松田は、目を閉じ黙って鏡の前にある椅子に座ると、ゆっくりと目を開けた。
「映ってる」
さっきまで『自分が映らない!』と混乱していた松田だが、今度は落ち着き払って鏡を見つめている。
「な、大丈夫だろ、映ってるだろ!」
「もう、いいから帰ろう!」
「あっ…誰?……誰だ?」
「何?今度はどうした?!」
「オレの後ろに…誰か立ってる」
「え?」
鏡を覗き込んだまま、松田は自分の後ろに映るらしいモノを指差した。
「誰もいないよ。松田の後ろは壁だよ」
「ううん…。誰かいる」
「やめろよ!もう帰ろう!」
正人は無理やり松田を椅子から引き離した。