78回転のレコード盤◎ ~社会人13年目のラストチャンス~

昨日の私よりも今日の私がちょっとだけ優しい人間であればいいな

◎リザイン・ブルーになって社畜の人生 ~賞与と退職金と就業規則~(第2話)

2017-08-03 12:56:16 | ある少女の物語

<退職への道(5)就業規則のありか>

 まずは就業規則を手に入れねばならない。もちろん社長には内緒で。となると誰に聞けば良いのか。

(マネージャー)「私、そんなの見たことないわよ。ていうか、無いんじゃないかしら」

 そんなわけあらへんがな。従業員20人以上の会社には就業規則を労働基準監督署に提出する義務がある。もし無いというのなら立派な法律違反だ。また、もし退職金制度があるならその旨を必ず記載しなければならない。
 あるとすれば会社の事務所。この会社には総務部も人事部も存在しない。事務所に居る人間と言えば社長以外に一人しか居なかった。

(僕)「事務のYさんの連絡先知っていますか?」

(部長)「知らない」

 僕は会社事務所に勤務する唯一のアルバイト、Yとのコンタクトをどうしても取りたかった。それが不可能なら就業規則を知らぬまま社長と話すしか選択肢が残されず、それはとてもリスクの高い行為であることを意味するからである。

(部長)「ていうか事務でも就業規則までは知らないんじゃないかな」

 会社事務所には何度電話しても繋がらない。その1階にあるコンビニ店舗にも電話した。しかし、

(僕)「Yさんっていつも何時くらいに勤務していますか?」

(スタッフ)「さあ、知らないわね。ていうか最近全然会わないし」

(僕)「店に入ってから3階の事務所に上がるんじゃないんですか?」

(スタッフ)「違うのよ。外から3階に直接上がれる階段があってね」

 こんなに困っているのに、何故コンタクトすら取れないのか。しかも重役ではなくたかが事務。他の会社では有り得ないことである。僕とYを引き離す何か大きな圧力があるように感じた。


<退職への道(6)本部の見解>

 7月12日。棚卸の合間の僅かな時間を利用し、労働相談の機関へ電話で相談した。少なくとも賞与に関しては「雇用契約書に記載があれば貰う権利がある」との事だった。それには間違いなく「入社2年目以降の夏と冬に支給」と書かれていた。

(僕)「この会社、労働組合が存在しないんですけど、やはり社長が絶対的な権力を持ってしまうのでしょうか?」

(労働相談所)「そんなことはありません。社長といえども法令は順守せねばなりません。安心して下さい」


 翌13日の夕方、友人A・Bと会う約束があり、ついでに相談を持ち掛けた。

(友人B)「本部に相談できる機関は無いの? フランチャイズ事業部みたいな」

 その発想はなかった。翌14日、夜勤明けの疲れを堪え、朝9時に本社に電話をかけた。

(僕)「フランチャイズ店舗を経営する会社との労働問題に関する相談窓口に繋いでいただきたいんですけど」

(本社)「それならお客様相談室ですね」

 お客様相談室だと……。本来、そこはお客様からのクレームなどを受け付ける機関。何か嫌な予感がしてきた。

(お客様相談室)「もし就業規則を見せてくれないなどの法令違反があれば、私どもに相談いただければ、担当SVが開示の要求をいたします」

 SVだと……。SVとは担当店舗を巡回し、店舗責任者に施策やアドバイスなどを話す、とても忙しい人。本社とフランチャイズ経営会社は別物であり、別会社の法令違反への対処という専門外の仕事に多忙のSVが乗り気になってくれるのだろうか。

 その数十分後、担当SVから電話が来た。

(SV)「聞いた話を整理しましたが、最大の問題は、社長と連絡が繋がらないことだと思います」

 えっ、最大がそこ!? 既に給料日に未払いという法令違反が平気で行われている会社の最大の問題が?

(SV)「社長と仲の良いSVが別に居ますので、彼が社長に僕さんの言いたいことの一部(賞与が振り込まれていない件)を伝えてくれます。それで社長も僕さんとの話し合いに応じてくれるでしょう」

 少しずれているような気はしたが、社長と電話で話す機会だけは与えてくれた。

(SV)「なるべく本部にまでは振らないようにして下さい。円満に解決するのが一番ですよ」

 言葉の節々に嫌な予感を感じさせたが、発言自体は確かにその通りでもあった。僕だけの力で解決に導かなければならない。不本意ではあるが、就業規則を知らぬままの不利な状況下で社長との直接対決が始まろうとしていた。

 

(つづく)



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