時もあったのかもしれないが、それは社員として、責任者として当然のことではないか。それでも僕は新人時代のアラフォー女性店長や男性マネージャーなどの鬼の如き社員たちに比べれば断然甘いほうだと思いたかった。

 

(不倫男)「まあこれはもう、僕さんの性格の問題だから、治らないのかもしれないけどね」

 

 ついには性格まで……どこまで僕の心をえぐるつもりだ。

 そして、これまでの全ての発言をも上回る“禁断の言葉”は否応無しに発せられた。

 

(不倫男)「飲み会(懇親会)に人が集まらないの、何でか分かりますか?」

 

 おい、今それを言うのかよ。一番気にしていることを。

 

(僕)「自分なりに考えて、これだ(=人望が無い)と思うものはあります」

 

(不倫男)「いや、分かっていないでしょうね」

 

 なんなんだよオイ。分かっているけど言いたくないだけなんだよ、察しろよ。参加希望者ゼロという、ここまであからさまな状況に陥っても尚、気付いていないとするなら、そいつはどれほどの馬鹿かポジティブな奴なんだよ。

 

(不倫男)「みんな同じように思っていますからね、言わないだけで」

 

 挙句の果てには自分の意見をスタッフの総意に置き換えた。我慢の限界をとうの昔に突破していた僕は、少なくとも途中からの綺麗事のオンパレードはお前にも当てはまるだろと言いたかった。それでも最後に残った微かな理性だけで何とか耐え忍んでいた。

 

(つづく)


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